シナリオ詳細
<腐実の王国>私の為に誰かを救いたくて
オープニング
●予言の書
――『主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。
我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ』
天義に降りた新たなる神託は現行体制たるシェアキムや騎士団を苛烈に糾弾するものであった。
当然の如く敷かれた箝口令はあれど、噂は回るものだ。
それが異端審問官たる男の元であったなら、なおさらであろう。
「――やはり、この国は間違いであった。
定めに抗い、揺らいだ国など、切り捨てて当然である」
その男の名はディオニージ・コンティノーヴィス。
異端審問官にして聖騎士を務めるコンティノーヴィス家の当主である。
「……邪教の娘」
冷たい純黒の瞳が静かにフラヴィアの方を向いた。
「……はい」
手慰みとばかりに殺気をあてられながら、フラヴィアは震えそうになる声を抑えながら答えた。
「貴様の国も、終わろうとしているらしいな」
フラヴィアはアドラステイアの子供達によって構成された傭兵部隊、オンネリネンだ。
今、ローレット主導のアドラステイア討伐は最終段階になっているという。
雇用契約があり、ティーチャーからの要請もなかったフラヴィア隊は、まだコンティノーヴィスにいた。
いや、より正確に言うのなら、そもそもアドラステイアに戻れない――というべきか。
思い起こすはフラヴィアの部隊がフラヴィア含めたったの4人になってしまった日。
魔種の蹂躙を奇跡的に助かった命を思い起こして、フラヴィアは声にする。
そうするしか、残ってないから。
「それでも信仰は、途絶えません」
「邪教如きが信仰を語るな!」
しまったと思った時には既に男が投げたインク壺がフラヴィアの頭部にぶつかっていた。
痛みに思わずディオニージを睨みそうになって目を伏せる。
つぅ、とインクが目に入って黒い涙を作り落ちていく。
「反応のつまらん小娘だが……まぁ、よい。貴様に仕事をやる」
身体が震える。
この傲慢で冷酷な人を人とも思ってないような男が、次に何を言うのかなんて――もうたった1つだけしかない。
●懐かしくて悲しくて
フラヴィアと子供達。
それを先鋒――体のいい捨て鉢にディオニージ・コンティノーヴィスの私兵が如き聖騎士達は進軍する。
目指すべき先は『ラメール・シェーラ』――美しき海を臨む港町。
そこへと至る道中に存在する名もなき小さな集落にて、コンティノーヴィスの軍勢はある者達と遭遇していた。
「あ、ぇ、ぁ――ぅ」
フラヴィアの口から零れたのは、意味のない言葉。
「そんな、そんなわけない! だって、だって――どうして?
どうして、お父さんとお母さんが――ここに……?」
視線の先には此処にいるはずの人達が立っている。
それはどこか、『冠位強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテが権能、月光人形の如き有様。
夜のような闇色の瞳と髪をした青年と、成長したフラヴィアのような印象を受ける女性。
2人ともどこか聖騎士を思わせる装いをしていた。
まるで、影で出来た天使たちを守るように。
「――何を止まっている」
後ろから聞こえてきたのは聖騎士達の声だ。
「……なんでも、ありません、きのせい、です」
フラヴィアは、後ろから感じる死の気配に衝かれるように、声にした。
(お父さんも、お母さんも、『冥刻のイクリプス』事件で戦死した。
だからこんなところにいるはずない。じゃあ……こいつらはなに?)
