PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ミルクコーヒーシンドローム

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●都会の夜なんて知らない
 深夜のファミリーレストランにあなたはいた。
 地球の、日本の、おそらく関東にある都会のどこか。
 窓の外は未だ明るい看板がいくつも並び、自動車は絶えず行き交っている。
 ぼんやりとした眠気をおかわり自由のコーヒーで紛らわせながら、あなたはふと思った。
 これは誰かの見ている夢なのだろうか。
 それとも逆に、あのファンタジックな世界で生きているイレギュラーズという存在こそが自分の見ている夢なのかもしれない。
 夢と夢が混ざり合うような、それはまるで、コーヒーにミルクを落としかき混ぜたような夜。
 ミルクコーヒーシンドローム。
 あなたを誘う、夢の夢。

●誰祖彼の墓所
 依頼内容はごくありふれたものであった。
 幻想王国の西にある『誰祖彼の墓所』なる遺跡から、魔力の籠もった特別な石を採取してきてほしいという。
 ディブレークという身元もハッキリしている遺跡研究者からの依頼だ。情報の裏取りも済んでいて、あやしいところはなにもない。
「遺跡周辺にモンスターが出ないでもないが、お前さんらなら散歩気分で行き来できるだろう。危険はないさ」
 ローレットとディブレークはそこそこに古い馴染みだ。それこそ、狂気のサーカスと死闘をやってた頃から知っておりこちらの腕もよく知っている。
 無茶な依頼をなげかけるような相手ではないが、それにしては依頼の規模と内容に違和があった。
「依頼内容は素材の採取……らしいが。護衛ではないのです? この人数で?」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼内容をシートに書き写しながら、当然の疑問としてディブレークへと問いかけた。
 依頼人数は最大で6名。モンスターによる危険のない遺跡への素材採取にこの規模は過剰ではないだろうか。依頼料は適切に支払われているしつっぱねる義理はないのだが、やはり引っかかる。
「そうだな。これは説明しておかねばならんだろう」
 ディブレークは組んでいた両手を解き、出されたコーヒーに口をつけた。
「あの遺跡では、夢を見るらしい。その夢の内容次第で、『石』が手に入るかどうかが決まるのだという。人数を募るのは、確実性を高めるためなのだ」

●夢の夢
 これは予測である。仮にユリーカ・ユリカが誰祖彼の墓所へと入り夢を見たなら、どんな夢をみるだろうかというシミュレーションだ。

「おはよぉなのです」
 ふああとあくびをしながら自室の扉を開けると、バターとコーヒーと、ついでに苺ジャムの香りがした。
 父はパジャマを着たまま椅子にどかっと座り、新聞を広げている。母はキッチンからフライパン片手にやってきて、父とその向かいにある皿に二つにわけた目玉焼きを滑り落とすように盛り付けていた。
「おはよ、ユリーカ。早く食べちゃいなさい。遅刻するわよ」
「はぁい」
 着替えは済んだ。既にセーラー服だ。
 リボンが若干曲がっているのを、父が新聞の向こう側から指摘してくる。いつ気付いたんだろうと思いつつもちょいちょいと直しつつ、トーストに目玉焼きをのっけて纏めて囓り始める。
 手早く食事を済ませると、ユリーカは鞄をひっつかんだ。
「いってきます」
 行ってらっしゃいの声を背に受けて、玄関を出た。
 朝日がまだ眠い目にはまぶしい。
 スマホをポケットから取り出し、時間を見た。
「今日も学校、しんどいのです」
 学校が終わったらバイトがあったな。バイトしんどいな。
 そんな事を考えながら学校への道を行く。
「そういえば……変な夢、みたのです」
 ファンタジックな世界で、酒場の受付に立っていろんな人と話す夢。
 目一杯働いて、世界のあちこちを飛び回って、そして……何かを目指していた夢。
「なんだっけ」
 ふああとあくびをして、何気なく出していたスマホをしまう。
 いつまでこんな日常が続くんだろうか。なんとなく過ぎていく日常で、特に何かになろうとしないまま。

GMコメント

※このシナリオは「ライトシナリオ」です。
 選択肢と100字程度のプレイングで参加し、リプレイの大半はアドリブによって構成されます。

●シナリオ内容
 あなたは遺跡の中で夢を見ます。
 夢の中のあなたは日本という国にくらすごく普通の誰かです。
 この夢がどのような意味をもつかはわかりませんが、どうやら依頼目的である『特別な石』の獲得に関係しているそうです。

