シナリオ詳細
<昏き紅血晶>フフとプティの潜入調査。或いは、砂に埋もれた廃村…。
オープニング
●吸血鬼のキャラバン
「さて……それでは商談を始めよう」
そう言ったのは、いかにも貴族然とした青白い顔の男である。整髪剤できっちり固めた黒い髪に、血のように紅く深い瞳が特徴的な男性である。
「紅血晶を仕入れたいと……そういう話で合っていたね? 仕入れの代価は、幻想種……と」
名をメイティと名乗る男は、視線をまっすぐ眼前に座る2人の女性へと向ける。
青い髪の女性商人と、その供である赤茶色の髪をした小柄な少女……フフとプティという名の旅の商人だ。青髪の商人、フフは少しだけ緊張感を滲ませた表情で、プティは視線を左右へ揺らしながら、メイティの話を聞いていた。
「え、えぇ。紅血晶はかなりの高額で売れると聞いたわ。こんな商機を逃すなんて、商人として考えられない」
声の震えを無理やり抑えてフフは言う。
そんな彼女の様子を見て、メイティはにぃと薄い口角を吊り上げた。
「そうでしょうとも、そうでしょうとも! 紅血晶は実に魅力的で、美しい! 誰もがあれを求めてやまない。求めずにはいられない!」
嬉々として語るメイティの瞳に、蝋燭の明かりが揺らめいた。
そんな彼の様子に、フフとプティは恐怖を覚える。そもそも、フフとプティは紅血晶の危険性……つまり、宝石の魅力に魅入られた者が怪物に変わるという噂話だ……について聞いているし、それが真実であることも知っていた。
メイティはひとしきり紅血晶の美しさについて語ると、やがてピタリと言葉を止める。
口元からはすっかり笑みが消えていた。
「さて、ところで……ここ最近、紅血晶の流通経路を嗅ぎまわっている連中がいます」
コトン、とテーブルの上に血色の宝石を……紅血晶を置いた。
フフとプティの視線が紅血晶へと向く。それが危険なものと分かっていながらも、2人は宝石から目を離すことが出来なかった。
まるで吸い込まれるかのような血のように深い紅色。蝋燭の火の光を受けて、怪しく輝いて見える。
「時には武力行使によって、時には偶発的に、影に日向にその者たちの影がちらついて、仕方が無い」
例えば、と。
メイティはテーブルの上に指を這わせて、3度、天板をノックした。
瞬間、フフとプティのすぐ背後でほんの微かな物音が鳴る。
「え? な、なに!?」
「……いつの間に」
戸惑う2人の背後には、白い外套を纏った細身の男性がいる。その腰には2本の短刀。フードを深く被っているせいで表情までは窺えないが、雰囲気から察するにどうやら若い男性のようだ。
外套の男は両手を素早く振るい、フフとプティの首の後ろを手刀で打った。
脳が揺らされ、2人の意識が次第に、けれど急速に遠ざかっていく。意識を失うその直前、2人はメイティの言葉を聞いた。
「あなたたちが、ローレットとやらの依頼で動いていることは既に知っているんですよ」
●フフとプティの救出
ラサ。
とある小さな村に、数人のイレギュラーズが集められた。
時刻は真夜中。
彼らは夜の闇に紛れて、ひっそりと集落の小さな空き家へ足を運び、そこでイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)と合流した。
集まった顔ぶれから、厄介ごとの気配を感じる。
「さて、ここから西に暫く進んだ場所に廃村があるっす。地盤の沈下だか何だかで、村の大半が砂に埋もれた古い村っすね」
村には幾らかの建物……といっても、テントよりも少しだけマシな程度のものである……が、未だ形を保っているらしい。
そして、その建物の1つが“紅血晶”の売人、メイティという男のアジトになっていた。
以上が、潜入したフフとプティより齎された情報だ。
「2人は更なる情報を得るべくメイティのアジトへと潜入しました。そして、その後、消息を絶っています」
消されたか、拘束されかた。
その2択から正解を選ぶなら後者ということになる。だが、時間が経過すると前者が正解となるはずだ。
「2人は廃村の家屋の1つに閉じ込められているっす。それも、幾らかの“紅血晶”と共に……」