「フラヴィアお姉ちゃん……」
不安そうにこちらを見てきた子供に動揺を悟らせまいと、フラヴィアは剣を取った。
●
「皆さん、ディオニージ・コンティノーヴィスの事、覚えておいででしょうか」
ローレットに集められた5人のイレギュラーズは、集めた相手――シンシアからそう問いかけられた。
「……あの1年位前にあった依頼の男だね?」
マルク・シリング(p3p001309)は少し考えてからそう言う。
「あの時の魔種でありますか……あの時は、子供達を守り切れなかった……」
そう言葉に漏らすムサシ・セルブライト(p3p010126)はその時に全てを見届けた男だ。
「あの後も動向は気にするようにしてたけど……」
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)も首を傾げる。
ここに集まった5人はその一件にてディオニージなる人物が魔種であると看破していた。
「早期に叩けたら良かったんだけど」
「それは証拠が不十分な状況では難しいそうです。
天義の異端審問官が魔種だったなどというスキャンダルは危険すぎるとかなんとか」
マルクの言葉にシンシアは項垂れながらそういうと。
「――ですが、彼が動いたとの話があります。
天義で新しい神託があったことはご存知でしょうか?」
「箝口令が敷かれていて詳細は不明という事のようですが、
なんでも今の天義を糾弾する内容だとか何とか?」
小金井・正純(p3p008000)が声を落としながら言えば。
「そういえばディオニージは今の天義の在り方は不満なんだったか」
そう言ったのはジェイク・夜乃(p3p001103)だ。
「コンティノーヴィス家の軍勢が幻想との国境に向かって言っています。
彼は異端審問官でもあるので、神託を入手できてもおかしくありません。
多分、今回の遂行者? と手を組むつもりなのでしょう」
「俺はもう1人の魔種の方も気になるんだ。何か情報はないのか?」
「そうですね……シンシアさん、エルヴィツィオの方は……」
ジェイクや正純はその依頼で遭遇したもう1人の魔種を追うつもりでもいたが。
「そちらは……分からないようです」
そう言ってシンシアは力なく首を振って、改めて顔を上げた。
「それでも、おふたりなら力を貸してくださると思うんです。
――今回のコンティノーヴィス隊の先鋒は……前回の戦いで生き残った子供達だそうです」
「……あの子達か」
ジェイクは荒ぶる様子をみせる。
「お願いします、皆さん。
今度こそ――今度こそ、子供達を助けたいんです。力を、貸してください」
魔種の攻撃を受けて、それでも何とか助かった、数少ない命。
それを捨て駒のようにするつもりなのだろう。
そういう手合いであることだけは――以前の戦いから理解できていたことだ。
- <腐実の王国>私の為に誰かを救いたくて完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年02月02日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●暗中にて
寂れた村と表現するにあまりある小さな集落には、人の気配がなかった。
それは巷を騒がせるヴィンテント戦線の影響か、あるいは姿を見せた影なる天使らのせいなのか。
(……落ち着いて、私が落ち着かなきゃ、あの子達が……
う、うん。大丈夫、あれは嘘っぱち。きっとそう……そうだよね……?)
フラヴィアが取った剣は未だに震えるままで、お父さん――にしか見えないナニカが剣を振り上げた。
それに合わせて影の天使たちが動き出す。
「お父さん……?」
フラヴィアが反応するよりも速く、影の天使たちが動き出す――その寸前、銃声が轟いた。
「――新手か!? 仕方ない……突き進め、貴様らには退路も無い。
邪教徒め。死んで俺達の糧となれ!」
ジュリオが轟かせた無慈悲な命令に、フラヴィアがキュっと剣を握る手に力を籠めた時だ。
その眼前に、1人の男が立ち塞がる。
「ぇ――」
それは銃声を轟かした『荒くれ共の統率者』ジェイク・夜乃(p3p001103)に違いなかった。
(……形振りなんぞ構ってられるか)
――あの日、死んでいった子供達の事を一度たりとも忘れたことはなかった。
「俺の命に変えてでも、君達を助けよう。
――さあ、おっぱじめようか!」
宣誓の言の葉を紡ぎ、ジェイクは静かに前に出る。
その姿に影の天使たちと指揮官と思しき男女の視線がジェイクの方を向いた。
「情報通りだ! 影の天使達を倒すぞ!」
そう叫ぶ『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)もまた、フラヴィア達へハイテレパスを試みる。
(惑わされないで! 過去に死者の姿を写した存在を僕らは見てきた。
その二人は、君を抱きしめてはくれない!)
驚いた様子を見せるフラヴィアは、ついでどこか納得したような様子を見せる。
(遅くなって本当にごめんね。今度こそ君達を助けに来た。
けれど、今君達が離反の動きを見せると、聖騎士達が何をするか判らない。
そのまま、敵への攻撃を続けて!)
