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シナリオ詳細

<クリスタル・ヴァイス>闇に潜みて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●地下鉄跡にて
「まさか本当に真実だったとはな」
 錆びついた線路の残る地下渓谷の奥より吹きつける冷気に、『告死鳥』ロレンツォ・フォルトゥナートは意外そうな声を上げた。遥か昔にこの地を支配した帝国の地下鉄網の存在も、魔狼フローズヴィトニルが今も鉄帝のどこかに眠るという伝説も、百を超える歳月をこの忌々しい無辜なる混沌の地で過ごす中では耳にしたこともあったものだ。
 だがその2つの事実が彼の中で符合したことはなかったし、そもそも地下鉄網は兎も角として魔狼の伝説などまともに取り合ったこともない。だというのに地熱の概念を根底から覆さんとする異様な冷気、そしてその冷気を振り撒く氷の幻狼たちの姿を見るに、彼は考えを改めねばならぬようだった。

 この地下道の奥底眠る氷の魔狼の確保に協力してほしい。
 世界を破壊するための陰謀を天義より鉄帝に移したロレンツォが匿われるための代償として聞かされたのは、そんな荒唐無稽な依頼だった。
 依頼主は、新皇帝派組織アラクラン。ロレンツォもその全容は理解できておらぬが、世界を破壊するという彼の目的において、恩を売っておいて損はない相手だ。
(こちらも隠れ家は必要だったところだ)
 最初こそ同じ宗教団体セフィロト幹部の『黄金の双頭鷲』テオドール・ウィルヘルム・ローゼンイスタフを頼りはしたものの、いつまでも食客でありつづけるわけにもゆかない。ゆえに身動きの枷となりうる大半の信奉者を目眩ましも兼ねてテオドール率いるローゼンイスタフ志士隊の協力者として派遣したうえで、彼自身は少数の精鋭を率いてアラクランの主張に付き合ってやることにした――どうせほとぼりの冷めるまで雌伏の時を過ごさねばならないというのなら、伝説の魔狼でないにせよ何らかの役に立つものを求めて地下鉄網を探索してみるのも悪くない、と。
 そして彼は探索の成功に向けて、思わぬ前進と、予期せぬ問題が同時に発生することになる。

 不意に上方から響いた戦闘音。
 ロレンツォが何事かと天井を見上げれば、警告を横切る朽ちかけた鉄橋の上に、幻狼と戦う鉄帝軍人たちの姿が見てとれたのだ――そして特異運命座標たちの姿も。

GMコメント

 皆様が南部戦線の依頼を受けて地下鉄網を探索していたところ、天義を混乱に陥れたロレンツォ・フォルトゥナート一党もまた地下鉄網を探索中であることが発見されました。彼にフローズヴィトニルを確保されるわけにはゆきませんし、そうでなくとも彼に地下鉄網の調査を許せば、彼は地下鉄網を利用してさらなる陰謀を企てると思われます。ロレンツォ討伐、とまではゆかずとも、彼に打撃を与えて調査を諦めさせることは鉄帝の未来に好ましい影響をもたらすでしょう。

●戦場
 大きな地下渓谷の底を進む地下鉄路線と、30メートルほどの高さを鉄橋で横切る地下鉄路線の交点です。皆様は鉄橋の上で、ロレンツォらは鉄橋から水平距離で20メートル弱(直線距離では36メートルほど)の渓谷の底で互いに後述する『冬狼』と戦闘中ですが、同行する軍人らが冬狼を引き受けたため皆様はロレンツォらに向かう機会を得ました。
 地下渓谷の崖は起伏に富んでいるため、飛行以外にも登攀を用いて移動が可能です(崖沿い以外を移動できないことを除いて飛行ルールと同様に扱います)。落下ダメージを厭わないのであれば、垂直移動距離を費やさない飛び降りによる移動も可能ですが。
 もちろん起伏があるということは、そこに隠れての奇襲のタイミングもあるでしょう……お互いに。

●ロレンツォ一党
・『告死鳥』ロレンツォ・フォルトゥナート
 世界の崩壊を目論む、宗教団体セフィロトの幹部です。攻撃・支援・回復と多彩な術に長けており、自身も自己付与を用いて肉弾戦が可能です。……が、基本は生存を重視します。