紅血晶は美しい宝石だ。
けれど、同時に危険な代物でもある。
紅血晶に魅入られた者は、徐々に姿を怪物のように変じさせる。そして、1度、怪物に変じた箇所は2度と元には戻らない。
「2人の救助と紅血晶の回収をお願いするために皆さんをここに呼びました。こんな遅い時間に、ひっそりと集まってもらったのは……メイティとその護衛に気取られないようにするためっすね」
貴族然とした売人、メイティは【魅了】【恍惚】を付与する魔術を。
外套を纏った護衛……アサシンらしい細身の男は【必殺】の伴う剣技を。
情報が少なく、2人についてはあまり情報が得られなかった。ともすると、2人とも既に廃村を離れた可能性もある。
「廃村の辺りは砂嵐の起こりやすい地域っす。砂嵐の影響で、視界の不良や言語による意思の疎通に問題が出る可能性もあるっすからね……十分注意してください」
顔の横に掲げた両手をひらひらさせて、イフタフはそんなことを言う。
- <昏き紅血晶>フフとプティの潜入調査。或いは、砂に埋もれた廃村…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年02月21日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●砂漠の廃村
真夜中。
砂漠の果てにある、砂に埋もれた小村跡地。
かつて村の入り口だったであろう場所には、そのことを示す朽ちた柱が立っている。村の名前が看板として掲げられていた痕跡はあるものの、肝心の看板は朽ちて落ちたか、風に吹かれてどこかへ行ったか、もはや影も形もありはしない。
そんな村の跡地に近づく影がある。
「さて、それじゃあ救出に向かうか」
肩に積もった砂を手で払いながら、そう告げたのは『スケルトンの』ファニー(p3p010255)である。歩く白骨死体といった外見のファニーだが、その暗い眼窩の奥には、確かに意思の光が見えた。
「来る途中にも砂嵐にあったけど、村もやっぱり砂だらけね。砂に埋もれかけている建物を見落とさないようにしないと」
『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)は足元の砂を靴の先で蹴り付けながら、そんな言葉を口にした。コツン、と爪先が何かを打つ音。砂中に埋もれていたのはナイフだ。それもまだ新しい……つまり、つい最近まで誰かが使っていたナイフである。
「護身用か何かか? フフかプティの持ち物、って線も無くはないが……手掛かりにはならねぇな」
今回、砂に埋もれた小村跡地へ足を運んだイレギュラーズは全部で8人。そのうちの1人、『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)がナイフをそっと拾い上げると、周囲をぐるりと見まわした。
“紅血晶”の売人に捕まったという旅の商人、フフとプティの救出がイレギュラーズの今回の任務だ。砂に埋もれた村のどこに2人が捕らわれているかも不明な状況。さらにこの小村跡地はメイティという商人の隠れ家でもある。
敵地に飛び込んだ形となるため、例え近くに人の気配がしなくとも警戒を怠るわけにはいかない。
「ま、どのみにレディを助けるに理由はいらねぇな」
ナイフを足元へと捨てて、サンディは1つ、溜め息を零す。
「やれやれ、まーたあいつらか。よくよくトラブルに巻き込まれやがるぜ」
「あぁ。だが、なんだかんだと危ない橋を何度も渡ってる2人だ。きっと無事なはず。
手遅れになる前に助け出そう」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は悠々とした足取りでサンディの前へ。『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)はサンディと背中合わせになるような形で、ライフルを構えた。
今回、脅威となるのは“紅血晶”の売人であるメイティと、その護衛らしきアサシンの2人。メイティはともかく、アサシンが未だにイレギュラーズを見つけていないとは思えない。
