PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花を撒く白ウサギ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●お父ちゃんの早とちり
 ここはフリアノン近くの小さな集落。農夫のダグラスには、それはそれは可愛い娘がいる。
 娘の名はリリィ。歳は5つ。小さな生き物や綺麗な花が大好きな、可愛い可愛い一人娘。
 
 日中、ダグラスは妻のニーナとともに、畑仕事をしている。そのためリリィは、家の近くの草原で遊んでいるのが常であった。
 その日も家族で昼食を取ろうと、ダグラスはいつも通り、リリィを呼びに行ったのだが――

「おらのリリィに何してんだ!!」
 リリィは花畑に横たわり、そこへ巨大な、白い毛むくじゃらのモンスターがまとわりついていた。ダグラスは首に提げていた手拭いを振り回して、モンスターを追い払おうとした。しかし、
「!? ……あれ?」
 モンスターは素早く立ち上がり、なんと分裂した。いや、分裂したのかと思ったのだ、そのときのダグラス的には。
 分裂したモンスターは、ざっと数えて30匹くらいのウサギらしきものへ変化した。というか、最初からウサギの集団だったのである。通常のウサギと違って、色とりどりの「風呂敷」らしきものを背負っているけれど。

 ウサギたちはダグラスの怒声に驚き、慌てた様子で森へと走り去っていった。ダグラスは呆然とそれを見送り、次いで愛娘を見下ろした。リリィは身体を起こして、ウサギたちの去った方向をぼんやりと見つめているようだった。しかし次第にその肩が震え始める。まずい。これはまずい。
 わなわなと肩を震わせる我が娘。その旋毛あたりを見つめながら、ダグラスはかける言葉に迷い、口を開けたり閉じたり。そしてダグラスが言葉を発するより先に、リリィが勢いよく振り向いた。
「おどぉぢゃんの、ばあぁーーかぁ~~~っ!!」
 ふわふわの遊び友達たちを追い払われてしまい、リリィは号泣した。

●ふわふわの友達
「ってなわけで、その『フロシキウサギ』を誘い出して、草原にいるリリィのところまで連れてくるのが、第一の依頼…… というか、『お願い』だね」
 愛娘の機嫌を取って、「お父ちゃんの馬鹿」を撤回してもらうために。『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、ため息交じりにイレギュラーズに説明する。

 その説明によると、フロシキウサギというのは、村の辺りでもそこそこ珍しい生き物らしい。その名の通り風呂敷を背負ったような格好の白いウサギで、嬉しいときや楽しいときに風呂敷を揺らし、それぞれ風呂敷と同じ色の花を、周囲に振り撒くのだとか。そのため縁起の良い生き物とされるが、それ以外は普通のウサギと変わらない。
 ダグラスは事件の後、フロシキウサギを必死になって探し、草原に隣接する森の中で、彼らが群れで暮らす巣穴を見つけることができた。しかしウサギたちはダグラスの姿を見ると巣穴に隠れてしまい、とても近づけなかったそうだ。彼が描いてよこした地図に、巣穴の位置が印されていた。
「リリィはフロシキウサギに野菜や果物をあげていたみたいだから、そういうもので釣れるかもね。ただ――」
 ショウは一旦、言葉を区切る。

「その森には、最近ワイヴァーンが住み着き始めたらしいんだ。それが、第二の依頼ってわけ」
 こちらは村長から。住民と衝突して被害が出る前に、ワイヴァーンを退治してほしいという。

「そこまで深い森でもないから、ワイヴァーンを探すのはそう難しくもないはずだよ。でも、ウサギは臆病だから。巣穴の近くで戦闘はしないようにね」
 そう言ってショウは、イレギュラーズを送り出した。

GMコメント

 はじめまして、キャッサバです。皆さまどうぞよろしくお願いします。

●目的
 ワイヴァーンを退治しつつ、ウサギさんを女の子のところまで連れて行きましょう。
 退治はさくっと終わらせて、ウサギさんたちや女の子と一緒に、ピクニックなどいかがでしょうか?

