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シナリオ詳細

<咬首六天>正義もそろそろ煮えたころか

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 教会。
 まるで、鉄帝の騒動など知らぬといわんばかりに、天から陽が差し込んでいる。しかしながら繊細なステンドグラスはもう暴力のせいで影も形もなく、ただ、無骨な板が打ち付けられているばかりだ。
 バルナバス・スティージレッドの即位に応じて、鉄帝は果てしなく変わってしまった。
 強さをよしとする気風は、暴力に変わってしまった。

 そして、この状況は、弱者をしいたげる者にとってあまりに都合が良い。
「よくできました。チャル・ミト・ナッタ。3人とも、立派に務めを果たしましたね」
 三人の孤児は、解放された「元囚人」だ。
 けれどもほかの者たちと同じように、凶悪犯罪をしたというわけではない。
 せいぜいがスリ、置き引きなどといったようなもの……「やむを得ず犯罪に走るしかなかった、食い扶持を稼げない孤児」だ。
 彼らに対して、新皇帝は厳しかった。
 当然だ、淘汰されるべき存在なのだから。

 孤児たちがかき集めてきた「戦利品」は、反皇帝派から奪い取ってきた戦車など兵器の部品である。ベン・K・スミスは微笑んだ。
「それで、一番の役立たずは誰でした? 思い切りぶってください。手加減してはいけませんよ」
 こわばった3人を眺めながら、自分自身は上質な葡萄酒を飲み干していた。それから思い出したように2かけらのパンを放り投げる。
「2人で分けなさいね。ああそうだ、懸賞金をかけたんでしたっけ?」


「チャル……殴ってごめんね」
「ミト、大丈夫。っていうか全然痛くねぇんだよ。ナッタ、泣くなよ」
「ごめんね、チャル」
 ナッタと呼ばれる少年は、懐からパンを取り出した。
「これ、お前らのパンだろ」
「でもみんなで稼いだパンだから」
 瘦せこけた孤児はもそもそとパンを分け合った。それでも、腹は満たない。暖炉のない説教部屋は寒い。……よい部屋はボス、ベン・K・スミスのものだ。
「……どうなっちゃうんだろう、僕たち」
 チャルが泣きそうな声で言った。
「どうにもならねぇよ。昔からそうだったろ」
「昔はそんなことなかった……」
 すりむけた衣服を身に巻き付けながら、ミトが言った。
「軍人さんはやさしかったし、たまにパンもくれた。なんだかんだ盗みを見逃してくれたり……こらーって怒ったって殺そうとはしなかったもん」
「……」
 ナッタは銃弾がかすめた肩を抑えた。身をかわしたのはけがはなかったが、今日だって、一歩間違えれば射殺されていたかもしれない。
「悪さを働いたのは俺たちだから。誰も助けてくれないよ」
「レシプロおじさんに会いたいなあ」
「……うるさいおじさんだったよね」
 3人は、かつて鉄帝で出会った親切な軍人のことを思い出していた。
 懐かしい思い出。まだ、生活がましだったころの思い出。ずっとここで暮らせたらよかったね、とひそひそ話し合って、でも、ささやかな罪で指名手配されてしまったのだ。それをかくまうわけにはいかなかっただろう。
「お前たちは行けばよかったんだよ。あの時は指名手配、俺だけだったろ」
 チャルが言った。
「やだ」
「そうだよ。3人一緒じゃないと」
 吐く息は白い。

「反省していますか?」
「ベンさん」
「ごきげんよう、子羊たち。よいお知らせがありますよ」
 優しく微笑んだ……笑みだけは優しい男はその笑みを貼り付けたまま手配書を並べる。
「これは……」
「字も読めないんですか? でも、0の数くらいはわかるでしょう。懸賞金ですよ。イレギュラーズという悪い人たちにかかっているお金です」
「……」
「ここに連れてきてください。うまいこと倒せたら、そのお金であなたたちの罪があがなえるように交渉しましょう」
「でも……僕たち」
「ああ、心配はいりませんよ。『お友達』を貸しましょうね」
 現れた魔物たちに、子供たちは黙った。魔物たちは、なぜか彼らの言うことをよく聞くのだ。
「まあ、ケガ人でもいると言ったら来てくれるでしょう。とても親切な人たちのようですから」
「嘘はいけないって……」
「? いるじゃないですか」
 ベンは、懐から取り出したナイフを振り下ろした。悲鳴があがった。鮮血が飛び散る。
「ナッタ! ナッタ!」
「パンは二人で分けなさいと言ったでしょう? 大丈夫ですよ。殺してはいません。もういうことが聞けると思います」


