シナリオ詳細
<ネメセイアの鐘>ワールド・エンド・チャペル
オープニング
●メビウスにしてバイラム
聖銃士アガフォンにとって、それは天国への道に等しい。
天義の街に生まれ、政治家の息子として何不自由なく暮らしていた彼から、ある日突然嵐のように全てが奪い去られた。
父は逮捕され、抵抗した母も処刑され、父の仕事を手伝い将来有望であった兄たちも処刑された。
何にも関わっていなかった自分だけは釈放されたが、あとに聞けば父が王宮執政官エルベルト・アブレウのもとで悪徳に手を染めていたことが全ての原因であったという。故に親戚達も彼を遠ざけ、家もなく、スラムへと墜ち飢えて死ぬのを待つばかりとなった。
そんな彼に手を差し伸べたのが、ファーザー・バイラムであった。
バイラムはアガフォンをアドラステイアへと招いてくれた。スラム同然の暮らしだったが、元々学があり剣術も学んでいたアガフォンはすぐに周りから頼られる存在となり、大人達から目をかけられるのも早かった。
聖銃士に任命され、中層への門が開き、中でも特別なプリンシバルに選ばれることで彼は世界の真実が見えた。
……そんな、気がしていたのだ。
「お前に渡していたイコルは、もう底をついたはずだ」
「はい、メビウス様」
跪くアガフォンを、どこか冷酷に見つめる男性。メビウス。
彼はアドラステイアのオトナ立ちの中でも特別視される存在だった。
他と比較するかのように『マスター・メビウス』と呼ばれる彼に、多くの神父たちも膝をつく。
アガフォンも例外ではない。
「だが案ずることはない。俺の中の『バイラム』が言っている」
メビウスは自らのこめかみを指さし、をして一度目を閉じた。
再び開いた彼の目は血のように赤く、ファーザー・バイラムのそれと同じだった。
「『アガフォン。あなたは聖獣の力を手に入れ、自在に振り回し戦う最強の戦士になりたい。そう願っていましたね』」
「は、はい……!」
アガフォンは驚きと共に顔をあげる。その声はファーザー・バイラムそのものだったのだ。
いつからだろう。フォルトゥーナ地区が崩壊してから暫くして、ファーザー・バイラムが死んでしまったのではと噂され始めた頃、マスター・メビウスは『自らがバイラムである』と主張したのだ。
初めは疑わしかったそれは、メビウス己とバイラム二つの言葉や思想を使い分けることから徐々に信じられていった。
元々、マスター・メビウスの言葉を疑うものなどそういなかったのだから。
「『来なさい。君の夢を、ついに叶える時が来ました。他の皆も一緒ですよ』」
案内されてやってきたのは、アドラステイア上層部。
美しい街並に、なぜか焦げたような匂いがする。
そこには仲間のイディやヴァルラモヴナもいた。
彼らは頷き合う。
そうだ、ついに、彼らは最強の聖銃士となる日が来たのだ。
「『受け取りなさい、この盃を――』」
差し出された赤い液体を、言われるまま飲み込む。
身体の中から力が溢れる。
イディの両腕が獣のそれに代わり、牙が伸び、全身が膨れ上がり巨大な獅子へと代わっていく。
ヴァルラモヴナは全身が突如として裏返ったかと思うと、氷に包まれた単眼の巨人へと姿を変えた。
「あ……れ……」
変だ。彼らに、知性がみられない。
これじゃあまるで。
ただの聖獣。
「ファーザー・バイラム、これは? 一体?」
「『よかったですねえ、ヴァルラモヴナ、イディ。そしてアガフォン。君たちは――』」
アガフォンの意識が飲まれていく。
彼の身体は炎に包まれ、翼がはえ、巨大な炎の鳥へと代わっていく。
自分が人間だったことも、抱いた夢も、思い出も、そして憧れも。
全てが消えたそれを見て、メビウスは両手を広げた。
「おめでとう、と言っておこうか。お前達は望み通り、最強の『聖獣』となったのだ」
●上層への攻略
ヨハン=レーム(p3p001117)たちにもたらされたのは、上層攻略作戦の報であった。
イル・フロッタ、リンツァトルテ・コンフィズリー、更には佐藤 美咲(p3p009818)がマザー・リーナとして潜入して獲得した報告。
接触してからずっとアガフォンたちの情報を追い続けていたイーリン・ジョーンズ(p3p000854)やフラーゴラ・トラモント(p3p000854)の報告。
そしてファーザー・バイラムとの接触によって『歌』が聞こえるようになっていた小金井・正純(p3p008000)やスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)たちの協力によって、いくつもの真実が浮き彫りとなったのである。
その内容というのが、『ファルマコン』の覚醒が近いというものであった。
大量の聖銃士が任命され、『プリンシパル(幹部候補生)』となった者も多い。その中にはマザー・リーナとして直接の監視対象としていた『法雨の聖銃士』アントワーヌも含まれている。経験はさほど高くなく失敗もしてきた彼女ですらプリンシパルに選ばれた。
つまりは、異例なほど『プリンシパル』を大量に作り、『何か』をしようとしているのだ。
実際、下層のスラムでは子供達が激減し、多くが上層へと送り込まれ、下層で魔女裁判にかけられた子供は疑雲の渓へと落とされ、その底に存在していたファルマコンの分体こと『魔女喰い』に喰わせていた。
