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シナリオ詳細

<ネメセイアの鐘>そして誰もいなくなる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 寒い、を通り越して、痛い。
 お腹いっぱいのご飯なんて贅沢は望まない。
 せめて、この冷たい雪から身を守れるものがほしい。
「見つけた! あいつが裏切りものです、ティーチャー!」
 ぼくを指差す子供の声。昨日は、別の子を一緒に処刑したのに。
 魔女にされたら、処刑されたら、寒くなくなるかな。
 ……でも、いやだ、死にたくない、死にたくない……!
「あ……」
 子供の声が途切れる。殺されていた。
 あの子が呼んだティーチャーはどこにもいない。
 近くにいるのは聖銃士の子かな。
「俺達のファザーが新たな戦士を必要としている。寒いのが嫌なら来い」
 何であの子が殺されて、ぼくが助けられるのかは全くわからない。
 わからないけど、この手を取ればきっと寒くない。
「こ、これで……戦士に、なれる……?」
 昨日の裁判で手に入れたばかりのキシェフのコインを見せる。
 聖銃士の子は、すぐにぼくを連れて行ってくれた。


「信仰とはアイです。その果てに破滅が待っていようと、アイする自分が満たされているならば他人が口を出すべきでは無い……と、我(わたし)は考えますが」
 イレギュラーズと合流した『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)が、隠していた角と羽を露わにする。
 独立都市『アドラステイア』。天義の首都フォン・ルーベルグより離れた海沿いの都市では、新たな神とされる『ファルマコン』への信仰を柱に数多くの子供達が少数の大人に教導されながら暮らしていた。
 この『ファルマコン』が近く覚醒するらしい、という情報がもたらされたのだ。
「この都市はアイによってアイが殺される場所。小さなアイは、より大きなアイの糧として貪られます。
 子供の無垢な信仰は、大人の権力の手段として。大人の成果は、彼らが望む神の贄として。
 これより向かうのは、『アドラステイア』の上層部になりますが……そこで失われた命は、平等に『ファルマコン』の贄となるそうですよ」
 これまでにも、既に多くの贄が捧げられてきたのだ。
 魔女裁判で処刑された子供の命も。
 友を殺してやっと聖銃士になった子供の命も。
 更に『研鑽』して、立派なプリンシパルとして『大人』になり二度と還らなかった子供の命も。
 全て、全て。『大人』達が求めるこの神によって貪られてきたのだ。
「……その『ファルマコン』を殺せばいいのか」
「いずれそうなるかもしれませんが、その前にやることが」
 声も低く尋ねた『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)へ、チャンドラが答える。
「『オンネリネンの子供達』。子供達による傭兵部隊ですね。
 組織そのものは瓦解していますが、その残党がまだアドラステイアの戦力として残っています。
 よほど信仰が強いのか、他に生きる術を知らないのか……アドラステイアを離れることを拒み、聖銃士の統率でゲリラ戦を続けているようです」
 ただし、今回の主戦場は上層部となる。
 もしそこでイレギュラーズが子供達と戦闘になり、彼らの命を奪うことがあれば、それはそのまま『ファルマコン』覚醒の贄となってしまうのだ。
 かの神の覚醒後に起こる災害は計り知れないため、贄を与えるようなことは可能な限り避けねばならない。
「アイのままに殉教させることも儘ならないとは……。ああ、でも。それを憐れと思うこともまたアイ。とんでもない傲慢ですね。ふふ、あはは!」
 軽やかに笑って、チャンドラはようやくイレギュラーズにこの度の目標を告げた。
「我(わたし)達を殺しに来る子供達を、この街の外へ逃がしてください。
 逃がした後に生きていけるかどうかまでは責任を持たなくて結構です。今のこの街で、死ななければいいのですから」
 アドラステイアにいる子供達は、元々戦火や災害などによって外では生きていけず、この街へ集まってきたのである。その子供達を、外へ逃がした後は放置でいいというのはあまりにも。
 疑問に思う者がいたなら、チャンドラは答えるだろう。
「信じていた大人も、仲間の子供も、明日には自分を処刑するかもしれない街で命を繋いでいた子供達です。
 全ては、『神様』のため。彼らの『神様』以外の、一体何が、彼らの心に届くというのです」
 信仰とはそういうもの。狂信や盲信となれば尚のこと。
 それでも彼らへ何かを届けられる、何かを変えられるなどという傲慢さがあるのなら――時間の許す限り、何かをしてみるのもいいだろう。


