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シナリオ詳細

アンダー・デトロイト、ファーストデイ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●練達アンダー・デトロイト地区にて
 LEDめいた淡い照明ロゴが描かれたバスが静かに走っている。スゥーンという独特のエンジン音はこの地区にて主要に利用されている魔術と電気のハイブリッドエンジンによるものだろう。
 ライトブルーに描かれたロゴの文字は、『UNDER DETROIT』。
 止まったバスの扉が開き、金髪の白人女性が階段を降りる。歩道へと降り立った彼女を残し、バスは走り去っていった。
 舗装されたアスファルト道路に、見える。二車線あるそれを挟んだ向かい側には五階建てのビルがあり、ぴったりと合わさるようにはめ込まれた窓ガラスが巨大な鏡面のように青空に流れる雲を映している。
 女性の横ではヘッドホンを首にかけ、顎でリズムをとりながら歩く青年がいた。ベンチには新聞紙を広げてくつろぐ壮年の男性。赤い風船を手に歩く茶髪の幼い少女の姿や、その手を引く青いドレスの女性の姿もある。
 だが、彼女……金髪の白人女性風のアンドロイド『クロエ』は知っていた。
 全ては偽物、作り物。
 この空も、このビルも、この道路もバスも、自分自身も、ましてや――いま目の前に広がっている住民達全員が。
「『停止(ストップ)』」
 クロエがパチンと指を鳴らすと、住民達がその日常風景を維持したままピタリと一斉に停止した。
 赤い風船を持つ少女の目の前まで回り込み、クロエは片耳の代わりについている丸いデバイスをチカチカッと小刻みに発光させた。対して少女は耳たぶ部分を同じようにチカチカと発光させ、光の色がグリーンに変わる。リンクが完了したシグナルだ。
 少女の表情がスッと能面のような無表情に変わる。
「R051、メンテナンス状態を確認してください」
「かしこまりました。C001――、――、――、メンテナンス完了。状態は良好。メモリ使用量は70%、熱量――」
 報告を途中で止めさせると、クロエはデバイスの発光を止めた。
 無表情だった少女に自然な感情が宿り、微笑むと「こんにちはお姉さん。私になにか御用?」とすこしませたことを言った。
 クロエは首を振り、微笑み返して少女の頭を撫でる。
 小さく頭を下げた母親らしき女性に目配せをすると、クロエは手を振って少女と別れた。
 そして、向かいのビルへと入っていく。
 ここはアンダー・デトロイト。
 機械人形だけの町。
 古き主に忘れられ、置いていかれた小さな小さな、偽物の町。

