シナリオ詳細
<大乱のヴィルベルヴィント>統王シグバルド
オープニング
●
ベデクト湾の静かな波を、無数のドラゴンシップが切り裂いて来た。
力一杯にオールを漕ぎ、みるみる迫ってくる。船横に掲げられているのはヴァイキング達の盾であり、船を雄々しく飾り立てていた。いずれも戦士達が自慢とするシンボルである。
「砲撃用意!」
迎え撃つのは鉄帝国が誇る鋼鉄艦――五十二口径の巨大な砲門が、そんな木製の小舟を睨み付けた。
双眼鏡の先ではドラゴンシップの甲板に、一人のヴァイキングが仁王立ちする様が見えた。
巨大な斧を天高く振り上げ――蛮勇に過ぎる。
無為、無策、無謀、あとは海の藻屑に早変わりだ。
「撃てーー!!」
砲口が光り、続く轟音と共に、木製の船など木っ端微塵に吹き飛んでしまう。
それは論理的当然の帰結であり、他の解答などあり得ない。
――ここが鉄帝国でなかったならば。
「よっこいせ、おれはピテオ村のドーグの子オロフ! んじゃいっちょやったるかあ! セイヤァ!」
砲撃の轟音を切り裂くように澄んだ音が駆け抜け、ヴァイキングの男が振るう斧の一撃で縦真っ二つに割られた砲弾が船の左右、その海面へ高い水柱を立てた。
「やっぱよ、大砲なんざ頼りにならねえよな!」
鋼鉄艦の上で帝国軍人が、獰猛な笑みを浮かべて袖をまくりあげた。
ドラゴンシップはみるみると迫り――接舷、白兵戦だ。
市街地では散発的に発生しつつあった戦いが、大きく広がろうとしている。
剣と銃、そして砲撃の音は瞬く間の内に全域を覆い始めた。
この街は帝国における極めて重要な拠点である。新皇帝派――冠位憤怒バルナバスの信奉者達に牛耳られており、反皇帝派の二勢力ポラリス・ユニオンと独立島アーカーシュが解放のために立ち上がったのだ。ローレットのイレギュラーズは反皇帝派の依頼を受け、そして人類不倶戴天の敵である魔種を撃破するため、この戦場にはせ参じている。
そこに一枚噛んで来たのが、ノルダインのヴァイキング達を初めとするまつろわぬ民達、ノーザンキングス連合王国を名乗る賊共であったのだ。こうして三者三様にそれぞれを敵とする三つ巴の戦争が始まった。
海軍基地を抱く街の東部、港北部方面では、ノーザンキングスの戦士達が、新皇帝派の軍人達と激しい交戦を続けている。ここは司令部、通信設備、軍艦ドック、倉庫や研究施設などを有する大きな基地だ。
一人の偉丈夫――ノーザンキングス統王を名乗るシグバルドが、自慢の戦士団を引き連れてついに上陸を果たした。親衛隊と共に迫る帝国兵をなぎ払い、進撃する先は海軍司令本部である。大木さえ吹き飛ばす勢いの一撃に、精強で知られる帝国軍人がまるで藁で編んだ人形のように打ち払われている。
正直なところ、帝国側の士気は高くない。軍人達の多くは上層部に嫌々従っている状況だった。
理由はいくつかある。まず軍を支配しているのが強大な魔種であること。そして指揮系統が新皇帝派に牛耳られていることだ。
鉄帝国軍人であるならば、上官が魔種であろうと新皇帝派であろうと、ここまで来れば軍紀や秩序を守るよりも為すべきを為す人物である場合のほうが多そうに思える。だが魔種は原罪の呼び声(クリミナル・オファー)をまき散らす。潜在的に抱える怒りの暴発や、あるいは反転しないまでも狂気に陥っている者も数多いのだった。そして当人が無事でこそあれ、大切な仲間や友人、敬愛する上官や可愛い部下達が影響下にあるとしたならばどうだろう。己の信念なり矜恃なりを優先して斬り捨てることが出来る者は多くない。これは勇敢さとは無関係なのだから。ならば面従腹背しつつ何らかのチャンスを勝ち得て、どうにか救いたいと思うのが人情、あるいは真の勇気なのかもしれなかった。
他にも理由も切実だ。街は外部からの補給がほぼ閉ざされている状況だ。全ての物資を新皇帝派に牛耳られた現状では、街の人々――帝国軍人が本当に守るべき臣民達へ横流しといった形で食料などを届けるには、内部にとどまるほかにないといった切実さもある。例えばエイリーク・ラーシェンがそうだ。彼は新皇帝派に従うふりをして、機会を待ち続けているはずなのだ。そしておまけに――
「追え! 賞金首共だ!!」
――イレギュラーズには新皇帝派から多額の懸賞金がかけられている。
ともかく今は新皇帝派に数えられている帝国軍人であっても、内心はそうでないものが多いこと。それだけは確実なのだけれど。天衝種なる憤怒の気配を纏った魔物が姿を見せているのは厄介だ。
「……本当に邪魔くさいですね。イレギュラーズ!」
屋上の外周を覆うフェンスに腰掛け、ヘザー・サウセイルは不愉快そうに嘆息した。
街にはイレギュラーズを始め、金狼率いるポラリス・ユニオンや、独立島アーカーシュに所属する帝国軍人達が進撃を開始していた。降下作戦も始まり、あちこちで銃声や剣撃が響いている。
ヘザーについては、浮遊島アーカーシュに潜入していた新皇帝派の人物であることが、イレギュラーズによる不凍港ベデクト調査の際に分かっている。彼女の背には人ならざる翼と尾があり、いかにもハイエスタ風の名を隠そうともしない様子や、数々の怪しげな態度は、いかにも並々ならぬなんらかの意思を感じさせるものだった。更には、その怒りに満ちた視線は、イレギュラーズへ向けられると同時に、ノーザンキングスをも射抜くようだった。
「虎、使う?」
「ええ、もちろんです。私達も出ますよ、ターリャ」
「はーい、全部壊しちゃおー!」
返事をして、フェンスへ器用に飛び乗ったのはターリャという美しい少女だった。
巨大な二本の剣を携えている様は、どことなくショービジネスの香りを感じさせ――言うなれば鉄帝国帝都スチールグラードが誇る大闘技場ラド・バウの闘士じみていた。けれどラド・バウに詳しい者ならば分かるだろうが、全てのランク、全ての現役闘士、果てはマニアックな未登録の闘士や引退者まで含めたとしても、このターリャという少女の姿に覚えのある者は誰もいないはずだ。少なくとも新皇帝派のヘザーと行動を――それも喜んで――共にしている以外に情報らしきものはなかった。
「エイリーク、最後のチャンスです」
ヘザーは振り返りもせず、後方に控える帝国特務軍人へ呼びかけた。
「……」
「イレギュラーズを殺しなさい。
妻と子――いえ妻だけは助けましょう。
子は、そうですね。あなたの働きぶり次第です」
「……ッ!」
エイリークが憎悪に満ちた瞳でサウセイルを見つめる。
「あなたに流れる、その呪われた血が悪いのですよ。裏切り者のノルダイン」
「ヘザーは甘いね、ノルダインだけなんて。わたしなら、全部全部殺すのに!」
●
独立島アーカーシュは、都市南部から進撃を開始した。
軽騎兵による各小隊が特務派軍人による支援を受けながら点在する防衛網を切り裂き、本命のイレギュラーズ部隊が強敵に当るという構図だ。これは致し方がなく、けれど確実なやり方でもある。
「調べた限り、こっちが手薄のはずだ」
指さすエッボ・サザーレは特務軍人であり、ヤツェクの友人である。
「そいつはありがたい」
「問題は『何杯分』働けるか、それだけだ」
おどけたエッボの返答に、ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が笑った。
「だったらあそこ、騎兵が先行出来る?」
「任せてお姉ちゃん。すずな、一緒にお願い」
リュドミーラの
「ええ分かりました」
すずな(p3p005307)が刀に指をかけた。
「それじゃみんな怪我しないようにね」
