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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>悪しき獣を目指して

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 現在の鉄帝は混迷していた。
 先帝ヴェルスの敗北と新皇帝バルナバスの誕生により六派閥が競い合い、各地の要所を奪い合う。
 まさしく弱肉強食戦国跋扈といった様相を見せていたが、そこに新たな脅威が襲い掛かっていた。
 それは『鉄帝の冬』。
 伝説の狼『フローズヴィニトル』になぞらえた大寒波が鉄帝を覆っていた。
 寒波による凍死者が出るほどの極寒は、物資を食い潰させギリギリの生活に陥る所も少なくない。
 むろん、それは争い合う六派閥全てが同じ。
 困窮する中、一刻も早い事態の安定を求め、今まで以上に各派閥は動き出す。
 クリスタル・ヴァイス(水晶の白)。
 純白の雪が鉄帝を包み全てを凍らせようとする時期に、更なる動乱の予感が広がる。
 それは、鉄帝の地下に広がる大規模地下道も例外ではなかった。

◆  ◆  ◆

 闇の中に赤色が滲む。
 それは危険を表す色。
 その先にある物を示すように、地下道は警告色で染められていた。
 鉄帝地下道の深部への入口。
 熱を奪う冷気が、訪れるモノ全てを侵そうとするかのような場所で、イズマ・トーティス(p3p009471)は幻狼と戦っていた。

(一気に仕留める)
 向かって来る幻狼を見定め、イズマは重心を落とす。
 地面を踏みしめると同時に、突進。
 襲い来る幻狼は三体。
 その内の一体、噛み殺そうと飛び掛かって来た幻狼を、大剣を振り降ろし斬り潰す。
 そこから手首の返しと腰の捻りを加え、左手から来たもう一体を、下から掬い上げるような軌道で大剣を振るい、真っ二つに斬り倒す。
 だが、もう一体。
 右手から襲い掛かる幻狼が、イズマを噛み殺そうと顎を開き跳び掛かる。
 それは対応しきれない速さではあったが、幻狼の牙はイズマには届かない。
 魔法の障壁が牙を防ぎ、魔法の鎖が動きを封じ、幻狼を固定する。
 それはイズマの依頼人であるリリスとヴァンの支援。
 何度か共に戦ったことのあるイズマは、連携を取り固定された幻狼を叩き斬った。
「――これで、この辺りの幻狼は全部倒した、かな?」
 残心を取りながら、イズマは同行する鉄帝の軍人達に確認するように言った。
 これに鉄帝の軍人の1人が返す。
「あぁ、恐らく大丈夫だ。いま索敵させてるが、この周囲には居なさそうだ」
 その言葉に、周囲の気配が僅かに緩む。
 油断しているわけではなく、休める時に休めるよう、戦いに慣れている者の所作だった。
 イズマも同様で、戦闘態勢を維持しつつ気を休め、依頼人であるリリス達に声を掛ける。
「大分、冷たくなって来たね。この先に、フローズヴィトニルが居るのかな?」
「鉄帝の上の方は、そう思ってるみたいね」
「フローズヴィトニルは冬の精霊や、今倒した冬狼を操るそうですから、恐らく」
 いま三人が話しているのは、鉄帝地下道に封じられているという悪しき獣、フローズヴィトニルのことだ。
 それを新皇帝派組織アラクランを率いる総帥フギンが解き放とうとしているらしく、鉄帝の各派閥が対抗するべく地下道の探索を進めている。
 その話を聞いて、鉄帝とのコネを作りたい幻想の商人リリスとヴァンは協力を申し出、助っ人としてイズマに手を貸して貰っていたのだ。
「冷気が強い方に進めば進むほど、フローズヴィトニルに近付くってことだよね?」
 イズマは吐く息を白くしながら尋ね、リリス達は応える。
「恐らくね。ただ問題は――」
「進めば進むほど、敵の数が多くなって来ることですね」
 一行はフローズヴィトニルに近付くため、冷気の強い方を目指して進んでいるのだが、それに応じるように敵の数や強さが上がっていた。
 そのため、同行している鉄帝の軍人達の疲労も積み重なっている。
 まだ余裕はあるが、帰りのことを考え、そろそろ引き返さなくてはならない。そして――
「この先は、他よりも狭いみたいだから、大人数で進み辛いわね」
 リリスの言葉通り、今いる場所よりも先の通路は細くなっている。
 下手に大人数で進んで、動きが取れない所を襲われてはたまらない。
「少数精鋭で進んだ方がいいでしょうね」
 リリスの言葉に、ヴァンが続ける。
「他にもルートはあるかもしれませんが、このルートの探索もしないわけにはいきませんからね」
「他のルートも探索してるの?」
 イズマの問い掛けにヴァンが応える。
「ええ。ギギルさん達と一緒に探索予定です」
 協力関係にある鉄帝の軍人の名前を出し、ヴァンは続ける。
「そちらはそちらで、ローレットに依頼を出して助っ人として来て貰う予定です。それと同じく、こちらのルートもローレットにお願いして探索を予定しています」
「探索して貰って地図にして、それを鉄帝の上に渡してコネを作ろうと思ってるのよ。もうひとつのルートの方は、どちらかというと帝都へのルートを探す方が主な目的だけど、こっちはフローズヴィトニルの探索が主ね」
「というわけで、ローレットに依頼を出そうと思います。もし都合が合えば、力を貸して貰えますか?」
「分かったよ。都合が合えば、力を貸すね」
 快く応えるイズマだった。
 そうしてローレットに依頼が出されました。
 内容は、鉄帝地下道の探索。
 フローズヴィトニルに繋がる道を探すため、より冷気が強いルートを探って欲しいとのこと。
 その依頼を受け、イレギュラーズは鉄帝地下道へと向かうのでした。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。

