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シナリオ詳細

<フィクトゥスの聖餐>血濡れ聖女

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義の首都フォン・ルーベルグから少し離れた海沿い。
 そこに、独立都市アドラステイアは聳え立っている。
 独立都市アドラステイアは、港湾の城塞都市『アスピーダ・タラサ』をベースにつくられた宗教都市。
 冠位魔種による『大いなる災い』によって信仰される神が紛い物であったことに気付いた大人達が『新たな神』を創造し、作り上げた場所だ。
 高い壁に包まれたこの都市には、国内で難民となった孤児らが多数流れ込み、大人達に導かれて神……ファルマコンへと祈りを捧げる。
 我らの神よ――今日も幸福を与え給え。
 鳴り響く鐘の音。序盤は多くの子供がそれを耳にしていたが、今では……。


 フォン・ルーヴルグに集まるイレギュラーズ。
「……長かったね」
 ついに、アドラステイア上層攻略作戦が決行されることとなり、『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は雪降る空を仰ぐ。
 何度も都市内へと潜入し、オリヴィアも少しずつ都市の情報を仕入れて報告してきた。
 それが、『ファルマコン』との接触に繋がったとなれば、彼女の行いも無駄ではなかったというものだ。
 アドラステイアでは、大人達が子供達を導き、ファルマコンへの教えを説いている……というのは表向き。
 その実、大人達は着々とファルマコン覚醒の為に動いていたという。
「その正体は、ゴッド・マザー……自らの血をイコルとして子供達に配っていたそうさ」
 その事実に、話を聞いていたマザー子飼いの小隊長だったニコラが体を震わせる。
「イコル……私も聖獣になっちゃうの……?」
 上層攻略作戦で敵対していた彼女だが、マザー・マリアンヌは負けた彼女達を放置し、共闘していたはずの勢力の子供達を聖獣に食らわせた。
 その聖獣は、ニコラが親愛を寄せていたミロイテがイコルの投与によって変貌してしまったものであるのは間違いない。
 マザーはそれを分かった上で、イコルを配っていたはず。あれだけ、マザーの為に尽くしていたというのに……。
「…………」
 マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)はマザー・マリアンヌの悪行とも言える行為に口を噤む。
 都市内での魔女裁判によって疑雲の渓へと落とされた子供達が魔女喰い……ファルマコンの分体に捕食されることも、一部聖獣へと変貌する者もいたはずだということも、それがイレギュラーズによって狩られていることも。
 全て、マザー・マリアンヌは知っていたはず。
「彼女の行動原理はファルマコンの為さ。子供達を導くなんてこと眼中にすらない」
 その上で、それが分かった上で、マザーは暗躍を続けていた。
 ファルマコンの完全覚醒という目的の為に。
 実際、自身を終焉獣だと名乗りを上げたファルマコンは世界を破滅に導くと宣言するまでの力を得ていた。
 この偽神を都市の外へと解き放つわけにはいかない。

 さて、今チームに求められるのは、マザー・マリアンヌの討伐である。
「彼女もファルマコンを護る為になりふり構わず抵抗してくるはずさ」
 オリヴィアはそれだけに、こちらも万全の準備をして討伐に当たりたいと告げる。
 すでに魔種へと堕ちた聖女は、ファルマコンの意に従って混沌全てに破滅をもたらす存在となるのは間違いない。
 そのマザーは現在、アドラステイア上層のカンパーニレ(鐘塔)にいると見られる。
 内部の状況はよくわかっていない部分も多いが、アドラステイアでは『アドラステイアの頂の更に先、天上にあるという神の園』であるとニコラが証言してくれている。
「本当にそれがあるのか、私も確かめたい」
 マザーの真意を、そして、聖獣ミロイオンがあの優しいミロイテ姉さんなのか。そう訴えかけるニコラは年相応の少女の姿に見えた。
 マザーは子飼いのニコラらをすでに見捨てている状況もあり、取り巻きとなる戦力は少ないと見られている。
 だが、相手は魔種。これまで何を温存していたかは分からぬが、マザー・マリアンヌ本人が最も脅威であるのは変わらない。
「正念場だ。ぬかるんじゃないよ」
 これまでのマザーの戦いから得られた資料を手渡すオリヴィアがイレギュラーズに
 説明の最中、徐々に空模様は陰り、雪は徐々に強まっていた。


