PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<地底のゲルギャ>ダビダの嘆き

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――フローズヴィニトル。それは現在の鉄帝を襲っている大寒波の名称だ。
 より厳密にはフローズヴィニトルとは勇者王の時代に現れたとされる、とある『狼』のことを指している。かの存在は強大な力を持っていて――全てを『冬に包み込む』とも畏れられていた様だ。
 結局その狼は大地深くに封じられたとの事であり……現在襲っている大寒波はあくまでも、その伝承を想起させるという意味で使われている。筈だ、が。
「しかし。どうにも只の伝承という訳ではなさそうだな……
 イレギュラーズが『銀の森』のエリス・マスカレイドから話を聞いた様子では」
 言うはゲルツ・ゲブラー(p3n000131)だ。銀の森……イレギュラーズ達の緊急の支部としても活用されているかの地の主より語られたのだ――フローズヴィニトルについて。

『“それ”は、強大な力を持っていて、不凍港さえもを凍らせ、全てを冬に包み込む。オリオンとはまた違う存在……けれど、大丈夫です。“それ”は大地の深くに封じられたと聞いています。そういえば、イレギュラーズちゃんたち、鉄帝国の地底に続く道なんてご存じはありませんよね?』

 なんて。地底に続く道、など……正にこの前見つけたばかりだ。
「ゲヴィド・ウェスタンで調査した時の地下道だよね……
 鉄帝にそんな伝承もあったなんて、無関係とは思えないよ」
 言の葉を紡ぐアリア・テリア(p3p007129)が想起するのは、そう。先日確保したゲヴィド・ウェスタンにあった――地下へ続く道、だ。どこまでも広く、奥まで続いていそうな地……エリスの話と合致する。
 故に出向いた。ゲヴィド・ウェスタンの地下へと。
 まぁ仮にエリスの話が無くても――どの道ここを調べる必要はあったのだ。
「この地下道、上手く安全を確保できれば、新皇帝派や天衝種が跋扈する地上を避けて他の地上部へと至る事が出来るかもしれん……そうなれば今後の南部戦線の進行にも役に立つだろうしな」
「そして――フローズヴィニトルと関連があるかもしれないなら、尚更にだね」
「あぁ。だが、地下道は大軍を展開して調査するには向かない……イレギュラーズが頼りだ」
 南部戦線の今後の為にも、と。
 大寒波の影響は大きい。だが、人々はかの脅威に縮こまっているだけに非ず。
 自らに動いて打破する為にも――少しずつやれる事をやっていくのだ。
 進む。薄暗き地下道を、少しずつ。
 足元にはかなり古いが線路も引かれているか……
 これはなんだろうか。恐らくは古代文明の名残だとは思うのだが。
 かつての世界では――ここを通る列車なりがあったのだろうか。
 と、その時だ。
「……むっ。なんだ? 妙に冷たい風が吹いてきているな」
「もしかしてどこか近くが、外に通じてるのかな?」
 ゲルツやアリアの首筋を、冷気が撫ぜた。
 風が吹いているという事は何処か外に通じている別の出口でも近いのだろうか。
 ――そう思ったのだが、何かおかしい。
 冷気が段々と強くなっているのだ。外に近付けば当然、と思うかもしれないが、しかしそのスピードが異常だ。これは……!
「――何か来る!」
 刹那。暗闇の先より至る気配があった。
 それは唸り声と共に。
 ――『狼』だ。
 だが普通の生物ではない。体は純白にして、どこか揺らめいている。
 『幻狼』或いは『冬狼』とも呼称できそうな存在……
 精霊か魔物か。いずれにせよ確実に感じ得るは此方に対する『敵意』
「話し合いは……出来そうにないね!」
「気を付けろ。こいつら、尋常ではない冷気を秘めている様だ……
 冷気に熱を奪われ過ぎれば身体の動きが鈍るぞ……!!」
 アリアにゲルツが咄嗟に戦闘の態勢を整える。
 極寒を宿し。そして『狼』が如き姿とは……やはりフローズヴィニトルの伝説は本当だろうか。
 斯様な存在が本当にこの大地に眠っているとすれば。
 コイツらはその尖兵であろう。
 ――いずれにせよ向かってくるのならば排除する他ない。
 冬狼は侵入者に敵意を抱いている……いやそれだけならまだしも、どうにも狭苦しいこの地下から飛び出んとする意思もどこかに感じられるか。そんな事をされれば外の、特に街に住む者に被害が出ないとは限らない。
 ここで打ち倒し、脅威は掃うべきだ!
 ――狼の遠吠えが鳴り響く。
 それはどことなく――大寒波の吹雪の音にも、似ていた気がした。

