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シナリオ詳細

<ネメセイアの鐘>Mother≠Equal

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●正体(しんのすがた)
「……どう思います、プリンシバル・オルト」
「どうも、こうも。マザー、貴女もご存知なのではないですか? デュフォンからの音沙汰が途絶えて大凡半年を超えます。忌々しくも賢しらな者達があの地を制圧したのは間違いなく、それが本国に通じている可能性は低くはありません。ローレットの仕業だとするなら、早晩此方も危険となりましょう。……私は貴女を守るために配備されましたが、果たしてどれ程御役に立てようか……」
 マザー・エクィルと呼ばれた女は、たおやかな笑みを浮かべ配下のプリンシバルを見ていた。よく育った。推論の組み立ては素早く、しかし己の領分外までは思考を回さず、そしてエクィルの怒りを買う行為を行わない。
 賢しらな反応を示し、聖獣の舌先に乗った者やそれ以上の惨状を齎した者よりも余程扱いやすい。純粋な子はこうであらねば。……恐らく大人になることはないのだろうが。
「それでは、プリンシバル・オルト。あなたの基準で精鋭を集めておくよう。……それと、あなたには力を授けましょう」
 力? と呆れたような声音で返答したオルトは、エクィルの目を見て蛇に睨まれた蛙のように硬直する。肉体のなかに自分ではないもの、謂わば『不気味なデキモノ』が生える感触。強い力を感じるが、それ以上に――。
「マ、マザー!?」
「教えてあげましょう、オルト。わたしの名前は『   』。ガイアキャンサーという種のさらに上澄みなのですよ」
「ガイア……」
「ええ、神たるファルマコンの味方、そして天義という国の敵」
 もっといえば世界の敵。
 そういう言葉を飲み干して、『【膠窈】肉腫』エクィルはくすくすと笑いながらオルトの手に見えない鎖を縛り付けた。

●正体(まともなはんだんりょく)
「鉄帝(わがくに)のことで私は忙しい。貴様と遊んでいる暇はないのだぞ、マザー・エクィル」
「そ、そうよ! わたしが知らないところで色々手を回したようだけどもう容赦しないわ! もう延々付き合う気はないんだから! それに……あなた、人間でも旅人でもないんでしょう? なんなの!!」
 アドラステイア上層部。しんしんと降り積もる雪の先で、エッダ・フロールリジ(p3p006270)とタイム(p3p007854)は笑みを深めたマザー・エクィルに宣戦布告を告げる。そしてタイムは、調査書から純種でないことを知っていたため、その事実をつきつけた。居並ぶ聖銃士たちは、意外にも反応が薄い。どころか、人形のように無反応にも思える。
「意外と、縁が、深かった……のか。驚きだな」
「ハッ、あのクソババア。人でなしだと思ってたが思った以上だな。ぶっ殺すことには代わりねえがよ」
 エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はデュフォン領襲撃の一件でマザー・エクィルの存在は聞き及んでいた。が、二人の殺意と敵意のほどを見るに随分と深い因縁なのだと理解できた。グドルフ・ボイデル(p3p000694)の苛立ちをみるに、余程厭らしい相手なのだ、というのはわかる。
「大体、なんであなたの腕戻ってるのよ!? もげたじゃない!」
「人でなしだからですよ」
「え?」
 タイムは、続いてその腕を見咎めた。エッダと自分を退けたとき、腕をもいでいたではないかと。そして、彼女の回答は至極あっさりと語られた。それはタイムが告げたことと何ら変わりなく――。
「気を、つけろ。前に立ってる……偉そうな聖銃士」
「あァ? ……あ? お前ありゃあ、肉腫じゃねえか」
「――まさか貴様……貴様ァ!」
 最初に気付いたのはエクスマリア。その言葉に理解を示したグドルフは思考が硬直した。エッダがそれを代弁したが、正常な言葉が続かない。
「ええ、そうです。わたしはマザー・“セバストス”・エクィル。本当の名前は、要らないでしょう? あなたたちとはここで『本当に』お別れなんですから」

