PandoraPartyProject

シナリオ詳細

地位と誇りの鎹

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●領主の誇り
 父は強かった。財力、政治力、そして腕力。すべてを兼ね備えた彼は私の誇りであった。
 財力は連綿と受け継がれた家の基盤があるからだ。だが、それ以外は実力で勝ち取るしかない。
 政治力は学問に通じることで。腕力は、持って生まれた素養と、ひたすらに努力を積み重ねることで手に入る。
 裏を返せば、努力をしても至れぬ境地というものがあるということ。才能なくば、努力の積み重ねは答えてくれないということ。
 鉄帝という国は、努力の値ではなく結果の値をこそ重んじる国であるということ。

「……ですから私は、今のままでは領主にふさわしくありません。父亡き今、この家名を汚さぬためには地位に奢った兄を討ち、実力を更に磨いたうえで領民に跡取りに足る者であると認めさせなければなりません」
 決意を孕んだ瞳でそう語るのは、『鉄帝』の貴族、ガウシル子爵の次男、ジルバ。つい先日に子爵が病没し、今まさに後継者の地位が兄のゴルドーに渡らんとしているところなのだという。
 だが、父である子爵はゴルドーが跡を継ぐことに――こと彼の腕力のみで政治力が不足しているどころか皆無であることに――懐疑的であったのだとジルバは言う。
「我が国の在り方としてはそれもまた善なり、と申し上げたいところですが……私は父の志を継ぎ、異端であれ領民には最低限の幸せを与えたいと思っています」
「そのために兄が邪魔だ、だけど自分では倒せない……だから依頼をしたいと。面白い考えだ」
 『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)は意地の悪い笑みを浮かべ、ジルバの目を覗き込む。嘘か真かを判別する能力は、彼にはない。だが、誠実か否か判断する目くらいは、短くない人生で培ってきたと自負している。
 結果から言えば。彼は誠実さを失わぬままに、己の手を血と罪で染め上げてもよしとする目をしている。
「……いいでしょう。この国がどうなろうと俺の知ったことじゃないが、依頼人を含め最大多数の最大幸福には興味がある」
 公直はそう言うと、まとめた資料をクリップボードにまとめて踵を返す。この先に敷かれた道は手に持つそれと同様、血まみれである。だが、彼は気にしなかった。
 今まで散々、罪の有無を問わずして人死にに関わる依頼を斡旋してきたのだから当然だ。

●討つべきは
「……まあ、今回は闇討ち半分ってとこだな。半分、ってのは。彼の相手をジルバ氏が自らトドメを刺すという希望があるからだ。そうしないといけない事情でもあるんだろう」
 公直がひとしきり話し終えると、イレギュラーズは神妙な表情になった。大義のための犠牲と言ってしまえば単純明快であるが、義に則ったものかと言われれば断じて否である。
「勿論、鉄帝はそもそも豊かな国じゃない。彼の志がどこまでうまくいくかは数十年単位のスパンで見なければ判断できないだろう。長い目で見ても良し悪しは分からない。短期的に見れば衝動的な暗殺ですらある。決して大勢に認められる行為じゃない。……でも、鉄帝に於いては結果こそがすべてだ」
 そう言って、公直はイレギュラーズの判断を待った。
 この依頼を聞いて、踵を返すか、受け取るかは君達次第だ。

GMコメント

 闇討ち騙し討ち、大変結構。強ければ全部肯定されるのです……多分。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『鉄帝』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●達成条件
 ゴルドー・ガウシルを瀕死状態まで追い詰める(プレイングに殺害する意図がない限り、『倒せば成功』です)

●『子爵嫡子』ゴルドー・ガウシル
 鉄帝の貴族、ガウシル子爵家長男。本来の次期子爵。
 鉄騎種としてもかなりの体格を持ち、体力や腕力はそれに準じて高い。身の丈ほどの杖を使った杖術により、敵を吹き飛ばしたり、複数名を薙ぎ払ったりすることができる。
 また、杖で地面を打つことで任意の相手のバランスを崩し、一気に攻め立てる狡知さも持ち合わせている。
 杖による振動攻撃は、中程度の距離までコントロール可能らしい。

