シナリオ詳細
<咬首六天>そらとぶしまのたんていだん
オープニング
●薔薇と九頭竜
バラバラになったゴーレムがあたり一面に転がっている。
その中心に立っていたのは、大きなベールで頭をすっぽりと隠した女性だった。
舞台女優のように洗練されたその肉体と動きは、見る者の心を奪うほどに美しい。
「さすがは、『メリナ・バルカロッタ』といったところですね」
声をかけたのは黒いスーツに身を包んだ男、九頭竜 友哉だった。
彼は雑賀 千代 (p3p010694)の口利きによってアーカーシュへと入り込み、自らの経営する『九頭竜商会』の物流能力をもってアーカーシュの活動を支援していた。
鼻の利く者は彼の『不自然な清潔さ』に気付いていたが、だからといって追い出せるというものではない。ローレットとてカテゴリー的には悪人に属するような者はおり、ひとつの目的のために協力することができているのだ。
だが、それも今日までだろう……。
「行くぞ『メリナ・バルカロッタ』。ここから移動する」
「…………」
そう声をかけたが、『メリナ・バルカロッタ』と呼ばれた女は美しい姿勢で立ったまま動かない。まるで一輪の薔薇を演じているかのようにかたくなで、そして自らの役に忠実であった。
九頭竜はため息をつき、鞄から一冊の本を取り出す。本といっても、羊皮紙を荒くまとめた舞台台本の束である。
『メリナ・バルカロッタ』はやっと何かを思い出したかのように振り返り、九頭竜に付き従うように歩き出す。
地上行きのワイバーンに跨がり、振り返る九頭竜。
思い出すのは涙目で借用書を見つめる雑賀 千代の姿だった。
「……てめぇには、まだ貸しがあったんだがな」
手綱を握る。するとワイバーンは従順に羽ばたき、空へと飛び立った。
●未解決事件と物資の行方
「ゴーレムさんが、壊されたのですか?」
ローレット魔王城支部にて休憩をとっていたエル・エ・ルーエ(p3p008216)は、回ってきた依頼書を手にムムムと難しい顔をした。
それほど深く携わったというわけではないが、無関係というわけでもない。
困っているお友達を助けるつもりでやってきたエルにもたらされたのは、アーカーシュ内で起きた不可解な事件についての調査依頼であった。
「そうなんです。見回り警備をしていたゴーレムさんが何体か、完全に破壊された状態で見つかったんです」
雑賀 千代がそう言って、事件現場を模写したスケッチシートを見せてくる。
ゴーレムというのはアーカーシュ内で運用されていた警備やメンテナンスを行う自動人形で、戦闘に特化したものであればイレギュラーズと互角かそれ以上に戦うものもあるという。
そこまでのシロモノでないにしろ、完全破壊というのが気になる。
「わわわっ……敵さんが、アーカーシュの中に入ってきてしまったのですか?」
どこか慌てた様子でエルが尋ねるが、対する千代のリアクションは微妙なものだ。
「それが……」
事件は不可解なものであった。
戦闘のあとがあったにも関わらず、そこから『敵』がアーカーシュ内部へ移動したという形跡がなかったのだ。
可能性としてあるのは、『敵』が戦闘後すぐに島の外へと撤退したという流れなのだが、ゴーレム相手に圧勝しておいて撤退する意味がない。
未曾有の大寒波や囚人たちによる賞金稼ぎが横行するなかで、このような不可解な出来事はアーカーシュの住民の不安を煽ることになるだろう。
事件の真相を解き明かし、可能であればその事件の原因を取り去らねばならない。
「手伝って……もらえますか?」
遠慮がちに尋ねてくる千代。
ローレットの仲間からかけられたそんな言葉に、エルはこくりと頷いて見せる。
自分にできることがあるならば、と。
- <咬首六天>そらとぶしまのたんていだん完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月09日 22時05分
- 参加人数6/6人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