 アドラステイアを駆け上るイレギュラーズ。ニコラと数名の小隊員も一緒だ。
 彼女達はマザーの真意と、聖獣ミロイオンが本当に優しい姉だったのかを確かめたいと同行を決めたのだ。
 とはいえ、ニコラ達もイレギュラーズからファルマコンの贄とされる危険性も示唆されている。
 ただ、この機会を逃せば、マザーの真意を問う機会は永久に失われてしまうかもしれない。だからこそ、ニコラは危険を承知でイレギュラーズと行動を共にすることに決めたのだ。
「こちら……です」
 ローレット側につくと決めたニコラは、これまでの態度を一変。丁寧な口調で都市内を案内する。
 深まる雪の中だが、土地勘のある子供達の案内は実にありがたい。
 一行は程なく上層へと至り、目的のカンパーニレ内へと突入する。
 すぐに、違和感を覚えるメンバー達。
 空間のゆがみを越えたことを察しながらも、それぞれが目にしたのは……修道院内を思わせる場所。
「……あの『大いなる災い』で、貴方達の家を、家族を、ローレットが全て破壊しました」
 並んで着席していた子供達は卓上の女性の言葉を静聴する。
 その中には、かつて聖銃士であった少女、ミロイテの姿も……。
「私達が縋るべきは新たなる神、ファルマコンをおいていません」
 卓上にいたのは、血に塗れた修道服を纏うマザー・マリアンヌ。彼女は笑顔すら浮かべて子供達へと話を続けていたが、ローレット一隊の闖入によって真顔になる。
 銘々がマザーに対して思い思いに呼びかける中、ニコラが質問する。
「マザー、これは一体……それにミロイテ姉さんがなぜ……?」
 ニコラが言うには、ここは懐かしき修道院内部をそのまま移したような場所だという。
「ニコラ。よく戻ってきましたね。さあ、あなたもファルマコンの為に尽くすのです」
 マザーに続いて、ミロイテも立ち上がって。
「お疲れ様。さあ、貴方もこれを……」
 そっと差し出してきたのはイコル。さすがにイレギュラーズもそれを見過ごせずにニコラを護るように立ち塞がる。
「神にあだなすローレット……これ以上の防御は許すわけにはいきません」
 この場を突破はさせないと、マザーは音なく鎖を引きちぎる。 同時に、この場の子供達が白銀の鎧を纏い、ミロイテを始め数名が聖獣へと姿を変えた。
「次はありません。確実に貴方達を神の贄と致しましょう」
 長らく枷をしていたとは思えぬ動きでナイフを取り出したマザー・マリアンヌ。
 血濡れ聖女の二つ名で呼ばれていた彼女は、暗殺術を駆使してこちらを始末しようとしてくるはず。
 加えて、聖銃士『幹部生』も油断ならぬ相手。
 ただ、彼等を聖獣ミロイオン、そして2体のフレスベルグが喰らう可能性も否めない。
 できるなら子供達を保護しつつ、難敵であるマザーの撃破を。
 加えて、元は都市の子供とわかっていながらも対せねばならぬ聖獣達をどうするか。
 イレギュラーズは様々な思惑を巡らせながらも戦闘態勢をとるのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 独立都市アドラステイア<フィクトゥスの聖餐>のシナリオをお送りします。
 こちらは、マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)さんの関係者シナリオです。
 初めて登場してから1年余り。ファルマコンを妄信する魔種、マザー・マリアンヌに引導を渡してくださいませ。

●状況
 日中、外は一面の吹雪ですが、上層部に存在するカンパーニレ内、ヘブンズホールにてマザー・マリアンヌの率いる一隊が待ち構えています。
 内部は修道院を思わせる見た目をしています。
 ファルマコンへと祈りを捧げ、穏やかな生活をしている光景を目にすることができますが、これもマザーの思い描いた異空間です。

●敵
◎マザー・マリアンヌ(マリアンヌ・サリエル)
 20代女性。元人間種の魔種。かつては「血塗れ聖女」なる渾名で呼ばれた聖女で、ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)さんにとって聖女時代の偉大な先輩。
 ファルマコンを妄信しており、ヘブンズホールにファルマコンを護るべくイレギュラーズを待ち構えています。
 すでに手足を縛っていた枷を外し、自身の信じる神に仇なす存在をファルマコンの供物にしようと手にするナイフで暗殺術を行使してきます。

○聖獣・ミロイオン
 全長3.5mほど。赤毛の獅子に翼を生やす聖獣。名づけ親はニコラ。
 戦闘前は少女……ミロイテの姿をしていますが、先頭直前に上記の姿へと変貌します。
 機動力を武器とし、のしかかり、強襲薙ぎ払い、両腕と翼の乱撃などが確認されています。

○聖獣・フレスベルグ×2体
 全長3m、巨大な白いワシの姿をしております。
 死体を飲み込む者という意味を持つモンスターであり、都市内から逃げ損ねた者や都市内へと侵入する者の命を奪い、その嘴で引き裂くようです。
 また、氷のつぶてを発射したり、羽ばたきによって強い衝撃を浴びせかけてきたりします。

○聖銃士『幹部生』(『プリンシバル』)×5名
 新世界より派遣された白銀の鎧を纏う10~13歳くらいの子供達。此方も長剣、長槍と比較的小回りの利く軽い武器を操ります。
 聖銃士の中でも特別優秀な幹部候補生で、ティーチャーやマザーになる将来が約束されています。
 ただ、その割には人数が多く、贄にされる候補とも……。

●NPC
・小隊長ニコラ
 人間種女性15歳。小隊を率いる赤毛の少女。長剣使い。白銀の鎧を着用。
 マザーに一目置かれていましたが、先日の戦いで聖獣に同じ子供が食われたことで、マザーに不信感を抱いたようです。
 今回はマザーの真意を確かめるべく、ローレット側について参戦を決意したようです。

・一般聖銃士×7名
 マザーに認められてアドラステイアの騎士となった少年、少女。ニコラ同様、白銀の鎧を着用しています。
 マザーの所業に疑念を抱き、ニコラと共にそれを確かめに付き添っています。
 戦いにおいては、長剣、長槍等、比較的軽い武器を扱います。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●魔種
 純種が反転、変化した存在です。
 終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
 大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
 通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
 またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <フィクトゥスの聖餐>血濡れ聖女完了
  • GM名なちゅい
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年01月19日 23時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
蒼穹の魔導書
マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)

