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シナリオ詳細

死に花ひらけや億万宮

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●解華 碌重郎(かいか ろくじゅうろう)
「胡桃割り機を思い出す」
 ねじを巻いて巻いて、力をこめていくと、あるときパッキリと胡桃の殻が割れる。
 ラド・バウの元スター解華 碌重郎が闘技場を去った日のことを語るとき、彼はそんな風にいうのだ。
 丸太のように屈強な腕。見上げるほどの巨躯。日焼けした肌に鋭い目つき。
 あまりに強靱な身体は銃弾をはねのけ、剣を通さず、槌を跳ね返したという。
 圧倒的パワーで闘技場を沸かし、あふれるほど富と名声を手に入れても尚戦うことだけを考えた、どこまでも『戦うことだけ』の男であった。
 彼の引退は、ある日突然だった。
 試合後、勝ち星を納めた彼の膝が崩壊したのだ。
 年齢もあったのだろう。過酷なファイターとしての毎日が、少しずつだが確実に肉体を蝕んでいたのかもしれない。
 当時新聞や雑誌があれこれと理由を思いついては騒ぎ立て自称専門家が何人も連なったが、確実なことは……大事なことは一つだけだった。

「もう、戦うことはできない」
 車椅子に腰掛け、背を丸める男。
 頭は殆どを白髪にして、身体はやせ細り呼吸をするだけでむせた。
 いつも胃か心臓を痛そうにしていて、眉尾は下がるばかり。
 彼がスターであった時代はずっとずっと昔で、今や名を知らぬ若者もいるという。
 その変貌ぶりも相まって、町に出ても振り返る者すらいない。
 かつて住んでいた豪邸は売り払い、トロフィーやメダルや、武器や防具や、あれやこれやも売り払い、狭いアパートに縮こまるように暮らした。
 だがそんなことは。
 そんなことは、どうでもよいことだった。
 富も名声も、最初から興味などなかったのだ。
「戦うことだけ。戦うことだけだった」
 抜け殻のように暮らす数十年。
 その果て。
 今。
 ある出会いを果たしたのだった。
 黒く輝く、その鎧の名は――。

●禁忌の鎧
「『桜花億万宮』……と呼ばれていた」
 イレギュラーズを集めた酒場の一角。依頼主の鉄騎種は鉄製のキセルをくわえて言った。
「由来は知らん。歴史に興味はねえんでな」
 彼は修理業を営む男であり、かつては闘技場でファイターのスポンサーにもなるほど金や権力をもった男であった。
 主な仕事は古代文明からの発掘品を修理したり兵器転用された技術をいじったりというものだ。
「俺の工房はデカい所でな。日夜いろんなモンが出入りするが……アレは滅多にみないシロモノだった」
 炭のような煙を吐いて、低く唸る。
「装着したヤツの生命と魂を燃料にする兵器だ。見つかったのは一着だけでな。
 あー、知ってるだろう? 鉄帝にゃあ古代文明の遺物があちこちに埋まってたり転がってたりするもんで、そのとんでもねえ技術がいまの軍事力になってるってのをよ。
 まあ『桜花億万宮』に関しちゃサルベージャーたちも持て余してたみてえで、俺に解体を依頼してきたのさ。
 よっぽどやべえ時にしか使わねえし、部品だけなんかに転用したほうがマシだって考えたんだろうな。俺もまあ似たような考えさ。
 けれどそいつがこの前、工房から盗まれた。
 誰がやったかは、分かってる」
 息を深く吸い、深く吐き。
 涙のように男は言った。
「解華 碌重郎……かつて俺がスポンサードしたファイターさ」

 『桜花億万宮』は鎧であって鎧ではない。
 装着した人間を浸食し、生命と魂を燃料にして戦い続ける怪物に変えてしまう。
 とめる方法はただ一つ。生命そのものを終わらせることである。
「軍にもコネはあるしよ、取り囲んで捕まえて、無理矢理ひっぺがすことも考えたさ。
 けどな……」
 キセルを手に持って、そこに刻まれた『生涯戦場』の文字に目を細めた。
「奴が何を考えてアレを着たのか、俺にはわかるんだ。
 戦いてえ。それだけだった。それだけだったから、それで終わりにしたかったのさ。
 だから……アンタを雇うんだ」
 男はキセルをつきつけ、重く熱く、炎のように言った。
「奴の生涯に、決着をつけてやってくれ」