マルクの言葉を聞いたフラヴィアがこくりと頷く。
「無事なようで何よりだね。さて……」
ジェイクの方へと歩み寄った『闇之雲』武器商人(p3p001107)はちらりとフラヴィアの様子を見る。
「ローレット……」
「ヒヒ、あれが何かキミは知ってるのかい?」
「分かりません……でも、あの姿はお父様やお母様によく似てるんです。
お父様もお母様も死んでるのに……」
「故人に似た致命者、かァ。いよいよ冠位強欲の再現らしくなってきたね」
「ローレット……なんだか知らないが、これも姫様のためだ。倒させてもらおう!」
フラヴィアの答えに頷いた頃、武器商人の前に男性体が姿を見せ、滑るような斬撃が武器商人を裂いた。
(……さておき、魔種の手の者がいるとなれば上手く捕らえて情報を引き出したいところだ)
無言で思考を巡らせ、それをハイテレパスに乗せて仲間達へ。
(そういう『仄暗いこと』は我(アタシ)に任せて、キミ達は救うべきを救うがいい)
笑う武器商人に向けて、今度は女性体の斬撃が迸る。
「――妙な手応えですね……」
受け切ってみせた武器商人に女性体が驚いた様子を見せる。
「助けに来たよ……!」
続けるようにフラヴィア隊の間に割って入り、『オリーブのしずく』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は同時にハイテレパスを試みた。
突然の出来事は混乱する少女に一瞬の間を作る。
「貴女は……」
少女が小さく言葉を漏らしたのをフラーゴラは耳に入れた。
フラーゴラの背中に見覚えがあるからだろうか。
他の子供達も突然の新手に驚き、敵陣は警戒するように下がる。
(……あの時は救えなかった。何もかもが足りなかった。
それでもアドラステイアは終わった。
……あの虚構と妄執に囚われた都市は、私たちが終わらせた)
弓を構える『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)は動きの鈍いフラヴィアたちの様子を見てその手に力を籠める。
「……今度こそ本当に彼女たちを救わなきゃならない。
私たちも、シンシアさんもあの時より強くなりましたから……気合い入れていきましょう」
引き絞った矢が影で出来た天使たちへと降り注ぐ中、正純はシンシアへとそう声をかけるものだ。
「――ええ、今度こそ……」
頷いたシンシアがフラヴィア隊をカバーするように走り出す。
「えぇい、何者だ貴様ら……いや、父上から増援など聞いていない。
――であれば、敵と見て構わんか」
聖騎士のリーダー――ジュリオが声を荒げて剣を構え、それに部下であろう兵士達が続く。
「失礼! 拙者達はローレット。
さる者の依頼で小奴等を倒さねばならぬ。
誠に勝手ながらお主達に助太刀させて頂く!」
それに『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)が声をあげれば、こちらに剣を構えてきた聖騎士隊が止まる。
「……ローレット、か。良かろう、どこで話を聞いたかは知らんが邪魔立てはするなよ」
傲慢さを滲ませながらジュリオがそう言って影の天使たちの方へと聖騎士隊と共に動き出す。
絡繰手甲から覗かせた多数の暗器を一斉にばらまきながら、咲耶の視線はジュリオをひたと捉えていた。
(戦場に立つならば子供とて一人の戦士ゆえ情けはかけられぬが……今回ばかりは見逃せぬでござる、か。
とは言えこれは好機。ここで外道の尾を必ずや掴んでくれる!)
(代えの効く傭兵を先に出して戦力調査、或いは消耗を狙うってのはまぁ理に適ってるな……
だが傭兵だろうと子供を使った時点で人間失格だ。
それがアドラステイアのガキどもだろうが同じこと……なんとか邪魔なのを蹴散らして保護してやらんとな)
ティンダロスに跨り飛び込んだ『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)は敵の状況をざっと見定める。
構成された巨大な狼の頭部、果敢なる神狼の突撃が影の天使たちを蹂躙する。
(フラヴィアさん達に……コンティノーヴィス。
今度は負けられない。必ず…救う!
フラヴィアさん達を救い出し致命者を討ち、ディオニージの手掛かりを手に入れる。
厳しい戦いになろうとも、必ず成し遂げる!)
