シナリオ詳細
昆虫生活。或いは、小人たちの視た景色…。
オープニング
●小さな世界
練達。
とある屋敷の前である。
「やぁ、よく来てくれた。今日はね、我が発明品の稼働実験に付き合ってもらいたくて招待したんだ」
黒いドレスを身に纏い、その上から白衣を羽織った妙齢の女性だ。ウィッチハットの影に隠れて分かりづらいが、顔色は悪く、目の下には濃い隈が浮き上がっている。
名をストレガという、練達の科学者であり、多分に漏れず相応に“変人”として知られていた。
「まずはこれを見てくれ」
ストレガが指し示したのは、奇妙な形状をしたトンネルらしき装置であった。手前側は直径2メートルほどと大きな“入り口”となっており、内部を進むほどに少しずつトンネルの直径は狭く、小さくなっているようだ。
屋敷の扉下部にある犬猫用の出入り口に、装置の出口は繋がっている。
見た目は歪だが、全体の形状としては“Gホイホイ”と呼ばれる“台所の黒い悪魔捕獲装置”に似ていた。
「いい出来だろう? 私は日頃から、昆虫をモデルにした便利な機械の開発に勤しんでいるんだがね……今回は少しだけ首肯を変えることにして“昆虫の生活”に着目してみることにしたんだ」
蝉型スピーカードローンや、アニサキス型安眠装置、ハリガネムシ型の水脈発見装置に、カブトムシ型の運搬装置と、彼女の発明品はどれも蟲をモデルにしている。開発段階でのトラブルは相応に多いが、完成すれば人々の生活が“少しだけ良くなる”類のものだ。
革命的な大発明より、誰かを救う小発明。
そんな想いで寝食を削って発明にのめり込む辺り、きっと根は善人なのだろう。例え開発段階で、各方面に酷い迷惑をかけていようとも。
さて、そんな彼女が今回発明した装置は“昆虫サイズまで人を小さくする”という性能を持っていた。
「もっとも装置を通過しないと、背丈は元に戻らないと来た。当然、小さな身体では多大な危険が伴うからね。こうして屋敷を1つ借りて、出来るだけ安全な状況を整えたというわけさ」
今回の依頼内容は、小さくなった身体で屋敷内部を散策し昆虫たちの生活を間近で観察、記録するというものだ。
「ノミ型のカメラを用意したんだ。これを君たちに付けるから。君たちが目にした光景を記録すると共に、君たちの活動をサポートしてくれる機能も備えているんで、くれぐれも壊さないようにね」
ストレガが手の平に乗せたのは、豆粒みたいな小さな機械だ。
カメラ機能のほか、最大で2メートルほどのジャンプ機能と、連絡機能……要するに範囲の狭い無線機である……が備わっている。
「屋敷内にどんな虫がいるかは不明だけれどね。まぁ、都市に生息する類の蟲はだいたいいるんじゃないかなぁ? Gとか百足とか蜘蛛とか、冬眠中のバッタとか、ハチの巣もあるかな?」
なんて呟いて、ストレガは両手を大きく左右へ広げた。
にぃ、と不気味に口角を上げ、彼女は告げる。
「さぁ、小さな世界を楽しんで来てくれたまえよ!」
●緊急事態
『皆さん、困ったことになったっす』
ノミ型カメラのスピーカーから、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の声が聞こえた。努めて冷静に、けれど焦りを滲ませた口調だ。
建物内に入って暫く。
これからどう屋敷内を歩き回るか、と相談していた矢先の出来事である。
『ストレガさん曰く“小さくなる機械”の制御パーツが消失していると……おそらくネズミか何かが持ち去ってしまったみたいっすね』
イフタフの指示に従って、イレギュラーズは“小さくなる機械”……Gホイホイの出口部分に視線を向けた。そこには小さな穴が一つ。イフタフが言うにはネジ型の制御装置が嵌っていた痕跡であるらしい。
『制御装置が無いと、元のサイズに戻れないっす。半径10メートル以内まで近づけば、ノミ型カメラが反応するそうなんで……まぁ、屋敷の探索のついでに、制御装置の回収をお願いするっすよ』
制御装置の再作成は可能だが、少しだけ時間がかかるとか。