GMコメント

【補足事項】
 『桜花億万宮』を装着した解華 碌重郎は工房から逃走。
 捕まえようとした警備隊や警官隊を薙ぎ払って町中を移動している模様。
 これに接触し、徹底的な武力をもって破壊せよ。

 『桜花億万宮』と解華 碌重郎は完全に一体化しており、この状態ではおよそ分離は不可能である。
 また同理由によって鎧か装着者どちらか一方のみへの攻撃ないし破壊はできないものと考えられる。
 目撃者および警備隊の話によれば、解華 碌重郎は遠き日の姿を取り戻したかのように大きく、硬く、そして圧倒的なパワーをふるっていたという。
 チームメンバーで協力・連携し、怪物と化した解華 碌重郎を倒し……そして彼の生涯に『戦死』という誇りを手向けるのだ。

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 ここまでではメタ情報不足でプレイングが詰まる恐れがあるため、細かく補足を加えます。
 これらの情報は鉄帝の歴史やファイター知識、噂その他諸々で知っていたものとして扱ってOKです。
 情報にあった『遠き日の解華 碌重郎』というのはとてつもないパワーファイターでした。
 過剰なほどの防御技術、あふれるほどのHP、EXA・CT・命中・回避も水準より高く……と地力がとんでもなく高い人間でした。
 一方で芸風は、相手の攻撃を完全に受け止めてパワーで殴り返すというシンプルさで、当時の鉄帝マンにはファンも多かったという話です。50年以上前の話なので知らないひとも多いでしょう。
 長物は持たず、基本的に両手をあけた格闘技で戦うスタイル。

 タイマンが多いファイターだったためか一対多の戦闘は得意でなく、今回もその作戦が有効といえば有効ですが……
 今回に限って言えば、効率よりも『熱さ』に比重を置いた方がよりよい結果を出せるでしょう。

  • 死に花ひらけや億万宮完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月23日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フロウ・リバー(p3p000709)
夢に一途な
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
ベネデッタ(p3p004956)
レディ・ブレイド
エリシア(p3p006057)
鳳凰

リプレイ

●死した伝説、生きさばらえた伝説
 町の中。アンティークショップの片隅から見つけたであろう色あせたブロマイドを、『レディ・ブレイド』ベネデッタ(p3p004956)は取り出した。
「ラド・バウの元スター、解華碌重郎様。昔日に轟いたというその勇名はわたくしも存じております。最近は闘技場に足蹴く通っていましたから、耳にする機会はありました。……齢を重ね、戦うことが出来ない体となってもなお彼の身は闘争を求めるのですね」
 ブロマイドに映る彼は鋼のように硬く。
「種族も国も生き方も求めるモノも違いますが……」
 ベネデッタから昔話を伝え聞いた『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)は、自らの胸に手を当てた。
「今回は無茶を押し通して道理を退けるゆえがありそうですね」
「果てに散華の場をお望みとあれば……」
「ええ、応えましょう。きっとあの人は誰よりも一途なのですから」
「そっか、そうだなよな」
 『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)はぎゅっとグローブを握りしめた。
 戦うことだけだった人間。戦うためだけの兵器。
 装着者を侵食し生命と魂を焼き尽くす鎧『桜花億万宮』との出会いも……もしかしたら、必然だったのかもしれない。