GMコメント

 いよいよもってアドラステイアも大詰めに向かってまいりました。
 ここで死ぬのか、どうなのか。正直、正体はもっと早く明かしてよかったんじゃね? とか思ってます。

●マザー・エクィル
 拙作『収穫祭』から、陰に日向に高い確率でアドラステイア関連シナリオにかかわっていた人物(直近:『天義領馘首刑』)。
 近傍領『デュフォン』を結構な期間で人間牧場に仕立て上げ、子供をアドラステイアに送り込んでいたのが途絶えて7か月そこそこ。割と根に持っています。
 その正体は暴食の【膠窈】肉腫。以前、腕一本飛んでますが再生済みです。
 性能としては防御面は類例する膠窈肉腫と比して高いとはいえませんが、再生能力が異常に高く、潤沢なAPと神秘攻撃力を軸に回復3:攻撃7の割合で戦います。
・多重魔法陣(P):AP消費を上乗せすることで『攻撃力の上乗せ(最大値あり)』『【溜X】の省略』などが可能である。
・暴食本能(P):すべての攻撃に【H/A回復(中)】
・黒き祈り(真):神中域、【ブレイク】【出血系列】【窒息系列】【不吉系列】【虚無(大)】
・拒絶の風:神中扇、【飛】【足止系列】など
・人形殺し(神超ラ):大威力、【万能】【反動(大)】【防無】【必殺】など

●プリンシバル・オルト
・聖銃士としてとりわけ優秀な「プリンシバル」の一人で、マザー・エクィルから目をかけられている(尤も、額面通りの意味でないことは明白なのだが)。複製肉腫。
 不可視の鎖型アーティファクト「フィグリング」を有し、これで一般の聖銃士達と「つながり」を得ている。
 そのため、彼に対する過度な大ダメージが入った場合つながった子供達へ転嫁される(=子供達が致死ダメージを負う)ケースや、レンジ3以内であれば行動順を無視し自分を強制的に庇わせる肉盾として扱う、副行動消費で「キャスリング(位置入れ替え)」を行うなどの非常に機動的かつ下衆な行為を率先して行う。
 戦闘スタイルは自動再装填式のショットガン二丁持ちによる突撃戦法。【出血系列】【足止系列】を与えてきたりする。ショットガン自体が【スプラッシュ(中)】ありで二丁持ちを活かし確定2回行動。
 機動は高くないが、攻撃力がかなり高く回避もそこそこ。軽易な治癒術も使用可能。

●聖銃士(セイクリッド・マスケティア)×15
 機動力を重視し、関節部等をガードする軽鎧メインの聖銃士達。
 どちらかというと騎士や剣士というより暗殺者の向きが強く、全員の攻撃にデフォルトで【呪殺】がついてくる。BSなどは付かないが囲まれればじわじわと削られるだろう。
 特に至近では【防無】の攻撃を稀に放ってくる。威力こそ(難易度相当の)雑兵レベルだが、防御を無視してくるため侮れない。

●戦場
 アドラステイア上層部。
 整った街並みですが、そこから潮風に混じって流れてくる気分が悪くなるような匂いが特徴的。
 気候は雪。石畳のため着雪にご注意ください。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <ネメセイアの鐘>Mother≠Equal完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
襲・九郎(p3p010307)
フレジェ