「アガフォン……彼も、『知ったつもりにされていた側』の人間だったのね」
イーリンが複雑な感情の交ざったため息をつく。フラーゴラはそんな背中をそっと撫でた。
「……」
美咲は報告書のページをめくる。アドラステイアが元々天義の港湾都市を占拠する形で建設されたことは、ヨハンとコネクションのあったリルテア=ブライトストーンから聞いてた。裏には反ウォーカー団体である『新世界』が絡んでいるということも。
政治、経済、そして武力において強い背景となる彼らが絡んだことでアドラステイアは独立都市と名乗るに相応しいだけの力を得たのだが……。
「メビウス。やっぱり彼が頂点にいたんですね」
「この『マスター・メビウス』というのはどういう人物なの?」
スティアが尋ねると、正純が報告書を翳して頷いた。
「『新世界』のギルドマスターです。アドラステイアの裏へと潜る前、『新世界』はウォーカーの存在に対する抗議活動を行うギルドであり、同時にウォーカーへの報復や暗殺を専門とする闇ギルドでもありました。
彼らが『アドラステイア』を作り上げる理由はその目的を拡大するためと考えられていたのですが……思ったよりも事態は深刻なようですね」
「たしかに、そうだね……」
不正義による断罪。家族の喪失。アガフォンのような背景をもつ子供達はアドラステイアに何人も居る。聖獣に変えられてしまったあの子供達も、ある意味で……そう、ある意味で『私』なのだ。
「このままじゃ、だめだよね」
そうだ。こんなんじゃ救われない。
せめて終わりにしなくては。望まれぬ願いが、歪められた夢が、罪なきすべてを壊してしまうまえに。
殺して、あげなくては。
ファルマコンが覚醒するまであと少し。
神殺しが、求められている。
- <ネメセイアの鐘>ワールド・エンド・チャペル完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年12月17日 22時21分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●神はいるだろう。信仰も必要だ。それを使う者次第で――
上層への侵攻ルートを、天義の騎士団が駆け上がっていく。
襲いかかる聖獣たちとの激突をおこしながら、剣で敵を切り払った騎士のひとりが叫んだ。
「メビウスはこの先です。この連中は食い止めます、お早く!」
「ありがとう――」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はシスター服の裾を靡かせ、先へと進み走った。
偵察隊の報告書には目を通した。
聖銃士を中心としたクリムゾンクロス部隊の主要構成員。彼らが『バイラム』の次なるキャリアーとなったメビウスに仕え、そして強力な聖獣へと変えられてしまったという報告だ。
「アガフォン……そう、それが貴方の選択だったのね。マリリンを支えていた貴方が」
子供だらけのこの街で、彼は大人びて見えた。
まるで世界の全部を知っているように見えた。
けれど彼も、子供のひとりにすぎなかったのだ。
それを、大人達は喰らったというのか。
「終わらせましょう――『神がそれを望まれる』」
長い階段を駆け上がる。一段のぼるたびに、頭の中の『歌』は大きく、そして鮮明になっていった。
それは真実へ近づく印であり、明らかになった真実と対面するためのベルでもあった。
『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は強く拳を握り、胸に当てる。
「アドラステアがファルマコンを覚醒させる為に作られていたなんて……こんなのが歩き回って人を殺すようになったら大変なことになっちゃう。絶対に阻止しないと!」
「それだけじゃありません。ネメシスの狙いがウォーカーの廃絶なら、この活動の先にあるものは……」
同じく走る『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)。
翼をはばたかせ襲いかかる聖獣に弓を射ると、墜落するそれを無視して突き進む。
「場所は上層、敵は新世界のマスターであり、アドラステイアの中枢に食い込む男。
この都市を止めるために、ここで討ち果たします!」
そんな二人のあとを追うように進みながら、『闇之雲』武器商人(p3p001107)はふと空を見上げた。
雪のぱらつく空は、まるで泣き出しそうなほど白くて黒い。
(さて、気になる点があるといえば。『本当にバイラムがメビウスの中にいるのか』かね。
ま、居るなら居るで別にいいのだけど、"そうじゃない"時の方がより面白いだろう?ヒヒ)
周囲の聖獣たちには天義の騎士たちが襲いかかることで足止めをはかっている。
武器商人も『破滅の呼び声』を放とうかと一瞬考えたが、このチームの目標はあくまでメビウス。ここで敵を引きつけるのは理にかなわぬだろう。
そんな中、先頭を走るのは『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)だった。
「さぁて、神に歯向かう反逆者の到着だ。
毎日毎日オンネリネンをけしかけやがって、子供を戦わせて自分たちはこんなキレイな花園でお茶会でもしてるのかい? 笑えてくるぜ!