 軍隊にコネがあるというあの工房主が手を回したのだろうか。
 怪物と化した人間が暴れ始めているというのに軍隊は動いていない。
 民間人も遠巻きに見ているだけだ。
 人混みをかきわけ、『魔剣使い』琴葉・結(p3p001166)が歩み出た。
「自分を誤魔化して生きるより、自分を貫いて倒れる方がマシ……か」
『なんだ、ほだされたか?』
「違うわ。けど、最近はそんな考えも悪くないって思うわね」
「あァ……闘いを欲する気持ちの形はオレとジジイじゃ違ェだろうけど、分からねェわけじゃねェ」
 『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)もまた、人混みをかき分ける。
「だったら繋いでやるよ、ジジイの闘欲を。己を破滅させるほどの、その身に宿した熱を、炎を!」
「そうね、盛大に送り出してあげる!」
 結は魔剣を、Brigaはパワーアームをそれぞれ構える。
 瓦屋根の上に腕組みをして立つ『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)。
「あらゆる残酷な負け方で死ぬのは構わぬ! 戦士にとってそれは道理であろう。しかし、戦わず、無意味に老いて死ぬのだけは我慢ならぬ! 解るぞ……解華殿!」
 戦いが広がる気配を察して、民間人たちが徐々に空白の円を広げていく。
 そんな彼らが、戦いに関わらぬように引く様は、まるで侵してはいけない神聖な空間が広がるかのようだった。闘争を侵すは無粋の所行。
 『鳳凰』エリシア(p3p006057)と『空き缶』ヨハン=レーム(p3p001117)、そして仲間たちが空白の円へと入っていくのを黙って見ていた。
「闘争をもう一度、か。神であった我にはわからぬ感覚だが……望みとあらば、叶えてやるのが神、だろう」
「解華 碌重郎さん。あなたの望むもの、理解しているつもりです」
 ヨハンは盾を前に、剣を眼前垂直に構えると、祈るように礼をした。
 その様子に、解華 碌重郎はゆっくりと振り返る。
「不殺の誓いを解くのは今!! ヨハン=レーム――参ります!!」
 ゴングが、どこかで鳴った。


「なーなーおっちゃん。こんなつまんねー道端で花咲かすのは、勿体ねぇと思わねー? どーせ戦うなら、昔みてーに皆が見てくれるサイッコーの舞台がいいだろ! オレ達が案内するかんなー!」
 町中。左右に蕎麦屋やらピザ屋やらが並ぶ商店街。
 洸汰はくいくいと碌重郎を手招きした。
 挑発を真に受けてか、碌重郎は凄まじい速度で接近。
「うおっと!?」
 振り返ってバットを翳す洸汰。そのガードの上から強烈なサッカーキックを叩き込んだ。
 勢いよく吹き飛び、ブロック塀や民家を破壊しながら転がる洸汰。
 壊された民家の床ノ間で茶をすすっていた老人と目が合った。
 飛び込み、回復を施しながら挑発を継続するエリシア。