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参加者一覧(6人)
リプレイ
●現場
「マジでバラバラになっていやがる……」
上等な毛皮のコートを羽織った『社長』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は、激しく切断されたゴーレムの腕パーツへと顔を近づける。
キドーはナイフを取り出して近づけてみるが、断面は刃物によってできたものとは思えなかった。
もっと強引に引きちぎられたように見えるし、他の断面は焼き切られたような跡にも見える。
少なくとも、キドーよりも圧倒的に高い攻撃力がこのゴーレムに加えられたというのは確かだろう。バラバラにされたゴーレムのパーツが一箇所に集まっているところを見ると、相手はその場から動くこと無く襲いかかってきたゴーレムたちを次々とバラバラにしていったことになる。
戦闘特化型ではないとはいえ、ここまで破壊するには骨が折れるはず。
チームで動いているならもっと範囲が広がるはずだろうし、それなりに戦闘の痕跡が残りそうなものである。
「なるほどな」
一通りの観察を終えたキドーはゆっくりと腰を上げた。
「正直、俺が名付けたゴーレムじゃなくてホッとしたぜ!」
ゴブリンらしい悪い笑みを浮かべてそう声に出すキドー。本人的には悪びれているつもりなのだろうが、横に居る『立派な姫騎士』雑賀 千代(p3p010694)はむしろにこにこしていた。
ゴーレムさんと仲良しなんですねといった表情である。
それに気付いてゴホンとキドーは咳払いをした。
「ま、破壊されんのがコイツだけとは限らねェよな。まずは調査だ。俺はこの辺をぐるっと探索してみるつもりだが……」
どうする? と周りに問いかけるように見回しながら、キドーは隈バーンのミーメを呼び出した。鳴き声をあげたミーメが羽ばたきながらゆっくりと降下し、キドーのそばへと着陸した。
「あっ、私はもう少し現場を調べてみます」
千代はミサキちゃんなる謎の生物を背中から生やすとゴーレムの破片を指さした。ミサキちゃんがその先端をうにょうにょとさせる。
「今回の事件はアーカーシュに所属する皆さんに不安を植え付けかねませんしね、犯人は見つけて反省させなければいけません!」
「そーゆーもんかね」
人の抱く不安というものに、どうやら千代らしい。人一倍危機や窮地というものを経験しているからだろうか。
そんな彼女が、ふと思い出したように口を開いた。
「ところで友哉さん、見掛けませんでした?」
「?」
行動に移ろうとしていた『闇之雲』武器商人(p3p001107)が『それは誰だい?』といった様子で振り返る。
「トモヤ、とは?」
「九頭竜 友哉さんといって、アーカーシュに加わった方々のひとりです」
そう説明されて、武器商人は記憶を手繰ってみた。
鉄帝の動乱が起きたそのすぐあと、アーカーシュが独立した派閥として活動し始めた時にいくらかの人間が地上から移動してきたのだった。中には怪しい人間もちらほらと混じっていたが、九頭竜 友哉はそのひとりであった。
「彼に何か用事があったのかな?」
「ちょっと借金の延長の事――あ、いや、えっと」
えへへちょっと私用で、と誤魔化すように笑う千代。武器商人は深入りしない様子で『見てないねえ』とだけ告げてその場を離れていった。
「今でもアーカーシュには天衝種がやってきたりしてるのに、さらに不思議な事態が起きてる……」
『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)から見て、鉄帝は混乱の極みだ。空の上にあるからといってアーカーシュとて安全ではない。実際天衝種による事件は何度も起きているし、天衝種がゴーレムに取り憑くといった事例もあった。
「ここに配備されてたゴーレムは、これで全部なんだよね?」
