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シナリオ詳細

<咬首六天>『英雄』の少女

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●賞金をかけられるということ
 ローレット・イレギュラーズ達に賞金がかけられた――。
 まったくもってバカバカしい状況下であるが、しかしこれは『鉄帝国が、国として発布した情報』に間違いはない。
 無論、現皇帝は彼の冠位魔種バルナバスであり、必然、現在の鉄帝国政治部は『世界への敵対存在』により動いているという事になる。現在新皇帝派に与する者すべてが世界の敵であるとは言わないが、しかしその中枢の殆どは世界の敵と言っても過言ではあるまい。
 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』という特殊部隊が存在する。
 新皇帝に代替わりした際に、軍部に残った『レフ・レフレギノ将軍』によって結成されたこの部隊は、混迷を極める現鉄帝国を導く新時代の英雄による部隊、と謳ってはいたものの、そのほとんどが金目当ての悪漢の集まりであったことに違いはあるまい。
 しかし、その一方で。新皇帝の統治ならざる統治によって、飢え苦しむ者たちが、その給金を求めてやむなく力を貸すという状況は、確かにあった。
 この少女も、その一人だ。名を、ソフィーヤ・ソフラウリッテ。若干13歳にして、卓越した惑うの才を持つ彼女は、故郷の村に少しでも蓄えをもたらすために、新時代英雄隊にその身を捧げることを決めていた。
「君の部隊は優秀だからねぇ~~~」
 と、レフ・レフレギノ将軍はソフィーヤにそう言った。
「少し厄介な任務を受けてもらいたいんだよね!
 賞金首……つまりイレギュラーズへの攻撃さ!
 君もほら、故郷のためにお金が欲しいんだろ? 賞金の方も、ボーナスって事で上乗せするからさ。
 それに、賞金首って事は、国にあだなす悪党どもって事さ! 心も痛まないだろう?」
 そう言って笑うレフ・レフレギノ将軍に、ソフィーヤは頷くことしかできない。結局のところ、彼を信じ、戦うしか……村を救う方法はないのだから。

「嬢ちゃん、それで、今度の任務は?」
 そういうのは、元々木こりだったという鉄騎種の男だ。ソフィーヤの部隊には、多く『喰い詰めた村人』達が集まっていた。純粋な悪漢も集まる英雄隊にても、やはり、同じ性質のものが集まるものなのだろう。
「ジェイジェイさん……。
 はい……ボーデクトンに潜入し、賞金首のイレギュラーズへの攻撃を、と」
 ふむ、とジェイジェイが頷く。
「本物の英雄様を倒して来いってか。大役を押し付けられたもんだな……」
「でも、上手くいけば……お金が手に入ります。今年の冬は、変です。とっても、心がざわざわするくらいに……」
 そう言って、窓の外を見る。帝都の空は灰色で、雪がちらついていた。あまりにも寒い。今年の冬は。おかしい。
「そうだな……このままじゃ、俺の村も冬を越せないかもしれん……」
 そういう。不安は、ソフィーヤやジェイジェイの心の内に胸中するものだった。鉄帝の冬は、元より厳しい。これまではまともな統治故になんとかなっていたが、しかし今の鉄帝に、統治という言葉は存在しないようなものだった。
 それでも、ソフィーヤたちはこの国で生きていかなければならない。そうなれば、何はなくとも、先立つものが絶対に必要なのだ……。
「頑張りましょう。
 でも……なるべく、その」
「ああ、殺しは無し、だよな。嬢ちゃんの……隊長の命令をきかない奴なんて、いないさ」
 そう言って、ジェイジェイは笑った。部隊の皆は、とてもいい人たちばかりだ。でも、その背に間違いなく、守るべきものを背負っていた。だから必死であることに違いはなかった。
「いつまで続くのでしょうね……」
 ソフィーヤの言葉に、ジェイジェイは答えられなかった。いつまで続くのだろう。この地獄は。