●災いと被害と、復興とその影
 探求都市国家アデプト。通称練達。混沌大陸南部に存在する小島を勢力とするこの国家はこの国を司る電脳の神にも等しきマザーコンピューターの暴走、そして歴史的にも類のないほどの竜種たちによる襲撃。これらの災害によって深い傷を負っていた。
 無論それは表の世界だけの話ではない。マザー暴走事件に乗じて襲撃を仕掛けていた闇組織『L&R株式会社』『R財団』、更にはその影に潜んでいたとされる『BBB』、共に行動していたことが確認された『トーラス・アースレイ』といった者たちとて例外ではない。
 竜種による被害は善も悪も関係なく、等しく破壊をもたらしたのである。
 結果としてこれら組織あるいは個人の活動は低迷し、彼らは復活を目論むのであった。
 その手段として目を付けられたのが……。
「ここ、アンダー・デトロイト地区だと考えられます」
 説明をそこで区切ると、金髪の白人女性風アンドロイドのクロエは片耳のデバイスをチカチカと点滅させた。
 彼女の背にある大きなスクリーンに映像が映し出され、地区の端にある連絡通路から無数の機械人形が侵入。警備ドローンとの戦闘が起きた様子が現される。
 機械人形は褐色の肌と黒い髪をもち、特殊な刀を用い警備ドローンを切り裂いていた。
「この機械人形は……」
 いち早く気付いたのは紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)であった。
「はい、おそらくは『お姉ちゃん』の贋作。もしくは『私』の再現でしょう」
 そう続けたのは『心ある量産機』カガリ。彼女は機械のボディに高度な戦闘AIを搭載した悪魔の兵器軍のひとつであり、かつての世界で紫電を模倣して『BBB』によって作られた贋作であった。カガリはその中でも奇跡的に自我が芽生え、紫電の元へとやってきたいわゆる妹分である。
 BBB。正しくはベリウス・ベアグ・ベネディクト。いくつもの世界を渡り各世界での戦乱をまるで趣味のようにくり返す凶悪な存在。彼は混沌世界に召喚され混沌肯定の影響を受けながらも、このように『贋作』を作り出してはこの世界でのチェスゲームを楽しんでいるようである。
「あっ、てことは……アレがいるのか! 偽神ちゃん! ほら見て映ってるじゃん! 『室長』かなー!? 室長のしわざなのかなー!?」
 身を乗り出してニッと笑う茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
 指をさすさきに表示されていたのは秋奈を摸して――厳密には同じ戦神である奏を摸して――作られた『偽神』という機械人形である。
 白い髪に白い肌。セーラー服を纏い、両手に直刀。背には加速用のストライカーユニットを装着した姿は特徴的だ。
 その制作には謎の科学者、『室長』なる人物が関与しているとみられている。
「ならば背景にあるのは『R財団』。……ザムエル・リッチモンドが動いたということですね」
 椅子に深く腰掛け足を組んでいた新田 寛治(p3p005073)は、黒縁の眼鏡のブリッジ部分をスッと中指で押すようにしてその位置を直した。
「……あなたの調べではR財団は活動を低迷させていた筈。そうですよね美咲さん?」
 寛治から視線だけを向けられ、同じように黒縁眼鏡をスッと直していた佐藤 美咲(p3p009818)が顔を半分ほどその手で隠しながら目を細める。
「まぁそうでスね。うちの『クソ上司』にマークするよう命令されてましたし、てことは別の人間にも調べさせてたんでしょうから? 間違いないと思いまス」
 クソ上司こと鈴木 智子。練達復興公社をダミーとした秘密諜報組織「00機関」のリーダーの一人。彼女からの命令をうけ様々な人物をマークするという激務(むちゃぶり)を受けていた美咲は、なんとも忌々しそうに言った。
「R財団は『リアム・クラーク』と組んで『L&R株式会社』を運用。資金を稼ぎ『世界人口の最適化』とかいう狂気をまだ実行にうつそうともがいている。この前教えたとおりっスよ」
 R財団のザムエル・リッチモンド。彼は寛治が知るなかでも指折りの狂人である。かつての世界では人類を大量に『削減』してエコロジーを目指そうとしたらしい。その発想は混沌世界に召喚されても変わらず、魔種の影響をうけ狂気に陥ることでそのタガも外れてしまっている。
 電子光学に強い彼のことだ、贋作や偽神の制作にも関わっているのは間違いない。
「リアム……まだ組んでたッスね……」
 顔を手で覆うようにしてうつむくイルミナ・ガードルーン(p3p001475)。その一瞬だけ隠れた表情は、誰にも見せていない。
 スッと顔をあげると、それはいつものイルミナの表情だ。
 映像にはリアムが社長を務める『L&R株式会社』の雇ったらしき傭兵たちの姿も映っており魔術師のジョンソン、ガンマンのスミス、そしてイルミナと同郷にして同じロボットであるイングの戦う様子があった。以前よりも戦闘力を増しているように見え、成長しているのが自分だけではないと思わせるものがあった。
 ムサシ・セルブライト(p3p010126)は腕組みをし、深く頷く。
「なるほど……つまりザムエルの『R財団』、リアムの『L&R株式会社』の二つの力を得て『BBB』と『室長』は贋作と偽神という機械の兵隊を得ていた。
 それらの闇組織の動きを追っていた『00機関』の紹介で、ここに自分たちが呼ばれたのでありますか」
 納得したでありますと深く難度も頷いて……から、ハッと顔をあげる。
「アレ? 自分は何故?」
 イルミナ、紫電、秋奈、新田、そして美咲はともかくとしてなぜ自分がここに並んでいるのかという疑問に思い至った。
「それは自分が説明するであります!」
 そう気合い満々でブリーフィングフームの扉を開けて現れたのは、元気の良さそうな少女だった。
 ムサシの面影がなんだか深い、血のつながりすら感じさせるようなくせっ毛とテンション。
 されど齢19という若きムサシと比べると妹のようにすら見えるが……。
「自分はイオリ・セルブライト! この世界に召喚されたウォーカーであります! たまたまこのアンダー・デトロイト地区のクロエさんと知り合って、この地区を守るお手伝いをさせてもらうことになったのであります!」
 よろしくお願いします! と元気よく敬礼する。
 仲間達の視線が、一斉にムサシに集まった。
「……妹さんですか?」
「し、知らないひとでありますが……」
 なんだか見覚えもあるようなないような。
 そしてイオリから向けられる視線がキラキラしているような。
「無理もないであります。ムサシ・セルブライトは自分の『父親』なのでありますから」

