シナリオ詳細
<腐実の王国>餓狼は懸念し、銀鷹は渦中に鳴く
オープニング
●能ある鷹は爪を隠す
――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。
聖遺物は黒ずみ、天使は毒の涙を流した。
銀は腐食し、木枯らしは国の揺らぎを笑いながら去っていく。
美しき白亜の街『エル・トゥルル』にもほど近きノルトケルクは混沌の坩堝とかしている。
ネメシスを侵す新たなる影の侵攻、或いはそれは滅亡こそが『正史』であると語るもの。
「はっ――この程度だとはな」
夥しいまでの血痕を払い、男は静かに屍を見下ろす。
「天義の聖騎士、この俺に牙を剥いた、愚かな息子らよ」
男は屍に懐かしい顔を見つけて冷笑する。
男の名はナルシス。ナルシス・ベルジュラック――偽なる天義を否定する者。
誠なる予言の遂行者、その一人となった者。
その瞳はどこか猛禽のような鋭さを見せる。
「天の定めに違おうとするから――こういう目に合うのだ、友よ」
屍と化した嘗ての友人を踏みつけた。
微かな抵抗の後、嫌な音が町の中にこだまする。
「――愛おしいとさえ思えるな、この混乱は」
露骨に広がり行く狂気の伝播。
人々は理解不能な言語で喚き、恐れ、人を殺して血を啜り、神に祈りながら血だまりを作る。
「待っていろ、天に違った愚かなる我が息子よ。
――時期に、貴様にも教えてやる」
●行方知らずの鷹将
小高い丘の上、街道を見下ろすようにその町はある。
町の中心に存在する城――防衛拠点にして領主の館からリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は城壁の内側、町の中を見下ろした。
「ここに来るのは2度目ですが……改めて見ても築城主の趣向がよく分かりますね……」
リースリットは小さな、けれどデザイン性に富んだその城に感想を述べる。
以前に訪れた際、初代が築城にあたり異世界の建築様式を取り入れたのだと言っていたか。
城壁の外、門の前面に設けられた棚田は戦時には柵を設けて防衛線に、背面を流れる小川と森は天然の要害に。
そうして平時は城壁とのどかな原風景が観光物として生まれ変わる。
それらの景色を思い出しながら待ち時間にと用意された紅茶を楽しんでいると、声をかけられた。
返事をすればすぐにここにきた理由――領主が姿を見せる。
「お久しぶりですね、ファーレル嬢」
「お元気なようで何よりです。ベルジュラック卿」
お互いに礼を示せば、どこか飢えた狼を思わせる風貌の青年――シルヴェストル・ベルジュラックは微笑する。
「ご足労いただきありがとうございます。
たしか、前回はお見舞いに来ていただいた時ですね」
握手を交わしてから、再び席に着けば、リースリットはその時の事を思い出していた。。
一年近く前、天義で起きていた内部抗争の一幕でリースリットを含むイレギュラーズ数名はこのベルジュラック領に訪れたことがある。
その時は残念ながら不甲斐のない封魔忍軍の一部隊を手助けし、怪しかったシルヴェストルと交戦したものだ。
リースリットはその後、一度だけこの領地にお見舞いがてらに訪れた。
その時は良くも悪くも特に何もなく終わった。
「お互い多忙でしょうし、早速になってしまいますが本題に参りましょうか」
シルヴェストルはそういうと、狼のような雰囲気を更に尖らせる。
その様子はどこか疲労を押し隠すようにも見えた。
「ファーレル嬢はローレットの方ですし、もう例の神託については聞き及んでおられると思います」
例の神託――現行の体制を偽者と糾弾するが如き神託のことだろう。
「しかも、ヴィンテント戦線では少し前まで鉄帝国方面に出張っていた連中が姿を見せているとか」
「情報が早いですね」
「色々とありまして……今回ばかりは大急ぎで情報を集めているところです」
「……ふむ。ベルジュラック卿が謀反を起こそうとしているという噂がある。
それが以前に封魔忍軍が貴方を暗殺に来た時の理由でしたね。
ですが、冷静になってみれば、貴方が軍備を増強すること自体におかしなところはない」
個人としては他人事では済ませられないが、全体としては心情も理解できはする。
ここ数年の幻想王国は、数度に及ぶ動乱が起こっては鎮められている。
降りかかる火の粉を振り払うためにも近隣の領主が軍備を増強するのはそれ自体はおかしくはない。
「実を言いますと前回の封魔忍軍は確かに惜しいところまで来ていました」