「このような雑踏で決着をつけるより、相応しい舞台がお前にはあるのだろう? 今しばらく、闘争は――」
 手を翳したエリシアを無視するように、碌重郎の拳がエリシアへと激突した。
 吹き飛び、また別の建物を破壊しながら転がる。
「鎧の浸食が進んでいるのか。なるほど軍隊でも呼んでひっぺがすのが妥当な相手だ。だが……」
 エリシアは立ち上がり、次なるバトンを繋ぐために仲間に合図を送った。
 フロウや結たちが挑発を引き継ぎ、走って行く。
 それを先導するのは、まさかの民間人たちだった。
「こっちだ。近道をするぞ!」
「走れ走れ!」
 彼らはエリシアが一喝しても去ることはなく、まるでそれが自分たちの使命であるかのように協力した。
 なぜなら彼らは……。

 回想することしばし前。
 フロウや結は軍人たちに色々な頼み事をしていた。
 例えば人払いであるとか、戦闘に手出しをさせないことであるとかだ。
 だが軍人たちは一向に首を縦に振らなかった。というのも、ローレット自体に特権はなく、仮にあったとしてもその町の男たちは強い意志を持って戦いを見守るはずだという考えからである。
 結も町の被害軽減を理由に闘技場の使用許可をとろうとしたが、それもまた拒絶されてしまった。
 なによあいつら融通聞かないわねと詰所を出ると、町の老人たちが『話は聞かせて貰ったぜ』と理由を教えてくれた。曰く……。
「俺らの生活に喧嘩と花火はつきものだ。それで店が壊れりゃいっそ縁起がいい」
「闘技場はどこも頑丈だからそりゃ被害は出ねえだろうが、俺たちにとっちゃあそこは神聖な場所だ。暴れ牛をシメるのに聖地を使うにゃもったいねえぜ」
 道理が通っていても、鉄帝の気風がそれを通さなかったのだ。
 だが、気風ゆえに通る裏の道理もある。
「私からもお願いします。解華碌重郎様の晴れ舞台なのです」
「おや、あんたは……碌重郎ってのはどういうことだい」
 会話に混ざり込むベネデッタ。闘技場に通っていたせいか、常連の老人たちと顔見知りになっていたようだ。彼らは闘技場オールドファンたちである。ベネデッタに碌重郎の伝説を聞かせた老人たちでもあった。
「詳しく聞かせな。力になれるかもしれねえ」
「なら……」
 そこへBrigaも加わった。『ここからラド・バウへ誘導することはできないか』という話をしたが……。
「この場所からラド・バウはあんまりにも遠すぎる。よしんばマ隣だったとしてもあそこはある意味国の中心。王が許しでもしなきゃあ、立ち入るだけでも無理がある。けど、別の……この近くにある闘技場なら話は別だ」
 そう言って、老人のひとりがくろがねの鍵を取り出した。
「闘技リトルリーグの聖地、通称『甲子』。奴にとっても思い出の場所さ」
 その鍵を見て、Brigaは深く頭を下げた。
「最後の場所は闘技場がジジイに相応しいンだ。頼む」