小さな身体で暫く過ごしたくないのなら、なるべく早くに制御装置を回収するのがいいだろう。
『身体が小さいと不便だし、危険っすよ。階段を上がるのも大変だし、蟲に噛まれれば【滂沱】、毒があるなら【致死毒】や【麻痺】【封印】と、洒落にならないらしいっす』
今回の事態を収拾させるに辺り、注目すべき要素は以下の3点だ。
1つ、10センチほどまで縮んだ身体。
2つ、供として1人に1台、ノミ型の機械が付いている。
3つ、危険な蟲を回避しながら、ネズミの盗んだ“制御装置”を回収しなければならない。
『皆さんの無事な帰還を祈っているッす』
なんて。
それっきりイフタフからの通信は途切れた。
- 昆虫生活。或いは、小人たちの視た景色…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月23日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●小さな探検隊
突然だが、ゴキブリは鳴く。
『キュ“ッ!!』
体長は約4センチ。
黒光りする体に、繊毛の生えた細い脚。頭部から伸びる2本の触覚。
“台所の悪魔”とも呼ばれるその生き物と人類は、遥かな太古から共存して来た。或いは、その高い適応能力に対し、決定的な対処法を見いだせず、仕方なく共存を強いられてきたのかもしれない。
「あぁ! 虫が来たぁ!! やだ! 足が多い!!」
ところは練達。
とある屋敷の1階廊下。目に涙をたっぷり溜めて『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)が悲鳴を上げる。
茄子子の視線の向く先には、廊下の隅から這い出して来たゴキブリがいた。
本来であれば、ゴキブリの1匹程度に悲鳴をあげるようなことはない。だが、今現在、茄子子の背丈は10センチほどまで縮んでいる。
自分の背丈の半分ほどに迫るサイズのゴキブリが、茄子子の方に近づいて来るのだ。様子を窺うように、触覚をヒクヒクと揺らしながら……。
今にも腰を抜かしそうな茄子子の様子を、あまりに哀れに思ったのだろう。
『ドラム燗』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)が、ふさふさとした尾で茄子子の目を覆い隠した。
慈悲である。
しかし、死刑囚に目隠しをする類の慈悲だ。
「やめてリコリスくん! 塞がないで! こわい! 逆にこわい!! カサカサする!! カサカサ言ってる!!! それからなんか翅音がしてる!!」
「なるほど……これが昆虫ASMR……」
「虫ダメなやつは大変そうだなあ」
何故か関心した様子のリコリスと、困ったような『鍵の守り手』鍵守 葭ノ(p3p008472)の声。どちらも今の茄子子の耳には届いていない。
なお、茄子子の言う“翅音”は、葭ノの翅の音である。
「どうせ何かトラブるだろうとは思っていたが。いやはや、随分と傍迷惑な方向になったな?」
呆れた風に溜め息を零し、『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は腰に差した刀を抜く。接近して来るゴキブリから、茄子子を庇うように1歩、前へと前進。
「10cm……赤い屋根のお家にぎりぎり住める、息子の人形遊びに混ざっても問題ないサイズか」
汰磨羈の隣に、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が並ぶ。前方へ翳したウェールの両手の間で、カードの束がバラバラと音を立てて舞う。
「このサイズだと虫すら危険だけど……」
さらに『征天鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)もゴキブリの真上へと移動した。