リーヌシュカ(p3n000124)はそう言うなり、馬上から有刺鉄線を切り捨てる。
すずなが数名の軍人の銃を斬り捨て――「おまけだよ!」ナイフを抜かれる前に、ソア(p3p007025)は後頭部に蹴りを見舞った。
「見えてきたね、軍施設だ」
マルクが使い魔を先行させ、侵入経路を選別する。
どこもかしこも警備されているとはいえ、出来る限り手薄であるに越したことはないから。
「それでは参りますわよ、どっせえーーい!!!」
「賞金首共だ! 殺――べぶ」
立ち塞がり無線を手にした新皇帝派軍人の顎を、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)のメイスが跳ね上げた。軍人はそのまま錐揉み回転し瓦礫につっこむ。
立ち塞がるのは新皇帝派だけではなかった。
「邪魔だてはさせんよ」
勇猛果敢に両手剣を構えた男はノーザンキングスのハイランダーだが――すれ違い様にアーリア・スピリッツ(p3p004400)がそっとささやくと、足元からたちまち石に変わる。
「あの上に居るのが、きっととびきりまずいやつ」
ジェック・アーロン(p3p004755)の声に一行が頷いた。
遠く海軍司令本部の建物、その屋上に座り、足を投げ出している女達が漂わせる気配は尋常ではない。
イレギュラーズ一行は新皇帝派の指揮系統を破壊すべく、敵陣深くに潜入する少数精鋭のチームだった。
あの女達は、間違いなくターゲット――敵軍の首脳部だろう。
地の利は新皇帝派にある。こちらは軽騎兵隊の一隊や特務軍人部隊の支援を合わせて数十名となるが、それでも多勢に無勢は否めない。
「やりようはあるはずっスよ」
佐藤 美咲(p3p009818)の言葉通り、相手は一枚岩ではない。街の住人も帝国軍人達も新皇帝に反発を抱く者は少なくないことが分かっている。
「っぱ居やがるよなあ」
ヴェガルド・オルセン(p3n000191)が引きつった笑みを浮かべた。
巨大な斧で新皇帝派の軍人を切り捨てた偉丈夫が、血を振り払って向き直る。
――ノーザンキングス統王シグバルド。
はじめから乱戦に近かった戦場ではあったのだが、一行の登場を皮切りに新皇帝派、ノーザンキングス、そして味方側を三方に分かれはじめた。
「そこに居るのでしょう、エイリーク。迎えに来ましたわ」
「……」
ヴァレーリヤは新皇帝派軍人達の中で、幽鬼のように佇むエイリークへ声をかけてやる。
だがエイリークは鬼気迫った表情を崩さないまま、剣を抜いた。
「何か事情がありそうですわね」
ヴァレーリヤが瞳に赤く燃えた決意を漲らせる。
「ローディンゲンのヴェガルドにエイリークじゃねえか、なんでそんな所に居やがんだ」
ノーザンキングスの一人が声をあげた。
「悪ぃ悪ぃオロフ! 俺はこっちに付いてんだわ! だいぶ前からだけどよ!」
「そっかそっか! まあいいや! はやく殴り合おうぜ! 面白そうだからよ!」
そんな時、軍施設の屋上から二人の女、ヘザー・サウセイルとターリャが降り立った。
三つ巴の睨み合い。海軍施設の広大な敷地、セメントとアスファルトとに覆われたこの一角が、さながら闘技場のようにも感じられる。
「イレギュラーズ、それにノーザンキングスのクズ共……」
ヘザーが吐き捨てる。
「何だ貴様は、デモニア風情は引っ込んでいろ。余はまずこの勇者達との闘争を楽しみたい」
「食い荒らすばかりの痴れ者めが」
「かつて帝国は、この広大な大陸東部の諸国家を呑み込んだ」
血塗れの斧を担ぎ上げたシグバルドが唇を舐め、笑った。
「力ずくでな。余が同じ真似をして何が悪い」
ともあれ、新皇帝派にせよ、ノーザンキングスにせよ、頭を叩けば戦況は大きく変わる。
どうにかやるほかない。
- <大乱のヴィルベルヴィント>統王シグバルドLv:40以上完了
- GM名pipi
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年12月10日 22時55分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC23人)参加者一覧(10人)
リプレイ
●
――不凍港ベデクト。
帝国東部に位置する要所であり、こと冬における貴重な物資の供給源である。
一行が向かう海軍基地は、当局庁舎と並び新皇帝派が本拠地としている。
(厳しい作戦になるとは覚悟していました、が)
刀に指を添え、『忠犬』すずな(p3p005307)が腰を低く構えた。
今にも雪が降りそうだった。空は妙に白く明るく、底冷えしてくる。
周囲は敵、敵――敵。
「冬を乗り越えるために、不凍港は必ず取り戻す!」
檄を飛ばした『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)に一同が続く。
一行、独立島アーカーシュの面々は、北辰連合(ポラリス・ユニオン)と共に、この不凍港を奪還する作戦を企画した。厳しい冬の到来が予測される現状において、この港を解放する意義は極めて大きい。
この地を占拠する新皇帝派なる軍勢を駆逐し、制圧するのだ。
だが、いささか以上に場違いな存在が居る。
「まさか統王自らお出ましとは……豪気な!」
唇を湿らせたすずなの視線は広場の対角線上、そこに居る場違いな偉丈夫に注がれていた。
統王シグバルド、帝国のヴィーザル地方を我が物とする賊の頭目。
一大勢力を築き上げ、王を名乗る存在のこと。
しかし――気概は好ましい。
王たるもの、そうでなくては。
事前の情報から、戦場は三つ巴となることが分かっている。
混沌とした有り様だと、『天空の勇者』ジェック・アーロン(p3p004755)は思う。
ノーザンキングスの敵は新皇帝派とイレギュラーズ。
新皇帝派の敵はイレギュラーズとノーザンキングス。
イレギュラーズの敵もまた、新皇帝派とノーザンキングスという訳だ。
(誰の筋書きやら……まあいいよ)
総軍鏖殺――ふとそんな悪法の名が脳裏に浮かんでくるが。
けれどこの戦場、流れをコントロールするのは自身等イレギュラーズなのだと。目配せに応じた『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)に頷き返し、ジェックは身を潜め引き金を引く。
ライフリングの螺旋を駆けた弾丸が、激しい闘争の幕開けを告げた。
状況が複雑であれば、対する作戦も同様になるのが常である。
仮定に仮定を重ねた上で結果を掴もうとするのは、いつだって難しい。
だが――『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は一歩を踏み出した。
まずは切り込むための風穴を開けねば、何も始まらない。
温かく、けれど貪欲に。ふわりと風に乗る魔力糸が敵陣を編むように。
応戦を開始した新皇帝派の軍人が足を取られ、怒声を上げながら次々に転げる。
「……エイリーク、そこに居りますのね」
――主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え。
聖句を紡げば『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)戦棍が一気に燃え上がる。そして彼女が敵陣中央へ駆け抜けると同時に、爆炎が炸裂した。
「待っていて下さいまし。私達が何とかして差し上げますわっ!」
ヴァレーリヤにとって、エイリーク・ラーシェンは結婚式の際に司祭を務めたことがある間柄だ。
「頼むぜ司祭様よ!」