姿を現さないのは、きっと隙を窺っているからだろう。
「人助けセンサーもオンにしておくけれど、二人が助けを求めれる状況にあるとは限らないから感知できればラッキー程度ね!」
3メートル近い高い位置から声が発された。
最後尾を進む『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)が胸の前で両の拳を握ってみせる。
「流通者かァ……サヨナキドリのギルド員に被害が出る前に取り潰したいところなんだよね、元凶。救助が優先ではあるものの、できるなら捕まえたいな」
地面に視線を落としたまま『闇之雲』武器商人(p3p001107)がそう呟いた。武器商人の視線の先には轍。つい最近、この辺りを馬車が通過したのだ。
残念ながら、轍が見て取れたのはその一ヶ所だけ。どちらの方向から来て、どこへ向かったのかは分からない。砂嵐か何かですっかり掻き消えているためである。
「この騒動の核心にかなり近づける可能性がある訳か」
武器商人のすぐ後ろ。影の中で『努々隙無く』アルトゥライネル(p3p008166)がそう告げた。姿を隠したアルトゥライネルは、つかず離れず一定の距離を保ったまま、仲間たちと共に集落跡地へ足を踏み入れた。
●砂嵐の夜
フフは夢と現の狭間にいた。
彼女を現へ引き戻したのは、体を震わせるほどの砂嵐の騒音だった。
渇いた喉が張り付いて、痛みを伴う咳が出る。すっかり渇いたフフの瞳は、眼前数メートルの位置の光景さえぼやけて見える。
廃村のどこか、砂に埋もれた家屋の一室。ランプの明かりで照らされた薄暗い部屋の中にいるのは、拘束されたフフとプティと、そんな2人を眺めている青白い顔の男性の3人だけだ。
「8人」
青白い顔の男、メイティが告げる。
「新たに8人が近くまで来ています。どうやらあなたを探している風ですが、ご存知ですかね?」
メイティの問いに、フフは寝起きでよく回らない脳を必死に働かせる。メイティの言う8人とは、きっとローレットの者たちだ。連絡を絶ったフフを助けに来てくれたのだろう。
一瞬、安堵の吐息を零しそうになったが……寸前でフフは唇を噛み締め、表情を引き締める。
「さぁ、知らないと思うわ」
そう答えたフフに、メイティは冷たい視線を向けた。
数秒の間、無言の時間が流れる。
ふぅ、と吐息を零したのはメイティだ。
「そうですか」
フフの嘘に騙されてくれたのか。
それとも、嘘に気付いたうえで何も言わなかったのか。
どちらにせよ、メイティの方にこれ以上会話を続ける気はなさそうだ。黙り込んで目を閉じる。沈黙が耳に痛い。
やがて、フフの意識が遠のく。
メイティに飲まされた睡眠薬が効いているのだ。1度は目を覚ましたものの、フフは再び眠りに落ちた。
意識が途切れるその寸前、フフは心の内で「助けて」と悲鳴をあげた。
砂嵐が吹き荒れていた。
ほんの数メートル先さえも視認できない。口元を手で押さえた武器商人は、姿勢を低くし眉を顰めた。長い髪が風に踊る。
「話には聞いていたけど、これは酷いな……あぁ、皆の方は問題ないかい?」
武器商人はそう問うた。
声が聞こえる範囲に人の姿は無い。本来であれば、武器商人の声は誰の耳にも届かないはずだ。
だが、今回に限ってはそうじゃない。
『今のところは無事だ。ラダとミーナとアルトゥライネルには空き家に入ってもらったが……近くまで敵が来てる。アサシンだったら、容赦してる余裕はないぜ』
武器商人の脳裏に響くファニーの声には、焦りの感情が滲んでいる。
砂嵐に紛れ、姿と気配と足音を消して、アサシンが近くまで迫っているのだ。
「……カティーの方に向かってくれれば、捜査もしやすくなるんだけどね」
そう呟いて、武器商人は砂塵の中に目を凝らす。
少し先で何かが動いた。3メートル近い大きな影だ。
「ガイアドニスの方か。これは重畳。砂嵐は平気なのかな?」
「えぇ、もちろん! 砂嵐なんのその!」
強風に揺れることもなく、大樹か巨岩のようにその場に佇むガイアドニスが笑った。
ラダの視界を白い影が横切った。
ラダがライフルの引き金を引くよりも早く、白い影は……アサシンは再び姿を晦ます。
