PandoraPartyProject

シナリオ詳細

氷雨に濡れる薔薇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 暗く重たくなっていた空がとうとう泣き出した。
 ぽつりぽつりと地面へ円が描かれていく。
 全身を茨に包まれ、血を吸い取られた騎士は最後の言葉を吐いた。

 ――ああ、あの時どうして私は、傘を渡さなかったのだろう。

 悔恨に沈んだまま、騎士の命の炎はかぼそくなっていく。
 騎士が夢見ているのは自らを侵食する茨ではなかった。
閉じたまぶたに映っているのは故郷に残したいとしき者。今はもういない者……。


「また厄介なものが現れたよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、集まったイレギュラーズ達に厳しい顔を見せた。
「吸血茨というやつでね。トゲに猛毒があるんだ。その毒は被害者に強い幻覚を見せ、死に至らしめる。
 幻の中身は、噂によると実家などのゆかりのある場所や人であるらしい。記憶喪失の場合はわからない。ただ、生還者は皆一様に雨が降っていたとだけ言っていた」
 氷雨そぼふる中で、生まれ育った家の灯りはどれだけ暖かく見えるだろう。それが幻覚とわかっていても、もう少し、あともう少しと、泥沼へ入り込んでしまうのだ。幻覚を振り払うためには、つよい気力が必要となるが、はてどれだけの人が大切なものへ剣を向けられるだろうか。
――もういいよ、もう帰ろう。何もつらいことはない。
そんな幻聴まで聞こえてくるというのだから、この茨は強さの割に厄介者として扱われている。
「そのうえ遠距離攻撃にはバカみたいな防御力を発揮するんだ。近寄らないと倒せそうにない。どうかな? 挑戦するかい? ……おっと、無駄な質問だったね。失礼したよ」
 入口へ向かうあなた。
 あなたはショウとすれちがいざま依頼書の入った封筒を受け取った。

GMコメント

●目標
吸血茨の殲滅

●敵
吸血茨(部位12体)
なんかこー、わさっとした丸い感じの茨のかたまりが、12個あると思ってください。そして、どれが本体とかはないので全滅させてください。遠距離からの攻撃に強く、妙な打たれ強さを発揮しますが、近距離からの攻撃には弱いという特徴があります。

吸血茨の攻撃方法
トゲ 物近範 致死毒(毎ターンHPを最大値の10%失う)
トゲ飛ばし 物遠扇 致死毒(同上)
この毒は特殊で抵抗できません。いったん幻覚を見て倒れたあとは気合(クールなプレ、あるいはEXF)で起き上がらないとそのまま吸血茨の苗床になってしまいます。

●ロケーション
森にほど近い荒野で、特に障害物はありません。吸血茨は毒で倒れている相手に寄っていく性質があります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 氷雨に濡れる薔薇完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月17日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ロイ・ベイロード(p3p001240)
蒼空の勇者
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
再び描き出す物語
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ニル=エルサリス(p3p002400)
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
天音 白雉(p3p004954)
極楽を這う
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に

リプレイ


「ニル! ニル―!」
『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)叫びがこだまする。
 ニル=エルサリス(p3p002400)の小躯がバウンドして地を這った。パンドラの輝きが彼女の息をつなぐも、再度の集中攻撃に戦闘不能になる。
「苗床になんてさせるものですか!」
『忘却信仰忘却』天音 白雉(p3p004954)が前へ飛び出し、ニルを回収する。ジルーシャはニルを安全圏まで下がらせた。毒のせいだろうか。顔色の悪い彼女の頬を叩いて一喝。
「ほら、しっかり。アンタの大事な記憶、これ以上利用させるんじゃないわよっ!」
 ニルは小さな声を上げて息を取り戻した。だがこれ以上戦線へ立たせるのは酷というものだろう。