●フロシキウサギ
 風呂敷らしきものを背負った、白いウサギ。風呂敷の色は、赤・青・黄・橙・ピンクなど様々。風呂敷と同じ色の、タンポポくらいの花をぽこぽこ出します。花は1時間くらいで消えます。
 臆病な性格ですが、リリィが餌付けしていたため、多少人馴れしています。巣穴には実は、フロシキウサギが100匹くらい暮らしています。

●ワイヴァーン
 計2体。羽ばたいて強風を起こし、転倒した相手を鋭い爪で襲うを得意としています。
木の幹の上方や、開けた場所にいる相手を優先的に狙ってきます。

●フィールド
 フロシキウサギおよび、ワイヴァーンがいる森。そしてリリィがいる草原が舞台となります。とくに変わった点等ない、普通の森と草原です。
 もしもワイヴァーンが草原に近づいた場合、ダグラスお父さんがリリィを家へ避難させます。安全が確保されれば、リリィはまた草原へ出てきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 花を撒く白ウサギ完了
  • GM名キャッサバ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月11日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)
おくすり
ルエル・ベスティオ(p3p010888)
虚飾の徒花
紫暮 竜胆(p3p010938)
守護なる者
ピリア(p3p010939)
欠けない月
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ

●探索、誘導
『陰性』回言 世界(p3p007315)が草原へワイヴァーンを誘導することを伝えると、リリィは顔を引きつらせた。怖いのだろう。
「少しの間だけだ。……ほら」
 リリィを抱き上げて、避難させようとするダグラス。リリィは彼に抱きつこうとして、やめた。つんとそっぽを向く。
「や、やめてよお父ちゃん。自分で、歩けるもん……」
 娘に拒否されて若干落ち込みつつ。ダグラスは世界に目礼して去っていった。

「ダグラス殿も苦労されているようだな……」
「けんかは、かなしいの」
 そんな父と娘を見送って、『特異運命座標』紫乃宮 竜胆(p3p010938)は同情するようにため息を吐き、『欠けない月』ピリア(p3p010939)はしょんぼりと肩を落とした。
「ピリアたち、で、なかなおりの、おうえん。できないかな?」
「そうだな。何か、できることがあれば良いのだが」
 こちらを見上げて問いかけるピリアに、ひとつ頷いて。竜胆はしばし目を伏せる。
「そのためにもまず、あちらなんとかしよう」
 遠く上空から、こちらへ向かってくるワイヴァーン。竜胆は紫色の瞳をそちらへ向け、身構える。やがて届いた風が、ピリアの髪を揺らした。

 その少し前のこと。
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はワイヴァーンの居場所を探るべく、動物疎通で周囲の野生動物から話を聞いていた。そして焔の頭上を、『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)と五感共有したドラネコの「リーちゃん」が飛び回っている。
「向こうの川沿い、かな? 一緒にいた子が狙われたことがあるって」
 シカと話をしていた焔は振り返り、ユーフォニーに伝える。ユーフォニーは頷いて、リーちゃんを高く飛ばせる。リーちゃんの目を通して、焔から聞いた川のほうを確認する。
 リーちゃんの感覚に集中するためか、目を瞑ったユーフォニー。彼女からの返答を、待つことしばし。

「……いました。ワイヴァーン、2体。こちらへ向かってきます!」
 リーちゃん目がけ、地面から飛び立つ姿が見えた。ユーフォニーは一同を振り返る。
「白ウサギさんも怖がってるみたいですから、ささっとやっつけちゃいましょう!」
『特異運命座標』セシル・アーネット(p3p010940)は柔らかな毛並みの耳と尻尾をぴんと張って。
「普通種のワイヴァーンでしょう? 面白みにかけるわ。手早く仕留めてしまいましょう!」
『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は強気に笑って。それぞれ素早く身構えた。
 そしてワイヴァーンの姿が肉眼で確認できた次の瞬間。ユーフォニーのリリカルスターが放たれた。虹色の軌跡を森に残し、イレギュラーズたちはワイヴァーンを誘導しながら草原へ駆ける。

(あのワイヴァーンは、番、なのかも……)
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は草原から、広域俯瞰で森の様子を見ていた。ワイヴァーンが仲間たちと遭遇し、こちらへ向かってくるのが視える。そこから少し意識をずらして、ダグラスとリリィが避難した先も確認する。大丈夫、すでに十分遠ざかっているようだ。
 レインはもう一度、ワイヴァーンを視る。牡と雌の違いなのか、2体の体格には少し差があるようだ。そのことが少し、ほんの少しだけ気にかかる。
「……来る。気をつけて」
 しかしレインはそのことを表に出すことなく。あくまで冷静に状況を伝える。