 爆弾発言によって場が騒然となった、その数分後。
 早くも皆落ち着きを取り戻していた。どうやらイオリは近似した並行世界から召喚されたムサシの娘にあたる人物であるそうだ。そして、それこそがムサシがここに呼ばれた理由に繋がる。
「見てください」
 イオリが画面をさし示すと、無数の警備ドローンを一刀のもとに両断するコンバットスーツの女性の姿が映っている。
「この女性はトーラス・アースレイ。そこにいるムサシ・セルブライトの――」
「養成学校時代の、教官……であります」
 ムサシが小さく目を伏せた。その頬の赤らみと目の光から、寛治は初恋のにおいを嗅ぎつけた……が、自分から言い出さないのだ。指摘する必要もあるまいと前に向き直った。
 クロエが説明を続ける。
「このように、『R財団』『L&R株式会社』『BBB』そしてトーラス・アースレイによる襲撃があり、その時は警備ドローンでなんとか抵抗を試みたのですが……」
 敵は強力だった。贋作や偽神はともかく、L&Rの傭兵やトーラスの戦闘力は凄まじく、警備ドローンなど瞬く間に鉄屑になってしまう。
 そして戦闘を終えた映像では、建物内に残っていたアンドロイドに特殊なスタンバトンを当てることで停止させ、抱えて持ち去っていく様子が残っている。
「おそらく改造し、自分達の兵力に変えるつもりでしょう。あれらの組織にとって、この地区は『宝の山』でしょうから……」
 どこか悲しげに目を伏せるクロエ。
「『OO機関』の調べによれば、次にもまた襲撃が行われます。皆さんには、彼らの手からこの地区を守って戴きたいのです」

GMコメント

●オーダーと構成
 このシナリオは練達にあるひとつの『アンダー・デトロイト地区』を舞台に繰り広げられる物語です。
 幾人もの物語が交差し、それぞれの結末へとたどり着くことでしょう。

・成功条件:敵集団の撤退
 アンダー・デトロイト地区の入り口にあたるエリアで待ち構え、敵集団を撃退します。
 主な敵は贋作、偽神、L&Rの傭兵、トーラス、その他――が予想されています。

・シナリオ後半:アンダー・デトロイト観光
 防衛に成功したらアンダー・デトロイト地区を見学してみましょう。
 闇組織に狙われるだけあって一見して豊かそうなつくりをしています。
 地区には結構な数のアンドロイドたちがおり、交流することもできるでしょう。
 また、この地区が『どのようにして出来たのか』をクロエ等に尋ねることもできます。

●エネミーデータ
・偽神(ノーマルタイプ)×多数
 R財団の『室長』によって作られたとおぼしき人造兵士。
 ボディは機械人形を使っており、無感情に人を殺す兵器として運用される。
 高い攻撃力と俊敏さによる安定した戦闘能力を有しますが、攻撃レンジが至近距離に限られるという潔い欠点を持つ。

