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シナリオ詳細

<昏き紅血晶>にーちゃん、きれーだね!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美しいモノだった。
 宝石。ああ紅血晶と言うらしいけれど――いつまでも見ていられる。
 初めて見た時から魅了された。宵闇のような光をも湛えた美しい、その宝石に。
 特に夜には、より一層の輝きを増す気がして。

「にーちゃん。それなぁに?」
「ん。あぁ、この前スッた中に混じってたんだよ。キレーだろ!」
「ほんとだー! きれー!」

 その輝きを眺めているのは――ラサの路地裏に住まう少年達だ。
 身なりはあまり宜しくない。恐らく貧しい子供達なのだろう……スッた、という言葉からも察するに、盗みでもしなければ生きていけない程の。そんな子供達にとって宝石の価値はパンよりも上であったか下であったか。
 ――しかし美しさだけは理解できていた。子供達の瞳に煌めきが宿る。
「これって売ったら何日分のおかねになるかなー」
「ばっか。こんなの持っていったらブン盗られて終わりだろ。
 折角だから俺達だけの宝ものにしようぜ!」
 和気藹々。見ているだけでなんだか胸がドキドキするから。
 子供達にとっては無邪気なだけだった。
 新しい玩具を手に入れた様な感覚――そう、彼らにとっては只嬉しいだけだったのだ。

 だが、彼らは知らない。

 その宝石を手にしていてはいけない事を。
 その宝石は、只の宝石などではない事を。
「にーちゃんにーちゃん、もっと見せてー!」
「だーめだ! これ俺が取って来たヤツだから俺のだ―!」
 ああ本当に。見てるだけで胸がどきどきする。
 ああ――なんだかはちきれそうな程に、どきどきするんだ。


「皆。今、ラサで出回ってる紅血晶の事は知っているかな?
 パレスト家の方から情報が届いたんだけどね……」
 語るのはローレットの情報屋であるギルオス・ホリス(p3n000016)だ。
 紅血晶。それは現在、ラサのマーケットを中心に出回っている希少な宝石の類である。
 ……『宝石の類』と称した様に、それは純粋な意味での宝石とは言い難い。熟れた紅玉かと思いきや柘榴のような美しさを宿している、煌びやかな代物ではあるが――『人を魔に変える』という噂もある程なのだ。
 いや噂ならば良かった――が。
「ローレットに依頼が来るぐらいなんだ。不安と混乱を煽らないように公言していないだけで、実際は……事実の可能性が高いだろう」
「……なるほど。それで?」
「皆にはラサの市場に出向いて情報を入手してもらいたい。
 紅血晶を扱っている店はないか。購入して集めている者がいないか――とね。
 とにかく出回ると困るモノだ。必要なら回収しないといけない……」
 持ち続けていれば本当に魔物に変じてしまうかもしれぬから。
 紅血晶はどこから産出されたかも不明だ。最初に市場へ持ち込んだ旅人は『地下より発掘した』と告げたらしいが――その仔細も知れぬ。ただ、美しさの噂だけが瞬く間に広まり、更にあまり出回っていない希少性が逆に災いして、躍起になって商人たちは己が利益の為に取り合っているのが現状。
 放置はしておけないと、ローレットに依頼が舞い込んだのである。
「金持ちだけが持っているとも限らない。もしかしたらスラムの子供達が盗んで持っている……という可能性もあるだろう。今回は皆にはそっち方面の情報が無いか担当してもらいたい――そして、重要な事なんだけれども」
 一瞬。ギルオスは、口を濁す様にして、しかし。

「もしも。宝石の所持者が既に魔に転じているようなら……討伐してくれ」

 まだなっていないのであれば間に合うが。もう手遅れならば、と。
 ……本当に、そんな宝石が一体全体どこから舞い込んだのか。
 何はともあれ急がねばならぬと――貴方達は歩みを進めるのであった。