一気呵成に斬り込みはじめた友人、ヴェガルド・オルセン(p3n000191)の甥っ子のような存在でもある。
当のエイリークはというと、敵陣後衛で悲愴な表情をしながら剣を抜き放っていた。
事情はなんとなく察している。人質でもとられているのだろう。
(……なんで新皇帝派は悲壮な顔で戦ってるんスか。この国は樽で酒呑んで馬鹿やってるのが普通の癖に)
だから美咲が心中でぼやいたのは『疑問』からではない。
この明るく闊達で脳天気であるべき人々の様子が、こんな調子ではいっそ気にくわなかった。
戦況はあまりに多勢に無勢と言える。
兵士だけでも多いというのに――ジェックの弾丸が怪物の一体を沈める――こんな手合いも邪魔だ。
ギターをかき鳴らす『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は、美咲達と足並みを揃えながら、敵が殺到しつつある敵陣中枢へ足を進めた。
だから敵同士を食い合わせる。だがうまいことやるには旨い餌が必要だ。
「食いやがれ、特上の詩人がライブを見せてやるさ」
「じゃこっちは手筈通りに」
ヤツェクと目線を交したエッボ・ザサーレが、小さな筒を宙へ放った。
三秒、二秒、一秒――イレギュラーズが一斉に腕で視界を覆う。
炸裂した閃光が新皇帝派軍人達の目を灼いた。
目を閉じながら歯を食いしばる女達――二体の魔種の元へイレギュラーズが駆ける。
そんな戦場の真向かい。
「はじめまして北の王、シグバルドの旦那」
どこか飄々とした様子で、『闇之雲』武器商人(p3p001107)が胸元へ手を当てる。
「いかにも、余こそシグバルド。ノーザンキングスの統王よ」
「こういう時に名乗るに相応しい名が無くてね、好きに呼んでおくれ」
武器商人独特の名乗りに、迫り来る新皇帝派の軍人を、斧の一撃で斬り捨てたシグバルドが鼻を鳴らす。
「あえて確かめるかどうかは、これで問うてやる」
無造作に斧が振られ、鋼の暴威が烈風と共に襲いかかってきた。
斬撃は足元を覆う鉄材を数メートルほど裂き、新皇帝派軍人二人が両断されるが『ソレ』は揺らめき。
――あの日から纏う――蒼き復讐の炎が花開き、口角をヒヒと釣り上げた。
「本当は手土産のひとつも持ってきたかったところだが、暫しの間お相手を願うよ。『生きた伝承』とこうして相対できるのは実に嬉しいことだね。ヒヒヒ!」
同時に、シグバルドの喉笛へ躊躇無く描かれる槍の軌跡。
シグバルドは目を見開き、首を捻る。貫かれた金髪が舞い、穂先が石壁を縫った。『凛気』ゼファー(p3p007625)はそのまま延髄へ蹴り込むが、シグバルドは身を捻り巌のような肩を当てた。だがゼファーも咄嗟に足を引き、その肩を強かに蹴り付ける。初撃は浅いが、これでいい。
蹴った勢いで槍を引き抜いたゼファーは、勢いのままに周囲をなぎ払う。
幾人かの敵兵が吹き飛ばされた。
「よくぞそこまで練り上げた、貴様には殺しの才があろう」
「――ったく。まるで岩じゃない」
ゼファーは短く息を吐いた。
「やれ、何処にも彼処にも人間離れした爺ってのはいるものね」
良く知っている。本当に。嫌というほど。
だから最初から最後まで本気で行く。
なにより『こういう手合い』は口より手を動かすほうが伝わるものだから。
「其の相手をしなきゃってんだから、貴方も私もお互い苦労人よねえ?」
いつぞやノルダインの斧使いを仕留めたが、これは格が違う。
武器商人はデュオの相手として頼もしいことこの上ないが、今回ばかりは分が悪そうだ。
「ヒヒヒ! そうだねえ、風の娘」
「余の一撃に耐え、あまつさえ食らい付くとは褒めてやる、戦士の中の戦士共。
戦乙女共なら放っておくまいよ。だが余を狩るつもりだと言うのなら、せめてあと百人は連れて来い」
「面白いこと言うじゃない、あっはっは! ま、骨があることは保証するわよ」
再び鋼の激突。甲高い音と共に火花が散り、戦場を刹那彩る。
「愉快だぞ、小娘」
「ま、個人的にも強い爺のお喋り相手は慣れてるってのもありますけどねぇ!」
「まずはそいつから片付けてやろう」
シグバルドが斧で武器商人を指した。
「ヒヒ、お手柔らかにねえ」
ここまでは、作戦通り。
●
あちらはシグバルドと一戦交え始めたようだ。
アーリアにとってノーザンキングス、ヴィーザル地方は、友人――薔薇と獅子の旗を振る彼女や、暴風みたいに豪胆な熊の彼女が生まれた場所でもある。だからその場所を『悪い』だとか『嫌い』だとは思うまい。
けれどこの港は恐怖や武力で支配されて良い場所ではない。
昔の自身であれば、『山の向こうの国』がどうあろうと、知ったことではなかったろうが。
「それじゃあ行くわよ」
紡がれる艶やかな声音は、睦言のように耳元をくすぐる。
足元から石と化す兵士へ「お気の毒に」なんて投げかけ、一行は進軍を進める。
「シュカさん、リューダさん。流石に全てを相手取る余裕まではありませんので……すみません!」
すずなの刃が駆け抜け、新皇帝派の兵士数名が倒れる。このままどうにか浸透せねばならないが。
三つ巴とは言ったものの――すずなは思考する――数において自身等が最も不利なのは明白。
ならば相手の指揮官を潰す他に手はない。敵陣が機能し続けるなら、いずれ負けだ。
「シュカ達はそのまま、戦線を維持出来るかい?」
「やってみる、ううん。やるわ。任せなさい、マルク!」
「では軽騎兵隊の状況判断は引き受けます、リーナは前へ」
「うん。お願い、背中は任せるわ。お姉ちゃん」
司令塔は使い魔を放ち広域を俯瞰するマルク、伝令は自身と武器商人のハイテレパスだが、はてさて。
「で、俺はあいつでいいんだろ?」
「もちろん、よろしく頼むよ。それじゃ切り拓くよ」
「合点承知だぜ!」
マルクが放つ混沌の澱が敵陣を一気に呑み込んだ。
そうしながら指揮を執るマルクに頷き、『猛獣』ソア(p3p007025)が続き単身一気に駆けた。
新皇帝派に深く浸透することで、ノーザンキングスからの挟撃を避ける。
それにこの乱戦ならば――「ウルがいる、あの子を感じるの」、小さく呟き。
虎穴に入らずんば虎児を得ることは出来ないから。
「こんにちは、レディ」
胸元に大粒のブローチを煌めかせ、アーリアが微笑む。
「誰、わたし帝国の人にしか興味ないんだけどな」
少女――魔種ターリャは興味なさげに呟いた。
「まあま、そう言わずに。私と遊んでくださらない?」
けれど魔種であっても、魔性の宝石には魅入られるのだろうか。
「しょうがないなあ」
ターリャが宙に浮く二対の剣を握りしめ――早い。
煌めく軌跡がアーリアへ迫り、けれどアーリアは避けようともせず次なる術式を紡ぎ始める。
「もうお祈り? それはご愁傷さま!」
剣を振り上げるターリャの顔を喜悦が彩り、その瞬間、緋色の雷鳴が爆ぜた。
「悪いね、正々堂々ってやつじゃあなくって。
それに生憎とおれは旅人、アンタの興味からは外れるらしいが」
ヤツェクが二刀を受け止めたレーザーカタナを引き、手招きする。
「踊ろうか、お嬢ちゃん。変拍子について来い!」
アーリアを背に、ヤツェクが立ち塞がる。
その時、足元を火花が縫った。常人では抱えることも出来ない制圧射撃用の機銃(ミニガン)を片手で振り回し、新皇帝派の大男が一行を狙う――が、肩を打ち貫いた一発の弾丸に、自慢の兵器を取り落とす。
(でかけりゃいいってもんじゃないんスよね)
自動拳銃の引き金を引いた美咲が胸の内に呟いた。
暗殺に必要なのは威力でなく即応力だ。
「全く、だらしがない。ターリャ、早く終わらせなさい」
