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シナリオ詳細

ドキドキ因習村。或いは、深渡夏村の謎めいた“祭り”…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●深渡夏村での滞在
 豊穣。
 とある雪深き山を越えた先にその村はあった。
 村の名は深渡夏村。豊穣の地図にも載っていない、ごく小さな……そして、古い村である。

 エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)をはじめとした数名のイレギュラーズたちは、とある旅人の誘いで深渡夏村を訪れていた。曰く、村で行われる“とある祭事”のために、外部からの招待客が必要だという。
「数年に1度の祭事なんだが、成功させないと村はずっと冬のままなんだ。なぜって? さぁ? そういう“呪い”だって村の爺さんたちは言っていたけど、俺は詳しいことは知らないよ」
 エントマや、イレギュラーズに誘いをかけた若者は、そんなことを言っていた。
 “深渡夏”という名前には「深い雪を超え、訪れた渡り人が、夏を運んでくる」という意味が込められているらしい。
 誰も知らない村で行われる、誰も知らない祭りという素敵ワードに興味を惹かれ、エントマは旅人の誘いに乗ることにした。イレギュラーズたちは、エントマに巻き込まれた形である。
「ところが、いざ村に来てみれば宿を宛がわれて放置……その上、宿の周辺は住人たちが見張っていると」
 さらに「夜は絶対に宿から出るな」「北にある池には近づくな」と、奇妙な制約を課せられた。
 宿の設備や食事の内容に不満はないし、夜間の外出や、池の周辺は危険だから……という理由にも納得はいく。
 そこまで話して、エントマは視線を窓の外へ向けた。
 つい昨日から、ずっと雪が降り続けているのだ。とくに村へと続く山道は雪の勢いも強く、徒歩で村から出て行くのは不可能なほどに積雪している。
「これ、村に閉じ込められてない?」
 村に滞在すること3日。
 ついにエントマが異常に気付いた。

●最速攻略
 村で行われる“祭り”の内容も知らされないまま、エントマたちは3日間を過ごした。
 その間、エントマたちの扱いはというと……まるで“居ない者”と同じであった。村の住人たちは確実にエントマたちの来訪を知っているし、エントマたちの姿も見えている、声だって聴こえているはずだ。
 だが、彼らは誰1人としてエントマたちを見ようとしないし、会話を交わそうともしない。例外はエントマたちを“祭り”に誘った旅人と、村長を名乗る老爺だけだが、そのうち旅人の方は数日前から一切、姿が見当たらない。
 そんな状態でありながら、宿の周囲は村人によって監視されている。
 どうにも様子がおかしいと、エントマの発案により村の調査が開始されたのがつい昨日のこと。
 それから1日、イレギュラーズの活躍により幾つかの情報が得られた。
「まず、この屋敷の地下には地下室……というか、地下洞窟のようなものがあるみたいね。洞窟の広さは不明だし、どこに繋がっているのかも分からないけど、きっと村の外のどこかに辿り着くんじゃないかな?」
 調査の結果、地下に広大な空間が広がっていることは判明した。だが、洞窟へ続く階段などは、宿の中には見つからない。洞窟の調査を行うには、洞窟の入り口を探す必要があるだろう。
「次に“夜は絶対に宿から出るな”って言う警告に関してなんだけど……どうも夜毎に村の住人の一部が、北の池で何かの作業をしているみたいでね。それを見られたくなかったんじゃないかな」
 昨夜、エントマはこっそりと宿から出て行ったらしい。
 すぐに村長に見つかって、宿へと送り返されたが……。
「その時、村長は“何か見たか?”って私に訊いたよ。つまり“見られたらマズイ何か”がある……或いは、居るってことだろうね」
 そう言ってエントマは、窓の外へ視線を向けた。
 窓の外は猛吹雪。
 昼間だというのに、夜みたいに暗かった。
 まるで、空を巨大な何かが覆い隠しているかのように……。
 しばらく空を眺めていたエントマだが、やがてゆっくりとため息を零した。室内とはいえ、冬の空気は冷えている。
「そして最後に“北の池には近づくな”と……監視の目が厳しくて遠目にちょっと見ただけなんだけど、池の真ん中に社だか祠だかが建ってた気がするよ」
 エントマの吐く息は白かった。
 