「はぁ、はぁ、はぁ」
 暑い。体が、熱い。
 なんだろうなこれは。今日の日差しはそこまででもないんだけどな。
 最近なんだか熱いんだ。無性に無性に――熱いんだ
「にーちゃん、お水ほしいよー……」
「ああ、大丈夫だぞ、今からオアシスから取って来てやるからな……」
 他の子供達も同様だ。なんだ、くそ、どうなっているんだ?
 だけど熱なんかで休んではいられない。明日の食い物にも困っているのだから。
 スリの少年――ゴーウェルは、オアシスに往く前に……先日手に入れた美しい宝石を一目見るものだ。ああなんだか落ち着く。お守りの様に彼はその宝石を愛おしんでいて……
「よし、行ってくるからな。すぐ戻って来るぞ――」
 彼は汚れ切ったフードを目深に被ってから日の下へと歩みを進める。
 体の不調を、誤魔化しながら。

 ああ、クソ。本当に暑いな――

GMコメント

●依頼達成条件
1:紅血晶の回収
2:晶獣(キレスファルゥ)の撃破。

 1は必ず行ってください。
 2は状況によります。助けられない(既に魔物化している場合)撃破してください。

●フィールド
 ラサのマーケット市場です。とても熱気があります。
 商人などが沢山いますので、片っ端から話を聞いていくと情報が集まるかもしれません。しかしあちらも商人である者……逆に皆さんの足を止めて何か物を売りつけようとしてくるでしょう。
 なんらかの非戦スキルなどが在れば、そういった商人たちの攻勢を捌きやすくなるかもしれませんね。

●敵
・『晶獣(キレスファルゥ)』ゴーウェル
 ラサに住まうスリの少年です。商人には彼の事を知っている者がいるかも。
 紅血晶を肌身離さず持っており、実は体の一部が異形化しつつあります。本人は気付いていない様ですが……このままだと晶獣を超えて更なる『晶人(キレスドゥムヤ)』という状態になる恐れがあります。
 異形化に伴って身体能力が向上しており逃げ足などは非常に速いです。跳躍力も伸びており、家の屋上に跳ぶ事も容易かったりするかもしれません。バレてる状態での追跡は中々骨が折れるかもしれません。

 戦闘になった場合は、向上している身体能力で殴りかかってこようとするでしょう。ただし元々戦闘技能に優れている訳ではないので、技術は拙い事が予想されます。また、彼は紅血晶の魅力に取りつかれており手放そうとはしません。

・『晶獣(キレスファルゥ)』チルドレン×4名
 ゴーウェルと共に路地裏に住んでいた幼い子供達です。
 紅血晶の影響が徐々に出ており、スラムの奥で異形化しつつあります。ゴーウェル程侵されてはいないようですが……助けられるかは不明です。とにかく紅血晶を一刻も早く手放すことが唯一の道でしょう。
 なお、もしも襲い掛かってきた際の戦闘能力は不明ですが、魔になり立てならば大した事はないでしょう。

●紅血晶
 熟れた紅玉かと思いきや柘榴のような美しさに、宵闇のような光をも湛えた美しい宝石。
 余りにお美しさに魅了される者が多く居ます。『魔性の宝石』や『魔石』と揶揄されることも多いようです。手にした者は徐々に姿を変え、キマイラのように姿を変容させてしまうとか……

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <昏き紅血晶>にーちゃん、きれーだね!完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
一条 夢心地(p3p008344)
殿

リプレイ


 紅血晶。血のように赤い結晶――
 魔獣の類になってしまうとは『人生を贈ったのだから』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はどことなくある地で出回っていた『神の血』との共通点をどうしても考えてしまうものだ。
「偶々かもしれませんが……子供達が被害にあうのは防がなければ」
「急ごう、余り時間は無さそうだ。悪意、或いは害意を感じうる……見過ごせない」
「ラサなら任せてくれ、知り合いも多い。商工会にも連絡を取ってみるとしよう」
 そしてココロと共に動くのは『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)に『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)も、か。人を魔物に変じさせる宝石などと――本当にその様なモノがあるとすれば回収を急がねばならない。
 ラダは縁を駆使し、紅血晶を扱う商人や所持者の目撃証言を探らんとしようか。彼女ほどにラサに精通した人物であれば協力してくれる知り合いもいる――アイトワラス商会の印章も掲げ迅速に事を進めんとすれば。
「紅血晶という名前の真っ赤な宝石を探しています。ご存じですか? 売ってるお店とか最近買い漁ってる人とか……ええ。どうしても欲しいのです。知り合いに見せて頂いた、あの深紅な輝きが……」
「済まないが急いでいる。人命に関わる事なのでな――
 些細な事でも良い。紅血晶について知っている事を、教えてくれ」
 ココロとベネディクトも情報収集を行おう。
 ココロはただ単に綺麗もの好きであるかのように振る舞いながら、だ。自然体を装いながら宝石が出回っていそうな方面を探る……あぁ後は、盗まれて困ってる人のうわさもご存じないです?
 一度手に入れた人ならば、もう一度手に入れる事も出来るでしょうから――
「しかしねぇ、タダという訳にも……」
「ふむ。ならば何かそちらの依頼を俺達が引き受ける際に優先的に引き受けるというのはどうだ。これでもそれなりに実力はある心算だが――俺では不足かな?」
 そしてベネディクトは利益が必要ならばと自らの『力』を対価にせんとするものだ。難易度の高い品物を取りに行くにでも、別の事でも――ラサでも名声高き者の言であれば商人も顔を綻ばせるものか。然らばベネディクトの後ろをついて回っていた茶太郎も『ご主人様はさいきょーだよ!』っと、なぜか誇らしげだ。