リプレイ


 一面吹雪の中、アドラステイア内部を駆け上がってきたイレギュラーズ。
「こちら……です」
 聖銃士の小隊長ニコラに案内してもらい、中層を駆け抜けて上層へと至ったメンバー達はカンパーニレへと突入する。
 突入と同時に違和感を覚えた面々だが、気を強く持ってその中を進む。
 すぐに開けた空間へと出たメンバー達。そこで、同行していた聖銃士達が唖然として。
「……あの『大いなる災い』で、あなた達の家を、家族を、ローレットが全て破壊しました」
 淡々と檀上で語るのは、血染めの修道服を纏う女性。
「ここって……」
「修道院……?」
 彼女達にとっては過去、いつも通りあった光景。
 その中には、姿を消したミロイテの姿もあり、ニコラの目にはそれが異様なモノに映っていた。
「私達が縋るべきは新たなる神、ファルマコンをおいていません」
「マリアンヌおねーさん、綺麗ね。人ではないみたい」
 前で語るマザー・マリアンヌに、小柄なオッドアイの幻想種女性『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は素直な感想を抱く。
「マザー、これは一体……それにミロイテ姉さんがなぜ……?」
 ニコラがその場のマザーや姉へと質問するが、相手は一切それには答えず。
「ニコラ。よく戻ってきましたね。さあ、あなたもファルマコンの為に尽くすのです」
「お疲れ様。さあ、あなたもこれを……」
 マザーに続き、立ち上がったミロイテもが差し出してきたのはイコルだ。
「ニコラ、受け取ったらだめよ」
 それを見過ごせない義を尊ぶ「不倒」の女性『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)がニコラの前に立って。
「私の名はヴァイスドラッヘ! この子たちを護りに来た」
 この空間に轟く程の音量で名乗りを上げるレイリーに、修道院の光景内にいた子供達やマザーが険しい顔でイレギュラーズと聖銃士達に視線を向けてきた。
 すくっと立ち上がる子供達。ミロイテを含む3人が聖獣へと変貌し、聖銃士『幹部生』であるプリンシパルも武装する。
「姉さん……」
(ミロイオンと言う聖獣、ニコラ殿と気になる事が多いが……。少なくともニコラ殿達には今、決断しなければならぬ……)
 大柄なドワーフといった見た目をした『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は直面する事柄の大きさに戸惑うニコラ達に与えられた試練とも捉えていた。
「貴方達は『プリンシパル』をお願いしていい?」
「プリンシパルはニコラ隊と合わせて、マリエッタも対応に回るんだな?」
 レイリーと共に、人と機械、二つの脳と心臓を持つ『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)が脱力しかけたニコラへと幹部生相手を任せる。
 集団戦を得意だと見たからこそ、レイリーらイレギュラーズはそう判断したのだ。
 落ち着いた物腰をした世話焼きの女性、『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)もまた首肯し、じりじりと子供達の牽制を始める。
「わ、分かった」
 歯を食いしばるニコラは気丈に部下達へと指示を与え、手早く戦闘態勢を整える。
 動揺はしていたものの、素早く態勢を立て直すところはさすがだ。
「なら、私は聖獣から先に当たるとしようか」
 そう言うルクトは改めて飛び上がる3体の聖獣を見上げる。
 巨大なワシのようなフレスベルグが2体、そして、聖銃士達が姉と呼称したミロイテ……いや、赤毛の獅子の姿をしたミロイオン。
(……聖獣、か)
 その名とは裏腹に随分と外道であり、到底理解しがたい存在だとルクトは感じてしまう。
 ただ、少なくともこのような獣は捨て置けないと、ルクトはふわりと浮遊し始める。
「ミロイオン……そして血濡れ聖女」
 その間に、マリエッタが前方の相手へと呼び掛ける。
「敢えて……私はこの言葉を向けましょう。貴方達を、救いに来ました」
 ――歪んだ運命からその血を奪い、あるべき未来へと想いを送る為に。
「救い? 私達が救いを求めるのは、新たなる神ファルマコンへの信仰のみです」
「本当にあんな邪神を信奉しているのですか? その神は人を救う神ではありませんよ」
 ファルマコンを信奉すると言うマザーに、フルールは問い返さずにはいられない。きっと神ですらないのだろうと彼女は推察する。
 恋は盲目と言うが、こちらは信奉。
 盲目的な信奉ほど危険なものはないとフルールは考える。
「誰かを不幸にするのに、救いなんてあるはずがないでしょう」
「神が完全なる力を得ることができれば、全てをお救いになります」
 いかなる言葉をもってしても、マザーの妄信とも言えるマザーの信仰を揺らがせることはできない。
「魔種に支配されていた天義の統治を拒む、というのは分からないでもないのだけれど……」
 古代の地球より呼び寄せられたという『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)も仲間と相手の会話を聞きながら、魔術書を開く。
「こうなってしまっては、かつての天義とやっていることも大して変わらないわね」
 ルチアに同意したのは、天義の騎士出自である箱入り娘、『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)。
 彼女はじっとマザーを注視して告げる。
「マザー……あの時逃がしておかなければ、こんな事にはならなかったでしょうね」
 マザーの視線は恐ろしいまでに冷ややかだったが、リドニアは微動だにせず、じっと見つめ返して。
「……終わらせましょうか」
「ニコラ達が新しい道を進む為にも、アドラステイアの悪徳の一角……此処でケリをつけなきゃね」
 菖蒲型魔導機巧人形拾壱號『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)もまた、抜いて魔導機刃を光らせる。
「野放しにしておく訳にはいかないから、ここで決着とさせて貰うわ」
「この、悪徳まみれのくそったれな都市に終止符を打つ。ここで消えて貰うぞ、マザー!」
 ルチアに続き、ねこ武者娘といった風貌の『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もまた自身の刀に手をかける。
 次々と敵対の意志を示すイレギュラーズに、マザーも小さく身を震わせて。
「神にあだなすローレット……これ以上の暴挙は許すわけにはいきません」
 マザーの手足を縛っていた枷。その鎖を彼女は自ら引きちぎった。
 流れる様な所作で素早くナイフを抜いたマザーは軽やかなナイフ裁きを見せる。
「次はありません。確実にあなた達を神の贄と致しましょう」
 そのナイフを突き出して構えるマザー。
 アオオオオオオォォ!
 呼応するようにプリンシパルは身構え、聖獣も強く吠えてきた。
 無論、その程度で臆するイレギュラーズではない。
「マザー・マリアンヌ……邪教を信仰するかつての聖女よ。貴様ら『ファルマコン』一党の行い、真に邪悪なり」
 ナイトメア家の忠臣、マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)は、臨戦態勢となったマザーへと声をかける。
「最早問答など無用……ミリヤ様に代わり、正義の名の元に貴様を『断罪』する」
 幾度も彼女と対した主はすでに魔種へと堕ちてしまっている。 その主に代わり、マルコキアスは自身専用の聖剣……断罪の鎖剣で血濡れ聖女と対する。
「決着をつけよう、この悲劇に」
 小隊を率いるニコラ。そして、聖獣となり果てたミロイテ。
 その両者を助ける為に来たレイリーの一言を皮切りとして、両者はぶつかり始める。


