シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2022>暖かで、暖かで、暖かな<咬首六天>
オープニング
●聖ボリスが驚き天を仰ぐと
手製の飾り付けをした部屋に、子供達が集まっている。
「今日はスープが出るんだって!」
「ニシンの塩漬けも開けるって!」
子供達は大はしゃぎだが、それを預けに来る大人達はどこか疲れ顔だ。
バイバイと手を振る子供に、その親とおぼしき女性はこけた頬で笑顔を作った。
そんな大人達のひとりと、防寒着をきたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はすれ違う。
分厚い防寒着で司祭の服やロザリオが見えないからか、かれらはフードを被ったヴァレーリヤを一瞥もしなかった。いや、そもそも彼女たちをよく知らないのだろう。最近になって難民キャンプに受け入れたやや離れた地方からの難民たちのはずだ。ヴァレーリヤは彼らの顔をあまり見たことがなかったのだから。
「シャイネンナハトつってもな」
「シッ、食えてるだけ上等だろ。噂じゃその辺の村は食うもん無くなって――」
足早に部屋へと急ぐヴァレーリヤ。
今日はシャイネンナハトを祝ってパーティーを開くのだ。主催が遅れては『彼女』にしめしがつかないじゃないか。
「お待たせしましたアミナ、約束の絵本も持ってきましたわよ!」
扉を開き、笑顔で本を掲げるヴァレーリヤ。
「あっ、『ヴァリューシャ先輩』!」
パッと花が咲いたような笑顔で振り返るアミナ。彼女がいつかのような、過度な言い方をすれば童心に返った様子をみせたのを、ヴァレーリヤは笑顔で受け止める。
いつまでも開いていては冷たい風がはいってしまう。急いで扉を閉めると、部屋の中を見回した。
歯車大聖堂内、教会の一室には空き瓶を並べて作ったキャンドルセット。壁には塗料でシャイネンナハトを祝う文言が描かれている。誰が持ち込んだか、廃材の板きれにサンタクロースらしき絵がかかれ壁際に立てかけられている。
そこにいるのは子供達と、アミナだけだ。司祭たちはいま薪割りや保存食作りの真っ最中で、歯車兵の労働力でも足りない分を補っている。大量に受け入れた難民の住処の割り当てと増設。大量に確保した資源の分配と加工。やるべきことは山のようにあり、難民達も自らその労働についている。それゆえに子供を預けておけるこの時間は必要で、アミナも率先して行った……のだろう。
テーブルに並んでいるのは塩漬けにしたニシンを焼いたものや、干し肉のスープ。この記録的大寒波のなかで得られる食事としては上等だ。子供達のはしゃぎようからもそれがわかる。
アミナはホッとした様子でそんな子供達を眺め、そして用意してくれた絵本を開いた。
そして、絵本の朗読が始まった。
●ズヴェズダール(星の賜物)
歯車大聖堂(ギアバジリカ)内部は、この周辺にあった巨大な瓦礫の山がズヴェズダール(星の賜物)と言う名の領土になった頃と比べて大きな変化が起きていた。
元々ギアバジリカなるものは突如出現し組み上がった巨大な移動要塞であり、人間を住まわせるようなものではなかった。それでも集まったのは……。
「腕がへし折れそうだ。もうこれで何本目だべ?」
「文句言ってる暇があったら働けって」
雪の降る野外。粗末な屋根の下に大人達が集まっている。大量の木材を台にのせては薪割りを続ける男達や、保存食をしこむ女達だ。歯車兵もせっせと労働にあたってくれているが、任せっきりにできるほど余裕のある環境ではないというのが現状であった。受け入れ難民は日に日に増え、食料が腹一杯に行き渡ることは難しい。
「今日も粥かあ……」
若い男パトリックは手を止め、ブリキの深皿へ配給される薄めのカーシャを想像する。文句が述べたかったのか、それとも疲れを誤魔化したかったのか。彼は新皇帝派即位の事変前からこの地域に移り住んでいた若者である。
ちらりと見ると、子供達がギアバジリカへと楽しげに向かう様が見える。行き先はきっとあの教会だろう。
「パーティーだっけ?」
「そんな贅沢なもんじゃ……って、手を止めるな」
大柄な男に一喝され、若い男は口をへの字に曲げて斧を再び振り上げる。
一方では、穴の空いたドラム缶に火を灯し、その周りに集まった大人達が手を温めていた。彼らの服装からして、クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭たちだろう。
「燃料は足りそうか」
「まあ、なんとかな。過酷耐性のない、非鉄騎種へ優先して部屋を割り当てているが」
「不満が出ませんかね」