 同時。ココロたちとは別方面で調査を行わんとしているのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)達である。ベネディクトより預かったファミリアーの使い魔によって、いざと言う時の連絡も手に情報を集めんとするか。
「商人に対しての探りなら任せておくれよ。幾らでもやってきたものさ――
 サヨナキドリじゃ日常茶飯事だし、ねぇ」
「ふむふむ頼もしいの! 然らば麿は店先にある品物より探っていこうかの。それなりに名の知れた宝石であれば、扱っている店も『下』ではなく『中』か『上』であろう。少しでも絞らねばな」
「あぁ品物は殿様に任せよう。我は人を直接――ね」
 更には『殿』一条 夢心地(p3p008344)も続こう。武器商人は行って来た商売の手練手管を存分に振るうものだ……商業に関する知識や眼であれば、武器商人もまた卓越した経験を宿している。
 ラサ商人と言えど切り抜けさせたりなどしない。
 微かなる言の端から指摘し、情報だけをもぎ取らんとし時にはおだててでも……
 一方で夢心地は殿たる見地から店先の品物を見定めんとするか。
 数多の供物など見てきたものよ。然らば美に対する知識もあろうか……
 相応の宝石を扱うには相応の『格』もまた必要な筈。
「うぉ、眩しッ! な、なんだこの客のオーラは……!?」
「ほっほ。この一条夢心地を知らぬか? ――ならば知れ! 今日と言う日の上客を!」
 同時。殿は些かに飛行し浮くと共に、後光を翳そうか――
 一流の商人よ、知れ。この夢心地の『格』を。只の冷やかし客ではない事を!
「しかし、持ち続けていれば魔物へと変じるとされる宝石……
 どのぐらいラサに出回っているのでしょうね。
 ……最悪の場合も覚悟しておかなければ、ならないでしょうか」
 そして『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は特に、売り込まれる方面を探らんとする――そもそも必ず『売る』者がいる筈なのだ。或いは手に入れたモノを更に高額で売り払うべくとする者がいるかもしれぬ、と。
 アルパレストの紹介状を介して彼女は往く。
 特に。スリの類の手に渡っているかもしれぬ可能性も心に秘めながら。
(……そういう商人は盗品を扱うので堅気の人間ではないでしょうね。
 逆に言えば『堅気』の気配がなさそうな方を探れば――)
 急がなければならない。シフォリィの胸中にはどことなく不安がよぎっていた。
 既に苦しんでいる者がこの街にいるかも――しれぬのだから。