リプレイ


「人ならざる者……どんな理想があって動いているのかと思えば、そんなものも最初からありはしなかったのね」
「そうかよ。てめえはあのクソ目玉野郎と同じって事かい。道理で──」
 『理解できない理由(ワケ)だ』、と。『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)と『この手を貴女に』タイム(p3p007854)の心の声は自然とハモった。その声同様、両者は幾度となくこの聖職者と対峙し、そしてその狂気の源にやっとのことでたどり着いたのだ。その余りにも度し難いものを見る目を覗き、エクィルはとても嬉しそうに笑みを深めた。が。
「あぁ、あん時の『牧場』の元締めがアンタか」
「ああ、マリアは初めて会うが、『お別れ』、だ。本当の名など、聞く気は、ない」
「……そうですか。あなたたちがあの麗しくも愚かしい『牧場』を毀してしまったのですね。とても悲しいことです。そしてとても、許し難いこと」
 『フレジェ』襲・九郎(p3p010307)と『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はマザー・エクィルと直接の接点がない。ないが、彼女が手引し、領地ひとつを完全な地獄へと変えてしまった場所を終わらせた過去がある。二人にとってはどうでもよくても、マザーからすれば苛立たしいことこの上ないことは明らかだ。その身から発散される敵意を見れば、それが明らかだった。
「子供たちをいったいどういう存在だと思っている! ああ、反吐が出てたまらない……!」
「正直どうでもいいです」
「え」
 敵が肉腫であることに動揺し、そして操られた子等に憐憫と怒りを覚え、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)の激情は今まさにピークに達しようとしていた。が、『純白の矜持』楊枝 茄子子(p3p008356)のドライな、あまりに冷静に切り捨てる言葉に、思わずその感情すらも断ち切られかけた。
「国を裏切った不正義の子供達なんて、どうなろうと知ったこっちゃありません。ですが、貴方達がこの国を侵そうとするのであれば、その限りではありません」
 茄子子にとって、不正義なる者など路傍の石にも劣るもの。彼女が興味を持たないのも、頷けるというものだ。されど天義に仇為すなら容赦は出来ない。内に秘めた目的のためにも、かれらは敵だと彼女は認識したのである。
「そうあるべくして生まれた存在には、“そのように”相対するだけだ。怒る気にもならなくなった。貴様は許せる、許せないで論じる相手ではない」
 他方、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は改めてエクィルの正体を知り、そして彼女に対する激情が急速に落ち着いていくのを感じていた。タイムの言う通り、最初から『人の心』がないのであれば、殊更に怒り悲しみ敵視する行為すらも不要だろう。代わりに、何としても打倒すべしという感情はより強く湧き上がっているが。
「そちらの淑女が良い事を言っていましたね。『どうでもいい』。結構なことです。マザーの、そして神の御意思に反し乱暴狼藉を働いたこと、水に流しましょう。あなた達が、石畳のシミになってくれるのならば」
 プリンシバル・オルトは静かにそう告げると、腰に吊っていたショットガンを両手に構えた。スライド音と共に装弾が完了し、射撃の反動で次弾を装填する自動装填銃。今まで現れたプリンシバルは「信仰の権化」のように、あらゆる相手を赦さぬ姿勢を貫いていたが……冷静すぎる、とも思えた。
「マザーのご意向に従い、そろそろお別れの時間と参りましょうか。覚悟はよろしいですか?」
「ああ、確かに君とはお別れになるだろう」
「俺達としても望むところだ」
 沙耶の言葉にあわせるように、『子を護るは大人の役目』イズマ・トーティス(p3p009471)が声を張る。いざとなれば手段を問わず戦う彼なれど、原則論として性善説に偏った男だ。目の前で繰り広げられる会話に、相当に腸が煮えくり返っていてもおかしくはない。だからこそ、という訳でもあるまいが。
「そこで立っているのは私達の方だ!」
「ここから消え去るのはお前の方だ、マザー・エクィル!」
 意図せずとて、沙耶と似通った物言いになったのも致し方あるまい。
「人でなしがどうとか、おまえの正体とかはここじゃもうどうでもいい話だろ」
「その通り、だ。お前のことなど何一つ、残さない。塵さえも、だ」
「……ってコトだ。俺様達と『人でなし』じゃ相容れねえ。消えな」
 九郎の言葉にエクスマリアが同意とともに敵意を被せ、それらを聞いたグドルフは満足げな笑みを浮かべた。そして、その笑みを残したまま。一瞬の間を置き、一気にエクィル目掛け駆け出す。
「マザー!」
「その悍ましい力でマザーを守れるか、試してみればいい」
「あなた達の相手はこっちよ! それだけ人数がいればわたし達を倒すなんてすぐでしょう?」
 咄嗟に銃を構え、その行く手を阻もうとしたオルトであったが、彼の想定外はかなり多かった、といえよう。
 ひとつ、たった八名のなかで、エクィルを照準したのがグドルフ、エクスマリア、九郎とエッダの四名をも投入した超前傾姿勢だったこと。これはたとえオルトの能力を介しても、「自分を軸に駒を動かす」性質の彼では全てを止める術がない。
 そしてもう一つ、タイムとイズマが聖銃士とオルトとをそれぞれで挑発を仕掛け、分断を図ったこと。如何に能力が高くとも、無視できるタイミングではなかった、というのが大きい。
 斯くして、完璧とはいかぬまでも策は整った。グドルフの一打がエクィルに届くのは道理、一斉にかかれないにしても――悪くない初動だったはずだ。