・贋作(海ノ型、天ノ型)×多数
 紫電を模倣する形で『BBB』によって作られた機械人形。
 防御やカウンター攻撃に優れた海ノ型と攻撃力に優れた天ノ型の二種が存在する。
 型によって多少差はあれど長い射程や範囲攻撃にも対応する汎用性をもつ。

・『傭兵魔術師』ジョンソン
 L&R社に雇われたジーパンとシャツに魔術師風の帽子という半端にラフな格好をした男。
 金のためと割り切って仕事にあたっており、その一方実力は高い。魔術を行使する戦闘に長けており、範囲攻撃やバフ、治癒と器用に色々とこなせる。
 個人戦闘力は高い。
「そりゃあ金のためさ。誰だってこんな汚くて悪いことしたくないだろ? だから御賃金も高い! 生きるためには金がかかる! Win-Winってわけだ。わかるかい?」
「倫理観でメシが食えればそうするさ。けど社会は俺のママじゃない。わがままいってもお金は降ってこなかったのさ。かなしーよね」

・『傭兵ガンマン』スミス
 L&R社に雇われたガンマン風の男。二丁拳銃を装備し、オールレンジに対応する。
 個人戦闘力は高い。
「おっと、お楽しみだったのに邪魔すんな。動画広告かよ」
「なあおい、これはゲームなんだぜ? 最後に生き残った奴が勝ちのゲーム。ボイコットとかサムいことするんじゃあねーよ。なあ?」
「ハッハー。動く的を撃つってのは楽しいねえ。血も出て呻きもする。いいオモチャだぜ」

・イング
 L&R社に雇われたイルミナと同郷のロボット。
 戦闘に特化しており、レベルアップやカスタマイズを通し、偶然にもイルミナと似たビルドスタイルをとっている。
 個人戦闘力は高く、イルミナに対しても無自覚な執着を見せている。

・トーラス・アーレイ
 ムサシと同じ世界出身のウォーカーとおぼしき人物。
 個人戦闘力は高く、レーザーソードによる格闘技術は特に優れている。
 『斬鋼滅殲エデンズパニッシュメント』はその中でも特に有名な決め技として知られる。
 ムサシが良い感情を抱くほどにや良い人物であり、彼の教官であった。
 なぜそんな彼女が闇組織と行動を共にしているかは、不明。

・その他未知の戦力
 今のところ、前回の襲撃映像から敵を予測しているのみなので未知の戦力が加わっている可能性もあるため追記しています。
 基本的にはないものと考えてよいでしょう。

●味方NPC
・クロエ
 アンダー・デトロイト地区を管理しているアンドロイド。
 イレギュラーズに対して友好的であり、襲撃からの防衛をローレットへ依頼した。

・イオリ・セレブライト
 ムサシの出身世界から近似した並行世界から召喚されたムサシの未来の娘。
 宇宙の新米保安官として活動していたため戦闘は多少こなせる模様。主にイレギュラーズのサポートとして援護を行う。

・鈴木 智子
 佐藤美咲の上司であり00機関のリーダーの一人。美咲の弱みを握っているのかかなりこきつかっている。
 情報の提供と調査の依頼補助という形でこの案件に関わっている。

・カガリ
 紫電の贋作。機械の身体に自我を持った特殊個体であり、ウォーカー。『もう一人の方』はお留守番をしている模様。
 主にイレギュラーズのサポートとして援護を行う。

●アンダー・デトロイト地区
 練達の中にある小さな小さな機械人形の町。
 この町には機械人形だけが暮らしており、彼らは『日常生活の模倣』を毎日のように返している。
 中央施設を通じて『クロエ』というアンドロイドがそれらを意地管理しており、住民である機械人形が町の外にでることはない。また、外の人間がわざわざこの地区に入ってくることも稀である。
 ゆえに別名は『忘れられた偽物の町』。