『蒼空の勇者』ロイ・ベイロード(p3p001240)が走り込み、茨が密になったところへ刃をねじ入れた。そのまま真横へ一閃。痛覚はないはずなのに、ざわざわとうごめく吸血茨。
(血を吸い、獲物を糧にする、危険な植物。こういう存在は、放っておくだけ、被害を増やし続ける。この手の魔物は、即座に倒しておかなくてはな)
 植物に善悪の意識はなかろうが、人類としてはそれそのものを遠ざけなくなくてはならない危険な種だ。もう一度紫電のごとき一閃を放って、せめて数を減らさんと試みる。茨が蛇のようにしゅるりと蠢き、ロイを囲む。
「これが今回の討伐対象? 動く茨とはずいぶん気味が悪いものだな。まぁ、植物学者じゃねぇから、詳細はわからんが。……こいつの研究は学者先生も嫌がるかもしれんな」
 血を吸い、人間を苗床にする植物。禍々しいにも程がある。ロイに出来るのはただ斬るのみだ。
 防御に気をつけつつ、頂点までふりあげた剣を一気に振り下ろす。茨の塊がひとつ、カラカラと茶色くなって枯れていった。
 周りの茨が一斉にトゲを撒き散らす。ロイは突然襟首をひっつかまれた気がした。
 一瞬の混濁。
 彼が立っていたのは荒野ではなく、どこかのんびりとした町だった。水車がゆっくりと回り、老婆が気持ちよさそうに散歩している。この場所には覚えがあった。
「……旅立ちの町じゃないか」
 ふと自分の姿を確認してみれば、ひのきの棒にそまつな盾と、旅人の服。身に馴染んだ鎧は消え失せ、素朴な装備になっている。
「……俺は、一体何を? 大魔王を倒しにいく。そうだ、そのとおりだ。……だが何か妙だな。俺は大魔王を倒さなくてはならない。そこまではあっている。だがあの鎧が消え失せているのはどうしてだ」
 記憶をたどり、追いかけていくロイ。
「そうだ。俺は魔王との戦いのさなかにフーリッシュ・ケイオスへ召喚されたんだ。元の世界へ戻るのは難しいはずだ。これは幻、俺が実際にいる場所は、別のところだ!」
 とたんに目の前の景色がガラスのように割れ、幻覚がきたときのように闇がロイを包んだ。かと思えば風吹き鳴らす荒野へロイは立っていた。茨が身をうねらせ、トゲをロイへ突き刺す。だが抗体ができているのか、致命的な毒の痛みは感じるものの、幻覚は見えてこない。
「ふふ、ここからがスタートということか。魔の植物、この地に存在すべきではない! ならば早めに落とすのみ!」

 戦いそのものはイレギュラーズたちの優勢だった。これはイレギュラーズたちが範囲攻撃を多めに持ち込んでいたことが大きいだろう。もともと吸血茨そのものはさして強い相手ではないのだ。だがその毒はイレギュラーズたちをじわじわと苦しめていた。

「幻覚を見せて、死に至らしめる。……人の心の、大事なところに踏み込むっとかそーゆーの、ルアナ嫌い。薔薇であろうが茨であろうが、きっちりと成敗させて貰うんだから!」
『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)が別の茨へ雷光のような一撃を叩きこむ。鯉口を切り、すばやく鞘から抜き出す、その勢いを利用し、茨を切り抜いていく。
 剪定でもされるように茨は小さくなっていく。反撃なのか茨がトゲを吐いた。マシンガンのような勢いだ。正面からトゲを受けたルアナは武器を取り落とし、ふらりふらりと回転して大地へ大の字になって倒れた。
 急速に遠ざかっていく意識。
 気づけば、彼女はソファで横になっていた。暗灰色で統一された部屋。大きく柔らかなソファの感触が気持ちいい。暖炉の薪が爆ぜる音が、彼女を眠りに誘う。ここがどこなのかルアナは知っていた。
「んふふ、おじさまの匂いがする」
 ルアナを庇護し、面倒を見てくれている頼りになる相手だ。召喚の際のショックでルアナは何も覚えては居ないけれど、おじさまのことだけはなんだか深い縁がある気がしている。
 眠気が忍び寄り、ルアナのまぶたをくっつけようとする。おじさまの気配がちかづいてくる。
「どうしたのおじさま。もう寝ててもいいの? やったぁ……。起きたらきっとおなかすくから……甘いお菓子準備して、て、ね?」
 眠りの手がルアナの精神をつかもうとしたその時、ルアナはカッと目を見開いた。強い風が吹く。その風にあおられ、景色がぺらぺらの紙のように揺れて引きちぎれていき、おじさまの気配が霧消する。
 虚空へ向けてルアナは叫んだ。
「……とか言うと思った!?おじさまはだらだらしてる人には厳しいんだよ! お菓子貰うためには、褒めてもらうためには頑張らなきゃいけないんだよ!」
 暗闇が破れ、光がさす。まばたきをすると、ルアナはほいっと掛け声をかけて飛び起きた。目の前へ迫る茨へ一太刀浴びせる。
「これくらいの事で倒れるなんてゆーしゃじゃないもん」
 茨の端切れが宙へ舞う中、彼女はそう言って笑った。