「はぁーい、けどこのお姉さん、かなりめんどくさ。おじさんもいるし」
現れたのはターリャに続くもう一人の魔種、ヘザー・サウセイルだった。
ずっと怪しかったと言えば怪しかった。はじめに疑い始めたのは、たしかジェックだったろうか。
近頃アーカーシュに潜り込み、この間の不凍港先行偵察で馬脚を現した魔種である。
「……キミのことを知れれば良かった。もう遅いけれど」
魔種という存在に変容したからには『理由』というものがある。
それはある種『人』という存在における『なれの果て』であり、死者と同義であるとするならば、墓標に刻む理由程度は知られるべきだ。
そうでなければあまりに悲しいではないか、浮かばれないではないか、馬鹿らしいではないか。
けれど――
正確無比な弾道が大気を切り裂き、ヘザーの頭部へ吸い込まれる。
赤ならざる黒が爆ぜ、ヘザーの身体が直角に傾いた。
これでおしまい。
仮に『人』であったなら。
だが身体を傾けたままヘザーが顔を向け、視線が交わる。
ぞっとした直後に、ヘザーの身体が闇色に弾け、無数のコウモリが戦場を舞った。
「……なるほどね」
そういう手合いか。魔種は文字通りに『人ではない』訳だが、手応えは確かにあった。
それに一度位置を悟られたからといって、漫然とその場に居るなんてのはスナイパーではない。
ジェックが再び戦場の混乱へ紛れる。あとは終わるまで、これを繰り返すだけだ。
それに乱戦なら(気配の薄い誰かより、目の前の脅威を狙うものでしょう?)。
イレギュラーズは健闘している。
だが、敵が持つ数の優位が徐々に作戦へ影響を与え始めていた。
イレギュラーズは魔種を狙っているが、敵兵が飛び込むように邪魔をしてくる。
軽騎兵隊は善戦しているが、全てを抑えきるのは難しいらしい。
一行は戦い抜いているが、けれど徐々に防戦へと追い込まれつつあった。
そして――
●
「ぶはははッ!」
戦況が長期戦の様相を示し始めている中で、新たな勢力が現れた。
「よぉ、豚の盾は入用かい?」
「……主役みたいにキメるじゃないか。けど、そろそろおれにもツキが回ってきたかな」
ヤツェクは口笛一つ。戦場へ突進する『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)に、天衝種なる怪物どもが殺到を始める。
溜息一つ。『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)が鞭を引く。
混戦だとは聞いていたが、これほどとは。戦いたくない者まで動員するとは許すべからず。
「コイツラ、遠慮無くぶっ飛ばしていいんでしょう?」
まずは天衝種を蹴散らしてしまおう。こいつらはすくなくとも、人ではない。
「――やってやろうじゃないっ!」
情勢には詳しくないと『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は思うが、やるべきことは分かっている。
向かってくる敵兵なり魔物なりへ、容赦なくぶちかませばよいのだ。
熱風が吹きすさび、灼熱の剣撃が敵陣をなぎ払う。
――死地に赴いてこそ、癒し手である。
自身に敵を討つ力無くとも味方を支援し、敵を討つ為の助力となれ。
どこかの本に書いてあったと、『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は思い出していた。
「……メイにできること」
戦い続けるマルクに狙いを定める。支援するのだ。
これは少なくとも『純粋な戦争』ではない。魔によって引き起こされた災厄だ。
戦場に満ちる憤怒の気配に、『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は決意を固める。
「後ろは、任せて下さいね」
「私も精一杯を」
後方で仲間を支えるのは、『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)だ。マリエッタと涼花、それからメイは、さながら衛生兵のように、傷ついた兵達の支えとなる。
味方として戦っているのはイレギュラーズばかりではなく、数多いのだ。
一行は手分けして、行動を開始した。
「うう……すぐに終わる戦いではなさそうです、よね……少しでも、皆さまが戦い続けられる、ように」
後に続く『ひつじぱわー』メイメイ・ルー(p3p004460)から放たれたのは熱砂の嵐。
妖精の木馬――その鞍上に座す『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)の後ろ姿は、さながら勝利の女神ニケの如く。紡ぐ光の術式が放たれ――お尻が揺れる。
ここベデクトは海の同胞も頼りとする港である。帝国とてこのままでは困るのも明白だ。
派閥やなにやらに興味はない『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)ではあるが――あたりに甘い香りが漂い、天衝種共が牙を剥く。
「……うーむ。食べないですよね?」
鉄帝国は母と知り合いの手伝い程度とは思っていたが――『砂国からの使者』エルス・ティーネ(p3p007325)は思う。新皇帝という存在には、興味が尽きない。その手先と交戦すれば、いずれ会える気がする。なぜだか心が震える気がするから。以前はこんな心境にはならなかったものだが。
ともかく、今は戦いに専念せねばなるまい。
混戦、乱戦――早々に片付くものではないだろう。『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が弓を引く。血で血を洗うこの戦場に、意義はあるのか。おそらく、全くないだろう。やがて来たる冬に備え、新皇帝を打破する算段を整えるべき時のはずなのに。
魔方陣が花開き、血の報いが降り注ぐ。
波濤が轟くように、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)の闘気が炸裂した。
「あいつらの邪魔はさせん。俺が相手になろう!」
(やはりと言うべきでしょうね)
人知れず、敵陣後方に術を放った『群鱗』只野・黒子(p3p008597)だが、推測は当っていた。
敵には戦いを厭う空気があり、後方でその背に銃を向けている者が居たのだ。督戦隊である。
これを排除することは、後々に効いてくるはずだ。
「お互いイヤでしょこんなの」
気付いたのは『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)も同じだった。
戦わねば敵に殺されるか、冬に殺されるか、それとも――だから終わらせよう。
敵意を呼び寄せ、道を切り開く。
「リーヌシュカ殿ッ! ただいま加勢に参ったッ!
ただ、戦場が戦場ゆえに手伝えるのは僅かじゃが……何か指令を頼むッ!」
「じゃあこの軍勢を、軒並み蹴散らしちゃいなさい!」
竜撃の一手、『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)が得物を振り抜いた。
「やっと、着いた……到着遅れてごめん!」
アーカーシュの一員として自分に出来ることをしなければと『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は円盤魔道具を頭上に掲げる。戦場を覆うように張り巡らされた祝音の糸は敵の足下へと伸びて厚いブーツを切り裂き真っ赤に染め上げる。