 鐘塔……カンパーニレ内はファルマコンのテリトリーと思われる。
 孤児院の心象風景は子供達のものか、はたまたマザー・マリアンヌのものか。
(『人間』は殺さないように……)
 支援回復用の準備をしてきたルチアはこの場の仲間を支えるべく、散開する仲間をできるだけ自身のエスプリ『啓示の乙女』の範囲に収められるよう位置取る。
 ルチアは聖女の心であるよう努める。くしくもこの場の相手は血濡れ聖女というのが何とも皮肉めいているようにも思えた。
(意気込みはありますが……心は冷静に)
 想いだけでは全てはうまく動くわけではない。
 マリエッタは着実に戦いを進めようと、自らを最適化と合わせて天より降る光輪によって自己強化する。
 瞳から一筋の光を走らせるマザーが一直線に跳んできたのに対し、リドニアが前に出て。
「我が右手には蒼を。我が左手には碧を。我が心には正義を。歪みし者に鉄槌を」
 魔力を高めるリドニアは初手から全力でマザーと対する。
「狂った連中共の相手は、これで最後にしたいですわね」
「どういうことですか?」
「文字通りの意味ですわよ」
 眼光鋭く、マザーへの憎しみを露わにするリドニア。
 マザーもそのリドニアの急所へと刃を振るうが、彼女を庇ってオウェードがその刃を受け止める。
「お前さんがアドラステイアの中でも有名なマリアンヌ様か……」
「あなたは……」
「ワシの名は言わぬ……何故ならお前さんに会うのは最初で最後だからのう……」
 存在感を示すオウェードは戦略眼を働かせつつ、防御を固める。
 その一撃はかなりの威力。魔種となったことによる人外の力もそうだが、的確に相手を仕留めようとする暗殺術は脅威だ。
(一時たりとも気は抜けぬ)
 相手を注視し、オウェードは次なるマザーの一撃に備える。
 マザーもそちらもばかり気をとられてはいられない。横からマルコキアスが仕掛けてきたからだ。
「お覚悟を……偉大だった血塗れ聖女よ」
 マルコキアスもまた、魔種相手とあって初手から全力で攻撃に当たるスタイルをとる。
 少しずつリドニアがマザーを彼女の手勢から引き離す間に、マルコキアスは鎖剣で牽制しつつ魔弾を撃ち込む。
 一撃だけではさほど大きなダメージにはならない。
 だが、その一発は着実にマザーの体を蝕んでいくはずだ。
「…………」
 眉一つ動かさずに腕を振り回すマザー。
 ただ一閃させるだけでなく、連撃も得意としているマザーの抵抗力を削ぐ。
 驚異的なその機動力を奪うのが目的だったが、リドニアも想像以上の動きだと見て。
「廻り廻れ常闇の華。碧熾の魔導書よ」
 空間に溶け込んだリドニアは現れると同時に凶手の一撃で攻める。
 手応えは十分。ただ、マザーの体力は底知れず、多少の傷では大きな反応すら見せずに空間を駆け、メンバー達の体を切り裂いてきていた。
 そのマザー・マリアンヌと徐々に距離が開きつつある聖獣達。
 小隊を率いてプリンシパル対応に当たるニコラがちらりと此方を気にしているのに、レイリーが気づいて。
「聖獣に声を届けるくらいなら止めないけれど、近づいたらダメよ!」
「わかっ……」
「何より、絶対死なない事! いい?」
「……了解だ」
 素を出しかけてしまうニコラだが、そこは聖銃士として、小隊長として返答し、まずはプリンシパル対応に力を注ぐことにしたようだ。
(ああは言ったけれど、危ないときは護らないとね)
 レイリーも改めて、目下自らの役割である聖獣と対する。
 すでに、浮遊するルクトが空間内を飛行していて。
「……悪いが、貴様らは捨て置けん。……狩らせてもらうぞ」
 フリーにすれば、確実に被害が広がると疑わぬルクト。
 戦いが始まる前の僅かな時間で、ルクトは空間の広さを確認していた。
 孤児院を思わせる空間ではあったが、外壁は存在せず、地面の
空間の中にぽっかりと教室のみが浮かび上がる状況。
(生物自体の性質として、高速で動く物や飛ぶ物というのは意識を取られやすいと聞く)
 聖獣の大きさを考えれば、十分な広さはあると踏んでいたルクトはそれを最大限活かして飛行し、立体機動で聖獣を翻弄する。
(マリアンヌおねーさんを皆が抑えている間に……)
 そこで、フルールも聖獣を相手にするのだが、気になるのはこの聖獣が元の姿に戻れるかどうかということ。
(元に戻せるなら、何が何でもそうしたいですが……)
 もし、それが叶わないのなら。……フルールは覚悟を決めて。
(苦しい思いをしないようにしてあげなければ)
 彼女はギフト「精霊天花・焔」によって7種の精霊と融合する。
(まずはミロイオン)
 ミロイオンを見定めたフルールはエネミースキャンで3体の聖獣を分析していく。
 空を飛ぶ敵はこちらへと近づいてくる。
 それを広域俯瞰で察知した汰磨羈はフレスベルグの発した氷のつぶてを受けつつも、過剰な霊気を操るべく一時的に肩まであった白い髪を一時的に長く伸ばす。
「生きたままで無力化させて貰う」
 汰磨羈は強化霊装や禁書の力で体が凍るのを軽減しながらも、フレスベルグと合わせてプリンシパルも狙えるよう位置取る。
 手にする妖刀に和魂と荒魂の一部を注ぎ込んだ汰磨羈は疑似的な太極を生成して。
「……この妖刀は、その為の力だ」
 刀身から放つは、根源たる無極の光。
 眩い一撃が前方へと飛び、フレスベルグ1体を貫通。さらにプリンシパル2人を巻き込む。
 ガオオオオオオオォォ!!
 そこで、牙を剥くミロイオンを含め、翼を大きく羽ばたかせるフレスベルグへとレイリーが高らかに呼びかける。
「さぁ、私が相手になるわよ。聖獣達よ!」
 この戦場で自身の存在感を示すレイリー。
 ミロイオンとフレスベルグ1体が彼女に苛立ち、攻撃を仕掛けてきていたが、もう1体のフレスベルグが仲間の方を向いていた為、再度呼びかけて。
「貴方達、全部受け止めてあげるわ。だから、少しでも思い出して!」
 人としての理性を取り戻すことを信じ、レイリーは抑える聖獣達へと声をかけ続ける。
 その間、彼女へとミロイオンが強襲して剛腕を叩きつけてくる。
 フレスベルグも続けて翼を羽ばたかせ、レイリーに強い衝撃を浴びせかけていた。
 いくら防御技術に優れるレイリーとはいえ、複数の聖獣相手にし続けるのは厳しい。
(レイリーが纏めてくれるとはいえ、レイリーにばかり負担をかける訳にもいかん)
 ルクトもさらに加速してみせて。
「さぁ、私の速度に付いてこれるか? ……行くぞ!」
 下手に加減すれば、こちらが劣勢になりかねない。自身の火力面にも不安を抱えるルクトは武装を出し惜しみせず、フレスベルグ目掛けて雷撃を浴びせていく。
 魔種との戦闘にあって、聖獣や子供達に介入されて茶々を入れられるのは避けたい。
(聖獣達は……助けられないにせよ今は行動不能に追い込むに留めるのが無難かな?)
 闇の帳で気配を消していたラムダがそう思考し、聖獣とプリンシパルを捉える。
「影より出でし足枷は神をも呑むと呼ばれし大狼をも拘束する……対群拘束術式『神狼繋ぐ縛鎖』」
 クエエエッ、グエエエエエッ!!
「ううっ……」
 発動させた術式は、フレスベルグとプリンシパル2名の足元の影から多数の鎖を出現させ、執拗に絡みついてくる。
 また、マリエッタもプリンシパルらの力を削ごうと呪術を行使し、相手の体へと負荷をかけていた。
 この場のプリンシパルは5人。
 いずれも幹部生であり、ニコラ達と同格以上の相手だ。
 それでも、拘束することで、ニコラ達はうまく取り押さえられるだろうとラムダは踏む。
 人数も多く彼女達の方が多いこともあり、実際互角以上の戦いを繰り広げる。
「悪いが、大人しくしてもらう……!」
 実際、ニコラ達は強く攻め入り、動きの鈍った相手を少しずつ押していたようだ。
 プリンシパル戦は大丈夫とみたルチアは、マザーや聖獣を抑えるリドニア&オウェードやレイリーの体力をみて光輪を降ろし、万全に戦えるよう至高の恩寵を与える。
(……っと、リドニアは回復しすぎないようにしないと)
 傷つくことで発揮できる力もある。ルチアはその当たりの調整も考慮しつつ、さらなる癒しを仲間達へと振りまくのである。