以下が詳細になります。

●成功条件
 鉄帝地下道の探索。より冷気の強いルートを探る。

●状況
 以下の流れで進みます。

1赤い警告色が灯っているルート直前で戦闘準備
 赤い警告色が灯っているルートまでは鉄帝の軍人が先頭に立って進みます。
 その先は通路が細くなっているため、少数精鋭で探索する必要があり、それをするためにPC達は呼ばれています。
 この場所に着くまでは、体力などの消耗はありません。

2赤い警告色が灯っているルートを探索開始
 より冷気が強いルートを優先して探索することになります。
 進めば進むほど、敵の強さと数が増します。

3可能な限り深部を進む
 探索しルートを記しながら行ける所まで行きます。
 ある程度のダメージを受けた所で終了。
 元の道を戻り、待機している鉄帝軍人達と帰還することになります。

●戦場
 赤い警告色が灯っている通路。 
 全く見えないわけではありませんが視界は悪いです。
 足場は悪くありませんが、通路の幅はやや狭く、配置に気を付ける必要があります。
 
●敵
 2種類登場します。

 冬の精霊(幻)
 氷や雪を思わせる冬の精霊の外見の敵です。
 精霊のように見えますが、『フローズヴィトニル』と呼ばれる悪しき獣の作り出した幻のため話は通じません。倒すと消え失せます。
 遠距離攻撃の他に、冷気によるデバフを行います。

 冬狼(幻)
 白い毛並みの幻狼です。冬の精霊(幻)と同じく、『フローズヴィトニル』が作り出した幻です。倒すと消え失せます。
 噛み付きや爪によるひっかき、口から冷気の塊を飛ばしてきます。

 上記の2種類の敵が進めば進むほど現れます。
 進むほど数は多く、強さも増していきます。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。
 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <クリスタル・ヴァイス>悪しき獣を目指して完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

「それじゃ、こっから先の探索は頼む」
 鉄帝軍人が、細く暗い通路を示し頼む。
 大人数で進むには適していない場所を進むため、少数精鋭のイレギュラーズが隊列を組む。組み終わり出発する少し前――
「ここまで、ありがとうございます」
 軍人達に礼を言ったのは『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)だ。
「みなさんのお蔭で体力を温存してここまで来れました。ここからは任せて下さい」
 既に舞桜で戦闘準備を整えた彼女の隣には、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が寄り添う。
 2人一緒にいることが自然だと思えるほど、その佇まいは馴染んでいた。
 それだけでも頼もしいが、今までの戦闘経験から来る手際の良さも見せている。
「周囲を探ってみましたけど、敵影は無いようです」
 2体召喚したファミリアーで索敵をした珠緒が軍人達に報告すると、応えが返ってくる。
「助かる。一先ずここをベースキャンプにするつもりだったが、索敵する必要があったからな。ありがとうよ」
 リーダー格の軍人は礼を言うと、続けて言った。
「あんたらが戻ってきたら、すぐ休めるよう準備をしとく。だから帰還の時のことは任せてくれ。寝ずの番ぐらいはするからよ」
 これを聞いて、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が言った。
「寝ズノ番ナラ任セテ」
 生身とは違う、けれど温和さを感じさせる音声で言った。
「食眠不要ダカラ大丈夫」
「そいつは頼りになるな。ありがとよ」
 ぽんぽんと、信頼を示すようにフリークライを撫でるように手を当てる軍人に、フリークライは続けて言った。
「イッソ ネギ ニラ 生姜トイッタ 温活食材ニナル植物 生ヤシテク? フリック ギフト 寒クテモ 植物元気。戻ッテ来タ時 使ッタラ身体温マル」
「そいつは良いな。補給も万全だ」
 笑顔で返す軍人。
 和むような空気が流れたあと、軍人達にこの場を任せ先に進むことにした。