●戦闘
 木々の間を縫って、草原へ駆け出てきたユーフォニー。彼女を追って、1体のワイヴァーンが突っ込んでくる。凶暴な鳴き声に、明確な怒気を滾らせながら。
「そーれっ!」
 ユーフォニーに向かって降下してきたワイヴァーンの首筋を、細く鋭い魔光が直撃する。『甘やかなる毒花』リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)の放った、ダーティピンポイントである。痺れにより失速し、ワイヴァーンは顎を打って地を滑る。
「ルエルちゃん、気をつけて!」
 ワイヴァーンの墜落した先には『虚飾の徒花』ルエル・ベスティオ(p3p010888)がいた。リリーベルは注意を促す。
「前菜はさくっといただきますわ!」
 しかし心配されるまでもなく。ルエルは難なく身をかわしていた。そして音もなく跳躍するとともに、魔性の邪剣を手にしていた。
 レインはディスペアー・ブルーを歌い、絶望の海の、冷たく怖ろしい呪いを届けていた。

 ユーフォニーを追い、そして墜落したワイヴァーン。その後方から、もう1体のワイヴァーンが姿を現した。その1体が、ルエルに向かって急降下する。鋭い爪を大きく開いて、勢いのままに引き裂き、握りつぶすために。
 しかしワイヴァーンは地上へ届くより先に、飛行した世界とすれ違う。いや、すれ違いかけた。すれ違うその直前で、世界が嘲笑しながら何かとても、とってもひどいことを言ったらしい。ワイヴァーンは翼を大きく広げて急停止し、羽ばたいて世界を吹き飛ばす。とてつもなく怒っているようだ。
 そしてワイヴァーンは、吹き飛んだ世界を追う。しかしその背面を、セシルが捉えていた。トナカイのマーシーが引くそりから、セシルがワイヴァーンに肉薄する。音速の刃がワイヴァーンの翼を打ち、その体勢を崩す。その間にピリアがヒールオーダーを召喚していた。

 一方イナリは神幸によって速やかかつ密やかに、ワイヴァーンの背後を取った。式(ソフトウェア)をダウンロードし、向上した身体能力を駆使して続けざまに攻撃をしかける。フェイク・ザ・パンドラによって運命逆転力が操られ、一際鋭い一撃が煌めく。
 そうして地に叩きつけられたワイヴァーンから、味方を背に庇きつつ。竜胆の紫電が一閃した。さらに戦線に復帰した世界がフルルーンブラスターによる極擊を放ち、追い打ちをかける。
「これでとどめです!」
 やがてセシルのソニックエッジを受け、こちらのワイヴァーンは倒れた。

 リリーベルの祝福が、ユーフォニーに届く。その祝福をともに受けた「今井さん」が、もう1体のワイヴァーンに書類を投げつけている。
 リリーベルはワイヴァーンから距離を取りながら、仲間たち一人一人に気を配っていた。こちらのワイヴァーンも、かなり弱ってきている。焔のソニック・インベイジョンが、ワイヴァーンの身に侵略をしかけていた。
「ごちそうさまでした♪」
 そしてルエルの邪剣が、ついにその首を奪った。

 戦闘後。
「皆さんお怪我はありませんか?」
 セシルが皆を気遣う。リリーベルのブレイクフィアーが、その傷を癒やしていった。
 そしてそこから少し離れ、レインはコーパス・C・キャロルを歌っていた。
(次は…子孫、残せるといいね…)
 倒れ伏し、もはや動かないワイヴァーンたちを見つめながら。その魂を送るように。

●ウサギ大移動
 ワイヴァーンを片付け。イレギュラーズたちは件のウサギを誘い出そうとしていた。
 レインはリリィを草原へ連れ出し、彼女の目の前に野菜や果物の山を築いていた。傍らでは世界が、その山の材料をせっせと切っている。ウサギたちが食べやすいようにと、ちょうどいい大きさをあれこれ考えながら。
(これを食べさせて慣れたら、一緒に遊ぶ……のは、大変そうだな……)
 ニンジンを切りつつ、世界は若干悩んでいた。どんないきさつがあってのことか、世界は以前、ウサギと鬼ごっこをしたことがあるという。一体そこで何が起こったのだろうか……

 竜胆は受け取った野菜や果物を、リリィの近くから巣穴へと、道を作るように置いていく。
 レインはそうして巣穴へ向かう竜胆を見送り、精霊たちに呼びかけた。このエサのにおいを、巣穴にいるウサギたちに届けてくれるようにと。

