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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>服従の鎖

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●クラウィス・カデナ鉄帝国軍中佐
 男は辞書の編纂を職務としていた。鉄帝国の文官の家に生まれ、幼い頃から本に囲まれて育った。
 周りの子供達は皆、外で遊び『ラド・バウ闘士ごっこ』に明け暮れていたがクラウィスだけはそうではなかった。
 日々、草木を眺め図鑑を引く。見知らぬ知識が増えて行く事が嬉しくて堪らなかったのだ。
 成長するにつれて武こそが正義であるこの国で文官の座は余りにも肩身が狭いことを知った。
 丸い眼鏡を掛け、何時も猫背であった父を子供心で「格好悪い生物なのだ」と認識してしまった時、酷く悲しんだ事を覚えて居た。
 それでも男は辞書を引き、様々な知識を得た。
 そんな彼はアーカーシュアーカイブスの編纂に参入した。天職であるかと思えた。
 動植物の図鑑編纂を好きなだけ行える。閑職であろうともそれでもよかった。幸せだった。
 だが、新皇帝派がのし上がり、武こそが全てとなったその時に男は耳にしたのだ。

 ――カデナの図鑑を使えば、腕試しが出来る。殺したモンスターは食えば良い。

 今まで『武を持たぬ者は情けない』と閑職出有るかのように追いやられていた己は義憤に駆られた。
 鉄帝国に住まう獣たちを蔑ろにする其れ等を許しては置けなかった。
 奴らにモンスターの強さを見せてやれば良い。膝を付き赦しを乞わせるのだ。
 己の傍に居る生物たちは尊い存在であると知らしめなくては――!

「ああ、貴方がカデナ中佐ですね。ご機嫌よう。『アラクラン』のギュルヴィと申します」
 男は穏やかに微笑んだ。彼はクラウィスと獣たちに『中央駅』の防衛を任せたいと言った。
「貴方にしか出来ません」
「私に何が出来るというのだ」
「『ビーストテイマー』クラウィス・カデナ中佐。貴方の素晴らしき相棒達に此の場所をお任せしたいのです。

 ――帝都中央駅ブランデン=グラード駅。
 その地下には地盤調査の為に古代兵器の有無を調べるべく掘られた穴が存在していた。
 鉱山夫達を導入し、続けられた作業で出来た大穴を嘗ての政府は『地下鉄通路』として利用したらしい。
 枕木を敷き詰め、利用しようとした刹那、一部の崩落やモンスターの出現、経路開拓の難航で利用計画は頓挫した。
 クラウィスを連れて遣ってきたギュルヴィは「凄いでしょう」と微笑んだ。
「ギュルヴィ、その方は?」
「クラウィス・カデナ中佐ですよ。『ドルイド』、ローズル外交官」
 くるりと振り返ったギュルヴィにブリギット・トール・ウォンブラングは「こんにちは」と穏やかに一礼をした。
 剣呑とした雰囲気を醸し出していた『魔種』の女は雷神の末裔を象徴する金色の眸でクラウィスを見遣る。
「貴方、けだものの匂いがしますね。わたくしはよく知っておりますよ、これは……狼」
「その通りだ。私は二匹の狼を伴に連れている。此方がビアンコ、そして此方がネーロ」
 白毛と黒毛。二匹の巨躯の狼はブリギットを警戒するように唸る。女は気にする素振りもなく「愛らしいこと」と唇に笑みを乗せた。
「ビアンコとネーロが『地下道』を護って下さるのですか?」
「ええ。ローズル外交官。屹度『革命派』にも役立つでしょうから。
 ……それではお願いしますね。私も一応『軍閥』。長官命令として受け取って下さい」
 クラウィス・カデナは彼等の会話には興味が無かった。自身の連れたモンスター達を鱈腹食わせてやるには人間(えさ)は多い方が良い。
 男は疾うに狂って居たのだろう。
 この地下道ならばモンスター達を冬の寒さから護ってやれる。
 防衛しろというならば攻め入る者が居るはずだ。それらは餌にしてやればいい。
「ああ。任せてくれ」
 寒々しい冬が来れば獣たちも餓えて行く。その前に『肉』の備蓄をしておかねば――