 ギルド・ローレット。
「ジブンの見回りの管轄に……あくどいちびどもがいたんでありますな~!」
 そう語るのは、フルプレートに身を包んだ鉄帝の軍人であった。いや、フルプレートが本体だ。
 鉄騎種(オールドワン)の背負ったパイプから蒸気が噴き出した。
……こわもて、というように表情はわからないが、大きいだけに迫力がある。
「チャル・ミト・ナッタの3人組でして。もうほんとにこれがヒドイ悪童で。巡回中の軍人から金をスリとるわ、やれ我々の居眠りや飲酒を見つけては食べ物をゆするわで……えー、ゴホン。まあ、タイヘンなやんちゃ坊主どもでありました」
「どっちかというと小あくとーですが……そいつらを懲らしめてやる的な依頼です?」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はぱたぱたと羽を震わせた。
「まったくもってその通り! 懲らしめるために……まあ、その、連れてきてほしいんでありますなあ」
 鉄騎種の男はふーっとまた蒸気を噴いた。どうも溜息と連動しているらしい。
「先の鉄帝動乱でジブンの配属も変わってしまいまして、めっきり見なくなった……と思ったら、風のうわさで聞いたんであります。どうやらローゼンイスタフのナンタラ隊の男の手先になって、皇帝派の軍備にちょっかいをだしているとか。わずかな懸賞金までかかっていて……ああもうどうしてそんな……」
 乾いた布でパイプを吹くと、また、ふーっと息を吐きだした。
「ジブン、妻一人、この年まで子どもはありませんで。……あいつらと最後に会ったのは、忘れもしません。ひどい雪の日でした。窓からじーっとこっちを見てて。
見かねて妻が部屋にあげて。……ま、そんなことしょっちゅうでしたからな。あいつらうちのタオルの場所まで知ってて。でもね、ボロタオルから使うんですな! あーんなに生意気なのに!
うちにくるか、と声をかけるかずーっと迷っていて。……なんたって妻は体も丈夫ではないし……三人を養えるかどうか……あの三人のうち一人、なんてことはできなくて。もっと他に良い場所が……そんなことを考えていたら、妻に、何たる意気地なしか、三人いっぺんにまとめて引き取れと尻を叩かれたんであります。
でね、戻ってみたらもう、部屋はもぬけの殻でして……はあ……」
「つまり、すっごく心配してるです?」
「……まあ、もうこんな状況ですからな!! せまいお家でも外よりマシ。薄い粥でもあるだけマシ。それでいやなら一時預かりでもよし! ほかに居場所があればそれでもよし。とにかく説教してやりたいんでありますな。冬だし……あいたっ」
 物静かに椅子に座っていた女性が、べしっと依頼人の尻をたたいた。
「そう、そう。全員まとめてうちの……レシプロおじさんの子にならないかって、こんどこそ……言ってやりたいなあと思うわけであります」

GMコメント

さ~むいのはよくないので、あったかくしましょう。

●目標
新皇帝派「ベン・K・スミス」の捕縛、または討伐
孤児たち「チャル・ミト・ナッタ」3名の救出

●場所
 鉄道施設ルベン近くの廃倉庫。
 薄暗くクレーンなどが残されています。

●状況
 「魔物に襲われている友達(ナッタ)を助けてほしい」と必死そうな孤児(チャル・ミト)がイレギュラーズに声をかけてきます。
 誘いに乗って倉庫に入ると、閉じ込められ、魔物に襲われることでしょう。
 とはいえ孤児たちは不自然なほど緊張していますし、対策も打てることでしょう。

 ベンは身を潜め、倉庫の外で煙草を吸いながら一服しています。
 静かになったら出ていく算段のようです。ベンにとって、孤児たちはそろそろ使い物にならなくなってきた捨て駒です。
 孤児たちには「イレギュラーズを倒せたら仲間を治療してやる」と約束していますが、守る気はありません。やばくなったら逃げる気でいます。