「目も耳も利きづらいのが厄介だな」
砂嵐が視界を覆う。騒音が音を掻き消している。
アサシンは砂嵐の中、戦うことに慣れている風だった。砂嵐が収まるまで、後どれぐらいの時間がかかるか。
少なくとも、砂嵐が収まる前にアサシンは何かを仕掛けて来るはずだ。
「……仕掛けて来るのなら、好都合だが」
なんて。
ラダが言葉を零した直後、「あ!」と背後でミーナが叫んだ。
「な、なんだ?」
目を丸くしてアルトゥライネルはそう問うた。
家屋の中で、ミーナは北の方向を……壁の方を見つめている。
「今、“助けて”って聞こえた気がする。フフかプティだと思うし、ちょっとそっちに向かってみるよ」
「……分かった。十分に気を引き締めてあたってくれ」
砂嵐の中へ飛び出していくミーナを見送り、アルトゥライネルは言葉を零す。砂嵐の騒音にかき消され、その声はきっとミーナの耳には届いていないが。
助けを求める声が聞こえた。
飛び出していくミーナの姿が視界の隅を横切った。
その後を追う白い影を、サンディの目は確かに捉えた。
「行かせねぇ!」
アサシンが剣を一閃させた。
それと同時にサンディが腕を振り抜いた。
砂嵐を割り、地面を焦がして、猛火の波がアサシンを襲う。咄嗟に体を翻し、アサシンは火炎を回避。
地面を転がるアサシンの元へ、躊躇なくサンディが斬り込んで行く。
「直接手を差し伸べるヒーローにゃ今回はなれねぇけど......ま、裏方も出来るのがアニキってもんだ!」
サンディの手には血で形成された短剣が握られている。
アサシンの腹部目掛けて、サンディが短剣を一閃させる。白い外套の切れ端が飛び散り、その直後、裂けた皮膚から鮮血が散った。
「っ……!?」
鮮血はサンディの腹部から溢れたものだ。
姿勢を崩したサンディが砂の上に転がった。アサシンは追撃を止めて、砂嵐の中へ身を潜らせる。
アルトゥライネルの頬を、アサシンの刃が掠めていった。
頬を流れる血を拭い、アルトゥライネルは地面を蹴って宙へ跳ぶ。砂嵐に身を任せることで、滞空時間をほんの少しだけ長くした。
宙を舞うアルトゥライネルのすぐ真下を、白い影が駆け抜けていく。
建物の影に飛び込んだのか、それとも砂嵐に身を潜ませたのか。
「欲をかいてくれればもっと楽に仕留められるんだがな」
両の手で広げた布を体に巻き付けるようにして、アルトゥライネルは歯噛みした。
アサシンは速く、そして用心深い。
かと思えば、執拗にこちらの命を狙う。
なんともやりづらい相手だ。真正面から向かって来るなら、欲をかいて足を止めるならなんとでもやりようはあるというのに。
『音もなく移動できたって、敵意や殺意があれば丸わかりだ。さぁ、俺様を止められるかな?』
砂塵の中で、ファニーの叫ぶ声がする。
剣戟の音が数回。
それから、ファニーの怒声が響いた。交戦は一瞬。アサシンはすぐに、その場から姿を晦ませたらしい。
狙いを1人に絞らないのは何のためだろう。そんな風に考えて……アルトゥライネルは答えに至った。今のアルトゥライネルのように、思考がアサシンから逸れて隙を晒した瞬間に攻撃を仕掛けてきているのだ。
「っ……抜かった」
アルトゥライネルは地面に手を突く。
側転の要領でその場から後ろへと跳んだ。さっきまでアルトゥライネルのいた位置をアサシンの刃が通過する。
回避されたと判断した瞬間、アサシンは攻撃の手を止め踵を返した。
けれど、しかし……。
「よう、陰キャ野郎。コソコソしてねえで掛かってきな。遊んでやるぜ!」
大上段から振り下ろされる手斧の一撃が、アサシンの肩に裂傷を刻んだ。
全身を砂に塗れさせたグドルフが、アサシンの前に立っていた。
「てめえが頑丈なオモチャなら嬉しいんだがねえ!」
狙いを澄ますこともなく、アサシンの斬撃を防御する様子さえも見せず、ただがむしゃらに手斧を叩きつけ続けた。
アサシンは素早く身を翻し、グドルフの斧を回避する。
そうしながらも短剣を振り抜き、グドルフの腹や肩、足に裂傷を刻む。
壁の中から女が姿を現した。
目を丸くしたメイティが見上げるほどに大きな女だ。