 異空間で展開される戦いはなおも激しさを増す。
 やはりと言うべきか、この場で最も強く、猛然と立ち振る舞っていたのはマザー・マリアンヌである。
 徐々に他の交戦場所から離れていくマザーだが、淡々とした態度で交戦を続けていて。
「あなた達は我らが神の脅威でしかない……」
 射抜かれてしまいそうな鋭い視線。
 マザーの気を引くリドニアが牽制しつつ、斧を構えたオウェードが魂までも裂かれそうな刃をその身で受け止める。
(何という威力……意識が飛びそうじゃわい)
 一閃されるマザーの刃に込められた力がオウェードはアークの奇跡なのではないかと推察する。
 ただ、マザーは考察を許すような相手ではない。
 またもリドニアへと鋭い一撃が放たれたのを見て、オウェードは彼女の前に出て闘志を全開にして。
「このワシと言う青薔薇の盾はリドニア殿とマルコキアス殿に掠り傷すら与えぬッ!」
 気合いでオウェードはマザーの一撃、または連撃に耐える。
 彼に刃を繰り出すマザーへ、リドニアは瞬時に闘気を高めて。
「何も知らない子供を利用して、兵士にして……道徳とかご存知ですか?」
 相手の返答を待たず、リドニアは「知ってたらこんな事になりませんわよね」と自答し、赤い闘気を叩き付けていく。
「貴女の脅威の一つであるその機動力……徹底的に奪わせていただく!」
 間髪入れず、マルコキアスも徐々に孤立するマザーへと呪術を纏わせた刃を叩き込み、動きを鈍化させる。
「……我が断罪の鎖剣はいかがか? 精神的にきつかろう?」
「…………」
 攻撃の全てに精神的な負荷をかけるマルコキアス。だが、マザーは構わずにリドニア、オウェードへと攻め立てていた。
 依然として、ルチアが前線を支えているが、マザーは何をしてくるか分からぬ不気味さもあり、予断は許さぬ状況だ。
 ルチアは前線を抜いてくる敵がいないかと戦場を見回す。
 プリンシパルを相手にするメンバーはかなり優勢に立っていて。
 ラムダ、マリエッタの技で動きを止め、あるいは鈍らせた子供達は必死に抵抗するが、同じ聖銃士の手によって1人、また1人と倒れる。
 致死状態となれば、贄となってしまう。
 子供達も気絶に留めるように気掛けて注意深く攻撃に当たっていた。
 マリエッタはそうして倒れたプリンシパルへ、聖獣が干渉してこないかと気を配る。
「……倒れた彼らを喰らうのは、一度見ましたから……同じ手は通させません」
 ルチアが回復に合間に倒れたプリンシパルに応急処置を施すと、汰磨羈がプリンシパルの前に位置取ってからニコラ達を呼び止めて。
「私がカバーする。今の内に、安全圏まで移動させるんだ!」
「……了解だ。皆、プリンシパルを外へ!」
 徐々にこの場から子供達の姿が減っていく。
 吹雪の中に放置をするとは思えないから、カンパーニレに入ってすぐのところまで運んでいるのだろう。
(贄とされそうなのは防げそうだが、彼女達自身の動きも注意しないとね)
 ニコラ小隊は戦線に戻る素振りも見せている。
 ラムダは彼女達に聖獣が襲い掛かるのを食い止めつつも、ワシのような姿をしたフレスベルグへと鎖で動きを封じようとする。
 ケエエエエッ!!
 元は子供だったと思われる聖獣だが、獣の如く叫ぶフレスベルグにその面影はまるで感じられず、ただ暴れて激しく抵抗し、氷のつぶてを発してくるきていた。
 レイリーが抑えてくれてはいるが、聖獣は気を逸らさずにいるだけでもかなり大変だ。気づけばすぐに仲間へと襲い掛かっている。
(救いは理性がなければ、幸福と感じません)
 理性を失ってしまった聖獣達を、フルールは冷静に分析していく。
 理性無き獣では、本当の意味で救いはないとフルールは考える。まして、ファルマコンの生贄になどなろうものなら、魂すらも救われないだろう。
「可哀想な子供達。本当にその姿になって救われたのですか?」
 クエエエエエエエエェェェッ!!
 鳴いて返すフレスベルグ。その姿は、フルールには苦悶しているようにしか見えない。
(その意図は私にはわからないので、自己満足なのでしょうけど)
 ミロイオンを狙っていた相手だが、フレスベルグが近づいてきたなら応戦せねばならない。
 全身をぼろぼろにした聖獣は半ば破れかぶれになって特攻してきたのだが、フルールは静かに揺らめいていた炎を苛烈な色で燃え上がらせる。
 ――私がきっと救う。
 翼を羽ばたかせ、暴風を巻き起こさんとするフレスベルグの体へと刹那燃え上がる炎。
 それを浴びたフレスベルグは白目を剥いて墜ちていく。
(助けたい……ですが)
 マリエッタは戦いながらも、ギリギリまでその判断に迷う。
 プリンシパルを倒して搬送していたニコラ小隊が戻ってくれば、リスクは高まっていく。
 ともあれ、マザーと戦うには聖獣の無力化は絶対と考えるラムダはもう1体のフレスベルグにも鎖を絡め、さらに術式を詠唱する。
「無尽にして無辺……遍く世界を包め灼滅の極光」