GMコメント

●依頼達成条件
 敵戦力の全撃破。

●フィールド
 鉄道施設ゲヴィド・ウェスタンを解放した事により侵入が可能となった(発見された)鉄帝地下道(地下鉄)です。地下は薄暗いですが、不思議と光源らしきモノも点在しており(電気なのか魔力なのかは不明です)そこまで視界には困りません。
 とは言え別途、暗視なり他に光源などがあっても便利でしょう。

 現場は、線路が引かれている地下鉄の途上の様な(いわば洞穴状の)場所です。
 それなりに横幅は広い為、ある程度の人数が並んでも戦闘には支障ないでしょう。ただし大きく迂回出来る程の余裕はありません。これが吉か凶かは作戦次第かもしれません。

●敵戦力
・『冬の精霊/冬狼』×11体
 氷や雪を思わせる冬の精霊達や白い毛並みの幻狼です。
 侵入者に対しては激しい敵意を抱く様です。皆さんへと攻勢を仕掛けてきます――いやそればかりか外へ飛び出さんとしている様子も見受けられるでしょうか。もしも地上に跳び出せば犠牲者が出るかもしれません。此処で撃破してください!

 能力としては鋭い爪や牙で襲い掛かってるのを基本として。
 更に周囲に『冷気』を齎す能力を宿している様です。
 この『冷気』は冬狼が密集している程に(或いは冬狼に近付くほど)効果が強くなり、皆さんの『反応』『命中』『回避』の値にマイナス影響を齎します。更に冷気が酷い状態だと『機動力』『CT』にも影響が出てくるようです……
 『過酷耐性』もしくはソレに類似するようなスキル、対応策があると被害を軽減できるかもしれません。

 10体は小型と言えますが、1体だけ大型がいます。
 全体的な戦闘力に加え、先述の冷気能力も各段に性能高い個体です。
 この集団のリーダー各かもしれません。

●味方戦力
・『ゲルツ・ゲブラー(p3n000131)』
 ザーバ派に属し、遠距離射撃を得意とする飛行種です。
 遠距離射撃を得意とし、皆さんの援護を行います。基本的には小型から順に射撃行動を行い撃破しようという動きを見せますが、何か指示があればその通り動く事でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <地底のゲルギャ>ダビダの嘆き完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.