 キシェフ一枚で、聖銃士になれるなんて!
 あの子には感謝をしないと。
「聖銃士は『オンネリネンの子供達』とは違う。外から来る悪い奴を退治しないといけない」
 見たことないやつらを殺せばいいんだね。聖銃士の装備があるならできる!
「悪い奴は、強くてずる賢い。デタラメを教えられて街を出ようとした聖銃士もいる」
 わかってるよ、ぼくらの神様が一番なんだから!
「ファザーが、『オンネリネンの子供達』に悪い奴らを探させている。見つけたらここまで追い込んで来るらしいから、二人でとどめを刺すぞ。もう銃は使えるな?」
 うん!
 よし、悪い奴をたくさん殺して、神様からご褒美たくさんもらうんだ!
 もう二度と、寒くならないように……!
「……死ねば寒くないぞ」
 冗談はやめてよ、ぼくだってもう武器を使えるんだからな!

GMコメント

旭吉です。
ずっと興味があったアドラステイアとようやくご縁ができました。

●目標
 聖銃士と『オンネリネンの子供達』を贄にしない

●状況
 天義の海に面した独立都市『アドラステイア』。その上層部の一角。
 北方からの冷たい風に雪が混じり、今日はとても寒いです。
 中層から塀に隔たれた高層は、高い塀に囲まれている事を除けば非常に美しい街並みですが、焦げ臭い・生臭い・気分が悪くなるような匂いが潮風に混ざって蔓延しています。
 この匂いが及ぶ範囲で死ぬと、敵・味方の区別なく『ファルマコン』の贄となります。

 武装した聖銃士(今回彼らの『ファザー』は表に出てきません)の二人が『オンネリネンの子供達』と連携し、地の利を活かしてイレギュラーズを袋の鼠にする気でいます。
 彼らをこの場で殺してしまうと『ファルマコン』の贄になってしまうため、できるだけ外へ誘導しましょう。

 彼らへの洗脳は強く、説得して納得してくれる保証は無いですが、どうしても改心して欲しい場合は行動してみてください。

●敵情報
 聖銃士×2
  先輩と後輩。名はカインとレメク。
  聖銃士の鎧と、銃で武装しています。
  建物の影に隠れながらイレギュラーズを狙撃する。
  神への盲信に加え、レメクはカインへ盲目的に恩を感じている。

 オンネリネンの子供達×8  
  地の利に長けた子供の傭兵部隊。
  『ファザー』の指示で聖銃士達に協力する。
  聖銃士達がいる場所ヘイレギュラーズを誘い込もうと、簡素なナイフで攻撃を仕掛けてきます。
  大人の言うことを聞けば神様が喜んでくれると本気で信じています。

●NPC
 チャンドラ
  戦力的には回復(単体・範囲)とも可能。
  特に言及が無ければ描写はありません。
  (防御は紙なので壁には向きません)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ネメセイアの鐘>そして誰もいなくなる完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
冬越 弾正(p3p007105)
終音
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ


 吸い込んだ冷たい空気は、肺の奥まで満ち満ちて。
 ゆっくりと吐き出せば、白い吐息はすぐに溶けていった。
「雪……って……冷たいんだね……。……冷たい海みたい……」
 海中の冬は温度が下がることはあっても、冷たい雪は降らない。ディープシーの『玉響』レイン・レイン(p3p010586)にとっては、これが初めての陸の雪だった。
 この、死臭に満ちたアドラステイアの雪が。
「どこも酷い臭いだな」
「この臭いの及ぶ所で死ぬと、ファルマコン復活の贄となる……どういう仕組みかはわかりませんが」
「恐らくは、臭覚……壁や屋根に遮られず、貪欲に手を延ばしてくる類いの物なのだろう」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)が、それぞれ別の場所から戻ってくる。
 アーマデルはこの地に残る霊魂との意志疎通を試みていたが、問いかけても応えてくれる霊が全くいなかったのだ。霊魂も残さず贄とされてしまったのか、いても何か理由があって応えられなかったのか。
 今はその謎を仲間に伝え、推測するしかできない。
「そう、ですか。どなたの霊魂とも、お話が……。チェレンチィ様、は。何か、見つけましたか?」
「今のところは何も。そちらは?」
「こちらも、まだ……」
 チェレンチィはその優れた機動力と視野の広さを、『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)はファミリアーとして召喚した小鳥の五感を通じて周辺を探索するも、現時点での確たる情報は無い。生きている子供達も慣れた土地で身を隠すことに長けているようだ。
「ファルマコン、新たな神……神ですか。神ほど身勝手で混沌とした存在はいないと思いますが、それを信じているのでしょうね、子供達は」
「生きていけなかったから、神さまの手を取った。どんな神さまであったとしても、たしかに、それで救われた日々があるのです、よね」
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が呆れと憐れみを持って語るのを聞いても、メイメイは子供達の盲信を否定できなかった。そうすることで、少なくとも今永らえている子供達は救われていたのだと、少なくとも当人達は信じている。
 でも。
「その神さまは、彼らを、死に追いやろうとする存在だった、なんて。あんまりじゃ、ないです、か」
「心が疲弊して、何でもいいから縋るものが欲しかったのでしょう。その正体も知らないまま……知ろうとも思わないまま。可哀想に」
 フルールの言葉も、メイメイは全くわからないではない。あんまりだと憤る気持ちも、当人では無いがゆえの憐れみかもしれない。
 どんな理由でもいい。目の前で使い捨てられようとしている命を、見過ごすわけにはいかなかった。
「わたしは、アドラステイアで洗脳されてしまった子供たちはおしなべてファルマコン、ないしはバイラムの犠牲者だと考えています。
 彼らの中には殺されてしまっても当然の悪事を行っていた者もいる」
 これまでに様々な『アドラステイア』を見てきた『目を覚まして!』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)。この地の全ての子供達が、その死が理不尽とは言い切れないことも理解している。
「ワタシに救えるかな……ここにいる、たくさんの子供達を……」
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、芳醇なリンゴの香りが漂う小さなポプリをその胸に抱いて悩む。
 その香りは悪臭満ちるこの階層に於いて明らかに異質であり、この階層に住まう者にとっては排除すべき『他所者』の香りとなるだろう。
 自らその香りを纏い身を晒すことで、子供達を誘き出す標的となる――そう決めてきたフラーゴラでさえ、この異様な有り様の前に僅かな躊躇いが生まれたのだ。
「フラーゴラちゃん」
「ココロさん」
 呼ばれて応えれば、姉弟子は妹弟子へ確かに笑って見せた。
「何がいいか、悪いかじゃなくて。
 もう、こんな上の方まで来てしまったもの。最後まで貫きましょう。
 わたし達の我儘を」
 何を信じていようと。これまでに何をしていようと。
 ここにいる子供達を死なせたくない、殺したくない。救いたい。
 言ってしまえば一方的で、身勝手な。いっそ迷惑かも知れなくても。
「うん……すくって、みせる……!」
 それが、ここまで通してきて、これからも貫き続ける姉妹弟子の我儘だ。
「この香り……もっと、遠くまで届けられないかな……」
「もう少し風上へ移動しますか。待機できそうな場所ならありましたが」
 チェレンチィの提案に乗りフラーゴラが移動しようとすると、『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)が待ったをかける。
「待機が続くなら寒いだろう。皆も、これを着てくれ」
 手ずから編み上げた防寒着を皆に配っていく。特に見た目にも薄着だったアーマデルと『千殺万愛』チャンドラ・カトリ(p3n000142)へは重点的にもこもこにした。
「子供達の分も用意してある。寒いだろうから、早く見つけてやりたいな……」
 そのような弾正にも、一抹の不安はあった。
 自身も教団に属している彼は、教義のために罪なき子を殺めた過去がある。そんな自分の言葉が、果たして届くのだろうかと。
(否……聞かせなければいけない、彼らの未来の為に。悪魔と罵られようと、生きてさえいてくれれば……)
 覚悟を決める弾正。そんな彼の思いが籠もった防寒着に袖を通し、チェレンチィとフラーゴラが先行していく。