 赤き警戒色が闇に滲む。
 視界不良の中、冷気の元凶を目指しイレギュラーズは進んでいく。

(フギンの流す情報ってことはだ。これはなにかの囮なんだろうさ)
 皮肉げに推測しながら、『ラド・バウA級闘士』サンディ・カルタ(p3p000438)は鉄帝地下道を進む。
(でも……調べねえわけにもいかねえよな)
 イレギュラーズだけでなく、フギンが率いるアラクランも含めた新皇帝派組織も動いている。
 敵の意図がどうであれ、動かざるを得ないのだ。
(フローズヴィトニルを渡すわけにゃいかねえからな)
 悪しき獣と呼ばれるフローズヴィトニルが、どれほどの物かは分からないが、新皇帝派に力をつけさせるわけにはいかない。
 とはいえ探す手掛かりは冷気しかないため難しい。思わず――
(フローズヴィトニル! いったいどこに隠れているのかっ)
 などと、『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)のように思ってしまう所だ。もっとも彼女の場合――
(イレギュラーズ探検隊は鉄帝地下道の奥深くへ向かった……!)
 ナレーションを入れるぐらいには余裕がある。
 その余裕の幾らかは、凍気に対する耐性を得ているからかもしれない。
 実際、耐性を持っていない者には、進めば進むほど寒さが厳しくなっていた。
(私、寒いのって苦手なのよね……)
 遠い故郷と比べながら、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は寒さにうんざりしている。
(生まれ故郷の冬も大概寒かったけれど、鉄帝の冬は殊更に堪えるわ。それを、何が楽しくて敢えて冷気の源に進むことになっているのやら……)
 ため息をつくように思いながらも、それで手を抜くつもりは無い。とはいえ――
(依頼が終ったら、温かい湯船にでも浸かろう)
 硬く決意しながら進んでいた。
 彼女のように寒さが堪えているのは、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)も同じだ。
(寒いのだわ……とっても寒いのだわ……)
 身体の芯から熱を奪おうとするような冷気を感じながら、華蓮は進む。
(鉄帝の人達はいつもこの寒さと戦っているのだわね……)
 大変さを実感しつつ、それだけに少しでも助けになるよう、地下道の探索に力を入れていた。 
 彼女の配置は、守りに長けていることもあり隊列の先頭に就いている。それは――
(危険があれば仲間達を護る役割をするのだわ!)
 仲間を守りたいという意志の表れでもある。危険なことではあるが――
(大丈夫、私には稀久理媛神の加護があるのだもの)
 今までの戦闘経験に裏打ちされた確かな物。
 実際、皆を守るための行動には余念がない。
「まだ狼も精霊の姿も見えないのだわ」
 ファミリアーの鴉、ヒメから得た視覚情報で索敵していた華蓮は、皆に定期報告。
 珠緒もファミリアーで索敵してくれているが、斥候だけでなく死角補完を兼ねて周辺を探ってくれている。
 華蓮は、より遠くを主体に役割分担して索敵してくれていた。
 それを補完するように、華蓮と同じく隊列の前衛についていた『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が言った。
「今の所、おかしな音はしないから、このままのペースで進もう」
 優れた聴力を強化したイズマは、エコーロケーションとエネミーサーチも併用して使い、聴覚でかなり遠くまでの索敵を実現していた。
(視界は赤くて見づらいが、音なら大丈夫だ)
 実際、かなり遠くまでの状況を探れている。
 それに加え、いつでもサンディがテスタメントで強化する準備をしてくれているので、不意を突かれる可能性は最小になっていた。
 確実に探りながら進むイズマは、より冷気の強いルートを選び皆と進む。
 意気込みが強いが、それには理由がある。
(これだけ寒いとなると、フローズヴィトニルが起きかけてる可能性もある。今の鉄帝にこれ以上の寒さが押し寄せたらどうにもならなくなる……!)