どいつもこいつも正義だの聖銃士だの小気味好い言葉で飾り付けやがって」
不敵に笑うと、ヨハンは魔法の力を両手に宿らせた。【奇跡】の溢れるこの力ならば、よほどの怪我でも即座に回復してみせるだろう。
「ファルマコンの覚醒が近い…。アドラステイアのこれまでと、この状況を思うとけして良い事ではなさそうなのです……」
その横に並ぶように『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)が走る。そろそろ戦闘が必要になるエリアだ。ヨハンを後ろに下げる頃合いだろう。
だが、そのまえに。
「元々は天義とは違う道を歩む宗教団体だったのでしょうけれど、どうしてこうなったのかな、なのです」
「さあね。あるいは最初っから『こうなる』予定で作られたのかも」
ヨハンは皮肉げにそう言った。小首をかしげるメイ。
「『新世界』の話は聞いた? ウォーカーへの抗議団体だ。今じゃそれどころか、ウォーカーへの暗殺だの排除だのって動きに変わってる。アドラステイアで一時期やってたような『浄化作戦』もその一環だろう。その活動のトップが今から狙うメビウスだ」
「まったくアドラステイアっていうのは。開ければ開けるほど悲劇ばかり出てくるのね。嫌なマトリョシカもあったものだわ」
『魔女』ゼファー(p3p007625)は苦笑し、抱えていた槍を持ってヨハンの前へと出た。
襲いかかる虎のような聖獣を槍の一発でなぎ払う。
「こんな悪趣味なマトリョシカなら、早いところ壊しちゃいましょうか」
「ああ、未来を担う子供達の生活を蔑ろにし続けて、犠牲を出し続けて……もうたくさんだ」
『子を護るは大人の役目』イズマ・トーティス(p3p009471)は怒りの表情を露わに鋼の拳を握りしめる。
聖獣を殴りつけ階段の下へと放り飛ばすと、対に最上階へと到達した。
『新世界の聖堂(ワールドエンドチャペル)』。
アドラステイア上層に存在するそれはメビウスの拠点であり、闇ギルド『新世界』の拠点でもある。
今はその入り口。『虹の花園』と呼ばれるエリアである。
美しく飾られたゲートには『ようこそ』と古代の文字で描かれ、色鮮やかな花々がバラバラに咲き乱れている。
中央に通る細い道には、聖銃士たち。
いずれもプリンシパルに任命されたような精鋭だ。
「この腐敗した街を終わらせる……!」
「また、ここへ来てしまいましたね」
『悪縁斬り』観音打 至東(p3p008495)は後ろを振り向いた。遠い遠い、ここではない場所を想って。
ここ最近の彼がアドラステイアについて語ることはなくなった。時折思い出すように口にするが、言葉に詰まるような様子もない。きっと新しい生活の中で、彼なりに過去を振り切ったのだろう。
それがいい。そうしたほうが、きっと人生を前に進められる。
至東はどうだ。前に進められるだろうか。
「抜刀必殺をうたう観音打の娘として……」
プリンシパルによって構成された精鋭アントワーヌ隊。
メビウスのワールドエンドチャペルの防衛を任された彼女たちは、それぞれが一級品の装備に身を包んでいる。
「ここまで、よく頑張りましたね。アントワーヌ」
『法雨の聖銃士』アントワーヌの肩をぽんと叩き、マザー・リーナは微笑みかけた。
「あなたのおかげです、マザー・リーナ」
アントワーヌはいくつものドッグタグをポケットに入れて持っていた。これまでの作戦で失った仲間達、あるいは部下達の認識用プレートだ。
「これまでの犠牲を、決して無駄にはしません。やっと幸せを手に入れたんです。この場所を、壊させたりしない!」
杖を握りしめるアントワーヌ。マザー・リーナは微笑み、そして……。
●『虹の花園』
色鮮やかな花園で、聖銃士達が構える。
ある者は光り輝く剣を、ある者は力溢れるライフルを、彼らの後方にて、水晶の浮いた杖を握るのは部隊のリーダーにして高位のヒーラーとして成長したアントワーヌである。
「楽園を侵す邪悪なる国の使徒よ、あなたたちの侵攻はここで止めます! 真なる神、ファルマコン様の名の下に!」
戦いは、飛び出すゼファーの足音から始まった。
「させない!」
槍を握った聖銃士が飛び出し、ゼファーによるスイングに対抗する。これだけ動けるということはかなりの反応速度を持っているということだろう。と同時に、ゼファーの打撃をまともにうけて耐えられるだけの頑丈さも。
垂直に立てた槍で打撃を受けると、槍使いの聖銃士はゼファーの槍をからめるように抑えると強烈な前蹴りを叩き込んだ。咄嗟に片腕を防御に回すゼファー。
「やるわね」
が、すぐにゼファーの腕は相手の喉へと伸びていた。
掴むでも絞めるでもない。突き出した親指で喉を潰すように放ったのである。
「ぐっ!?」
大きくのけぞる槍使い。
「深く攻めるな、囲まれるぞ!」
顔に傷をもったライフル使いの聖銃士がゼファーへと牽制射撃。そのまま後衛チームめがけて打ちまくる。
メイを襲った銃弾は、しかしヨハンによって止められた。展開した『聖盾』が銃弾を空中で止める。それを抜けた弾がヨハンや別の味方へ命中したが……。
「アントワーヌさんねぇ。まぁ、努力は認めるがね。