「こっちだ、戦いには相応しい場所があるのである!」
 百合子が連続美少女力弾を打ちながら急速後退。
 その全てをガード姿勢で弾きながら突進した碌重郎が、百合子もろともフェンスを突き破っていく。
 大急ぎで離脱した百合子にかわって、ヨハンが挑発行動をとりながら大きなゲートをくぐっていった。
 ふと見上げれば、それは民営闘技場シェル・ビッツ。通称『甲子』。
 碌重郎はヨハンを追ってゲートを潜り、広い闘技場へと踏み入った。

 八人で聖火ランナーのごとく繋いで解華 碌重郎を誘導した先は、彼も踏みしめたことのある土の上。
 闘技場のフィールドであった。
 ぐるりと見回せば、観客席には無数の人々。
 昔を懐かしむ者。伝説を聞いた者。ただただ戦いの空気をかぎつけた者。
 その全てが、観客席を埋めていた。
 逃げるのをやめ、くるりと振り返るヨハン。
 閉じられる闘技場の門。
 互いに退路を失ったことで、二人はいまいちど身構えた。
「あなたの戦い方は僕の理想です。勉強、させてもらいます」

●決死の取引
 『闘技場という神聖な場を用いる以上。ルールは守って貰う』
 そういって守衛を務めていた老人が(割と勝手に)闘技場を貸した際にいくつかの条件を出してきた。
 そのひとつが、『一対一のバトルをするなら降参以外の理由で引き下がってはならない』というものだった。
「…………」
 解華 碌重郎と対峙し、ごくりを息を呑むヨハン。
 条件を出されるまでもなく、碌重郎は後退など許さないだろう。仲間にバトンタッチしたり回復してもったりという余裕など与えず、キッチリととどめを刺してくるはずだ。
 そういう気迫が、相手から伝わってくる。
「もう一度名乗りましょう……ヨハン=レーム、参ります!」
 先手、ヨハン。
 自らの外皮に雷のエネルギーを纏い、流星の如く突撃をしかけた。
 場合によっては相手を一撃で昏倒させかねない衝撃がはしる。
 それを、碌重郎は胸で受け止めた。
 直撃……のように見えた。
 しかしヨハンの剣は鎧の表面で止まる。直後、拳がヨハンを横殴りにした。
 世界が回転する。
 しっぽを振ってバランスをとり、剣で地面をけずるようにブレーキ。
 迫る碌重郎。再び突撃するヨハン。
 両者のタックルが、真正面からぶつかり合った。
 衝撃で剣が吹き飛んでいく。一緒に盾が手から離れたが、ヨハンは構わず追撃をしかけた。雷を纏った拳が碌重郎の顔面を打ち、碌重郎の拳がヨハンの顔面を打つ。
 ぱきんとひび割れ、砕けて落ちる碌重郎のマスク。
 対するヨハンは派手に吹き飛び、闘技場の壁にめり込んだまま放電を停止した。
「次は私よ」
 観客席から跳躍し、フェンスをよじのぼるようにして飛び降りてきた結。
『ははははは、良いぜ! 良いぜ! こういう相手は嫌いじゃない! 久々に面白い奴が相手だ』
「琴葉 結、行くわよ!」
 豪速で距離を詰め、相手の鎧を切りつける結。
 水平に手刀を払われるも、跳躍によってそれを回避。
 上反転しながら相手の頭上を飛び越えると、背後をとって再び切りつけ始めた。
 右へ左へ時には頭上へと飛び回り、碌重郎に攻撃を重ねていく結。
 剣に込めたエネルギーが爆発し、碌重郎の防御を貫いて吹き飛ばす。
 一方的な攻撃か……に思われたが、結の剣が再びの打撃を加えようとしたその時、碌重郎の手のひらが彼女の剣を受け止めた。
 握り、そしてへし折る。
「ズィーガー!?」
 目を見開いた結の腹に、碌重郎の拳が叩き込まれる。
 地面と水平に飛んだ結は、闘技場の壁に激突して転がった。
『イッヒヒヒ! 面白え……』
 脱力したかに見えた結が、ゆっくりと起き上がる。
『選手交代、俺様だ!』
 魔剣の光を目に宿し、結は強引な直線移動で碌重郎へと飛び込んでいく。
 目指すは腹。
 鎧の装甲に阻まれるが、魔剣は自らのエネルギーをチェーンソーのように回転させて無理矢理に切断、碌重郎の腹へ深々と突き刺さった。
『いい夢は見れたか?』
「……」
 碌重郎は結の頭を掴み、再びのパンチを叩き込む。
 魔剣もろとも吹き飛び、地面を転がる結。
 彼女たちを仲間に回収させ、エリシアが間に割り込むように飛び込んだ。
「次の挑戦者がここにいるぞ。いくつか零しはしたが、最重の要点だけは貫かせて貰う」
 エリシアは杖を放り投げ、両腕の拳に炎を纏った。
 拳を構え、エリシア突撃。
 碌重郎、同じく突撃。
 両者は双方の拳を、真正面から叩き付け合った。
 びりびりと走る衝撃。炎が一度碌重郎を覆う。
 衝撃を己の身体で感じて、エリシアは苦笑した。
 こんな衝撃。『危なくなったら引く』なんて余裕はない。
 引くにもコストはかかるもの。それだけの防御や、体力の余裕や、素早さや、仲間のフォローや、運や、技や、その他様々な要素がからみあう。
 こと碌重郎相手となれば、引くのはむしろ非効率。その動作をとる間にやられかねない。
「ならば――!」
 エリシアは自らの前身に炎を纏った。
 両腕を漲らせ、連打の限りを尽くす。
 碌重郎の身体を徐々に炎が包んでいく。
 彼の気合いひとつで消せそうなものを、碌重郎はあえて消さずに受け止めているようにも思えた。
 ならば全て叩き込むのみ。
 エリシアは目がくらむほどの熱量で、碌重郎を殴りつけた。