リプレイ


 ――地下道に狼の遠吠えが響く。
 全く。空には浮遊する大地があり、地には斯様な路線があるとは……
「鉄帝国は得体の知れない遺産が多すぎる気がします。これほどの規模は一朝一夕で作れるはずもありませんし、何があったのか……尤も……其れが現況を打破する鬼札足りうるのですから、見逃せないのですが」
「そういえば、こんなに寒かった年って他にないんだよね……?
 今年になって急に封印が弱まったとしたら一体なぜ……?
 『彼ら』がそれに関係してるのかな――?」
 言うは『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)に『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)だ。吹きすさぶ様な寒さが『彼ら』――つまりは幻狼から生じていれば、なんともはや昨今の寒さと無関係とも思えぬ。
 ――ともあれ彼らから感じ得る敵意に対処せんと動くものだ。
 アッシュは寒々しさを防ぐべくに纏ったエーテルの障壁が耐性を齎す。更に後衛に位置していれば比較的寒さはマシであるか――襲い掛からんと跳躍してくる個体共へと糸を紡ぐように迎撃すれ、ば。
「ううっ、寒い……寒いわ! 足元から凍りついちゃいそう……! 地上も寒かったのにどうして地下もこれだけ寒いのかしらね……やっぱりエリスちゃんが教えてくれた伝承がホントだったって事かしら!」
「白い狼の幽霊だか精霊だかがいるなんて、嫌な予感ビシバシって感じだね……
 でも嫌な予感がするからこそ放置してはおけないよね――!
 聖奠聖騎士、サクラ・ロウライト。参る!」
 続け様、体を震わせながらもアッシュと同様の障壁によって寒さを和らげる『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)や『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)の動きが至るものだ。まずに築くは防衛線――前衛と後衛の2ラインを主軸に狼らと対峙する。
 その中でも二人は前へと位置しようか。
 通せんぼする様な形で振るうサクラの剣は彼らを奥へ進ませんとし。
 ジルーシャも小型の者らを足止めせんと力を振るう。
「……この道も、どこかに続いているのだろうか。
 当然だが自然に出来たモノではない……一体これは何者によって作られたのか」
 同時。至った地下の道へと思考を巡らせるのは『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)か。どこまでも続いているかの如く広大な地下道……一体誰の手によって、何の為に作られたのか。
 この地は……いや、この国は、一体何者によって造られたんだ?
「――詮索は、こいつらを片付けてからにするか。どうにも血の気は退かんらしい」
 が。今は狼達を薙がんとエッダも往くものである。
 鋭利な牙を見せながら突っ込んでくる個体――それらを自らに引き付けようか。誘いの魔力を充満させ、放出する様に。連中の抱いている寒さなどこの地に住まう者であれば……何のことはない。
「『幻狼』ねえ~精霊だか魔物だか分かんねえ獣が、こう呼ばれるかもしれないっていうのは何とも複雑な気分だ……なぁ、幻狼とやらよ。分かるか、おい?」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が、エッダに引き寄せられた者達へと銃撃をもってして穿つものである。妖精の力を宿した林檎の雫を飲み干せば、彼の瞳には暗闇すら見通す力が宿ろうか……そうして把握しえた敵を狙い定めるモノ。
 幻の狼などという名前を持つ魔へと。
 いや精霊だったか? まぁどちらでもいい。
「お前らが本当にフローズヴィニトルの眷属で――その名を名乗るに相応しいか確かめてやる」
 俺も、未だに『幻狼』である事は辞めちゃいねえんでな。
 絞り上げる引き金を幾重にも。彼の銃撃はどこまでも敵を見据えて――
「こんな地下に狼らしき存在が生息していたなんてね……
 だがここをモンスターに自由に闊歩させるわけにはいかない。
 向かってくるのなら――容赦は出来ないよ!」
「尖兵の偵察か哨戒か。はたまた、ただ、大元からあふれただけの存在か。
 ……それは奥底へと向かえばいずれ分かる事、か」
 直後には『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の雷撃と『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)の拳も敵へと振るわれるものである。やはり二人も敵を押しとどめる様な動きを見せているか……マリアは不測の事態が無いように薄ら暗い場所も見通し、瓦礫の狭間に潜んでいないか透視の術も巡らせ。
「外に散歩に出る気持ちはわかるが、あいにく此処から出す訳にはいかないな!」
『――ギッ!!』
 そしてジョージは狼の眼前に立ち塞がりながら二撃目も放とうか。
 まずは小型共から数を減らしていく――見える大型は位置を警戒しておこう。
 やれやれ。犬もきっと、懐いてくるのならば可愛らしいのだろうが。
「噛みついてくるのなら容赦は出来ない、ね!」
 マリアは言う。自らに、雷の権能を鎧として纏いながら。
 迫りくる狼の顎へと――自らの蹴撃を、叩き込んでやった。