 一方フロシキウサギの巣穴では、ユーフォニーがウサギたちに話しかけていた。突然話しかけられたことに、戸惑うウサギたち。しかしユーフォニーがリンゴを差し出すと、巣穴から身を乗り出し、立ち上がって鼻をひくひくさせ始めた。
「うさぎさん、うさぎさん……♪」
 ピリアもニンジンを差し出しつつ、そして歌う。辺りがきらめき、ピリアの想像した花が、浮かんでは消えていく。自分たちと似たものを感じたのか、ウサギたちがさらに身を乗り出す。
 ルエルが細かくしたニンジンをばらまくと、ついにウサギたちは巣穴から飛び出してきた。さらにルエルは聴力を頼りに隠れているウサギを探し当て、その付近にどんどんニンジンをばらまく。ウサギもどんどん出てくる。獲物の大群……ではなくウサギの大群に、ルエルの耳と尻尾が震える。

「みんなオシャレさんだね!」
 そうして出てきたウサギの背には、色とりどりのフロシキ。焔は辺りを埋め尽くすウサギたちを見渡し、それからそっと屈んでウサギたちにキャベツを差し出した。1匹のウサギがそれを受け取り、フロシキを揺らす。飛び出た青い花が焔の髪に当たり、ふわりと跳ね返った。
「わわっ、すごい!」
 その1匹に呼応するように、他のウサギたちもフロシキを揺らす。一瞬にして出来上がった花畑に、焔は嬉しそうに笑った。
 イナリはそんなウサギたちの様子を、興味深そうに観察していた。大きさ、数、巣穴の形状、フロシキとそこから出てくる花…… 細かく観測し、イナリは記録していく。
 ユーフォニーが再度呼びかけ、やがてウサギたちは、草原へ向けて移動を開始する。ユーフォニーはその道中に危険がないよう、リーちゃんに周囲を警戒させていた。

(目指せ、ウサギ100匹…)
 そして草原ではレインたちが。リリーベルの煎れてくれた紅茶を飲みつつ、リリィと一緒にウサギたちの到着を待っていた。

●花を撒く白ウサギ
 リリーベルは皆が温まれるように、紅茶を振る舞っていた。ミルクティーにしようかと悩んだ結果、本日はレモンティーにしたようだ。無数のフロシキウサギと、ウサギたちが出す花々。その景色の中に、さわやかなレモンの香りが漂う。
 しかし紅茶を煎れながら、リリーベルは心配そうな視線をちらりと向ける。その先には、ルエル。ルエルは抱きかかえたフロシキウサギの毛並みに、鼻先を突っ込んでいた。

「うーん! お腹すきましたわー!」
 ルエルはウサギのにおいをくんくん嗅いで、尻尾をパタパタ。嗅げば嗅ぐほどお腹が空く。しかし嗅がずにはいられない、魅惑の香り……
 ごまかすようにニンジンなど齧ってみるけれど。コレジャナイ感に、ますます空腹が募る。
 ウンウン言っているルエルの腕の中で、捕まったウサギはガタガタ震えていた。

 竜胆はウサギに囲まれ、何故か身を硬くしていた。
 ふわふわの、ウサギ。エサをあげると、ぽんぽんっと花を出す。気を抜くとつい、手がその白い毛並みに向かって伸びてしまい……
(! ふ、ふわふわなど、剣の道には不要っ……)
 はっとして、竜胆は手を引っ込める。エサをあげるのも、あくまでリリィのため。そういう依頼だからであって。自らを戒めるように、竜胆はきつく拳を握った。ふわふわには、決して触るまい。
「――!?」
 しかし、ウサギのほうから触ってきたならどうだろう。白くてふわふわの小さな生き物たちに、膝へ上られ、肩へ座られて。あっという間に四方からぎゅーぎゅーとくっつかれて、花まみれにされて。
 竜胆は為す術なく石になってしまった。