 今でも鉄帝の状況は困窮している。
 極寒がさらに押し寄せれば、どれほど死者が出るか、想像もしたくない。
 それを避けるためにも元凶を目指し進んでいると――
「――何か音がする。複数だ」
 こちらに向かってくる音をイズマが捕える。そこに――
「これで、どうだ?」
 サンディがテスタメントで強化してくれる。
「助かる、ありがとう」
 短く礼を返すとイズマは集中。
「……狼が10、いや11匹だ。前が5匹で後ろが6匹。その後ろに精霊もどきが……6体来てる」
 最初から数が多い。
 全員気を引き締めながら戦闘準備。さらに――
「後方からの敵影はありません」
「周囲に他の敵影は無いのだわ」
 珠緒と華蓮がファミリアーの助けを借り周辺索敵を完了。
 これで前方からの敵のみに集中することが出来る。待ち構え――
「来た」
 敵影を目視で捕えたイズマが最初に動く。
 魔力を放出し、混沌に揺蕩う根源的な力を汚れた泥に変え操る。
 敵の前衛、5匹の狼の一団を捕え動きを封じた。
 泥に囚われ足掻く狼を、中衛の狼が踏み台にして疾走。
 泥を操るイズマに一斉に噛み付こうとするが――
「させないのだわ!」
 華蓮が盾になるように立ちはだかる。
 加護のみならず祝詞も詠んで自身を強化していた華蓮は、舞うような動きで狼の牙を避け引き付けた。のみならず――
「大丈夫なのだわ、私が止めるのだわよ!」
 神威込めた矢を放つ。
 貫かれた狼は感電したように転げまわる。
 だが健在な狼が、さらに襲い掛かろうとし――
「させません!」
 中央から前に出た珠緒が破壊的な魔術を放つ。
 敵はまともに受け、吹っ飛ばされる。
 だが残った狼は怯まず、捨て身の勢いで跳び掛かるが――
「珠緒さん!」
 蛍が桜色のオーラを発する聖剣を振るい守った。
 珠緒と蛍は一瞬視線を合わせ、それだけでお互いの意図を読み取り動く。
 反応速度に優れた珠緒が先行して攻撃を叩き込み、攻撃の隙を補うように蛍が守りぬく。
 息の合った動きで、敵を翻弄していった。
 敵の勢いを挫く。
 距離を詰めてきた狼を確実に仕留める間に、イズマが抑えている狼をルチアとサンディが仕留めに動く。
(まだ回復には、動かなくても大丈夫ね)
 戦闘よりも回復を意識して動くつもりだったルチアだが、まだ探索が序盤ということもあり戦闘に加わる。
 メイデンハートで強化した上で、魔力で雷を作り出す。
 発生した雷は蛇の如く宙を走り、纏めて狼たちを撃ち据えた。
 それでも暴れようとする狼に、サンディが斬撃の雨を降らす。
(効いてるな)
 ダメージを受け弱る狼を観察しながら、同時にエネミースキャンで強さを探る。
(それほど強くない……まだフローズヴィトニルまでは遠いってことか)
 敵の強さから、道程を推測する。
(まだまだ先は長いってことだな。なら力はセーブして進まねえと)
 先のことまで考えながら戦いを続けていた。
 イレギュラーズの猛攻で、幻狼達は倒され消えていく。
 それを精霊の幻影達は観察するように見ていたが、突如身体を吹雪に変えイレギュラーズの間を通り過ぎると、後方で実体化。
 攻撃して来ようとするが、その分隙が生まれる。
 それを逃さず鈴音が攻撃した。
「不意討ちなんてさせないよ!」
 神聖なる光を連続して叩きつける。
 まともに食らった精霊もどきは距離を取ろうとバラバラに散ろうとするが、それより早く鈴音が熱砂の嵐を作り出す。
「これで、どうだ!」
 敵の動きより早く、鈴音が熱砂の嵐を操った。
 精霊もどき達は熱砂の嵐に身をよじり逃げ出そうとするが巧くいかない。
 そこにイレギュラーズ達は集中して攻撃を叩き込み一気に倒した。
 倒し終り、軽く疲労し怪我をした者も出るが、フリークライが回復する。
「鉄帝 冬デモ草花アル」
 魔力を励起し、皆を祝福し回復させる。
「寒サニモ負ケナイ生命ノ力 ココニ」
 皆の生命力を巻き戻すかのような神意の祝福が広がり、戦闘前と変わらぬぐらいに回復した。