「ふぅ……! 寒い寒い!
 やっぱり凍えそうだけど、これはなんとか踏みとどまるしかないね!
 よろしくね、ゲルツさん! 後ろは任せたよ!」
「ああ。任された! 遅れは取らんよ!」
 激突が生じれば戦闘は当然、激化する――
 その最前線にてサクラは狼共の冷気を耐え忍びながら剣を振るいて薙いでいくものだ。抜き打つ一閃が自らの足元より襲い来る個体を払う様に。さすれば飛び跳ねた個体をゲルツの援護射撃が襲い掛かる。まずは数を減らす事に専念だ。
「地下の奥底で眠りし者よ! 雷を見た事はあるかな――?
 私が起こす落雷は、建物だろうと地下だろうと無関係だ! 受けたまえ!」
 次いでマリアの一撃が飛来する。前衛にて戦う彼女が放つ一撃は――正に雷撃。
 蒼雷たる状態よりに紡ごう。大規模な落雷の天災が地を這う狼を潰す様に。
 大型もついでに巻き込もうか! あぁ、小さかろうが大きかろうが通しはしない!
「外へ出ようとするのなら――悪いがここは一歩も通さない!
 君達にはここで我々と戦って敗れて貰う! 一般市民には指一本触れさせん!」
「骨一つ残すつもりはない。侵略するのなら慈悲は不要」
 徹底的に行うのみだ、と。続けてエッダも往く。
 狼共の生など知らぬと。そして、赦しを乞うこともない。
 ――自らの利の為に、全て撃滅する。
 それが自らの在り方――
(……この期に及んでそんなことをいちいち考えてしまうとは、な)
 よくない性分だと、どこか心の狭間にて想うものだが。
 それも刹那。次の瞬間には――自らに誘導せし個体へ一撃。
 確実に打ち倒していく。敵を呑まんとする程の圧縮撃から拳の一閃を打ち放ちて。
「一匹も通すな――踏みとどまるぞ」
「ゲルツさん、二時の方角です! お願いします!」
「良し、そっちは任せろ。通さんよ!」
 それでも狼達も怯え竦みはしない。イレギュラーズ達の喉笛を食いちぎらんと、むしろ旺盛に襲い掛かってくるものである――故にこそジョージにアリアの迎撃が更に飛来するものだ。大きく広げた口が迫り来れば、ジョージは躱して拳を打ち上げる様に。
 纏めて襲い掛かって来れば一喝する様に力を込め――弾き飛ばそうか。
 そうして隙が見えた個体がいればアリアが薙ぐ。
 全てを見通す視座を得ながら、神秘の泥を顕現せしめるのだ。
 押し流す様に。それでも突破せんとする者がいれば、ゲルツに声を掛け撃ってもらおうか。
「閣下に吉報を持ち帰るべく尽力するのです。
 地下の道が使えれば戦略的な視野も増えそうですしね」
 えいえいおー。更にアッシュは南部戦線に栄光を齎す為に往く。
 行動が限られる空間に、多数の敵……知能の程度は不明だが、しかし此方に恐れを抱かぬような部類――少々苦労しそうではある。が、だからといって退いて解決する様でなければ事態は抉じ開けねばならぬのだと。
「それに……生憎、此処を通すわけには行きません……
 此の状況であなた方に大々的な対応を強いられる様になるのは面倒ですので……!」
 彼女に一撃を震わせる。大型を巻き込むようにしつつ――血の報いをくれてやろうか。
 赫く煌めく無数の光の礫を射出するように。
 動きを鈍らせれば糸をもってしてその身を削らんと試みるものだ。
「さぁこの程度か!? かかって来い! どっちが本物の幻狼か勝負しようぜ!」
 そこへ更にジェイクが続く。彼は常に銃撃の手を止めぬものだ――
 幾重にも放つ掃射が狼達へと振るわれていく。幸い彼は後衛側であり冷気も届きにくい位置にいて指先に曇りはない。狼達の動きを潰す様に足を狙いてその身を害し続けようか。
「それにしても見れば見る程、正に白い狼ね……
 あの精霊たちは《フローズヴィトニル》を守っている番人みたいなものなのかしら。
 ホントなら傷つけたくなんてないけれど……どうしても来るのなら仕方ない、わね」
 さすれば低い唸り声をあげて、狼達も抵抗の意思を見せるものである。
 大型を中心として集合すれば強い冷気も生じようか――あぁ正に凍るが如し、だ。特に前衛を担っているサクラやエッダを中心にその被害は染み渡る。尤も、エッダは寒い程むしろ調子が挙がらんとする程であるが……
 ともあれ。その動きをジルーシャは見据えれば正にエリスから聞いていた《フローズヴィトニル》の事を思い出すものだ。アタシたちが歩いているこの地面の下に――やはり眠っているのだろうかと――
 もしも彼らが精霊の類であれば穏便に事を済ませたいものだが。
 どうにも引かぬようであれば……
「――どうか力を貸して頂戴ね、アタシの可愛いお隣さんたち」
 ジルーシャは願うものである。この地に住まう他の精霊達と共に、歩まん事を。
 竪琴の音色と纏う香りが彼の力の一端を成す――そして。
「貌なき獣。影なきもの。赤き血の香りを借りて、浮かびあがれ――《ジェヴォーダンの獣》!」
 『何か』が至るものだ。一時的な契約の下に呼び出されたソレは、狼らと相対す。
『ガ、ァア、ア――ッ!』
 そして直後には狼と――喰らい合うものだ。
 狼らも反撃し動きが鈍らんとするイレギュラーズの身に傷を刻む、も。
 彼らは倒れぬ。彼らは朽ちぬ。
 地上で数多の戦いを勝ち抜いてきたのだ――零度たる狼がいようと臆するものか!


