シナリオ詳細
<咬首六天>カルネとからっぽビスクドール
オープニング
●可愛い可愛いビスクドール
カルネは可愛いんだから。
カルネは可愛くなくちゃね。
カルネは可愛い子だから。
カルネは可愛いから。
カルネは――カルネは――カルネは――カルネは――カルネは――。
お姫様みたいに飾り付けた大鏡に、ドレスを着た自分が映っている。
口にうすく紅をひいて、お姫様みたいな化粧を施した自分がいる。
キラキラした指輪やネックレスをつけた自分がいる。
そんな自分を見て、母は言う。『ほら!』と。
自分がどう返すかは決まっていた。そっけない態度をとれば無視される。嫌がれば嫌われる。だから一つしか無いのだ。
「うん、すごく……『うれしいよ』」
●大きな世界の中の、小さな村の中の、大きな大きな――
森の上を人を乗せた大型のワイバーンが羽ばたいている。
深く雪の積もった鉄帝の田舎町を馬だの馬車だので通り抜けることは難しい。当然人の行き来も制限され、孤立した村はそこにある備蓄だけで冬を乗り越えるというのが一般的なのだ。生まれつき空を飛べる者もそれはいるだろうが、トン単位の荷物を抱えて雪の中を飛べば最悪死に繋がるだろうし、何十往復もさせても同じことだ。
結論。鉄帝の雪は人を閉ざし、そして時に殺すのだ。
「特に今年の雪は酷いからね。過去に例を見ないほどなんだ。大規模派閥ですら急な対応を余儀なくされるくらいなんだから……小さい地方の村は、ね……」
カルネ(p3n000010)はそれ以上の言葉を濁し、苦笑してみせる。
「今から行くのは、僕が生まれた村なんだ。距離的にも北辰連合が近いし、もてるだけの物資と貴重品だけもって避難して貰おうと思って」
こうした活動はあちこちでみられている。
ただでさえ生きるのが難しい鉄帝の冬が、未曾有の大寒波によって圧倒的な危機感をもたらしたためだ。
吹雪が強く雪が深くなれば避難も不可能になり、待っているのは餓死か凍死。そうなるまえにと焦る気持ちは、やはり誰にでもあるのだろう。
暫くすれば森の中に開けたエリアが見え、木造の家屋が並んでいるのが見えてくる。
あそこだよとカルネは言って、仲間達と一緒に降り立った。
「まあ、カルネ! 久しぶりじゃないの」
歳にして50台ほどだろうか。顔に皺のある鉄騎種の女性が小走りにやってくる。
そしてカルネの頭に積もった雪を手で払うと、肩をぽんぽんと叩く。
「ちゃんと食べてる? あなた都会に出て行ってから連絡もよこさないんだから。もう」
苦笑するさまをみて、同行していた三國・誠司(p3p008563)はハッと目を見開いた。
とても……とてもよく似ているのだ。
カルネが苦笑したそのさまに。
「あ、あの。もしかして……カルネのお母さん?」
「そうなの!」
カルネをくるりと前後反転させて、女性は誠司たちのほうを向いた。
「カルネの母、ブランディーヌよ。うちの子がいつもお世話になってます」
「母さん、今日は――」
「外は寒かったでしょう? さ、中に入って。お話を聞くわ」
何かを話そうとしたカルネの肩を両手でぎゅっとおさえると、引っ張るようにして家の中へと連れて行く。
誠司は仲間達と顔を見合わせたが、事の次第はすぐにわかった。
「あんたたち、シャノワールさんの知り合いかい? 全員が軍の人ってふうには見えないが……」
毛糸の帽子を被っていた男が話しかけてくる。鼻の赤い、素朴な雰囲気の農夫といった男だ。ふと見ると、他にも何人か男性が外に出ていて、建物の窓からはこちらをうかがう気配がした。
きっと村に訪れた人間が何者か気になったのだろうと、誠司は思う。何せこの世情だから。
「僕たちはローレットから来たんだ。カルネくんがローレットにいるのは……?」
知っている? というニュアンスで返事を促してみると、男は小首をかしげた。
「ローレット? はあ、そうなのか……」
あまりピンときていない様子で他の男と顔を見合わせてから、ワイバーンへと目をやった。
「その動物は空飛ぶ馬かなにかかな。私達がみておくから、君もシャノワールさんのところへ行きなさい。あの人はこの村のまとめ役をしているから」