『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)は静かな怒りを胸に茨へ挑みかかった。かつての聖女の面影をニルに見ていた彼は、茨を燃やし尽くさんばかりの怒りを抱いていた。
「……いくぞ」
 仲間の隙間を狙ってリッターブリッツ。四体の茨が雷のような一突きへ巻き込まれ、そのうち二体が形を失って茶色くしなびていく。
 と、左足に激痛を感じた。茨が彼の左足に巻き付き、その毒を染み込ませていた。
「この程度で……!」
 茨を切り落とし、意識を保とうとするも急速に躯から力が抜けていく。やがて眠りの海へ彼はとぷんと投げ込まれた。
「……、……?」
 誰かが名を呼んでいる。今はもう誰も知らない彼の名を呼んでいる。目を開けるのが怖い。そんな思いとは裏腹に、ハロルドはまぶたを開けてしまった。そこに居たのは間違いなくかの聖女、リーゼロット。あたりを見回せば、彼女が暮らしていた神殿だ。故郷すら記憶が曖昧な自分の、拠り所はここだったのかと得心がいく。
「よかった。うなされていたのよ、あなた」
 心配したのだからと、聖女は微笑む。
 嗚呼、確かにこれは夢だ。幻覚だ。幾度となく思い描いた未来だ。平和になった世界を、リーゼロットと共にずっと見守っていく。そんな未来を夢見ていた。平和の中では生きられない己を自覚しながら、それでも本当は、彼女さえ、彼女さえ傍に居てくれたなら……。だが。
「消えろ、幻め」
 ハロルドは彼女の腹へ手を突っ込んだ。硬い感触がある。メリメリと彼女を引き裂きながら、現れたのは一振りの剣。彼女は悲鳴をあげ、あるかなきかの力で抵抗する。違う。違う。違う。リーゼロットは、あのとき……笑っていた。
 彼女は聖剣を完成させるために……ハロルドのために死んだ。彼女の亡骸から聖剣を引き抜いたあの時から、ハロルドはリーゼロットが生きた世界を守るために戦い続けると誓った。それに彼女が死んでも、彼女の想いはこの聖剣に込められている。彼女の想いは自分と共に。
「あいつの想いを無視して、こんな幻覚にうつつを抜かせるか!」
 景色がぐるぐるとまわりだし、やがて亀裂が入り始めた。
「おおおお!」
 聖剣を手に突っ込むと、何かが刺さった感触がした。同時に景色が割れはぜ、元の荒野へ戻る。目の前でひとつの茨の塊がびくびくと末期の痙攣をしていた。ハロルドはさらに聖剣を叩きつける。
「……おい、楽に死ねると思うなよ」
 彼が放つ怒りがオーラとなって立ち上る気がした。

 白雉はむかむかする胸の内を隠すことなく茨を焼いていた。トゲが発射されるときには一瞬の予備動作がある。彼女はそれを見抜き、なんとかトゲを回避していた。
 それにしてもこの茨、趣味が悪い、の一言だ。まがい物を見せることも。人が抱えるいっとうに大事なものを土足で踏み荒らすその所業も。白雉はふんと鼻を鳴らす。
「生きるための手段にとやかく言うことはしません。私が、気分が悪いので、燃やします」
 きっぱりとそう宣言し、彼女は焔の術式を茨へ叩き込んだ。刃の攻撃によって弱った茨の塊を狙えば、萎れながら火気をまとって燃え上がる。白雉はギアをあげるかのように反応を高め、少々の負傷は承知の上で茨のステージで踊る。
 だがかすり傷でも何度も受けているうちに毒が回ってきたようだ。体が重くなり、目が霞んでいく。何より、激痛がそのステップを狂わせ始めていた。
「ええい、小生意気な茨どもですね。あなたがたの思い通りには……ならな、い……」
 ふつりと意識がとだえ、暗闇が白雉を覆う。そこはひどく寒かった。かたかたと歯の根をふるわせ、自分で自分を抱きしめながら、白雉は立ち上がった。寒い。全身からぬくもりが奪われていくようだ。
 ――帰っておいで。
 暗闇の中に灯りが生まれる。
 ――もういいよ。帰っておいで。もう済んだことだ。
 白雉はまぶたを閉じ、かぶりをふった。目尻を濡らす涙のかけらが宙を舞った。
 あぁ。紫陽花色は鮮やかなまま。もう帰れぬ場所に。声も響きもそのままだなんて。この声にすがれたら、偽りの幸福に身を任せることができたら、どれだけ楽だろう。だけれど白雉はそこまで愚かではなく、であるがゆえに真実の鋭いナイフの痛みを胸に受ける。
 ヒトでないものに成った私はお前の元に帰れない。お前は許してはくれない。どれだけ願おうと、それは叶わない。わかっているから余計に腹が立つのです……。
「私のいっとう大事な宝石の顔をして……甘言を吐くなっ!」
 炎が踊る。白雉の意思に応じて答えた術式の炎が、暗闇に生まれた灯りへと。流れ込み、押し寄せ、焼き上げる。暗闇がパックリと2つに割れ、荒野へ戻ってきた白雉はぜいぜいと肩を上下させた。その勢いでさらに炎をまとい、茨を燃やす。
「ねぇだって。偽物だと分かっているのに委ねるなんて、それこそお前への裏切りでしょう?」
 頬へ受けた傷を手の甲でこすると、赤い血の筋が伸びて彼女の頬を彩った。