  • アンダー・デトロイト、ファーストデイ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

リプレイ


「鉄帝の紛争に顔を出さないと思ったら……」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は銃のセーフティーを解除すると、眼鏡をキラリと反射させた。
「R.O.O.のお前は死んだ。そろそろ、葬式の予約が必要だろう? ザムエル・リッチモンド」
 世界を飛び越えておきた永きにわたる因縁も、おそらくはここが終着点。もしアンダー・デトロイト地区を抑えられればその終着点すら逃すことになる。寛治にはそんな確信があった。
「高橋室長も『派遣員とは言えローレット所属だからそっちの仕事としてお願いね♪』じゃねぇんだよ……」
 同じく銃のセーフティーを外し、『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)もギラリと眼鏡を反射させる。おかしいだろあの組織。とかぶつぶつ言いながらうつむいている様子は鬼気迫るものがある。
 そんな彼らには背を向けて、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)は大きなガラス張りの壁からアンダー・デトロイト地区の風景を見下ろしていた。
「アンダー・デトロイト。希望ヶ浜とはまた別の意味での作り物の街ッスか。
 『宝の山』とは言い得て妙ッス、確かに彼らにしてみれば宝の山でしょう。本当に金銭的な意味で、ッスけど」
 不自然な人工物。主を失ってもありつづける機械仕掛けの街。イルミナはかつての世界で送っていた生活を思いだし、目を閉じた。
 各々に因縁があり、思い入れがある。
 これはただの防衛依頼で終わらないだろうと、壁に背を預けて立つ『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は内心で呟いた。
「普段は遺跡の発掘ばかりしている私だが、練達はこういった面白そうな地区も多いね。
 こういう未来都市とでも言うような雰囲気も嫌いではないよ。それにしても……」
 ちらりと見やると、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)がねじくれていた。それも物理的に。
 『考える人』をよりこじらせたような姿勢になったムサシはしきりに首をかしげ、状況の理解につとめていた。いや、理解できない状況をなんとか受け入れようとしているという有様だ。
「娘? 信じられないけど嘘はいっていなさそうだし……それにトーラス先輩が、テロ? なぜ……」
 まるで理解はできないが、立ち止まっている場合で無いことだけは確かだ。
「まず、情報の把握、の前に襲撃の撃退であります!」
「どうやら覚悟は決まったらしいな」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が座っていた椅子から立ち上がり武器をとる。
「所謂アンドロイドが運営する町とはな。聞く限り人間と大差ないってのも面白いもんだ。
 だが掌握したら手軽に兵力に出来るってのは確かにおっかない。ベースの能力は分からんが死を恐れず馬力もあるってのは戦場じゃ脅威だわな」
 その通りだ、とゼフィラとムサシが頷いた。
 アンダー・デトロイト地区はアングラ組織が復興するにはあまりに都合が良い。
 おさえられる前に防衛に回れたのは不幸中の幸いだ。

 シュン、というなめらかな空圧の音で開いた扉から『紫閃一刃』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)と『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が建物の外へと出る。
「あの子たちとバトるのって、例の埠頭以来だっけ? なにしてたんだっけあのとき。タコパ?」
「性能テストだ性能テスト。で、そろそろ実用段階ってとこだろう」
 紫電は剣に手をかけ、後ろに続くカガリとイオリへと振り返った。彼女たちは今回戦闘のサポートを行ってくれるそうだ。おかげで多少は戦いやすくなるだろう。
「クロエの言う通り、大方この地区のアンドロイドを改造して兵器にするつもりだろうが……室長とベリウスはここの機械人形たちをリバースエンジニアリングしても得られるものが薄い筈」
「材料にするとか?」
「そこまで困っては……あー」
 紫電はこれまでの世界の基準で考えそうになって、そういえばここは混沌世界。誰もがルールに縛られているのだということを思い出した。自分も秋奈も、そういう意味で『人並み』に一度落とされた身である。相手も同じ土俵で戦っているということだ。
「何にせよ、直接動きを見せた以上ここで終わりだ。この、忘れられた街でな」