たかがゴキブリ1匹に大げさな……と言いたいところだが、何しろ全員漏れなく背丈が10センチにまで縮んでいるのだ。こうなればゴキブリなど、俊敏かつ巨大な怪物と大差ない。ほんの少しの油断が命獲りになる程度には、昆虫という生物の持つスペックは高いのだ。
まず動いたのは、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)だ。大剣を肩に担ぐようにして、観葉植物の葉の上から、ゴキブリ目掛けて跳びかかる。
「おほー!? 見た事のない視点から見るのは、何だかワクワクするのう!」
小さくなった身体で見る世界の景色が新鮮なのか、ニャンタルのテンションは高かった。
ニャンタルの奇襲は見事に成功しただろう。
だが、ニャンタルの剣がゴキブリを斬り裂くことは無かった。
「なぬっ!?」
空振り。
床に刺さった剣を見て、ニャンタルは目を見開いた。
「気を付けて、ゴキブリは全身に感覚器官を備えているから! 空気や地面の振動はもちろん、気圧の変化まで察知できるよ!」
『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)には、ゴキブリの動きが見えていた。元々の背丈が30センチほどなので、さほど世界の見え方が変わらないのだろう。
そんなリリーが目撃したのは、ゴキブリダッシュ。
感覚器官でニャンタルの接近を察知すると同時に、滑るようにしてゴキブリは疾走を開始した。
その速さたるや、前衛に構える汰磨羈とウェールの間を一瞬で通り過ぎるほど。
「ちょっと待って! あれだ! 金ならある!! 違うえっと……ああやばい近づいて!!」
接近して来るカサカサ音に気が付いて、茄子子は半狂乱となる。
●昆虫生活
ゴキブリダッシュを止めたのは、真上から飛来した1本の矢だった。
「速いけど……虫に飛び道具は無いよね」
ェクセレリァスの放った矢がゴキブリの眼前に突き刺さる。ゴキブリは6本の脚を駆使して、進路を変えた。
滑るようにスムーズな回避。
直後、ゴキブリの頭上に影が落ちる。透明な翅を高速で羽ばたかせ、葭ノがゴキブリに急接近したのだ。
「当てられるのっ!?」
「当て勘でどうにかする!」
リリーが叫ぶと、間髪入れずに葭ノが応えを叫び返した。
握った拳を振りかぶり、身体ごとぶつかるような殴打を放つ。頭上からの一撃を、ゴキブリは翅を広げることで回避。葭ノの頭上を滑空するように飛び超えた。
殴打の衝撃で気流が乱れたのだろう。ゴキブリの進路は、左方向へ大きくブレた。
『キュッ!!』
「……ぎゅぇっ」
ゴキブリが鳴くのと、茄子子が泣くのはほぼ同時。
その瞬間、ゴキブリと茄子子の視線はきっと交差した。そして、ゴキブリと茄子子は意思の疎通を成功させたはずである。
ゴキブリは茄子子が自分を恐れていることに気が付いた。
茄子子は、ゴキブリが自分をターゲットに定めていることを悟った。
ゴキブリは頭がいいのだ。例えば、その場に置いて“最も自分を恐れている者”へ向かって飛びかかるケースが多々見られる。
つまり、茄子子だ。
茄子子に向ってまっしぐらなのだ。
『キュキュッ!!』
鳴いた。
そして、加速し、跳んだ。
迫るゴキブリ。
急速に青ざめる茄子子の顔色。
その口腔が、茄子子に届く……その直前。
乾いた銃声が鳴り響き、ゴキブリの頭部が爆ぜ散った。
硝煙が漂う。
ゴキブリの頭部を撃ち抜いたのはリコリスだ。
「イヤーーーッ!!! 見えないものを見ようとして隙間を覗き込んだら、見たくないものも見えるようになっちゃったよー!!」
「ぎゅぇぇ! 齧られた!? 齧られたでしょ!? 会長の頭、無くなってない!?」
半狂乱で、2人が床を転げまわる。
頭部を抉られたゴキブリが、パタンと床に倒れ伏す。
だが、ゴキブリはまだ生きている。人や獣であれば頭部を撃ち抜かれては絶命は避けられないだろうが、昆虫の場合は少々違う。当然、昆虫とて頭部を失えば命を落とすが、それは即座にというわけではない。
昆虫は考えて動いていない。
昆虫を動かしているのは、身体の各所に存在している神経節だ。要するに蟲は、反射で生きているのだ。