「ナシとするのは無理があるでしょう。相当な数を受け入れているんです、偏りをなくせば一人当たりの総量は減る。それでも他人は豊かに見えてしまうものです。他人が多ければそれは当然……。イレギュラーズが大きな信頼を得てくれていますから、それが支えになっている様子ですね」
白髪の目立つ老人ムラト、ボブカットの女性司祭、もう一人は軽鎧に身を包んだ若い男司祭であった。皆鉄騎種で、腕や脚にその特徴が現れている。
「自分は薪割りの作業に戻ります。そろそろ彼らも薪割り地獄にねを上げる頃でしょう」
軽く笑って言ってみせる軽鎧の司祭に、ムラトはさげていた鞄をすこし開いて中を見せた。
「子供達が寝静まったら、夜にパーティーを開くことにしよう。それとなく伝えておいてくれ」
「あら、喜びそうね。楽しみができたわ」
女性司祭は不敵に笑うと、じゃあ私も仕事があるからとたき火から離れていく。
ムラトはそんな様子に頷き、自分も残った仕事にかかるべく場を離れた。休憩に入った別の者たちと入れ替わるようにして。
●アルコールが夜を待つ
ギアバジリカ内にあるクラースナヤ・ズヴェズダー教会。
昼は子供達にひとときの安らぎを。
そして夜には大人達のパーティーを。
今日はシャイネンナハト。争いをやめるという、伝説の日。
- <Scheinen Nacht2022>暖かで、暖かで、暖かな<咬首六天>完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2023年01月03日 21時45分
- 参加人数6/6人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 6 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC4人)参加者一覧(6人)
リプレイ
●イッツ・オール・オーバー
錆び付いた鉄パイプが林のように並ぶ空間の片隅で、空っぽの酒瓶を小脇に抱えて鼻歌を歌う男の姿がある。以前よりギアバジリカの居住区に暮らしていた者らしく、過ごす様子が板についている。まあ、居住区といっても使っていない空洞に無理矢理棲み着いたに過ぎないのだが。
「ズヴェズダール……星の賜物、って意味なんだね。僕的には好きな名だけど……」
ここの人達も大変なんだろうな。そう思いながら、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は広いギアバジリカ内を歩いて行く。
「薪割り? 手伝うよ」
日課の薪割りをしに行く男を見つけると、ヨゾラはそのあとについていった。
そしてふと、はしゃぐ子供達とすれ違った。教会を振り返る。あそこでは今、読み聞かせ会が開かれているのだったか……。
「――きらきら星と 銀世界。
――今日は静かに おやすみなさい」
小さな玩具のピアノの鍵盤を、白く美しい指が叩いている。
音に合わせて歌うのは『オリーブのしずく』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)である。
優しく清らかな声に、部屋に入ってきた子供達が『わぁっ』と声をあげた。
玩具のピアノを珍しがったのか、それともフラーゴラの歌に感心したのか。いや、その両方かもしれない。
フラーゴラは片手で演奏を続けながら子供達に『こっちへおいでよ』と手招きをした。
きゃっきゃとはしゃいでフラーゴラの周りに集まる子供達。
いつしか『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)やアミナも加わって合唱しはじめ、それが何曲か続いた。
(ずっと気を張っていて心配だったけれど、良い息抜きになったみたいですわね……)
子供達の笑顔を見て、どうやらアミナは安堵しているようだ。自分のやってきたことが報われたような、そんな気持ちになったのだろうか。
まだバタバタ死人が出ているわけではないとはいえ、キャンプ内での生活が満足されているかといえばそうではない。来る者を拒まないが、かといって資源が無限にあるわけではないからだ。必然それらは薄く伸びていくものである。
けれどせめて。そうせめて、この聖なる夜くらいは。
(子供達にも、少しでも良い思い出を作ってあげられると良いのだけれど……)
ふと見ると、『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)が部屋の端でじっとしていた。
(……結局、来てしまった。
違う。降誕祭に異教の教会を訪れたからといって迎合した訳ではない。
医師として子供達の健康観察という役目を果たしたいだけだ)