 もがくフレスベルグの周囲に10の光球が構築されていく。それらは徐々に強く光り輝いて。
「対軍殲滅術式『無尽無辺無限光』」
 ラムダの一言と共に光球は爆縮圧壊する。
 極光に焼かれたフレスベルグは刹那落下したが、地上に墜ちる瞬間に持ち直し、全身から煙を上げながらも再度飛翔し始める。
 すかさず、それを見ていた汰磨羈が追撃する。
 すでに、敵の数が減ってきており、仲間達が包囲網を狭めてきていた。
 仲間を巻き込む恐れがあると判断し、汰磨羈は妖刀の刀身に限界まで断熱圧縮した空気を纏わせ、高速で切りかかる。
 再度墜ちるフレスベルグ。そいつは三度飛翔できず、地に伏してしまった。
 そこで、ニコラはようやく障害がなくなり、レイリーの抑えるミロイオンへと呼びかける。
「姉さん……。ミロイテ姉さんなんでしょ……?」
 小隊を率いる長であり、この場は戦場だと分かっていながらも、一介の少女として呼びかけずにはいられない。
 グアオオオオオォォ!!
 だが、彼女……というべきか、ミロイオンはニコラの言葉が全く聞こえていないかのように空中を旋回して太い両腕を振り下ろしてくる。
 それを、レイリーが身構えて受け止める。
 防御技術の高いレイリーだが、それでも思い一撃には歯を食いしばっていたのだから、まともに耐えられる者は少ないだろう。
「ねぇ、大事な仲間も忘れたの!」
 少しでも、ミロイオンが自分を……ミロイテを思い出せるようにとレイリーは訴える。
 強いカリスマ性を持つレイリーだが、残念ながら、ミロイオンには動揺すらも感じさせない。
 ダメージが決して少なくないレイリーをルチアが熾天宝冠で支えるが、ミロイオンの力を考えれば厳しい状況と言わざるを得ない。
 グアオオオオオオオ!!
 俊敏さもあり、なおもイレギュラーズやニコラ達聖銃士へと剛腕を振るってくるミロイオンへ、マリエッタが迫る。
「これ以上は……」
 仕留めねば危険だと確信するマリエッタは渾身の魔力を込め、作り出した神滅の血鎌を頭上へと振り上げ、赤い獅子の巨体を切り裂く。
 アオオオオ、グアアアアアッ!
 それでも、ミロイオンは巨体を活かしてこちらを潰しにかかってこようとする。
「やはり、加減するわけにはいかないな」
 ルクトもまた、この場はやむなしと考えたのか、雷鳴の神を冠する雷撃でミロイオンを撃ち抜いた。
 アオォォ…………。
 弱弱しく鳴いたミロイオンはどさりと重い音を立てて落下する。
「姉さん、姉さん……」
 倒れた聖獣へと寄り添うニコラ小隊の面々。
 その光景を、マザーはひどく冷めた瞳で見つめて。
「あなた達に与える際、それは聖獣だと告げたはずです」
 ハッとした表情をするこの場のメンバー達。すでに敵対勢力で立っていたのはマザー・マリアンヌ唯一人だ。
「それはもう、貴方の知るミロイテではありません」
 淡々と語るマザーの言葉には感情も何も感じられない。
「う、うう……」
 愕然とする子供達は脱力し、絶望した顔で崩れ落ちた。
 そんなマザーに、イレギュラーズは一層怒りを漲らせる。
「…………!」
 特に、断罪の鎖剣を振るいながらも身体を震わせるマルコキアスの感情は、これ以上なく昂っていたことだろう。
「その怒りすら、神はお許しになるでしょう」
 大きく刃を振り払うマザー。この場の面々が刃に切り裂かれ、血を迸らせる間に、リドニアが呟く。
 ――第八百二十一式拘束術式、解除。干渉虚数解方陣、展開。
 魔方陣が空中に姿を現す中、リドニアは碧熾の魔導書との同調を始める。
「――アルフェーネの名において、禁を破りて正義を成す事を命ず。蒼熾の魔導書、起動――!」
 リドニアの言葉と同時に発動する術。加えて、彼女の体の傷が術式の効力を強めていく。
 炎と雷が意志を持ってマザーへと襲い掛かり、その体は激しく燃え上がる。
 ここまでリドニアのカバーに当たっていたオウェードもまた術式の発動と時を同じくして仕掛けていて。
「掛かったなッ! グラン・リヴァーレッ!」
 両手の斧を振りあげたオウェードはダメ押しの一撃をとマザーの体へと刃を刻み込む。
 マルコキアスも鎖剣を振るってマザーを追い詰めようとするのだが……。
 突如、怪しく光るマザーの瞳。
 次の瞬間。時が凍り付いたような感覚を覚えて身動きできぬ間に、マザーはオウェード、リドニアの体の中心を断ち切った。
「「………………!!」」
 言葉なく倒れかける2人。パンドラがなければ、そのまま地を這っていたことだろう。
 ただ、倒れず堪えても、次なる一撃には耐えられはしない。
 そこへ、聖獣を倒したメンバー。併せて、プリンシパル対応に当たっていた面々も駆けつける。
 マザーを抑えていた2人に代わり、レイリーが前に出て。
「ここで終わらせる、私が立ってる限り誰も死なせないわ!」
「すまぬレイリー殿……」
 リドニアを庇う様にレイリーが身構えると、オウェードはマザーの情報を教え、後退する。