●100文字プレイング
 今のあなたにとって大切なものはなんですか?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


夢の中での立場
あなたは夢の中でどんな立場ですか? 学生、社会人、あるいはフリーターでしょうか。

【1】学生
あなたは日本の学生です。中高生かもしれませんし、大学生かもしれません。

【2】社会人
あなたは日本の社会人です。朝から仕事に出て、夜に帰ってくる。そんな普通の社会人でしょう。

【3】無職
あなたはこの世界で特に何かの職に就いているわけではありません。
家はあるし親もあるので生きては行けていますが、将来のことを考えると不安です。


夢を叶えたい?
あなたはこの夢の中で、『夢』を叶えようとしているでしょうか?

【1】夢を叶えたい
夢の中のあなたは夢を叶えるために努力をしています。それが叶うか叶わないかは別ですが……。

【2】夢は諦めた
夢の中のあなたは夢を叶えることを諦めています。それが良いことかどうかは別でしょう。

  • ミルクコーヒーシンドローム完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月24日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
尹 瑠藍(p3p010402)
琅・冬栴(p3p010532)
はじめての日を終えて

リプレイ

●『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
 さいごになるかもよ。
 それじゃまたね。

 夢の中で、あの人はそう言った。
 天使みたいに。
 夢で良いから、また会わせて。
 我(わたし)はそう言って。

「あ……」
 頬に伝う違和感に目を覚ますと、そこは深夜のファミリーレストランだった。
 都内に並ぶビルの一角のスクランブル交差点を見下ろすその場所は、カウンター席だからか少しだけ肌寒い。
 レジーナはスマホを取り出してスリープモードを解除すると、ロック画面に表示された『お嬢様』のデジタルブロマイドを見つめる。一枚数百円のそれは、学生であるところのレジーナにとってそう安い買い物じゃない。けれど、出る度に買うと決めていた。それが彼女のルールであり、広義に述べるなら趣味。より広義に述べるなら、愛であった。
 思わず優しい微笑みが浮かぶ。その表情を認証したのだろう、ロック画面が解除されアプリケーションアイコンの並ぶ画面が浮きあがるひょうに表示された。
 メールアプリをタップ。最新のメールはなし。
 すこしばかり下った所に、新人賞応募を示すメールがあった。自動返信されたそれは、レジーナのちいさなちいさな宝物である。
 憧れを諦めなかった証であり、まだ捨てていない証だ。
「さて、と」
 背伸びをしてみると肩がごきりと鳴った。随分居眠りをしてしまったらしい。店員も起こしてくれれば良いものを、おかわり自由のコーヒーもすっかり冷めてしまった。
 と、そこで。自分の頬に流れていたものに改めて気付いた。
 手を触れると、それは滴だ。
 瞬けば、それは涙だった。
「……なんで、私」
 気になる気持ちはソーダ水の泡みたいに消えて、スッと袖口で滴を拭った頃にはなくなっていた。
 鞄からタブレットPCを取り出して、起動する。書きかけの漫画原稿がデジタル画面に表示され、タッチペンをペンケースから取り出したレジーナは無言でペンを走らせる。

 甘い甘い恋愛を描いた漫画。
 口ずさむラブソングみたいな言葉をラフに描いて、レジーナはふとペンをとめた。
 消えたはずの気持ちが、ふたたびしゅわしゅわとわき上がる。
 夢で見た、あのひと。
 ソーシャルゲームのレアカードに描かれたような、装飾過多なプラチナブロンドの美少女は、はかなくせつなく……なんて言ったんだっけ。
「きっと、大事なことだったはずだけど」
 ペンを指の上でくるりと回してから、レジーナは独りごちた。
 ああよかった。漫画のネタが、もう一個できた。

●『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
 流れる星のまたたきを、目で追っていた気がする。
 大事なものを抱きかかえてこぼさないように、必死に掴んでいたような。