『グル、ァッ――!』
 狼らの反撃は大型を中心に行われていた――
 一際強い冷気を宿す大型は最前線にてイレギュラーズ達を食い破らんとする、が。
「ごめんね、ただでさえ寒さに喘ぐ人達がいる所に貴方たちを放つ訳にいかないの!
 せめて苦しまないように……全力で当たってあげる!」
「さぁ、かかっておいで。敵はここだよ! 私達を倒さずに通れるとは思わない事だね!」
 アリアにサクラが押しとどめるものである。
 神秘的破壊力を一点に集約。ゼロ距離で放つアリアの極撃が狼の身を抉ろうか――
 直後にはサクラの抜刀。神速の居合術が狼の足を抉りて、その身を地に舐めさせるが如く。
 ――勿論、大型は特に強い極寒を宿したものだ。
 ソレと至近で打ち合えば身体が鈍る。
 故に、威力が多少落ち込んでいるのか未だ狼は健在であり……
「ッ……! 本当に冷たいね、冬が質量を持ったみたいだよ!
 けど……それを地上に持って行くのは許さないよ!
 今だって一杯一杯で耐えている人達がいるんだ!」
 それでもアリアは諦めぬ。絶対に逃がさぬ意思と共に――此処にあるのだ。
 サクラも敵の寒さに穴がないか解析を試みながら奮闘するものである。それに……もし相手がフローズヴィトニルから漏れ出した力みたいなものなら。
(習性や居場所を突き止める役に立つかも知れない――
 この先どこかに、本当にフローズヴィニトルに繋がる道があるのなら――!)
 きっと無駄にはなるまいと、目を逸らさずに見据え続けるものだ。
「ふぅ……! 息が白くなるね……!
 だがこの程度、まだまだどうと言う程の事もない――!
 我が雷速必中の蹴りを受けてみろ! ――雷閃葬華!」
 更にマリアも続く。小型を幾体か鎮圧せしめ、大型へ攻撃が通じる様になったのだ。
 苛烈たる蹴撃が叩き込まれる。
 雷を纏いし彼女の一閃もまた強烈。狼の横面を弾き飛ばすが如くに雷速へ至れば。
「行けるわ……! 一気に押し込むわよ!」
「冬の脅威が形を成したのかもしれませんが、ならば尚の事に打ち砕かせてもらいましょう」
 大狼の身が揺らぐ。イレギュラーズ達の攻撃が集中し始めてきた事による疲弊か――?
 ならばとジルーシャやアッシュの一撃が畳み込まれるものである。
 狼らの攻勢により増えた味方の傷の治癒もせんと動いていたジルーシャだが大狼の身に揺らぎがあると分かれば攻勢に転じる――はじまり。おわりのはじまりを奏で。その力を天より奴めへと――齎さん。
 そしてアッシュは通せんぼに馳せ参じる。
 突っ込んでくる狼へ、カウンター気味に赫雷を合わせれば血飛沫舞わす――
 一匹として通さぬ。大型へ撃が通れば、銀色の一閃を叩き込みもすれば。
『ギ、ィ……ガ……ッ!』
「――むっ。なんとなし、冷気も少し穏やかになった気がするな。
 奴らの魂そのものが少しずつ弱ってきている事の証左かもしれん」
「なら――この機を逃す手はねぇな」
 温度を知覚しうるジョージが気付いた。狼らの冷気に陰りが見えつつある、と。
 それは小型の数が減り始めたのにも起因しているのだろうが。
 大狼自身が弱っているのも一因か。
 ――故に攻め立てる。冷気が弱まれば、段々とイレギュラーズ達も本調子に戻るものだ。
 ジョージの拳打。ジェイクの銃撃。ゲルツも残った小型共を牽制する様に撃ちて。
 サクラやアリア、マリアも力の限りを尽くして――狼らを一掃せんと尽力。
「フローズヴィニトルは最早、鉄帝だけの問題では無くなった。影響は海洋にすら及んでいる……それらが、貴様らを打倒することで影響を取り除けるなら、障害となる全て。余さず打ち砕いてみせよう!」
 特にジョージは強い意志と共に敵を討つものだ。海洋への影響は見過ごせまいと――
「……お前達にも今までの生があったのかもしれんな。だが、これまでだ」
 そして。エッダも踏み込むものだ。
 ……魔種に追われ、国を壊され、それを立て直す為に誰かの生活を脅かす。
 結局ヒトとは/生き物とは、そうやって世界を回す。
 この戦いもその縮図であるのかもしれない――
 巡らす想いがあるものだ。微かに閉じたエッダの瞼の裏には、如何な世界が広がっていた事か。