●登場
・ベン・K・スミス
「そろそろ悔い改めた頃でしょうか?」
 ローゼンイスタフ志士隊(新皇帝派)所属の司祭です。もともとは天義の司祭崩れ。どちらかというと回復・支援寄りで、戦闘能力はそう高くありませんが、人質がいるのが厄介です。
リーディングで孤児の内心を読んでいますが、なんらかで慌てている場合はその限りではありません。

・ラースドール×2
 頑丈な、動くパワードスーツです。中~近距離アタッカー。非常にタフです。

・ヘイトクルー(近接型)多数
 人型の、怒りにかられた魔物です。近距離アタッカーです。先に蹴散らしておくと孤児たちに危険がなくてよいでしょう。

・孤児三人組(チャル・ミト・ナッタ)
 3人組の孤児です。7,8歳くらいに見えます。
 スリや軽微な犯罪によって捕まった囚人でしたが、釈放後は行き場をなくし、ベンの手下となっています。

<チャル>
「くそっ、全部俺のせいだ」
 3人の中では年長です。暴れん坊のリーダー格です。父と母を戦争で失っています。一番先に手配されたことを気に病んでいます。
 暴れますが、せめてミトやナッタだけでも逃がしてやれないかと思っています。
 
<ミト>
「友達を……みんなを助けて」
 おどおどした、おとなしい女の子です。あまり矢面には立たず、見張りをやっていたりしました。体が小さいので制御しやすいとみられているのか、ベンにひいきされることが多いのですが、内心は仲間を手ひどく扱うベンを恨んでいます。
 イレギュラーズをみかけて、何か感じ取ったのか、まっさきに走り寄ってきたのもミトです。つかまっているのは一人だといいますが、みんなを、と言いました。

<ナッタ>
「チャル、ミト、隙を見てなんとか……」
 人質です。かなりのビビりですが友達思いではあります。腕をけがしているようです。手を縛られていますが、縄抜け抵抗中です。ただあんまりうまくいっていません。手がかじかんで冷たい。
 自分さえベンから離れられれば二人が逃げられるのではないかと思ってもいます。

 3人ともたくましい孤児ではありますが、かなり動揺が表に出やすいので、保護のタイミングには注意です。
 また、全員、口やかましい『レシプロおじさん』のことはよく覚えています。
 わずかな額の懸賞金がかけられていますので、保護後にはなんらか交渉・働きかけが必要そうです……とはいえ罪は大したことはないので、口添えしてやれば足りるでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <咬首六天>正義もそろそろ煮えたころか完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年01月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
志屍 志(p3p000416)
遺言代行業
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ

●偽りの導きに従いて
「あの子たちね?」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)は、いち早く二人の子供に気が付いた。少し瘦せてはいるけれど、頭に入れた特徴に合致している。
 もうひとりは……と探そうとすると、あちらから駆け寄ってきた子供は、どこか様子がおかしかった。助けてほしい、というのである。
「それは大変ね! 場所はどこ!? 一刻も早く助けてあげましょ!」
 蛍は子供たちの頼みを快諾した。演技、というよりも素の反応だった。
(裏があるのは読めますが、隠す理由があるのでしょうし、即座に暴くべきではありませんね)
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は、静かに頷いて、蛍についていくことにした。蛍がそうするなら、自分は、その手助けをしたい。
「メイたちを見つけてくれて、ありがとうなのです。お友達、絶対助けるですからね」
『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は、ミトの手をぎゅっとにぎった。
 あたたかい。
 けれども、ぱっと離す。それを感じる資格はないと、ミトは思ったのだ。
(母さんに似てた……)
「ええと、場所はこっちで……」
 伝わってくるのは、友達を助けたいという想い。それから……。罪悪感だった。
(メイたちを誘導するのを少し躊躇っている……? もしかして……)
 ここで振り払うのは簡単だった。暗い世界を生き抜いてきた孤児とはいえ、メイたちはイレギュラーズだったから。
 けれども、助けを求める言葉は本当に思えた。
「お友達のことが心配なのね……ボク達に任せてくれれば大丈夫よ!」
「……」
「ん? どうした、早く行こう、待ってるんだろ」
 緊張の色を、その名の通り見て取った『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は表情を崩さない。罠のにおいがするが、それでもついていくことを選んだ。その複雑な色合いの中に、たしかにあたたかいものがあった。
(俺も元々は孤児だったからな。自分達でなんとかしようって、から回っちまう事を咎める事は出来ねえや)
「自身が苦境にあっても手を伸ばそうとする。
そんな方の手助けくらいはできる自身でありたい、
珠緒はそう思うのです……」
 お人好しで、騙されやすいイレギュラーズ。
 ひそかにほくそ笑むのは、偽りの聖職者。