●ガウシル家SP×6
 ゴルドー付きの護衛達。ゴルドーほどではないですがそこそこ実力があり、連携が取れ、勝利ではなくゴルドーの生存を優先した行動を取ります。
 彼らの進言であれば、ゴルドーは撤退も考慮に入れるでしょう(逆に言えば、彼らが進言できなければゴルドーが撤退するという選択肢を取ることはありえません)。
 編成は不明ですが、距離をとっての戦闘や治癒術程度は最低限警戒してもいいかもしれません。

●ジルバ・ガウシル
 依頼人。ガウシル家次男。
 ゴルドーに戦闘力は劣るが政治的知見は大きく上回る。戦闘終了を待って現れることになるが、ゴルドーを逃した場合は彼の命に危機が及ぶでしょう。

●戦場
 ガウシル家邸宅、大廊下。
 ジルバの手引きで待ち伏せできるため、挟み撃ちも可能です。
 ただ、そうなると前後で相対距離が延びるため、相互に支援し合うのは難しくなると思います。

  • 地位と誇りの鎹名声:鉄帝5以下完了
  • GM名三白累
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月24日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)
夢は現に
ミスティカ(p3p001111)
赫き深淵の魔女
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
不動・乱丸(p3p006112)
人斬り
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き

リプレイ

●その目の色は漆黒の
「兄と協力し、政治を支えるような考えは、全く頭にないかしら」
 『赫き深淵の魔女』ミスティカ(p3p001111)は、一同の前に現れた鉄帝貴族・ジルバに問いかけた。恐らくは一同がわずかなり考え、口にしなかったことだ。
 そして、戦う前であれば雑音になると考え、口にしなかった者も居よう。……それを問うことには勇気が要る。ここで聞くことは、決して悪手ではなかろう。
「私は、どんな回答を望まれているのかな。『ない』と言えば嘘になるとも」
 だが、ジルバは嫌な顔ひとつせず正直に返した。世が世なら。或いは、人のあり方ひとつ違えば、到達し得た未来の形であろうと、彼は言う。
「……しかし民が望むのは唯一絶対の象徴だよ。領主とはそう求められる。私はそう振る舞おう」
「わかりやすい善悪論、嫌いじゃないよ。芒さんは人を殺せるなら大歓迎さ」
 『Code187』梯・芒(p3p004532)は彼の言葉をさらりと飲み込み、薄く笑みを浮かべる。倫理や法の発展を枷に、殺人が絶対悪とされた世界はさぞ生きづらかったであろう……そう思わせるに足る笑みだ。
 彼女にとっては彼が何を考えていようと、それをなした後に何が起きようとさして重要なことではない。大事なのは今この時、何者かを手にかけていいという明白な許諾と後ろ盾であるのだから。
「ジルバよ、民を想う気高き魂に敬意を払おう。ゴルドーに引導を渡すならば、その雄姿を記憶に留めておいてやる」
 『夢は現に』ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)はジルバに対し、尊大な態度を崩さず告げた。それをどのようにとったものか、彼の表情には笑みの中に思慮と戸惑いを匂わせる空気が感じられた。
「君達が覚えておいてくれるなら、誰もが嘘だと笑ってもそれを覆す価値はあるだろう。有り難い話だ」
 だが彼はすぐさま笑みを浮かべると、ディエの肩を叩きながら去っていく。……その手の感触と能面のような笑みがディエの心胆を寒からしめたのは、偽りなき事実である。
(……この国の繁栄に資するのであれば、彼の志は正しい)
 『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、イレギュラーズとの会話を切り上げて去っていくジルバの姿を無言で眺め、思い直したように視線を切る。
 血腥い手段を取ってまで意志を貫こうとする相手の態度に善悪はつけられないが……それを貫くことができるのなら、手を汚すのもいいだろう。
「乱世の猛将と太平の名君。両者を備える者というのはそうそう、いらっしゃらないものですね。……1人で抱え込むために他を廃すのも人の業でございましょうか」
「知らね。お家騒動なんて貴族サマとの伝手が手に入りでもしねー限りやりたくねーしぃ?」
 『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の思慮を、『瓦礫の魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はこともなげに斬って捨てた。ジルバの行いを我欲ととるか信念ゆえのものととるかは、必ずしも結論の出る話ではない。
 彼らが道を違えたのも、相応の理由があるのだろう。それを追求するのは彼女らの役割ではない。……だからこそ惜しいと思う雪之丞の考えも、無論正しいだろう。
 ことほぎにとってみれば、厄介事を抱え込むことと貴族との繋がりとでは、後者の利が勝っただけともいえようが。
「ただ儂は人を斬るだけじゃ。儂らに出来るんはそれだけじゃからな」
 『人斬り』不動・乱丸(p3p006112)は、深い事情を理解できないことを承知している。ゆえに、自らは敵を斬る事に注力すべしと規定している。……或いは、思考を巡らせれば理解できよう思考力と才覚を暴力に傾けているようにすらとれる態度は、僅かな危うさすら見て取れる。
「彼の信念が正しく為されるのであれば、例え悪業であれど、拙者は幾らでもこの手を穢してしんぜよう」
 『黒耀の鴉』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は、他の仲間同様、ジルバにわずかながらの危うさを感じてはいた。危ういのであれば、破綻するのは彼の統治が始まってからになろう。今はただ、希望的観測を以て彼の所業に手を貸すだけである。
 ジルバは去った。いくばくかの静寂が訪れ、そして……豪快な足音が床を鳴らす。
「ジルバの奴めは、俺に権限を明け渡すのが怖いと見える。全くもって忌々しい!」
「ゴルドー様の輝かしい権威あればこそでございます。会談の席で怒り狂って手を下さぬよう、くれぐれも……」
 尊大な態度を崩さぬ武人然とした男、ゴルドーと。彼を宥めようとやんわりと声を掛ける周囲の者達。哀れなまでにはっきりとした上下関係、ゴルドー自身の厳つさや態度は、隠れていた一同をして間違いようもない程に「暴君」であった。
「誰だ、そこにいるのは。どこの手合いかは知らんが、隠れているつもりなら殺される前に名乗ったらどうだ」
 足を止めたゴルドーが鼻を鳴らし、問いかける。彼がもう少し鋭敏な感覚を持っていれば、踏み込む前に気付いただろうが。
「拙は鬼桜 雪之丞。ただ、鬼である。そう覚えていてくだされば結構でございます」
 雪之丞は既に一同を、ゴルドーの前に立ったSPを間合いに捉え、『蛟』を構えた後だ。彼の退路を断つようにイレギュラーズが立ち、前後3名ずつ、ゴルドーを守るようにSPが並ぶ。一糸乱れぬ動きは長らく訓練されたものなのだろう。
「儂は『人斬り乱丸』! 冥土の土産によく覚えておけ!」
「俺の領地に迷い込んだ虫かと思えば、とんだ害虫ではないか。くだらん話を聞く前に羽をもいで潰してしまわねばならんな」
 乱丸の言葉を背に受け、ゴルドーはそれでもなお尊大な口調を崩さない。……だが、全身から噴き出した殺気は乱丸の心胆を寒からしめるには十分。
 ひゅっ、という短い呼吸と、ゴルドーの動きを見切れたのは雪之丞か芒くらいのものだろう。雪之丞は、突き出された杖を逸しながらそのまま顔へと鍔を叩きつけんとし。
 杖の重み、鍔の軌道のズレ、その他諸々を感じ取るより前に、ほぼ相打ちの形で腹部を打たれ、吹き飛ばされていた。