 うっすらと目を開き、息を吸い込む。
 ストーブで暖められた空気はすこしだけ湿っぽくて、それが加湿器のせいだとあとから気付いて自分の寝起き具合に思わず苦笑した。
 昨晩は猫たちの手入れに熱中しすぎて夜更かしをしてしまったから、開店時間まえだというのにひどく眠い。
 居眠りをしてしまったのだろうか。ヨゾラはいけないなと頬をぺちぺち叩きながら、目覚ましがてらスマホを取り出しメッセージアプリをたちあげた。
 にゃーんにゃーんという声が聞こえ、甘えるように膝にとびのってきた長毛種の猫を片手でなにげなく撫でながら、親しい人達とのグループチャットをながめた。新着通知は三件分。おはようの挨拶と、猫の写真をつかったスタンプ。虚空を見つめぼんやりした黒猫のスタンプは、最近人気になったばかりのものだ。ヨゾラも買った。なので、同じスタンプで返事を返しておいた。
 立ち上がり、店内のあちこちをチェックする。
 温度設定式の電気ケトルは順調に湯を沸かし、コーヒー豆もしっかりひいてある。
 モーニングセット用のパンはストッカーに積み上がり、用意済みのゆで卵は可愛らしい形にカットされていた。
「よしっ!」
 ぺちんともう一度だけ頬をたたいて気合いを入れると、店から出て表の扉にかかっていたクローズドパネルをひっくりかえしてオープン表示に変えた。

 猫カフェを経営し始めてから随分経つ。
 夢を叶えたと言えばその通りだけれど、本当の夢を叶えきったと言われれば、それはノーだ。
 ヨゾラは猫に囲まれコーヒーの良い香りがする店内に早速入ってきた客に接客しながら、心のどこかで期待する。
 いつか奇跡がおきますようにと。

●『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)
 嗚呼、私の愛しい旦那様。
 腕の一本、指の先まで。
 私の愛が、しみこんで。
 嗚呼、いつまでも。あなたのそばに。
 私の手で、私の手で。

「うわっと!」
 大声をあげて立ち上がる。勢いよく飛んでいったキャスターつきのチェアは後方に背中合わせで座る後輩に激突し同じような声をあげさせた。
「え、なんすか先輩!? 案件ぶっとんだんすか!」
 乱暴な口調もさもあらん。振り返る彼に、澄恋はぱちぱちと瞬きをしてから短く一呼吸。
「ああ、すみません。なんか……幸せ? な? 夢? を? みて? いた? きがします?」
「なんで一語ごとに疑問形なんすか。頭とんでんすか」
 口調の乱暴さが一回りレベルアップしたところで、澄恋はやれやれと首を振る。

 二人組の婦警は、そんな澄恋を遠巻きに見つめほぼ表情を変えずに呟いた。
「警視庁の若手きっての検挙数を誇る澄恋刑事」
「仕事ができて出世頭。起こる前から事件を嗅ぎつけ起こったときには逮捕している」
「顔もいい」
「男だったらよかったのに」

 そんな無表情婦警たちをよそに、澄恋はジャケットを椅子からひっぱり袖を通す。
「パトロールすか」
「お昼の買い出しですよ。だたの」
 澄恋はそっけなく言いながら慣れた調子で警視庁のビルを出ると、複雑に入り組むビル街をまるで最初から設定されたルートを辿るかのように足早に進んでいく。が、そこに大した目的がないのを後輩は知っている。
 澄恋がぴたりと足を止めたのは、一台のフードワゴンの前だった。
 ハッと振り返り、ワゴンに目をやる。黄色いエプロンと帽子を被った若い男性が、にこやかにお握りを売っている光景だった。
 後輩には、わからない。
 今この瞬間、澄恋の目の中に宇宙が広がっていることを。輝きに満ちた世界の中で、おにぎり男子(仮)がスローモーションで微笑み……そして目が合った。
「好きで――シャケおにぎりください」
「先輩?」
 一瞬でイケメンモードになった澄恋が懐からゴールドカラーのクレジットカードを取り出し、クールに翳す。
「キャッシュで」
「ありがとうございます!」
 男性がにこやかにお握りを手渡す瞬間。
 こすれた指先。
 伝わる熱。
 思わず澄恋は、その細い手首をぎゅっと握っていた。
 脳裏をよぎるのは『どんな男もイチコロ! モテ女テクニック!』なる動画の内容だった。
 目を見つめること五秒、カウント。
 手首に流れる脈を指先で感じ取り、そのスパンが高まったことに、恋の存在を化学的に確認する。
 澄恋はついに出会ったのだ。運命のひ――
「見逃してください刑事さん!」
 男性はぎゅっと目を瞑り、ブランドものとおぼしき財布をかざす。
「出来心だったんです! 盗むつもりはなかったんです!」
「…………ぁー……スー」
 澄恋は虚空をあおぎ、その後ろで後輩が『天才刑事や』と呟くのが聞こえた。
 だが諦めない。運命の恋を見つけるまで。素敵なお嫁さんになる、その日まで……!