・『禄存のフェクダ』菲・欣怡
 自然を愛し、自然を破壊する者を滅ぼさんと願う自然の使いです。強力な精霊術師であり、フローズヴィトニルとの交渉役として同行しています。今は冬狼の使役に向けた準備中で、時間を掛ければ本来は他者の言うことなど聞かないはずの冬狼すら従えてこちらにけしかけてくるでしょう。

・配下×4
 天義では聖騎士や聖職者の地位にありましたが、実際にはロレンツォに忠誠を誓う者たちです。
 特別に強いわけではありませんが精鋭ではあり、ロレンツォを守るためならば命すらなげうちます。

●冬狼×2
 冷気の権化とも呼ぶべき白狼です。フローズヴィトニルに生み出された精霊のような眷属で、侵入者には見境なく強烈な冷気攻撃を使用してきます。また、倒せば消滅します。
 現在は一方が橋の上で軍人たちと、一方が谷底でロレンツォ配下たちと戦闘中です。ロレンツォ配下たちは皆様も谷底の冬狼に巻き込むよう動くでしょう。

●ザーバ派軍人たち
 冬狼と戦っています。一進一退の攻防をしていますが、皆様が無事に戻ってこれれば冬狼を撃破できます。
 ザーバ派の関係者をお持ちの場合、EXプレイングを用いることで軍人たちと同行していたことにできます。彼らは皆様に簡単な支援をしてくれることでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <クリスタル・ヴァイス>闇に潜みて完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
豪徳寺・芹奈(p3p008798)
任侠道
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ

●怒りの鉄槌
 突然『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)と『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の纏う空気が変わった様子を、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は感じ取っていた。
 両者がほんの少し前まで行く手を阻む冬狼に向けていたものは、ただの危険な敵に対する警戒心。一方で谷底の者たちへと向けるのは、より積極的な意志を帯びた瞳。そこに宿る光を読み取ったならば、その男がいかなる所業を繰り広げた人物かをアイリス自身は知らずとも、この場から逃すべきではない相手であることばかりは訊くまでもなく判る。
 ロレンツォが何かの指示を出す。彼もこちらの存在に気付き、どうやら覚悟を決めたらしい。幾人かが武器を手に手にこちらに近づいてくるのは決して冬狼と戦うこちらに加勢するためでなく、大方、居場所を知られたからには生かしてはおけぬといったところなのだろう……なるほど、確かに碌でもない輩であるらしい。では、そうと判った以上、アイリスはまず密かに地上の明かりの届かぬ天井付近まで舞い上がらなければならないようだ!
 もちろん、アリシスと雲雀の両名も。
「まさか、このような場所にいるとは驚きですね」
「グレイヘンガウス領で見つけられないと思ったらね」
 術にて空へと舞い上がるアリシスを、雲雀も追う。為すべきことなど決まっている……無辜なる混沌という世界に大いなる破壊をもたらさんと画策した罪を、この場で精算させるのだ!
 もっとも……それには幾つかの障害もあるようではあるが。

 第一の障害。おそらくは向かえばこちらにも無差別に攻撃してくるだろう、ロレンツォ一党を襲う冬狼の存在。
 第二の障害。その冬狼に対して魔力ある言葉を掛けている女。囁かれる、解放しに来た、やら、共に自然を蝕む癌の排除を、やらの言葉が意味するものは。
「……フローズヴィトニルを手懐けるため、か」
 自然を汚す存在に対する憎しみのあまりに魔狼さえをも味方に引き込まんとするという、常軌を逸した行動をする女の名に、『任侠道』豪徳寺・芹奈(p3p008798)には心当たりがある。
 菲・欣怡。
 知り合いと因縁があるという彼女の計画を挫くためとあらば、豪徳寺の女として人肌脱がぬわけにはゆくまい。
 勇ましく飛竜に跨がれば、翼は地下に淀んだ空気を力強く掻いた。続いて、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)と『罪の形を手に入れた』佐藤 美咲(p3p009818)の飛竜も。彼らは揃って力強く羽ばたくが……。
「速い……!」
 その力強さはアリアには心なし、普段よりも増していたように思えた。羽音を聞きつけこちらに目を遣って、欣怡はきっと気づいたことだろう……風の精霊たちが意気込んで、飛竜たちに力を与えていたことを。
 彼らがそうまで積極的になる理由など、アリアには語るまでもないことだった。何故なら精霊種たる彼女の心はざわめいて、欣怡が、精霊(なかま)たちを支配する存在だと告げていたから。
(ううん、『支配する』っていうのは違うのかも。でも、あの人には従う価値があるように感じてしまう……)
 きっと、欣怡はそんな魔力の持ち主なのだ。そしてこの場の精霊たちも、多くがその魔力に中てられている。そんな中で『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の竪琴の音色と調香具が欣怡の魔力を中和してくれるのだから……風の精霊たちも喜んで力を揮ってくれようものだ。
 喜び勇んだ精霊たちに自らも導かれ、ジルーシャ自身も中空へと舞い上がっていた。頬を膨らませながら欣怡を見下ろして、次に、一度だけ後ろを振り向いて、軍人たちに少しの間この場はお願いねと言い残し。オネエ言葉の精霊の朋友は、精霊たちに導かれながら飛翔する。
「何を企んでいるのかは知らないけれど、好き放題はさせないわ!」
 ……なんて怒りは実際にはまだ口に出さないで、一気に奇襲を仕掛けるタイミングを虎視眈々と狙いつづけるけれど。

 その意志に、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)も言葉交わさず頷いた。もっとも、敢えて少し離れた崖の窪みに身を潜め、欣怡に察されぬよう風霊たちの力も借りずに崖を伝いゆく彼の姿は、ジルーシャから見えたのかは定かではないのだが。
 それでも為すべきことさえ解っていれば、互いの姿が見えずとも判る。
 自分たちが、いつ、どのように、何をすればいいのかを。
「お久しぶりでス、ロレンツォ猊下」
 ロレンツォは崖に寄り身を潜めたが、谷底に正面から降り立った美咲からすれば、容易く呼びかけられる位置にあり……直後。
「白々しい。まさか貴殿らが、未だに私の正体を知らぬほど純朴だなどということはあるまいに――貴殿らの討ったモーリスの遺産には、私のことはどのように記録されていたのかね?」
 ロレンツォの放った聖光が、美咲を騎乗するバーベごと灼き尽くさんとする。谷底に激しく輝いたそれは、特異運命座標たちにとっての開戦の合図になったのと同時、岩肌の作る影をますます色濃く変えるもの!
 その影の中を疾る雷光は、何人にも存在を気づかれなかった。そして影は闇より光の中に飛び出でた後は、今度は光と一体となって獲物へと駆ける。
 鳴神抜刀流・太刀之事始――『一閃』。素早さのあまり雷電を帯びるに至った詠蓮の刀術は、違わず欣怡の首を刎ね――

 ――る直前で、無造作に欣怡の掲げた鍵剣の柄にて受け止められる!

●狂わせる声
「いたた……物凄い衝撃ですね。こういう電気ならわたしも嫌いではないんです。タービンとかで作る電気は滅ぶべきですけれど」
 雷に打たれながらも何故だか好意的な笑みをこちらに向けてきた欣怡が、決して偶然で刃を受け止めたわけではないことが判らぬ詠蓮ではない。今は冬狼を鎮めることに注力する彼女が、もしも全力で挑んできたら……?
 だとしても、今は彼女の不興を買わなければならぬ。荒れ狂い、これまた実力の上では申し分のないロレンツォ配下たちを纏めて凍気であしらう冬狼。その力が彼女とともに襲ってくることと比べれば……彼女の全力の攻撃を浴びたほうがマシなのは明らかだから。
「我が名は豪徳寺・芹奈。七剣星の一人『禄存のフェクダ』菲・欣怡殿とお見受け致す。……貴殿らの企み、潰させていただく」
 だから芹奈はロレンツォの陰謀のみならず、欣怡の自然への愛情までをも“企み”と称して挑発してみせた。悲しげに表情を歪める欣怡。その悲しみが怒りへと変わるのも時間の問題ではあったのだろうが、それよりも早く……。
「ロレンツォ様に仇なすことは我々がさせぬ!」
「猊下の悲願、妨げさせてなるものか!」
 ……配下たちが過激に反応して芹奈を攻め立てる! ゆえに、冬狼を食い止めていた者がいなくなる。冬狼は唸りを上げて氷の爪を振り上げて、芹奈も、配下たちも……そして欣怡をも纏めて薙ぎ払う。

 そんな冬狼に対しても欣怡は声を掛けつづけ、素手で氷の毛皮を撫でてなどいた。……が、冬狼が彼女の手つきに心地よさを感じていたようには思えない。
 これほどの凶暴な存在の、さらに親玉たるフローズヴィトニルを手懐ける?
「自然を守るために戦うアンタは立派だと思うわ? でも――」
 遠目にはじゃれ合うかのような光景に目を細めていたジルーシャの眼光が一転真剣さを帯びる。
「――この冬狼たちは、その自然まで喰い殺すわよ」
 けれども……欣怡は自らを喰らわんとする冬狼に優しげな眼差しを向けたまま、さも当然のようにこう返すのだ。
「ええ、今のままならきっとそう。でも、そこまで暴れてしまえば別の存在が目を覚ましてしまうことを、この子たちもきっと解ってくれるはずです」
 あるいは……彼女自身が呼び起こす、の意か。
 辺りの精霊たちもまるで彼女に陶酔し、その言葉を信じているかのようだった。いけない。彼女の言葉に従うよりも楽しいことがあることを、精霊たちへと教えてやらなくてはいけない。ジルーシャの香の薫りが強くなり、精霊たちの目を覚まさせる。
 ……が、その香ではきっと足りない。何故なら彼女の言葉はアリアにとってさえ、甘美な誘惑のように響くのだから。
「貴女の声は耳に障るの」
 だから、攻めて、攻めて、攻めつづけ……言葉を発している暇すらなくなるくらい怒涛に攻めてやる。ありったけの魔力を手の中に溜めて、思いっきり欣怡の顔面にぶつけ……。
「そんなに不安がる必要なんて、ありませんのに」
 それでも微笑みかける欣怡の猫撫で声が……ぞくり。何よりもアリアを不安にさせる!

 きっと、精霊種である自分は彼女にとって、ちょっとやんちゃな“お友達”で。そしてフローズヴィトニルも彼女の“お友達”。
 かくもおぞましい心優しさがあるものなのか……だが少なくとも、欣怡の意識はアリアにも向いた。
 今ならば、彼女はアイリスの魔導機刃を避けきれぬ。剣禅一如――『彼岸花』。向けた背へと忍び寄り放たれる命刈り取る刃が……まずは欣怡の左から。そして、彼女が辛うじて刃と自らの体との間に鍵剣をねじ込んだ直後……すぐさま右から緋の花を散らさせる!
「上の軍人さんたちのこともあるからね……早々にケリをつけさせてもらうよ?」

 欣怡の見せる表情の中に、一転して激しい憎悪が膨れ上がったのが見えた。
 だがそれは……きっと、アイリスに大きく傷つけられたのが理由ではないのだろう。
「被造物にすぎない貴女には罪はないのかもしれないけれど……おびただしい資源と魔力を自然から奪って作られたのだろう貴女のような存在を、わたしは許すことはできないわ」
 だから、こういう自然の敵を滅ぼすために、あなたの力を貸して頂戴。そうやって欣怡は冬狼に呼びかける。
 もっとも、答えは激しい氷の息吹だったのだが。激しい拒絶が辺り一面に広がって、ロレンツォの配下たちは堪らず冬狼を後にする!
「この場はお預けする、菲殿!」
「精々、我々の代わりに冬狼を抑えておくのだなローレット!」
 吐き捨てて彼らが向かった先は……当然ながら、ロレンツォの下だ。
「ご無事でしたか猊下!」
「猊下に仇なす者どもはお任せを……ぎゃーっ!?」
 のこのこと主人の下へとやって来ようとした配下のひとりが、突如全身を燃え上がらせて果てた。
「涙の日、裁きの時。 罪深き者よ、灰の中より蘇らん。神よ、主よ。彼の者の罪を赦し給え――」
 アリシスの祈りが地下渓谷内に響く。するとその聖句にロレンツォは片眉を上げて……。
「……どこでその祈りを学んだのかね?」

●ロレンツォ・フォルトゥナート
 やはり、所詮は憶える価値もない駒に過ぎなかったのですね。
 それを伝えられてなおアリシスは、怒りも、悲しみも感じはしなかった。
「『ヴァチカン』はチェネザリ機関の『告死鳥』ロレンツォ・フォルトゥナート。ええ、御明察――元告死天使、アリシス・シーアルジアでございます」
 お久しぶりと申し上げます、かつて師であった方――そこまで言われてロレンツォもようやく思い出す。この世界に来る前の遥か大昔、そのような名の部下がいたということを。
「確か、取り替え児であったか。貴殿もこの世界の悪意に中てられて、神と引き離されたのだな」
 懐かしむ彼はよもや想像だにしていまい……その彼女が今や背教者であって、自身の憎む魔術師のひとりとなっていたなどと。
「長年をかけて地道に地位と名声を築かれたとか。手の込んだことですが、隠すものは……セフィロトは貴方の手ですか?」
 戦いを中断し、まるで世間話のようにアリシスが尋ねれば、ロレンツォの口調もどこか懐かしむようになり。
「組織を作り上げる手伝いはしたがね。そうでなければあのような結社、纏まることも困難であったろう」
 物陰にて美咲が記録を取っていることを、彼は知ってか知らずか打ち明けた。
 彼曰く。その結果セフィロトという結社は巨大になりすぎて、セフィロトは彼自身でも全容が掴めないほどになりすぎてしまった。けれども、幾らかのセフィラは魔種が世界を崩壊へと導くのに便乗するという目的で一致しており、ゆえにこの鉄帝にて新皇帝に与している、と。

(こちらに集まっている情報よりも、もうちょっとだけ踏み込んだ話でスねー)
 ロレンツォとは長い付き合いになってしまったと溜め息を吐いた美咲。もちろん感慨なんてどこにもないし、むしろ残業に継ぐ残業のせいで辟易しているほどだ。
 彼奴の計画を潰せれば良し。首を刎ねられれば尚のこと良し。だが……宗教団体セフィロトの全容を暴く助けになるというのなら、多少は生き永らえさせてやる程度の価値はある。
 むしろ、その価値すらないのは配下たちのほうだった。
 冬狼に太刀打ちできないと見るや否や逃げてきたかと思ったら、思い出話に花を咲かせるロレンツォに困惑する彼ら。仕方なく自らの判断で他の敵対者たちを排除せんと周囲の警戒状態へと移った彼らの様子は全て雲雀に筒抜けではあるが……そこで、はたしてどうしたものかと計算する雲雀。
 ロレンツォを討つという結論は変わらずといえども、できる限り情報を引き出せるに越したことはない。一方で配下たちの判断は、ロレンツォが興味を持ったのはアリシスだけで、他は掃討するのが是、であったと見える。いつでもメイスを振り下ろせるよう構えたままの彼らがこちらに気づくのは、時間の問題というものだろう。それを迎撃することで、情報収集が中断されてしまわねばよいが……だが、最終的に。
(いいや、それだったら部下を焼いたアリシスさんに心を許すはずがない)
 確信がゆえに、灼熱の砂嵐を配下たちへと浴びせかけた。冬狼の冷気から逃がれてきた彼らにとって、雲雀の放った熱風はどれほど命削るものになっただろうか。
 しかも、ようやく熱波が収まれば、すぐに冬狼の怒りの余波が忍び寄ってくるわけだ。配下たちは、ただ耐えるほかはない……ロレンツォの興味がアリシスから離れ、祝福が身を癒やすまで。

 ロレンツォが、アリシスに誘いの言葉を掛けたのが聞こえた。
 自らが命じた戦いも忘れて滔々と大演説をぶつ彼を、はたして配下たちはどう思ったのだろうか。そして……身を凍えさせながらも冬狼に魔力ある言葉を紡ぎつづける欣怡は。