「……謀反を、考えていたということですか?」
「いえ。私は考えたこともありませんよ。順番が違うのです」
声のトーンに僅かに緊張が走ったリースリットに気付いたのか、シルヴェストルはすぐさま否定の声を繋いでくる。
「順番が違う……もしかして貴方が先代を追放したのは」
「……ええ、先代の当主は――私の父は、この国に弓を引いていた。
謀反の計画に気付いた私は、その過程で生まれていた裏帳簿を理由に父を追放しました。
謀反で家ごと潰されてはかないませんが、所領没収よりはマシです」
「……軍備を増強していたのは、お父君の反撃を恐れて、ということですか」
リースリットの言葉に、こくりとシルヴェストルが頷いた。
「ふむ……ですが、なぜ今になってその話を?」
「ここからが本当の本題になると言えましょう。
私はこれまでずっと、父を――ナルシス・ベルジュラックを監視させてきました。
今まではその把握していたのですが、この数日のうちに父が私の監視網から逃れ姿を消しました」
「なるほど……どこで消えたのか、一応お聞きしても?」
「ヴィンテント海域に面する白亜の街――『エル・トゥルル』。
聖遺物である『啓示の書の切れ端』を持ち、そして此度の騒動のど真ん中にある街で」
「貴方自身が動けば逆に厄介なことになるでしょうね。
ローレットへの依頼はお父君の捜索ですか」
戦場に出向くのが仕事の1つでもある聖騎士とはいえ謀反の嫌疑があり――しかもそれが代が違えど事実であるとならば。
そんな人物が渦中のど真ん中の町に行くわけにもいかない。
「……私達が動けば、お父君が実際に謀反を起こそうとした――あるいは起こしているということも露見するかもしれませんが」
「――以前にも申し上げたでしょう? 私は、ローレットに賭けてみることにしたのですよ」
飢えた狼はそう言って疲労を隠し切れぬ笑みを浮かべた。
- <腐実の王国>餓狼は懸念し、銀鷹は渦中に鳴く完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年02月04日 00時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ノルトケルクと呼ばれるその町は、いつもであれば潮風の香りや町の飲食店から流れる香りで気持ちが良いのだろう。
だが、どこかで火事でも起きているのか、物が焼けるような臭いや血の臭いに満ちている。
「――――! ――!? ――!!」
「――――!?」
飛び交う言語を介することはできない。
「――!!!! ――!」
ある者はある者を手にした凶器で殺害し、またある者は建物への強盗を繰り広げる。
(……エル・トゥルルから伝播した? あり得ない話ではないと思うけれど、
この状況は……幾ら何でも広がるのが早すぎる)
正常ならざる状況に『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は思案する。
「偶然とも思い難い。
ナルシス・ベルジュラックの件もありますが、見過ごす訳には行きません」
リースリットは動き出そうとする仲間に何となく声をかける。
「ええ、たどり着く前にこんなことが起きているとは、見過ごせないですね」
その様子に『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は思わず呟く。
「親子の確執というのは理解できませんが……
一体この街で起きている事と何の関連性があるのでしょうか……」
シフォリィは小さく首を傾げる。
「とりあえず、こそこそ何かしているナルシスさんとやらを引きずり出せば良いのでしょう?
他人の企みを邪魔するのは楽しいですからねぇ、ぜひとも協力させていただきますよ」
そう言って微笑む『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)の言も正しいもの。
「餓狼、とは適当な理由をつけてはすぐ喧嘩する人によくつけられるあだ名ですが、そのようには見えませんでしたね」
ぽつりと呟くのは『何度でも手を差し伸べて』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)である。
(わたしは少しくらい喧嘩早い肉体派の男性の方が好みですけどね)
1人を示してそうな言葉は呑み込んでおいた。
「シルヴェストル卿は謀反など考えていなくて。
それを企てていたのは御父上だった……?