●『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取った。
 命を摘み取れなかった。

 鳥のさえずりで目を覚ますというのは、きっと贅沢だ。
 ルブラットの目覚めは少なくとも最新医療機器の発するブザー音であり、せわしなく歩く看護師たちの足音と話し声。
 昼間の過眠に選んだ休憩室は、防音にはまるで向いていないらしい。さもあらん。医者が外界に耳を閉ざしたなら、この世は闇になるだろうから。
「仕事、か」
 ルブラットは反射的に『仮面を直す』ような仕草をして、自らの額と頬に触れた。まるでかけなれた眼鏡をなおそうと指を空振りしたような違和感に、ルブラットは眉根を寄せる。
「どうやら、眠り方が悪かったようだ」
 ビタミン剤でも投与しておくか? などと考えながらルブラットは休憩室を出る。

 挨拶が向けられ、その全てに敬意と打算が込められているのがルブラットにはわかった。
 いつだかの昔、病院を巨塔に例え、政治ゲームのかけひきや派閥争いを取り扱った刺激的なドラマ番組があったと聞く。息抜きがてら見たことはあったが、ルブラットからすれば噴飯ものの児戯であり、とてもではないがリアルとはかけ離れていると思えた。
 現実の医療現場は、政治ゲームなどという生易しいものでできていない。
 宗教戦争とでもいうべき、現実と現実、思想と思想を殺し合う現場がここなのだ。
 風邪薬の定義ひとつとっても大論争がおこり、時には相手の襟首を締め上げて怒鳴ることだってある。死ぬよりひどい攻撃をしかけるなど日常茶飯事であり、精神を壊して医者から患者にすっかり入れ替わった者も当然少なくない。
 そんな激しい世界のなかで、ルブラットの思想は一貫して異端であった。
「――『全て』を救いたい」
 思わず言葉にしたルブラットは、その言葉が祈りのようであると気付いた。
 心。体。社会。老若男女問わず。広義に述べるならこの星でさえ。
 この世の全てを救済することを、彼は医療と定義した。すくなくとも、この世界の彼は。
「だが、私はなぜこのような」
 狂信的とすら言える彼の考えを理解するものは、ほぼない。
 だがそんな彼の思想がいかにして産まれたのかは、彼自身とてわからないのだ。
 なぜ。
 誰が、なにを夢見て。

●『蛟』尹 瑠藍(p3p010402)
 「上京したい」と声に出して言ったときの、両親のあの顔といったらなかった。
 娘がついに不治の病にかかった、あるいは不良にでもなってしまった、はたまた過激な犯罪行為に手を染めてしまったとでもいうような顔をして、『東京は怖い100の理由』を早口にまくし立てたものである。
 そうなることは知っていたし、そうする親だとわかっていた。
 世間を知ってるつもりはないが、『知らないことの多さ』を知る程度には瑠藍は賢い娘であったから。

 故に、瑠藍は『お願い』をしなかった。
 根拠を述べ、道理を語り、必然性と保険を並べた。
 簡単に言ってしまえば沢山勉強してお金を貯めて、バイト先とセキュリティの豊かなマンションを予め見つけてそれらの資料を印刷してテーブルに並べてみせたのである。
 『子供のお願い』が現実性を帯びていないことを瑠藍は知っていたし、そんな不確かな繋がりで得たものは『大人の都合』でいつでも消去できてしまうことを知っていた。
 だからこそ、十数年という短い時間でその身に学んだ『大人の都合』を行使したまでである。
 都合で都合を対消滅することはできない。別の都合で妥協点を見つけることしかできないのだから、親はマンションをよりセキュリティの高い場所へかえることを条件に、そして家賃を負担することを条件に上京を許したのだった。