 敵を倒し、皆はさらに進む。
 道中、サンディやフリークライ、それにイズマが発光により周囲を照らし、蛍が持って来ていたランタンに火を灯してくれたので視界に不安はない。
 途中で分かれ道や気になる箇所があれば、鈴音が壁に傷をつけ目印にしていく。
 進行ルートは、珠緒が瞬間記憶を元にテレパスで皆と情報共有し、ギフトによる投影で皆の齟齬を無くしてくれている。
 その上でマッピングをしつつ、ファミリアーも使役している。
 なので、どうしても自身の注意が疎かになるが、寄り添う蛍が守ってくれているので問題は無い。
 しっかりと周囲を探りマッピングしながら進み順調に思えるが、そこに敵が次々襲い掛かってきた。

「次から次に、休む暇がねえな」
 跳び掛かって来た幻狼に、圧縮した風を叩きつけながらサンディは敵の強さを分析する。
(確実に強くなってる……フローズヴィトニルに近付いてるってことだな)
 より冷気の強いルートを進むにつれ、敵の強さと数は増している。
 それはフローズヴィトニルに近付いている証であったが、比例して進む負担が増していく。
(これは……回復に専念した方が良さそうね)
 仲間が傷つく頻度が上がるのを見て、ルチアは回復役として動く。
 襲い来る狼の牙を避けながら、癒しの聖歌を響かせる。
 それは皆に届くと同時に、傷を癒し疲労を薄れさせた。
 回復してくれるお蔭で、皆は勢いを取り戻す。
 それを脅威と見たのか、幻狼がルチアに襲い掛かろうとするが、フリークライが身を挺して守る。
「皆 傷付ケサセナイ」
 敵を倒すことよりも仲間を守り癒すことを第一にフリークライは動く。
「ありがとう」
 庇われたルチアは礼を言うと、フリークライの負担を減らすように敵の幾らかを引き付けてくれる。
 それにより余裕が出来たフリークライは仲間の回復に専念。さらに――
「行動阻害 解除スル」
 敵の攻撃で鈍った仲間の動きも回復させていった。

 イレギュラーズは戦闘経験を生かし先へ先へと進んでいく。
 マッピングも行いながら同時に、あとから来る者のことも考え動いていた。
「ラップサーチ&クリア。問題ナシ」
 回復役として動いていたフリークライが、仲間を癒しつつ罠などが無いかも確認して進む。
 幸い罠は設置されていなかったが、あとから訪れる鉄帝軍人達のことを考え、周囲の状況を可能な限り細かく記録していった。
 そうして進む中、分かれ道に辿り着く。

「こっちの方が冷たいから、進むならこっちだね」
 地図に記しながら、鈴音は言った。
 ここまで探索は進んでいるが、敵が強くなってきたせいで疲労と傷は積み重なり始めている。
(う~ん、探し物はあきらめたときにみつかるのもよくあるらしいから、まだ先に進んだ方がいいんだろうけど)
 凍気に対する耐性があってなお、寒さを感じそうな冷気が深まる中、元凶たるフローズヴィトニルの恐ろしさを予感させる。
(フローズヴィトニルが、どんな形だろうと回収はしたいけど……まぁ、悪しきわんわんだったら抱っこして帰ればいいかなっ)
 ひょっとすると抱っこできる大きさでは無く埋まるぐらいデカいかもしれないが、確保はしたい所だ。
 フローズヴィトニルを求め、さらに地下道を進み、新たな敵がどんどん湧いて出る。
「次から次に、休ませてくれないね!」
 虚空からにじみ出るように突如現れた幻狼を、鈴音は大盾で押さえつけると魔導書で脳天ストライク。
 鳴き声を上げ怯んだ隙を逃さず、他の幻狼も合わせて熱砂の嵐で捕え縛った。
 敵の一団を抑えるが、それだけでは止めきれないほど数が多い。
 しかも強さが増す敵の群れを、珠緒と蛍が連携して崩す。
(戦闘はきついですが、これはフローズヴィトニルに近付いている証……!)
 一歩も引くことなく、珠緒は前に出て敵を撃つ。
 青い衝撃波を立て続けに放ち、体勢を崩した所で高威力の破壊の魔術を叩き込む。
 確実に一体一体仕留めていき、自分に敵のヘイトを引き付ける。
 当然、複数の敵が押し寄せるが、そこに蛍が飛び込む。
 桜の花びらを思わせるオーラを舞い散らせながら聖剣を振い敵を斬り崩す。さらに――
「珠緒さん、今の内に!」
 桜の結界を展開し敵を引き付ける間に、珠緒が回復する猶予を稼ぐ。
「ありがとう」
 珠緒は蛍の助けを借り、敵の生命リソース情報に侵入。
 敵の体中から桜の花を咲かせ散らすと、奪った体力を取り込み回復した。
 その間も蛍は攻撃を受けるが一歩も退かない。
(ボクはいくらでも回復できるから、一番体を張って、ボクにはできないことをしてくれる仲間達を守る)
 それは彼女にとっての誉れでもある。
(この身に受ける傷こそボクの貢献、ボクの誇りよ!)
 その強い信念は、誰かのことを思ってのもの。
(今回の成果が鉄帝国民の希望に必ず繋がるはず!)
 明確な意志で自身を支え、珠緒を守りながら蛍は戦い抜く。