更にその御父上が姿を消して……? じょ、情報量が多いですね!?」
混乱しているように見える『忠犬』すずな(p3p005307)は前回の依頼でシルヴェストルと戦ったことがある。
「ええと。先代さんが悪い奴で、それが逃げたと……? 多分、概ねあってますよね?
それと、町の人たちもなんか変なことになってると。……うーん。とりあえず、調査……ですよねぇ」
依頼人との会話を振り返りそういうのは『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)だ。
「なるほど、つまりシルヴェストル卿の御父上は悪い人! すずな覚えました!」
纏めなおした話にうんうんと頷いて。
「逃げた元騎士と……狂い始めた民、ねぇ
無関係な訳はなさそうだわな……めんどくさいが、まずは捜索から、か」
後頭部で手を組んでいた『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)は周囲を見渡してから呟く。
そのまま、視線をドレイクチャリオッツに向ける。
ここまでの旅路で足にしていたドレイクたちは鎮圧した暴徒を一時的に匿う程度ならできるだろうか。
(記憶喪失でしたから当然の様に思っていましたが、
言語はそれぞれ違うんですよね、私達)
暴動を引き起こす連中の声を聞きながら、『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)はのんびりと言う。
(それが世界法則であり、反しながら意図が通じるなら滅びのアークに関する物か……考えても仕方ないですね)
何より、冠位強欲の権能にも似た存在が同時に発生しているのなら猶更であろう。
「しかし、流石に数が多いですね……
やはり、何某かの理由がこの街にある、と思っておいた方が良さそうです。
神託で始まった事態なら、教会の類も確認しておいたほうがいいかもしれませんね」
「それなら、ひとまず話を聞きながら教会に向かって行ってみるか?」
「そうですね、千里の道も一歩から。今やれることを一つずつ、です!」
リースリットに頷いてミーナが言えば、それにすずなも肯定する。
「ええ、何はともあれ暴動を鎮圧しつつ動かねばなりませんね」
すらりと愛剣を抜くシフォリィが動き出せば、そうしてできた共通見解にイレギュラーズは動き出す。
●
「ぁ、う……」
「ちょっといいでしょうか」
怯える女性へ声をかけたのは小麦色の肌の少年。
どこか甘い香りを漂わせるそれは、人型の姿を取ったベークだ。
「落ち着いてください。僕は暴れている人たちとは違います。
少し聞きたいことがあるんです……どこかで聖騎士風の男性を見ませんでしたか?」
「聖騎士……? えぇっと……騎士団支部はこの町にはなかったかと」
「そうではなく……暴れてる人達がいつ頃から増え始めたか覚えてますか?」
「それは……たしかこの数日のはずです」
「数日ですか……ありがとうございます。
どこかに隠れていてくださいね」
ベークがお礼を告げた時だ。
女性が目を瞠り、背後から意味の分からない言葉が聞こえた。
後頭部への痛みに振り返ればそこには多数の暴徒の姿。
「トドメを刺すとかはしませんが、
攻撃しちゃうと間違って殺してしまいそうなので攻撃はお任せしますよ」
甘い香りを漂わせながら、ベークは告げる。
無軌道な暴動を起こす暴徒たちは、その香りに釣られるようにベークを追ってくる。
「聞けるなら聖騎士然とした方を見なかったか、とか聞くのですが……望み薄そうですよね。
今のままだと言葉通じてませんし……」
意味不明の言葉を語る彼らの存在を見やり呟いたすずなは、攻めかかってきた暴徒の鳩尾を思いっきり石突きで殴りつける。
(そもそもノルトケルク、エル・トゥルルの何れかで遭遇出来るのか、という問題もありますが……)