 その日の夜、エントマたちの泊まる宿へ村の長が訪れた。
 彼は睨むみたいにエントマたちを眺めると、ただ一言だけを告げる。
「今夜の0時に“祭り”を執り行う。迎えに来るので、それまで宿で大人しくしていてくだされよ」
 村長が宿を去った後、エントマは口角を吊り上げ笑った。
 彼女はイレギュラーズたちを振り返り、握り拳を高く掲げてこう言った。

「このまま逃げるのも面白くないし……“祭り”とやらを滅茶苦茶にして帰らない?」
 
 祭りの開始まで、あと数時間。
 下準備に使える時間は、そう多くは残されていない。

GMコメント

●ミッション
深渡夏村の“謎”を暴き、“祭り”を滅茶苦茶にして帰還すること。
※参加者の半数以上が“祭り”に巻き込まれると任務失敗となります。

●エネミー?
・村長×1
深渡夏村の村長。
外部の人間と会話をするのは村長のみ。
滅多に姿を現すことはなく、普段はどこに居るのか分からない。
※“祭り”の開始時刻には、宿まで迎えに来てくれるらしい。

・村人たち×200人ほど
深渡夏村の住人たち。
エントマやイレギュラーズの話に耳を傾けることはなく、会話をすることもない。
ただし、常に10人前後の村人が宿を見張っているようだ。
友好的な様子はない。
※住人の一部は、毎夜のように北の池で何かの作業を行っている。

・北の池に住む何か
詳細は不明だが、エントマは脅威となる何かしらの存在を予想しているようだ。
十分な警戒が必要だろう。

●特殊行動
参加者が適当なスキルを活性化していた場合、以下の特殊行動が実行されます。
以下の特殊行動には、それぞれメリットとデメリットがあります。
以下の特殊行動を行わない場合は、村人たちの追跡や“祭り”を回避しながら「地下空洞への入り口」を探して、村から脱出する必要があります。

・「あんた、あれを見たのか」
吹雪の中、北の池で何かを“見ました”。
“祭り”の概要と脱出の障害となる脅威について知ることができます。
村人たちの監視や行動の妨害が厳しくなります。

・「不可思議な子ども」
村の南側で子どもの歌声を“聴きました”。
歌を聴いたことで“村長”その他のおよその位置が分かるようになります。
奇怪な歌を聴いたことで【塔】【封印】【暗闇】が付与されます。

・「誰かからのメッセージ」
村の西側で、誰かからのメッセージを“発見しました”
メッセージを“解読できた”場合、地下空洞の正しい順路を知ることができます。
知ってはいけないことを知ってしまったようです。村人たちが攻撃的になります。

・「異臭のする井戸水」
村の東側にある古井戸から“異臭が漂っています”
地下空洞への入り口の場所を知ることができます。
村人たちが皆さんの行動を警戒しています。地下空洞への入り口に、見張りの村人が配置されます。

●フィールド
豊穣。深い雪に閉ざされた山奥の小村、深渡夏村。
吹雪と積雪により、山道を使っての脱出は不可能に近い。

村の南にある宿が、今回任務のスタート地点となる。
村の北側には池があり、池には祠か社のようなものが建てられている模様。
池へは村の中央を進むことで到達できる。
村の地下には巨大な空洞がある。空洞へ降りるための階段の類は現在、発見できていない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • ドキドキ因習村。或いは、深渡夏村の謎めいた“祭り”…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
黒水・奈々美(p3p009198)
パープルハート
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ

●陰鬱な夜
 静かに雪の降りしきる夜のことである。
 ところは豊穣、深渡夏村。
 村の南にある宿が、この物語のはじまりの場所だ。
「数年に一度の、村を挙げての大きな祭りに外部から縁の無いものを招き、村に軟禁する……儀式の最後にいけにえか何かに使う気満々の配置に思えますが、気のせいじゃないですよねえ」
 手酌で酒を煽りつつ、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)はそう呟いた。赤い瞳が、チラと窓の外へ向く。雪景色の奥で、もそもそと影が蠢いた。そこにいるのは、宿の監視を任されている村人だ。
 決して宿泊しているイレギュラーズに声をかけることなく、静かに息を潜めてこちらの様子をじっと窺っているのだ。
「だろうな。この村は異常だ……霊も精霊の類もいない。距離を取っているのか、何かに喰われでもしたのか」
 空の杯へと目を向けて『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が同意を返した。アーマデルの背後で、ほんの一瞬、景色が揺らぐ。目には見えない、女の輪郭がそこにあるのを瑠璃は確かに見て取った。

