PandoraPartyProject

シナリオ詳細

信号はずっと【き】色のままで

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●信号はずっと【き】色のままで
――思い出した。いや、特異運命座標たちが思い出させてくれた。
『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)は、境界図書館に遅くまで残り、うず高く積んだ資料を整理しつづける。
 仕事でも何でもいい。とにかく手を動かして気を逸らさないと気が狂ってしまうと思った。

 黄沙羅は昔、とあるライブノベルで主役にはなれないながらも、とある女王の従者としてそれなりの人生を過ごしてきていた。
 しかしグリムという男の手により、世界は消滅。黄沙羅も消えゆく運命の中にあった。

『やぁ。なんだかとても、悲しそうな顔をしているね』

……そんな時だ。『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)が、"歩行者信号の黄色を司る境界案内人"という新しい役目を与えて、救い出してくれたのは。

(どうして忘れてしまっていたんだろう。僕はずっと、蒼矢の命をつけ狙って酷い事ばかりをしてしまっていた)

 助けてもらった恩を忘れて"歩行者信号の黄色なんて存在しないポジションは嫌だ"と、蒼矢の命を狙い続けてきた。

『君が新しい世界で新しい一歩を踏み出すつもりなら、連れていってあげるよ。特別な奇跡を持つ人達との素敵な旅へ!』

(分からない。もうどの記憶が正しくて、どれが間違っているのか。自分の旅路すら理解できない僕は、境界案内人として失格だ――)


●運命のインターセクション
「よく集まってくれたね、特異運命座標! 今日行ってもらうライブノベルの説明をはじめるよ。それじゃあ黄沙羅、説明よろしくね」
「……何で」

 どうしてそんなに笑顔でいられるんだと、話を振ってくる蒼矢を黄沙羅は睨みつけた。
 こういう時に限って、仕事に誘って来るなんて。そっとして欲しいのに、嫌がらせにもほどがある。

「去年、利き手を怪我しちゃって、完治したばっかりなんだ。境界案内人としての仕事も久しぶりだからさ、補佐役が必要なんだよ」
「境界案内人なら他にも沢山いるじゃないか。なんで僕なのか理解不能だよ」

(とはいえ、特異運命座標と一緒にいる時間は心地いい。もしかしたら今の状況の打開策を教えてくれるかもしれないし……)

「今回、皆に向かってもらう予定のライブノベルだが、見ての通り表題が掠れて消えてしまっているんだ。
 軽く中身を読んでみたところ、どうやら物語の主人公である少年が、行方不明になった飼い猫を雪の中から探すというストーリーらしい。
 猫の毛並は白猫。雪原には魔物も出るようで、恐らく主人公がピンチだからライブノベルの世界が不安定になっているんだろう」
「さっすが黄沙羅、要点おさえてるぅ! つまり僕達がやるべき事は少年の保護と猫探しってわけ。それじゃ早速、行ってみよー!」

 境界案内人が呪文を唱えれば、あっという間に周囲は雪が降り続ける銀世界。そこまでは前情報の通りだが、誤算だった事がふたつほど。

「あれっ、特異運命座標……僕もしかして、縮んでる?」

 ひとつは、蒼矢の姿が"少年"のように縮んでしまった事。そしてもうひとつは――

「黄沙羅はどこ? 一緒に来たのに、見つからないよぉ!」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 雪原でれっつ猫探しです。

●目標
 少年(蒼矢)を守りながら、飼い猫を見つける

●異世界『???』について
 タイトルが掠れて見えなくなってしまっているライブノベル。特異運命座標が到着した時点では、ちらちらと雪が降っており視界不良が起きています。
 雪原なので高低差はあまりないはずなのですが、雪の中から突然、魔物が現れる事もあるようで、注意が必要です。

●登場人物
 少年(蒼矢)
  この本の主人公……なのですが、なぜか境界案内人の神郷 蒼矢がその役割を担う事になってしまいました。
  身体はちっこいですが、皆さんとこの場所に来るまでの記憶はしっかりあります。
  子供になった事により神秘の力が弱体化しており、戦闘では役に立ちそうにありません。
 