 レインに伴われた妖精の木馬と共に、イレギュラーズはアドラステイアを進む。
 建物越しに見える曇り空は、静かに雪を散らしていた。


 子供達を探し始めて、どれほど経った頃か。
 フラーゴラの香りが功を奏したか、明確な『視線』を感じるようになってきた。
 『視線』がわかるなら、方角もわかる。方角がわかれば、その姿を捉えることも容易だ。
「明らかに、こちらを窺ってます、ね。オンネリネンの子供達、でしょうか」
 先行していた二人に追い付いたメイメイが、小鳥の視界越しに建物の影からイレギュラーズを見ている子供達を確認する。
「聖銃士も早急に発見したいですね……ボクはもう少し二人を探してみます。動きがあればすぐに合流しますので」
 きっとそう離れてはいないだろうと目星を付け、チェレンチィは背の青翼を煌めかせると軽やかに飛び去る。
 そのチェレンチィから極力注意を逸らすために、できれば最小限の被害で済ませるために、アーマデルが子供達へ声をかけよう――として。
「俺達はイレギュラーズ! お前達の神を否定するものだ!」
 名乗り口上をあげ、まず子供達の注意を引き付けたのは、弾正だった。
「神様だって間違えたのかも。悪い奴にでたらめを教えられたって言うなら、神様が間違えてないって証明できる?
 一度距離を置いて確かめてみませんか」
 ココロも続き、子供達に自分の意思で考えてみるよう促す。
「オンネリネンの母として数多の子らを死地へと送り出したカチヤは魔種だった。
 信仰とは名ばかり、やってる事は洗脳と人体実験と蟲毒……アドラステイアに初めから正義など無い」
 淡々と事実を明かすアーマデル。しかし、その声に滲み、爆ぜたのは、怒りだ。
 全く他人事でなくなってしまった子供達に。重なってしまうかつてと、今の自身に。
「……この上、更に贄を求める神に、ヒトへの慈悲などある筈無いだろう!」
 その声への返答は、刃で以て行われた。
 不意打ちのようにアーマデルの背後から駆け寄るオンネリネンの子供。しかし、その一撃は周囲を警戒していたメイメイによって阻まれた。
「わあぁっ!」
 シムーンケイジの嵐に囚われ倒れる子供を見下ろしながら、彼女も悲しげに問う。
「もし、わたしたちを殺せなかったら、お互いに、罰しあうのです、か?」
「だったら……殺させてよ! 死んでよ! そうしないと神さまに褒めてもらえない!」
 子供の信仰は、純粋で、頑なだった。これまでの数々の言葉に、全く耳を貸す気が無い。
 むしろ、それどころでない必死さすら感じられた。
「……分からないだろうな。ああ、洗脳の只中に在れば正確な景色など見える筈もない、それは俺自身良く知っているさ」
 利き手に蛇鞭剣ダナブトゥバンをしならせる。言って聞かないなら、聞ける状態にするまで。
「やはり、聞く耳は持ちませんか。盲目的に自分の神を信じているから。揺らがない。とても、可哀想」
「まずはこの臭いから、街から、離れよう……!」
 フルールとフラーゴラも、子供達の無力化に向けて備えた。

(傷付いた子供達は絶対に回復させる……必ず生きて、全員この街から出す……)
 戦闘に加わらないレインは、今は木馬の傍で成り行きを見守るしかできない。
 彼の傍には共に回復を受け持つチャンドラと、その護衛として辻峰 道雪の姿もあった。
「これでも一応、イーゼラー様の神託に従い幾度も死線を潜って来た経験がある。子供達に遅れは取らないさ」
「そうなんだ……チャンドラのこと、よろしくね……」
「ああ。それにイーゼラー教の信徒として、他の神の信仰については興味があったからね」
 イレギュラーズと、明らかに実力で及ばないながらも立ち向かう信徒の子供達。
 道雪にとってそれらは、非常に興味深い観察対象でもあっただろう。
(まあ、本命は――)

 タァンッ

 その時。その場で上がるはずのない乾いた銃声が、少し離れた場所で聞こえた。


 チェレンチィが注意深く偵察を続けた結果、聖銃士二人のうち後輩のレメクらしき人物を発見できたのは幸いだった。
 あとは先輩のカインの場所も割り出し、あわよくば連携させない内に片方を落としてしまってもいいかもしれない。
(恐らくは、このレメクと挟撃できそうな位置……)
「悪い奴ら、来たのかな? 声が時々するけど」
 チェレンチィに気付いていないレメクが、どこかにいるカインへ向けて話す。
「だったら喋るな。どこで気付かれるかわからないぞ」
(あ、そこにいるんですね)
 レメクがいる建物の向かい側から応える声がする。
 相手の未熟な行動でカインの位置まで特定できたのはよかったものの、聖銃士としての初陣で興奮しているのかレメクの話がなかなか終わらないのが判断を悩ませた。話の途中で奇襲すれば、カインは即座に怪しんで狙撃してくるだろう。今回は殺してはならないというのも問題だ。
 ここは――。
「あっ! 待て!」
 敢えてレメクの近くで物音を立て、一瞬姿を見せる。レメクは簡単に挑発されて狙撃した後、自らもチェレンチィを追い始めた。