思いながらも、殴りつけてきた女をさらりとかわして見せる。
「やはり、ひとまずは眠らせるべきですね」
続けてリースリットが緋炎を振り払う。
眩く輝いた炎が聖光を放ち、暴徒を鎮めてみせる。
「まぁ、賭けられただけの努力はしましょうか」
リカは既に夢魔としての本性を露わにしていた。
夢魔の妖眼が金色に輝き、ウインクと共に暴徒たちが訳も分からぬ声をあげる。
「ふふ、何言ってるかわからないケドこうして縛れば可愛いものね?」
訳も分からぬ声をあげながら突っ込んでくる暴徒に対してリカは嫣然とした笑みを浮かべてみせる。
「この町に果たしてナルシスがいるかどうかもわかりませんが、
姿を消した事と前後してここで起きたのは偶然とは言い難いです」
シフォリィは複数の暴徒たちへと走り抜けた。
閃光を以ってその眼を眩ませ、そのうちに鳩尾を撃ち抜いていく。
「少し痛いかもしれないが、我慢してくれよ」
それに続いてミーナが蹴戦を駆使して蹴り飛ばしてやれば。
「心理的には重要な場所ほど守りを固めるか、逆に薄くするはずだが……」
暴徒たちの挙動はかなり無軌道だ。
守りの厚薄は感じられなかった。
「魔種のせいで暴れている人たちを殺すわけにはいきません!」
ココロはウルバニの剣に魔力を籠めて振り払う。
斬撃を描いた魔力は聖光となり、流星の如く尾を引いて迸る。
人々を打ち抜いた光は瞬いてその身動きを鎮めて行く。
●
「町の人が暴れだしたきっかけは知ってますか?」
一際大きそうな暴徒の集団が鎮圧された後、意識を取り戻した男性にココロは何となく声をかけてみた。
「い、いえ……よく覚えてません」
「……でしたら、頭の中に誰かが直接話しかけられた経験は?」
「ぁ――そ、そういえば、そんな感じのことは経験しました。
あれは確か……あれ? いつだっけ……今日は、何日です?」
混乱しているのだろう、首を傾げる男性へ落ち着くように話しかけていく。
「……最後にもう1つだけ。
ここ数日、なんでもいいので何か印象的な単語、あるいは出来事を覚えてませんか?」
「……そういえば、聖書の説教があった気がします。
でも説教者みたいな雰囲気の人じゃなかったことは覚えてます……」
「それはもしかして……騎士風の人ではありませんでしたか?」
「……たしかに、どちらかというとそんな雰囲気がありました」
ココロの問いかけに男性は目を瞠って驚いた様子を見せる。
(やはりナルシスさんがこの騒動の元凶なんでしょうか……)
鎮圧された暴徒の様子を確かめ、ウィルドはその1人の前に立つ。
「さて、また訳の分からない田舎訛りを使ったら、少々痛い目を見ると覚えておきなさい」
「ひっ!?」
浮かべた笑みと選んだ言葉に元暴徒は怯えたように声をあげる。
「ま、アナタがナルシストやらに利用されてしまっただけというなら相応に丁重な扱いをしますが、
庇いたてするなら……ククッ、言わなくてもわかりますね?」
「な、なんのことだよ……意味わからねえ!」
試み続けたリーディングも状況が理解できないとばかりに混乱し続けている。
少なくとも、『嘘』ではあるまい。
(仮にこの町にいるならば私達に敵意を見せるはず……)
シフォリィはエネミーサーチを試みていた。
狂気に落ち、無軌道な動きを見せる暴徒とは別に動く、こちらへの敵意。
「……あれは」
微かに触れた気配にシフォリィは顔を上げる。
その影は動いていない。
しかもそこは、こちらが目指している目的地――教会だった。
●
シフォリィのエネミーサーチもあり、暴徒を倒しながら進んだイレギュラーズは教会に訪れていた。
教会の中、祭壇の手前にその男は立っていた。
「ナルシス・ベルジュラック。この状況は……貴方は、何者です」
見つけ出したナルシスにリースリットは問いかけた。
「何者、だと?