「行くわよ」
 テーブルをとんとんと叩いたのはビッツ・ビネガー (p3n000095)――ではなくウォンバットのマイケルであった。
「だめ」と声を掛けるウォロク・ウォンバット (p3n000125)にマイケルは「ぎしゃあ」と声を上げている。
「ちょっと、協力なさいよ。スースラ」
「ああ。マイケルを抱いておこう。ケツだけは此方に向けるな」
 スースラ・スークラの言葉にウォロクは「お尻でアタック、だめだよ」とマイケルに言い聞かせている。
 何処か楽しげな空気を醸し出すラド・バウ倉庫部屋。しかし、これから行なうのはブランデン=グラードの攻略作戦だ。
「闘士は振り分けたわ。一応ね、防衛とそれから攻略作戦組。パルスには残って貰うようにするわね」
 作戦を話し合っていたイレギュラーズ達に感謝を告げてビッツは「アンタたちの作戦をちゃーんと確認したわよ」と胸を張った。
「正面入り口にはラド・バウ闘士をやるわ。ローレットで外から叩いてくれる子たちも居るはずよ。ウォロクは」
「……ん、外回るね。マイケルも」
 陽動は任せて欲しいと頷くウォロクとマイケルに「無理はするなよ」とスースラはその頭を撫でた。
「と言うわけでアタシ達は職員用の入り口やダクトからの侵入をするわ。
 管制施設は『カデナ中佐』――だったかしら、良い男よ――が制圧している可能性があるわね」
 クラウィス・カデナ中佐はブランデン=グラードの責任者だ。彼はビーストテイマーであり『魔種』となってからはその持ち得た能力で無数の獣を目や手脚のように操っているらしい。
「線路使用に関する管制施設は魔種達が居る可能性が高いわね。
 攻略にはちょっと骨が折れるかも知れない。出来る限り万全に備えていきましょう」
「ビッツも出るのだろう?」
「アタシも出るわ。アンタ達が死にそうなときはアタシが囮になる。色仕掛けよ。美しいって罪ね」
 頬に手を当てたビッツにスースラとウォロクが同じタイミングで首を傾げた。
「アンタ達ねぇ……。
 それで、作戦は確認していたけれど、制圧・封鎖に関しては改めてアタシの話を聞いて決めて頂戴。
 まず、スースラ達が向かってた地下道だけどカデナ中佐のモンスターが潜んでいる可能性が濃厚よ。
 出入り口を塞げば勿論駅内部の魔種達を取り逃がさずに済むかも知れないけれど戦闘が長引く可能性があるわ。
 地下道から追加戦力を防ぐと言う意味合いなら……そうね、『抑えきれる』ならいいかもしれない」
 思わぬ援軍が来る可能性も――そう言いたいのであろう。
「一先ずは駅の奪取からよ。地下道は寧ろ『あれだけ動物が好きな男』ならモンスターを逃がす方向にシフトする可能性もあるわね。
 カデナ中佐を撤退に追い込めば彼は必ず地下道を利用しようとするわ。
 短期決戦で彼を地下に追いやって、駅から追っ払えばこっちのものよ。多分ね」

 ブランデン=グラードの正面入り口には闘士達が頭数を揃えていた。
 南口、東口。三つある入り口の中でも特に巨大な正面に無数の人影が見える。
 ラド・バウ闘士達は武を持って制するために動き始めたのだ。
 郷田 貴道 (p3p000401)を始めとするラド・バウ独立区の作戦提示をビッツは「出来るところまでやりましょう」と告げて居た。
『思わぬハプニング』が起っては居るが――表が騒がしければ独自での潜入は容易となる。
 構内地図はある程度は把握済みだ。スースラとビッツが案内役にもなろう。
 入り口への守護と偵察はウォロクとマイケルが回っている。其方からの連絡は小鳥(ファミリアー)を通じて合図されるはずだ。
「さて、カデナ中佐をメロメロしにいくわよ。
 任せなさい。今日のアタシはいい男を前にして――本気よ?」

GMコメント

●成功条件
 ・クラウィス・カデナ中佐の撃退(撤退・死亡問わず)
 ・中央管制システム「N-0015」の奪取

●帝都中央駅ブランデン=グラード
 ラド・バウ付近に存在していた帝都中央駅です。地下鉄(地下道)が存在しています。
 魔種達もこの地を重要拠点と認識しているため、駅構内には無数の敵影が見えています。
 各入り口に闘士達が押し掛けている他『大きすぎるハプニング』が発生しているので、潜入が可能です。
 ただし、これも『いつまで持つか』分かりません。出来る限り早期の攻略が望まれます。

・『職員入り口』付近にはアラクランの魔種が存在しています。戦闘し、潜入にはやや時間が必要です。
・『ダクト』は非常に狭く一人ずつしか通ることが出来ません。
 職員入り口を越えた先に出る事が出来ます。但し、物音などで気付かれた場合はダクト出口で待ち伏せされる可能性があります。