●依頼人、レシプロ
 数刻前。
「はあ、新皇帝派の連中は子供までも手先として扱うのか……そのような輩にはこの貴族騎士が天誅を与えないとな」
「おお、騎士よ! 国は違えども志は同じ。どうか……よろしく頼む」
 子供たちの救出を約束する『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)に、依頼人は握手を求めた。
「レシプロさん、任せてちょうだい!
必ず3人とも無事連れてきてあげるから!」
 蛍は、依頼人にそう請け負って見せる。
 しかし、子供たちは、どうやら思った以上に困難のなかにあるらしい……。
「ふむ、司祭崩れが何やら企んでいると」
『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)はピカレスク・スマイルを浮かべた。
「……成程」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)もまた、世界の裏を見てきた者だった。
「情報屋さんから伺った様子だけで、早々に保護しなければという感じになりますね子供達。
悪い大人に捕まっていてはそれも難しいですから、悪い大人の方をまずは何とかしてしまいましょうか」
「まあ、ベンとかいうのは、賞金目当てか他に思惑があるのか……どちらにしても頭の出来はよろしく無いようで」
 ウィルドは笑みを深めた。
「いえいえ、私も幻想の悪徳貴族。子どもたちを道具にすることに文句はありませんが、これは笑える話ですね。
道具を使いたければ、その道具より賢くなければ振り回されるのがオチですよ?」
 清濁併せ吞み、貴族社会を渡り歩いてきたウィルド。
 ウィルドからしてみれば、ベンとかいうのはよほど小物だった。

●扉が閉まる
(……さっき『みんな』つったか?)
 『社長』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)の勘は、いくどとなくキドーを助けてきた。
 なにかある。
 ふいに、歩みを止めた。足音はもとからしなかった。
(妙だな……ちょいと、探ってみるか。悪いな、ここは任せたぜ)
「……」
 瑠璃もまた、何かあることを察した。瑠璃であれば壁を抜けられる。静かに気配を殺し、身をひそめた。
「ええ、お任せください。珠緒達6人でお友達を助けてみせましょう」
 珠緒に見つめられた子供たちは、魔力にとらわれ、いなくなった二人に気が付かなかった。
 シューヴェルトが入るまで、子供たちはじっと行動をうかがっていた。不自然に緊張している。
 罠だ。
 そう知りながらも、イレギュラーズたちはあえて誘いに乗る。そうすることが、救出への糸口になるはずだった。
 狩るものはまた、狩人の眼を持っている。
「暗いな」
 ベルナルドはシューヴェルトと視線を酌み交わし、それぞれに明かりを持つ。巧みに、一部を暗闇に保ったまま……。
「危ないから、チャル君とミトちゃんは下がっててね」
「あ……」
 はりきって乗り込む蛍に、子供たちはためらいをみせる。
「ナッタ君、助けに来たわ! 返事をして!」
 廃工場に入った瞬間、扉が閉まる。
「ごめんなさいっ……ごめんなさい」
 木箱を崩し、現れた魔物の群れに、イレギュラーズたちはこの罠の全容を察しただろう……。それでも、反射的に子供たちをかばうように立つ。