そもそも子供たちにテッポーもたせてバンバンバンバン命のやり取りを行ってる事自体がおかしいとはおもわんのかね?そんなもんを治癒魔術で支えるなんざ悪魔の所業と変わらんぜ。そんな事もわからんのでキミはヒーラーとして二流なのだ。そしてファルマコンなどという得体の知れないものに縋り、自分が救うという気持ちが感じられない。この事を加味して三流ってとこかな」
ヨハンはそう呟くと、自らの治癒の力を解放する。
「来な、本物のヒーラーってやつを教えてやるぜ」
「今回、そこそこ長丁場の戦いなのです。確実に攻めていくですよ」
メイはここぞとばかりに魔力を解放。治癒をヨハンに一旦任せ、自分は敵のライフル使いめがけて魔力の砲撃を放った。
まるで教会の鐘が鳴るかのような音がした途端、花咲く光の砲弾がライフル使いへと直撃する。
「貴方たちの信じる神は、信仰どころか貴方達自身を喰らおうとする怪物です。
私は、そんなものを神とは認めない。
だから、ここで止めます!」
そこへ正純はすかさず追撃を放った。
彼女の矢がライフル使いの腕に突き刺さった――その瞬間。
アントワーヌは治癒の魔法を発動。ライフル使いの腕にできた傷が瞬間的に修復される。
「怪物を狩っていたのは天義国のほうでしょう! それを認めず、真なる神を冒涜するなど、許せません! あなただって分かっているはずです!」
「……この感じ、懐かしいですね」
正純はぽつりと呟き、ある青年のことを思い出した。
(私はあなたを一度折ってしまった。けれどあなたは立ち直った。あの子もそうなれるのでしょうか……セルゲイ)
「いいえ、難しいでしょう。だって、あなたは裏切られたのですから。アントワーヌ」
正純の呟きに、アントワーヌは『えっ』と小さく呟いた。
瞬間。彼女の後ろから素早く腕が回り、足が回り、地面へ投げ飛ばされたとおもった時には視界は空を向いていた。
舞い散る花と雪。
彼女を組み伏せる女は――。
「マザー・リーナ、なぜ」
「あなたは人を疑えたはずなのに、それを忘れてしまった」
ベールを脱ぎすて、眼鏡をかけなおす。
『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は、冷徹な目でアントワーヌを見下ろしていた。
(アドラステイア、ローレット、そして私。
どれが正しいではない。
あなたは全て信じてはいけなかった。
お願いだから、疑って。
貴方が生きるために)
拳銃を抜き、アントワーヌの額へ銃口を押しつける。
「アントワーヌッ!」
それを邪魔したのは白銀の鎧を纏った剣士風の聖銃士だった。
銃を蹴りつけ狙いを外させると、その瞬間に発砲が起こる。本気なのだと確信し、剣士は美咲に剣を叩きつけた。
鍛え抜かれたその動きは素早く、本来なら美咲の首をはねるに充分だ。本来ならば。
「彼女を内に招き入れてしまった時点で、詰んでいたんだ。君たちの状況は」
刀身を絶妙な間合いで掴み、押さえ込む鋼の手。イズマだ。
「なっ!」
驚く剣士の腹に蹴りを入れると、そのまま蹴り飛ばし距離をとる。
「ファルマコンは何の救いをもたらす?
生贄を出させてきた信仰が、今更どう救ってくれる?
救われるとはどういう事だ?
……考えて、そして気付いてくれ」
「信じられるか……お前達は嘘吐きだ! アントワーヌを騙した!」
「ああ、そうだ。騙すし、戦う。指をくわえて見ているつもりはないからな」
イズマが美咲を守るように立ち、アントワーヌとの間に割り込み構える。
本来カバーするべきヒーラーを押さえ込まれたのだと気付いた彼らは動き出すが、もう遅いと言わざるを得なかった。
「私が誰を救うべきで、私が何を守るべきなのかは、私がもう決めたのです。
その席にあなたがたは座っていない。座れない。座らせない」
抜刀しながら至東が急接近をかける。大小ワンセットとなるビーム型の刀身が剣士の剣にぶつかり、押さえ込んだところでビーム小太刀による突きが剣士の脇腹を刺す。
鎧によって抵抗があったものの、激しい火花を散らし貫くまでほんのコンマ五秒しかない。
こらえきれず血を吐く剣士。
「アントワーヌを離せ! 悪魔ぁ!」
短剣使いの聖銃士が目を見開き、涙を流しながら突撃してくる。
が、彼の頭部をイーリンの旗槍による打撃が襲った。
大きくぐらつく短剣使いの身体。しかしすぐに体勢をたてなおし、逆手に握ったそれをイーリンめがけて繰り出した。
「邪魔をするなよ! 何も知らないくせに!」
「――」
黒剣を素早く抜き、払う。刀身がぶつかり合った瞬間、力の流れが変わり短剣使いの方が弾かれる。がら空きになった頭部に再び旗槍の柄が叩き込まれ、今度こそ短剣使いは地面へと倒れた。
降り積もる雪のせいで花畑の色は白くそまったが、それ以上に彼が流した血で赤くそまっていく。
「あなた達の理想郷は、こんな風景でいいのかしら……」
ゼファーがため息をついて呟いた。
「黙れよ……滅茶苦茶にしたのは、あんた達だろ。僕らを捨てたのだって、天義の連中じゃないか!」
吠える獣のように叫ぶ短剣使い。
スティアはその憎しみに満ちた視線をうけて、目を細める。
「悪いようにはしないからもうやめにしないかな?
親しい人が消えていくこの国で頑張るのは辛くない?