●白きは肌か志か
「許されよ」
 咲耶の小さい言葉とともに、刃が術士の肩に食らいつく。雪之丞達の派手な立ち回りは、彼女の気配を完膚なきまでに隠し通していた。彼女が本来持つ気配を隠す能力以上に的確に、不意打ちは決まったと言っていいだろう。惜しむらくは、術士を倒すには傷が浅かったことぐらいだ。
「賊め、好き放題出来ると思うなよ!」
 咄嗟に至近距離で炸裂した爆発術式は、本人ごと咲耶を炎に巻き込む。両者は互いに余裕の表情を崩さぬが、内心の動揺は果たしてどちらが大きいものか。
「何の恨みもないけれど、貴方達には今からここで死んでもらうわよ」
 ミスティカの魔術が、呼吸を深めた術士の体を絡め取る。無手のままに突き出された先から生まれた縄はきつくその動きを捉え、身じろぎひとつ満足にさせるつもりが無いようだ。
「逃げられても困りますので、一度黙って頂きましょう」
 オリーブは雁字搦めにされた術士にとどめとばかりにクレイモアを振り下ろすと、ぐったりと動かなくなった相手を物を扱うかのように放り投げた。
「クハハハ!!! ええがじゃ! やはり儂は剣の天才じゃ!」
 他方、乱丸は自らを狙い撃ったもう1人の術士に斬撃を飛ばし、浅からぬ傷を与えていく。彼1人では、前衛との根比べになればひとたまりもなかっただろう。だが、仲間が頭数を削ってくれるなら堂々と斬りかかることもできる。
 自らの才を信じ、人を斬る感触に喜び、ただひたすら相手と切り結ぶ彼の行動は狂気的ですらあった。
 それでも、横合いから襲いかからんとする前衛へ意識を割かなかったのは、仲間に対する信頼あってこそなのである。