●迎撃
 鉄道都市ボーデクトン。かつての、とはいかないまでも、少なくとも人の往来は戻ったこの都市を、カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)を始めとするイレギュラーズ達は、見回りも兼ねて外に出ていた。
 肌寒い冬の陽気だったが、しかし新皇帝派から解放された街の様子は明るさを取り戻しつつある。よい事だった。
「なんとか平和が戻った風に思えるね」
 カティアが言うのへ、仲間の一人が頷く。
「ああ。だが、それでも……敵の攻撃は散発的に行われているらしい。
 昨日も、ごろつきが事件を起こしたようだ。俺たちの賞金目当てだ」
 そういう仲間に、カティアは頷いた。防衛部隊は存在するものの、それですべてを抑えきれるわけではない。大規模な攻撃はないとはいえ、侵入自体はされてしまうようだ。とはいえ、以前に比べればずっと安全になった事もまた事実だった。故に、多くの人がこうして出歩いているわけだが――。
「見つけました。
 ローレットの方ですね」
 だが、そんな中、後方より声がかかった。振り向いてみれば、少女を始めとして、剣呑な雰囲気をまとったもの達がいる。敵か、ととっさに判断がついた。
「ごめんなさい。『新世代英雄隊』――ソフィーヤと言います」
 申し訳なさそうにそういう少女に、警戒を解かずとも、しかし何か妙な雰囲気を覚える。ごろつきとは違う、そういう空気。
「……あなた達にかけられた賞金。それが私たちの目的です。
 他の人達には手出しはしません」
 そういうソフィーヤたちが、静かに構えた。そのまま、小規模の爆発を起こす術式を唱え、爆発を巻き起こした。その音に、周囲の市民たちがざわついた様子を見せる。
「申し訳ありません! 新皇帝の命により、攻撃させていただきます。
 逃げれば追いません。すぐに逃げてください」
 その言葉に、市民たちが一斉に闘争を開始する。カティアは静かに、少女を見据えた。
「……優しいみたいだね」
「優しい人は、賞金首を狙ったりしませんよ」
 そう言って、ソフィーヤは微笑んだ。
「悪いな。俺たちには金が必要だ。
 金がなきゃ、故郷の家族が飢えて死ぬ」
 ソフィーヤの隣に立つ大男が言った。
「同情してほしいわけじゃあねぇ。
 ただ、俺たちには引けない理由があるって事さ。
 分かったな。悪いが、捕まってくれ」
 そういう。なるほど、彼らは悪人ではないらしい。だが、それで「はい分かりました」と捕まってやるわけにはいかない!
「追い払うぞ」
 仲間の言葉に、イレギュラーズ達は頷いた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 皆さんの賞金を狙う、新世代英雄隊を追い払ってください。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ボーデクトンでの警備中。皆さんは新世代英雄隊を名乗る一団に襲われました。
 なんでも、皆さんの首にかかった賞金が目当てのようです。
 事情がありそうですが、敵は敵。皆さんも捕まってやるわけにはいかないのです。それに、賞金が正しく払われる保証などはないわけですから。
 皆さんは、この新世代英雄隊を名乗る一団を追い払ってやってください。特に生死は問いません。ご随意に。
 作戦決行タイミングは昼。あたりに人の姿はないため、戦闘に注力できるでしょう。

●エネミーデータ
 ソフィーヤ・ソフラウリッテ ×1
  新世代英雄隊の少女になります。幼いながらも卓越した魔道の才を持ち、強力な術士として振る舞います。
  後衛神秘アタッカー。渾身による強力な魔術攻撃が得手ですが、追い込まれると少し脆いようです。
  BSとして、『火炎』や『凍結』系列を付与してくることがあります。
 
 ジェイ・ジェイ ×1
  新世代英雄隊の男性。筋骨隆々とした鉄機種です。元々は木こりだったようで。斧を用いたパワフルな一撃が得手です。
  近距離物理アタッカー。『出血』や『痺れ』系列のBSの付与も行います。
  ハイウォールも所持しており、前線で盾役を行ってくるようです。

 新世代英雄隊 ×13
  新世代英雄隊の『英雄』たちです。皆、元は善良な一市民であり、給金を故郷の村に仕送りし、何とか家族を守っているもの達のようですが……。
  基本的には中距離レンジで、蒸気式スチームガンによる銃撃を得手とします。
  特筆すべき能力はありませんが、数が多めのため、囲まれて攻撃を集中されないように気を付けた方がよいでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <咬首六天>『英雄』の少女完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●『英雄』たち
 大通りのあちこちから、どよめきと悲鳴が聞こえた。
 少女と、男たち。新皇帝派閥を名乗った彼女らは、逃げる民衆たちを追わない。むしろ、戦いに巻き込まれないように、とでもいうかのように、ただ逃げるに任せていた。どうか、遠くに逃げてくれ、と。こんな戦いに巻き込まれないように、と。
「君たちにも事情があるみたいだけど」
 『征天鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)がそう声を上げた。
「そうだね。黙って捕まってあげる、なんてことは言えない。
 どうなるかなんてわかりきっているからね」
「……間違いなく、投降したところで我々の命はないでしょうね」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)はそう続ける。現実を突きつけるかのようだった。今、見せかけの慈悲を与えたとしても、それは本当に全く、見せかけなのだ、と、そういうかのように。
「それは――」
 少女――ソフィーヤ・ソフラウリッテと名乗った――が言いよどむ。彼女は、愚かではないようだった。だから、オリーブの言った意味も、そしてオリーブの意もわかるのだろう。結局は、殺しに来たのと変わらぬのだということ。そして、彼らもまた、黙って殺されるような人間ではないのだということ。
「悪いな。鉄帝でも名高いアンタだ。その首にかかっている金の大きさはわかってくれるだろう?」
 男――ジェイ・ジェイと名乗った――の言葉に、オリーブはうなづく。あの、馬鹿げた懸賞金。名声に比例するかのように、それは大きかった。オリーブが自分の手配書を見たときに、もしかしたら表情を不快気に崩したかもしれない。1308万。オリーブ・ローレルの命の値段。
「自分という個人にかけるにしては、あまりにも仰々しすぎる値段でしょう。信じているのですか? こんな馬鹿げた金が支払われると」
「信じないとやっていけないのさ、俺たちは」
 ジェイ・ジェイがぼやく。
「それだけあれば、俺たちの隊全員の家族が、ひとまず冬を越せる」
「冬のため、ですか」
 オリーブが言った。
「それはつまり……あなたの『身内』を救うために他人を『食う』のだ、という自覚がおありで?」
 オリーブのその言葉に、ソフィーヤはわずかに震え、しかしうなづいた。
「理解しています。理解していますとも」
「……心を痛めているみたいだね。
 それに、年端もいかない女の子が部隊長、ワケアリっぽい。
 『首を獲る』ではなく『捕まってくれ』。
 ……新皇帝派らしくない」
 『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)がそういった。確かに、いわゆる悪漢の多い新皇帝派(むろんそればかりではないだろうが、相対的に力を信奉する以上はそういわれても仕方あるまい)を名乗る割には、彼女たちは幾分か、理性的だった。人間的である、ともいえる。
「カティア、背筋を伸ばして戦いましょう。この局面、圧勝でなければいけません。
 彼らが命懸けで戦うのは、金の為ではなくその先にある家族の笑顔のため。
 ならば賞金を稼ぐよりローレットを頼った方が家族の為になると、解らせる必要があるでしょう」
 『カチコミリーダー』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が、カティアへとそういった。
「そうだ……そうだね。僕が彼女たちをなんとかしたいと思うのならば、頼られるくらいに力を見せるべきなんだ」
 それはきっと、その通りだった。今やこの鉄帝国は、力がすべてであった。少なくとも、そう嘯く相手に対抗するには、やはり力が必要なのだ。矛盾的、といえたかもしれないが、しかし力なき理想は無意味であることもまた事実だ。
 今の世が、平和の世であるならば、単純な暴力という力に頼らずとも別の力を探せばよかっただろうか。だが、今は平和の裡にこの国は存在しない。ナイフをもって襲うものがいるのならば、その襲うものを追い返すほどの武力は、悲しいとしても、どうしても必要になるものだった。
「新皇帝派に対抗するでなく、おのが身を差し出すことで民を守る。
 それもまた英雄の名に恥じぬ行為と理解しています」
 『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)が声を上げた。
「しかしながら、英雄であれば信じる者を見定める覚悟も必要ですよ。
 新世代英雄隊。なかなか面白い名前ですね。
 その名がふさわしいか。一つ揉んで差し上げます」
 ウルリカが構える。仲間たちも、ゆっくりと構えた。ソフィーヤたちがどのような事情や覚悟を背負っていても、ここでつかまってやるわけにはいかない。それだけは確かだった。
「引けない事情があるのは……。
 ……ううん、あったとしても今この場では敵なのです。
 だから、ルシアは……、
 ちょっと”お話”がしたいのでして!」
 『ラド・バウA級闘士』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が、そう声を上げた。お話をする。必ず。でも、今は。いや、今こそは。
「でも、何もしないなんてしないのでして。それじゃあ、捕まってあげるのと変わらない……!
 意志は示します! そのうえで、言葉を届けるのでして!」
「そうですね。きっと、それがいい」
 『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が静かにうなづく。
「刃を下ろせとは言いません。けれど、私は貴方達に私も……皆さんも殺させるわけにはいかないのです。
 だから……!」
「やるよ、皆!」
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が、そういった。
「貴方達に引けない理由があるように私たちにも引けない理由がある!
 もっと多くの苦しんでいる人達を助ける為にも、捕まる訳にはいかないんだ!」
 スティアの言葉は、ほかの仲間たちも同じくするところだっただろう。皆にも、引けない理由が、思いがある。それゆえに、こんなところで立ち止まるわけにはいかない!
「いいんだな、嬢ちゃん」
 ジェイ・ジェイがソフィーヤに向けてそういった。ソフィーヤはうなづいた。
「はい……! ほかに、道はないのですから……!」
「そうだな。彼のオリーブがいたのは僥倖だ。あいつ一人で、皆冬を越せるだろう。
 もう戦う必要もきっとない……」
「そうです……これで、終わらせるんです……!」
 悲痛な言葉を紡いで、ソフィーヤは、ジェイ・ジェイは、そして英雄隊の英雄たちは、武器を構えた。
 一拍を置いて、一斉に走り出す。イレギュラーズたちは、英雄たちを迎え撃つべく、駆けだした。

●英雄たちと英雄たち
「彼女は自分が押さえます」
 オリーブがそういう。ゆっくりとロングソードを構え、まっすぐ前を見る。
「……自分は、殺すべきであると進言します。
 彼らは賞金を狙い、自分たちを狙ってきた。
 もし取り逃がせば、また、より巧妙な手段で自分たちを狙うかもしれない。
 それではいたちごっこです。根本原因を断つべきだ、と考えます」
「そうだね、だけど……」
 スティアが答える。
「殺したくは、ないかな」
 その言葉は、ほかの者たちにも共通する思いだったかもしれない。いずれにしても、あまり積極的に手をかけたいというメンバーは少なかっただろう。オリーブとて、その仲間たちの思いを無視してまで、せん滅を主張するつもりはなかった。
「一応、進言したまでです。大丈夫。逃げるものまでも追いはしません」
「ありがとう」
 カティアが言った。
「慮ってくれて」
「……いいえ」
 オリーブは静かにうなづいた。
「オリーブ様、彼女はよろしくお願いします」
 冥夜が言葉を続ける。
「術師タイプと見ました。そして、あちらの最大戦力ならば、足を止める必要があるでしょう」
「承知しました」
 オリーブがうなづき、駆ける――道をふさごうとする英雄たちに、
「あなたたちは、こっち!」
 スティアがその手を、ばっ、とふるってみせた。それは、まるで金を鳴らすかのような手の動き。それに動かされた魔力の奔流が、まさに福音の鐘の音のように、りぃん、ごぉん、と鳴り響いた! その福音が、スティアに集中を向けさせる。男が一人、隙を見せたのを、オリーブはロングソードでその腕を切りつけた。うあ、と悲鳴を上げて、男が武器を取り落とす。しばらくは剣は握れないはずだ。手加減をしたつもりはないが、これ以上、向かってこないなら追わないくらいの譲歩はするつもりだった。
「自分がお相手します」
 オリーブががソフィーヤに切りかかる。ばちん、と音を立てて、防御結界がその刃を押し返していた。見かけ以上にやるものだ、とオリーブが胸中で警戒を新たにする。だが、そこまでだろう。目の前にいる、敵に肉薄し、仲間に指示を出せるほどの余裕は、ソフィーヤにはあるまい。オリーブのねらいの内だった。
「ヴィルフェリゥム様、サポートを!」
 オリーブが声を上げるのへ、ェクセレリァスがうなづく。
「了解! 任せて!」
 ェクセレリァスは飛翔すると、上空でぱちり、と指を鳴らした。同時、ソフィーヤの周辺にワームホールの出口が形成され、内部から触手がはじけ飛ぶように現れた! むちのようにしなるそれを、ソフィーヤは防御結界で受け止める――同時にオリーブが切りかかった。すんでのところでかわす。それで手いっぱいだった。
「ごめんだけど、釘づけにさせてもらうから……!」
 ェクセレリァスが再び指を鳴らせば、再び触手が躍った。ソフィーヤをそのままにくぎ付けにする!
「ちっ、嬢ちゃんを狙ったか……!」
 ジェイ・ジェイが舌打ちをしつつ、援護に向かおうとした。部下たちの大半は、スティアに引き寄せられて応戦している。墜とすにはまだ時間がかかるだろう。幸いというか、イレギュラーズたちからすれば運悪く、だが、ジェイ・ジェイはスティアの誘因からは外れていた。ゆえに、この時ジェイ・ジェイには猶予が生まれていた。
「新世代英雄部隊……なかなか面白い名前ですね。
 殺さずの志も含めて、立派といえます。
 しかしあくまで新皇帝派に従うのでしたら……我々から攻撃を受けるものです」
 ウルリカはそれを許すことはなかった。パワード・スーツのオプション兵装より生み出された衝撃波が、死神の狙撃のごとくジェイ・ジェイを狙う。不可視の衝撃波を、ジェイ・ジェイは本能的に手にしたおので振り払った。
「お見事」
「元木こりなんでな! 野生動物とかから身を守るのに、敏感にならないといかん!」
「ならば、木こりを続けていることはできなかったのですか……!?」
 マリエッタが、飛び込みつつそう叫んだ。むろん、マリエッタとてわかっていた。そうできなかったから、今ここにいるのだ……。
「悪いな……俺もできれば、木だけ伐っていたかったよ!」
 ジェイ・ジェイの振るう斧を寸ででよけながら、マリエッタは手を掲げ、
「『その後ろの者たちを守るのでしょう?
 死なせたくないのなら守って見せなさい。血の魔女に奪われる前に』」
 あえて冷たく言い放った。同時、血鎌がその手のうちに生成され、マリエッタはそれを強く振り払う。ジェイ・ジェイは斧で受け止めた。マリエッタの才腕から繰り出される強烈な一撃は、大男のジェイ・ジェイの腕をしびれさせる。
「優しい嬢ちゃんだが、本気みたいだな!」
 舌打ちしつつ、ジェイ・ジェイがマリエッタと肉薄する。一方で、カティアはスティアに群がる敵兵士たちを、慎重に、確実に撃ち抜いていった。
「殺すことだけは避けたいんだ」
 カティアが言う。
「聞いてほしい……!
 寒い夜を越える為……食料も毛布も薪も金で買える、だからキミ達は賞金を求めてる、でしょ?
 ……でもさ、金はヒトを裏切りも狂わせもする。
 最初に必要なのは信頼で……『彼ら(新皇帝派)』にはそれがない。
 他人である僕がキミ達の故郷の無事を案じてしまうくらい、信頼が無いんだ」
 そう告げるカティアの声は本気だった。本気で、彼らの身を案じている――同時に、新皇帝派の『悪辣さ』も熟知していた。
「……ここまで働いているということは、それなりの報酬は支払われているのでしょう。
 それは確かに、信頼たり得るかもしれません。
 ですが……ことこのような無茶苦茶な金額を支払うだけの懐の温かさが、彼らにあると?」
 冥夜が言った。その言葉に、兵士たちはわずかに動揺し……その動揺を振り払うように叫んだ。
「わかってら……だが、信じるしかねぇんだよ!」
「家には、腹すかせてるガキもいる……女房だって……!」
 切りつけながら、兵士たちは切実な思いを声にあげた。
「私たちじゃ、すべてを守れない。でも、せめて、せめて、村の家族だけなら……!」
「その思いは、確かに承知していますが……!」
 冥夜が叫ぶ。止まらない。止まれない……いかに優しい言葉をかけてもらったとて、それよりもつらく厳しい現実が、彼らの前に迫っているのだ。理想だけでは、彼らの心を動かすことはできないのだ。結局、真に人を救うのは実利であるともいえた。
 それでも。
「本当に英雄隊が仕送りをしてくれると思うのですよ?
 じゃあ、まずはこの国を滅茶苦茶にした人は誰でして?
 その人は弱者は勝手に野垂れ死ね、みたいなことを言ってるのです!
 そして、英雄隊のリーダーは誰に仕えているか分かるのですよ!?」
 ルシアが叫ぶように、言葉は届けたくて。されど、戦いを止める力はなくて。
「わかってるんです……でも……信じるしかないじゃないですか……!」
 ソフィーヤが、辛そうに、ルシアに叫んだ。ルシアも叫び返した。
「じゃあ、ルシアたちを信じてくれてもいいのでして!」
 二人の少女が、視線をぶつけあった。ルシアのそれは、根拠のない願いなのかもしれない。だが、そうだとしても……!
「新皇帝派は弱い者を守らない。
 派閥だからとか、所属者の家族だからとか関係なく」
 カティアが言葉をつづけた。
「今は何処も厳しいから絶対とは言えないけど。
 ……おいでよ、彼らに食い潰されるよりずっとマシな筈……!」
 それは、少女に……いや、この場にいたすべての英雄たち向けた言葉だった。優しい言葉だった。だが、それでも……戦わなければ、彼女たちがすがる偽りの希望を壊してやることは、できないのだった。

●戦いの終わり
「できたら降伏して貰えないかな?
 帝政派は食料に多少は余裕があると思うから支援できると思う。
 もし足りないなら私達が村に向かって食料調達してきてもいいし!」
 スティアが声を上げる。切りかかってきた英雄の手から、力が抜けるのを自覚していた。「く、そ……」と、彼が声を上げた。
「わかってるんだ……本当は……誰のせいでこうなったかなんて……でも……!」
「すがるしかなかったんだよね……急にこんなことになったら、気持ちはわかるよ」
 スティアが優しく、そういった。兵士たちはすべて、無力化されている。幸いか、実力か。あるいは、イレギュラーズたちの心が神に通じたのか。死者は発生していないことが救いであるとはいえた。
「……」
 オリーブはゆっくりと息を吐いて、刃を構えなおした。眼前の少女=ソフィーヤへとむけて。積極的に逃がすことはしない。されど逃げるならば追わない。ぎりぎりの、仲間への敬意。
「……嬢ちゃん、俺たちに勝ち目はないな」
 ジェイ・ジェイが言った。ウルリカが、構えを解かずに言葉を紡ぐ。
「投降をお勧めします。今年の冬は厳しい。あなた様のおっしゃる通りに」
「そこまではできません……」
 ソフィーヤは言った。
「そうですね。急にソフィーヤ様達が離反した場合、家族が無事であるという保証はないわけですから」
 冥夜がそういった。ジェイ・ジェイの負った傷を辛そうに見つめ、マリエッタが声を上げる。
「ジェイ・ジェイさん。気を付けてくださいね。
 いざというときに、彼女達を守れるのは貴方だけなのですから」
「ありがとうよ、優しい魔女さん」
 ジェイ・ジェイがゆっくりと、斧を腰に差した。イレギュラーズたちが一応の警戒を見せる中、仲間たちの様子を簡単に確認し、立ち上がらせる。
「……ルシアの言ったことを、信じてくれなくてもいいのでして。
 でも、一度……故郷に帰ってみてほしいのでして!
 何なら、教えてくれれば、ルシアが見に行って、助けまして!」
 ルシアの言葉に、カティアが続く。
「うん。キミ達の故郷を、自分たちの目で確かめてみるべきだ。
 僕も付き合うよ。場合によっては、僕をそのまま、新皇帝派に突き出したっていい」
「ソフィーヤ様、カティアはNoと言えない男ですが有言実行の人です。
 事情を話せばきっと力になりますよ。お聞かせ願えませんか」
 冥夜がそういうのへ、ソフィーヤは、痛む体をおしつつ、はぁ、と落ち着くために息を吐いた。
「北の……ティテスという村です……私たちの、故郷は」
「……そこに、行けばいいんだね?」
 ェクセレリァスが、うなづいた。
「安全を確認できるし、もしかしたら助け出すことができるかもしれない……!」
「……私たちは、自由には動けません。もし、お願いできるのでしたら……」
「約束するよ」
 スティアがうなづいた。オリーブも、静かに武器をおさめ、うなづいた。
「お願いします……!」
 ソフィーヤはそういって、ゆっくりと、仲間たちとともに去っていく。
 厳しい冬の風が、大通りを駆け抜けた。
 冬は誰にも平等に厳しく、風は悲しい色をのせているように感じた。

成否

成功

MVP

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。皆さんは無事に、新皇帝派の刺客を撃退。
 ボーデクトンの治安維持に、一役買ったようです――!

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