ここへ来るまでに人々の診察をして回っていたルブラット。途中で子供達に一緒に行こうと言われついつい来てしまったのだが……。
(しかし私は異教の教義を聞きすぎると蕁麻疹及び紅斑を生じてしまう。絵本を読み聞かせる段になったら聞かないでおこう)
空を見上げ、そんな風に心の中で呟く。子供のひとりが、ルブラットの袖をひいた。
一緒に歌おうとピアノとフラーゴラを指さして言う。
ルブラットは少し考えてから、子供の目線にあわせて身をかがめると、ポケットからお菓子をそっと取り出した。
きょとんとする子供の手に静かに握らせると、ルブラットは口の前に人差し指を立ててみせる。
「一つあげよう。だが口外は厳禁だ」
子供はこくこくと頷き、大事そうに自分のポケットへとしまい込む。
(本来、特別扱いは良くないのだよ)
ルブラットはあえて口には出さずにそう心の中で呟くと、再び立ち上がる。さあ行きなさいと指を指してやれば、子供はフラーゴラのほうへと戻っていった。
フラーゴラが持ってきたリボンを女の子たちに結んであげると、彼女たちは嬉しそうにリボンを触っている。
「それにしても、アミナ君も皆も元気そうで何よりだ……」
遺跡の地下を探索していたときは顔を青くしていて本当に心配したものだが、これなら診察の必要はないだろう。いや……。
(万全かといえば、そうではないのだろうがね)
ルブラットの見立てではアミナはいくつかの症状を隠して元気に振る舞っているはずだ。だが本人が言い出さないのなら、そこに触れないのもまた優しさかもしれない。
「はー、革命派の司祭ってこんなことまでするんスねー。
正直どうも戦闘のイメージが強くてでスね
考えてみたら最近戦いの話ばかりだったからなぁ……」
『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は小脇に抱えた紙芝居セットを降ろすと、子供達の様子を眺めてそんなふうに呟いた。
「それは?」
子供達に問いかけられ、美咲はフッと不敵に笑った。
「司祭っぽさはありませんが真面目な話ばかりでもアレでスし、一つぐらいこんな話があってもいいでしょう――その名も、『発進!機動要塞ギアバジリカ』!」
派手な画風で描かれたそれは、ギアバジリカががしがし歩く愉快なお話であった。
おおお! と子供(特に男の子)が目をキラキラとさせはじめる。
だいぶフィクションが混ざっているというか、大半がROOでの思い出を絵にしたものである。
なので国の名前も鋼鉄帝国。皇帝と共にギアバジリカを走らせ首都へ攻め込み、美咲たちがロボットにのって出撃するというなかなか荒唐無稽なものになっている。
クリップボードを手に『雑用は得意なんだ』と照れ笑いするおじさんの姿が、不思議と優しく描かれている。
「ほう」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)がその時の思い出を振り返り、なんだか目がマジになっている。
自分も何かして加わるべきだろうか? などとエッダが思っていると……。
「がおー! アルハラモンスターの襲来でしてよ! 丁度いいところに美味しそうな子がいますわね。早く助けないと食べてしまいますわよ〜」
ヴァレーリヤが布を被って怪獣の真似をしはじめた。
はしゃぐ子供達を追い回すヴァレーリヤ。ここぞとばかりにエッダも布を被ると殻の瓶を手に取った。演奏を派手にしてみるフラーゴラ。
「ハラスメントモンスターが出たぞ!! アルハラマンは酒瓶で悪を倒すんだ! ヘヤッ!!」
「あっ、痛だだだ!地味に痛いですわっ! 武器を使うのは反則でしてよ! そこもドサクサに紛れて私を攻撃しない!」
ならばと美咲が持参した紙をぱたぱた畳んで子供に手渡した。
「ほら、君もこのスーパー新聞紙ハリセンでモンスターに立ち向かって!」
「文句があるならかかって来い。まとめて返り討ちでありま――ぐわー!?」
なんだか随分賑やかになったものである。
「そろそろ読み聞かせの時間かな?」
『嵐を呼ぶ魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)が壁により掛かってそう言うと、アミナが絵本を持ってきた。
アミナが絵本の読み聞かせを始めると、それまではしゃいでいた子供達は静かになり、アミナの話に聞き入っている。
「――そうして修行を続けていたある日の夜、突如として空が紅に輝く星で彩られたのです。聖ボリスが驚き天を仰ぐと、主が啓示を下されました。この地に教会を建て、可能な限り多くの貧者を救うようにと。こうして、クラースナヤ・ズヴェズダーは開かれたのです」
優しい声でそう読み上げるアミナ。