 談話室の扉が開く。
 少しだけ、外に出ていた仲間たちが帰って来たのだ。
「おお怖い怖い……なんですかこの村は……? 村の方々、ちょっと危ない目をしておりますねぇ」
 部屋に入るなり『とりあえずぶん殴った』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)がそんな言葉を口にする。頭に積もった雪の層もそのままに、部屋の中心にある焚き火へと手を翳した。竜といえば翼の生えたトカゲのようなものなので、きっと寒いのが辛かったのだ。
「そ、そうね。こういう集落って閉鎖環境みたいなものだからヤバめな文化が育ちやすいのよね……」
 ヴィルメイズに同意を示す『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)は全身が雪に塗れていた。きっと外で転んだのだろう。両手で肩を抱くようにして、寒そうに震えているではないか。心なしか顔色も悪い。もしかしたら、もともと顔色はあまり良く無いのかもしれない。
「ヤバめな文化……ふむ、こんな陰気な村に住んでいるから暗い性格になるのでは? 妙見子様もそう思いませんか?」
「この歓迎されてない感じ、陰湿な村の雰囲気……"こちら側"だと居心地悪いったらありゃしないですね……今回はヴィル……握り飯太郎様に同意します」
顔をしかめて『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)は答えた。元々は“生贄を捧げられる側”だったので、こういう陰鬱な雰囲気には慣れたものである。
「薄々そうじゃねえかと思ったが、やっぱヤバいほうの祭りかよ。出された飯と酒は美味かったんだけどなぁ……」
 どことなく残念そうな顔でそう言ったのは『劇毒』トキノエ(p3p009181)であった。黒い手袋を外さないまま酒の瓶へと手を伸ばし、中身をなみなみと朱塗りの盃へと注ぎ入れる。
 事情を知ってしまえば、この盃さえも何かの儀式の祭具のように思えて来るから不思議なものだ。
 とはいえ、事情が知れたのなら後は行動するのみだ。 土着信仰に一家言ある妙見子たちが深渡夏村へと訪れたのは、きっと僥倖だったのだろう。
「間違いないと思うナ。この村中から滲み出てる"懐かしさ"エッセンス。落ち着く様な、クソッタレな奴らの臭いで吐き気がする様ナ」
「おや、何か含みのあるご様子?」
 はて、とヴィルメイズが呟いた。
 その視線は、『ねこのうつわ』玄野 壱和(p3p010806)へ向いている。壱和はくっくと肩を揺らして、その瞳をまるでチェシャ猫みたいに細くして笑った。
「そりゃオレも"やってた側"だかラ。御神体として、ナ」
 妙見子“たち”……つまりは、壱和も“祀られていた側”らしい。
「えぇ~!? 壱和様も祀られてたことあるんです~!? 妙見子と"オソロ"ってやつですね!」
「エ? 妙見子のネーちゃんも祀られてた事あル? マジ? おっ揃イ~w あ、生贄とかあった感ジ? うはw マジ親近感www」
 ノリは軽いが。
 ともあれ、有識者たちの判断によればこの村は“黒”と言うことだ。みすみす村が祀る何かに命を捧げるぐらいなら、祭りとやらをめちゃくちゃにして脱出する方向で話はすっかりまとまった。
「儀式自体を単純に否定はできませんが……騙してから使おうとする、そんな相手に協力はしたくないっすね」
『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)の言葉がすべてだ。理解は出来ないが否定もしない。けれど、決して肯定も出来ない。
「っていうか、外よりこの部屋の中の方がヤバそうじゃない? 大丈夫? 何やかんや干渉して、変な物とか召喚されちゃったりしない?」
 声を潜めて作戦会議に勤しむイレギュラーズたちを見て、エントマ・ヴィーヴィーは頬に冷や汗を伝わせる。
「召喚!」
 傾国とかお任せください、超得意です。
 なんて声をあげてポーズを決める妙見子の姿は一旦、見ないことにした。
 そう、これがつまり“混沌世界”の日常なのだ。