「だいじょうぶ! メイ達が来たからには『みんな』無事にここから返してあげるです!」
「……え?」
 あえて大きな声で、メイは言うのだった。
 まるで、「裏切り」なんてなかったかのように――イレギュラーズは、まだ味方だった。
「お友達は……今は別の場所なのですね。怪我も心配ですし、急ぎ蹴散らしましょう」
 珠緒が鋭く踏み込むと、あたりが、紫を反射する。終焉の帳は子供たちを傷つけることはなく、彼らを守るカーテンとなった。
「友達を助けたいっていう子供の純真な願いを守るのは、ボク達大人の役目よ!」
 怒りに任せてこぶしを振り上げるラースドールは舞い散る桜に進路を阻まれる。
 ベルナルドは、蒼穹の絵筆を走らせる。オルフェウス・ギャンビットが自らを鼓舞する。
(子どもたちは幾らか見どころがありますねぇ)
 保身に走るではなく、まずまっさきに仲間を見た。
 ウィルドじろりと、彼らを見て、評価していた。
 子供たちは、根っから悪というわけでもないようだ。
(……悪党として生きる以外の道が無い、という話は何処にでも転がっていますが、性根は腐っていないようで)
 言い訳はいくつもあっただろう。じぶんのせいではない、と声高に言い、腐った大人も幾度となく見てきた。
「さて、そこの少年たち」
 苦境にあって一切動じず、それどころか笑みを浮かべるウィルドに、子供たちは反射的に思ったのだ。
 悪には、上には上がいる。
 自らの策は筒抜けだった。そして、これから、始末されるのだ……と。
 どくり、鼓動があたりに響き渡る。
 けれどもその殺意は、彼らをかすめることはなく、魔物を引き付けていくのだった。
「え?」
「離れなさい。死にたくなければね」
(既にドジを踏んで賞金首になっている当たりはマイナスですが、ここからどう生きるのか……ま、その見物料代わりとして、少々骨を折って差し上げましょうか)
「クククッ、まあ精々足掻いてくださいな。私はあなたがたの選択を見物させてもらいますのでね」
 人を見かけで判断してはいけないよ。
……みたいな教えを、思い出した。
 実際のところ、ウィルドは相応の悪人ではあったが、それ以上に、この場においては確かに力だった。自らの望みをどん欲なまでに引き寄せる、悪。
 塗りつぶす黒は、かすれた黒などものともせずに塗りつぶすのだ。
 シューヴェルトが閃かせる赤い刃は、どこか不吉で、けれども太刀筋はまっすぐだ。シューヴェルトは呪いの力を一点に集め、それを返すように、敵を薙ぎ払う。波が引くように、敵がおののいて一歩下がった。
「痛いのは辛い、ですから」
 メイは、それを分かっている。
 ルリルリィ・ルリルラ。
 メイの声は、子供たちにも響き渡った。
 それは、悪手なのかもしれないけれど。
 なにやら仕組まれているのかもしれないけれど。
(知らないです。だって、『魔物に襲われている子供たちを助ける』為に来たんだから。助ける行動は何の問題もないです)
 シューヴェルトの美しい剣舞が、ラースドールを押しとどめる。悪しきもののみを討ち滅ぼす刃は間違いなく敵だけとらえて打ち砕いていた。
 二人は、魔物以上に、誰かを気にしているようだった。
 3人目だ。きっと、3人目がいるのだ。
「レシプロおじさんがキミ達に会いたがってるの。養子にならないかって。悪い魔物はすぐやっつけて、3人で元気な顔を見せてあげましょ!」
 蛍が、励ますように言った。
「っと、やせ我慢は健康に悪いですよ?」
 ウィルドのデア・ヒルデブラントは、弱っていた一体を的確に斬り裂いた。回復のチャンスを与える間もなかった。
「あっ……」
 イレギュラーズの手助けをしようとか。積んでいた荷物を崩そうとしていた子供たちを、魔物がその範囲に収める。
「下がってもらおう」
 ベルナルドが喰らわせたショウ・ザ・インパクトが、魔物を吹き飛ばす。

●バックドア
 いっぽうその頃――。
 戦場とともに、同時進行していた、舞台の影。
 ひそかにその場を離れた「六人」ではない者たち。
 つまり、隠密にたけた瑠璃とキドーだった。
「アイツらの実力なら魔物もガキも対処できるだろう。
何も無ければそれでヨシ。ついでに仲間とガキの退路も確保できるだろうさ!」
 というわけで、キドーは倉庫を回り、鍵を外から開け、ついでにちゃっかりと設備を調べていた。
 壁に張り付いた瑠璃は、頃合いを見てそっと壁を抜ける。……仲間たちが作った視覚。それから、珠緒の魔眼がそれを可能にした。
「おっ、来たか。組織的な罠ってわけじゃなさそうだな。この場に限って言えば、敵は個人だな」
 つまり、しくじりでもしたとすれば……その後には関与してきそうでもない、ということだ。
「あの子たちは、やはり、誰かを気にされています。ウソとも思えませんでした。おそらくもう一人いるのでしょうね。本当に」
 忍ばせたファミリアーの視線をたどるために、瑠璃は目を閉じた。
「どうやら俺らはハメられたようだが、果たしてあのガキ二人だけでやったことなのか
鬼が出るか蛇が出るか……って、オイオイ」
「あのあたりでしょうか」