「僕も戦わせてもらう……不凍港を絶対に奪還する!」
祝音が血塗れにした敵へと魔法陣を向けるのは『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)だ。
星屑を描く陣から生み出される黒き泥はヨゾラの周囲に広がり、敵を容赦無く引きずり込む。
「僕という願望器は、北辰連合と独立島アーカーシュが……イレギュラーズの皆が、不凍港を奪還する願いを叶える為に来た。邪魔する奴は何だろうと、星の煌めきでぶん殴る!!」
頼もしいヨゾラの言葉に祝音も勇気づけられた。
オペレーション・レオニズ――大規模降下作戦も堅調に戦果を上げ続けている。
「助かるよ、どうにか反転攻勢の糸口を掴んでみせないと」
マルクが拳を握りしめる。
戦場には続々と援軍が到着し始めている。
その反面、敵軍の増援は数えるほどしか居ない。降下作戦が効いているのだ。
数の優位は徐々にだが、覆されようとしていた。
仮に独立島アーカーシュの参戦がなければ、そもそもの作戦自体が全く違っていただろう。
ノーザンキングスが不凍港を略奪する隙を突き、ポラリス・ユニオンの本体が陽動する間にイレギュラーズの少数精鋭で敵首脳部を撃破することになったはずだ。相当なリスクを伴う上に、市街地での略奪自体は止めようがない。だがアーカーシュの参戦によって、『ほぼ』正攻法での攻略が可能となった。何より略奪のほとんどが阻止出来ているのは僥倖であろう。達成可能な戦略目標の『質』が違ってくる。
一行は続々と到着する味方援軍に背を預け、新皇帝派へ更に浸透している。
「なるほど寡勢なればこそよな。
余を誘い張り付けとしながら、新皇帝派とやらの軍勢へ浸透。
余の軍勢と彼奴等めとの交戦を狙うたか。見事な采配よな。
無論、余等が彼奴等めを攻めるなら、貴様等は余の背を貫かんと奇襲するつもりでもあろう。
だがその策や良し、正に余等のやり口よ。だからこそ乗ってやる。者共ついてこい!」
大笑したシグバルドが突如ゼファーと武器商人を振り払い、新皇帝派の軍勢へ突撃をはじめた。
「ヒヒ、さすがに大した自信だねえ」
「この背、その細槍で貫いてみせよ!」
「言ってくれるわね。それじゃ、お望み通りにしてあげる」
新皇帝派とノーザンキングス、両軍の激突が始まった。
「……そうだよね。だろうと思った」
弾丸を撃ち続けるジェックが呟くように、ノーザンキングスは元々『漁夫の利』を狙いに来ている。
不凍港の占拠が出来れば最高だろうが、盗るものを盗れたなら、最悪でも身一つが安全であるならば、さっさと退くに違いない。ここを解放したいイレギュラーズとは目的自体が違う。だからそこを突く。
だからこの作戦が成立するのだ。
散弾銃が奏でる鉛の交響曲は、天衝種と共に魔種を貫き続けている。敵陣への制圧射撃は、その軍事行動をかなりの精度で封殺することに成功していた。ジェックは時々に応じて散弾銃と狙撃銃を巧みに使い分け、敵陣を次々と穿っている。だがさながら『謎の狙撃手』であり、それがジェックだとは気付かれていない。
だが新皇帝派の軍人は、出来る限り狙わない。事前の情報では離反の可能性が示唆されているから。
彼等は望んで戦っている者ばかりではないということ。
ならばいつ、離反を誘うか。
――それは軍人達を牛耳る魔種を排除した時だ。
どうにか切っ掛けを作らなければならない。
●
霧の中に小雪が舞い始めた。
誰の吐息も白いが、それでも戦況は一応の所は順調に推移していた。
けれどそれは必ずしも一方的であることを意味しない。
力の天秤は左右に激しく振れている。何か些細な掛け違いがあれば、何が起きてもおかしくはなかった。
新皇帝派の陣営へ斬り込んだイレギュラーズはいくらかの手傷を負ったが、数名が可能性を燃やしこそすれど倒れた者は居ない。一方の新皇帝派はノーザンキングスの陣営から強襲され、互いに戦力をすり減らしつつあった。統王シグバルドの豪勇は凄まじく、天衝種やら雑兵などではまるで歯が立たない。だが同じく二体居る魔種もさるもので、ノーザンキングスの兵を破竹の勢いで蹴散らしている。
イレギュラーズは味方増援の援護もあり、二体の魔種に有効打を与え続けていた。
与え続けてはいるのだ。
ただ『倒しきる』ことが出来ないでいるだけで。
「残念、此処も、私の間合いよ!」
肉薄するターリャへ向けて、アーリアは艶やかに微笑む。
甘い香りと共に、僅か一瞬迷ったターリャは仲間である兵を斬り捨てた。
それは一粒のアーモンド、それともシアン化カリウム。
「こんなゴミべつにいいけど、お姉さんてば、ほんとしつこいんだけど」
「イイ女は押し負けるわけにはいかないの!」
再び紡がれる温かな光の糸――それから立て続けに、ふと手のひらへ艶やかな吐息を。
美しい銀翅の群れがターリャを釘付けにし、奏でられたのは星屑のメジャーコード。
着実に刻んでは居る。
とはいえほぼ二人きりで魔種――それも戦闘に秀でたタイプを相手取るのはあまりに分が悪い。
既に両名ともに可能性を焼いた以上、許された時間はほんの僅かに過ぎないだろう。
ターリャが友軍であるはずの新皇帝派兵士の遺体を踏みつける。
「この国が、好きじゃないのね」
「……大嫌い、みんな死ねばいい。こんな、こんな奴等。
みんながわたしのこと、頑張れって応援したの。
絶対に勝てない、傷だけを増やすだけのわたしを、頑張れ、頑張れって。
かけっこでびりのときからそうだった。
ねえ、わたしの試合って『長引くように』、対戦相手に依頼されてたんだって。
それから『絶対に消えない傷と一つ増やすこと』。
みんなわたしをみて頑張ったって褒めて、可哀想って泣いて、気持ちよくなるの。それが私の商品価値。
もしかして。お姉さんも闘士だったりする? だったらうらやましい、ちゃんとした所で」
ターリャが二刀を構える。少なくともラド・バウに彼女の籍はない。彼女の弁が正しいのだとすれば田舎の小さな街で闘士をしていたことになる。
魔種というものは原罪の呼び声に応じる時、なんらかの感情がトリガーになることがある。
彼女の属性はどう見ても『憤怒』であり、大きな怒りを抱えていたのだろう。
だとしても――どんな理由があったとしても。
人類不倶戴天の敵となった今、滅ぼさない訳にはいかない。
アーリアは両の目でターリャを――人のなれ果てを――しっかりと見据えた。
きちんと終わらせてやらないといけない。
「ふっふー、やっつけてもきりがない! 大忙しだね!」
ソアは躍りかかる天衝種を蹴りの一撃で吹き飛ばし、次の一体と取っ組み合い、地に叩き付ける。
仲間達が魔種と戦うため、ソアは血路を切り拓き続けていた。
最大の目的は妹同然の存在であるウルを、見つけて連れ戻すこと。
ほどなくゆったりとした足取りで、軍装を纏う小柄な少女が現れた。
見間違えようもない、ウルである。
混戦の中で互いに探し合っていたのだから、こうなるのも当然だった。
「ソアちゃん、来てくれたんだね」
「迎えに来たよ……ウル! 今日は力づくでも連れて帰るから!」
ウルから立ち上る正体不明の怒気は、彼女自身が何に怒っているのかも分からなくさせていた。ウルは瞬時に跳躍した。幼い頃に弓を射たように、今では拳銃のトリガーを引く。
駆けるソアの頬を弾丸が掠め、ひとすじの赤を描いた。
ソアはウルの胸元を掴み、地へ引き倒す。背を打ち肺の空気を吐き出したウルは、膝をソアの腹部に叩き込んだ。身体が浮く程の強烈な一撃に見舞われ、けれどソアは空中で瞬時に身を捻り、ウルの頭部へ強かに踵を落とす。猛獣がじゃれあうような、それでいて雷撃が踊るような応酬が続いた。