アクセルがそう尋ねると、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はこくんと頷いてそれにこたえた。
「さっき聞いた、ゴーレムに取り憑く天衝種を気にしてるの?」
「うん。けど状況を見る限りそうじゃなさそう。ゴーレムを倒せるほどの天衝種が入ってきたなら、ここから内側に移動しない理由がないよね。相打ちしたっていうならそれなりの痕跡が残ってるはずだろうし」
アクセルのいわんとすることをヨゾラも理解できてきた。
「この事件は天衝種のしわざじゃない、ってことだね」
「うん。人為的……あるいは、人間のような何かの仕業ってオイラは考えてる」
「なるほど……」
アーカーシュに敵が侵入した。
それは天衝種ではない。
それもゴーレムに圧勝するほどの戦闘力を持っている。
「魔種か、あるいはアーカーシュの中に潜んでいた何かか……」
「オイラはアーカーシュの中にいる人だと思う」
アクセルの発言したニュアンスをうけて、ヨゾラが少しだけ難しい表情をした。
「まだ中に潜んでるってこと? それなら……」
「あっ、まって。それはないと思うよ」
アクセルは手をパタパタと振って誤解を訂正しはじめる。
「もし犯人がゴーレムを破壊して、それでも内部に残ろうとするならこの事件を探られるのは不都合だよね」
「うん、確かに……」
アクセルは土の地面に棒で絵図をかきながら説明した。
『はんにん』というデフォルメされた顔と、『ゴーレム』。
ゴーレムには×印がつき、矢印で犯人が『壊した』ことが示される。
「もし犯人なら、天衝種のせいにするなりしてこの行為を隠蔽したと思う。
オイラたちは天衝種のことを全部分かってるわけじゃないし、内部に残り続けてもバレないほど嘘が上手ならそのくらいできると思うんだ」
「なるほど……だから、犯人は出て行った。ゴーレムを壊すことを『隠す必要がなくなった』んだね」
「そういうこと。だからアーカーシュを出て行ってそのままになっている人を探っていけば、犯人を絞り込むことができると思うんだ」
(びくびくそわそわ、大変なこと……)
『小さな願い』エル・エ・ルーエ(p3p008216)はアーカーシュ内に隙間風のように入り込んだその不穏な空気を肌で感じていた。
そして同時に、冬の厳しさと冠位魔種の脅威に晒される彼らから少しでも不安を取り除いてあげたいとも。
サメエナガさんがふわふわと寄り添い、エルを慰めるようにあたまをこつんとぶつけてくる。エルはその頭を撫でると、早速調査に乗り出した。
とはいっても冬の鉄帝。エルはもこもことした帽子を被り、襟にファーのついたコートを羽織っていた。ブーツは革製だろうか、疾駆な色合いに纏まり、革紐でしっかりと結び上げられている。
そんな彼女が呼び出したのは二匹のネズミ。紫色ネズミと白ネズミである。
紫色のネズミさんは武器商人たちへ連絡用として預け、白いネズミさんは情報収集のために周囲を走らせる。
他の仲間達も注意深く観察を続けていたが、やはりネズミを走らせたのがよかったのだろう。エルが五感を接続させた白ネズミさんが詰まれた木箱の隙間へと入り込み、その暗がりから一枚の花びらを見つけ出したのだった。
隙間から取り出したそれをつまみあげるエル。
それは確かに、薔薇の花びらだった。
「この香りは……」
エルの脳裏に浮かぶのは、ひとつの演目。
鉄帝の劇場で公開された演劇だった。
その完成されきった狂気とすら言える演技に深く感じ入ったものである。その時劇場にほのかに香ったにおいに、不思議とよく似ていた。
●聞き込み調査
調査と言えば聞き込み調査である。それも、人間ばかりではない。
「ほれ、これでいいか?」
会話が可能なほど知恵のある精霊に小さな宝石を放り投げると、キドーはにやりと笑った。