そう言われて、やっと『シャノワールさん』がカルネの母のことを指しているのだと気付いた。
ありがとうございます、ワイバーンを頼みます。そんなことを言って、誠司たちは家へと入っていった。
●いと愛らしき呪縛
ローレットの仲間達。つまりは『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)たちはカルネに雇われたいわば『護衛』であった。
皇帝が敗れバルナバスが新皇帝となったこの鉄帝国はどこにいても危険がつきまとう。実家の村に避難を呼びかけに行くと言うだけでも、それはやはり危険なのだ。
カルネが、趣味が合って仲の良いイーハトーヴに声をかけたのも、それが理由だったらしい。
「お邪魔します……」
「さあ、どうぞ。いまお茶を入れるから。座ってちょうだいな」
誠司たちと共に家の中に入ると、すぐに温かい空気がイーハトーヴを包んだ。
家の中はどこかほかほかしていて、可愛らしい食器と質素なテーブル、壁に飾られているのはどこか不格好な人形。どこにでもある家庭の様子に、イーハトーヴはほっとした気持ちになった。
暫くすると、ビスケットとジャムを載せたトレーとティーセットが載ったトレーを片手で器用にもってブランディーヌが現れる。
「さあどうぞ。こんなものしかなくてごめんなさいね」
苦笑を浮かべるブランディーヌに、素直にお礼を言ってお茶をもらう。赤くて色の濃いお茶だ。紅茶の一種なのだろうが、ちょっと複雑な味がする。イーハトーヴの知らない銘柄なのだろうか。
カルネはお茶にぎこちなく口をつけてから、音を立ててカップをテーブルに置く。
「母さん、あのね――」
「みんなカルネの仕事仲間、なのよね? うちの子が迷惑かけてないかしら。カルネったらちょっと抜けてるでしょう?」
カルネの言葉を遮るように話し始めるブランディーヌに、イーハトーヴは『いいえそんな』と社交辞令めいたことを言ってみた。
そして、カルネの様子をうかがう。
「あの――」
「カルネどうしたの、そんなごわごわしたジャケットなんか着て。可愛い服いっぱいあげたじゃない。今住んでるところの住所も教えなさいね。今の丈に合う服を送ってあげるから。あっ、そうだわサイズを測り直さなくちゃね。首都に可愛いお店ができたの、そこのね――」
「あの、母さん!」
カルネが声を荒げた。
そんな彼を、イーハトーブは見たことが無かったし、誠司も初めて見た。
そりゃあ、鉄帝のへんな地域でおかしな依頼を受けたときは大声をあげたものだけれど、それはそれで一緒にものを楽しむためだったように思う。こんな、切り詰めたような、泣き出しそうな、それでいて……恐れているような震えた声を、あげたことはなかった。
「どうしたの? カルネ、さっきから話は聞いてるじゃない」
ブランディーヌがカルネの顔を覗き込むように言う。
「言ってごらんなさい。どうしたの?」
「えと……」
「もう、すぐそうやって黙っちゃうんだから。わかった、あれが食べたいんでしょう。ジェリービンズ、昔っからずっと好きだったもんね。ちゃんととってあるのよ。わざわざ毎年取り寄せてるんだから。なのにカルネったら何年も帰ってこなくて。ねえ? この子こういうところがあるのよ」
またブランディーヌが饒舌に話し始めたところで、カルネは勢いよく立ち上がった。
そして、ブランディーヌから目をそらしながら言う。
「ここは、冬が、その、雪が……深くて。今までより、ひどいから、みんなで。あっ、僕はね、鉄帝の北辰連合って所にいて、そこはあの、ヴィーザル地方との境があるよね、そこに大きい派閥があって、備蓄もあるから、あの、皆で」
カルネの、これまで見たこともない様子に仲間達が不思議に思っていると、ブランディーヌがハアと大きなため息をついて肩を落とした。
対照的に、びくりと肩をふるわせるカルネ。
「カルネ? 言いたいことはハッキリ言いなさい。けどわかった。あなた北辰連合『なんか』にいるのね」
「違うよ。母さん。僕は、ローレットに……」
「は、嘘ついたの?」