・線路付近には無数の魔種が警戒に当たっています。
 また、構内には小型のモンスターが歩き回っています。カデナ中佐の能力による使役動物たちでしょう(後述)

・中央管制システム「N-0015」は中央管制室に存在しています。電気やその他全ての機能の中央制御を行なっています。
 此の付近にカデナ中佐及び中佐の連れる狼二匹が存在している可能性があります。
 後に使用することを考えれば『壊さない方』が賢明でしょう

・中央官制システム「N-0015」はカデナ中佐が得ているコードを入手し入力しパスワードを変更することで制圧可能です。一先ず彼を撃破に追い込みコードを奪取しましょう。

・地下道にはカデナ中佐のモンスターが潜んでいる可能性が高いです。また、地下道に通じる通路は一カ所のみ。
 封鎖を行なうか否かは改めての作戦提示をお願いします。ただし、距離が離れているためカデナ中佐の『疎通能力』は薄く、モンスター達が攻めこんでくる可能性は低そうです。

●敵勢力
 ・クラウィス・カデナ中佐
 鉄帝国軍。中佐。ビーストテイマーです。元々はアーカーシュアーカイブスの編纂にも関わっていました。
 刀を獲物としていますが、本職は獣たちを駆使することであり卓越した技能を有します。
 その性質が『行き過ぎた』のかモンスター達を生かすことばかりに注力します。
 非常に強力なユニットです。ですが『モンスターを愛している』という点に着目することで攻略を容易にするでしょう。

 ・巨狼『ビアンコ』『ネーロ』
 白と黒の二匹の狼。カデナ中佐に非常に懐いており、連携して戦う高機動ユニットです。
 モンスターですが動物疎通相応能力での対話が可能です。
 耐久にも優れているため、強敵となります。ある意味で『カデナ中佐の弱点』であるかもしれません。

 ・小型モンスター達
 無数にいます。カデナ中佐のファミリアー的役割を担います、が、距離が離れれば連携が薄れるようです。
 また、『カデナ中佐』へと連絡をすることに3T程度の時間を有するため早期撃破を行なえば潜入は露見しません。
 非常に数が多く、これらがカデナ中佐に連絡した場合は魔種達が差し向けられるでしょう。

 ・『アラクラン』の魔種
 中央駅を護っている魔種です。カデナ中佐の指示に従って動いています。

●『立場不明』
 ・ローズル外交官
 迷い混んでしまったような顔をして居ます。護衛役の『ドルイド』に頼り切っているようですが……?

 ・『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブランク
 ローズル外交官の護衛役です。駅構内に彼と共に存在しています。
 どうやら地下道を使いたいそうですが……? 交渉を行えそうですね……?

●同行NPC
 ・ビッツ・ビネガー
 ・スースラ・スークラ
 ラド・バウS級闘士であるビッツと彼の同期で元ファイターのスースラです。
 基本的には『本当に危険になった際』の逃走支援(殿)を務めるつもりのようです。
 ビッツは「嫌なヤツは見てるだけなのよねぇ」と言っています。
 ビッツは暗器を用いた非常に『嫌がらせめいた』戦闘スタイルです。
 スースラは質実剛健とした刀を使用した剣士タイプ。前衛後衛でタッグを組めるみたいですね。

 ・ウォロク&マイケル
 陽動をしている闘士達に同行しています。其方が瓦解した際などは直ぐに連絡を行ないます。
 つまりは、『長く持たない可能性がある』ため、イレギュラーズが撤退を行なわねばならない際の保険です。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>服従の鎖Lv:40以上完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月10日 22時56分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
セララ(p3p000273)
魔法騎士
郷田 貴道(p3p000401)
喰鋭の拳
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
聖女頌歌
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
冬越 弾正(p3p007105)
セクシーキング
夜式・十七号(p3p008363)
蒼き燕
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶

リプレイ


「何の為に今まで似合いもしねえ、クソつまらねえ調整やってきたと思ってやがる」
 思わず呻いた『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)。帝都スチール・グラードに存在する帝都中央駅ブランデン=グラードには暗雲が立ちこめていた。
 前方入り口に詰めかける濁流のような人の群れ。ラド・バウ闘士達と、それを抑える新皇帝派閥だ。現時点でのラド・バウ総司令(代行)であるビッツ・ビネガー (p3n000095)は「死ぬ覚悟があるなら駅に。ないか、心優しいか、目的があるなら闘技場に残りなさい」と告げたと言う。
 その前者――『死ぬ覚悟』を試されるような状況に見舞われる事となる。正面入り口に向かったウォロク・ウォンバット (p3n000125)とマイケルはその気配を感じ取っていることだろう。それでも正面から闘士達が退かぬのは理由がある。
「ちょっと……いやまあ結構なハプニングだが、それぐらいで諦めてたまるかよ。是が非でも奪い取ってやるぜ……!」
 ――イレギュラーズが侵入し、駅の奪取を完了させるまで支えきらねばならないからだ。
 驚愕のハプニングとは即ち、新皇帝バルナバスが出兵してきた事に起因する。冠位憤怒、その男のステータス全般は並外れたものであることは容易に想像できるだろう。
「『冠位憤怒』までもが出てくるか。流石は帝都――いよいよどうなるか読めんな。
 ひとまずこれ以上穀潰しにはならないよう、実働部隊としてキリキリ働いていこうか。……ビッツ達に頼る時が来ないよう気張るか」
 深く息を吐けば、真白に染まる。『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)の言葉にビッツは「頼りにしてるわよ」と十七号の肩をばしりと叩いた。
 喧噪の中、揃った10名のイレギュラーズと2人の闘士(元闘士も此処に数えよう)。裏口に当たる職員入り口近くのダクトの蓋を外せば中からは囂々と音が響いた。
「……ここからだね」
 武装をコートで包み背負う『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は埃や塵などのこびり付いているダクトを眺めた。施設としては其れなりの築数なのだろうが、斯うした空調関係機能は丁寧にケアされてきているのだろう。つい最近まで人がこの場所で生活を営んでいた事を感じさせる。
「此処が大一番。ブランデン=グラードさえ得られれば状況は大きく進展するでしょう。必ず作戦を成功させて見せる!」
 決意を胸にした『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)に『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)は大きく頷いた。
 中央駅周辺には難民達の姿も見られた。駅施設を利用すれば避難用にも利用できるだろう。その上、難民達の生活に大きく関係する物資の輸送も可能となろう。僅かな物資を抱えるだけでは人一人のその刹那しか救うことは出来ないが、斯うした施設を得ておくことにより状況は大きく進展するはずだ。
 先行調査で必ず助けると約束した難民達の顔を思い出す。草臥れた男、窶れた女に泣きながらも懸命に生きる子供達。
「……絶対に成功させるぞ」
「そうだね。此処は『地上以上』に利用価値がある場所に繋がってる。
 地下道を手に入れれば大きく状況も進展するはずだよね。もしかするとその道はサングロウブルクにまで繋がっているかも――」
 自身が協力する帝政派の現本拠地であるサングロウブルクへの道を得られる可能性。『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はそうする事で各地の派閥が集結し新皇帝を打倒する道筋をも見据えることが出来るのではないかと感じていた。
「魔法騎士セララ参上! 鉄帝の皆を守るために頑張るよ!
 ボクが来たからには、必ず作戦成功させて見せる! さあ、行こう!」
 ブランデン=グラードの内部地図はスースラ・スークラから得ていた。出来る限り頭の中に構造を叩き込んだ『魔法騎士』セララ(p3p000273)がその小さな体をダクトへと滑り込ませる。
 身を隠し、気配を最小限に抑える。呼気をも漏さぬかの如く、少女は隠密行動に長けた忍び足でするすると内部へと滑り込んだ。周辺には生き物気配はない。その僅かな物音さえ聞き漏らさぬセララの聴覚を更に『強化』したのは『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)。
 先陣を切るセララに続き、スティアが向かう背を眺めダクトへと入り込めるようにと仲間達に手を貸した。
「狭苦しい場所だけれど、頑張って行きましょうね」
「……ああ。確かに狭いが我慢も必要な局面だろうからな」
 くすくすと笑ったビッツは器用にダクトに昇りエイヴァンに手を差し伸べた。続けという意味なのだろう。頷きながら脚を掛けたその先、かつん、かつんと身を進めるごとに立った音は鼠や猫が入り込んだだけだと駅構内の者達は考えてくれるだろうか。