「美しい宝石には魔が宿る……ね。
 ふふ。宝石の謳い文句としてはありがちとも言えるけど――
 比喩ではなく本当に人を魔へと誘うなら、魔の領域に突っ込んでるわね」
 ――まるで私みたいな石。
 言を紡ぐのは『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)だ。イレギュラーズ達はラダ達、夢心地達とは更に別に、もう一つリカと『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)も分かれて調査に当たっていたのである。
「どうも共通点を感じる事件には思わず顔を出したくなるわぁ。
 ――カワイ子ちゃんが相手なら尚更、ね?
 ただまぁ。獣になるって原理はよく分からないけど。肉腫みたいなモノかしら?」
「いずれにせよ危険な事には変わりない――謎の力を有した宝石。確かに、商人の間では話題になりそうなものだな。知り合いの武器商に話を通してみるとしよう……何か知っているかもしれない。さぁ仕事の時間だ」
 両名も市場へと歩む。リカは夢魔の姿にて。ルクトは――
「……しかし。生地も随分と薄いな。肌の露出も過多に感じる。
 正直人と交流する想定じゃないんだが……まぁ、これも有効なら使うとしよう」
「えぇえぇ似合ってるじゃない――いいわぁ。この調子でいきましょ♪」
 ルクトは――リカに合わせる形で、以前来た事のある踊り子の衣装を着飾ってだ。なんともはや、こういう経験が多くはない故……どこかむず痒さというか違和を感じるものだが、まぁ人と接する心得が全くない訳でもない。
 これで商人らの口が緩むなら、と。
 意気揚々たるリカと共に――サンド・バザールの通りへと往くものであった。