最後のページを閉じて『おしまい』と言うと、マリオンはぱちぱちと拍手を送った。子供達もそれに送れて拍手を始める。
「さて、次はマリオンさんがイレギュラーズになる前の冒険譚を話してみるね! 聞きたい人は!?」
マリオンが手を上げてみせると、子供達が気分良く手を上げる。
「よし、それじゃあ語って聞かせよう。ためになるお話しも良いけれど、ワクワクするお話しだって聞きたいものね。なにせ今日はシャイネンナハトだから。
これはマリオンさんが、二人の師匠と冒険していた時のお話しです! まずは――」
(絵本を読み聞かせる催し……面白そう。僕に、できる事があるなら……)
一通りのお話が終わった所で、『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が持参した絵本を読み聞かせていた。
「こねこ達はふわふわころころじゃれあいます。みゃー、みゃー」
可愛い猫が描かれた絵本である。
「皆は猫さん、好きかな?」
尋ねてみると、特に元気の良い子供が『好きー!』と声をあげてくれた。
ふんわりと微笑み、絵本の続きを読み聞かせる祝音。
『クラースナヤ・ズヴェズダーの事は詳しくないけど、聖典の一部を絵本にしたものの読み聞かせは聞いてみたい』。そう思っていた祝音の、絵本を聞かせて貰ったおかえしのようなものだ。祝音なりに素敵な絵本を子供達にみせてあげているのは。
そんな時間が、暫く続く。
『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は周りの様子を観察しながら、同じく様子を観察していたアミナを見た。
「今日は子供達が楽しく過ごすお手伝いをしに来たんだけど、君にもご挨拶がしたくって」
「私にですか? そんな、かしこまらなくても」
苦笑するアミナに、イーハトーヴがそっと手を差し伸べる。
「あのね、俺、君とお友達になりたいんだ。
革命派の外の人間だから、少しは気安いんじゃないかなって、思って」
イーハトーヴは、この世界で戦っていくなかで気付いたことがある。
守りたいものが多いほど、歩みを止めるのは怖くなるし、立ち止まり方すらわからなくなる。
「モリブデン会談の時にも鉱山の調査依頼の折にも、君は戦ってた。懸命に。真っ直ぐに。ずっと。だから、俺なりに……」
そう。イーハトーヴはアミナの『気安い友達』になろうとしたのだった。
それがわかるから、アミナは頷いた。
「ありがとうございます。イーハトーヴさん」
差し出した手を握り、握手を交わすアミナ。二人はにっこりと笑い合ったのだった。
●夜に栓を抜いて
「ヴァリューシャ! アミナ君! ごめんよ! 遅くなっちゃった! 早速パーティのお手伝いをするね!」
勢いよく部屋に入ってきたマリア。その小脇には料理や酒瓶の入ったバスケット。
「って――ふふ。皆もう酔っ払いじゃないか。でも今日くらい良いよね。ヴァリューシャもアミナ君も風邪だけは引かないようにね!」
マリアが言うように、場は既にできあがっているようだった。
「あらマリィ、こっちへいらっしゃい。聖なる夜の訪れを祝って、もう一度乾杯といきましょう! 乾杯かんぱーい!」
「「乾杯ー!」」
カップを掲げる大人達。その中にはアミナの姿もある。
「あら、全然(当社比)飲んでいませんわね? 遠慮しなくても良いんですのよ。
何ですの?私のお酒が飲めないとでも? ん?」
そこからヴァレーリヤが強めの絡み方をしているのを、マリアはにこにこ見守っていた。
あわあわとするフラーゴラ。
「あれ、あれ、皆酔っ払ってるう……?? ルブラットさんは……」
「いやなに、嗜む程度なら飲むのだがね」
まだシラフさ、と手を振ってみせる。
そして。
「……私の独り言を聞いてくれるかね」
どこか重々しく言うルブラットに、フラーゴラはカップを手にこくんと頷いた。
「私はここに来た当初、機を見て離れることも考慮に入れていた。
過激派と聞いていたからね、だが今は違う。
我々を取り囲んでいた迷宮の、その先の景色を見られるのではないかと、心の底から……」
とここまで語った所で、ヴァレーリヤが『一発芸をしなさいな!』と司祭のひとりを捕まえて無茶振りをしているのが目に入った。
「一発芸? 私の特技は瀉血ぐらいだが……よし、やろう。最近皆が不安そうなのは体液に原因があるに違いない!」
瀉血用の道具をシュッと取り出すルブラット。顔を青くして引くヴァレーリヤたち。
「こんな風にいつも皆が楽しく暮らせるならどれほど素敵だろうか。
この平和を守るのがきっと私達の使命なんだよね……」
ルブラットがヴァレーリヤを追いかけ回す風景を見ながら、マリアは腕まくりをした。