 アンダー・デトロイト地区の出入り口は一つしか開かれていない。
 故に侵入に気付くのは容易であり、相手もまた隠れるつもりはないようだ。
 ギンッという金属を無理矢理に高速切断する音によって防壁が切り裂かれ、その向こうから偽神と贋作たちがぞろぞろと侵入を果たす。
 迎え撃つのは警備ドローンたち……のはずだが、今回は別だ。
「やることは変わらず、とっと片付けてしまおう。
 オレは主に偽神と贋作を受け持つ。天も海も厄介だが、動けなければただのブリキにすぎんしな」
「上等じゃい! よっしゃオラかかってこいやー!」
 堂々と立ち塞がったのは秋奈と紫電。二人は刀を抜くと贋作や偽神たちへと突きつけた。
「神狩(カガリ)、秋奈のサポートに回ってくれ。天ノ型譲りのその剛剣なら、秋奈と一緒に奴らを食い破れるはずだ」
「はい、お姉ちゃん」
 カガリにサポートを任せると、紫電は突っ込んでくる『贋作』たちへと斬りかかる。
 いくらベリウスの作るコピーといえど、この世界で幾度も修羅場をくぐり抜けた紫電の戦力に追いつくことはかなわない。
 紫電は相手の防御をブチ抜いて次々と贋作を破壊していく。
 その一方で……。
「イェーイ! 仲良しツーショット!」
 相手の背後に回り込み自撮りすると、秋奈が偽神の首を切り落としてから横ピースした。
「目の輝きが足りないゾ! 私ちゃんみたいにキラキラするのだぞ!」
 こちらに至っては戦神の複製には勿論至っていない。そもそものコンセプトが『笑って死ねる傭兵』なのだ。