精霊が物珍しそうに触っているそれは、厳密にはガラス製のイミテーションである。まるで詐欺のような話だが、精霊はキラキラしたこういう形の宝石って名前のアイテムを頂戴と求めてきたのでそれに『全部』応じただけだ。金額的価値を求められたわけではない。宝石として名がついて売られた以上、このガラスも宝石と名乗っている。色も形も光の屈折のしかたも精霊の注文通りなのである。
まあ、得るものがただの目撃証言なのでキドーとしても相応の対価だと思っている次第であった。
「えっとねえ、あのへんの精霊たちは『ぶるぶる』ってしててたよ」
「ぶるぶる?」
「うん。ぶるぶる」
知恵があるといっても幼い子供程度のものだ。得られる情報は漠然としていて、かつ断片的である。だがキドーも伊達にこの手の交渉を何度もしてきたわけではない。相手のいわんとすることを今の会話のなかでおおよそ理解できていた。
「自然に漂ってるだけの連中が急に怖がるってこたあ、自然現象じゃあねえな。人為的なものだ。人間がちょっと暴れただけではああはならねえし、この感じは……やっぱ『魔種』か?」
一方、ヨゾラと千代、そして武器商人は周辺への聞き込みを行っていた。
「地上行きのワイバーンが1体消えている?」
いくつかの情報を辿っていった結果行き着いたのは、ワイバーンの波止場を管理していた者のひとりだった。
アーカーシュにはワイバーン用の波止場があるが、それが発着場の全てというわけではないらしい。たまに波止場の利用をおっくうに思った人間が全く別の場所に小規模な波止場めいたものを作ることがあり、事件がおきたのもそのひとつだ。
ゆえに誰がどのワイバーンを使ったかまでは調べきれなかったが、ある人物が世話代を払っていた雑用係から話を聞くことが出来たのだった。
「ええ、10体分を纏めて払って貰ってたんですがね。あの後見てみたら9体しか残ってなかったんですよ」
男にヨゾラが追加の質問をなげかけていく様子を、千代と武器商人は思案しながら聞いている。
「そのワイバーンは借り物だったのかな」
武器商人が尋ねると、男は『ええまあ』と肯定的な返事をした。借り物のワイバーンをある日突然乗りこなすようにはならないだろう。特に、大事な用途に使うのであれば何度か乗って具合を確かめるはずだ。
武器商人が物々交換によってその男が個人的につけているという帳簿を見せてもらった所、そこにはワイバーンを借りた人間とその日付が細かにかかれていた。どうやら幸運なことに、男はだいぶマメな性格らしい。
「無断で乗っていかれるのは困るんですよねえ」
「安心するといいよ。そのワイバーン、じきに戻ってくるだろうねぇ」
まるで未来でもみてきたかのように言う武器商人に、男がきょんとした顔をする。
ワイバーンは個体ごとに識別されており、消えたというワイバーンを何度か借りた人間の名前をポンと指さして見せた。
千代がのぞき込み、はっとする。
そこには九頭竜 友哉の名前があったのだ。
「友哉さんがワイバーンを利用するのって、すこしおかしいです。自力で移動する足は持ってたはずですから」
千代がそう話す九頭竜 友哉の人物像は、なんとも個性的なものであった。
『九頭竜商会』を隠れ蓑にした彼には、九頭竜組の若き長という裏の顔があったという。
そのことには気付く者は気付いていたし、だからどうだということもない。
千代がたびたび無茶な仕事をふられるというだけで、それは二人の間の問題であるように思えた。千代自身が九頭竜 友哉を憎く思っているわけでもないらしく、どころか彼女の問題を度々解決してくれる、いわゆる頼れる存在であったそうだ。
「へえ、鉄帝の裏組織にいるって割にはインテリな人なんだねえ」
アクセルがそう反応すると、千代は『そうなんです!』と意気込んで答えた。
「友哉さんは頭が良いんです! それに頼れる人だし……きっとこの事件に巻き込まれているんですよ! 誤解されやすいけど本当は――」
千代の言い分に仲間たちも一応の納得はしたが、同時にアーカーシュから九頭竜 友哉とその部下達が忽然といなくなったという情報が入ってきたのはほぼ同時のことだった。
多くの者は九頭竜 友哉を敵側のスパイであったとみなし、再び見つけた時には排除する構えを見せている。