 全力防御で進む強引な方法で、『プリティ★まじっくないと』天之空・ミーナ(p3p005003)は茨へ近づいた。そして、剣へ魔力を這わせ、刀身が青く輝くと同時に茨を斬りつける。ばっさりと切り裂かれた茨は干からび、茶色くなっていった。
「まずはひとつ、続いてふたつ!」
 そばにいた茨の塊も魔力撃で破断。仲間内で頭ひとつ抜けた威力で茨を次々に仕留める。だがその反動も大きい。周りの茨から集中攻撃を受け、ミーナは膝をついた。
 暗い、寒い、痛い……。彼女の体が正直にアラートを鳴らしている。一度後衛へ下がるかとぼやけた意識でそう思ったそのとき、体へ掛かる負荷が消えた。
 気がつけば夕日に照らされたビーチだった。波打際へのたりのたりと波が寄せては返す。
「ここは?」
 服装も水着になっていた。何か用があってここへ来たような気がする……。と、そのとき。
「今日は楽しかった?」
 そう話しかけられた。振り向くと、そこには、はるか昔に居た最愛の人。ああ、そうだ。今日は家族で海へ遊びに来たんだった。この人と一緒にいくのが楽しみで楽しみで指折り数えて待っていた……。甘酸っぱい気持ちが胸へ溢れた。
「ぼんやりして、どうしたんだい? まだ遊び足りないなら、潮干狩りをしていこうよ」
 彼の言葉をうけてあたりを見回せば、家族が貝を掘っている姿が見える。やがて彼らはミーナに気づき、立ち上がり手を振る。
 なつかしい。なにもかもがすべて。
 だけど。
「……陳腐なもんだ。もういないってわかりきっている奴の顔を見せて惑わそうなんざなぁっ!!」
 ミーナがわめいた。
「どうしたんだい?」
 心配そうに伸ばされる手。その手を振り払ったとたん、景色が凍りついた。寒さと痛みが怒涛のように襲ってくる。神経をかき回され、ミーナは立ち上がることすら困難だった。だが苦痛をはねのけ、元の荒涼とした荒れ野へ戻ってくると、なぜかほっとした。
「私は、甘い夢を見るほど若くねーんでね」