このまま残っても殺されるか、聖獣にされるだけなんだよ」
目が合った。少年の瞳が揺れる。
気付いてないわけじゃないよね。君の仲間達が聖獣になってしまったことに。それとも……。
「気付かないふりを、してるのかな」
「――」
ヒュッと喉をならし、短剣使いが起き上がる、そしてスティアめがけて飛びだした。
「黙っ――」
スティアを狙って飛び出したはずの彼の剣は、武器商人の腹へと刺さる。
無意識のうちに『破滅の呼び声』の影響下にあった彼は、自分でも気づかぬうちに武器商人へと飛び出していたのだ。
「子供達。暫く我(アタシ)と遊ぼうじゃあないか。ヒヒヒ!」
笑みを浮かべる武器商人。しまったと呟き剣を抜こうとするその腕を、武器商人が掴む。
蒼い炎が燃え上がり、侵食するかのように短剣使いの腕を這い上がっていく。
「考える時間はあげる。殺さないよ」
その横をスティアが悠々と通り抜け、そして美咲に押さえつけられたアントワーヌのそばへと立った。
見下ろすスティアの瞳にうつる決意を見て、美咲の両腕を掴みギリギリ抵抗していたアントワーヌは首を振った。
「――やめて」
「――ごめんね」
終焉をもたらす氷結の花が、雪の積もった花畑に咲き乱れた。
花はアントワーヌを包み込み、その意識を奪っていく。
振り返ると、ゼファーや正純たちが他の聖銃士たちを倒し終えた頃だった。
死者は出していない。ファルマコンの贄になってしまうことも避けたいが、そもそも殺したい相手ではない。
美咲はほっとして肩を落とし……そのことに、目を見開いた。
「どうしたの?」
「……いえ」
美咲は眼鏡のブリッジを指で押すようにして位置をなおすと、ゆっくりと立ち上がる。
「なんでもありません」
「とりあえず、全員無事かしら?」
ゼファーが槍を水平に肩へ担ぐように持ち、彼女たちの前に出るように立った。
戦闘不能になった仲間はいない。ヨハンによるエネルギー回復もあって次への影響は殆ど無いと言っていいだろう。
「フル充電状態で戦えますよ。さっさと本命を倒しちゃいましょう」
手にした剣をくるりと手の中で回しつつ、隣に立つ至東。
見つめるは、ワールドエンドチャペル。
ネメシスの待つ、最後の聖堂。
●『聖堂にて』
紫色の光が斜めに走り、巨大な両扉が切り裂かれる。
崩れて落ちた扉の向こうに、赤い絨緞が伸びていた。
雪降る庭園に足跡をのばして、彼女は……イーリンはその室内へと踏み入った。
「待たせたわね」
「……」
炎に包まれた巨大な鳥が、聖堂内の脇に立っている。同じく氷の単眼巨人が。白く巨大な獅子が。いずれの目にも知性はなく、その最奥に座する一人の男に使役されるのみであった。
ヨハンは指を突きつけ不敵に笑う。
「マスター・メビウス? 様式美として一つ聞いておこうか。
『何故こんな事をする? お前は何者だ』とね。返事はしなくていいぜ、あとでじっくり尋問してやるからよ!」
「ならばこちらも様式美として言っておこうか。
『ここまで来たことを褒めてやろう。だがここまでだ』とな。聞き入れなくていい。期待はしていない」
悠々とそう述べるマスター・メビウス。
長い銀の髪に渇いた血のような目。足を組みすらする彼の様子に、ヨハンはチッと舌打ちをした。
この世には大きく分けて二種類の相手がいる。思い切り殴りつけたら自由にできる相手と、思い切り殴りつけても自由にできない相手だ。
理由は様々だが、メビウスはどうにも後者に見えてならない。これほど嫌なことはない。
「『悪の親玉』が偉そうに――」
ヨハンは自らの『聖域』を展開。
特に影響を強く受けたスティアは大きく踏み込んだ。押さえ込もうと殴りつけにかかるヴァルラモヴナ。
割り込みをかけた武器商人は、相手の狙いが単純な物理攻撃でないことを悟る。なぜなら、拳を中心に大量の魔方陣が開き、氷の槍が周囲へ放たれたためだ。
槍が武器商人を貫く。致命傷……に見えたが、ギリギリで死の運命を逃れたらしい。
「"火を熾せ、エイリス"」
蒼い炎が燃え上がり、ヴァルラモヴナへと襲いかかった。
一方で氷の槍に対抗したのはヨハンだった。(ダメージが強みになる武器商人は別として)仲間達を効果範囲に入れたまま聖域に治癒の力を満たしていく。
先ほど戦った聖銃士たちとはワケがちがう。ヨハンですらフォローしきれないような激しいダメージがばらまかれる。抵抗できているのはヨハンが回復に集中しているからともいえるだろう。
一方でスティアはヴァルラモヴナへの深入りを避けた。武器商人が自らをかばったその一瞬の間に『終焉の花』を放っていたが、目的の効果はレジストされてしまったようだ。完全な耐性を持っているとは限らないので難度も試せばあるいはと思えたが、スティアは割り切って次の行動へと移る。つまりは。
「メビウス。ここで終わりにするよ」
ヴァルラモヴナの足元をすりぬけるように突っ切り、メビウスへと接近をしかける。
翳した手から舞い上がる氷の花弁。
それをメビウスめがけて突き出すと、メビウスもまた手をかざした。
大量の血色の花弁が舞い上がり、空中でぶつかり合っては砕け散る。
頭の中で鳴り響く聖なる声を、スティアは無理矢理振り払う。間違いない。『ファーザー・バイラム』の力だ。メビウスはあの力を使いこなしているのだ。
次の瞬間。聖堂の天井部が破壊された。アガフォンが大きく翼を広げ飛び上がったのだ。それだけで建物は破壊され、雪降る空が露わとなる。
上空で歌うように鳴くアガフォンは、まるで芸術品のように美しく空を舞うと炎の柱を次々に作り出した。
それを――。
「あぶないのです!」
メイが咄嗟にカウンターヒールを開始。炎の柱が槍へと圧縮され、それが更に短剣へと圧縮される。高密度の炎が次々にイーリンやゼファーたちへと降り注いだのだ。
突き刺さるそれらを、傷となった側から治癒していくメイ。
「何が救いなのです! 貴方達の救いとは、誰かを犠牲にするのが前提なのです?