拳を握る『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)の目にはあの時の光景がありありと浮かび上がっていた。
「……姿が似通っているだけにしても、
そうでないにしても……フラヴィアさんにそんな存在を何時までも見せさせるものか」
影の天使には目もくれず、ムサシは一気に女性体へと肉薄する。
「ふむ……何のことかわかりませんが、戦うのであれば仕方ありません」
レーザーソードの出力をあげて斬り降ろせば、女性体の剣が合わされた。
●
影の天使たちとの戦いは順調に続いていた。
奇襲に加えて上手く嵌った戦術により、敵の動きを制限できたのは大きかった。
(ワタシもあの子達と同じようにみえてくれたらいいんだけど……!)
ライオットシールドを立てるようにして構えたフラーゴラは苛烈に攻め立てる影の天使の圧力を抑えながら、歯を食いしばる。
舐めていた飴が砕け、じんわりとイチゴの甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
ドクンと心臓が高鳴りを打てば、脈動に合わせるようにフラーゴラは全身の魔力を空気へ這わせた。
術式を起動した刹那、戦場を可憐なる火花が咲き誇る。
それは宛ら花火のように、美しくそれでいてその身を焼くには十分すぎる。
その身を炎に焼かれながら、一斉に天使たちが舞い上がった。
手を空へ掲げるようにすれば、掲げられた手の先に陣が浮かんだ。
降り注ぐ闇の雨がフラーゴラ一帯を焼きつけた。
「――攻め手にかける相手と戦うのも面倒だな……」
続けて払った斬撃を武器商人に防がれ、苦虫をかみつぶすような声で男性体が短く舌打ちする。
本来その攻撃を受けるはずだったジェイクは、お返しとばかりに男性体の致命者の懐へもぐりこみ、引き金を弾いた。
放たれた銃弾は状況打破を描く凶弾。
「よりによって父親の顔をして攻撃とはな……親は子供達を守るもんだろうが!」
「――――」
答えはなかった。
「可能な数を押し込み、撃ち落とします!」
正純は空へと舞い上がった影の天使へと視線を見やり、弓を引き絞る。
再度放たれる魔弾は天使たちの後背へと迸り、空に風穴を開いて汚泥を顕現せしめていく。
泥の塊に押されるようにして2体の影の天使が空から墜落する。
「追撃は任されよ!」
それに合わせ、咲耶は暗器をばら撒いた。
広域を包む一斉射は男性体の致命者やその周囲を恐るべき斬撃の音色を刻む。
「聖騎士隊の皆様方もお気を付けを」
咲耶は聖騎士隊に警戒されないように声をかけジュリオの隣に近づいた。
「もう一度行くぞ、ティンダロス」
マカライトは愛狼へそう告げれば、ティンダロスが遠吠えの如き咆哮を上げた。
空を飛ぶようして走り出した疾走は木々を騒めかせ戦場を爆ぜる。
斧へ鎖を纏えば、影の天使へとすれ違いざまに斬撃を見舞っていく。
神狼の突撃を思わせる疾走は影の天使たちを覆いに削っていく。
「自分が恨まれることがあろうと、それでも。
彼女を救いたい人がいる! 自分も含めて、それだけは確かであります!!」
ムサシは女性体の致命者へと再びレーザーソードを構えた。
「……いい加減に貴方の相手をするのも疲れてきたのですが」
手練手管で押さえ込みをかけるムサシに女性体の攻撃は連撃が基本だった。
「ブレイジング…マグナァァァァムッ!」
レーザーソードが強烈な火焔を纏い、壮絶なエネルギーを纏う。
それは受け続けた力を反転させるエネルギー斬撃。
それに突っ込んでくる影があった。
最悪の予想として目を瞠ったムサシだが、その影は男のもの。
「く――っ、ベルナデッタ……退け。
連中に2人とも討たれるわけにはいかぬ。
俺は傷を受けすぎた。どうせ燃え尽きる」
「アウグスト――」
「姫様のためだ。俺に気にせず先に行け」
それは男性体だ。
「――わかりました、姫様の為にも」
そういうと、女性体、ベルナデッタは一気にどこかへと消えていく。
「そういうわけだ。姫の為にも……ここからは俺が相手だ」
そう言って男性体、アウグストが再び剣を構えてくる。
「姫と言う単語についても気になるね。素直に教えてくれはしなさそうだ」
武器商人はその手に炎を抱く。
「――よく分かってるじゃないか」
後退を諦め対応せんとしたアウグストに構わず、肉薄。
その手に抱くは無形の刃。
如何なる苦痛も如何なる苦難もソレらの前には意味を為すまい。
その手に抱いた蒼炎の刃が、戦場を一閃する。
「――くっ!」
絶死の刹那、アウグストが前へ押し出すように地面を蹴った。
強烈に輝く蒼い復讐の斬撃が闇色の男を呑みこんだ。
その理由など、ただひとつしかあるまい。
(……情報を持っているとは思わないが、自決を選ぶとはねェ)
(これから君等を虐げた聖騎士達にも攻撃を仕掛ける!
その前に彼らが何か動きを見せるようなら、僕達が守る。だからその時は――)
マルクはハイテレパスでフラヴィアへと声をかけ続けながら、ワールドリンカーの出力をあげていった。
(……アドラステイアは、どうなったのですか?)
フラーゴラのハイテレパスに初めて向こうからの声が乗った。
感情の揺れも感じさせない。あくまでも確認するような問いかけ。
(もう無いよ……)
フラヴィアの言葉に、フラーゴラはそう答えてやると。
(……そう、ですか。もう、無いんですね。私達の故郷は――)
それにフラーゴラは何も言わず、黙すことで肯定を示す。
視線を少し下げれば、フラヴィアの手に小さな力が籠ったのが見えて。
(……大丈夫、ワタシ達が助けてあげるよ)
きっとそう言っておくのが最適解だと思い告げれば、百花の号令が熱を帯びさせる。
「……拙いな、このままでは父上のご命令を達成できなくなる。
連中が天使どもと戦っているうちにラメール・シェーラへむかうぞ。
邪教徒ども、殿を任せてやる。無事に追いつけば斬らずにおいてやろう!」
ジュリオが不意に声を荒げてそう言った。
聖騎士達もそれに応じるように雄叫びを上げ、影の天使たちを無理矢理に突破しようと試みる。
「逃がすかよ」
ジェイクが銃口をコンティノーヴィス聖騎士隊に向けたのはそんな時だった。
粗方の影の天使が倒れた頃合い。
残った個体を斬り捨て、あるいは無視して突破せんとする聖騎士隊を背後から弾丸が襲う。
傷を与える事はなくとも、奇襲銃撃は彼らを立ち止まらせるには十分が過ぎる。
「貴様ら、自分がやっていることを分かっているのか?」
苛立ちを露わにジュリオが振り返ってくる。
「そうか、それが目的か。――おい、邪教徒」
そんなことも知らずにジュリオがフラヴィアへと命じる声がする。
「……はい」
「殿を務めろ」
フラヴィアが子供達を守るように立ち、剣を構えた。
――だがそれは、こちら側に、ではなく。
「……貴様ら、死にたいようだな」
聖騎士隊へと剣を構えた少女の手の震えは止まっている。
「――もうこれ以上、従う理由もありません。
つまり、そちらとの契約もなくなったはず。
……そうですよね」
「あぁ、君達はこんな所で死ぬ為に生まれてきたんじゃない!