『信風の』ラデリ・マグノリア(p3p001706)の働きはすこぶる重要だった。彼は仲間の毒を解除してまわったのだ。致死毒の飛び交う戦場での功績は大きいと言えよう。
 だがそんな彼も飛んできたトゲを受けて倒れてしまった。まるで穴へ落ちるような感触とともに、景色が一変する。寒い。そう思っていたら雨が降っていた。雨は彼の体をしとしとと濡らし、体温を奪っていく。
 見えるのは天義風の門。記憶の中にある崩壊した姿とは違う、まだ通ることが出来る姿だ。その奥にはなつかしい村が広がっている。
 門から誰かが出てくる。どうせ父親の姿をしているのだろうと決めつけて利き手を掲げる。近づいてくる人影を見つめ直し、はっとした。そこに立っていたのは父親ではなく相棒だった。
 彼の手の中でマジックフラワーがくすぶって消えた。散々狂った父を燃やしてやろうとした手が止まる。この山猫の獣種は、なんで俺のような余所者の狐を招き入れたんだろうか。今となっては相棒だと手を組む彼だが、その内面や過去はまだ不透明だ。
 ラデリは強い好奇心にかられた。村へ戻り、彼へたずねれば、聞きたいことを教えてくれる。そんな気がした。
「おいおい、どうしたラデリ。ずいぶんご機嫌斜めだな。ま、それもいいさ。人生そういう時もあらぁな」
 相棒の左右色の違う瞳にラデリが写っている。
「だけどもういいんだ。すべて済んだことさ。もう何も辛いことはないんだ」
 それを聞いた途端、ラデリは躊躇せず利き手へ炎をまとわせた。
「ラデリ、どうしたんだ。オイラなんかしたのか?」
「黙れ偽物。あいつはそんなことを言わない」
 相棒も俺の過去を知らない。何を辛いと感じるかも。
「俺が相棒の声を、聞き違えるわけがない。魔種に唆された父親と、俺は違うんだ」
 利き手から魔法の炎を放ち、ラデリは相棒の姿をした幻を火だるまにした。不思議なことに、門も村も炎に飲まれ、燃え上がっていく。
「噂には聞いていたが、こうもあからさまな植物だったとはな。悔しい気分で一杯だが、幻覚毒を受ける前提で動いて正解だった……。嗚呼、何が悔しいって……見えてしまうものが想像出来てしまっていることか」
 幻覚から立ち直った彼は、アウェイニングとハイヒールで戦線を維持することに集中した。

 茨には茨をと思ったか、ジルーシャはソーンバインドで足止めと流血を狙っていた。しかし遠距離から攻撃が加わるたびに大量のトゲが撒き散らされ、前衛の誰かが倒れる。これでは攻撃できない。ジルーシャは茨と前衛が絡み合う位置まで走り込み、そこへ倒れている仲間を救出する。だが茨のトゲが彼を襲った。
「あうっ!」
 ムチのようにしなやかに伸びた茨がジルーシャを殴打した。受けた傷から冷たい何かが潜り込んでくるのを肌で感じる。嫌悪感に頭を振るも、冷たい感触はどんどん広がり、全身を覆った。
 ああ、なるほど、とジルーシャは思った。
 冷たいのは雨が降っているからだ。氷雨が彼を濡らしている。エンジェルスキンすらびしょ濡れになって、過去の一幕に彼は立っていた。
 暖かな灯りのともる家が一軒、彼の前にあった。窓から中をのぞけば、まだ子どもだった自分がいる。床へスケッチブックを置いてお絵かきの真っ最中だ。ロッキングチェアーに座った紳士が時折、子どもの頭を撫でる。撫でられた子どもはくすぐったそうに笑った。
 ふと紳士と目が合う。
「先生――」
 ジルーシャの育ての親だ。いわくいいがたい感情がこみ上げてきて、ジルーシャはかえって無表情になった。
 子どもが窓をあける。
「どうしたの、こんな寒いのに。風邪引いちゃうよ?」
 入っておいでよと子どもが言う。
 本当にそうできたら、と、ジルーシャは思った。喉の奥がごつごつして鼻がツンとしてきた。
「寂しい思いをさせたな、ジルーシャ」
 窓際へ近寄った紳士がそう言う。
「もういいんだ。何もつらいことはない。帰っておいで」
 ジルーシャの中でぶつりと何かが切れた。涙で顔を濡らして、けれど彼は怒りの形相を作る。
「――人の思い出、食い荒らすんじゃねえよ」
 利き手を天へ掲げ、炎を呼び出す。何もかもが炎に包まれる。
「燃えていけこんなまがい物は!」
 そう叫ぶと彼を取り巻くすべてがシーツでもめくるようにすっと消えていった。正気を取り戻したジルーシャは仲間を後方へ移動させる。
「苗床にするくせに懐かしい記憶を見せるなんて、優しいのか優しくないのか……どっちにしても、趣味が悪いわね。カウンセラーとして、こんな人の大事な思い出に土足で踏み込むような真似――大っ嫌いなのよ、アタシ」


 イレギュラーズたちによって危険な吸血茨は取り除かれた。残骸をどうするかで意見が別れたが、ロイの言う通り燃やすことになったという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ニル=エルサリス(p3p002400)[重傷]

あとがき

おつかれさまです。
吸血茨、数が多い上にめんどくさい能力もちの大敵でしたが、皆さんの戦略によって見事討ち果たしました。
今回は心情よりのリプレイになっていますが、裏では毒が舞い散る電撃戦バトルしてました。
治癒で大活躍していたラデリさんへ称号『ポイズンキラー』をお送りしています。
ご利用ありがとうございました。

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