 斯うした場所には鼠や蝙蝠達が潜むことがある。出入り口付近は空っ風の影響もあり生き物は居ない。
『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は出来うる限り足音を消し、内部へと潜入を勧めていた。
「……あまりダクトの内部だけに居れば鼠たちに見つかってしまいそうだな」
「鼠。ビーストテイマーか。確かに危険だな……」
 ぼやく『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)はこの地の『責任者』は鉄帝国には珍しい文官であったことをふと、思い出した。
 鉄帝国は武によって成り立つ国だ。その帝位さえもが強弱によって決定付けられる。治政も、国益も関係なく。強者こそが玉座に座るべきとされているのだ。
 故に、文官は少ない。その文官の一人が反転を経てこの地を掌握しているというのだ。文武何方もが揃って政は成り立つ――惜しい存在ではあるが反転したというならば容赦をしておくことも出来ないだろう。
 埃っぽいダクトの中を進むセララがぴたりと動きを止めて後方へと合図をした。受け取ったゲオルグやエイヴァンが小さく頷く。前方に何らかの気配を察知したか――それとも『下』か。
「皇帝陛下がいらっしゃったそうだぞ」
「遂にか。『最強』だもんなあ。はは、最強――いいな、勝てば良いなんて最も簡単な決定の仕方だ!」
 新皇帝派の者達か。人の目での見回りだというならばやり過ごせば良い。幸いにしてダクト内に『動物の目』は存在していないようである。
(……どうする?)
 セララの直ぐ背後でスティアが問うた。セララは一度はやり過ごし、もう少し進んだ先からの降下が理に適っていると感じた事だろう。
 僅かにでも距離を短縮できれば自身等の消耗も抑えられる。ビッツ達の手を借りようとも多勢を相手に命を繋ぐことを考えた場合は連戦続きは余り賢い選択ではないはずだ。
 現時点では地下道の封鎖は不確定要素も多い。出来うる限り行なわない方向で動きたいと貴道は考えていた。何らかの協力者がいたならば地下側の状況をコントールして貰えるだろうが、それは高望みだろうか。
 後続組への合図を担う弾正はある程度進んだところでセララが降下をする合図を送った事に気付く。行くぞと空気を振るませ、飛び降りた青年は直ぐさまに物陰に隠れた。
 敵陣真っ只中である。索敵に優れた相手である以上は何処に『目』があるかは分からない。何かの鳴き声がしたと振り向くセララに頷いて、十七号が燕の鯉口を切る。
「鼠や蝙蝠程度の小さな魔物は見かけ次第排除しようか。それらが増援を呼ぶ可能性はある」
 ゲオルグは魔力充填機構を備えた大型のハンドガンを構えていた。魔力を弾丸として打ち出すことが出来るため、瞬時充填を可能としたそれよりカプセル型の魔力を取り出す。
 指先で弾けば黒き呪鎖となり視界の端に捉えた蝙蝠を弾け飛ばした。続き、くつろげた海色の刀身を抜き去った十七号の真空の衝撃波が鼠を弾き飛ばす。見つかる前に、数を減らさねばならない。
 それらは動物のようにも見えるが通常の生物には見られない特徴を有している。モンスターの一種である事は確定的だ。どの様な行動を見せるかは種によって違うため先手を取るこことが勝負を決する。
「……まだ狼は居ないか」
「そのようだな。動物は人間の思う感覚とは別個の場合がある。其れ等が索敵するとなれば……」
 錬は戦術として非常に合理的だと呟いた。五行結界符に乗せたのは金行。礼節な性質を帯びた斧は次に水行によって鍛えられた。