自分が救われればそれで良いのですか?」
メイは感情を露わにメビウスへと呼びかける。
スティアと血色の花弁をぶつけ合いながら、拮抗しているはずにもかかわらずメビウスは余裕そうに銀の髪をはらった。
「犠牲なく救われる人間などいない。飢えた子供にパンを与えるなら、他の誰かがパンを失う。当然の理だ。にも関わらず……この世界へ無尽蔵に『世界の他人』を呼び出した。
良い迷惑だと思わないか。そこまでしなければ滅ぶ世界だというのなら、滅んでしまえばいい。受け入れられず、他人を犠牲にした。それが『イレギュラーズ』という救いの本質ではないか?」
「そんなことはないのですよ! それは、理屈をむりやりくっつけただけなのです!」
「少なくとも、私は迷惑したことないですけれど?」
ゼファーは皮肉げに笑った。彼女は大陸中を渡り歩き、その中でいくつもの風景を見てきた。故郷を儚んで狂ったウォーカーも見てきたし、ウォーカーゆえの迫害も見なかったわけではない。けれど、『そんなの今更』じゃないか。
「ウォーカーがどうだなんて、関係ないのよ。あなたは、気に入らないものを壊す理由が欲しかっただけ」
ゼファーは飛来する無数の短剣を槍で払いのけ、イーリンもまた回転する旗槍でそれらを払いのける。
ゼファーは周囲をちらりと観察すると、長いベンチを蹴飛ばして壁に立てかけ、その上を駆け上ることで素早く壊れた壁へとよじ登る。
そこから跳躍をかけると、宙を舞うアガフォンの身体に槍を引っかけた。
ぐらりと傾くアガフォン。
それが、大きすぎる隙となった。
イーリンは旗槍に紫の光を纏わせ、振り抜いた。
一本の巨大な槍となって伸びたそれは、かたむいたアガフォンの目へと迫る。
「アガフォン……死んではジェニファーを救えないと言っていたのは、貴方でしょうに」
墜落したアガフォンの首に黒剣を押し当て、止める。
いつかを思い起こすように。いつかの会話を思い出すように。
「思い出せるかしら、アガフォン?」
一瞬、アガフォンの動きが止まった。
「ア――」
何かを口から発音しようとし、そして、狂ったように叫ぶ。それは咆哮といっていい叫びだった。
振り向き、炎を吐き出すアガフォン。ゼファーが咄嗟にイーリンを掴んで壁際まで飛ばなければ直撃をうけていただろう。
「がっかりよ、アガフォン! あなた――ひとつだって、約束を果たせていないじゃない!」
待っている人も、救おうとした人も、ぜんぶぜんぶ。そんなのまるで――。
「美咲、大丈夫か?」
「なにがでス? あー、おなか空きましたね」
イズマと美咲はイディを囲み、断続的に攻撃をしかけることで動きを抑え込んでいた。
いや、押さえ込むというのは構図として正しくない。
とてつもなく激しい攻撃をギリギリしなないようにしのげているに過ぎない。攻撃を受ける役とそれをフォローする約をしきりに交代し続け、その上で味方のヒーラーによる補助を目一杯に受けてやっとの状態だ。
ヴァルラモヴナから順に倒して行く作戦だったが、ヴァルラモヴナがしぶといせいで時間がかかっているのだ。こちらのリソースはどんどん削られている。
……が、イズマが気にしていたのはそんなことじゃない。
(美咲、先ほどから様子が変だ。テンポにブレがある。何か迷いがあるのか?)