「逃げるぞ!」
そう言って汰磨羈がゴキブリを追いかける。
逃げるゴキブリ。
その後を追う汰磨羈。
そして、ウェールはカメラを構えて呟いた。
「いいや。逃げられない」
シタァン! と。
大きな音が響いて、ゴキブリは叩き潰された。それを成したのは猫だ。
前脚による一撃で、ゴキブリを叩き潰したのだ。
ウェールの使役する猫である。その数は2匹。すんすんと鼻先をゴキブリに近づけ……そして、猫はゴキブリの体に鋭い牙を突き立てた。
獲ったら食べる。それが獣の掟である。
今回の目的は、小さな体で虫の生態を調査すること。
それから、身体を元のサイズに戻すために、盗まれた“機械の部品”を探すことだ。
重要なのは、とくに後者だ。盗まれた“機械部品”を取り戻さなければ、長い期間、イレギュラーズは小さな体で生活しなければいけなくなる。
「ネズミか何かに部品を持ち去られたって……セキュリティが甘すぎない?」
空を舞うェクセレリァスが、そう呟いて視線を左右へ巡らせる。
ェクセレリァスのすぐ近くには、小鳥が1羽、飛んでいた。窓ガラスに張り付く大きなカエルと、イレギュラーズの周囲を囲む3匹の猫も含めて、ファミリアーで使役している小動物が調査隊に合流していた。
「精神が持つか分からない。久しぶりにひりついてきたぜ……!」
恐る恐るといった様子で、茄子子が廊下を前へと進む。
すっかり腰は抜けているが、ドクター・ストレガより貸し出されたノミ型カメラ機械に騎乗することで、どうにか進行は出来ていた。
茄子子の指示に……正しくは、茄子子が交信する精霊の指示に従い、一行はキッチンに訪れている。
「ほうほう、お主達にはこんな風に世界が見えとるんじゃな……アリも結構な迫力じゃのう」
誰よりも早くキッチンを覗き込んだのはニャンタルだ。
食べ残しでもあったのだろう。キッチンには、蟻の列が出来ていた。運んでいるのはクッキーの欠片か。
「うおー?! ムカデとかギチギチしとる!!」
蟻の観察にも飽きたのか。ニャンタルの興味は、冷蔵庫の下にいたムカデに移った。
キッチンとか、そもそもが虫にとって天国のような環境なのだ。蟻とムカデのみならず、そこかしこから虫の蠢く音と気配がしていた。
ニャンタルとウェールは、ノミ型カメラ機械を連れて虫の様子を撮影してまわる。その間、茄子子は視線を窓の方へと向けていた。
床を見ていると、嫌でも虫が目に入るからだ。
けれど、しかし……。
「あぁ、虫が……窓に! 窓に!」
窓には蜘蛛が巣を張っていた。
「見ない方がいいよ。後、糸に捕まったら下手に手足をばたつかせないようにね」
茄子子の目を手で覆い隠して、リリーが言った。蜘蛛の糸の強度は高い。そして、蜘蛛は俊敏だ。それこそ、アシダカグモなどは先に苦戦したゴキブリを難なく捕らえるハンターである。
昆虫界において、アシダカグモは“軍曹”の異名で恐れられている。
なお、窓の蜘蛛はリリーの使役するカエルが一口で捕食した。
建物の2階。
とある部屋の扉の前で、イレギュラーズは足を止めた。
「この部屋は……物置か? 屋根裏部屋に続く階段は、この先だな」
扉に耳を押し当てて、ウェールはそう呟いた。
ウェールの眉間には、深い皺が刻まれている。
「そうみたいだね。そして……いるねぇ」
「うん、いるよね」
リリーとェクセレリァスも、顔色を少し悪くした。扉の向こうから、虫の足音が聴こえているのだ。
それぞれ、魔導銃と弓を構えて、いつでも攻撃に移れる体制を整えた。
「サイズを人に近づけた昆虫のパワーは強烈だからな。避けるに越した事は無い」
腰の刀に手をかけて、汰磨羈は言った。
ノミ型カメラ機械に騎乗し、すぐにでも疾走を開始できる状態だ。
仲間たちが戦闘準備を整えたのを確認し、葭ノがドアノブに近づいていく。
「それじゃあ開けるぜ」
扉のサイズも、ドアノブも、当然ながら人間サイズだ。葭ノの身体には大きすぎるが、窓のカーテンを式神に変えれば、問題なく開け閉めすることが出来る。