 至近に存在した蝙蝠型のモンスターへと叩きつけ、地に降ったそれが何らかのアクションを起こす前にルーキスは一刀を投じる。
「手早く終わらせる!」
 するりと引き抜かれた瑠璃雛菊は、砕の技を載せた。美しき斬撃の花びら散らせながらも師の技全てを昇華出来ぬ青年の腕には細かな反動と傷が走った。舞う花びらによる傷口がルーキスの表情を歪ませる。
 だが、構って等居られるものか。余りに時間が掛かりすぎれば待ち受けるのは作戦の失敗であるのだから。
「……数が増えてきたよね」
「そうね、スースラが作った地図の方角に照らし合わせれば――」
 ハリエットはビッツへと頷いた。円を描くように索敵用の包囲網が敷かれているのは明らかだ。
「距離に応じて連携が薄れるってことは、逆に管制室に近づくにつれ、連携が強まるってこと……管制室付近のこいつらの処理はさらに入念に行おう」
 ヒット&クライの名を持った二挺を携えていたハリエットの眸は敵を逃さぬが為に鋭い色を帯びていた。
 出来る限りの最短経路を。ずんずんと進むエイヴァンは気配を殺し、新皇帝派軍人達をやり過ごす。
「……ミー達が狙うのは中央管制室だ。此処で燻っている場合じゃないが」
 何処に『目』があるか分からないというのは進軍にも影響が出やすい。
「ああ。なるべく迅速に行動を行ないたいのは山々だが、近付くにつれて敵影が多くなってくるのが厄介だな」
「大立ち回りをすりゃ、直ぐにでも援軍がやってくるだろうしな」
 グドルフは複数撃破する可能性を認識しながらカデナ中佐達が居るであろう中央管制室へと進んでいた。
 貴道の苦々しい言葉に「アタシやスースラを適当に配置して貰っても良かったのよ?」とビッツは揶揄うように言う。
「置いて行けってか?」
「まあ、その方が効率が良いならね。アタシは……『勝てない相手とは戦わない主義』だけれど、相手の強弱くらい感覚で理解出来るわ。
 スースラは馬鹿な子だけれど、それでも腕は立つ。まあ、一緒にって考えてくれたことは有り難いわね。道中で死ねなんて言われたわけじゃないもの」
 くすくすと笑ったビッツが危険時には殿を務めイレギュラーズを逃がすつもりであったことくらい貴道も察している。
「ビッツのことは頼りにしてるよ?」
 微笑んだセララはそれでも、自ら達が戦線の要でなくては瓦解するときが恐ろしいのだと囁いた。細かに戦術を練り上げることが必要不可欠だ。だが――『此度の作戦はあくまでも中央管制システム「N-0015」の奪取』が目的なのだ。
 短期決戦でビッツとスースラも含め、クラウィス・カデナを攻め、彼を撃退するだけで良い。中央管制システムの権限が移ったと知れば新皇帝派も一度は体勢を立て直すために退くはずだろうからだ。
「ビッツもスースラも、カデナ中佐を倒す事に協力してね?」
「ええ、勿論よ。魔法少女ちゃん。アンタって可愛いし強いからアタシは好きよ」
 揶揄い半分で名を呼ぶ事がビッツにとっての信頼の証なのだろう。「良い筋肉ね」と貴道の腕をなぞろうとする彼の余裕を見ているだけで十七号は『現時点での作戦行動は成立している』と感じていた。まだ、相手側には見つかっていないという事だ。
 しかし――
「……誰か居る!」
 セララがラ・ピュセルを構え、警戒心を露わにする。
 小さな体躯であれど幾度もの死線を乗り越えてきた少女は恐れ戦くことはしない。ただ、直向きな眸は敵影を睨め付けるだけだ。
「おや……そう警戒しないでください」
「ああ……」
 セララの前に姿を見せたのはローズル外交官と、彼を従えて駅構内の探索を行って居た『ドルイド』ブリギット・トール・ウォンブランクであった。