●ドキドキ因習村
 民家の明かりが消えていた。
 雪の降り積もった村全体に、闇の帳が落ちている。
 積もった雪に残る足跡は2人分。宿からひっそりと抜け出した慧と壱和のものだった。
「建物とか木とか……そういう物陰に人隠れてそうっすよね、警戒しとくっす」
 こっそりと抜け出したおかげか、今のところ2人は村人の監視から逃れられている。闇に身を潜ませていれば、暫くの間は誰かに見咎められることも無いだろう。
「にしても歌声、ネェ……古来から人間共は音や特定のリズムに乗せて呪いをしたって話ダ。実際[ねこ]を使うのにもオトが要るしナ」
 ニット帽を両手で押さえ、壱和がその場に立ち止まる。
 周囲の様子を警戒しながら、“聴こえてくる奇怪な歌声”とやらを探っているのである。
「歌は他にも、物語といった類を伝えるのにも使われるっすね」
 同じく慧も足を止め、視線を樹々の方へと向ける。
 覗けば吸い込まれそうなほどに深い闇がそこにある。
 そうして、2人は暫くの間、静寂に身を委ねていた。
 すると、どこか遠くから奇妙な子どもの声が聞こえる。樹々の間から……否、辺りを包む闇の中から、子どもの声が滲んでいるのだ。
 気配はない。姿も見えない。けれど、それは確かにそこにいるようで、明るく無邪気な歌声は2人の脳に直接響き渡るのである。
『最果ての土地、深く深く雪が舞う。祝祭の季節に渡人は来る』
 遠くで、近くで、子どもの声が何度も何度も反響していた。
『雪より深い我らの業は、渡り人に被せましょう。血よりも濃ゆい我らの罪は、渡り人に送りましょう』
 耳が痛い。
 脳髄がじくじくと疼いている。
「これは他の[ねこ]使いの受け売りだが、オトはジュモン、ウタはマホウとはよく言ったモノかネ」
「……『伝える』という力があるもの、魔法という表現もわかる気がします」
 視界が黒に閉ざされる。
 深い雪の積もる中へ、このまま倒れ込んでしまいそうになる。
 慧と壱和の視界の中で、ぼんやりと僅かな火が灯る。
 村の北側……池の方向に灯る青白い火の数は2つ。1つは小さく、もう片方は業火のように。小さな火が揺れている。その度に、業火は胎動するかのように蠢いた。
 その様はまるで、今にも生まれ落ちようとする赤子のそれによく似ていた……。

 幾つもの蔵が建っている。
 それから、小さな石碑が1つ。石碑の周囲に雪は少ない。誰かが定期的に雪を除いているのだ。
 村の外れの、民家が1つもない区画だ。食糧庫の類か、或いは、村人たちにとって大切な場所なのかもしれない。
「蔵の中身は古い祭具や本ですか。あまり時間はかけられませんが……少々内容が気になりますね」
 暖かな宿の一室で、片目を閉じて瑠璃は呟く。
 使役しているネズミの視界を通して、村の西側を探索しているのだ。ネズミには、ヴィルメイズや妙見子、奈々美の3人も同行している。

「こ、これ……死者を祀るためのものじゃないかしら?」
 石碑に手を触れ奈々美は言った。
 すっかり掠れているものの、石碑の表面には「供」「魂」「鎮」なども文字が見て取れる。
「供養ならいいけど……供物、だったりして」
 そういえばこの村には墓地が無い。
 離れた位置に設けているのか、それともそもそも「死者を弔う習慣」が無いのか。
 背筋に感じる悪寒の正体が何かも分からぬまま、奈々美はその場にしゃがみ込む。石碑の文字をじっくりと解読するためだ。
 その後ろでは、箒でもって妙見子が足跡を消していた。
「こういう祭りをめちゃくちゃにするには綿密な下調べからってやつですね! 頑張りましょう!」
「そ、そうね。こういう状況だし……少しでも情報は多い方がいいからね。でも、静かにね」
 妙見子のモチベーションが妙に高い。
 村人たちに気取られまいかとひやひやしながら、奈々美はさらに石碑の調査を進めていた。
 そうしていると、近くの蔵からヴィルメイズが外に出て来る。降りしきる雪の寒さに肩を竦める彼の手には、数枚の紙束が握られていた。
「おぉ、そっちはどうでした?」
「本や祭具が山のように。それと、柱や壁にこんな文字? みたいなものが。そのまま書き写してきました」
 妙見子に紙の束を手渡して、3人でそれを覗き込む。
 記されているのは、釘で引っ掻いたような崩れた記号……おそらくわざと、文字を崩して書いているのだ。
「うぅん? “すぐに逃げろ”とか“池に近づくな”とか“何かがいる”とか、そんなことが書いていますね? あ、でも、こっちの長い文章は……」
 一枚ずつ紙を捲って、妙見子はそう言った。蔵に隠れていた誰かからのメッセージだ。
「右、左、右、左、直進、右……何かの順路、かしら?」
 記された文面を、奈々美は何度も口の中で繰り返す。そうやって、道順を記憶しているのだ。
 と、その時だ。
 奈々美は急に目を見開いて、肩をびくりと跳ねさせた。
「あ、ま、まずいかも……人が集まって来てるわ」
「偶然、じゃないですよね、きっと」
 夜闇の中に灯る松明の明かりを横目に、妙見子が溜め息を零した。火の数は10か20か……一定の速度で、四方から囲むようにして距離を詰めて来る。
 村人たちだ。炎に照らされた顔つきは剣呑そのもの。
「何か見たか?」
 先頭を歩く中年の男がそう問うた。
 直後、彼は何かに躓き顔面から雪に倒れ込む。
「正当防衛ということで……」
 虚空に指を這わせながら、ヴィルメイズが薄く笑う。その指先には、視認しづらいほど細い、気糸が繋がっていた。
 攻撃を受けたと理解したのか。松明を振り上げ村人たちが怒号をあげる。
「あー、後で落ち合いましょう。とりあえずぶん殴って……機動力を奪えばどうにか逃げられるでしょう」
 ヴィルメイズの提案により、3人は別々の方向目指して駆け出した。