 その甲斐もあり敵を倒し、さらに進む。
 しばらく進むと、開けた場所に出た。
 そこは複数の通路が交わる交差点のような場所だった。

(この広さならベースキャンプに出来る)
 周囲を確認し、イズマは判断する。
(可能なら陣地を作っておきたい所だけど……それに少し休んだ方が――)
 連戦で疲れた体を休めるため、火を起こすことを提案しようとした時だった。
「っ! 新手だ! 数が多い気をつけて!」
 複数の通路から、今まで以上の数の足跡が聞こえてくる。
 皆が即座に戦闘体勢を取ると、間髪入れず敵の群れが襲い掛かってきた。
(これは――そろそろ厳しいな)
 魔空間で敵を纏めて飲み込み潰しながら、イズマは判断する。
「撤退しよう、殿は任せろ!」
 イズマは仲間に呼び掛けると、敵の群れの只中に跳び込む。
 同時に、優美に紡がれるメロディを響かせる。
 それを聞いた敵の群れは、一瞬惚けたように動きを止めた。
 僅かな猶予。
 だがそれを逃がさず、皆は撤退戦を開始。
「退路の確認をする! あとに続けてくれ!」
 サンディが退路に敵がいないか確認するため走り出す。
 彼を補助するように、ルチアと鈴音が追走。
「大丈夫! 敵影は無いわ!」
「撤退できるよ!」
 2人の呼び掛けが響く。
 残った者達も撤退しようとするが、優美な旋律に魅了されていた敵が正気に戻り襲い掛かってくる。
 それをイズマが魔力で作り出した泥で拘束。
 だが数が多く止めきれない敵が出るが、華蓮が神の力宿る矢を射り止めてくれる。
「慌てず撤退しましょう……大丈夫、うちの神様の加護は強いのだわよ」
 皆をあわてさせないよう、あえて落ち着いた声で呼び掛けながら後退する。
 撤退の猶予が出来た所で、イズマは泥で捕えた敵を魔空間で飲み込み圧縮。
 そのお蔭で一端敵の勢いが落ち、イズマと華蓮が撤退を開始する。
 しかし敵が更に現れ、それを珠緒と蛍が引き受けた。
「大丈夫、進んで下さい」
「ボクたちも、すぐに行きます」
 追い駆けてきた敵を珠緒と蛍が切り崩し、勢いが落ちた所で後退。
 当然のように敵が追い駆けて来るが、そこでイズマと華蓮が殿を交代して引き受ける。
 それを繰り返し傷を受けていくが、フリークライが全力で回復してくれた。
「皆 回復スル。守ルカラ大丈夫」
 時に身体を張って庇ってくれるフリークライの助けを借りながら、皆は鉄帝軍人達のいるベースキャンプまで戻ることが出来た。
 疲労困憊ではあったが軍人達に守られ体を休め、無事に帰還することが出来たイレギュラーズ達であった。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
皆さまのお蔭で、フローズヴィトニルに近付くためのルートが今まで以上に更新されました。
鉄帝の軍人が、そこからさらに進むため、継続して進行を続けているようです。
道中の敵の強さなども分かったので、鉄帝の軍人達は助かっているようです。

それでは、最後に重ねまして。
皆さま、お疲れ様でした。ご参加、ありがとうございました!

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