「違うんだ、ローレットから、北辰連合に、その出向っていうか、派遣、みたいな」
「わかった。『ローレット』ね。そんな所にいるからまだそんなビクビクしてるんだわ。仕方ないわねえ。あなたちっちゃい頃からそうだったんだもの。だから一人暮らしなんて無理よって言ったのよ。なのに急に召喚なんかされて……あっ見て、あの子凄くぶきっちょなの。けど私と一緒ならちゃんとできるのよ」
ブランディーヌがイーハトーブたちに訴えかけるように、壁に飾られた不格好な人形を指さした。
「カルネ。そんなところ辞めて帰ってきなさい。グロース将軍も首都に住居を作ってくれるって言ってるから」
「……は」
カルネから表情が消えた。
「グロース……将軍……?」
「そうなの。将軍はいいひとよ。私だって軍隊に居た頃はすごくお世話になったんだから。それに新皇帝派閥は最有力派閥なのよ。ママもそこで働けることになったの。だからカルネも――」
饒舌に、そして有無を言わさぬような圧力で話し続けるブランディーヌ。
カルネはうつむき、自分のつま先だけを見つめたまま、小刻みに震えていた。
そして両隣に座って居たイーハトーブと誠司にだけ聞こえるほど小さな声で。
――『いやだ』
と言った。
「あっ、カルネくんのお母さん! 僕たち用事を思い出しちゃいました」
誠司があえてへらへらとした笑みをうかべて立ち上がり、カルネの手を取る。
イーハトーブも立ち上がり、他の仲間達も何かを察した様子で席を立った。
「また来ます。お茶、ごちそうさまでした」
そしてどこか強引なほどにカルネの手を引いて家の外へ出て……そして、誠司が立ち止まったままなことに気付いた。
「悪いが、あんたらを帰すわけにはいかんよ」
毛糸の帽子を被った、赤い鼻の男がライフルをこちらに向けていた。
見れば、何人もの武装した男達がこちらに銃を向けている。
「あんたら、ローレットだろう? グロース将軍に刃向かってるっていう。困るんだよ、そういうことをされると」
「儂等にも生活があるんだ。悪いが、捕虜にでもなってくれるかね」
「捕虜ですって?」
後ろでブランディーヌの声がした。
席から立ち上がり、壁にかかった銃をとる様子が見えた。
「そんなんじゃだめよ。殺しましょ。うちの子は殺しちゃだめよ? カルネもそんな子達に影響されて……少しは目が覚めるでしょ。全員、いい?」
「「ハッ、少尉どの!」」
村の男達が一斉に声をあげる。
不気味なほど揃った、そして冷徹な声だった。
「カルネ以外、全員を抹殺します」
- <咬首六天>カルネとからっぽビスクドール完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●人形劇の外側で
猟銃や農具といったさしたる殺傷力を感じないような武器が、しかし冷徹かつ適切に握られ、向けられている。
自分達を囲む集団の目には迷いは無く、徹底して訓練された兵士のそれであった。機械のように、あるいは人形のようにだ。
「カルネ以外、全員を抹殺します」
毛糸の帽子を被った、鼻の赤い老夫。彼は猟銃の狙いをぴったりとつけ――そして発砲した。
「っつ――!」
『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)の反応は早い。割り込むように飛び、バットを振り込む。銃弾が弾かれ、はるか遠くへと飛んでいく。
立派な子供。立派な大人。そんな言葉はもう沢山だ。
だから、あえて笑顔で言ってみた。
「これは完ッ全にアウェーな感じ? 右も左も、バッチリ押さえられちゃってるじゃん」
「だ、ねえ……」
『一般人』三國・誠司(p3p008563)はカルネの手をぎゅっと握ったまま周囲を見回すと、家から出て扉をがちゃんと閉めるブランディーヌ・シャノワールへと振り返る。
「カルネくんのお母さん……いや、お義母さん」
冗談めかして、そんな風に切り出した。
「確かにローレットはロクでもない奴がおおい。カルネくんをカルネくんするし、上半身に蜂蜜ぬったりもする! けどさ」