 退いたオウェードと合わせ、リドニアにもルチアは聖体頌歌を響かせることで多くの仲間の傷を塞ごうとする。
 気を抜けば、ルチアにまで斬撃が及ぶことがある。
 たった一つのナイフで広域を切り裂く能力をもつマザー相手では、ルチアも一瞬たりとも気を抜けず、防御を固めたままで回復支援を続けるのみだ。
「相手は魔種……咎人に情状酌量の余地は無し……」
 子供達をいいように扱ってきた報い。
 自らに闇の帳を降ろしたラムダはイレギュラーズの1人として、全力をもって終わらせようとマザーに切りかかっていく。
 ただ、相手も奇襲には対応し、ラムダの一撃はナイフで切り払ってみせた。
 それでもラムダは攻撃の手を止めず、連撃によってマザーの体を傷つける。
 すでに、血に塗れた修道服は仲間達の攻撃によってかなりボロボロになってきてはいたが、マザーの戦意は全く衰えてはいない。
「あ、ああ……」
 脇で両手をついて倒れた状態のニコラ達。
 マザーの言葉で支配され、圧倒され、絶望した子供達の不幸を、マリエッタはこれ以上見過ごすことができず。
「ニコラさん。彼らの想いだけでも……後で教えてくださいね」
 仲間達と交戦するマザーへと、マリエッタもまた歩み寄る。
「そして、血濡れ聖女。貴方の狂気も全部……教えてください」
 先程、聖獣の巨体を断ち切った血鎌を再び生成したマリエッタは相手の懐へと潜りこむ。
「……それごと奪って、未来へと届けて見せます」
 振り上げる刃を、マザーも避けることができず、どす黒い血を迸らせる。
 己の頬へと流れる血を一舐めし、マザーは鈍い光をナイフから放つ。
 これまでも攻撃にほとんどをナイフから繰り出しているマザー・マリアンヌ。
 その暗殺術は彼女を知る者を畏怖させ、部下であるミリヤム・ドリーミングに尊敬の念も抱かせたという。
 ルクトやフルールも相手を牽制するが、下手に近づこうものなら、その体をも断ち切られかねない相手。
 ルクトの立体起動での翻弄と合わせ、フルールが紅蓮の一薙ぎでマザーの能力を分析しようとする。
 だが、底知れぬ力を持つマザーの全てを解析するには至らない。
 それでも、火行と金行のマナを極限まで高めた汰磨羈が相手の死角から飛び込んで。
「貴様の手は、もう何にも届かない」
 汰磨羈は体のリミッターを一時的に外し、マザーの両腕に鋭利瞬撃を見舞う。
 それだけで終わらず、汰磨羈は着地したかと思いきや、断熱圧縮した空気を纏わせた妖刀「愛染童子餓慈郎」を振りあげる。
「さぁ、そのまま業火に焼かれて尽き果てるがいい!」
 次の瞬間、赤い焔がマザーの体を覆う。
 肩を狙った汰磨羈の一撃。マザー・マリアンヌはだらりと腕を垂らす。
 それでも、断ち切るには至らず、なおも冷ややかな瞳の奥には恐ろしいまでの戦意の炎を燃え上がらせていた。
「もう、私は信仰を失うわけにはいかないのです……」
 ただ、内面とは違って、マザーの体は限界に近付いている。
 メンバー達の視線がその時、マルコキアスへと集まる。
「マルコキアス様。この女を殺すのは、貴方自身の手で行いますか? 覚悟を決めなさいな」
「マルコキアス殿! さあマザーに止めを刺し、運命の枷を壊すんじゃ! こればかりはお前さんにしか出来ぬッ!」
 ながらく、マザーを抑えていたリドニア、オウェードの激励もあり、彼は強く拳を握る。
「信仰の為に子供達を騙し、利用し、最後には贄とする……そのような信仰、邪悪と言わずしてなんとする!」
 マルコキアスらや天義の聖騎士、異端審問官、そして聖女は、そのような邪悪から無辜の民を……特に未来ある子供を護り、救う為に存在する。
「いけない」
 ラムダがマザーの動きに危険を感じ、仲間達へと呼び掛ける。
 すぐさまレイリーが抑えに入ったが、マザーが再度瞳に怪しげな光を称え、レイリーとマルコキアスの体を両断してしまう。
 パンドラを使って倒れ伏すことを拒んだレイリーは激しく息づきながらも、ルチアの手当てを受けるが、同じくパンドラを削ったマルコキアスは毅然とその場で身構えて。
「その想いを! たかが一度の挫折で失い、邪教に傾倒するなど……愚の骨頂!」
 マザーによって命を落とした者達の声を断罪の鎖剣に纏わせ、一度、二度と相手を切り裂くマルコキアス。
 彼はPPPを発動させようとしたが……、残念ながら発動しない。
 それでも、マルコキアスは構うことなく、連なる雷撃でマザー・マリアンヌの胸部を穿った。
「マリアンヌ・サリエル殿……かつての血塗れ聖女よ。せめて静かに眠れ」
「私を倒しても、信仰は……消え、ません……」
 魔種と化していたマザーは、倒れてしまう前にその体が霧散し、虚空に消えてなくなってしまったのだった。
 それを見届けたリドニアは煙草に火をつけて。
「さよなら、血濡れ聖女」
 吐いた煙が立ち上るのを、リドニアはしばらく見上げていたのだった。