「俺はあまりお前には興味はないが」
 エイヴァンが前置きをすればローズルは「はい」と穏やかな笑顔を崩さぬまま応える。傍らのブリギットも唇を噤んだ儘だ。
「少なくともカデデ中佐が守りたいのは地下道とモンスターたちであって、あんた達ではない。
 それがどういうことなのかは、考えずともわかるだろう。モンスターの為なら、恐らくあんた達にすら牙を向くだろうな」
「それはお互い様、ですよ。グラキオール大佐?」
「……俺のことを知っているのか」
「貴官はイレギュラーズである側面が強いでしょうから、階級は飾りかも知れませんがね」
 相変わらず微笑んでいるローズルは鉄帝国の外交官であった。故に、海洋王国の軍部に属するエイヴァンのことも知っていたのだろう。
 そう、エイヴァンの言う通りクラウィス・カデナとローズルらアラクランは志を共にして居るわけではないのだろう。
 彼は『自身の動物たちを護る為の強大な力』を得たいと願っただけに過ぎないという。
 この国では武力が物を言う。力がなければ貶されて終いだと男が感じたように、当たり前に暴力が物を言うのだ。
(……カデナ中佐のことは、あの人達は分かって居るはずだよね)
 セララは真っ直ぐにローズルとブリギットを見詰めていた。『もしも』だ。ブリギットのように志しが共に在れば、一定の期間でも同志と呼ぶ事が出来るだろうか。
 セララは心優しい少女だ。魔種であろうと獣であろうと、其れがどの様な存在であろうとも手を取り合う未来を模索する。クラウィスともそうなる未来がある『可能性』に賭けていた。だからこそ、エイヴァンの問い掛けにローズルがどう答えるのかが気に掛かったのだ。
「そもそも、鉄帝国の現状は誰もが足並みを揃えておりません。我らがアラクランの総帥たるギュルヴィも同じ。
 皆が同じ方向を向いていないのであれば組織人であれど、属する場を踏み台に各々が目的を果たすのは当たり前のことでしょう」
「……と、いうと?」
 ルーキスは真っ直ぐにローズルを見詰めた。足並みが揃っていない、というのは『革命派』にも出入りし、敵か味方か分別のつけにくい行動を繰り返すブリギットのことも指しているのだろうか。
「つまり、カデナ中佐が何時我々に――このローズルとウォンブランク嫗に牙を剥こうとも構わないという事ですよ」
「勝てる自身があるから……でいいのかな?
 そもそも、聞きたいんだ。どうしてこんな所に? ブリギットさんの強さは以前の戦いで知ってるけれど、危ないよ」
 あくまでも『友好的な存在』であるかのようにハリエットは問うた。ブリギットに関してはルーキスも気になっている。
 彼女達の敵ではないというスタンスを示すように構えを解き、問うた言葉にブリギットはローズルとその名を呼んだ。
「ええ、嫗が応えるのも良いでしょう」
「わたくし達は、あくまでも『アラクラン』と呼ばれる新皇帝派の軍人です。現在は、ですが」
 嘗ては違った。ローズルは外交官であり、ブリギットはヴィーザルのハイエスタでしかなかった。
 だが、彼女達は同じように身を寄せ合い新皇帝派の一角に属しているのだという。
「わたくしの目的は冬を越すこと。餓え苦しむ子供が居ます。ヴィーザルの荒れた大地では生き延びることは出来ますまい。
 ……その現状、食い扶持を奪い合うのは当たり前のこと。わたくしは、わたくしの力でこの国を良くしようとして居るのです」
「よく、しようと……そう、そうだね。今でもウォンブラングの子供達を大切に思ってるんだね」
 スティアを見たブリギットの眸は和らぐ。美しき雷神の末裔を示したその眸。反転を経て色彩を失ったもう片割れの眸が痛々しくさえ思えた。
「カデナも、わたくしも、ギュルヴィでさえ目的はこの国を変えること。
 それは『革命派』と同じ志、同じ目的でありましょう。打倒するべきはこの国を牛耳っていた者達。この国の在り方そのものですもの!」
 女の声に悦が籠もった。正気に見えて、彼女は狂って居る。
 ローズルならば此処で「視察に来たら巻込まれた」などと嘯くのだろう。ハリエットはローズルを睨め付ける。
「そう睨まないでください。令嬢。我々の本来の目的が知りたいのでしょう」
「……用事があるのなら、私たちの仕事が終わった後で手伝うよ」
 目的を教えて貰えるならば御の字だとハリエットはローズルを眺めた。彼は肩を竦めて首を振る。
「地下道で古代兵器を探すこと? それとも、『地下道の利用権利を私達から得たかった』?
 カデナ中佐が私達を撃退できなかった場合は話し合いの場でも設ける予定だったのかな。答えは分かっていそうだけれど」
 スティアが現時点で用意している交渉のテーブルにローズルは着いている。地下道の利用を行ないたいと彼が考えているのは透けて見えていた。
 道を利用し、その中の古代兵器でも入手できれば戦力の増強に繋がるだろう。
 ……しかし、その古代兵器も革命派の為に使用する、と言い張られかねないのだが。
「目的が兵器だとしても、子供達が悲しむことはしないよね?」
「ええ。当たり前です。わたくしの可愛い子等を護る為に古代兵器はあればあるほどいい。力の源だって、得られるならば得られた方が良い!
 地下道だって寒さを凌ぐことは出来ましょう。わたくしは、ただ、護りたいだけなのですから!」
 うっとりと笑ったブリギットにスティアははあ、と息を吸った。ブリギットは兎も角ローズルは『交渉すれば』良い相手だ。
 野放しにして置くよりも、此度は手を取り合うことが最善だろう。
「……今回はお互い見なかったことにしないかな? 私達の邪魔をしないならそっちの邪魔をする気はないよ」
「カデナは一応、此方の仲間ですが――何かいただけるので?」
「カデナ中佐の撤退時には合図を送ることも出来る。私達の活動時間が増えれば誰にも邪魔されず捜し物が出来る筈だよ。
 その代り、そっちは『地下道』からの増援は食い止めて欲しいかもしれないけどね?」
「もう一声頂きたかったのですが。そう、例えば――『我々が地下道を利用する事を黙認する』とか」
「それは、私達の一存では決められないよ。
 けど……不用意に此処で私達と戦う事は本意じゃないよね。『あくまでも仲間のブリギットさんとローズルさん』で居たいはずだから」
 スティアの問い掛けにローズルはにんまりと微笑んだ――