  いつの間にか手に、黄色い猫の首輪を握りしめていました。
「猫も黄沙羅も、どこに行っちゃったんだろう?」

 飼い猫
  白い毛並に★の模様が付いている、少年の飼い猫です。この広い雪原の中で行方不明になってしまいました。

『境界案内人』神郷 黄沙羅
 ライブノベルの世界に来た瞬間、行方不明となりました。
 猫を探していけば、どこかで見つかるかもしれません。

●エネミー情報
『女王の使者』ジマ
 右目に刀傷があり、人語を理解するサーベルタイガー。この辺りの主と言われており、彼が雪を振り続けさせている犯人です。
 特異運命座標に敵意を持ち、牙や爪で近距離を薙ぎ払う【流血】攻撃や、氷の棘を中・遠距離に放ち【氷結】攻撃で襲い掛かります。
 防技が低い代わりに攻撃力と反応に優れています。
「立ち去れ。貴様らに進ませてやる道など、此処にはない!」

エビルコヨーテ×10
 ジマの手下達。斥候の役目を持ち、特異運命座標に群れて襲い掛かってきます。
 攻撃手段は、噛みつきや引っかき。【出血】する場合もあるようです。
 一匹一匹はそこまで強くありませんが、囲まれるとやや厄介な相手です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●その他
 このお話はライブノベル『泡となれば【し】あわせだった』( https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8706 )の続編ですが、読まなくても問題なく参加できます。

 説明は以上です。それでは、よい旅を!

  • 信号はずっと【き】色のままで完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年02月08日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
杜里 ちぐさ(p3p010035)
明日を希う猫又情報屋

リプレイ


「雪国のなんか、あれだよな。足の」
「『かんじき』って言うんですよ。足場の悪い雪道はこれが欠かせません」

 人数分用意してきましたと『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)に手渡され、へぇと『陰性』回言 世界(p3p007315)は足裏に括り付けてみる。確かに動きやすいと感心するその横では、『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)が丁度、耳をピーンと立てたところだった。
 蒼矢が少年になったという事実。それはつまりーー

「僕の方がお兄ちゃんになったのにゃ!!」

 ここぞとばかりにドヤ顔をキメるちぐさを、折角だからなと計測してやる『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)。

「確かに、ちぐさ殿の方が3cmぐらい高い様だな」
「負けた…! なんて頼もしいんだ、ちぐさ兄ちゃん!」
「いや、何で身長差で兄弟の上下が決まってるんだよ」

 負けを認めて膝をつく蒼矢を横目に、世界は溜息をひとつ。どうやら今日もツッコミは自分だけらしい。簡易式召喚陣で炎の妖精を呼び出し、辺りの捜索と仲間の暖の指示を出してから、彼は「さて」と蒼矢(弟)へ向き直った。

「じゃあこれも切り出す奴がいなそうだから聞いておくぞ。蒼矢、お前何を隠してる?」

 数多のライブノベルを完結に導いた世界でさえ、今回のように境界案内人"だけ"が大きく異世界の影響を受ける事態は初めてだった。だからこそ、そこに理由があると思ったのだ。
 疑念はそれだけに留まらない。アーマデルは言葉を選びながら、ゆっくりと問う。

「出発前に、蒼矢殿は『利き手に怪我をして療養していた』と言っていたな。…同じ時期なんだ。俺が魔術師グリムらしき者に怪我を負わせたのは」

――魔術師グリム。
 その名を耳にした途端、ちぐさは尻尾の毛を膨らませる。ショウの情報網を広げるために集めた資料。その中で魔術師グリムは、ライブノベルの世界を歪ませる危険な存在だと書かれていた。同時に、黄沙羅の故郷を消滅させた犯人であるとも。
「…分かった。ちゃんと話すよ」
 代わりにほんの少し勇気が欲しいと、蒼矢は睦月の手を取った。精神まで子供になった訳ではないが、今の彼は変化によって弱体化している。
「僕は蒼矢さんを信じてます」
 猫探しも、グリムとの関係も、悪い様には終わらせない。物語はいつもハッピーエンドで締めくくるべきだ――そう確信する彼女の微笑みに励まされ、蒼矢はぽつぽつと語り出した。