 ――少しだけ、虚しくなってしまうな。

 だけれども、倒す。だけれども、撃滅する。
 容赦はしない。最後まで彼女は敵の身全てに負の要素を齎さんと戦い続けるのだ。
 さすれば大狼を援護しうる小型などいはしない。
 最後の抵抗も力無きもの。やがて地に塗れた大狼の身が――
『グ、ル、ァ、ァ、ァ……』
 ――遂に地に倒れ伏すものであった。


「――使える施設がないか探そう。
 架線が壊れているかいないか、それがわかるだけでも工数が算定できる。
 それと……この果て。貴様はどう見る、ゲルツ・ゲブラー」
「――予測だという事は前提として述べるのならば、恐らく帝都にまで続いている事だろう。それだけの規模があると窺える……ただ、少し道に逸れれば更に深き場所にも……繋がっている気がするな」
 戦いは終わった。だが任務は終わっていないとばかりにエッダは周辺の調査を始めるものだ。この道は果たしてどこまで続いている事か――きっと帝都までの道があるだろう、とは予測できる。いずれ南部戦線の大規模な作戦の重要移動路になるかもしれない……
 それとは『別』の深き奥底があるかは、何とも分からぬが……
 フローズヴィニトル。噂の存在が眠る地には、はたして。
「まだまだ地の底に行けそうな道があるのは、まず間違いないね。
 ただ広すぎてよく分からないな……もうちょっと調査が必要かも」
「地図を作っておきたいね。地下鉄が全体的にこうなら安全確保にも手こずりそうだし……今の内やれる事をやっておこう。狼達がやってきた方角も気になる所だし」
「そうね――あら、こっちに横穴があるわ。下に続いてる……こっちから?」
 いずれにせよ調査すべきだとアリアは思考し周辺を索敵。しかし強化した声量によるエコロケーションですら奥底は知れない……とんでもない広さがあるかもしれぬと思いつつ、サクラは地図を作ろうか。ジルーシャが見据えた先には――小さな横穴が存在していた事でもある。
 なんともはや、不穏な影が見え隠れするものだ。
 ――それでもこの国の人達を犠牲にしない為にやるしかない、と。
 サクラは脳裏で思考を重ねて……
「……ま。本物かどうかは別にして弔ってはやるとするかね」
 同じ狼仲間のよしみとして――と、ジェイクは微かに呟くものだ。
 敵ではあった。だが、朽ち果てたのならば話は別。死後ぐらいは安寧を願ってやるとしよう。
「其れにしても、フローズヴィニトルの伝承に……此の狼……
 なんでしょうね。冬は狼の姿をしてやってくる、とでも……?」
 アッシュは狼らを調査せんとしながら、呟くものだ。
 益々凶事が近付いている、ような――そんな気がして。
「……杞憂であればよいのですが」
 刹那。風が吹いた気がした。
 とてもとても凍える――吐息の様な、モノだった。

成否

成功

MVP

エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 地下道にははたして……いずれ本格的に調査する事もあるでしょう。
 ありがとうございました

PAGETOPPAGEBOTTOM