僕もだいぶ関わったしね。と肩をすくめて見せて。
そして、背負っていたキャノンを脇の下を潜らせるよに素早くブランディーヌへ向け発砲した。大砲のクイックショットという、なんともいえない神業である。
「カルネくんの頭の上にほこり被らせるようなことはしねぇよ」
爆発。と同時に誠司は走り出す。
「母さん! せ、誠司、これって――」
戸惑う声をあげるカルネ。いつもは並んで走ってくれる彼の手は冷たく、そして足取りは弱々しかった。
そんな彼を引っ張り、叫ぶ。
「この手は離さない! 嫌だと言ったその気持ちに応えるのが僕らってもんでしょ!」
「そーそー、こんな時でもホームに生還るのがイレギュラーズだよな!」
並んで走る洸汰。
包囲の脱出はかなり強引な形になったが、その方がずっといい。
『オフィーリアの祝福』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は行く手を阻もうと農具を握り立ち塞がる男達めがけて手を突きだした。
はめた指輪が、マントイド・ガーネットがきらりと光る。
光は雪深い村の風景を照らし出し、地面の雪に反射してイーハトーヴを包み込もうとした。
「そこをどいて……!」
突き飛ばすように払った手は、光を無数の糸に変えて男達を払いのける。
(何でこんな風にカルネくんを傷つけることができるの?
俺達を殺して、カルネくんを傍に無理矢理縛り付けて、一体何が得られるって言うの?)
ブランディーヌの考えがわからない。
仮に、仮にだ。カルネがブランディーヌにとって『人形』だとするなら、だとしても深い愛情と対話があってよかったはずなのだ。
それは人形に囲まれ、その声に触れてきたイーハトーヴだからわかることである。
しかし同時に、イーハトーヴは知っている。
この世には棚に押し込めたままホコリを被り続ける人形や、決して愛されない人形も存在することを。そしてその、理由を。
「この場でカルネくんを守れるのは俺達だけ。ここで、殺されるわけにはいかないんだ」
包囲こそ脱することができたが、流石に相手のホーム。ワイバーンがどこに繋がれているかハッキリとはわからない上に、巧みに近道を使ったり材木を倒したりといった妨害をしかけてくる。
一目散に走ればよいというわけでは、どうやらなさそうだ。
「ははぁ。これはあれだね、毒親ってやつだね。
もしくは優しい虐待かな?
子供ってやつは人形じゃないんだよね。
親の役割は、子を見守り、そしていつか子離れすること……らしいね。しらんけど」
『乱れ裂く退魔の刃』問夜・蜜葉(p3p008210)は日に公家に微笑むと、『夢幻珊瑚』という脇差を抜いた。赤い珊瑚から削り出されたというそれは、刀身に美しい紋がはしっている。
もう一振りである『碧玉雪華』は、まだ抜かない。
対峙しているのは馬にのって迫る村の女だ。
回り込もうと走らせる馬の足を刀で素早く斬り付けると、女はそれを察したかのように馬から飛び降り素早く転がる。そして大きな鉈を握って斬りかかってきた。
どう見ても、ただの村人ができる動きではない。
「ブランディーヌ少尉の教育は正しいのですよ。部外者のあなたに何が分かるっていうのです」
「まぁこっちも分かってもらえるなんて思ってないよ。
こんなところにカルネさんを置いてはおけないし、私達だって殺されてはやらない。それだけ」
だよね? そう問いかけるように仲間にアイコンタクトを送ると、赤く鋭いナイフが女の頬をかすめた。
かすめただけで済んだのは、咄嗟に彼女が後方に飛んでよけたためである。
飛んできた方向へと目を向けると、『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が手をかざし立っている。
指先からは血が垂れ、それが固まり新たなナイフを作り出した。
「素敵な村だと、思ったんです。カルネさんが故郷に連れてきてくれて、きっとお友達になれるだろうって……」
マリエッタの金色の目に、うっすらと紅の光がはしる。
「殺してしまったら、きっと恨むでしょうね。恨まれるなら、きっと縁の浅い――」