 魔術師グリムは物語の死神だ。彼は現れた呪いによって異世界の『物語』を歪ませ、消滅させる。
 蒼矢は案内人として異世界を巡回している折に、消滅寸前の異世界に遭遇した。そこで唯一救い出せたのが黄沙羅という訳だ。

「僕は黄沙羅にかかっていた『消滅の呪い』に、『実存の呪い』をかけて打ち消そうとした」
「初めて聞く呪いだにゃ」
「術者の力を切り分けて、分け与える呪いさ」

 全力を出した甲斐あって、消滅しかけていた黄沙羅は境界案内人の力を得て生き延びた。だがグリムもやられてばかりではない。呪いを打ち消した代償として、蒼矢はグリムからの影響を受けやすくなってしまったのだ。
「つまり手の怪我も、グリム殿の影響だったという訳か」
 アーマデルが気づくのと、仲間が身構えるのはほぼ同時だった。
「皆さん気をつけてください、吹雪の中に何かいます!」
 温度感知に反応があり、睦月が叫ぶ。ちぐさの鼻に届いたのは、血生臭さと獣臭さ。
「この匂いは猫じゃないにゃ!もっと危険な感じにゃ!」
「だろうな! こいつらどうせ、グリムって奴の差し金なんだろ」
 世界が超嗅覚の反応に合わせ、ネイリング・ディザスターをぶち込んでいく。

 蒼矢が少年にすげ変わったという事は、恐らく黄沙羅も行方不明の猫へと変じているだろう。
 呪いを打ち消した者と、呪いから逃れた者。二人を弱体化させて始末する――それなら境界案内人だけが変化した事態にも辻褄があう。

 アォーーン!
 吹雪の奥から突撃してきたコヨーテが、尋常ならざる殺意と共にアーマデルへ襲い掛かる。
『災いあれ、グリム様に仇なす者どもよ!』
 動物疎通を通して伝わるのは呪詛めいた悪意の言葉。鋭い牙と蛇腹剣の激しい応酬が雪景色に火花を散らす。
「『無慈悲(grim)』――無慈悲に刈り取るもの。死者の魂は逝き廻らなければいけない。
 だがグリムが運んで来るものは『消滅の呪い』だ。お前達は何故それを信望している?」
「ッ…、僕達は黄沙羅を探さなきゃなのに、邪魔しないでほしいのにゃ!」
 気持ちで負けるものかと、ちぐさが神秘の力を解き放つ。チェインライトニングーー連なる電撃は蛇となり、コヨーテ達を絡め取った。感電して唸る彼らへ、睦月は追撃の構えと取りながら警告する。
「降伏してください。貴方達だって消滅したら、悲しむ人達がいるはずです」
 しかし彼女の優しさへ返されたのは殺意の咆哮。やむを得ず放った鋭い光が、コヨーテの胴を打つ。どぅ、と倒れ込んだコヨーテ達が起き上がらないか警戒しつつ、世界は睦月へ賦活の力を注ぎこんだ。

「今のは神気閃光…不殺したのか」
「まだ詳しい話をお聞きできてませんから――」

 ウォォオオン!!

 先程のコヨーテをも超える激情。憤怒の咆哮が雪原一帯に響き渡り、睦月の言葉を掻き消した。
 片目に刀傷を負ったサーベルタイガーが吹雪の中から巨体を現す。

『我が名はジマ。雪の女王の使者にして貴様らの命を絶つ者だ!』

 氷の棘が周囲を襲い、雪が砂埃の様に巻き上がる。視界が塞がれる様な激しい攻撃の中で、アーマデルは焦り気味に"手にした物"を引っ張った!
「蒼矢殿!!」「ふえっ!?」
 気の抜けた声と共に無防備だった蒼矢が後ろへ飛ぶ。間一髪。飛来した棘は先程まで蒼矢がいた場所に突き刺さった。
「ああっ、いつの間にか蒼矢さんの背中に迷子ハーネスが! しかも天使の羽がついたリュックタイプで可愛いですね!」
 ときめく睦月に、理解してくれるかと頷くアーマデル。
「戦闘のさ中で皆とはぐれる可能性もあると思ったんだ。それにしても、なんて執念だ!」
 ジマの追撃は執拗で、蒼矢ばかりを狙ってくる。紐を巧みに操り回避させながら手元へ手繰り寄せようと試みるが、蒼矢に手が届くまであと少しという所で、大きな棘が迫りくる!
(間に合わな――)
「僕が…お兄ちゃんが護るのにゃーー!!」
 ちぐさが蒼矢を抱え込み、雪の上をごろごろと転がる。庇った事で怪我を負い、それでも懸命に蒼矢を守ろうとする彼の前へ、ドスン! と巨体が飛び降りた。