 長きにわたったマザー・マリアンヌとの因縁も、ここに終わる。
 異空間と化していたカンパーニレ内部。
 これまで戦場となっていた孤児院の教室の光景が歪み、なくなってしまったが、依然として異空間となった状況は変わらない。
 やはり、少なからずマザー・マリアンヌによる干渉があった野は間違いなく。加えて、ファルマコンの力が依然として働いているのだろう。
 ともあれ、メンバー達はまず、倒したプリンシパルの手当てに当たる。
「倒したはいいけど、放置して死んだでは寝覚めが悪い」
 そう呟いたルチアはプリンシパル5人の命があることを確認し、全力で傷を塞ぐ。おかげで全員命に別状はない様だ。
 一方で、聖獣達。
 イレギュラーズはあれだけの戦いの中でも、命を奪わぬようにと立ち回っていたこともあり、聖獣全てに息はある。
 だが、3体全てが目覚めるやいなや、食らいついてくるなど、理性を取り戻す様子は全く感じられない。
「ニコラ殿……泣くなら好きなだけ泣き、恨むならワシだけを恨め……ワシはそう言うのに慣れている……」
 オウェードが小隊の長へと問いかける。
 イレギュラーズは子供達の判断を聞かずとも、もう答えを出している。なにせ、マザー自身が元に戻る可能性がないことを告げていたのだから。
「お願い……します」
 もう、聖獣達は人ではない。
 優しかったミロイテ姉さんはもういない。子供達は俯き、互いに抱き合って涙を流す。
「戻れぬのなら、せめて安らかな死を」
 フレスベルグ2体に、汰磨羈が介錯を行って眠らせると、レイリーもまたミロイオンの胸部へと刃を当てて。
「……ごめんね」
 次の瞬間、赤いものを吐いて動きを止める聖獣。
 子供達がむせび泣く中、オウェードを始め、皆がミロイオンを追悼するのだった。

成否

成功

MVP

レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

状態異常

オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)[重傷]
蒼穹の魔導書
マルコキアス・ゴモリー(p3p010903)[重傷]

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは聖獣、マザーと強敵を抑え続けていた貴方へとお送りします。
 ミリヤムさんの意志を引き継いだ貴方にも称号を。
 長らく続いたマザー・マリアンヌとの因縁もここで終結です。
 皆さま、本当にありがとうございました!

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