「お前もほかの子供達を手足の様に使うんだな。同じ仲間だというのに」
「手足? 馬鹿な、消耗品の道具以上の価値があるとでも? 彼等は十二分に、私の、道具ですよ……ッ!」
 沙耶の気糸が、イズマの挑発で踏み込んできたオルトの歩みを鈍らせる。すかさず彼女ごとイズマを射抜こうとショットガンの引き金を引いた彼は、弾丸の雨の中にあってカス当たりにしかならぬ沙耶の身のこなしに舌打ちする。
 続けざまに引き絞られた銃は、その弾丸をイズマに叩き込む。その弾丸を受け止めてなお、小動もせず衝撃波の旋律を奏でるイズマの目の鋭さときたら。
「イズマさん、沙耶さん、お願いね! こっちは、わたしが!」
 タイムは二人に声をかけつつ、治癒の要否を即座に判断する。まだ、大丈夫だ。自分だって耐えられる。あの悪い横面を張れないのが残念だが、信頼できる仲間がぶん殴ってくれるんだ。なれぬ挑発に自己嫌悪している暇など、タイムには一秒だってない。

「さあ、運試しといこうじゃねえか」
「運試しだなんて、神を信じられない愚物が己の加護を試すような行いです。感心しませんよ」
 九郎による外道の斬撃を受け止めつつ、エクィルの背に魔法陣が浮かび上がる。出し惜しみせず、最初から本気だと理解できる。正面から叩き込まれた拒絶に舌打ちを残しつつ、九郎はくい、と顎を引いた。
「いい、初手だ。ここからは、マリア達の番、だ」
「おお、治るってんなら治せなくなるまでぶっ叩けばいいだけだぜ! 単純だよなあ!」
 九郎とは真逆の方向からエクスマリアが。二人の間にあたる方向からグドルフが、それぞれエクィルに襲いかかる。範囲攻撃に長けたエクィルの攻め手を考えれば、四人がちょうど、四方から攻めかかるのが佳策といえる。
 それも完璧とは言うまいが、しかしエクスマリアの驟雨の如き連続魔で足をとめたエクィルが、グドルフの斧を避ける道理はありえない。九郎の初手に続き、治癒を妨害するには届かなかったが――それでも、自己治癒を上回る傷がついている。
「あなた達は、本当に――」
「『うざったい』か? 残念ながら、我々イレギュラーズは狙った相手を逃がすほど甘くないのだよ」
 苛立ちにも似た声音を交え、エクィルは視線を巡らせた。だがその一瞬のうちに、エッダは死角からの乱打を叩き込む。一発……二発。相手の攻撃を正面から受け止め弾き、殴り返すような動きではない。その動きに、エクィルは眉根を寄せた。
「私に気を取られている場合か? お前を殴りたいと思っている奴ばかりだぞ、ここの連中は」
 エッダの挑発に深く息を吐いたエクィルの姿は、憤激に身を焼かれたというにはあまりにも余裕を感じさせた。
 九郎は吹き飛ばされた先で銃を構え、連続して弾丸を打ち込む。が、その背後から数名の聖銃士が飛びかかり、短剣による刺突を放つ。相次いで刺突を受けた九郎であったが、その意識を断つには些か力不足だったといえようか。
「ええ、ええ。私が居る限り、この場の誰も落ちることはありません。安心して戦ってください」
「面倒臭ぇ連中だぜ、ったく……しかし凄いな、おまえ」
「いえいえ、この程度は初歩ですよ」
 次の瞬間には茄子子によって傷が全快していれば、九郎が彼等を無視しない道理がない。彼等がエクィルへと向かった四人、何れを倒そうとしても力不足に喘ぐだけだろう。それより問題は、茄子子の尋常ならざる治癒術だ。
「わたしを放っておいていいの? 放っておけば、マザーを倒しにいくけれど?」
「――!!」
 タイムは九郎へ向かった聖銃士に挑発を向け、これ以上好きにさせぬと指を繰って自分へと誘導する。
 彼女は、本来誰かを揶揄し、挑発するタイプではない。が、やらねばならぬこととやりたいことが合致しないことも知っている。最善を選び取る嗅覚は、この場の誰より鋭敏だといえるだろう。
 だからこそ。
 マザー・エクィル相手に優位に立つイレギュラーズを信頼していると同時に、その驚異から視線が、意識が、逃げ切れずにいる。