 オンネリネンの子供達は、計画通りにイレギュラーズを誘導できずにいた。
 弾正の名乗り口上で誘導よりもナイフでの戦闘を優先しており、更にその戦闘も満足に行えないからだ。
「必ず、救うから……!」
「ファザーたちの企みには乗らないから」
 既に夜葬儀鳳花の炎に塗れていた子供へ、フラーゴラが呪殺のCode Redを。間髪入れずココロが神気閃光を浴びせれば、粘っていた子供もその場へ倒れた。
「くそー! ……わあ!?」
 せめて自分はと弾正へ挑んだ勇敢な子は、大柄な彼の影から放たれたアーマデルの英霊残響に足止めを喰らう。
「死にたくない、はずなのに。生きるため、ではなかったのです、か?」
「今は何を言っても、聞いてくれないのでしょう」
 その子も巻き込む形でフルールが眩く神気閃光を放ち、それでも戦意を残す子をメイメイが威嚇術で沈めた。
「さっきの、銃声……気になるけど……」
 倒れた子供達は、レインが中心となって木馬の馬車へ運び込んでいく。そこで安静に寝かされた上で、丁寧な回復が施された。
 念のため、子供達のナイフも回収しておく。
「今はこちらを優先、ですね。それにしても皆様、思いの外容赦の無い」
「うん……でも、軽い攻撃じゃ子供達も耐えてしまうみたいだから……。話を聞いてくれれば、一番良かったんだと思うけど……」
「それもまたアイです。皆愛おしいではないですか」
 火にあたるように手を翳して子供達を回復させるチャンドラ。
 ほどなくして子供達の無力化を終えたのか、フラーゴラが体調の安定している一人の意識を戻しその目を魔眼で覗き込む。
「教えて……カインとレメクは、どこ……」
 誘われるように、子供は誘導予定だった場所を話す。だが、二人がどこから狙撃予定だったかまではわからないという。
「そこまでわかれば十分だ。あとは俺達に向けられた殺意のエネルギーを辿れば――」
 再び銃声。
 弾正が振り返れば、こちらへ戻ってくるチェレンチィを一人の少年が撃ったところだった。
「彼はレメクです。二人の連携を断つことには成功しましたが、カインがどこかに潜んでいます。気を付けて」
 短く言い残すと、チェレンチィは振り返りざまにセレニティエンドを打ち込んで銃の射程から離脱する。
「い、った……、ああ!? オンネリネンの皆!?」
「聞いてくれ、俺達は君達を助けに来た。ここは危険なんだ!」
 馬車に寝かされている子供達に驚くレメクへ、弾正がスキルではない言葉を届ける。
「俺達を悪い奴だと思うのは何故だ? 神様に言われたから? 善悪の基準を他人任せにしては、いつか本当に守りたい者を守れなくなるぞ!」
「神様はぼくを助けてくれた! この世の誰よりもいい神様なんだ! その神様を悪く言う奴のことなんて信じられない!」
 オンネリネンの子供達よりも強固な信仰は、例え自分一人であろうと少年に銃を握らせる。
「よく考えてください。キシェフ一枚で、聖銃士。今までそんな事例ありましたか? そんなに安売りしていいものだったのですか?」
「あなたも、オンネリネンも、どちらも自分がどのような状況か理解していない様子。信仰心はそれはそれは素晴らしいものですが、一歩間違えれば残虐で歪なものに変わってしまう。私達の感覚なら、それがもし神だと言うなら邪神の類でしょう。この信仰の見返りは決して聖なるものではないはずだから」
 一人でも多くの、それも子供の信者に贄となることを求めるのは、まともな神の見返りではない。
 ココロとフルールの言葉はいくらかレメクを迷わせたが、すぐに銃を構え直す。
「邪神かどうかなんて、知らない! ぼくは神様のために働けば生きていける、もう寒い思いをしなくていいんだ!」
「あなたたちを、温かくしてくれる、ものは、もう此処にはありません。死にたくはないの、でしょう?」
 生きるため神のために働いても、その神が信者を生かす気が無いのだから。彼の信仰は、絶対に報われないのだ。
 しかし、レメクはメイメイの言葉を聞き入れる訳にはいかなかった。
「死にたく、ない。でも……裏切れ、ない!」
 引き金に掛けられた指へ力が入る。
 その弾が放たれる前に、ココロのリュミエール・ステレールがレメクを貫いた。
「大丈夫、あなたは死ななくていいの。仲間も、裏切らなくていいのよ」
 銃を支えにしながら倒れ込むレメクを、臆することなく抱きしめるココロ。
 その二人に向けられる殺意に気付いたのは弾正で、彼が指差したのとイレギュラーズ達が動いたのは一瞬だった。
 殺意から二人を庇うように両手を広げ、躍り出たレインと。
 雷光と共に殺意の元へ飛び、神速の一撃を喰らわせたチェレンチィだ。
「く……放、せ……!」
「……少し痛いかもしれませんが、我慢して下さいね」
 殺意の主は、迷い始めたレメクを狙ったカイン。
 しかしチェレンチィは彼に何を問うこともせず、ノーギルティの一撃で彼の意識を刈り取った。