はっきりと分かるのは、ウルが原罪の呼び声に当てられていることだ。
あるいは、これはひどく個人的なことなのかもしれない。けれどソアにしか成し得ない仕事だ。それにウルを無事に連れ帰れたのなら貴重な戦力にもなるはずであり、仲間達にとっても手助けになるだろう。
なによりターリャのようにするわけには、絶対にいかない。
どうにか引き戻してやるには――
「そろそろ頼むぜ、エッボ。いい頃合いだ」
「はいよブルーフラワー大提督、そんじゃ行くぜ!」
エッボが上空に信号弾を撃った直後、轟音。
ターリャの表情が驚愕に彩られたまま閃光に消え、激しい振動と共に爆風が吹き荒れる。
どうやら仲間が軍艦ドックを落としたらしい。艦砲射撃だ。
エッボのやつ、いつの間に手を回していたやら。
金属とセメントの破片が視界を覆い尽くし――
「おいおい、おれは罠って言ったよな」
「悪いがこいつは鉄帝国の流儀でね。三杯目、貸しだぜ」
「だったらいっそブルジョワジジイ(リチャード)に払わせよう。だいいち呼ばなきゃスネるだろ」
「いいね、現場班の特権だ!」
――爆風を払い、吹き飛んだであろうターリャを目で追った。
「やつめ、ぴんぴんしてやがる」
正真正銘の化物だ。
こいつ(ターリャ)にせよ、変幻自在のヘザーにせよ、怪物じみたシグバルドにせよ。頭が痛くなるばかりだが、エッボを使ったヤツェクの悪巧みは、戦場に比喩的にも物理的にも風穴をこじ開けた。
一時的に両者の距離が開き、戦場の中央が空いている。
「攻めよう。ヘザーを落とすなら今しかない」
それは戦場を俯瞰しながら戦っていた、マルクの決断だった。
「不凍港はこの国の希望だ。退くものか」
「はい。状況を変えるには、指揮系統を叩くしかありません」
「ええ、望むところですわ」
すずなにヴァレーリヤが頷いた。
新皇帝派の指揮官はヘザーだ。従う兵達はお世辞にも纏まっているとは言いがたい。
「どっせえーーい!!!」
命を焼きながら、ヴァレーリヤは全霊をこめて戦棍を振り抜く。
衝撃――手応えは十分に、けれど再びコウモリへ姿をかえようとしたヘザーへ、すずなが突進した。
ヘザーが指先で編む印を払い上げて、そのまま袈裟懸けに斬る。
赤い血の代わりに、人ならざるどす黒い瘴気が飛び散り、凍てつく大気へ溶け消える。
「――ッ!?」
その瞬間、突如ヘザーの胸部に風穴が開いた。
間違いなくジェックの一撃だが、どこに居るのか検討もつかない。
正体は先程掴んだつもりではあったが、おそらく素早く身を隠したのだろう。
こんなことなら、早く始末しておけばよかったが。ヘザーの表情に、はじめて焦りが浮かんだ。
「忌々しいですね、イレギュラーズ。ノーザンキングスをも利用し、手段を選ばぬ、その」
どの口が言うのか。
「悪しき血脈は、必ずや、この手で」
よろめき、ぽつぽつと言葉を零すヘザーに、マルクが肉薄する。
「残念だけど、それはかなわない」
マルクは握りしめた極大の光、青い閃光を振り抜く。
絶叫と共にヘザーの半身が掻き消え、けれど体当たりを仕掛けたのは悲愴な表情のエイリークだった。
表情を引きつらせたヘザーは、一匹のコウモリに姿を変え飛び去る。
「僕は、僕にはこうするしかないんだ!」
そしてエイリークは一行に剣を向ける。
「そっちは任せました」
溜息一つ、すずなはターリャへと向き直った。
「だらしないなんて言いながら、逃げるなんて」
「あなたは逃がしませんよ」
鯉口を切り、一閃。
僅かに反応が遅れたターリャへ、立て続けの連撃を叩き込む。
巨大な二振りの剣を引き戻したターリャの反撃は、早い。
けれどあまりに荒っぽい一撃は空を切る。
動きに無駄が多すぎるのだ。第一に剣とて大きければ良いというものではない。
魔種としてターリャの戦闘力は高いが、剣士としてはまるで『なっていない』のだ。
すずなほどの剣士であれば、一目で理解出来る。一太刀で確信出来る。
「剣士として一手、ご教授して進ぜますよ……!」
踏み込み、斬り結ぶ。ターリャは恐るべき膂力だが、やはり荒すぎる。
ターリャの能力は一丁前だ。いやそれどころか、力も速さもタフネスも、魔種らしく人の域を逸脱している。けれど技は三流どころか、四流か五流だ。
すずなはみねを掠めさせるように剣撃をそらし、上段から突く。
瘴気が舞い散り――こちらの血は赤いらしい――深紅の霧が咲く。
闇雲に振るわれる剣は、あまりに重い。すずなの踵が地を穿ち、蜘蛛の巣のようにひび割れた。
だが微かな隙へ踏み込み、一気に斬り上げる。
「ああもう、きらい、だいきらい。めんどくさい!」
ターリャが自身を庇おうとした兵士の襟首を掴み、思い切り投げつけてきた。
あまりにでたらめな動きだ。
横飛びに避け、そこから一歩踏み込んだとき、ターリャは既に高く跳躍していた。
そして一行を睨み付け、踵を返す。
けれど撃退がかなったことは事実。
長い戦いもようやく終わりだ。
――こいつさえ、いなければ。
「いよいよもって、余の番か」
●
身体中を無数の薄傷で覆い、それでもシグバルドの勢いは衰えを知らないでいる。
「怪異ってのはどこにでも居るんだねえ」
シグバルドは答えるように大斧を振るい、武器商人を両断した――そう思えた。
「貴様も大概ではないか、だが見えた。次は殺す」
だが陽炎のように纏う炎を切るばかり。
「多少は面白く思ってくれればいいのだけどね。"火を熾せ、エイリス"――!」
「人というものは、いつか死ぬものよ」
ゼファーは突き込んだ槍をあえて掴ませ、中高に握った拳で目潰しを狙った。シグバルドは額をぶつけて避けるが、続く死角からの足払いによろめく。
続く鋭い一撃は狙い通りにみぞおちへ突き込まれ、だが心臓へ達する前に分厚い筋肉が侵入を阻む。
「別に今とは限らんぞ」
「どうだかね」
しかしやれ冠位嫉妬に滅海竜、おまけにおとぎ話のスケアクロウと。
碌でもない現実とは度々やりあってきたものだが。
「アンタももうちょっと、若人には優しくて良いと思うんですけどねえ?」
身を粉にしても追いすがってやる。泥臭さは若さの特権だ。
激闘は続いていた。
一行はノーザンキングス、そして混乱しながらも戦闘を継続している新皇帝派と戦い続けている。
敵の援軍は多くなく、味方側の増援がこれをほとんど完全に足止めすることに成功していた。
一行は親衛隊と共に、シグバルドを追い詰めつつある。
「次から次へと、何だ貴様は」
続々と現れるイレギュラーズに、さしものシグバルドとて、いよいよ疲労を滲ませ始めた。
「通りすがりのイイ女じゃだめかしら」
再び術式を放ったアーリアが答える。
「余を前に臆さぬ減らず口。気に入った」
「で、どぉ? 戦果が欲しいなら略奪にお誂えの倉庫があるわ。それで帰ってくれないかしら」
「答えなど決まっておろうに。断るのみよ」
シグバルドが笑った。
「強欲だこと。足りないなら、イイ女でも持っていく?」
「たしかに貴様は至宝にも勝る。だがこの戦場に立つ戦士だと認めている。戦士は収穫物にあらず」
「そんなに戦ってばかりで、何がしたいのやら」
「幻想王国では政変が起きているというではないか。
しかしてかの伏魔殿だと言うに、寝首をかくでもない動きの鈍さ。
戦人(いくさびと)ならば、これを聞いて何とする。
一気果敢に攻め上り、小麦抱く肥沃な大地を根こそぎに奪う。違うか。
しかして帝国の新皇帝とやらは、この死の大地での殺し合いを願ったらしい。
なんたる悪行、なんたる愚行、なんたる蛮行。なんたる小事!