「な、なんで……っ!? ここがっ!?」
飛び上がるように椅子から立ったメイティが、ガイアドニスへ向け手を突きだした。
メイティのアジトは、一見してそうと分からないように偽装していたのだ。知らなければ、そこに建物があることさえ分からなかっただろう。
さらに出入口には簡単な仕掛けが施してある。人が入れば、音が鳴る類の仕掛けだ。入口はその一ヶ所だけとなれば、メイティは不意打ちを受ける心配なんてしていなかった。
それがどうだ。
音もなく、罠を作動させることもなく、壁の内からガイアドニスは現れた。
「偽装や迷彩は見抜けるのだわー!」
床に降り立ったガイアドニスが、メイティの正面へ回り込む。体を丸く屈めているのは、天井が低いせいだろう。
「ちっ」
思わず、といった様子でメイティは舌打ちを零した。
ガイアドニスの立つ位置は、丁度メイティとフフ&プティの間だったからだ。フフやプティを人質に取ることも出来ないし、2人の前に置いた“紅血晶”を回収することも出来ない。
「まぁ、いい」
そう言ってメイティは魔弾を撃ち出す。
ふわり、と上質なワインに似た香りが漂った。メイティの放った魔弾がガイアドニスの顔面に命中。空気の弾けるような音と共にガイアドニスが仰け反った。
「油断したな!」
その隙を突いてメイティは走る。
フフとプティの口封じと、“紅血晶”の回収のためだ。
手を伸ばす。
誰かがメイティの手首を掴む。
「油断なんてしていないのだわ。だって、フフちゃんとプティちゃんを見つけた時こそ要注意だと思っていたもの!」
にっこり、と。場違いなほどに奇麗な笑みを浮かべたガイアドニスが言う。どこか恍惚とした表情だが、メイティにはそれがかえって不気味に見えた。
と、次の瞬間、メイティの背後で幾つもの鈴が鳴る音がした。
「次から次に! 招いてもいないのに!」
青白い顔を怒りに歪め、メイティはそう吐き捨てた。
●砂嵐の止む頃
部屋に飛び込んで来たのは2人。
武器商人とミーナであった。
迎撃のために手を翳す。ガイアドニスが体ごとぶつかるようにして、メイティの狙いを外させた。
その隙に、とばかりに2人は部屋の奥へ……フフとプティの元へと疾走。
「……息はあるね。よかったよ」
意識を失ったフフとプティを抱え上げ、武器商人は口の中で言葉を転がす。
「カティー。こっちは無事にパッケージを確保したよ。そっちはどうだね?」
別動隊のファニーへと、状況の報告中である。
だが、ファニーの側から返答はない。既に戦闘不能となったか、或いは現在、アサシンの襲撃を受けているか。
「……まぁ、大丈夫だろう。そちらの首尾は?」
「確保したよ。しかし、これが噂の宝石、か。見た目は普通だが……確かに何か怪しい感じはするな」
“紅血晶”の詰まった木箱を抱え上げ、ミーナはそう呟いた。木箱の中には血色の宝石。ミーナの視線が、じぃっと宝石に注がれている。
目を離したくても離せない。宝石にはそんな不気味な魅力があった。
「待て! そいつは私の商品だぞ!」
ガイアドニスの拘束を振り切ったメイティが、ミーナに向かって魔弾を放った。
「あぁ! ミーナちゃん!?」
側頭部に魔弾を受けたミーナが床に倒れ込む。だが、ミーナは木箱を離さなかった。血の滲む側頭部を手で押さえながら、すぐに起き上がり走り始める。
「いてぇけど……ま、この程度なら私には効かねぇよ」
「それは重畳。さて、この場は任せてくれていい。2人と宝石を連れて、急いで脱出してくれよ」
武器商人の指示に従い、ミーナは部屋から飛び出した。入口付近に寝かされていたフフとプティを引き摺りながら、表に停めた亜竜車の方へ駆けていく。
そうして、部屋の中に残されたのはたったの3人。メイティと武器商人とガイアドニスは、一定の距離を保ったまま対峙している。
メイティは両手に魔力を纏う。
武器商人も同様。互いに“何かのきっかけ”があれば、即座に魔弾の撃ち合いが始まる。そんな緊迫した状況だ。
「殺しはしないよ。捕まえて、どんな手段を用いても流通の情報を吐かせる」
にぃ、と武器商人の口角が上がる。
その様を見てメイティは、悔しそうに歯噛みした。