そうだな、自己紹介ぐらいはしてやろう。
私は神の意志と託された命に忠実に従う者。
予言を形とするべく遂行する者だ」
「……遂行者、と呼ばれているのは貴方のような者ですか」
「知っているのではないか。ならば話は早かろう」
静かに言ったナルシスへ、リースリットは視線を下げる。
そこには、魔導書のような物が1つ。
禍々しい雰囲気を持つそれは尋常の物では無かろう。
「この現状……貴方の手にあるそれが原因ですね」
「隠す必要もないか。
これは美しき白亜の町『エル・トゥルル』より持ち出した聖書の写本だ。
汚染された聖書より語れる救いに蒙昧なる連中も喜んでいるらしいな」
シフォリィの詰問に、ナルシスが笑いながら答える。
「……つまり貴方を倒せば問題はない、という事ですね!」
一気に駆けだしたシフォリィは剣を振るう。
夜の闇を思わせる漆黒の太刀筋はナルシスの持つ剣と競り合い、男の聖書が輝いた。
反撃の魔弾がシフォリィの体に浅く傷を入れる。
「そうですね……貴方がどのような存在であれ、魔種に加担するならば打ち倒すのみです!」
握りしめた緋炎へ魔力を籠めれば、描かれるは災厄の如き祝福。
苛烈なる炎と氷塊が一斉にナルシス目掛けて放たれた。
「――なるほど、英雄というだけはある。
あの愚息が賭けると言い放ったらしいのも、事実だろうな」
迫る壮絶極まる魔術に対して、ナルシスが笑うような声があった。
刹那、迫った炎と氷塊が切り開かれる。
裂けた一部がナルシスの身体に傷を与えた直後、魔導書が輝きリースリットへと傷を刻む。
「子供がいるのに誘惑するのも気が引けなくはないケド……
逃がすわけにはいかないわ。
大人しく私に捕まって? 人なら、ね……」
リカは一気にナルシスへと肉薄する。
放つは夢魔の秘奥。
夢の女王が齎す妖艶なる誘いは、ナルシスの注意を引きつける。
「――穢れた偽史の誘いなど、一考するまでもない」
放たれた脚がリカの腹部を打つ。
その威力は並みの人類のそれではない。
「――加減は、できないわよ」
刹那、リカはグラムを抜いていた。
「なるほど、元聖騎士だというその実力。確かめさせて頂きます!」
静かに構えるすずなは一つ呼吸を入れる。
空気に溶けるように、白刃が『氣』を帯びる。
「――いざ、尋常に」
刹那に爆ぜるように閃くは無数の如き百花の斬撃。
数多の剣閃は1つ1つを恐るべき太刀筋。
描き出す紅蓮の華、壮絶極まる連撃の剣閃。
「――ほぅ凄まじい剣技だ」
数多の傷を描いた斬撃の直後、白刃がすずなに迫る。
真正面から浴びかけたそれを避けれたのは天運と呼ぶべきか。
(油断していると首を掻かれかねませんね……)
ピリリとした殺気を感じながら、すずなは剣を構える手に緊張が走る。
「遂行者だかなんだか知らないが、手加減はしない!」
ミーナは一気に肉薄していく。
「そうか――なら、こちらも手加減をせずにいてやろう」
その身を屈め、死神の大鎌を振るう。
鮮やかに撃ち抜く紅の乱舞はミーナの十八番ともいえる大技。
横に引くように払った斬撃は布石。
影に潜んだ剣がナルシスの首を狙って伸びる。
「――搦手としてはやる」
打ち上げられた青い空のような剣身が導き出した隙。
ミーナはもう一歩踏み込んだ。
希望の剣を振り払い、鮮やかに描いたナイアガラデッドエンド。
壮烈にして苛烈なる連撃の斬光がナルシスへと瞬く間に振り下ろされていく。
「こそこそ動くなら最後まで隠れていたほうが賢明ですよ?
まあ、どこに逃げようが引きずり出すつもりでしたけれど」
ウィルドはそういうと、ナルシスの眼前へと立ちはだかる。
巨壁の如き体躯を以って押さえ込みをかけるようにプレッシャーを与えていく。
「は、ならば捕まえてみるがいい」
挑発に返ってきたのはそんな言葉だった。
「貴様の言う通り、こそこそ動くなら最後まで隠れている方が賢明だな。
――だから俺はいまここにいるわけだが」
「それは貴方の計画は最終段階というわけですね?