 世界はウサギ同士の競争に巻き込まれ、繰り返し繰り返し踏みつけられていた。
 フロシキウサギの遊び相手になればと、ふわもこ角うさぎを連れてきたのだけれど。角ウサギとフロシキウサギ、両者はじっと見つめ合ったかと思うと、互いに後ろ足で地面を叩き始めたのである。しかしまあいいかと、世界は草の上に寝転がり、昼寝することにした。ウサギたちの足音は、ちょっとうるさかったけれど。
 が、そうして目を閉じていられたのは、ほんのわずかな間だけだった。ウサギたちは仲良くなれなかったのか、むしろ仲良しになったのか。ぐるぐると追いかけっこを開始した。横たわる世界を中心に、その身体を目一杯踏みつけながら。
(なるほど。別種のウサギ同士では……)
 そしてその光景を、イナリが注意深く見つめていた。しかしイナリに、世界を助ける様子は一切ない。全ては観測のため。そして観測結果を、狐たちと共有するため。イナリは熱心に、ウサギたちの情報を書き留めていった。

 *

 フロシキウサギと遊ぶことに夢中で、うっかり忘れかけたけれど。焔はウサギたちと意思の疎通を図り、話しかけた。
 以前、リリィと遊んでいたら、いきなり男性怒鳴られて、追い払われてしまっただろうあのときのこと。
 あれはリリィの父親で、決して怖い相手ではなくて。あのときは誤解があっただけで。と、焔は懸命に説明する。
 その説明を理解できたのか、信用したのか。ウサギたちは焔をじっと見つめ、鼻をヒクヒクさせた。
「仲直りしてもらえたら嬉しいんだけど……」
 項垂れる焔の、膝に上って。1匹のウサギが大きくあくびをした。リラックスしたように、目を閉じてフスフス言いながら。

 ユーフォニーはウサギたちの出した花を集め、リリィと一緒に冠を作っていた。リリィはユーフォニーの手元を何度も見ながら、慣れない様子で花を編んでいる。
「はいっ、どうぞ♪」
 そうして出来上がった冠を、リリィの頭に乗せて。ユーフォニーは優しく微笑んだ。リリィはもらった冠に手を触れて、感動したように目を丸くした。
「……ねえリリィさん、お父さんにも冠、作ってあげませんか?」
 きっと喜ぶと思うんです。そう言ってユーフォニーはにこりと笑った。リリィはうつむいて、唇を尖らせる。
「でも……」
「本当は、仲直りしたいのよね?」
 迷う様子のリリィの肩を、リリーベルがそっと叩いた。リリィとリリーベル。自分と似た名前の少女を、リリーベルは優しく促す。白くやわらかな翼が、陽光に輝いていた。
 そして3人は、ダグラスのための冠を作り始めた。

「安全運転で行きますよ~」
 そして皆の上空を、マーシーの引くソリが飛んでいた。手綱を握るのはもちろんセシル。そして乗組員はたくさんのフロシキウサギと、ピリアであった。
 セシルは貴族令息らしい優雅な所作で、ピリアをエスコートしていた。ソリは光の尾を引いて、草原の上を滑っていく。
「~♪」
 そしてピリアはウサギを優しく抱きかかえながら、歌をうたう。オパールのような、虹のような、シャボン玉のような、七色の光が舞う。それが楽しいのか、ウサギたちもしきりにフロシキを揺らして。
 地上から空を見上げれば、まるでオーロラのかかる空から、色とりどりの花々が降ってくるようであった。

「野菜…あげてみて…」
 そんな幻想的な空の下。レインは膝の上のウサギを指して、ダグラスに呼びかけた。やわらかな白い耳を、ふわりふわりと
なでながら。
「で、でもおらは」
 呼びかけられたダグラスは、ウサギに近づくことをためらっている。
「…リリィの、ため…」
 しかしレインにそう言われ、ダグラスも意を決したようだ。ダグラスとウサギが仲良くできれば、リリィも彼を許してくれるかもしれない。レインはそう考えていた。
 ダグラスの接近に緊張するウサギを、レインは優しくなでる。
(…リリィを守ってね…)
 花を撒くウサギに、レインは祈る。
 そしてついにダグラスが餌付けに成功した頃、花冠を持ったリリィがやってきた。少女の傍らではリリーベルが、優しく優しく微笑んでいた。

(このお花は、時間が経てば消えてしまうけれど……)
 過ごした時間や思い出は、きっといつまでも。娘から頭に冠を乗せてもらい、照れくさそうに、しかし嬉しそうに笑う父親。2人の幸せそうな姿を見守りながら、ユーフォニーはフロシキウサギをそっとなで続けていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか。
また次回、よろしくお願いします。お疲れ様でした。

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