なぜか。彼奴めは人の世を統べるに値せん、魔種(デモニア)なる化け物に過ぎんからだ」
新皇帝が魔種とはシグバルドの完全な憶測である。だがその実、正解を引き当てていた。
「ならば帝都を落とし、幻想王国をも手中とする。この覇道、余を置いて他に誰が成せる」
この感情的な物言いからして本音だろうとマルクは思った。だが――
「アーカーシュのマルク・シリング。ここは、奪わせない!」
――これ以上やらせる訳にはいかない。光を束ね、再び振るう。
「一目見て解る圧倒的な武威、あれが統王シグバルド……これ程とは」
駆けつけた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が息を飲む。
ノルダインを統べシルヴァンスを従え、多くのハイエスタさえも不本意ながら従う武力は伊達ではない。
息子のベルノ共々、最前線に立つだけのことはある。
「その覇道、見過ごす事は出来ない。止めます」
リースリットが放つ風魔術に続き、黒い巨剣が敵陣をなぎ払う。
「どうやらパーティーには間に合ったみてえだな」
獰猛な笑みを浮かべたのは『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)。
会いたいと思っていたのだ。
あのノーザンキングスを腕っ節でまとめあげた男に。
興味ない訳がない。
「アンタがシグバルドだな? 会えて嬉しいぜ」
「何だ貴様は」
「ラサの傭兵、ルカ・ガンビーノだ。いくぜ大将!」
「魔法騎士セララ参上! 鉄帝の平和はボク達が守る!」
「さあセララ、妾を振るい悪を討つのじゃ」
同じく戦場へ到着した『魔法騎士』セララ(p3p000273)が『剣の精霊』ラグナロク(p3p010841)を掲げ、光の翼を纏った。
「全力全壊! ギガセララブレイク!」
一気に振り抜く。雷撃が駆け抜け、シグバルド親衛隊の丸盾が粉々に砕け、そのまま身体ごと吹き飛んでいった。煉瓦壁に大穴が開く。
仲間の援軍が立ち塞がるシグバルド親衛隊へ、次々に斬り結び始めた。
「ボク達が道を作るよ、だから!」
親衛隊が盾を掲げ銃弾から身を守ろうとするが、逆に言えば身動きがとれないということ。
「借りてばかりは性に合いませんのでね」
アーリアとジェックを見つめたのは、『銀弾』新田 寛治(p3p005073)だ。
返せる時に返していかねば。まずは弾幕をばらまき、バックアップを始める。
「私だけ休んでいる訳にはいきませんものね」
弓を引き絞る『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が矢を放つと共に熱砂の嵐が戦場を駆け抜けた。
こじ開けた糸口が、いかに小さくとも。チャンスは尽きていない。
一同がシグバルドへ殺到する。
「俺は一応北辰連合じゃああるが……今日は一人の男として喧嘩を売りにきただけだ」
シグバルドは迫る剣撃を斧で打ち払い、次の一撃を血まみれの手で掴み上げ、ルカの巨剣もまた肩へ強かに食い込ませたまま、巨大な斧を振るう。
「陛下、潮時かと」
そんな時、膝を付いた親衛隊が叫んだ。
「よかろう。貴様等を蹴散らし金狼を狩るつもりが、なかなかどうして骨がある」
顔をあげたシグバルドが、ルカに身体ごとぶつけ、突如走り出す。
「逃げんのか!」
「楽しめたぞ小僧共。金狼に伝えよ、次で仕舞いだと」
追撃するルカに場違いな笑みを向け、シグバルドが逃げていく。
ノーザンキングスの兵達も、一斉に続いた。もはやもみくちゃだ。
幾人かが追ったが、これではどうしようもない。
なんという思い切りの速さだというのか。あれはケダモノだ。恥も外聞もありやしない。
怒りより先に、なんだか呆れてしまう。
けれど戦場の混乱は依然として続いていた。
未だ新皇帝派を戦場に押し止まらせているのは、原罪の呼び声による影響だろう。
「何をそんなに怒っているの?」
激闘の最中、ソアは懸命にウルへと語りかけていた。
「わかんない、わかんないよ!」
あんな連中、よりにもよって魔種などに手をかして。
ソアには難しいことなど分からない。けれどあいつらだけは絶対にダメだと伝える。
取っ組み合い、転げ、爪をたて牙を剥き――まるで幼い頃を思い出すようで、胸の奥が痛んだ。
この国を滅茶苦茶にしているし、弱い者いじめばかりだし。
なによりも「折角会えたのに!」
また離ればなれなんて嫌だ。
ずっと昔から、一緒だったではないか。
もしかしてウルは――
「寂しかった?」
――自身(ソア)を食べたいと思うほど。
震えたウルが、こくりと頷き目をそらした。
「たぶん、そうだとおもう」
「もう離れないって約束する。だから一緒に帰ろう」
差し伸べたソアの手を、ウルが優しく握り返した。
ウルの潤んだ瞳には、もはや憤怒の狂気の色は見えない。
ソアはウルをそっと胸に抱きしめる。寒空の下、懐かしい暖かさが感じられた。
●
「俺はその馬鹿のおむつ代えてやった仲だが、ガキの頃からおかしな方向にきかん坊でよ。
そういうときゃ一発げんこつくれてやんのよ。ノルダインのやり方ってもんだ。
俺がやんなきゃなんねえとこだが、残念ながらこの通りの為体でよ。だから頼んだぜ、我等が坊さん」
息も絶え絶えにへたり込んだヴェガルドを背に、ヴァレーリヤが頷いた。
「ええ、無論ですわ。そこで待っていて下さいまし」
指揮官を失った新皇帝派の軍人達は混乱の渦中にある。
エイリークもまた戦い続けているようだったが、そろそろ頃合いのはずだ。
この混乱を、とめて見せる。
「さあ戦いを止めて下さいまし! 新皇帝派を取り仕切っていた魔種は倒しましたわ!」
爆発的な音量が、海軍基地へ響き渡る。
誰もが一瞬、手を止めた。
「もう人質の心配をする必要はありません。
そして、この街を取り返せば、補給の心配をする必要もありません。
この街を取り戻すために、貴方達の大切な家族を、友人を、故郷を守るために」
懸命に叫び続ける。
「どうか一緒に戦って下さいまし!」
数名の兵士達が手を止めた。
そんな様子が徐々に、徐々に。さざなみのように、広がっていく。
「てめえら、本当に満足か?」
ヤツェクもまた問うた。そして奏でる、鉄帝国人にとっての、故郷の唱歌を。
母なる大地、郷愁を誘う古き善き日のメロディーを。
「大丈夫だ、イレギュラーズはここにいる」
心を震わせる。原罪の呼び声など、吹き飛ばしてみせると。
そも顔の広いヤツェクのこと、敵軍に知人友人やファン(!)がいたっておかしくない。
そんな様子を見て、美咲はいくどか首を大きく横に振った。
ほだされてしまったのだろうか。
それとも情熱に火が灯ってしまったとか。
よりにもよって、なんということを思いついてしまったのだろう。
そこの司祭か詩人か、司令塔か軽騎兵隊長か。今は居ないが小さな大佐あたりが適任であろうに。
目立つということは、スパイにとって禁則だ。目を引く形での扇動などなおさら。
特に美咲のような、長期間馴染んでいくタイプにとっては、この上なく。
だからこの世界に召喚されてから、ずっとこそこそしてきたのだ。
適任だって他に居る。
こんなことをすれば、上司にだって、ヤバいヤツにだって睨まれるだろう。
そもそも『これ自体』のリスクだって大きい。
けれど――
(今と今後、両方の為狼煙を上げるなら今でしょう)
――ヴァレ氏、アンタ結構な原因なんスから責任取ってよね。
「この一戦を以て皇帝陛下へ拝命の意を申し上げる! 私は勅命のとおり陛下を殺す!」
文字通り、鏖殺する。
シグバルドの弁ではないが、総軍鏖殺だと言うならば、新皇帝様とやらを殺せば終わりではないか。
「……なぜこれを誰もはっきりと言わない!? 絶対的暴力がある『たかがそれだけ』だろう!」
この国にとって、そんなもの。
「今日からが反撃の日だ。
不凍港は通過点
私達が、いや私がすべてを奪い勝利するッ!
それは正義とか救いとかは関係無い。
私が冒険(ゆめ)もアルハラもない陰気な鉄帝が気に喰わないからだ!」
そして拳を突き上げた。
「私は総てを獲りに行く」
辺りがしんと静まりかえる。
(……あーあ、やっちゃった。なにが『たかが』でスか)
戦い続ける者は、最早一人も居なかった。
「掴みたいものがある奴はアーカーシュに続け!!」
軍人達の視線は、美咲に注がれている。
誰かが敬礼し、誰もが真似をした。
呆然とへたり込んだエイリークを前に、ヴァレーリヤは両手を腰へあててひと睨み。
「……」
「エイリーク、いつまでボンヤリしていますの!