「オルト、お前はこれ以上彼等には近付けない。理由は分かるか?」
「さあ。逃さないというなら、頑張って頂ければよいでしょう。彼等は道具ですが、私なしでも動きますので」
「誰も殺す気はない。オルト、君もだ。だが、その口はもう閉じろ。その旋律は不愉快だ」
 絶対に聖銃士には近付けず、誰一人殺さない。沙耶もイズマも、その意思ひとつでオルトと対峙していた。両者ともに、エクィルに対し敵愾心は十分にあった。だが、オルトを放置すれば聖銃士が無制限に死ぬこともわかっていた。
 それでもなお。イズマは彼の声音が不快だと思った。そして、彼の体力が明らかに消耗してなお、聖銃士達が意識を断たれてもなお、その指先から死の匂いが落ちないことに疑念を持っていた。
「マザーの厭らしい所は倣わなくていいのに……! なんでそういうところだけ純粋なの!?」
「効率的だからでしょうね。誰かの嫌がることは率先して行いましょう、なんてよく言うでしょう?」
 タイムは己を取り囲む聖銃士の猛攻を受け止めながら、しかし遠巻きに見える、聞こえるオルトの言動に悲しいものすら覚えていた。が、茄子子はそんな彼等を生えでも払うかのように小魔術の照射で以て蹴散らそうとする。殺しはしない。されど、自由にはさせまいと。
 そんな茄子子の背後から、沙耶によって放たれた神気閃光がひらめく姿は……ああ、なんて神々しく、そして『怪しい』ことだろうか。

「山賊はな、欲しいと思ったモンは何が何でも奪うのさ。わかるだろ? おれさまが欲しいのは、てめえの命と、勝利だけだ!」
「それはそれは。『この生命』が欲しかったのですか?」
「誰の母にも、なれぬ女、が。命を、差し出すとでも、か?」
 グドルフの執拗な乱撃、エクスマリアの超速連撃術、そしてエッダの『新戦法』。以前は、以前までは鼻で笑っていた者達の進歩は、永く生きたセバストスには急激にすぎたか。
 とっさに懐から出した人形に手を添えるより早く、九郎の銃弾がそれを弾き飛ばす。治癒を試みようとじくじくとうごめく傷の断面は、あたかも別の生命体のようですらあった。
「あなたも、この短期間で……よくそこまで」
「“憤怒”に相対する為だ。“暴食”風情が己惚れるなよ」
 エッダの言葉は、鋭い棘としてエクィルに刺さった。
 だが、死に瀕したその目に、その頬に、この日最大の喜色が浮かんだ不気味さを彼女は見逃さなかった。……殺さねば。今、断たねば。自分はかのセバストスに、とんでもないヒントを与えてしまったのではないか――。
「余計な事考えてんじゃねえっ! このゴミを叩き潰すのが俺達の仕事なんだよ!」
「分かっている……!」
 ふふ、と笑みが聞こえた。
 だが、嗚呼。過去の優位にとらわれている間、彼等は深緑を救い、鉄帝の危機に相対している。甘い夢に浸ったままのセバストスでは、きっと『今は』かなわない。