「別に、田舎がイヤだったとか、賑やかな都会に憧れたわけじゃないのよ」
 旅慣れたジーンズパンツとパーカー。そして小ぶりなバックパック。長く履き慣れたとおぼしきスニーカーを鳴らして歩く瑠藍は、いま北陸地方の長い長い山脈の上にいた。
 空気は真夏だというのに冬のごとく冷たく、実際雪すら残っている。
 今は避暑によい季節なのだとガイドの女性が言って、それに加えて道を外れて歩かないようにと注意をした。
 瑠藍が選んだ大学は、東京は東京でも田舎の風景が残るさびれた街。学ぼうとしたのは『観光』である。
 こうした分野の専門知識をもつ者は総じてツアー会社や行政の地方テコ入れ要員になるのが常と聞くが、瑠藍自身はこの分野に大きな可能性を感じていた。
「観光って、不思議よね。安全なところもあれば危険なところもある。知識だけではわからないものを、体で直接感じるためにその場所に行く。それが真実かどうかに関わらず」
 人工的に守られた自然と、自然に作られた気候。その両方が事実であり、瑠藍はそれを資料ではわからないレベルで体感していた。
 帰りはこの地方の酒を楽しんでいくつもりだ。
「『見たことのないものを見る』……当たり前すぎて、みんな、忘れちゃったのかしらね」

●『はじめての日を終えて』琅・冬栴(p3p010532)
 夢でであった、竜の角をした男性は、なんだかわたわたとしながら語りかけてきた。
 泡のように消えていく記憶の中に残ったワードは。
 ――故郷。

 チャイムの音がして、冬栴はがくんと頬杖をついていた頭がおちる感覚をおぼえた。
 動きがオーバーにならないようになにげなくショックを吸収すると、弛緩した空気の中でゆっくりと深く呼吸する。
 休み時間に飲み物を買いに行こうとする生徒。いまこそ眠りにつこうとする生徒。ここぞとばかりに集まり雑談を始める生徒。
 当たり前の光景が、冬栴にはなぜだかひどく遠いもののように見えた。

 夕暮れ近く、部活帰りの通学路。
 川にかかる橋は遠く、赤い色が滲んで混じる。
 冬栴は夢の中で、なにかが混じる感覚を覚えていた。
 たとえばコーヒーにミルクを落とし、スプーンでくるくると攪拌した後のように。同じスプーンでミルクだけをすくい上げることはもうできない。
「冬栴~、どしたの今日。ずっと寝てなかった?」
 クラスメイトが追いついてきたらしい。後ろからポンと肩を叩いてくる。
「うん……ちょっとね」
「夜更かし的なアレ?」
 勝手に納得してくれたクラスメイトに冬栴は曖昧に頷いて、そして自分に混ざったミルクについて考える。
 いや、自分はミルクだったのか。それともコーヒーだったのか。
 主体がどちらであったのか、今となってはわからない。
 あの人は、『故郷』って言ってたな……。

 慌てて誤魔化すように手を振る女と見まがうほど美しい男性の姿が、脳裏をふらふらとよぎる。
 食事の手がとまっていることに気付いたのだろう、母がこちらを見ている。
 特別なことは何もないとばかりに食事を再開すれば、違和感もどこかへ消えるだろう。
 きっといつかの思い出としても残ること無く、消えるだろう。

 ベッドに入り、目を瞑る。
 眠気は思ったより早くやってきて、そして……。
 やっと気付いた。
「ああ、そっか。あの人のこと、羨ましかったのか」
 冬栴はぼんやりと呟いて、眠りへと落ちた。






 ――そんな夢から冷めた今。
 冬栴は『誰祖彼の墓所』の中でパッと目を開いた。
 石造りの遺跡には小さな部屋がひとつきり。
 奥には人を象った石像があったように見えたが、首から上と片腕が崩れてなくなっていた。どこにも落ちていないので、はるか昔に失われたのか。
 冬栴は長い夢を見ていたことに気がついて、そして無意識に手の中に石があったことに気がついた。
 それに気付いたのは、彼だけではなかった。
 いくつもの石が、彼らの手の中にあって。
 そして全てが夢と知るのだ。

 もしかしたら、自分こそが夢なのかもしれないと、頭の片隅で思いながらも。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 おはよう――

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