「お? 今度は抵抗してくる奴らいるじゃねーか。難易度上がったかあ?」
 そう言って戦闘に加わったのはスミスというL&R社の傭兵だ。
 防御にも優れた紫電や秋奈をあえて狙わず、贋作たちにブロックさせて紫電たちを突破する構えだ。強者をまともに相手にしないというのはこの世界で戦うベテランならではの動きである。
 だが、こちらも当然経験を積んだベテラン揃いだ。
「ま、このメンバーでの戦闘は、特段の懸念は無いのですが」
 路地を曲がり拳銃を向ける寛治。彼の射撃を受け、スミスは素早く贋作の後ろへと下がった。
「あれ、お前見たことあんな。写真だっけ、実物だっけ」
 余裕そうなスミス。どうやら寛治の射撃を上手にいなしているようだ。より戦術的なコストの低い駒を盾にするという手法で。が、それを読み切らない寛治ではない。
「本命の攻撃だと思った方は申し訳ない。これ、前衛への援護射撃なんですよ」
 直後、建物の屋上からティンダロスに騎乗したマカライトが急降下をしかけた。
「お互い傭兵稼業は楽じゃないな? 不祥事もケチつけられないんだし」
 マカライトは降下しながら『フェンリル・ドライブ』を発動。鎖によって編み上げた巨大な狼の頭部が周囲の贋作たちをまるごと喰らっていく。
 元々射撃によって散らされていた贋作たちがこれで残らず消えたので、スミスの身体ががら空きとなる。
「やべ!」
 不利を悟るやいなや一目散に逃げ出すスミス。
 一方で魔術師風のジョンソンは遮蔽物に隠れながら魔術を発動させていた。
「そっちもこっちもやること多いスねー。ジョンソン、実際アンタいくらもらってここに立ってるんスか?」
「傭兵に金額聞くのはタブーでしょ。そっちこそ、金で雇われるならうちこない?」
 そんなジョンソンと激しい撃ち合いになる美咲。
 ゼフィラは『コーパス・C・キャロル』を発動させると、魔術による範囲攻撃に対抗した。
「さて、各々の因縁に関して私から言えることはないけれど……私がいる以上、誰一人倒れさせはしないとも」
 美咲とゼフィラが分析する限り、ローレット側と敵側の違いは戦闘不能によるコストの大きさであった。
 偽神や贋作たちは個体数が多く代わりが効くからか盾にされやすい。一方でスミスやジョンソンといったネームドは身を隠しながら攻撃をしかけてくる。
 こちらはといえば、一人でも倒れればそのぶん崩れる戦力は大きいのである。ヒーラーの立場は当然重い。
「まだそんなことやってるッスか、イング!」
 イルミナが青い残光をひきながら急加速をかけ、手刀を叩き込む。
 対するイングも赤い残光を引きながら手刀を叩き込んだ。
 衝突する力と力は、まさに互角。
「それはこちらの台詞だイルミナ。大体リアム様はなぜ貴様に拘る!」
「そんなのこっち(イルミナ)が聞きたいッスよ!」
 状況はややローレット側有利、といったところか。
 そこへ。
「――」
 急加速をかけ、一人の女性が駆け抜ける。
「危ない!」
 それが何を意味するか直感したムサシが、レーザー警棒を抜いて飛び出した。
「ブライト・エグゼクション!」
 レーザーソードとレーザー警棒が真正面からぶつかり合い、激しい火花を散らす。
「やはり……トーラス先輩!」
「パ――じゃなかった総司令官殿、離れて下さい! 『そいつ』は危険です!」
 駆けつけたイオリがビーム・リボルバーを構えるとトーラスめがけて連射する。
「なっ!?」
 突然のことにムサシが飛び退き、一方のトーラスは飛来したビームコーティング弾頭を軽々と弾く。
「トーラス・アースレイ! 彼女はもう英雄のトーラスではないであります! 彼女は練達のマザーAI暴走時に乗じたテロ実行犯なのであります!」
「そんな!」
 ムサシは首を振り、トーラスへと呼びかける。
「先輩…いや! トーラス・アースレイ保安官! 今すぐテロ行為を止めてください! 宇宙保安官としての責務、忘れてしまったんでありますか!?」
「…………」
 トーラスはムサシを見つめると、レーザーソードを構え直し再び斬りかかる。
 それをいなしながら、ムサシは必死に呼びかけた。
(呼びかけが、通じない!? これは一体……!)
「斬鋼滅殲――」
 ゆらり、と目の前のトーラスが動いた。それが見えているのに、身体の反応がおいつかない。戦いのテンポが変わり、相手が急激に上回ったのだ。
「エデンズパニッシュメント!」
 直撃をうけたムサシが吹き飛び、ごろごろと地面を転がる。バチバチと火花がちり、コンバットスーツの装着状態が解除される。
 が、そこまでだった。
「総員、撤退だ」
 大きく飛び退いたイングがそう呼びかけると。ジョンソンたちは素早く現場から撤退。追いつこうとするイルミナたちを贋作をつかって足止めすると、その場から完璧に逃げ切ってしまった。
 寛治は銃を下ろし、眼鏡に指を当てる。
「アウェイでの襲撃は、襲撃側が圧倒的に不利。浅い損耗でも撤退を選ぶのは道理……ですね」
 ちらりとだけムサシを見ると、寛治はきびすを返した。
「私は暫く単独で動きます。合流は後ほど」

●忘れられた街
「再現性東京といい、この混沌に招かれたものがこれほどの『世界』を作り上げた執念は、方向性はどうあれ尊敬に値するね……」
 ゼフィラはそう呟き、大きなガラス張りの窓に背を預けた。眼下には夜の街があり、まるで普通の街のように人々が行き交い生活する風景がある。
 だがよく見れば、確かにあちこち不自然だ。子供が夜一人で出歩いていたり、灯りがついている建物は多くても生活臭のようなものを感じない。
 まるで動く巨大ジオラマだ。
 部屋の中ではムサシがイオリに治療を受けていた。
「あの剣さばき……間違いなくトーラス先輩であります。偽物という線は、なさそうであります……」
 ショックを受けた様子のムサシ。イオリはそんな彼をどこか不思議そうに見つめていた。
「あ、えーっと……」
「呼び捨てでいいでありますよ総司令官殿」
「『総司令官殿』もやめて欲しいでありますよ。身に覚えがなさすぎて……」
 二人は照れたように笑ったが、ムサシはすぐに表情を引き締めた。
「では、イオリ。トーラス先輩を『そいつ』と呼んだでありますな。もし近似した世界線にあるなら、そちらの世界でも……」
「はい、トーラス・アーレイといえば英雄です。そうし――あー、ムサシ、殿? の教官にあたりますから、尊敬していたであります。けれどこの世界に召喚されたあの人は、R財団たちと組んでテロを行っていたのであります」
「どんな理由があろうと、先輩がテロなど起こすはずがないであります!」
 ムサシは強い確信を持ってそう叫んだ。
 悪に手を染めることは勿論、彼女ほどの人物がそうそう騙されるとも思えない。
 となれば、残るパターンは一つだけだ。
「まさか……『洗脳』」