 機械仕掛けの黒貂が、雪の中を進んで行った。
 その後を追うアーマデルとトキノエが、不意にピタリと足を止めた。
「異臭ってこれか? 何かが腐った臭のようだが……そもそも吸い込んでいいやつか?」
 鼻を押さえたトキノエが視線を周囲に巡らせた。
 彼の視線は、やがて古い井戸で止まった。トキノエの視線を見てとったのか、黒貂が井戸へ近づいて行った。
 井戸の周囲には注連縄が巻き付けられている。しっかりと木の蓋が被せられているが、その隙間から異臭が漏れてきているようだ。
「井戸、即ち地の底……根の国……彼岸へ繋がる縦穴。古く、生命を汲み上げる役割を果たさなくなったものは特にその性質が強い」
 真相はどうあれ、井戸にはアーマデルが告げたような概念が関連付けられるのである。
「異臭は水か、植物か、或いは蛋白質……動物の腐った臭いか、薬物か」
「肉の類だろうな。ただ腐ったってだけじゃなそうだが……」
 井戸に近づき、木製の蓋に手をかける。
 開いた隙間から、黒貂が井戸の中へ跳び込んだ。異臭が一層濃くなって、トキノエが眉間に皺を寄せる。
 井戸の底からは吹き上げる風に乗って、異臭が溢れ出しているのだ。
「村の地下には洞窟があると言っていたな」
 なんて。
 アーマデルは、そんな言葉を呟いた。

 井戸の底には遺体があった。
 1つや2つではない膨大な数の人の遺体だ。その中には、瑠璃たちを村へと連れて来た若い青年のものもある。
 どの遺体も、夥しい量のカビに覆われている。カビの下の肉は腐敗しているのだろう。
「異臭の原因はこれですか……」
 なんて。
 瑠璃が呟いた、その時だ。
 ノックの音が鳴り響く。誰かが宿を訪ねて来たのだ。

●深渡夏村からの脱出
 夜も遅い時間になって、村長が宿を訪ねて来たのだ。
 瑠璃とエントマは居留守を使うが、ノックの音は鳴りやまない。それどころか、次第に大きく、激しくなっているではないか。
 否、これはノックではない。小槌か何かで扉を叩き始めたのだ。
「……なるほど、居留守を使うとこういう感じになるんですね」
 今更、出て行っても、きっともう遅いだろう。震えるエントマの手を引いて、瑠璃はそっと腰を浮かせた。
 窓の外へ視線を向ければ、宿周辺には大勢の村人の姿。
 と、その時だ。
「っ……おぉ!?」
 悲鳴をあげて、村人の1人が宙を舞う。
「村長が移動し始めたんで、慌てて引き返してみれば……祭りの始まりってことっすね」
 歪に歪んだ角を振り回しながら、慧が宿の外で暴れているではないか。
 僥倖とばかりに、瑠璃はエントマの手を引いて窓を蹴破り外へと飛び出た。外を囲んでいた村人は、手に手に武器を持っていた。
「村人は殺さないように」
「倒すにしろ逃げるにせよ、隙作れりゃ十分っすよ!」
 殿を慧に任せ、3人は村の東へ向かって駆けていく。

 池は霧に包まれていた。
 池の手前には、数十人の村人が火さえ持たずに佇んでいる。体に雪が積もることさえ気にも留めず、右へ左へ、黙って体を揺らしているのだ。
 ずっと彼らはそうしている。
「なんだ……あれは?」
 アーマデルの見ている景色に僅かな異変が訪れる。
 霧の奥から……池の中央にある祠から、何かが這い出して来たのである。
「「「ししる、くくる、ながん。ししる、くくる、ながん。ししる、くくる、ながん……」」」
 村人たちが呟くように唱和する。
 その声に導かれるようにして、現れたのは“人の姿をした何か”だ。腐敗した黒い体に、水にうじゃけた肌をした、長身痩躯の人間らしき形をしている。
「禍々しいですね。逃げた方が良くないですか?」
「同感だナ。まったく、どうして弱者ってのは何かに縋りたがるかネェ……バカ共ガ」
 ヴィルメイズと壱和が腰を浮かせた。
 その場から逃げ出そうとしたのだ。瞬間、黒い何かが3人の姿を凝視した。
 少なくとも、3人にはそう思えたのである。
「逃げろ!」
 アーマデルが叫ぶ。
 同時に3人は踵を返して駆け出した。その背後から、ざざと奇怪な足音がする。黒い何かが後ろを追って来ているのである。

 閃光。
 それから村人たちの悲鳴が響く。
 トキノエ、奈々美、妙見子の手によって村人たちは戦闘能力を奪われた。井戸の周囲には20を超える人が倒れ伏している。
「道順は覚えているんだろ?」
 手袋を付け直しながらトキノエは問う。
 奈々美と妙見子は頷いた。
 刹那、3人は同時に顔色を悪くする。言いようのない不快な気配が、3人の背筋に怖気を走らせたのである。

「捕らえよ! 供物を逃がしてはならん! 逃がせば我らは死に絶えるぞ!」
 村長が叫ぶ、村人たちは声を合わせて吠え猛る。
「「「ししる、くくる、ながん! ししる、くくる、ながん!」
 その声を背に浴びながら、瑠璃とエントマ、慧の3人は暗い夜道を井戸へ向かってひた走る。

 まずは瑠璃が井戸の中へ跳び込んだ。次いでエントマ、それからトキノエと慧が後を追う。
「先に行って……でも、変な呪い貰っちゃったりしたらどうしましょ……うぅ」
「妙見子ちゃん、ぶっ壊すのは得意分野なんですが……村で大事にしている何かを破壊するのは、流石に心が痛みますね」
 井戸の左右で両手を掲げる奈々美と妙見子が魔力の濁流を解き放つ。
 白と黒とに明滅する魔力の雪崩に打ちのめされて、黒い何かが雪の上を転がった。その隙にヴィルメイズ、アーマデル、壱和が井戸へと跳び込んで行く。
 3人の背からは、血が滴っているではないか。かなりの深手だ。きっと、黒い何かにやられたのだろう。だいぶ怒りを買ったのか、執拗に攻撃を受けた風である。
「気をつけろ。あれは土着の神になり損ねた妖の類だ」
 なんて。
 アーマデルの言葉を聞いて、奈々美が目尻に涙を浮かべた。そんな危険な存在と、まともに戦ってなどいられない。
 井戸の中へと2人は跳び込み……最後に妙見子が頭上へ向かって魔力の砲を撃ち込んだ。
「とりあえずぶっ壊しましょう!」

 それから暫く。
 地下洞窟を進んだイレギュラーズは、やっとのことで地上へと出た。
 朝日の昇る頃の話だ。
「お、追って来ない?」
 久方ぶりに冷たく澄んだ空気を吸って、奈々美は思わず涙した。空気がこんなに美味しいなんてと、そう思わずにいられない。
 奇怪な村から、彼らは無事に帰還したのだ。
 ひと安心。
 だから、誰も気づかなかった。
 奈々美と妙見子の背中に、ほんの少しだけ蠢くカビが張り付いているそのことに……。

成否

成功

MVP

水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで

状態異常

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)[重傷]
指切りげんまん
玄野 壱和(p3p010806)[重傷]
ねこ

あとがき

お疲れ様です。
深渡夏村からの脱出に成功し、村の祭りは失敗に終わりました。
依頼は成功となります。

不穏な村での、不穏な面子による一夜、お楽しみいただけたなら幸いです。
この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼にてお会いしましょう。

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