「あらお兄さん、とってもステキな品物ね♪ でもネ、リカちゃんもっと、もーぉっと……欲しいのがあるの。血のように紅くて、とってもきれいな宝石……私が持つにふさわしい様な……お兄さんは聞いた事があるかしら?」
 そしてリカは早速に商人の下にて自らの身をもってして近寄る――
 警戒心を和らげさせる祝福……いや、或いはあえて呪いと形容すべきだろうか?
 彼女は自らに備わりし全てを用いて魂を篭絡せんとものだ。
 大いなる胸の感触で意識を逸らさせ瞳が交じあう時に魔の力を注げば――いひひ♪
「あ、あぁ……たしか、そうだな……この前知り合いの所で入荷したとか……」
「……ふむ。成程、その者の名は? ……成程。情報提供感謝する。行こうか、リカ」
 然らばルクトも、リカとは反対側から身を寄せるものだ。腕に絡み付いて商人を見上げる様に……ええと、これが上目遣いの使い方だったか? まぁともあれ。用事が済んだら一気に離れようか。もう用は済んだ。
 一時の夢を見れて楽しかっただろう――?
「まぁ、夢は醒めるものだがな」
 彼女の駆け抜ける様は正に高速――各所でイレギュラーズ達の情報収集は進められていた。特に交渉の類に特化した技量を宿す武器商人や、コネクションに優れるラダは迅速に各所へと調査の手を進めていくか。
 武器商人は自らのギルド・サヨナキドリへの紹介状による伝手を広げる事も忘れない。
「いつかこれが縁となって帰って来る情報もあるかもしれないからね――
 ま。それはひとまずとして、ちょっと気になる話が聞けたよ。
 なんでもこの辺りではスリの子らがいるらしい」
「紅血晶らしき宝石が盗難にあったという話もあるようじゃの。
 その子供を追ってみるのが良いかもしれん」
「ええ――急ぎましょう。つい最近の話と言う事ですし、まだ間に合うかもしれません」
 そして得た情報は夢心地、シフォリィに共有しておこうか。圧倒的なカリスマオーラをもってして商人を魅了せんとした夢心地。自らの身をもってして上目遣いの誘惑と『後』の口約束をしたシフォリィの二人にしろ直近の話として『スリの子』の話を聞いたらしい。
 ゴーウェル、か。後は大方の位置を絞り込めさえすれば――と。
「おぉい! ちょっと待ってくれよ、話だけなんてつれないなぁ。
 どうだい! 人探しなら折角ならこのペンダントを持ってると幸運が訪れ……」
「放して下さい。わたし達は急いでいるの。こっそり教えますけど、お店が割れたスイカのように粉砕されたくなければ紅血晶は隠し持ってない方がいいですよ。こわーい人達も探しているの」
「あぁ、悪いが。こっちは急いでいるものでな――時は金なり、我々も忙しいのでね」
 さすればラダやココロは己を引き留めんとするラサの商人を軽くあしらうものだ。肩に触れようとしてきた手をココロは払いのけ、表情はニッコリと笑顔を向けながらも――瞳が笑っていない。
 これ以上長引かせるならもっと直接的に『説得』してあげましょうか?
 ともあれ、スリのゴーウェルという少年の話を聞く事は出来た。ならば。
「行けるか? 茶太郎」
 任せてください! と、茶太郎はベネディクトの問いに、凛々しい瞳と共にやる気満々。
 ――飛ぶ。犬掻きと共に空を往こう。
 市場は人だかりが多すぎる。故に茶太郎を介して空から飛行した方が圧倒的に早かった……全力の移動を幾度も行いながら、ベネディクトはゴーウェルがよく現れる場所に辿り着き。ラダも優れた三感によって少年の影がどこぞにないかと探れば。
「――いた。君だな、ゴーウェルとやらは」
「な、なんだアンタ……! まさか俺を捕まえに来た傭兵か……!?」
「それは違うねぇ。我達は傭兵じゃなくてイレギュラーズさ。
 キミの持つ宝石を探していてね。その宝石――おっと話は終わっちゃいないよ?」
「待ってくれ――オアシスの水面で自分の姿を見てみろ! 君を保護するだけだ!」
 探していれば見つけた。件のゴーウェルを、だ。
 合流した武器商人も早速に宝石を手放してくれと言を……
 しかしゴーウェルは元より誰も信用していないのか脱兎の如く駆けだした。
 早い。とても子供の脚力とは思えない……!
「ですが見失う程ではありません――追いかけましょう!」
「ああ。私は空から追おう。中々に早いが想定外と言う程でもない」
 しかしイレギュラーズとて逃がさぬ。元より近くには他の面々も至っていたのだ。
 ベネディクトの放っていたファミリアーが中継連絡として大いに機能していたか――
 ココロは足に力を。大きく跳躍し、テントや店の上を駆け抜ける――今日のわたしはちょっと早いですよ! 全力なる移動を繰り返し、ルクトは踊り子衣装の儘に空を飛翔する……こんな衣装で戦うのは初めてだが飛行するに問題はない。
 方角を追う事さえ叶えば――彼の帰る先に辿り着けよう。
「皆、逃げるぞ! 傭兵が俺達をかぎつけ……あ?」
「うう、にーちゃん……熱いよ、熱いよ……」
「――やはり、こういう事になっていましたか」
 ゴーウェルの住まう住居。スラムの一角。
 ……そこには獣となり掛けている子供達もいた。助けを呼ぶ声を感知したシフォリィは『まさか』と思って駆けつけたが其処には……呻く様に苦しむ子供らの声が、幾つも。
「あ、あ、ァァァ――!!」
「あらら……如何にもな子供、ね。私の領地で保護してあげたい所だけど――
 まずはとにかく大人しくさせなければ話も何も始まらないかしら」
「止むを得んの。とにかく誰も逃してはならぬぞ――街に出れば騒ぎにもなろう!」
 直後。判断能力を喪失したのか子供達が襲い来る。
 故にリカや夢心地は即座に対応へと回るものだ。夢心地は超速に抜刀する――
 殺さずの心得を宿した一閃であり彼の慈悲でもあろうか。同時、飛翔しながらゴーウェルを追っていたリカは誘惑の力をもってして動きが比較的素早い者へ相対を。ねぇお姉さんと……あらあら? 私よりも魅力的なの?
「その石ころ……燃えちゃうわね。ええ。妬けるのよ――ほら、もっと私をよーく見て」
 だったら上書きしてあげようと彼女は振舞うものだ。
 より強く魂に根差す様に。夢魔としての力を振るわん――
「うわああ止めろよ! こいつらはちょっと熱が出てるだけなんだ!」
「いいや。よーく見る事だね。これはキミの持つ宝石の力さ。
 ――話の続きだよ。それはね、持っていると魔が魅了するのさ。
 そう。こんな風に魂も肉体もね――キミも身体のどこかがおかしいだろう?」
 であればゴーウェルはイレギュラーズを止めんとするものだ。
 故に交渉する術を、独特の声色をもってして武器商人は彼へと紡ぐ。
 根本的な問題は持っているモノにあるのだと。
 彼らがどこぞ外へ意識を向けぬ様に破滅の声も齎そうか。
 さぁこっちを向いてごらん――? そう言わんばかりに。
「わたし達の言葉を疑うなら、服を脱いで身体を見てみなさい。
 何か変よね? 分かるでしょう?
 もしもその状態を怖いと感じるなら……綺麗な石をこちらに渡して」
「ぁあ……? い、いやだ。これは俺のだ! 俺のだ――ッ!!」
「……やはり話が聞ける状態でも無いか。瞳が濁っている。危険な代物だな……
 それならせめて、すぐに終わらせよう。痛みが少ないようにな」
 更にココロは治癒の力を周囲に満たしつつ、彼女も説得せんとするものだ。
 だがゴーウェルは聞かぬ。いや、正確には途中で執着の方を強くみせるか。
 これもまた石の力かもしれぬと思えば――ベネディクトは全霊たる槍の一撃をもってして彼らを押しとどめる。命は奪わぬ様に、意思を込めながら。ココロもまた五指に神秘を宿らせ地に叩きつけ紅き光の柱にて鎮圧を目指す。
 ……彼らはいずれも『なりたて』であった。故にその身体能力もあくまで相応に人間らしさが残っており、いざや戦闘となればイレギュラーズ達に叶おう筈がなかった。
「逃さない事に注意を! あの子の様に跳躍力があるかもしれません……
 とにかくこの場で事態を抑えておかなければ……!!」
 シフォリィは子供達の戦う力を奪わんとする光を放つ。
 いざと言う時にはワイバーンを用いて追跡するべきかとも思いながら――しかし。
 正気を失っているだけで侵食具合は薄そうだ。情報収集が比較的早くに終わった事も作用しているだろうか……これならばきっと落ち着かせればまだ間に合うと、信じて。
「一人として取りこぼさないぞ。皆救助してみせる……!
 気をしっかり持て! 弟達は生きている、お前が守ってやらずにどうする!
 ――自分の意思を信じろ! そんな石っころが、弟達より大事なのか!」
「童よ、そのような紛い物の煌めきに惑わされるでないわ。しかと見るがよい、真なる光を!」
 更にラダも逃さぬ様に務める。雨あられの如き銃撃が彼らに投じられれば、子供達の動きはやがて止むのみ。
 夢心地の言う通りでもあるのだ。
 どれだけ綺麗に見えたとしても。
 どれだけ煌めく様に魂が躍ったとしても。
「真の光輝を浴び、目を覚ますのじゃ……夢心地シャイニングッ!!」
「――お前を逃がすわけにはいかない……悪いが、無理やりにでも止めさせてもらう!」
 幻の悪意に惑わされるべからずと。
 夢心地は斬撃一閃。ゴーウェルの動きを封じる様にしながら。
 直後にはルクトの一撃もまた飛来しようか――
 反撃? 知らぬ。喰らおうが、それでも突っ込んで叩き込む! 此処で止める――ッ!
 刹那――ゴーウェルの手から宝石が離れた。
「今だッ!」
 それを見逃すベネディクトではない。即座に宝石を奪い取り子供達から引き剥がす。