全て取り戻せるか失ったままか、それがこの戦いに掛かっていますのよ!」
「……ええ、司祭様。まさに仰る通りです」
自身が何をあんなに怒っていたのか、理由すら分からないでいる。
気付けば、あたりには雪が降り始めていた。
何もかもを、ただ白く染めてしまうように。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼お疲れ様でした。
不凍港の奪還作戦に成功しました。
サポート参加された方々の尽力もあり、被害はおどろくほど低減されたかと思います。
全員居るとおもいますが、抜けがあればお知らせ下さい。
MVPは、えらいこっちゃになってしまった方へ。
大丈夫なのでしょうか。
不凍港のまとめは明日あたりにTOPで。
それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
不凍港ベデクト奪還作戦。
こちら本丸。三つ巴の戦いです。
●目的
ノーザンキングスを撃退する(生死不問)。
新皇帝派軍人や魔物を撃退する(生死不問)。
辺りを制圧する。
●ロケーション
ベデクト北東部にある、海軍基地施設です。
屋外で広く明るく、足場も安定しています。
敵の親玉を叩き、敵軍撤退に追い込みたいものです。
はじめは三者三様に向かい合う形ですが、数が多いためすぐに乱戦となるでしょう。
出来るだけはやく『頭』を叩きたいところですが、なかなか難しい状況です。
とはいえどの敵勢力も、敵の頭目達は積極的に前で出てきます。
各々、自身が戦えそうな傾向の雑魚(とはいえ手強いのですが)をなぎ払いつつ、頭目達のいずれかを狙い撃ちしていくと良さそうに見えます。
味方側は仲間や援軍が居ますが、おそらく比較的少数のためイレギュラーズ同士はある程度足並みも揃えたほうが良さそうです。
とりま戦えば大丈夫なのですが、状況的に戦闘以外の選択肢もあるかと思います。そういう方向が得意な方には、特に。
●敵:ノーザンキングス
イレギュラーズも新皇帝派もおかまいなく攻撃を仕掛けます。
『ノーザンキングス統王』シグバルド
ノーザンキングス統王シグバルドその人です。
ヴィーザルのまつろわぬ民を、個人の武威と恐怖のみでまとめあげたとされる人物です。
実際のところは、年経た老獣のように悪知恵も回ります。
巨大な斧を玩具のように振り回し、凄まじい威力の攻撃を仕掛けてきます。
子供の頃に素手でクマを捻り殺したとか、若い頃には機関銃の掃射を銃身全てが焼き切れるまで受けきったとか、ノルダインやハイエスタの戦士を一人で全滅させたとか、最近では帝国の鋼鉄艦を斬ったとか、いつも本当か嘘かも分からない話がついてまわっています。
さながら『生きた伝承』であり、恐るべき事におそらく全て『本当のこと』です。
『シグバルド親衛隊』×20名
シグバルド配下の精鋭達です。
槍、剣、斧、盾などで武装しています。主に近接攻撃を行います。かなり強いです。
『ノーザンキングス兵』ハイランダー×沢山
ハイエスタの剣士やドルイド達。両手剣で武装しています。
主に近接物理攻撃や、神秘遠距離攻撃を行います。
剣士は両面型の爆発的な至近攻撃を行うこともあり、またドルイド達の様々なBSも侮れません。
『ノーザンキングス兵』ヴァイキング×沢山
ノルダインの戦士達。斧や石弩などで武装しています。
主に近接物理攻撃を得意とします。見た目通りにタフで力強いです。
『ノーザンキングス兵』パワードスーツ×沢山
シルヴァンスの兵士達です。比較的鈍重ですが、遠距離物理攻撃や、遠距離神秘範囲攻撃を得手とします。巨大な金属アームによる近距離の威力も侮れません。
『他』
増援も予想されます。
●敵:新皇帝派
イレギュラーズもノーザンキングスもおかまいなく攻撃を仕掛けます。
『魔女』ヘザー・サウセイル
うら若く見える、謎めいた女性です。
理由は分かりませんが、最近アーカーシュに潜伏していました。
ノーザンキングスに並々ならぬ憎しみを燃やしています。
姿からいって、恐らく搦め手や攻撃魔術を駆使するタイプのようです。
ジェック・アーロン(p3p004755)さんの関係者です。
非常に嫌な気配がします。おそらくはもう、とっくに――
『謎の少女』ターリャ
二本の巨大な剣を携えた少女です。どことなく鉄帝国の闘技場で戦う『闘士』然としていますが、少なくともラド・バウには記録がありません。おそらく近接攻撃に秀でていると思われます。
何かにとてつもなく強い怒りを抱いているようです。
非常に嫌な気配がします。おそらくはもう、とっくに――
『月虎』ウル
ソアさんの妹分で、鉄帝国の軍人です。
ソア(p3p007025)さんの関係者です。
はじめはどこにいるのか分かりません。
怒気にも似た闘気と共に、積極的な近接攻撃を行ってきます。
ソアの記憶の限り、怒るのは苦手な子でした。
おそらく自身も『何に怒っている』のか分かっていない状態でしょう。
人食い虎と噂されており、おそらく原罪の呼び声の狂気に侵されています。まだ引き戻せる状況ですが、最悪の場合は反転も考えられます。
ソアさんはこの間出会った際に、自身と比肩しうる程の力量を持つことを感じとっています。しかもそこに『狂気』が上乗せされているとしたら……。
『霧刃」エイリーク・ラーシェン
新皇帝派に嫌々ながら従っている、特務派の軍人です。
剣の扱いに長けています。そこそこ強いです。
こちらもまだ引き戻せる状況ですが、原罪の呼び声の影響を微かに感じます。
ヴェガルド・オルセン(p3n000191)の甥っ子のような存在で、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)さんの関係者でもあります。
『新皇帝派の軍人』×30
銃やアーミーナイフなどで武装した、正規の軍人です。
根っからのどうしようもない荒くれ者の他、原罪の呼び声(憤怒)に侵された者、なんらかの事情で嫌々従っている者など、様々です。
大多数が望まぬ戦いを強いられています。
『天衝種(アンチ・ヘイヴン)』×多数
新皇帝に従う魔物群です。『憤怒』の感情を宿した魔物で、特にイレギュラーズを発見すると激しい敵意を露わにします。
スペックは物理近接型を中心に、物理神秘距離範囲を問わず様々な種類が揃っています。
『他』
多量の増援が予想されます。
しかし同じく、望まぬ戦いを強いられている者達も多いでしょう。
●味方
『氷剣』ヴェガルド・オルセン
エイリークを助けに来ました。元ノルダインの戦士であり、今はラド・バウ闘士です。
こちらの戦場は独立島アーカーシュの派閥を中心にしていますが、ヴェガルド自身は友軍であるポラリス・ユニオンに参戦しています。
タフで攻撃力もある、トータルファイターです。
割と強いですし、皆さんの言うことは良く聞きます。特に何も言わなくても、それらしく連携してくれます。
『セイバーマギエル』リーヌシュカ(p3n000124)
帝国軍人にしてラド・バウ闘士。自身も前線で戦う現場指揮官です。階級は大尉。
割と強いですし、ラド・バウC級の頃よりも腕を上げており、もうワンランク高い実力と思われます。
皆さんの言うことは良く聞きます。特に何も言わなくても、それらしく連携してくれます。
『陸軍少尉』リュドミーラ
すずな(p3p005307)さんの関係者であり、リーヌシュカの義姉です。
帝国の士官であり指揮系の範囲支援能力を持ちます。身軽なので一応戦闘も可能です。
リーヌシュカと行動を共にします。
『鉄帝国騎兵隊』×30
リーヌシュカの部下です。
ワイバーンに騎乗し、サーベルとライフルで戦う精強な部隊です。
攻撃力と機動力に優れ、また中々にタフな頼れる奴等です。
リーヌシュカと行動を共にします。
『特務派軍人』エッボ・ザサーレ
近接戦闘能力は普通の軍人なりですが、爆薬などを使用してトリッキーな戦闘をするタイプです。
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)さんの関係者です。
『特務派軍人』×15
アーカーシュに駐留する特務派軍人達です。
イレギュラーズに強い感謝を抱いており、協力を惜しみません。
ピストルや軍隊格闘術などで戦います。
エッボも混ざって戦います。
『援軍』
他の戦場が優位に進んでいる場合、味方増援が期待できます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●サポートプレイング
描写量自体は、ちょっとだけになると思います。
フレーバーとして、派閥がポラリス・ユニオンかアーカーシュの場合は、他の戦場での戦いを終えた後。それ以外の派閥はアーカーシュのローレット支部を経由して都合良く転移してきたものとして扱います。この戦場自体が後のほうになると思われますので、どの派閥でも条件は一緒として扱います(要するに細かい事は気にしないということです)。
状況的にかみ合わない場合などは、必ずしも登場する訳ではないので、あらかじめご了承下さい。
またこの作戦の他にも街で出来そうなことが出来る場合もありますが、こちらは採用率が下がりますので、同じくご了承下さいませ。
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