ならば残念ですが、ここで貴方の計画は終わりという事です」
「ふ、この程度で私を抑え込んだつもりになっている男が――何かするとでも?」
「えぇ、どこまでもどのような企みでも、邪魔をするのは私の楽しみの一つですからね」
笑みを浮かべたウィルドに対して、ナルシスも薄く笑むばかりだった。
「なぜ、罪もない人々にわざわざ暴動なんて引き起こさせるのですか?」
ココロは胸の奥へ熱を帯びながら、ナルシスへ問うた。
「奴らは聖書の導きを受けて偽りの歴史に抗う者だ。
罪があるとすれば、生きて生まれたこと。
我らは尽く、生きとし生きる事が罪だ」
「生きることが罪だなんて、そんなはずないでしょう!」
熱を帯びる心に合わせて、ココロは全霊で術式を放つ。
放たれた魔術は小さな不死鳥となり、前線でナルシスと向き合う仲間の傷を癒していく。
「偽りの歴史に生きる英雄よ。
どれほど思おうと、道は違われた。故に平行線だ」
ナルシスは静かに言うと、ココロへと剣を突きつけた。
魔弾が閃き、ココロ目掛けて放たれる。
「とはいえ、今回は実験だ。
これ以上長居するつもりはない。退くとしよう。
あぁ――だが、私の名を知っている風であったこともある。
恐らく、貴様らはあの愚息を知ってるな?
伝えておけ。俺は貴様に奪われた物を取りに行く、とな」
そう告げた刹那、ナルシスの携える聖書が禍々しい光を放ち――その姿が掻き消えた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
アフターアクションありがとうございます。
長らくお待たせしました。
●関係シナリオ
『沃野の餓狼』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7535
●オーダー
【1】ナルシス・ベルジュラックの捜索
【2】ノルトケルク暴動の調査。
●フィールドデータ
美しき白亜の街『エル・トゥルル』にもほど近い町『ノルトケルク』
『エル・トゥルル』への巡礼者や旅行者が立ち寄る宿場町的性格を持っています。
皆さんはナルシスの行方を捜索するため『エル・トゥルル』を訪れる手前で今回の騒動に遭遇したものとします。
どちらかというと内陸よりにあるため海を見る事こそ叶いませんが、
空気の良い時や風が吹いている時は時折潮風の匂いを感じたりもする町でした。
現在は『崩れないバベルで解析できず、理解不能な言語で』会話する町の人々が急増し、
狂気にかられた行動によって治安が地の底をついている様子。
●エネミーデータ
・『沃野の銀鷹』ナルシス・ベルジュラック
関係シナリオにおいて登場し、当シナリオの直接の依頼人であるシルヴェストルの実父。
ベルジュラック領の先代当主であり、
謀反を企てシルヴェストルによって追放、監視下に置かれていたとのこと。
前段シナリオでシルヴェストルが寄せられた謀反の嫌疑も彼の代の思惑が何故か今になって露見した物でした。
かつては天義の聖騎士を務めていた人物だけあり、非常に高スペックなことだけはたしかです。
エル・トゥルルにてシルヴェストルの監視下を逃れ行方をくらましています。
謀反を企てた理由は不明。
・ノルトケルク暴徒×???
遺失言語-異言(ゼノグロシア)-を介する狂気にかられた一般人の皆さん。
殺すなり不殺で倒すなりすれば正気を取り戻します。
呼び声にかられるままに殺人などの犯罪行動を繰り広げています。
そもそもなぜ『エル・トゥルル』の外にあるこの町で騒動が起こり始めているのかも不明です。
●NPCデータ
・『沃野の餓狼』シルヴェストル=ベルジュラック
どことなく飢えた狼を思わせる穏やかな聖騎士の青年。
天義と幻想の国境付近に小さながら肥沃な土地を有する領主です。
野心家であり、天義で起こっていた保守派と改革派の派閥騒動で保守派に立ち、暗殺をされかかり派閥争いから没落しました。
本当は事件を機に両派から離れることこそが狙いだったらしく、以後はローレットの皆さんに賭けているとか。
今回の予言で父が行方をくらましたことに懸念を抱いています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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