「頼むね!」
床に膝を突いたリリーが、魔導銃のストックを肩に押し付けた。射撃体勢は万全だ。
「おぉ。なんてったってオレは“鍵精霊”だからな! 開けるのは任せとけ!」
葭ノがドアノブに手を触れる。
魔力によって形成されたのは、ガラスのような半透明の鍵である。
鍵穴に突き刺さった鍵を抱えるようにして、葭ノは翅を高速で羽ばたかせた。体ごと捻るようにして鍵を回す。
ガチャン、と。
軽い音がして、扉のロックが開錠された。その間、ほんの数秒ほど。
葭ノの前では、いかなる“鍵”もその機能を果たさない。
扉が開いて、埃と黴の臭いが漏れた。
長く閉じ切られていたのだろう。物置部屋の中は酷い有様だ。
まず部屋の中へ跳び込んだのは猫たちだ。その背から、ノミ型カメラ機械に乗ったニャンタルが跳び下りる。
つい一瞬前まで、我が物顔で倉庫内を這い廻っていた虫たちは、あっという間に棚や机の下へと潜り込む。考える前に体が勝手に動いていたのだ。そうでなければ、小さな体で野生の世界を生き延びることは出来ないのである。
だが、中には逃げ遅れた……或いは“逃げる方向を間違えた”虫も存在した。
ゴキブリだ。
猫たちの間を摺り抜けて、部屋の外へ逃げようとしたのだ。
けれど、それは叶わない。
ノミ型カメラ機械が跳んで、その背から大剣を担いだニャンタルが降下。滑空飛行するゴキブリの背を、すれ違いざまに一刀両断してみせた。
「おぉぉ……虫を潰した時の、あのなんとも言えん気持ちMAXに駆られるのぉ」
虫は決して、生態系の底辺ではない。
とくにムカデは、その長い体と強力な毒を用いてネズミ程度なら捕食する。であれば、体長10センチ程度に縮んだ人間も、ムカデにとっては餌のようなものである。
屋根裏部屋へ続く階段のすぐ下で、イレギュラーズはムカデ2匹の襲撃を受けた。
狙われたのは、最前線を駆けていたウェールだ。
猫やノミ型カメラ機械に乗った仲間が、次々と3階へ向かう中、ウェールだけが階段から転がり落ちた。
集中攻撃を受けた……否、仲間たちを進ませるために、ウェールがムカデの注意を自身に向けさせたのだ。
「こうなると、ただのムカデもまるでクリーチャーみたいだな」
ウェールの手からカードの束が放たれた。
まるで弾丸のような速度で、カードがムカデへ襲い掛かるが……存外にムカデの体は硬い。体の一部や、手足の数本は欠損するが、致命傷には程遠かった。
「もう! 何がなんでも元の大きさに戻って昆(虫食生)活してやるんだからっ!」
ウェール1人では苦戦も必至と判断したのか、階段の途中でリコリスも止まった。
高い位置からの銃撃が、ムカデの体に小さな穴を穿つのだった。
●屋根裏の攻防
積もった埃に、ネズミの足跡と、何かを引き摺った跡がある。
それは3階の奥……積み上げられた木箱の奥へと続いている。木箱と木箱の間は狭い。猫の出番はここまでだ。
さらに、リリーと葭ノが蜘蛛の巣にかかった。
「うぉっ!?」
「捕まっちゃった!」
飛行していた者のうち、蜘蛛の巣を回避できたのはェクセレリァスただ1人。炎を纏った1本の矢を弓に番えて、蜘蛛の巣へと狙いを定める。
蜘蛛の糸を焼くつもりだろう。
だが、その背後には音もなく黄色と黒の体色した巨大な蜘蛛が降り立った。
「伏せて!」
リリーが叫ぶ。
ェクセレリァスは頭を伏せて、蜘蛛の巣目掛けて燃え猛る矢を放つ。
直後、ェクセレリァスの頭上をリリーの放った無数の魔弾が通過した。
蜘蛛の巣を炎の矢が射貫くのと、蜘蛛本体に無数の魔弾が降り注ぐのはほぼ同時。
床に積もった埃が舞って、視界が白に染め上がる。
壁に空いた小さな穴を潜った先で、汰磨羈、茄子子、ニャンタルは1匹のネズミと、膨大な数のゴキブリやバッタに囲まれた。
まず、犠牲になったのは先頭に立って跳び込んで行ったニャンタルだ。
「ぬぉー!?」
ゴキブリの体当たりを受けたニャンタルの体が床を転がる。
汰磨羈が刀を振り回し、ゴキブリたちを牽制するが、数の上での不利は易々と覆せない。