●それぞれの思惑
「何故七剣星はロレンツォに従う? 冬狼を操ろうとしているのは何故だ」
 欣怡の冬狼への呼びかけは、間に割り込むようにして問い詰める芹奈の声に妨げられた。冬狼に注ぐべき魔力を発散させられて、欣怡の表情は不快げに歪む。
「話せば味方になってくれるのかしら?」
「理由次第ではないとは言うまい」
 もっとも、そんな芹奈の返答の真意は――時間稼ぎ。欣怡に語る時間を与えれば与えるほどに、ますます冬狼は支配から遠のいてゆくはずだから。
 けれどもそのことは、欣怡とてよく知っている。釣られて何か口を開こうとしたのは一瞬にすぎない。冬狼が支配から逃れんと身じろぎしたのに気づけば、彼女は芹奈のことなんて忘れたかのように冬狼への囁きを再開させる。
 次の瞬間……詠蓮の剣がまたもや一閃。しかし斬るのは欣怡でも、冬狼ですらもなく。代わりに断ったはその両者を繋ぐ、支配のための魔力の鎖であった。
 欣怡の体が痙攣し、冬狼は高らかに喜び吠える。鳴神抜刀流の研ぎ澄まされた一刀が、いわば自らの意思とでも呼ぶべき魔力を断ち切った。どうして欣怡に、我が身を斬られたがごとき衝撃を与えぬことがあろう?

 ようやく心ざわつかせる魔力が鳴りを潜めた様子に、アリアの口からほっと溜め息が漏れた。魔力は再び蠢かんと欲しているし、欣怡の息の根を止めるには尚更遠い……が、今ならば彼女の魔力をしばし完全に封じ込められる。
 存在を歪められた精霊たちの怒りが、歪みの根源へと反旗を翻す。欣怡の心身を蝕む反動。その術への非協力。アリアの制御力が欣怡を上回っていられたのは僅かな時間だが……それでもそのほんの数瞬が、冬狼を完全に欣怡の術から解き放つ――。

 ――その一方で。
「貴様……魔術師に堕ちたか!」
 ロレンツォの怒声が谷底に響く。配下たちさえ驚き身構えたものの、本来その声を浴びせた相手は彼らではなく、アリシスだった。
 けれども、彼女は飄々とそれを受け流し。そればかりかこんな挑発的な提案までして、雲雀と美咲の頭を痛くする。
「あの世界に未練など失った私が、敢えてこう申し上げるのです――帰還への近道を求めるのならば、『貴方こそ、ローレットに降る気は有りませんか?』」
「貴様! 猊下に恭順を求めるとは何事だ!」
 配下たちがいきり立ち、アリシスに襲いかからんとして雲雀の熱砂嵐に呑み込まれていった。結局、彼らの主は彼らを助けなかった。自身の目的のためならば、力を貸してくれた者たちまで切り捨てる――これまでも雲雀自身の目で見てきた行為をここでも繰り返すロレンツォは、真に味方につけるに値する人物であるのだろうか?
「ハ……ハッハッハ! 何を言い出すかと思えばとんだ妄言を! 私がこれまでどのような計画を遂行してきたか、まるで解らぬわけでもないだろうに!」
 ロレンツォは腹も捩れんばかりに哄笑し……それからちらりと美咲に――まさか彼が彼女の過去を知るはずもないのだから偶然だろう――目を遣った。
「私にこの世界の住人――異端者ども――を慈しむ思いなどないが、私とて、異端者どもにも異端者どもなりの感情というものがあるとは知っているつもりだとも。さて、その感情は……仮に今後、私が世界を救うために粉骨砕身するとして、これまでの私の行為を水に流せるようなものだと言うのかな?」

 部下を失い、欣怡の術も破られた今、ロレンツォにはこの地に留まる理由などすっかりなくなっていた。
「では、こうしよう。諸君が見事バルナバスを討ってみせたなら、私は私の為してきたことが誤りであったと認めるとしよう」
 そしてその時に本当に人々が彼を許すなら、これまでの罪滅ぼしも兼ねてローレットの力になってもかまわないとさえ付け加えた。
 彼はいまだ冬狼に後ろ髪引かれたままの欣怡に声を掛けると、そのままあっさりと来た道を戻っていった。
 特異運命座標たちが2体の冬狼を撃破して彼らを追いかけてゆくと……道は、大地の精霊によりすっかり塞がれていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 どうして最後がこんな話になったのかと説明しておきますと、実はアリシス様には「ロレンツォの軍門に降るか否か」という特殊判定が発生していました。
 そしたら彼女は拒否したばかりか逆にロレンツォに「ローレットの軍門に降りませんか?」と訊ねてきたので、ぼくは頭を抱えました。

 実際にロレンツォがローレットに協力することになるのかは、今後の状況次第でしょう……もっとも、もしも彼がローレットについたとして、宗教団体セフィロトにはまだ多くのセフィラが残っているわけですが。

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