(なんだ、まだ終わらないのか)
 ベンは戦場の音に耳を傾けていた。まるで指揮を執るように耳を傾け、一服する。ベンは気が付かなかった。影が忍び寄ってくることには……。

●助けて、の声にこたえて
 ワールドエンド・ルナティックが、ヘイトクルーを蹴散らしていく。
 ベルナルドの紫は、また違う終焉を描いている。
 この戦いでは、早期の決着が必要だ。
 子供たちの前に立ち続け、かばい、傷を作る蛍。けれどもその心は折れなかった。
「いくら体を傷付けても、心まで堕とすことはできないのよ……!」
 愛する友への想いが、蛍の鼓動を動かし続ける。
「メイがついてます、大丈夫」
 叫んだ意地に、メイが星々の瞬きをちりばめる。
「昔見た空みたい……」
 子供たちはくっついて、その輝きに嘆息した。
 研ぎ澄まされた珠緒の放つ、神滅のレイ=レメナー。ふり絞った魔力がラースドールをのけぞらせる。
「メイが倒すのは、悪い敵さんだけです」
 メイの神気閃光が瞬いて、ヘイトクルーを打ち滅ぼした。
 刀を上段に構えたシューヴェルトに、ヘイトクルーが群がっていった。
「……剣のみが騎士の武器と思ったか?」
 貴族騎士流蹴技『蒼脚・堕天』。とびかかるヘイトクルーを蹴り砕く、その一撃は積み荷を崩した。
 亡霊の怨嗟の声。聞きなれた声だ。シェヴァリエ家の運命――幾度となく乗り越えてきたのだ。

●バックドア・2
 隠密行動ならば、瑠璃に分があるだろう。
 キドーはそう見積もっていた。
 適性を見極め、シゴトを振り分けるのも上に立つもののつとめ……。
 恐ろしいことに、とびかかるまでに一切気配がしなかった。
 闇から生えてくるかのように、瑠璃は姿を現した。瑠璃はキドーに合図すると、一瞬で距離を詰める。
「がっ、あが……」
「悪いな、縄は落ち着いてから切ってやるからよ!」
 現れたゴブリンが軽々と荷をくすねるように少年を抱え、ひとたび跳躍すれば安全な場所へと逃れている。
「貴様……!」
 ベンは水たまりに足を取られ、無様に転んだ。
「くそ、なんだこれは!」
「祈りが足りないんじゃないか?」
 キドーにとってそれは慎重に配された、再現性のある幸運である。フーアたちは残忍だ。性質は邪悪そのものだ。
「さて、どっちに進むんだ?」
「う」
 追い詰められたベンは、苦し紛れに聖句を紡ぎだす。
 交差点には、十字路の女妖精が現れるという。助けの手は、意外なところから……ベンの背後から現れた。
「あがっ!?」
 倉庫の壁ががらがらと崩れた。シューヴェルトの蹴りが、ちょうどその位置だったのだ。
 鈍る動きながら、這い出すように逃げ出そうとする。
「よそ見をしている暇がありますか?」
「ああ、こっこ、殺さないでくれ!!」
 瑠璃の思考を読んだベンは、一転して情けない悲鳴をあげた。いのちだいじに……そうふるまってはいるが、それは手本にしている人格者の真似であって、本心はもう少し酷薄だ。
 死んでしまってもいいと思っている。
 それは、ベンが悪人だからではない。子供たちに対してもだ。
 むろん、全力は尽くすだろう。けれどもそれでも取りこぼすものがあると、瑠璃は知っている。
 子供たちも目の前の男も、死んでしまったら仕方がない、その時はその時。
 少年は、もちろん本気でとは言えないが、ある程度、覚悟していた。酷いことをしたなら、されることもある。だから、それに恐怖を駆られたのは男のみだった。
 圧倒的な速力が、暴力となって男を襲う。
 捕縛が目的、ではあるが……。
「おっそろしいこって」
「すみません、これくらいしかできませんが」
 もふり、と手首のところに何かが触れた、かと思えばそれは奇妙なぬくもりを持った生き物だった。自在絡繰・黒貂が、縄をかみ切った。
「傷をいやす手段は私は持っていませんので、なんとか我慢して向かって頂けると助かります」
 子供は、涙をこらえてうなずいた。