「ククク、奈落の底に沈め!」
 ディエの放った闇深き一撃は、術士にとっては避け難く、そして強烈であった。視界を奪われれば容易に隙を晒し、尚の事狙いやすい的と化す。自信に満ちた表情をそのまま、続けざまに放った魔力は、術士自身が癒やした跡も虚しく吹き飛ばす。
「おーおー、派手にやるなァ。オレは楽できて助かるわ」
 ことほぎは、自らはなった魔力ごと吹き飛ばされた術士を見て呆れたように吐き出した。紫煙混じった吐息はしかし、言葉ほどに緩やかではない。
 ……ディエが魔力を放った隙をついて、ゴルドーが横合いから彼女に飛びかかったからだ。
「凡夫がこのディエを屠れるとでも思うのか。笑止!」
「こいつが死んだのはこいつの不注意だ。だがそれはそうと貴様は気に食わん。潰す」
 ディエの挑発をものともせず、ゴルドーは相手へ向けて杖の乱打を浴びせかける。地面を強く杖で叩き、振り上げるように下から持ち上がる乱撃は、来ると分かっていても容易には避けられまい。
「潰されて死ぬのは多分、そっちが先だと思うよ?」
 芒は彼らの2人の攻防に割って入るべく、2本のナイフを乱雑に振り回す。
 見るものが見れば、当たるを幸いにした児戯にすら見えよう。だが、その乱打は結果として正しく相手に食らいつく。足を活かし、彼女はそのまま後方に下がろうとするが……そこに不幸が襲いかかった。
 左右から間合いを詰めたSPを振り切ろうとしたタイミングで、思いがけず足から力が抜けたのだ。
 結果、襲いかかった連撃は『攻め手』と呼ぶには不十分でありながら、彼女の肉体に浅からぬ傷を残したのだ。
「貴様達が誰の手引きかはこの際、聞かないでおいてやる。……だが殺す理由はできたな」
「ゴルドー様!? いけません、これ以上賊の相手にかかずらう暇など!」
 SP達は拳に残った感触の硬さで、芒が容易ならざる相手であることを認識した。一対一ならば彼が負けることはなかろうが、形勢不利は明らか。無理をさせられぬと判断したのだ。
「……そうか」
「この状況で逃げられる、とお思いですか。拙を振り切るなど気の早い話でしょう」
 それとも、敵討ちもなく尻尾を巻いて逃げるのか? 雪之丞の視線は、ゴルドーにそう問うていた。事実、彼女が付かず離れず、攻めず逃さずの位置取りを守っていたことはゴルドーにも分かっていた。1人ふたり退けても逃げられぬ、とも。
「……賊に入り浸られてはこの屋敷が穢れる。追い払わねばな」
 観念したような声とともに上体を引き絞ったゴルドーの動きに、一同は警戒を強くする。
 彼らは対象を逃すまい。一人残らず倒れるまでは。ゴルドーはもう逃げはすまい。散ったSPと同数、地面に沈めなければ。
 一方に殺意が無くとも。命をかけた時点でそれは『死闘』と成り果てたのである。