「そんなはず……」
千代が涙目になって否定するのを、アクセルは困った様子で対応していた。
「けど、ここまで状況証拠が揃ってるとその九頭竜って人を追いかけるしかないと思うんだ。もし利用されているなら助けるし、もし敵に回っているなら戦わないと」
「そんな……」
そこへ、調査を終えたエルが戻ってくる。
「みなさん。ワイバーンさんの、行方が、わかりました」
●真実と嘘
そこは九頭竜商会が用いていたアーカーシュとの物流中継拠点であった。
冬の到来によって物資不足がおき、更にはモンスターの襲撃を受けるなどして流通がストップしてしまったということで使われなくなった……とされていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「あれは――!」
エルがサメエナガさんの背の上から身を乗り出すと、野外に軍の兵士が展開しているのが見えた。制服からして鉄帝国の陸軍だろう。
彼らはこちらに銃を向け、警戒する姿勢をとっている。
「まさか、友哉さんは軍に捕まったんじゃ!」
千代が乗っていたワイバーンに加速を命じると、同じくワイバーンによる降下を行っていたキドーたちも加速をかける。なぜなら――。
「発砲許可! 撃ち落とせ!」
隊長とおぼしき兵の号令と共に射撃が千代たちを襲ったためである。
そうなればもはや話し合いの余地はない。武器商人は素早く前に出ると、兵士たちの中央へと着地。自分に注意を引きつけるとどこからともなく現れた『麗しの覇王』ギネヴィアへと飛び乗った。
「冬の娘」
「はい……!」
戦闘に至った際の対応は決まっている。エルが魔法を発動。空気中に大きな雪の結晶めいた魔力塊が出現すると、それらが回転しながら兵士達へと飛んでいく。
更にアクセルは自らの能力で飛行すると、兵士達に強烈な『神気閃光』を浴びせた。
「ぐっ……!」
「大丈夫、オイラたちなら勝てるよ!」
敵の戦力を見極めたアクセルがそう叫ぶ。ヨゾラにも同意見だったようだ。
ヨゾラは早速『ケイオスタイド』を発動させて兵士達を一掃しにかかる――が。
「『メリナ・バルカロッタ』、やれ」
よく通る、そして千代にとっては聞き馴染みの深い声がした。
途端薔薇の花びらが散り、ヨゾラたちの攻撃を遮る。更にアクセルやヨゾラ、そして武器商人たちを切り裂きにかかったのだった。
意思を持ったように舞う花びらの中心に、美しい女性……いや、首から上が巨大な薔薇と化した怪物が立っていた。そのあまりに完成された美しさと狂気に、エルはぞくりと背筋に冷たいものをはしらせる。
綺麗だ。綺麗だが、綺麗過ぎて、あまりにも……。
「……怖い」
エルの呟きは、まるで仲間達の感想を代表しているかのようだった。
だがそんな中で、エルだけは感じているものがある。
「……もしかして、あなたが、あの『メリナ・バルカロッタ』ですか?」
呼びかけるエルにぴくりと反応を示す薔薇の怪物。放つ気配と力は、紛れもなく魔種のそれであった。
そして何より、メリナ・バルカロッタから感じたのは、『深い悲しみと絶望』だったのである。
エルがもう一度呼びかけるより早く、建物の中からワイバーンが飛び出す。その背に跨がっているのは九頭竜 友哉であった。
「乗れ、『メリナ・バルカロッタ』!」
ワイバーンから手を伸ばし、引っ張り上げる九頭竜。
千代はワイバーンをターンさせ、それを追尾するように飛ばした。
「友哉さん!」
千代の呼びかけに、九頭竜 友哉がちらりとだけ振り返る。
「どうして……友哉さんはおっかなくて誤解されやすいけど本当は友誼に厚くて優しい人だって知ってます! 何より、私の大切な幼馴染です!」
「馬鹿野郎! 戦闘中だぞ! 奴が敵になったのは見りゃわかんだろ!」
キドーがミーメに跨がり並走飛行。呼び出した妖精狩猟団をけしかけることで九頭竜 友哉へと攻撃をしかける。
懐から拳銃を抜き、友哉はそれを迎撃。空中で妖精狩猟団の半数が迎撃されてしまった。