フラヴィアと子供達には手を出させない!」
ジェイクが真っすぐに向けた銃口はジュリオを離さず告げた。
「――良いだろう、その傷ついた身体でどれだけやれるか。行くぞ、ローレット!!」
「大丈夫。僕らに任せてくれ」
激情を露わにするジュリオを否定し、ジェイクに肯定するようにマルクは強く頷いた。
「コンティノーヴィス! 魔種に与する者達を僕らは見逃さない!」
一斉に放たれたキューブ状の魔弾が戦場を爆ぜ、世界を穿ちその在り方を零れ落とす。
続くようにして戦場を走ったのは星空を裂く流星の如き一条の閃光。
それは容赦なくその鎧に傷を刻み付ける。
「申し訳ありませんが、この子たちは引き取らせていただきます。
あわせて、そちらの親玉の情報引き出させてもらいましょうか」
残心を経て次を引く正純は静かにそう告げれば。
「――容赦はしない」
放つは星を落とす一条の矢。
星を穿つ魔弾の矢は世界に穴を広げ、冒さざるべき世界の泥を聖騎士達へと齎した。
「――悪いな、そういう話になってたんだ」
2人に続けてそう告げたマカライトの指示に合わせ、ティンダロスが馳せる。
風を切り、葉を攫った神狼の疾走がジュリオ目掛けて駆け抜けた。
その手に握る大斧へ3本の鎖が絡みつき、黒き龍を描く。
龍顎は風を切りって咆哮をたて、ジュリオの身体へと振り下ろされた。
「良いだろう、磨り潰してくれる!!」
振り下ろした斧は盾に防がれ直撃こそ出来ぬものの、解けて散った3本の鎖が盾を迂回して聖騎士の鎧に傷を刻む。
「では、拙者のお相手もしていただくでござる!」
それは既に懐へと潜り込んでいた咲耶。
大盾の後ろ側にて閃くは猪鹿蝶。
「今こそ傲慢に捻れたその性根、拙者が叩き直してくれようぞ」
絡繰手甲から姿を見せた美しき霊刀を以って描く壮烈たる三連撃を2度。
それは無防備を晒すジュリオの胴体へ強烈な傷痕を刻み付ける。
その動きのまま手甲でジュリオの腕を握れば、手甲から伸びたブレードで貫いて。
そのまま華麗なる連撃を繋いでいく。
●謂われなき断罪の聖女
美しき海を望む港町に2つの影があった。
冷たい風に晒される海岸を望むそれは対照的な雰囲気を持つ。
片や威厳に満ちた黒装の偉丈夫、片や薄幸たる白装の美女。
片や冷淡にさえ映る無感情な面立ち、片や慈愛に満ちた微笑を浮かべる面持ち。
「異端審問官様ったら、面白い事言うのよね。あはっ、貴方は私の時もそうだったわね?」
「……何を言っている、娘」
「ううん? なんでもないわ?
たしか、私達と一緒に来たいのよね。
今の天義は間違ってるから――だったかしら」
「あぁ、さっさと案内せよ。
私はそれほど気が長い方ではないぞ?」
「知ってるわよ、貴方が思ってるより遥かにね……
ディオニージ・コンティノーヴィス異端審問官様?」
くすりと女が笑う。それは慈愛とは程遠い傲慢な笑みだった。
「それならばいい。私の部下も時期に到着する。
貴様の部下がどれだけの価値があるか、それを以って確かめてくれよう」
「あはっ♪ そいつら全員、ローレットに取られたわよ。
私の目が、ちゃんと見てくれたわ? そうよね、ベル」
「アウグストを失ったことは残念でした」
そう言って、いつの間にかそこにいた、フラヴィアと雰囲気の似た女性が俯いた。
「最悪、必要になったらもう1度『作ってあげる』ことぐらい出来るでしょう。気にしないで?」
「何? 貴様、今どこから? それに何を言って――」
「さぁ、行くとしましょうか、審問官様。
貴方の御子が貴方が私達と合流したことをしゃべってくれちゃったもの」
「そうか、あの男はどこまでも愚かな息子であったな……」
「あはっ♪ 貴方も我が子の負けにはそんな顔をするのね?」
「……娘。貴様は、何者だ?」
「私の名前はオルテンシア。かつて、ある土地で聖女だなんて言われた女。
そして今は――傲慢に狂い散った妹の成果をこの目で見守る者よ」
微笑する女――オルテンシア。
その薄幸そうな顔に浮かぶ微笑は酷く甘やかだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
随分と長らくお待たせすることになりました。
●関係シナリオ
『明日無き子らに救いを』
(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7649#replay)
●オーダー
【1】致命者の撃退
【2】影の天使の撃退
【3】コンティノーヴィス隊の撃退
【4】『夜闇の菫』フラヴィア及び子供達の生存