「ねぇヴァリューシャ。私は君もこの平和もきっと守ってみせるよ。全身全霊をもってね」
そして、ルブラットをつかまえにかかる。
ギアバジリカの、表面。あるいは屋根の上。
普通ならば上らないような場所で、美咲は夜風にあたっていた。冷たく刺さるような風と雪が、彼女の肩に積もっていた。
ふと、空を見て思い出す。『アーカーシュが食糧問題に寄与できるのは数年かかる』という話だ。
「私が独立島で空中港の建造を発案したのは、あくまで不凍港奪還作戦の話が発生したからで……」
誰かに言い訳をするように、口に出す。
『毎年食糧問題に頭を悩ませるどこかの司祭の顔が頭にあった』などとは、決して。そんなのことは、考えすぎだと言わんばかりに。
はあと息をつくと、自らの腕の付け根を掴んだ。
喧噪から離れ、教会から出るアミナ。屋内だからということもあってか、鉄騎種ゆえの過酷耐性のためにか、この寒い中にテントが並んでいる。
「最近のアミナを見ていて、政治とかは良く解らないけどマリオンさんはこう思います」
その背に、マリオンが優しく声をかけた。振り返るアミナ。
「聖女じゃなくても人は誰かを救えるし、聖女なんて者に導かれないと何も変われないなら、それは……」
言葉を濁してから、マリオンは頷く。
「強大な皇帝が専制的に導くのと、本質的に何が違うのかな? ってマリオンさんは思うよ。だからアミナ達がなすべき革命ってね、国を変えるより前に、民衆を変えて行くべきなんじゃないかなって」
「それは……」
アミナは口をあけ、そして閉じた。
簡単に答えていい内容ではない。そう思ったのだろう。
「私は、それでも国を変えたいです。それと同じくらい……そうですね、マリオンさんの言うとおり、民衆も変えたいのです。どちらが先かと言えば、私達は、こうして身近な人達を変えました。今日の子供達は、笑顔でした……」
そこへ、フラーゴラが足を止める。足音は不思議と、つめたく響いた。
「ねえ、アミナさん」
フラーゴラはアミナと5mの距離をあけたまま、深く息を吸い込む。
「アナタがどんな事を考えてどんな選択をするかわからないけど。
その選択によっては、アナタを心配してくれた人を裏切る事になると思う」
「裏切る? そんな」
まさか。とアミナは言いかけて、フラーゴラの瞳に宿る真剣さに言葉を詰まらせる。
「忘れないで」
フラーゴラの言葉に、アミナは頷き……そして、もう一度頷く。
「はい。忘れません。けれど、わたしはきっと、あなたを……失敗してくれた人達を、裏切りません」
暫く見つめ合うフラーゴラとアミナ。
「裏切りたく、ないのです」
だから忘れません。そう付け加え、アミナは微笑んだ。
雪はまだ降り積もり、外の景色を白く暗く染めていく。
シャイネンナハトの夜が、過ぎてゆく。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――シャイネンナハトの夜があけてゆきます
GMコメント
鉄帝国、クラースナヤ・ズヴェズダー革命派。
多くの難民を抱えるこのキャンプでもシャイネンナハトを祝っています。
●昼間
場所は歯車大聖堂内にある教会の一室。
労働に出る大人から子供達を預かっています。
室内の装飾はおそらくアミナの手作りなのか質素なもので、その日はクラースナヤ・ズヴェズダーの聖典の一部を絵本にしたものを読み聞かせる催しを開いています。
皆さんはアミナやヴァレーリヤと一緒にこの催しに参加してください。
音楽を奏でたり持ち込んだ本を読み聞かせたり、子供と一緒に遊んであげたりとやり方は自由です。
こっそりビスケットも用意しているので、子供達へのご褒美としてあげるのもいいでしょう。
子供達の人数は多く、元から歯車大聖堂内含むズヴェズダール地区に暮らしていた子供達から、最近になって周辺から入ってきた難民の子供達まで幅広く集まっています。
なので元から仲の良い子もいれば、人見知りをする子やなじめない子もいるでしょう。
・お散歩
このイベントへの参加は自由です。
昼間はイベントに参加せずギアバジリカ内や周辺を散歩するのもよいでしょう。
●夜
司祭や町で労働をしていた人々が集まってヴォトカをあけてパーティーをします。
昼とは異なる大人達なりのパーティーを開きましょう。
出る料理はやっぱり塩漬けニシンとかですが、アルコールがあると空騒ぎもできるものです。
●サポート参加について
このシナリオにはサポート参加枠を設けています。サポート参加する場合、プレイングをかけるパートは『昼』『夜』『お散歩』のいずれかに絞るとよいでしょう。(別れていても大丈夫です)
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