魔種であるメリナほどでないにしても友哉はかなり腕の立つ男のようだ。
状況は決定的。
だが――。
「友哉さん!」
千代は諦めなかった。ワイバーンを更に加速させ、銃弾を掻い潜るように接近すると、ワイバーンからダイブして友哉へと抱きつくように掴みかかったのだった。
「なっ――!?」
慌てたような表情が、一瞬見えた。
友哉は咄嗟に伸ばした腕で千代をキャッチすると、そのせいで手綱を手放しワイバーンから転落してしまったのだった。
地面へ共に落ちる二人。
「う……」
顔をあげ、千代は自分が上になっていることに、そして思ったよりも落下のダメージを負っていないことに気がついた。
「友哉、さん?」
顔を見る。
「私の事……嫌いになったんですか?」
涙を浮かべて呼びかける千代から、友哉は視線をそらした。
その瞳には、明らかな『動揺』を千代は感じ取る。
「千代……。俺は――」
だが二人の会話はそこまでだった。
突如として薔薇の花吹雪がおき、友哉の姿が消える。慌てて振り返ると、ワイバーンに乗ってはるか遠くへ飛び去る友哉たちの姿が見えた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――九頭竜 友哉および九頭竜商会が新皇帝派と内通し、アーカーシュの内情を流していたことが判明しました。
――九頭竜 友哉および九頭竜商会は敵として認定されました。
――九頭竜は魔種『メリナ・バルカロッタ』と伴っており、容易には撃破できない戦力であることがわかりました。
――自らの内通が発覚しそうだと判断した九頭竜 友哉は最後にアーカーシュへ送るための物資を一部着服しようとしていたようです。残された中継拠点から物資の獲得に成功しました。
――エルよりの見解:メリナ・バルカロッタからは『深い悲しみと絶望』を感じ取ったようです。
――千代よりの見解:九頭竜 友哉は内通が発覚した後でさえも自分への『優しさ』を確かに感じたそうです。
●運営による追記
本シナリオの結果により、<六天覇道>独立島アーカーシュの生産力が+10されました!
GMコメント
このシナリオは調査シナリオです。
ですがOPの内容をパッと見ても分かるとおり『メタ視点で回答の存在している』調査シナリオであります。
つまりは、この回答に至るための手段やリソースを一定量提示できれば成功へとたどり着ける内容になっています。
依頼相談も多少メタ寄りになるかもしれませんが、普段とちょっぴり異なる探偵気分をお楽しみください。
●調査
『ゴーレムを倒した相手は非常に強力である』という情報と、『地上行きのワイバーンが一体消えている(その主人は?)』という情報を辿ることで真犯人へとたどり着くことができます。
皆さんはこれらの情報を獲得するために、現場検証を行ったり周囲の精霊さんや動物さん、疎通能力をもたなくても会話可能な生物などから聞き取り調査を行うなどして真犯人を追っていくことになるでしょう。
また、情報の獲得方法やその範囲によっては、『真犯人の行方』の他に様々なボーナス情報が獲得できる可能性があります。
ボーナス情報を狙って調査を広げるのがオススメの攻略法となっております。
●戦闘
このシナリオでは戦闘が発生します。
事件の真相が明らかになった段階で、真犯人(九頭竜とメリナ)を相手に戦闘を行う場面が訪れるでしょう。
その時に備え、戦闘プレイングを用意しておくとよいでしょう。
調査と戦闘のプレイングを半々で用意するのは実は簡単ではないので、『調査にリソースを多く割く係』と『戦闘にリソースを多く割く係』を分担するのもオススメです。
また、戦闘の状況にちょっとだけヒントを追加すると騎乗戦闘が発生する場面が存在します。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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