●鮮血が黒に変わるまで
「如月、ちくと気を逸らせんか?」
「御意に」
 乱丸の問いに、如月は二つ返事で動き出す。2人めの術士はオリーブにより倒れ、前衛はミスティカの魔力に抗いつつ全力で暴れまわる。乱丸ならサシで挑んでも負けはすまいが、犠牲を払うことになるのは明らかだった。
 如月が先んじて前衛に斬りかかり、隙を晒して反撃を誘う。
 好機とばかりに突き出された拳を断つように、乱丸が居合を放つ。
「これが我が邪剣の真髄じゃ。あの世で自慢せい」
 腕を両断され、前衛はしかし、未だ抵抗しようとした。したが、安堵の笑みを見せ……膝を折って倒れた。
 乱丸が眉根を寄せるよりも早く、背後から満身創痍のゴルドーが襲いかかってくる。声はない。しかし吐き気を催すほどの濃密な殺意を湛えて、彼は杖を振り回した。
「貴方に、領主としての志はありますか」
「貴様等の中に、俺を殺すに足る志を持つ奴は居たのか。俺を殺してジルバも殺して、その下にいる有象無象でも立てる気か」
 オリーブの問いに、ゴルドーは応じる。領主の血筋を断つ気で現れた賊、と信じて疑っていないようなその態度。……彼は暴君であるが、驚くほどに純粋だった。
「死した後を考えても仕方ありますまい。まずはこの果たし合いを楽しみませぬか」
 振り向きざまに突き込まれた杖を避け、雪之丞は鞘でゴルドーの横面を殴りつける。ぐらりと傾いだ頭部を襲うのは、ことほぎの放った魔力だ。
「…………そこまでだ。そこまででいい、諸君」
 ゴルドーが膝を折り、前のめりに倒れたのとほぼ同時。ジルバは堂々たる足取りで一同の前に現れると、無言で首を振った。
「曲がりなりにも『領民かその依頼を受けた者』である君達と殺し合いに興じたとあれば兄の顔を立てることは私にはできない。君達の希望を聞き、私が正しく統治に反映させよう。……兄さん。貴方は」
 ジルバはそこで言葉を切り、一同を見た。ずたずたに打ち据えられて倒れる芒とディエ。傷は浅いが着衣に相当な乱れを残す……特定運命座標としての権能で最後まで戦い抜いた咲耶とミスティカの姿を見れば、ゴルドーの猛威は明らかだ。
「『手を上げてはならぬ相手に手を上げた』。無抵抗で首を捧げれば一分の利も立っただろうに。だが、『貴方が殺され、手練の賊も深手を負った』というのならば私が首を差し出すまでもなく、互いに手打ちにする目処も見えましょう。……貴方の犠牲は尊いものだ」
「ジ、ルバ、きさ、ま」
 子供に語って聞かせるように、ジルバが言葉――稚拙ながらも衆愚を納得させうる『筋書き』――を語ったことで、ゴルドーの声は薄く途切れがちになり。息絶えるより早く、弟は兄の心臓を貫いた。
「力にだって色々あるし、どれだろーが応用利いたんじゃねーの? 嘘が上手いならこいつ言いくるめて助言したりとかさー」
 ことほぎの問いはもっともだ。兄(と自分)に言い聞かせる筋書きのひとつ考えつくなら、領地の統治に手を貸すこともできただろうに。
「権力の為に肉親ば殺した気分はどうじゃ? 因果応報、自分に戻らんように気をつけることじゃ」
「最低で、最高の気分だ。因果応報、大いに結構。私の統治が気に食わなくなったとき、誰かに殺されるなら……『正しくなくなった』時だろう」
 乱丸の忠言に、どこか上の空でジルバは応じる。人殺しの罪業と権力を手にした高揚感が、彼の心を埋めているのだろう。殺したのだから殺されるだろう、とどこかに諦めを隠した者の目に、光はない。
「過ちを忘れることはないと思うが……その時が来れば、拙者が命を頂戴しよう」
「ええ、もし多くの民を不幸にする事があれば、自分達は再び貴方の前へ現れる事になります」
 咲耶とオリーブは口々にそう告げ、彼の罪に加担した責任を己に課すように決意をあらたにする。そんな事態が来なければ……いいのだが。
「最後に……いいかしら。貴方が自ら止めを刺すと望んだ理由、それは父親の死に関係しているものかしら」
 そして、ミスティカから向けられた問いに。ジルバは心からの笑みを向け、こう応じた。
 「とんでもない」、と。
 目の端に涙をためながら、心から笑えるこの男の魂の底は誰にも見えない。彼を『善政の奴隷』たらしめるきっかけは、果たしてどこにあったのか。
 果たしてそれは、どこに行き着くのか。その答えは、誰も知らない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ディエ=ディディエル=カルペ(p3p000162)[重傷]
夢は現に
梯・芒(p3p004532)[重傷]
実験的殺人者

あとがき

 お疲れ様でした。
 終わりは終わりとして、なんとか勝てた感じです。SPも意外と強かったのです。
 まあ、それはそうと。色々と闇が深そうですね。鉄帝ですからね。
 お怪我などはお気をつけて。

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