そう。美咲はアントワーヌとの戦いを終えてから妙に動きに迷いがあったのだ。素人目に見たならばハイレベルなイレギュラーズの戦闘風景だが、達人として見ればコンマ一秒の動きに若干の迷いが見えるのだ。
「――ッ!」
そして迷いは、極限の戦闘のなかでは致命傷を生む。
攻撃か防御か、あるいは他の敵を優先して狙うか。封殺するならどの敵からか。はたまた――という思考が高速で回ったことで、目の前のイディが消えて見えた。
正確には、美咲がとらえきれない速度で後方へ回り、彼女の腕を食いちぎったのだ。
「美咲!」
イズマは美咲へ駆け寄り、彼女を抱きかかえながら跳び蹴りを繰り出すという荒技でイディを牽制。そしてヨハンに向けて美咲を放り投げた。
キャッチしたヨハンが彼女の腕を再生させるが、ダメージのショックからか意識は戻らない。
「……彼女は僕がなんとかする。イディをそのまま抑えておいて」
「『公務員の方』の代わりは我(アタシ)が務めようか」
ゆらりとフォローにはいる武器商人。
が、形勢が悪化した……とまでは、イズマは思わなかった。なぜならイディの動きもまた弱っていたからだ。美咲が腕を食いちぎられるその瞬間に、見事に一矢報いていたのである。
その間に、ひとつの勝敗は決していた。
「殺しかたに注文をつけられる筋合いはありませんが――」
散々にぶつかり合ったヴァルラモヴナめがけ、至東は壁を蹴って跳躍する。
まるで弾丸のような速度で飛んだ彼女はビームムラマサを振り抜き、コマのように一瞬だけ回転。
「――ころりと、花が転がり落ちるように死ねるとよいですネ」
至東がヴァルラモヴナの横をすりぬけた次の瞬間、単眼巨人の首が切り取られ、地面へと落ちる。まるでガラス細工のように砕けたそれに、氷以上のものはなかった。
そうなれば残ったのはただの巨大な氷塊だ。
ぐらりと傾き、壁にかかった絵画を引き裂き並ぶベンチを粉砕しながら転倒する。
至東はそこでようやく、こちらの勝ちを確信できたのである。
ヴァルラモヴナが倒れ、イディが崩れ落ち、アガフォンが墜落し燃え尽きる。
炎は広がり、降りそそぐ雪がそのそばから溶けていく。
正純はメビウスめがけ弓を放った。
「メビウス――!」
が、弓はメビウスの身体から伸びた血色の腕によってキャッチされる。
腕からは頭やもう一本の腕が生え、いびつに歪んだ『バイラム』が姿を見せた。
丸眼鏡を指でおし、にやにやと笑っている。
正純の頭の中に歌が響く。
「貴方は子供たちをこんな怪物に変え、こんな都市に入り込み、何を――」
『――メビウスを倒すのです。彼は哀れな子供達を毒牙にかけた極悪なのです』
脳内に声が響く。それは正純だけの問題では無かった。その場に居る仲間達にすら、それは聞こえた。
思わず同意してしまいたくなるような正しさで。
『――このままアドラステイアが残ったとしても、子供達が実験や魔女裁判や傭兵徴用によって失われるだけです』
正しさ。
『――あなたが救わなくてはならないのです。誰かに任せては、きっと同じことが繰り返される』
正しさ。
『――国は間違えました。魔種を同胞と見まがい数多の悲劇を見逃しました』
正しさ。
『――仲間達は間違えています。友や家族に魔種をもち、あまつさえ同胞からも魔種が産まれます』
正しさ。
『――ローレットは間違えています。集めたパンドラを自分達の都合で消費し、国家を身勝手な感情論で操ろうとしています。いずれ彼らが魔種にならないとも限りません』
「黙りなさい!」
正純は感情的に叫んだ。
『迷わない』彼女を惑わすほどに、それは『強制的に正しく』思えた。
だから、殺さなければならない。なぜだろう。そう思えた。
「これ以上好きにはさせない!」
怒りすら込めた矢が、幾度も放たれる。
まだ無事な仲間達がメビウスへと襲いかかる。
「所詮は人の形をしたモノ。斬れば死ぬでしょうし、ならば殺してしまいましょうや」
その中でも至東が特出して走り、メビウスの首を切り落とした。
そう、確かに切り落とした。
にも関わらず。
「なるほど。痛みはある」
スティアの魔法と自らの魔法を拮抗させていたメビウスが、落ちた首でそう言った。
彼から伸びる血色の腕が首を拾い、元ある場所へと据え付ける。毛細血管のように細かく伸びた血が張り付き、まるで傷などなかったかのように修復してしまう。
だからこそ、確信できる。
人間では、ない。
「魔種か……」
イズマが直感からそう呟く。いや、皆が抱いた確信といってもいい。
「その呼び名でも構わないが……」
メビウスを大量の血色の固まりが覆い、その上から白銀の外骨格が覆っていく。
美しい彼の銀髪にもにたその外骨格は、もはや人の形などとどめるつもりはないようだった。
しかし、これ以上戦おうという様子は見えない。
燃えさかるチャペルを見回し、息をつくように肩をおとす。
「ここはもう『おわり』だな。残念だが、我々の『敗北』のようだ」
口ではそう言っておきながら、悔しがる様子も、まして絶望する様子もない。
だがそれをおかしいとも思えない。なぜなら、今のイズマたちの残存戦力では、彼を倒しきることは不可能に近いのだ。
「『刻』が満ちる。退くとしよう」
メビウスは最後にそうとだけ告げると、銀の暴風を吹き荒らした。
咄嗟に防御に回るゼファーたち。が、風が晴れたあとには……メビウスの姿は消えていた。
逃がしたのか。それとも助かったのか。
いずれにせよ……。
「追いましょう。『あれ』を放置するわけには行きません」
正純の呟きに、誰もが同意したのだった。
●ワールドエンドの向こう側
佐藤美咲の話をする。