『無様なだな。その男に、そこまでして庇う程の価値があるとは思えんが』
「蒼矢さんは僕にとって大切な人。ううん、出会うすべての命が、かけがえのないものなのです」

 行かせません、と立ちはだかったのは睦月だ。彼女が目立つ一方で、アーマデルは吹雪の中で気配を殺して動きだし、世界はちぐさに近づいて回復を試みる。

『綺麗ごとはもう沢山だ! 我が愛しの女王陛下は、望まぬ『永遠の命』を持ち、死ねない苦しみを背負い続けてきた御方。
 陛下にとって、グリム様の『消滅の呪い』こそが救いだったのだ。俺は…恩に報いねばならぬ!』

 吹き飛ばそうと鋭い爪を振り上げるジマ。しかしその一撃が睦月を襲う前に、蛇腹剣がジマの腕を鮮やかに刈取る。殺らなければ殺られる――大きなプレッシャーの中でも、アーマデルはジマに呼びかけた。

「後を追いたくなる気持ちは分かる。俺も…大切な人と寄り合わせた糸に引かれていればと、後悔した事があるから。
…しかし、それを女王が望んでいるとは限らない!」
『だとしてもッ! 陛下なき世界の明日などいらぬわ!!』

 悲痛な叫びと共に反撃をくり出すジマ。語り合う事などないと牙を剝き、白銀の身体を翻す。その姿は恐ろしい怪物であると同時に、終わりを望むただの老兵の様にも見えた。

「ならば、往くべき処へ還るがいい」

 蛇銃剣が心臓を撃つ。崩れ落ちる巨体。その口元は微かに笑っている様で――

「『灯火(glim)』。往く先を照らす灯火…だが、旅路の傍らにあるにはあまりにも……」


 温かな光を受けて薄目をあけるちぐさ。その視界に入ったのは、心配そうに覗き込んでくる蒼矢の姿だ。
「ごめんね、ちぐさ。僕のために無茶をして…」
「黄沙羅、今頃きっと寒さに震えてるのにゃ。すぐに助けてあげないと、なのに……蒼矢まで居なくなったりしないよね?」
 切羽詰まったような言葉に、蒼矢は頷いてぎゅうと身体を抱きしめ返した。

「勿論だよ。皆で一緒に帰ろう」

「そうは言っても厳しい状態だな。治療後も安静にしておいて欲しいところだし、俺のAPもすっからかんだ」
 休憩を入れてる間に黄沙羅が凍死してしまう可能性もありうる。手詰まりかと溜息をついた世界だったが、ここでふと違和感に気づいて周囲を見回す。
「どうしたんですか? 世界さん」
「吹雪が止んで気づいたんだが、この景色は見覚えがある」
 どうして、と睦月が問う前に『答え』がこちらにやって来た。ぴょんぴょこと顔のない雪だるま達が跳ねて来る。
「虚無達磨だ」
「え?」
 忘れもしない、シャイネンナハトに半ば騙されるような形でねじ込まれた雪だるま108個の納品依頼。
「境界図書館のシャイネンパーティーにも参加できずに、一人で延々と虚無になりながら雪だるまを作り続けた」
「その時の未練が雪だるまにとり憑いた様だ。霊魂疎通すると『かえりたい』と言っている」
 アーマデルの補足の通り、虚無達磨は帰巣本能が強いようだ。何せ彼らが運んで来たのは、寒さで丸まり衰弱している白い猫。世界の口元がひきつる。
「当時は何のためにこんな嫌がらせみたいな仕事が用意されたのかと思っていたが……そうだ。あの依頼を案内したのはアンタだったな」
 星の模様の付いた背中は間違いなく物語の"飼い猫"で、捜し人の黄沙羅だった。

成否

成功

状態異常

なし

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