【5】『冷厳なる』ディオニージ・コンティノーヴィスの情報確保
●フィールドデータ
美しい海を望むことの出来る港町『ラメール・シェーラ』近くに存在する小さな村。
主にラメールシェーラへの出稼ぎや農業によって生計を立てる名もなき田舎です。
●リプレイ開始時状況
リプレイ開始時、致命者陣営とコンティノーヴィス陣営が開戦した直後となります。
このまま放置しておけばフラヴィアと子供達は全滅、コンティノーヴィス隊は撤退するでしょう。
●エネミーデータ(致命者陣営)
・致命者×2
聖騎士を思わせる装いをした男女2人組。
聖騎士風の装いに違わぬ剣技をもって戦ってきます。
男性の方は髪の色と瞳の色が、
女性の方は全体的な雰囲気がフラヴィアに似ています。
フラヴィアはその姿を確認し、錯乱しています。
男性の方が比較的アタッカー寄り、
女性の方がサポーター寄りの行動をとります。
以下はPL情報ではありますが、フラヴィアの両親を『形作った』だけの存在です。
残念ながらというべきか、幸いにもというべきか、中身は伴っていないようです。
・影の天使×10
ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士にそっくりな存在――でしたがディテールが上がり『影で出来た天使』の姿をして居ます。
ですが、これはベアトリーチェの断片ではないため不滅でもなく、倒す事で消滅をするようです。
●エネミーデータ(コンティノーヴィス陣営)
・『夜闇の菫』フラヴィア
コンティノーヴィス家に雇われている元オンネリネンの少女。
夜のような闇色の瞳と髪をした女の子です。大きく見積もっても14、15歳。
信仰の為に生き、死ねるのなら本望と考える一方、
自分より幼い子は助けたいとも考える心根の優しい女の子です。
多くの部下を前段シナリオで失い、精神的均衡を崩しつつあります。
元々、ディオニージの性格に恐れを抱いており、
加えて現在はアドラステイアも最終決戦の結末を待つばかり。
今なら説得次第で救出できるでしょう。
子供達に比べて精神的に大人びている分、
本来であればそこそこ戦えるスペックですが、状況的に力をほとんど出せません。
このままでは普通に殺されます。
・『フラヴィア隊』オンネリネンの子供達×3
フラヴィアの部下の子供達です。
前段シナリオにて魔種の攻撃から庇われたために生き延びることが出来た子達。
実力も弱くはありませんが、強くもありません。
ただし、前段シナリオでのトラウマもあって委縮しており、このままでは普通に死にます。
フラヴィアを信用しており、
彼女が皆さんに降伏するのであれば降伏してくれると思われます。
・ジュリオ・コンティノーヴィス
聖騎士隊の隊長を務める人物。
姓の通り、コンティノーヴィス家の血縁者のようです。
ディオニージに忠実で彼のためにならなんだってする手合いです。
聖騎士と共に影の天使と交戦しますが、
フラヴィア達が死ぬもしくはイレギュラーズ陣営に降伏すると撤退します。
捕縛すればディオニージの思惑が分かるかもしれません。
・聖騎士隊〔狂〕×10
コンティノーヴィス家の私兵である聖騎士達。
隊長であるべきディオニージの姿は見れません。
聖騎士の名に恥じぬ堅牢果敢な武人です。
とはいえ、その性質は魔種の影響下にある傲慢な人物たちです。
フラヴィアや子供達が死ぬことをまるで気にも止めません。
寧ろ死んでくれた方が邪教徒が死ぬ分いいとすら思っていそうです。
●NPCデータ
・『冷厳なる』ディオニージ・コンティノーヴィス
非情、過酷、傲慢、冷徹を地で行く男です。
異端審問官も務める天義の騎士ですが、
イレギュラーズとの対話で魔種であることが判明しています。
今回の予言については渡りに船でしょう。
恐らくですが遂行者たちとの合流をはかっていると思われます。
戦場にいるのは先遣隊のようで、彼自身はいないようです。
●友軍データ
・『紫水の誠剣』シンシア
アドラステイアの聖銃士を出身とするイレギュラーズです。
皆さんより若干ながら力量不足ではありますが、戦力として十分程度です。
怒り付与が可能な反タンクです。抵抗型or防技型へスイッチできます。
上手く使ってあげましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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