●大切な仲間
 ヘイトクルーが崩れ落ちる。残り3体。それよりも、うれしい知らせが舞い込んできた。
「三人目に手が届いたようだな」
「もう大丈夫ですね、よく頑張りました」
 メイは微笑み、幻想福音を奏でる。
「あ、逃げようとしてるです」
「逃すものか」
 戦車の様に、アームズ・オブ・レギオンが駆けていった。呪いの力を武器に集中させ、貫く。
「……まあ、やりすぎても、手段には事欠きませんから」
 瑠璃のそれもまた、本音である。
 ベンは人の心を読める己の特技を――これほど後悔したことはなかった。
 シューヴェルトの形なき呪詛の刃が、ベンを打ち滅ぼす。
「お友達思いのとってもいい子達ね。
きっと幸せになれるわ」
 蛍は、抱き合う子供たちに微笑みかけた。

●終わりよくして
「よう、しょっぱい悪事やってんなあ」
「ひ、ひ、ひい……」
 すっかりしおれたベンの肩に、キドーがぽんと手を置くのだった。
「俺はお前の所業は軽蔑するが、お前の能力には興味があるな」
「……。は?」
「うちの会社に来ねえか?」
 言葉を失ったベンは、聞き返す。
「なんだと?」
「これは勧誘じゃねえよ、脅しだ
来ないならお前の命なんてどうでもいい。今更新皇帝派に戻っても居場所ないぜ」
 たしかに、そうだ。貸し渡された魔物をすべて失い、そして、何も得るものはなかった。
 戻るも地獄。進むも……。
 ベンの運命はすでに尽きている。あとはもう転がり落ちるだけだろう。

「いたくないいたくない、です」
 メイは、改めて子供たちに向き直り、治療をしていた。冷えた手を包み込むようにして、あたためる。こんどはミトはぎゅっと黙って、それを受け入れてくれた。
「生きるために、やりたくない事をやるのは終わりです。これからの事を考えましょうですよ。アナタたちを心配する、おじさんがいらしたですよね?」
「レシプロ、おじさん?」
「『うちに来なさい』の一言を躊躇ったこと、酷く後悔されていましたよ」
 珠緒は優しく言うのだった。
「でも……」
「きっと、大丈夫」

●後始末とその後
「これからも俺みたいなローレットの芸術家を、トラブルシューターとして頼りたいんだろう?
いい返事を待ってる」
「……なるほどな」
 鉄帝貴族ロッセリーノは頷いた。たしかに、悪い話ではない。新皇帝派を倒すにも、人手が必要なところだ……。

「いやー、思いがけず出世しましてな!」
 と、レシプロおじさんは笑っている。
 ベルナルドの働きかけで、鉄帝貴族ロッセリーノ家の現当主が雇いたいと申し入れ、なんと護衛にまで出世したそうである。
 珠緒の口添えで、有力な軍人の後押しも決め手になったらしい。
 少しの間だけで年頃くらいの体格をもち、十分に背の伸びた3人が、イレギュラーズたちをひそかに応援しているそうである。ミトは将来はメイのように手当てができる人になりたいと意気込んでいる。
 三人曰く、「悪にはもっと上がいて、あれにはなれない」と口をそろえて言うのだった。ウィルドのことを思い浮かべ……。
「よかったですね」
 心からそう言える蛍が、珠緒は好きだった。
……彼らにかけられた懸賞金はベンのものになり、そしてベンは行方が知れないが、よく似た男がキドーのもとで働いているという。
 ベンのその後のことは社長が知っているだろう。

成否

成功

MVP

志屍 志(p3p000416)
遺言代行業

状態異常

なし

あとがき

少年少女の保護、お疲れさまでした!
無事に暖かいスープで腹を満たしながら、ときおりイレギュラーズごっこにあけくれているようです。

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