瞬間。矢が飛来する。
マリエッタへ直撃するコースだったそれを、『魂の護り手』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)が彼女を突き飛ばすように抱えたために回避した。
「縁、薄い、違う。もう、仲間」
シャノはマリエッタを引っ張り起こし、翼を広げて浮遊を始める。
「それに、見て」
シャノがちらりと顔を向けた先。誠司に引っ張られて走るカルネの表情は冷たい。
まるで感情が抜け落ちたかのように、とても希薄な表情をしていた。
「カルネ、心配。大丈夫?」
シャノとて、カルネのことを知らないわけじゃない。自分の経歴を確認してもらう時に多くの人が一度は触れる『窓口のカルネくん』なのだ。すぐにやってきて彼の書いた経歴書をにこやかに受け取ったカルネの姿を、覚えている。
あのときのカルネと今のカルネは、まるで別人だ。
「ブランディーヌさんが、カルネさんのことをどう思っているのかなんてわかりません。けれど……」
『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)は首にかけていたヘッドホンをかけなおすと、抱えていたギターの弦を弾く。
「どうしても……作品とでもいえばいいのでしょうか、人として見ていないように感じました」
わたしに力があれば、この手で直接ぶん殴ってやってるのに。
涼花は怒りのような、憤りのような、そんな感情を音楽へと乗せた。
「カルネさんは、モノじゃない」
涼花の音楽は仲間達の気分を鼓舞し、走る足取りを速めた。
そんな中で。
「何も分かってない。分かっちゃない」
村人達。そして誰より追いかけるブランディーヌへ向けて『崩れし理想の願い手』有原 卮濘(p3p010661)がわざとらしくため息をついた。
舞台役者のように、それこそ芝居がかった動きは見る者の意識を引きつける。
「アンタは何のためにカルネを産んだ。可愛がるんだ。
もしかして、愛? 愛か。ああそうだねー、愛。それに少し訂正すると"自己愛"な。
つまらん。じーつーに、つまらん。
オマエの"欲"は実にありふれている。
理想の人形が欲しいのならば、産まずに作るべきだったな。
それじゃさーて、『ローレット』の側に属する私だから敢えて言おう」
チラリと空を見上げる。
シャノがワイバーンを繋いでいる場所を空から見つけたらしく、その方角を指さしていた。
そちらの方向にこれみよがしに歩き始めようとして、手を目立つようにかざす。
「アンタら、将軍『なんか』の元についてて……バカジャネーノ?」
挑発する卮濘。カッとなってか遅いかかった村人にカウンターをしかけるように、『エクスプロード』の魔法をぶっ放した。
「ここじゃ私らは"プレイヤー"! 外なる意思により動く文字通りの異物達(イレギュラーズ)ッ!」
止められるもんなら止めてみなと叫び、卮濘たちは走り出す。
●からっぽの代替品
『ドールマスター』ブランディーヌ。
その二つ名は、兵を躾けることにかけては天才的な彼女の功績を称えてつけられたものである。
彼女の指揮する兵は感情までもをコントロールされ、まるで人形の軍団のごとく死をも恐れぬ軍団となる。
そんなブランディーヌにとって、思い通りにならなかったことは少ない。
より厳密に言えば、自分の思い通りに躾けられなかった人間は少ない。
出世のために婿にとった名門の男がいたが、その夫に愛情らしい愛情はわかなかった。
だが結婚を後悔したことはない。充分に得があった。
だから夫を充分に躾けて、厳しい戦線を転々とさせることで消費して……夫の殉職によって入った金の額は、ブランディーヌを充分に満足させるものだったからだ。
そんな彼女の心残りは、若い時代を軍で過ごし青春などというものは凍った泥と血にまみれて消えたことであった。
だから充分な蓄えを得てからは田舎の村に居を移し、送れなかった青春を送ることにしたのだ。
……といっても、今から20台に戻ることなどできない。ゆえにブランディーヌはその青春を、自らの子供であるカルネに送らせることにしたのだった。