 ベネデッタ、洸汰、フロウの三人が選手入場口の裏に立っていた。
 ゆっくりと開く扉を抜けて、最初にフィールドに出たのはベネデッタであった。
 対する碌重郎は血を流し、かぶとは壊れ、鎧は焦げ付き煙をあげている。
 これまでの三人が身を挺して与えたダメージが着実に蓄積しているのだ。
「あなたの生の行く末を、その命の瞬きを、どうかお見せくださいまし」
 一陣の風が吹く。
 ドレスの裾をなびかせ、ベネデッタは刀の柄に手を添えた。
 取り巻く視線。知らない風。
 けれどベネデッタにとってこの土地とこの空気は、ひどく懐かしいものにすら思えた。
 血と、煙と、鉄。
 いわば彼女の肉と骨。
 歩く足取りが、淑女のような音をたてた。
「我が一閃、誇りある死出への寿ぎとなれば――」
 ベネデッタの戦い方は本来時間をかけるものではない。
 この世界に下りたってより事情がいくらか変わりはしたが、本質までは変わらない。
 いつのまにか至近距離に立ち。
 あまりに当たり前のように手にかけていた刀が、蒸気の爆発によって鋭く早く空を走った。
 文字通り必殺の技。
 それを、碌重郎は『避けなかった』。
「……嗚呼、なんという」
 首の皮で、刀が止まっていた。
 否、深くくいこみ血を吹き出してすらいる筈なのに、碌重郎は目を見開いて立っていた。
 振り込まれた拳が、顔面へと迫る。
 フェンスを突き破って観客席にめり込んだベネデッタと入れ替わるように、洸汰が戦場へと飛び込んだ。
「オレはシミズコータ! タフに元気に、どこまでだって食い下がってやるかんなー!」
 どっしりと構えた洸汰が、まっすぐに殴りかかる。
 洸汰のバットが碌重郎の頭を、碌重郎の拳が洸汰の頭をそれぞれ殴る。
 互いに軽くのけぞりはしたが、その場から動くこと無く再び相手を殴り合った。
「アンタの戦闘スタイル! こーゆーのだったって聞いたぜ! でも、マネしようとしたら、結構ビリビリくんなー!」
 だが止まりはしない。
 洸汰は幾度となくバットを叩き付け、バットが吹き飛んでも気合いで拳をぶつけまくった。
 しかしはじめに折れたのは、洸汰のほうだった。
 碌重郎の鎧にあちこちヒビをいれ、ゆっくりと膝を突く。
「わりぃ、ちょっとギブアップみたいだ……」
「ご心配なく」
 フロウが彼を仲間に預け、碌重郎の前に立ち塞がった。
「フロウ・リバーと申します。倒せぬ技で申し訳ありませんが、夢の続きを始めましょう」
 戦闘方法はきわめてシンプル。
 バックラーで防御の姿勢をとりながら、拳に纏わせた聖なる光で殴りつけるというものだ。
 いや、そういう意味ではフロウらしからぬ戦闘スタイルと言うべきかも知れない。
 なぜなら、冷徹な魔法使いとしての振るまいを捨て去り、碌重郎のパンチを真正面から受けては殴りつけ、殴りつけては受けていくのだから。
(召喚された頃は自分の夢ばかり考え、全部を糧にするつもりでした。そう、私は……)
「その熱意、覇気、永劫に刻んで覚えておきます。忘れることはしません」

 フロウたちが引いたところで、Brigaが満を持して入場。拳を漲らせる。
 構えなどあってないようなもので、Brigaは速効で碌重郎に殴りかかった。
「全部くれなンて言えねェ。一部でもイイ。ジジイ、『オマエ』が欲しいンだ。寄越せッ! オマエの熱! 強さ!! どこまでも貪欲で尽きる事のない闘う意欲!!! ソレを喰らって、オレはさらに強くなってやる!!!!」
 戦法もまた、Brigaらしい捨て身の突撃。飛び込み、殴りつけ、痛みに耐えて更に殴る。
「来いよジジイッ!! テメェの花道飾ってやらァ!!!!」
 幾度も繰り出されたBrigaが碌重郎の鎧や身体を破壊し、ついには彼の鎧を砕いて吹き飛ばしてしまった。
 一方でBrigaは力を使い果たし、最後の一人と交代した。
「白百合清楚殺戮拳……否」
 鎧が崩れ落ちたその姿は、色あせたブロマイドで見たあの……若き姿であった。
 見上げる巨体。黒い肌。鋭い目。
 あちこちに鎧と同じ模様を走らせたそれは……往年のスター、解華 碌重郎。
 なればこそ。
 こう名乗ろうと、美少女は決めた。
「『生徒会長』咲花百合子、参る!」
 百合子と碌重郎の額が、真正面からぶつかり合った。
 血を流すが知ったことでは無い。
 両者の拳がぶつかり合う。
 幾度も正面から衝突する。
「クハッ! 楽しい !愉しいなぁ! 解華殿よ! ステゴロはこうでなくては!」
 拳が交差し、互いの頬にめり込んだ。
 だが、その拳には既に力がないことを、百合子は肌で察した。
(ああ、羨ましや。貴殿は己の遥か高みを飛ぶ鳥を見て逝くか……)
 拳を振り抜いた姿勢のまま動かぬ碌重郎。
 百合子はゆっくりと後退し、手を合わせて頭を下げた。
 解華 碌重郎。
 享年66歳。
 戦いの中にて、死去。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 大変お疲れ様でした。
 『解華碌重郎最後の伝説』は皆様八名の名前と共に語られることでしょう。
 このシナリオに参加した皆様にはこっそりと、『解華を継ぐ者』の称号を名乗る権利をさしあげます。
 これは自称することに意味があるので、あえてシステム的付与は行ないません。
 この戦いで学び取ったことや、得た真実や、成長した要素を独自に組み込んでください。

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