 オルトは、強敵だった。そう、イレギュラーズに思わせるに足る実力はあっただろう。実力上位に値する者ですら、一対一では厳しかったはずだ。
 その上に、距離によってどうにもできない「十五におよぶ予備の命」ときた。殺すにしても、その厚かましい仕掛けを潰さねばならなかった。
「一方的な繋がりは脆い。そんな物に頼らないで相互に信じてやれよ」
「何がわかるというのです。仲間に背中から狙われるという脅威を、裏切りのリスクを味わったことのないだろう仲良しごっこの嘘吐き共に!」
「……わからないな。その言葉、その性根じゃ『戻れない』だろ」
 イズマはオルトと鉄火を交え、その空虚な心根に触れた。逃れようのない貪欲さを見た。ここで殺せば、間違いなくファルマコンに優位に働く。しかし、気絶させるためには十五人の何人かが犠牲になりうる。
 だから、彼を生かして肉腫を剥ぎ取ってもおそらく先がないのは理解した。信じられぬ心に、もう先は無い。悲壮な心根をひた隠し、振り上げた手ごと、音の波をオルトの手頸へ振り下ろした。
「マザーは、もう居ない。抵抗を止め投降するのなら、安全は約束する、が」
「ア、ア゛」
「もうまともに話せないだろうな。手首を縛ってやってほしい。それから気絶させて肉腫を剥ぎ取る。外に連れて行ってから殺すかどうか、考えればいい」
 オルトの手首には、顕在化したフィグリングが繋がれている。それぞれの聖銃士、その首に繋がれた鎖は根本から崩れ落ちて消えている。見えないものを、推論だけで断とうとするのは不可能だ。少なくとも激闘の中にあっては。
 だから、根本から断ち切ったイズマの選択は致し方ないものだ。イレギュラーズは、強敵との戦いに重きを置くが故に、差し出された命に対し、その牙の鋭さが如何程かを判断するに難かったと言えるだろう。
「気絶してようがしてまいが、命を吸うアーティファクトか。性根腐ってる人外には丁度いい玩具だったんじゃねえか」
「一応、手首は持って帰りますか? 治せるかは保証いたしかねますし、法に照らして断罪するのも手かと思いますが」
 九郎は力なく倒れたオルトの腹を爪先で押し込むと、吐き出されたうめき声に苦い顔をみせた。同じ子供の命をも欲しがったのだから、強欲というよりやはり暴食に寄っているなと。茄子子はその哀れな様子に眉一つ動かさず、しかし可能性を捨てなかった。如何に哀れで性根が腐りきっていても、生きる権利は誰にでもあるのだ。彼女にとっては等しく無価値なので、仲間次第ということだろう。
「セバストスはザントマンとエクィルで二人。残り……298か」
「幻想で一体倒されたろう、春先に? あれを含めれば297だな」
 グドルフがやりきった、という顔で呟いたのに対し、沙耶はすかさず訂正を入れた。そう、幻想で『色欲のセバストス』が討伐されたのも、深緑での事変が起きる前後だ。随分昔の話になってしまった。
「やつは、酒の味のひとつでも覚えればよかったのだ。それすらできないから、ソレしか知らぬまま滅びを享受したのだろうな。……もう会うこともあるまい」
 エッダは首を振り、あの哀れなセバストスの最後を祈った。
 ……再生と破壊のあわいでぐずぐずに崩れた惨めな死体から、何かが這い出たことは最後まで誰も気付きはしなかったけれど。

成否

成功

MVP

楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)[重傷]
愛娘
襲・九郎(p3p010307)[重傷]
フレジェ

あとがき

 お疲れさまでした。フィグリングの性能に関して、最も厄介な能力はさておき、庇ったりキャスリングを妨害できたのは上出来だと思います。
 何事も、都合よくはいかないのが情報精度Cなのですが、それを差し引いても上々だったと思っています。
 さて。エクィルは一応、それ単体で生存できる状態ではなさそうでしたが……?

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