斬撃がグドルフの胸部を裂いた。
飛び散った血で顔を赤く濡らしながら、グドルフが吠える。
「ッ痛てェなあ……ああ、温厚なおれさまも、流石にキレちまったぜ!」
「っと、落ち着け。殺すんじゃねぇぞ!」
斧を振り上げるグドルフを制止し、ファニーが前進。不意打ち気味に放たれた斬撃が、ファニーの額を深く削った。
骨の欠片が飛び散った。
ファニーの指が虚空を走る。
アサシンの胸部に裂傷が走り、血が噴き出した。白い外套が朱に染まる。
四方をイレギュラーズに囲まれ、既にアサシンはフラフラだ。
「容赦はしない。まぁ、メイティの方は殺さねぇから、安心しろよ」
白い骸骨が笑う。
死神のようだ、とアサシンは思った。
足を砂に沈ませて、視線を右へ。だが、アサシンの機先を制するようにサンディが回り込む。アサシンが短剣を掲げると同時に、サンディも血の刃を構えた。
「俺を殺して、仲間を助けにいくか? まぁ、そう簡単には死なねーけど!」
1つ、2つ、3つ……ラダは心のうちでカウントを刻む。
「折角掴んだ足掛かりだ。もう少し付き合ってもらうぞ」
ラダの隣には、アルトゥライネルが控えている。その指先から伸びた気糸が、風に揺られてアサシンの周囲を漂っていた。
2人の見つめる先で、アサシンが動いた。
狙う先はファニーだ。武器を手にしていないファニーなら、容易に討てると判断したのか。
事実、近接戦闘となればアサシンの方に分があった。
ファニーの攻撃を回避しながら、アサシンは一瞬のうちに数度の斬撃をファニーに叩き込む。けれど、それも長くは続かない。
ギシ、と骨の軋む音。
気糸に絡めとられたアサシンが、その動きをピタリと止めた。
アサシンの視線が気糸を辿ってこっちを向いた。
ラダとアサシンの視線が交差する。
「やっと気づいたか? もう、よそ見なんぞできないよう、派手に撃ちこませてもらうよ!」
たった1発。
終わりを告げる銃声が鳴る。
ミーナの馬車が遠ざかる。
それを眺めるファニーの脳に武器商人の声が届く。
『悪いね。商人の方は、毒を飲んで自殺した』
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
フフとプティは無事に救出されました。
アサシンは捕縛。メイティは敗北を悟り自死しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
フフ&プティおよび紅血晶の回収
●ターゲット
・メイティ×1
貴族然とした青白い顔の男性。
丁寧かつ余裕のある態度を崩さないが、その本質は弑逆的で悪辣としている。
紅血晶を流通させている者の1人であるようだ。
酩酊魔弾:神遠範に中ダメージ、魅了、恍惚
上質なワインに似た香りのする魔弾。
・白い外套のアサシン×1
無口な男性。
メイティに雇われた護衛であり、メイティの周辺警護や敵対する者の調査を行っている。
身体能力は高く、素早く、音もなく移動することが出来るようだ。
暗殺武技:物至単に大ダメージ、連、必殺
2本の短剣による斬撃、格闘術。
●NPC
・フフ
20代半ば、青い髪の女性。
商人。主に本や雑貨などを取り扱っている。
ローレットの依頼で紅血晶の流通経路について調査していたところ、メイティと名乗る男へ辿り着いた。
現在、捕らわれの身となっている。
・プティ
赤茶色の髪の小柄な少女。
どこかぼんやりしているが、非常に優れた記憶力を持つ。
現在、捕らわれの身となっている。
●フィールド
ラサの砂漠。
砂に埋もれた廃村。
元々は100人ほどが暮らしていた小さな村だが、砂に飲まれて廃村になった。現在は10棟ほどの建物だけが砂上に僅かに顔を覗かせている程度。
フフとプティは建物のどれかに紅血晶と共に拘束されている。
砂嵐の起こりやすい地域。砂嵐による視界不良や、騒音に注意が必要だろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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