カルネを可愛らしく着飾り、可憐で淑やかな子供に育てる。純朴な精神が養われるように、カルネが物心つけるまでの間に村人全員を『躾ける』ことも忘れなかった。
丁寧に育てて、丁寧に実らせて。そして青春を送る彼を見守る――その前に、カルネが召喚され、そして帰ってこなかった。
「私はあの子を愛してる。だってそうでしょう? 青春を送れるように、可愛く可愛くなれるように、ここまで躾けてあげたんだから。私はあの子を『愛してあげた』のよ」
●ドールマスター
村人達を振り切ることは、難しくなかった。
「哀れなる人形に逃げ道を拓けよ賽子! ぶっ飛べぇぇぇ!!!」
卮濘がパンチを繰り出すと、魔力砲撃が放たれ村人たちを吹き飛ばす。
涼花もギターの音色に強い意志を乗せ、ダメージを受けた仲間の回復につとめる。
兵士のように躾けられたといっても戦える人間の数は限られ、素質もそれほど高くない。
涼花は周囲を見回し、大半の村人が追いついてこないことを察した。
「あっち、ワイバーン、いた!」
シャノの呼びかけの通り、村はずれにリトルワイバーンが縄で繋がれているのが見えた。
急ごうか。卮濘がクールにそう言いながら足を速めた――その時。
ドッという爆発めいた音が響き、近くの建物が内側から吹き飛んだ。
いや、爆発などではない。建物の中からホワイトギルバディアが飛び出してきたのだ。
「下がってください! 危険です!」
涼花が素早くカウンターヒールを発動。
奏でる音楽に緊迫の色が滲む。
建物の中にはまだモンスターが収納されていたようで、ラタヴィカやフューリアスといった霊魂型のモンスターが次々に飛び出しては襲いかかってくる。
「私はギルバディアを」
マリエッタは素早く反応し、こちらへ突進をかけてくるホワイトギルバディアへと構えた。血でできたナイフが三本。右手の指の間に挟むように握られたかと思うとそれを一斉に投擲する。
「ここを食い止めるのが、私の役目です……!」
「オレ、いつも通りに見える?
でも実は、今めっちゃムカついてんだー。
なんでオトナってのは、子供を支配しないと気が済まないんだろうな?
……オレの国と一緒じゃん、あんなの」
ラタヴィカやフューリアスをバットで殴りつけて破壊すると、洸汰はカルネへと振り返る。
「良いんだよカルネ、相手がオトナでも親でも、嫌な事はイヤって言っちゃって。
今日から反抗期になったっていーじゃん。声で言えなくたっていい。全力のノーを、思いっきり叩きつけてやれって!」
「洸汰……」
カルネは青ざめた表情のまま小さく頷くと、振り返る。
馬を使って追いついてきたブランディーヌへと。
「カルネ、戻ったら、少し、ゆっくり、考えよう。
みんな、きっと、力、貸してくれる」
シャノはカルネにそう呼びかけると、飛び上がってナイフを構えた。
シタシディに伝わる伝統的なナイフは、獲物を的確に刈り取る牙となる。
が、それはブランディーヌの突撃銃に弾かれる形となった。
「――!」
シャノほどの攻撃をしのげる相手がいるとすれば、それは相当な強者だ。
気をつけて。そう仲間達に呼びかけながら連続して斬りかかる。
そこへ共に攻撃を仕掛ける蜜葉。
飛び退き銃撃をしかけるブランディーヌだが、その攻撃を受けながらも的確に距離を詰め蜜葉は『碧玉雪華』を抜刀。美しい二刀流の剣術によってブランディーヌを押さえ込む。
対して。
「カルネ、止まりなさい。『命令』よ」
ブランディーヌが鋭く呼びかけると、カルネの足がぴたりと止まった。
「カルネくん?」
手を引いても動かないカルネに振り返る誠司。
カルネは首を横に振って、引きつるような笑顔を……誠司たちに向けた。
「ご、ごめん。僕……ここに残るよ。皆は、逃げて」
「――!」
許せるわけが、ない。
誠司は歯を食いしばり、そしてイーハトーヴもくるりと前後反転し、ブランディーヌたちへと全力の攻撃をしかけた。
「カルネくんの生き方はあんな風に決められるべきじゃない
それに、そんな顔はカルネくんには似合わないしね」