「おい! ノミ型カメラ機械が鳴いてる! 目的のブツはその辺にあるぞ!」
3人の背後で葭ノが叫ぶ。
ノミ型カメラ機械に呼応するように、暗がりの隅で何かが震えた。良く見えないが、おそらくはネジ型制御装置で間違いないはずだ。
「取りに行きたいが……」
汰磨羈が低く腰を落とす。
直後、ゴキブリが近づいてきた。ゴキブリを警戒していては、制御装置を取りに向かうことは出来ない。
「いやさ、会長も虫はまぁ大丈夫な方だとは思うんだけどさ。でかいよね……でかいとさ、だめだよね」
ブツブツと。
茄子子は虚ろな目で何事かを呟いていた。
「なんかこう、あれだね。とりあえず視界から消そうか」
茄子子の目は座っている。
そして、身体の前に翳した両の手には膨大な量の魔力が充填されていた。目に見えるもの全てを破壊し尽くすつもりだ。
破壊神・茄子子の降臨を悟った汰磨羈の動きは迅速だった。刀を腰の鞘へ仕舞うと、茄子子の体を肩に担ぎ上げたのである。
「OK、茄子子キャノンの位置調整だ」
「虫、滅びてくれ。会長のために」
かくして、破壊の時が来る。
魔力の砲が、何もかもを破壊する。
衝撃で壁の穴が広がった。ニャンタルと一緒に、ネジ型の機械が転がり出て来る。それから、千切れたゴキブリの脚も。
「それだー! 拾って拾って!」
リリーが言った。
「うぉっ! 飛びづらい!?」
爆風に煽られながら、葭ノがネジ型制御装置を胸に抱える。
「確保したね! 茄子子たちはどうする!?」
ェクセレリァスが壁の穴へと視線を向けた。
瞬間、壁を魔力の砲が撃ち抜いた。
「好きなだけ暴れさせておこう!」
近づけないので、リリーは茄子子と汰磨羈を置いていくことにした。
それから暫く。
屋敷の庭で、ウェールとリコリスが伸びていた。リコリスの口はもごもごと動いているが、何を喰らっているのやら……。
その肩の上にはリリーと葭ノが座っている。
なお、ニャンタルとェクセレリァスは再び屋敷の3階へと向かっていてこの場にいない。
屋敷の3階、屋根裏部屋では、未だに破壊の音が鳴り響いていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
無事にネジ型制御装置を回収し、元の背丈に戻ることが出来ました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
※なお、汰磨羈さん、茄子子さんの重症は精神的なものです。
GMコメント
●ミッション
“制御装置”を回収し、屋敷の外へ帰還する
●ターゲット
・ネジ型制御装置×1
屋敷のどこかにあるらしい。
“小さくなる機械”を制御するための部品であり、ネジに似た形をしている。
ネズミか何かに盗まれた後、屋敷のどこかに放置されているようだ。
●エネミー
・蟲やネズミ×多数
屋敷内部に生息している小さな生き物たち。
ネズミを始め、G、百足、蜘蛛、バッタ、ハチ、芋虫などが生息しているらしい。
元の体格であれば大した脅威にもならないが、10センチほどまで身体が縮んでいる状態では話が変わる。
噛まれれば大ダメージと【滂沱】、蟲の種類によっては【致死毒】や【麻痺】【封印】が付与される。
●その他
・ノミ型カメラ機械
カメラ機能、最大で2メートルほどのジャンプ機能、不安定な通話機能が備わっているらしい。
ネジ型装置が半径10メートル以内にあれば、何らかの反応を示すらしい。
1人に1台が貸し出されている。
●フィールド
練達。住む者のいない小さな屋敷。
1階には玄関やリビング、キッチン、浴室
2階には書斎や寝室、子供部屋、物置部屋
3階部分は屋根裏部屋となっており、大量の荷物が詰め込まれている。
要するに普通の屋敷だが“小さくなる機械”の影響により、参加者の背丈は10センチほどにまで縮んでいる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet