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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>アルゴノーツの旅路にて

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●三つ目の弾丸
 会議室に銃声が響いた。
 入り口に立っていた兵も、会議に参加していた将校たちも、皆びくりと身を震わせたが、それだけだ。
 なぜならその銃声を響かせた本人が、その誰よりも上位の階級をもつ軍人であったためである。
 ここは鉄帝国首都、帝国陸軍参謀本部。
 一番奥の席に座していた、麗しく幼い少女のように見える存在こそ、グロース・フォン・マントイフェル将軍。そして、未だ銃口から煙をあげる拳銃を手にしている者だ。
「ロック・ハウグリン少佐。貴様は敵前逃亡を犯し国家の――ひいてはバルナバス皇帝陛下の顔に泥を塗った。死をもって償え」
 額に穴をあけ地面に倒れ、既に事切れたとおぼしきロック少佐にそう告げると、グロース将軍は銃をテーブルに置く。
「ロック・ハウグリン少佐から階級を剥奪。家族は第五階級市民へと降格。第二階級市民用住居から即刻退去させよ。以降作戦の指揮は――」
「しょ、将軍殿……」
 震える声を発したのは、テーブルの末席に座していた将校だった。ロック(階級を今失ったのでただのロックだ)を一瞥し、唇をなめてからもう一度グロース将軍を見る。
「お言葉ですが、『アルゴノーツ』を併呑し配下に加える作戦の継続は不可能かと。彼らだけであればタロスギアによって制圧が可能でしたが、既に『レジーナ・カームバンクル』があの集落の保護を主張しています。いま手を出せばローレットが必ず阻むことになりましょう。アルゴノーツとローレットの部隊を同時に相手取ることは、アルゴノーツを配下に加えるメリットに合わぬ出費にな――」
 二度目の銃声がした。
 今度ばかりは、将校たちも席を立ちテーブルから飛び退くように離れた。
 なぜなら、先ほどまで喋っていた将校の顔面が下顎だけを残して吹き飛んでしまったからだ。
 左右に座って居た将校など、飛び散った『色々』でたまったものではない。慌てて制服の肩についたそれを払い落としていた。
 そして当然、誰も文句など言わない。
 なぜなら、そう。二度目の銃声もまた、グロースによるものだからだ。
 ロックに行った仕打ちが『安いもの』だったと分かる有様に、文句を言うどころか今すぐ逃げ出したい気分の者までいる。
「部下が無能なら上官も無能か。貴様等には『バルナバス』がない……」
 グロースがたびたび言葉の中に出す『バルナバス』という概念。それは、全人類が真に強者となればあらゆる問題はなくなるという理想論によるものだ。彼女はバルナバス性があるかないかで人を判断するのである。
「『アルゴノーツ』は小集落だ。周囲への圧迫も行われている以上、冬の蓄えが足らずどこかの大規模派閥へ合流をはかることだろう。『レジーナ・カームバンクル』が絡んでいるなら……」
「北辰連合でしょうか」
 そこですかさず言葉を発した将校がいた。その勇気に周囲の将校たちがハッとする。
 茶色の髭で口元を覆った壮年の男。彼の名は『コルキス』。
 フルネームは『コルキス・ハウグリン』。ロックの父にあたる人物である。
「将軍殿。不肖なる我が息子の失態。我が身を持って拭わせて頂きたい。出撃の許可を」
「……フッ」
 銃をまだ握っていたグロースは、その様子に小さく笑う。
「貴様、なかなか『バルナバス』がある……いいだろう。タロスギアに加えていくつかのアンチ・ヘイヴンを貴様にくれてやる。自由になすがよい」
 コルキスは深く頷き、そして視界の端で死した息子の顔を見た。

●アルゴノーツの旅路
「すまんのう、やはり頼りになるのはローレット……いや、そなたじゃレジーナ」
 『高潔なる族長』イアソン・マリー・ステイオーンは馬車の上からそう呼びかけると、並んでバイクを走らせる善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は小さく笑った。
「ただの護衛なんだから、そんな大袈裟にしなくていいのに」
「大袈裟、ちがう。これ、友情」
 『無垢なる兵器』ラピテースが同じ馬車から顔をだす。
 馬を操作していた『血涙の鬼』エリンが苦笑した。
「大きい派閥に加わらないと危ないっていうのは本当だしね。ローレットとのコネクションは必要だったんだよ」
「別に我(わたし)、北辰連合に属してるわけじゃないんだけど……」
「おんなじおんなじ。少なくとも顔つなぎにはなるでしょ?」
 エリンがひどく大雑把なことを言った、その時。
 激しい爆発音が響き、馬車は爆風に飲まれた。
 横転する馬車。放り出されるエリンたち。
 防御に成功したレジーナが振り返ると、こちらに接近する巨人の一団が見えた。

 巨大な青銅製の像のようにみえるそれは、頭の部分に魔術師が登場して命令を送ることで連携を可能とするアンチ・ヘイヴンモンスターである。
 それに加え黄金の山羊めいたモンスターに騎乗した兵が複数。そちらの戦力はわからないが、少なくともあの巨像には見覚えがあった。
「『タロスギア』……ってことはロック少佐かその仲間が来たってこと?」
「移動中を襲うとは姑息なマネを。しかしなぜ気づけなかった?」
「隠密魔術、感知。隠れて、近づいてた」
 イアソンは横転した馬車から這い出ると、古代兵器のライフルを手に取った。
 エリンやエピテースたちもそれぞれ戦闘態勢にうつる。
 レジーナ、そして一緒に雇われていたローレット・イレギュラーズたちも同じく展開した。
 その中には、ここまで自力で運搬を担っていたルナ・ファ・ディール(p3p009526)の姿もあった。
「民間人の移動と怪我人の手当! 無事な馬車への物資の移し替えを急げ! あっちは我俺たちが対処する!」
 荷物運びのほうが得意なのによ、と悪態をついてからルナはライフルを手に取った。

GMコメント

厳しい冬を前に、『独立複合民族アルゴノーツ』が大型派閥へと合流している最中のこと。
グロース将軍の放った新皇帝派の部隊による襲撃を受けました。
護衛を依頼されていたローレット……つまりあなたは、これを撃退しなければなりません。

●エネミーデータ
・タロスギア
 青銅の巨像です。複数体投入されており、巨大な剣での攻撃に加え、今回は大砲を装備しています。あまり段数に余裕のなさそうな装備らしく、砲撃はあまり頻繁に行われていません。
 また、タロスギアは頭部に登録した魔術師が乗り込んで命令を行うことでやや自由に動かすことができる特徴をもっており、逆に言えばこれが弱点でもあります。
 魔術師を失った場合連携するだけの高い知能をもたない巨大なモンスターだけが残ることになります。
 まとめて倒してしまってもいいし、弱点を狙ってもいいでしょう。そこはメンバーの作戦次第です。

・ゴールデンフリーク
 金色の山羊めいたモンスターです。足場の悪い場所でも機動力が出せるほか、高度な防御結界を展開できる能力があるとされています。
 これに兵士が騎乗してこちらに攻撃をしかけてくるでしょう。

・コルキス・ハウグリン中佐
 以前アルゴノーツを襲撃したロック少佐の父にあたる人物です。
 アルゴノーツを新皇帝派に『徴兵』する任を引き継ぎ、この作戦にあたっています。

以前の戦いの様子はこちら
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8635

●味方
 今回はアルゴノーツの三人が一緒に戦ってくれます。
 彼女たちは非常に頼もしい戦力なので、しっかりアテにして大丈夫です。

・イアソン
 精霊の力と古代兵器を使いこなすハイブリッドな巫女。中~遠距離戦を得意とする。

・ラピテース
 鉄帝から出土した古代兵器に最近魂がやどったもの。エネルギー体の武器を生成して大量に投げつけるという範囲攻撃が得意。ちょっとレジーナさんの昔の戦い方に似てる。

・エリン
 格闘による近接戦闘を得意とする。古代兵器を用いた義手と義足を着用しており、純粋にパンチやキックの威力が高い。
 また、壁を駆け上ったり高い場所へジャンプしたりといった地味に役立つ機能を備える。


●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>アルゴノーツの旅路にて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ウォリア(p3p001789)
生命に焦がれて
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)
魂の護り手
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
駆ける黒影
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ

●冬が全てたべてしまうまえに
 鎧の奥で、炎が燃える。
 降りしきる雪をまるでものともしないそれは、意志の炎であり魂の炎であった。
 『戮神・第四席』ウォリア(p3p001789)はカーブし対比する方向へと移動しはじめる馬車たちを背にして、こちらへ進む巨像型モンスターの隊列を見上げる。
「帝政派を脱して放浪の筈が、そうそう落ち着かせてもくれんな」
 放浪者たちを受け入れてできたという小集落アルゴノーツ。縁を感じてかはたまた偶然か護衛の仕事を引き受けた。実際の役割といえばせいぜい道中のモンスターを狩る程度で、あとは集落民の安心のために存在感を出しておくことが仕事といった所だったのだが……。
「合縁奇縁も多少の縁……所属はどうあれ、護衛を請けたからには完遂させるのみだ」
 ウォリアは背にしていた鞘から『神滅剣アヴァドン・リ・ヲン』を抜刀。刀身から揺れるようにあがる炎は赤く、彼の闘志を思わせる。
「何処にいようと戮神の使命はただ一つ。
 戦いの中で罪深き全てに誅罰を与えるのみ。
 此処で死ぬか、生き残るのか――我が裁定を受けんと望むのならば、雁首揃えてかかって来い」

「……っし、これで荷物は全部だな。そっちは任せたぞ!」
 他の仲間達が既に襲撃者たちを撃退すべく移動しているなか、『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)だけは(主に自分に積み込んでいた)荷物を馬車に移すなどの作業にあたっていた。
 というのも、彼の走破性と速度を考えれば充分皆に追いつけるからだ。
「簡単にゃいかせてくれねぇたぁ思ったが、あちらさんもしつけぇなぁ。ったく。そんだけあんたらが魅力的だってか?」
 荷物の中から骨董品のライフルだけを引っこ抜くと、ベルトを肩に引っかけて走り出す。
 深い雪で脚をとられがちだが、それを差し引いてもルナのスピードは常人の四倍近く。本気を出せばそれ以上だ。冷たい風を切り裂き進むと、みるみる敵軍の姿がはっきりと見えてくる。
「アルゴノーツを取り込もうと考えてんなら、最初っから広域殲滅にはこねぇはずだ。相手が自棄になる前に潰さねぇとな」
 集落民や荷物とは反対方向に走るのは、それだけ距離を離して被害をおさえる目的だ。アルゴノーツを『戦力として』吸収したいなら民衆を人質にとるくらいはやるだろう。非常に合理的だし、なにより前例も多い。なのでここは、自分達が前にでて民衆に手を出されるまえにケリをつけるのが最適なのだ。
「む、来たか!」
 先行していた『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)がルナが追いついたことに気付いて頷く。
 まだ接敵には満たないが、敵が速度をあげればギリギリ攻撃が始まる程度の距離だ。両手に『ローゼンジェネラル』を構え、オウェードは攻撃の姿勢をとっている。
 それは勿論『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)たちも同じで、ワイバーンの『リョク』の背にのることでキッチリおいついていたリリーが低空飛行状態を維持させながら専用の魔道銃を抜く。ただでさえ小さいリリーが取り出す銃は天才的な職人の作り上げたミニチュア玩具のように精巧で、事実それは玩具どころか実銃として完璧に動作可能なマジックアイテムなのであった。
「アルゴノーツ、また会えて、嬉しい。でも、新皇帝派、しつこい」
 その横で低空飛行状態にうつる『魂の護り手』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)。
 黒く艶のある翼をゆっくりと羽ばたかせ、雪に脚をとられぬようにしながら弓に矢をつがえる。
 相当な寒さゆえ、リリーなどはもっこもこに着込んでいるのだが、シャノのほうはいつもと代わらぬ冬着である。そこは流石ヴィーザルの出身といったところだろう。シタシディの伝統工法で作られた弓の操作にも一切の揺れがない。常人ならば指先が震え矢を持つどころではなかろうに。
(人と戦う事は、とってもとっても怖い事なのだわ
 いつもいつも避けてきた、自分はもっと得意な事をするべきだって思ってそうしてきたのだわ。
 それは、このとっても怖い役割を誰かに押し付けていただけなのに……)
 『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は自らの胸に手を当て、巫女の祝詞を唱え始める。
 我等稀久理媛神の神威が降り、彼女の翼や腕に力がこもる。今ならば縦横無尽に飛び回ることができるだろう。
 そして改めて、脇に抱えるように持っていた弓に矢をつがえる。こちらはシャノのような狩猟弓と異なり、儀礼用の弓だ。つまりは、人々の願いを込めて『成し遂げる』ための弓。当てるべき一矢を必ず当てるという意味では同じだが、彼女の弓は心で射るものであった。
(これからはそうじゃいられない……少しずつでも一歩ずつでも。
 私が戦う事でその人が助かる、今まで逃してきたその機会を掬い上げていかなくてはならないのだわ!)
 そして今、彼女は『成し遂げる』ために弓と矢に祈りを込めた。
 皆の闘志は充分だ。
 『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は満足げに頷くと、今度は敵の巨像たちを見た。
「あんな兵器を何体も、惜しげもなく出してくるだなんて、新皇帝派はさぞかしリッチなんでしょうね?
 まぁ、いいわ。そろそろ、思いっきり運動して温まりたい所だったの」
 寒さ故にぴったり閉じていたロングコートの前を素早く開くと、炎のドラゴン・ロアを解放した。心の中から吹き出たマナが電熱となり、周囲の冷えた大気をバチバチとスパークさせる。
 そしてコートの下のホルダーから抜くのは赤いコンバットナイフ。亜竜の鱗かあるいはそれ以上の何かか。とんでもない硬度と魔力伝達率をもつ刀身は氷点下であっても淡く炎をうかべている。
「ふむ、今回も頼もしいのぅ」
 ライフルを手に、イアソンが『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の顔を見やる。
「勝てそうだと思う?」
 端的に聞いてきたのはエリンだ。自分の戦力や技術には詳しいが他者の戦力までは測れないというタイプらしい。
 それを細くするようにラピテースが「大丈夫」とだけ呟く。
 エネルギー体による十字槍を何本も作成し、射出の準備を進めている。
 こちらは11人。戦力的には充分に見えるが、前回の失敗を知っている敵が二の足を踏むとは思えない。
「まったくもう少し遅刻してくれれば良かったのだけれども……。
 よっぽどアルゴノーツにご執心なのはわかるけれども、しつこい男は嫌われるわよ。
 特に粘着質なストーカーなんて最悪なのだわ」
 軽く言ってみたが、相手は軍。ただの『執着』だけでこんなにコストを投入するものだろうか。既に損失の方が上回っているはずなのだが……。
「相手もこの動きを読んでいたのかしらね。あるいは……」
 レジーナは相手の指揮官として『再び』襲ってきているであろうロック少佐の顔を思い出した。前回はあと一息のところで取り逃したが、彼がリベンジを図ったのだろうと、そう考えたのだ。
「ここは大人しく、諦めて帰ってもらいましょ。いくわよ、皆!」
 勇ましく応じる声が続き、レジーナたちは攻撃圏内へと飛び込んでいく。


 敵の部隊は主力とおぼしきタロスギア数体を横一列で展開しこちらへと接近させている。ぱっと見た限りの動きは緩慢そうだが大きさゆえに速度は出ているようだ。だがそこの気を取られていると、雪上を難なく走行し接近してくる黄金の山羊型モンスターとそれに騎乗した兵士たちの姿を見失いがちになる。
「あの山羊は? スピードが速いわね」
「ゴールデンフリークじゃな雪上であれを使われると機動力でやられるぞ。各個撃破に注意せよ」
「了解――ラピテース、ゴールデンフリークへ攻撃をお願い。エリンはタロスギアを上って操縦者を狙って。イアソンが魔術師を攻撃していけば隙ができるはずよ」
「わかった、先行くよ!」
 エリンが走り出すのを見守りつつ、イアソンはライフルの狙いをタロスギアの首へとつける。ラピテースの槍が一斉に放たれた所で、レジーナもまた無数の武器を召喚。射出する。
 緋璃宝劔天・女王勅命。一箇所のみならずあちこちに開いたゲートから飛び出す大量の武器を、敵の先陣をきるゴールデンフリークと騎兵は次々に回避する。が、よけきれない角度とタイミングで打ち込まれた剣を己の剣によってギリギリうけとめた。
「やるわね……」
「ゴールデンフリークたちを放っておくと足元をすくわれそうね。任せて、山羊のステーキにしてあげる!」
 燦火は雪の上をざくざく走ると『赫衝波』を発動させた。
「歓喜の絶叫、憤怒の鉄槌、悲哀の波濤、歓楽の灼熱。我が内なる衝動こそを力と成す。塗り潰す色は赫く、其の全てを飲み込み、染め尽くす!」
 詠唱によってスムーズに流れたマナが純粋な霊的エネルギーとなって放たれる。破壊力はその赤く燃えるような光をみれば明らかだ。
 両手を突き出すようにして放たれたそれが、先陣の騎兵と並ぶように突っ込んできた別の騎兵へと直撃する。「ぐあっ」という声をもらして落馬したその兵めがけて追撃を放つと、単独で突っ込んでくるゴールデンフリークにも追撃を片手ずつで撃ち込んだ。
 見事にワンキル。
「ふぅん? 最初のやつほど強くないわね。もしかして最初のあれが指揮官? ロックなんとかっていう」
「ロック少佐ってあんなに強かったかしら」
 顔を覆う鎧のスリットからは顔がよく見えない。記憶にあるのは、兵を失い必死の形相で逃げ出す姿だ。強者の風格はまるでなかったはずなのだが……。
 レジーナが小首をかしげる一方、華蓮とウォリアが次なる攻撃に移っていた。
 側面から回り込むように展開するゴールデンフリーク騎兵たち。彼らの繰り出す槍を、ウォリアは己の頑強な鎧によって受け、燃える剣で対抗する。
 力量さは一目瞭然。相手の槍はまるで壁にぶつかったかのように止まり、のけぞった兵を暴力的な剣のスイングが襲う。頑丈な鎧越しだと剣による切断能力は通じづらく、打撃武器としての効果を期待されがちだが、ウォリアのそれはまさに打撃。騎兵がゴールデンフリークの背から吹き飛び、何回転かしてから雪面へと落ちる。
 そうして単独となったゴールデンフリークの喉へ、見事に華蓮の矢が突き刺さる。本来回避できるはずのコースにあったはずが、矢が鳥のようにホーミングしたのである。
 『優しくない』その一矢はたった一発でゴールデンフリークの身体を侵し、早速弱体化を始める。一方でタロスギアはそんな華蓮たちを狙うべく大砲を構えていた。
 巨大な剣を振り回し打撃を与えるという攻撃手段もあるようだが、あの大砲が厄介だった。
 ゴールデンフリークたちがその機動力と反応速度でもって素早く離れた瞬間、砲撃によって地面が爆発でもしたかのように吹き飛ぶのだ。
「チッ、厄介だなこいつは……!」
 ルナはゴールデンフリーク以上の反応と速度をもって砲撃をかわすが、オウェードなどは近づく前に倒されそうな様子だ。そもそもの時点、ゴールデンフリークによる足止めでタロスギアに近づけていない。
「しゃあねえ、掴まれ!」
 ルナはオウェードの側をかけぬけると、手を伸ばす。それをキャッチしたウェードはルナの機動力を借りる形で次の砲撃を逃れた。背後で起こる爆発。並走してくるゴールデンフリーク騎兵。
 相手にしている暇はないと判断したオウェードはルナに頼み込み、タロスギアの足元まで迫るように求めた。
「何する気だ?」
「面白い事思いついたワイ!」
 オウェードがいうには、タロスギアの片足にひたすら攻撃を加えれば脚を破壊し転倒させられるというものだった。
 ルナは数秒表情を変えずに黙ったが、やってみなくちゃわからねえかとばかりにオウェードをタロスギアの足元まで持っていく。
 飛び降りたオウェードはすかさず攻撃を繰り出し、ルナはといえばそのままの速度で駆け抜け背後に回ると片手でライフルによる射撃を行った。
 ゴールデンフリークを無視してタロスギアを直接狙おうとするのは彼らだけではない。
 シャノは己の翼で高度をとると、タロスギアの放つ大砲の射撃をなんとかギリギリかわしながら射撃を行っていた。
 雪と風と砲撃による余波のおかげで操作性のわるいFPSゲームといった有様なのだが、それでもなんとかやれているのがシャノたちのベテランっぷりを思わせる。
「初めて見る、装備。さっきの奇襲、これ? ……ぶっこわす」
 シャノは砲撃をバレルロール機動でかわすと、背後でおこる爆発をよそに矢を放つ。
「ここまでくれば、あと少し。前、倒した、相手。問題ない」
「とはいえ、リリーは前回と同じく……やるって思った?あの金色の山羊は足場が悪い所でも速そうだけど……リリーは前回使わなかった"空"を使うだけだからねっ。空が使えるなら足場が悪いとかそんなの気にならないし」
 一方のリリーはタロスギアによる砲撃をなんとかしのぎながら低空飛行状態を維持し、ゴールデンフリーク相手に魔道銃を撃ちまくっていた。
 銃撃を喰らった騎兵の腕が石化し、充分効果が浸透したところで対応を仲間に任せ、タロスギアへと狙いを変える。
「さあて次は――っと!」
 直後、爆発。
 まきこまれたリリーは転落しそうになるが、ワイバーンにつけた専用の綱につかまってギリギリでこらえた。
「ちょっとマズイかも。リョク、スピードあげるよ!」
 ガジェットを起動してスピードアップを図るリリー。
 すると彼女はタロスギアへと一直線に飛んでいった。
 大砲を構え次の射撃を行おう――とするその砲身めがけ、リリーはぴょんと飛び込んだ。
 砲身内部で魔道銃を連射。
 大砲の構造上本来おこらない筈の爆発をおこすと、その寸前にダイブして逃れた。爆発を背に落下するリリーを、リョクが器用にキャッチしていく。
 大砲を破壊されたタロスギアは剣に持ち帰るが、そこへよじ登ったエリンと燦火がタイミングよく両肩へ立ち上がる。
 魔術師がハッとして彼女たちを交互に見て……。
「くそっ!」
 悪態をつきながらタロスギアから緊急離脱した。
 小型のロケットブースターを起動して高速でタロスギアから離れる魔術師。残されたタロスギアは操作を失い、知性なきモンスターとして暴れ始める。
 まずは肩に乗った燦火を払い落とそうと手をかざすが、燦火タロスギアの頭部へと駆け上って回避。
「我は竜、刃は牙。斬りて喰らい、抉りて貪る暴虐也!」
 詠唱によってマナをねると、『魂奪剣』を頭頂部から叩き込んだ。
 一方で、タロスギアの足元で戦うオウェードが派手に蹴り飛ばされたタイミングを狙ってルナのライフルと華蓮の矢、そしてシャノの矢がタロスギアの首元へと集中。操作していた魔術師が即死して転落する。
 操作を失ったタロスギアが暴れそうになったが、その隙を逃さずラピテースの砲撃が叩き込まれた。
 よろめくタロスギア。
「兵も羊もタロスギアも、正気を失えばただの的だ」
 ウォリアは猛烈な速度で突っ込むと、神滅剣アヴァドン・リ・ヲンをタロスギアの脚へと叩き込む。
 オウェードの地道な努力が実ってか今度こそへし折れるタロスギアの脚。
 派手に転倒するタロスギアを背に、ウォリアは剣を振り抜いた姿勢のまま息をつくように炎を弱めた。
 一方。
「ロック少佐――では、なさそうね」
 召喚した剣を握り斬りかかるレジーナ。それを難なくはねのける相手を前にして、レジーナは直感していた。
 パッと手をかざし、油断していたタロスギアへ『砲撃』をしかける。これで三体目。シャノと華蓮が更なる追撃をしかけているので緊急離脱した魔術師も撃墜された所だろう。
 かなり劣勢な状態にあるというのに、相手はしかし動揺した様子を見せない。
「『軍人なら戦場で死ぬのが誉れ』――汝(あなた)はどう思う?」
「それは弱者の言い訳だ。勝ちたければ、生き延びることだ」
 レジーナの鋭い剣戟によって相手の兜が飛ぶ。
 下から現れた顔はロックよりもずっと年上で、しかし似た顔立ちをしていた。
「我が息子の汚名、貴様の血で濯がせて貰う。それができぬのなら、帝国軍人ではいられぬのだ」
 ここまでの劣勢にありながら目が死んでいない。
 レジーナはその『気高さ』にこそ警戒した。
 こういう人間は追い詰めても心を折らないし、どころか勝機を見いだそうとする。
 自分がとてもとても大切なひとも、そういう目をするから知っている。
「だったら辞めさせてあげる」
 レジーナが手をかざし四方八方からゲートを開く――その寸前、相手は懐からフラッシュグレネードを取り出した。
「我が名はコルキス・ハウグリン帝国陸軍中佐。また相まみえることがあるだろう。それまで、死なぬことだ」
 その言葉だけを残し、コルキスは光る雪上から忽然と消えていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 グロース師団の襲撃を撃退し、アルゴノーツは無事北辰連合へと合流を果たしました。

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