「大丈夫だよ。今はそんな風に思えないかもしれないけど『大丈夫』にしてみせる」
誠司とイーハトーヴが、心からの笑顔をカルネに向けた。
「一度俺達と戻ってさ、それで、これからのことを一緒に考えようよ。
ゆっくりでいいし、勿論無理もしなくていい。
君の話を、君のペースで聞かせてくれたら嬉しいな」
「そうそう。埃なんか被っている暇ないくらいにさ。いろんなことをしよう。
君が反転しない限り、僕はずっとカルネくんのそばにいるさ」
二人の、そして仲間達の顔がよぎる。
「カルネ……!」
ヒステリックに叫ぶブランディーヌの声に、カルネは――。
「い、嫌だ……僕は行くんだ!」
涙を目に浮かべたまま、抜いた銃をブランディーヌめがけてぶっ放した。
●この手を握って
ワイバーンが羽ばたいて、雪降る鉄帝の森の空を抜けていく。
その背に乗って、カルネは自分の手のひらを見つめていた。
「カルネくん……」
イーハトーヴや誠司、それに洸汰たちが心配そうに見つめる中で、カルネはじっと目を閉じた。
猛烈に抵抗し、村を飛び出したその時のことを、皆思い出す。
ブランディーヌがヒステリックにカルネの名を叫び、そして滅茶苦茶に銃を乱射する光景を。
最後に、なんて言っただろうか。
『必ず取り返してやるから! あなたは騙されてるのよ!』
村を出ただけでは自由になれない。
カルネの表情を見れば、そのことがよく分かった。
向き合わなければならないのだ。
立ち向かわなければならないのだ。
その勇気を、もたなければならないのだと。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――カルネと共に村を脱出しました
――ブランディーヌは諦めていないようです……
GMコメント
●シチュエーション
カルネの、そして場合によっては村人の護衛という仕事をうけ地方の村へとやってきたあなた。
集落と述べてもいいほど小さなその村はカルネの出身地であった。
だが、カルネの母ブランディーヌは既に新皇帝派に与しており、カルネにもその派閥に下るよう命令していた。
拒むカルネをかばうように外へ出ると、そこに待ち受けていたのはこちらを殺そうと構える村人達。
彼らの包囲を脱し、村の外れに繋がれているであろうワイバーンを使ってこの集落を脱出しなければならない。
●エネミーデータ
・ブランディーヌ・シャノワール
カルネの母。退役軍人であり、元はグロース・フォン・マントイフェル将軍の息のかかった部下でした。
退役したとはいえ戦闘能力はかなり高く、この集団の総合戦闘力を彼女一人が引き上げていると言って良いでしょう。
・村人達×複数
ブランディーヌの命令に従い冷徹に戦闘を行う村人達です。
彼らは戦闘訓練を受けており、鉄帝軍の兵士なみに戦闘をこなすことができます。
・天衝種フューリアス×複数
おそらく新皇帝派がこの村の保護のために常駐させたモンスターでしょう。
周囲に満ちる激しい怒りが、人魂のような形となった怪物です。
衝撃波のような神秘中~超距離攻撃してきます。単体と範囲があり、『乱れ』系、『痺れ』系のBSを伴います。
・天衝種ラタヴィカ×複数
おそらく新皇帝派がこの村の保護のために常駐させたモンスターでしょう。
流れ星のように光の尾を引く、亡霊のような怪物です。
俊敏性や機動力に優れており、戦場を縦横無尽に飛行します。高威力の物超貫移で体当たりをする他、怒りを誘発する神秘範囲攻撃を行います。
・天衝種ホワイトギルバディア×1体のみ
おそらく新皇帝派がこの村の保護のために常駐させたモンスターでしょう。
大型のクマ型の魔物を雪地向けに改良した特別な個体のようです。
凄まじい突進能力があり邪魔な木々は軽く薙ぎ倒す程の性能があります。
また、敵を吹き飛ばす様な攻撃をもつ他、BSに対して強い耐性をもっています。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
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