あるいは小金井正純の話であり、イーリン・ジョーンズの話であるかもしれない。
この三人に共通する、つまりは『聖銃士』の話であり――更に共通する、『イコル依存症』についての話である。
継続的なイコルの摂取をうけていた聖銃士、セルゲイ・ヨーフ。ジェニファー・トールキン。アントワーヌ。
彼女たちはイコルのもたらす多幸感ゆえにそれを強く求める症状が現れ、次第に自身での制御が難しくなっていく。
佐藤美咲は『その境目』を見つけるべく、イコルと称した偽薬をわたすことでアントワーヌにどのような症状が現れるのかを調査していた。
一方でジェニファーは強制的にイコル及びアドラステイアから引き離されたことで長期にわたってその症状に苦しみ、隔離された施設内で時には狂暴に振る舞うことすらあったようだ。施設を管理していたスナーフ神父は同様の依存性対策と同じように『とにかく遠ざけ、強く求めても強制的に遠ざけ続ける』という方法しかとることができなかった。というより、それが一般的な対処法なのである。
酒や煙草に代表するように、普通依存性には『解毒』のようなものはなく、微量に摂取させながら少しずつ遠ざけるというような方法しかとれない。イコルのように危険なものはなおのことゼロかイチかの話なのだ。
そこへきて、セルゲイ・ヨーフ。彼は不思議なことにアドラステイアから離脱した後に、依存性を現さなかった。
この違いは何か。わかりそうで、まだわからない。
そして知っているのはおそらく、イコルを製造していたバイラム――ひいてはそのキャリアーであるメビウスなのだ。
そう、だから。
追う理由はもう一つある。
「――彼から、イコルの中毒症状を解く方法を聞き出さねばなりません」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
――ワールドエンドチャペルの制圧と破壊に成功しました。
――メビウスは魔種である正体を現し、撤退しました。
――作戦は成功。次の段階へと移ります……。
GMコメント
これはついに決行されたアドラステイア上層部への侵攻作戦です。
上層部には多くのプリンシバル、聖銃士、そして聖獣が配置されています。
これらを突破し、上層への侵攻を果たしましょう。
●上層部攻略戦
アドラステイアは現在『殉教者の森』への兵派遣を行なっており、攻め入るには絶好の機会です。
それをおぎなうように、『マスター・メビウス』は自らの周囲に配置する戦力の増強を行っています。
中層を管理していた大人達から聖銃士をなかば強引に引っ張り上げプリンシパルに任命、自らの護衛部隊へと配置したり、一部の優秀だった聖銃士たちには神の血を与え強力な聖獣へと変えてしまうなど……。
そして驚くべき事実として、この上層部で死んでしまった人間はファルマコンの特殊能力によって『ファルマコンの贄(養分)として摂取される』効果が発生します。
聖獣となってしまったものはともかく、人間(聖銃士やプリンシパル)は生きたまま捕らえるとよいでしょう。
●フィールド『新世界の聖堂(ワールドエンドチャペル)』
マスター・メビウスの拠点として上層に存在している建物です。
本シナリオの攻略目標であり、特に攻略の難しいポイントでもあります。
というのも、新世界のギルドマスターである『メビウス』の拠点であるためです。
作戦では正面から突入を行い、展開している聖銃士やプリンシパルたちを鎮圧。
その後にチャペルへ突入しメビウスと三体の強力な聖獣との戦闘を行います。
●前半戦:正面ルート『虹の花園』
美しい花園に聖銃士たちが展開しています。
ここには数多くの聖銃士や、それに任命されたばかりの子供達がいます。
プリンシパルに任命されたばかりの『法雨の聖銃士』アントワーヌもここで指揮を執っています。
ここで人間が死亡するとファルマコンの贄となるので、できるだけ殺さずに捕らえるのが適切でしょう。
なお、天候は雪です。
・『法雨の聖銃士』アントワーヌ
優秀なヒーラーであり、過去に部隊を全滅させてしまった経験からダメージコントロールセンスを磨いたり、タンクヒーラー的な動きが出来るようになったりとかなりの成長があります。
この聖銃士部隊のなかでもかなり格が高く、指揮も彼女が行っています。
未だ『アドラステイアの善の部分』を信じており、ファルマコンが覚醒すれば自分達が救われると信じています。
・聖銃士たち
アントワーヌと共に戦う戦士達です。彼らもファルマコンの覚醒が救いになると信じています。
●後半戦:対メビウス『聖堂にて』
聖堂へと突入します。
ここには三体の強力な聖獣とメビウスが待ち構えています。
・アガフォン
炎に包まれた鳥型の聖獣です。恐ろしく機敏で攻撃力が高く、こちらの防御を打ち崩します。
・ヴァルラモヴナ
氷の単眼巨人めいた聖獣です。高い防御と広範囲攻撃を得意とし、衝撃や暴風の吹き飛ばしによってこちらの陣形を乱します。
・イディ
白い獅子型の聖獣です。全体的なスペックが高く、攻撃が単体へ向けたものしかないことを除けば隙の無い強敵です。
反応もそれなりに高いので、超高反応をもっているならマークして抑えておくのがベストでしょう。
・メビウス
ここにいたって未だ正体不明の男です。
不動・輪廻という表の顔をもっていましたが、正体はすべてそのカバーによって隠され実力すらも不明です。
ハッキリしていることは、彼に『バイラムの肉腫』が寄生しており、しているにも関わらずメビウスは自我をしっかりと保っているということです。
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