 マカライトは美咲たちと共にゆっくり街を歩いていた。
「ここの人らって、別に最初から戦闘用として作られてるわけじゃないんスよね」
「ええ、そんな機能は彼らに備わっていません。一般人と同じか、それ以下でしょう」
 そう答えたのはクロエである。
「そもそも、なぜこの街を作った? この風景は、何を維持している?」
「それは……」
 マカライトの質問にクロエは口ごもる。
 そして、カフェテラスに座る秋奈と紫電のそばで立ち止まった。
「我々はこの街を作り上げた人物を『マスター』と呼んでいます。それが個人であるのか集団であるのか、私には分かりません。私が起動したのは、この街からマスターが消えた後でしたから」
「消えた……だと?」
 紫電の言葉に、秋奈が小首をかしげた。
「なんかの避難場所にしたとかじゃないんだ?」
「避難場所なら『日常風景』まで模倣する必要がないだろう」
「その通りです」
 クロエは頷き、椅子に座る。
 注文もしていないのにカフェラテが運ばれてきて、それを手に取った。
「ここはマスターの故郷を再現した街。マスターがこの世界に召喚された際、同郷の仲間を探すために作られたのです。この街があれば、きっと彼らは会いに来てくれる……と」
 そう言いながら、クロエは目を伏せた。
 紫電たちは苦い顔をして目を背ける。
 だって、この街の現状が証明してしまっているではないか。
 その『彼ら』など居なかったのだと。
 そしてマスターもまた、『彼ら』を待つことを諦めたのだと。
「なるほどな……だが一つ腑に落ちない。街なんてものをわざわざ作ったのはなぜだ? 小規模とはいえ、かなりのコストがかかったはずだ。このままじゃ巨大な郷土資料館だぞ」
 紫電の抱く疑問にまず答えたのは、なんと寛治だった。
「『R財団』……ですよ」
 カフェの中から現れた寛治は、タンブラーを手に椅子に座る。
「この街の建設にはR財団、L&R株式会社、BBB、そしてもう一人の四者が共同で携わっています。いわば、彼らにとってこの街は隠し財産。復興を狙うなら回収しない手はないのです」
 秋奈がフーンと言いながらストローをくわえていると、寛治がスッと写真をテーブルに出した。
 ザムエル・リッチモンド。
 リアム・クラーク。
 ベリウス・ベアグ・ベネディクト。
 そして、もう一人。白衣に眼鏡をかけた人物だ。
「ん、こいつ……どっかで……」
「『室長』と呼ばれている人物です。年齢も本名も、掴むことができませんでした。ですが彼がこの世界の鉄騎種であることと……」
 寛治は眼鏡の奥で目を細める。
「彼が魔種であることが、分かっています」
 ザムエル。リアム。ベリウス。極端に言えば一介のウォーカーにすぎない彼らの思想を歪めた魔種が存在すると、寛治は直感的に気付いていた。もとよりザムエルは魔種による狂気によって今の歪みをもったのだ。その大元がこの人物だということになる。

 高い建物の屋上で、イルミナは夜景を見下ろしている。
 自分達の守った景色を、見下ろしている。


「…………」
 この感情はプログラムなのだろうか。
 それとも。
「どうすれば、『自分』を信じられるのですか。『マスター』」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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