 無力化した子供達を乗せた馬車は、妖精の木馬に曳かれてアドラステイア上層の外へと向かう。
 弾正が用意した防寒着も羽織らせており、目覚める前に凍死してしまうことはないだろう。
 強かった子供や聖銃士の二人は戦闘不能になるまで手数がかかった分傷も多かったが、それも手厚い回復によってほぼ完治している。
 その信仰までは、完全に取り除くことはできなかったが。
「この子達、外に放り出したところで戻ってきそうだけど。信仰心が厚ければそういうこともあるでしょう」
 フルールがひとつの懸念を口にする。
 完全に後腐れが無いのは、外へ出した瞬間に殺してしまうことだが――それはできればやりたくないし、第一ここまで腐心した皆も許さないだろう。
 それに対して、自分の家や領地で引き受けるというイレギュラーズは複数いた。ココロやアーマデルなどは、既に匿っているアドラステイアの子供もいる。
「すぐに解って貰えるのは無理でも、少しずつ信仰から離れさせるわ。同じ出身の子がいるなら、きっと心細くないから」
「俺のところはカラフルなカジキマグロがうろつく土地だが……他の子らを案じているオンネリネンの子もいるからな」
「それでも、少なくともファルマコンを倒すまでは自由にさせるべきではないでしょう。アドラステイア出身の子がいるなら尚更です。
 何かの拍子で悪い方へ引き摺られたり、自害しないとも限らないのですから」
 フルールの提案の後、馬車でレメクが目を覚ました。寒そうにしていたのでレインが傘を差してやると、不思議そうに見上げてきた。
「少しでも、雪……防げるから」
「……カイン、さんは」
「隣りにいる。オンネリネンの子供達も、一緒だから……大丈夫……」
「よかった……でも、ファザーや、ティーチャー達が……神様だって、こんなの……」
 武器を取り上げられても、彼はまだ『大人』達や『神』のことを気に掛けていた。
「わたしたちを、信じなくてもいい。利用してでも、生き延びて、ください」
 生きてさえいれば、何かはできる。もう攻撃しなくていい今は、メイメイも祈るように伝えた。
「レメク。寒いのが嫌なら、ワタシの家に来ない……?」
 彼の冷え切った手を両手で握って、フラーゴラが勧誘する。
「ワタシも……アナタたちみたいな子供。でも、こうして……しっかりと、生きているんだから……」
「……カインさんも、一緒でいい?」
「うん……!」
 容赦なくレメクを撃ち殺そうとしたカインと、そうとは知らないレメクを共に引き取るのはリスクが高いだろう。
 それでも、フラーゴラは迷わず首を縦に振った。
 それで、ひとつでも多くの命を掬えるなら――それが彼女の我儘でもあるから。

成否

成功

MVP

チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀

状態異常

なし

あとがき

そして彼らは寒い街からいなくなりました。

この度はご参加ありがとうございました。
オンネリネンの子供達を引き取った方には称号を差し上げています。
絶対に死なせないという気持ちが強く感じられるプレイングで、とても心温まりました。

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