 ――これが紅血晶。人を惑わす、宝石。

「はぁ、はぁ、うぅ、俺は……?」
「……助かりましたか。些か身体に異常は残っていますが、治癒すれば助かるかもしれません」
「ふぅむ……なにか魔力は感じるけれど、よく分からないねぇ。
 何か魔力というよりも色々混ざってるような……ひとまず回収しておこうかね」
 然らばゴーウェルが正気を取り戻そうか。
 もう戦う力もない。シフォリィが子供達も含めて症状の様子を視つつ。
 武器商人は宝石の真髄を見据えんと――瞳を凝らすものだ。
 此処ではよく分からないが、やはり只の宝石でないのは確かで……
「こんなモノが流通しているとはな……ああ、とにかく。そうだ。
 ゴーウェル。子供達ももし無事に助かれば、働き口はいるか?」
 直後。ラダは紡ぐ――これも縁だと。
「下働きだろうが、それで良いなら紹介できるだろう」
「ほ、ホントか……? 俺達はもう、盗まなくていいのか?」
「ああ。しっかりと、働くならな」
 変じた部分が戻るかは分からない、が。きっと戻ると信じて。
 ラダは吐息を一つ零そう。
 ――彼らの未来を救えたことの、安堵の吐息であった。

成否

成功

MVP

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

状態異常

なし

あとがき

 お待たせしました。依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 ラサに出回る宝石。その出所は石の解析や調査が進めばいずれ判明するかもしれませんね。
 ともあれ、ありがとうございました!

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