 スースラは弾正が集中し道中ルートを割り出す間にその体を護る役目を担っていた。
「任せてくれ。戦う事は得意だ。だが、全盛期程からだが動くかは分からないが」
「……スースラ殿は怪我をして闘士を引退したのだったか?」
「ああ。『まあ、いろいろと』」
 濁したスースラの隣でビッツが渋い顔をしたが――気のせいだろうか。セララが首を傾げたが「何もないわよ」とビッツが彼女の頬をふにふにと触ろうとする。
「ビッツ、セクハラだ」
「やだッッ! 女同士じゃない!」
「……女……?」
 スースラの指摘に大仰な仕草で飛び上がったビッツへと錬は真顔の儘、問うた。「アタシのことよ」と振り返ったビッツはその仕草の儘、暗器を後方に投げる。ぐちゃりと音を立てて地へと転がったのは牙を持ったモンスターか。
「ストーカーだって居るかもしれないわよ。後方には気をつけなさいな?」
「気遣いに感謝する」
 不意を衝かれた際にはその対応に長けている者も居る。だが、周辺探索にはかなりの神経を磨り減らすことを十七号は理解していた。
 ルーキスは「そろそろ中央管制室……のようですが」とスースラへと問い掛けた。中央管制室は駅構内に設置されたダイヤ管理などを行うための施設であるらしい。『脳筋』とも呼べる鉄帝国内ではそれ程この施設を有効活用できる者は居なかったのだろうが、クラウィスはその統括管理を上手く熟しているらしい。
「流石は文官か」
「列車なんて走れば良い、と考えそうな国ですしね」
 錬にルーキスは肩を竦めた。確かに、適当に走って事故ればその時だと考えそうなイメージも付随する国ではある。
「しかし、ビーストテイマーか。まぁ、獣種だからどうこうってことはないだろうが……。
 こっちが操られるようなことがあったら、たまったもんじゃないからな」
「あら、アンタのこと操れるの? いいじゃないの。アタシもしようかしら」
「おいおい」
 ビッツの軽口に肩を竦めるエイヴァンは「だが、相手は魔種だ。警戒はしておいても損はないだろうな」と呟いた。
「さあ、お出ましだぜ?」
 貴道がこぶしをぐ、と構えた。道中の獣たちを酒ながら進んでいた貴道にスースラは頷く。
 眼前に立っていたのは刀を手にした男――一度、貴道が相対した相手、クラウィス・カデナだ。
「お前がクラウィス・カデナ中佐か」
 エイヴァンに「如何にも」と答えた男の背後から狼が飛び出した。雪のような毛並みの狼に続いたのは闇に紛れる黒檀の毛の狼だ。
 牙を剥きだした獣達を睨め付けながらもエイヴァンは真っ直ぐにクラウィスへと責め立てる。
「狼の相手はこっちだよ! こんにちは。貴方がカナデ中佐かな。ボクはセララだよ。
 狼さん、貴方に懐いてるしモフモフで可愛いね。ボク達が敵同士じゃ無ければ頭を撫でてあげるのに」
 唇を尖らせながらもセララはラ・ピュセルの切っ先を狼たちへと向けた。ドーナツを頬張り、熾天使の如き盛る焔の気配をその身に纏う。
 清廉なる翼を身に纏うように、少女は跳ね上がった。鋭くも狼たちへと叩きつけた一閃が赤き飛沫と転じる。
「ネーロ、やれ」
 静かな声音。ビアンコを惹き付けていたスティアの周辺で花弁が踊る。回復に専念するスティアはクラウィスも獣たちと共に前線出でてきていることを認識していた。
(エイヴァンさんが何れだけカデナ中佐を抑えられるか、だね)
(――ああ)
 ヒーラー同士。視線で連携を経て、スティアの周辺に舞い散る天使の羽根を通り抜け、癒やしを飾った祖霊の輝きをゲオルグが降ろす。
 クラウィスを出来る限り足止めできるかが、この勝負に賭けられていた。
 スティアとゲオルグの連携は必要不可欠。それ以上に――「余計な戦いは、いやだけれどね」
 鋼の驟雨を降らせるハリエットのように、狼たちを出来る限り弱らせる役回りが必要不可欠だ。
 其れを可愛がっていることを知っている以上、クラウィスの目の前で狼を傷付けるという行為はハリエットは好まなかった。
 だが、これが一番の手だ。確かに、力を駆使し、ビッツ達を巻込んだ上でクラウィスを撃破しておけばこの地への危険は拭い去れる。
 それは自身等のリソースも大きく削り、傷を負いながら暗中を手探りで進む行為だ。一番の解決方法は『次にまた、彼等の残党が駅をダッシュしに訪れる可能性があれど』此処は退かせることだろう。
(狼が動き出したか)
 物陰で息を潜め、最善の一撃を放つが為に弾正が唇を噤む。あと、もう少し。接敵まで――そして、一番の隙を見据える為に。
 ビアンコとネーロ。その何方もの連携を裂くように二分することを意識した錬は「共に過ごした時間で連携は得意なのだろうが、」と前置きしながら符により斧を作り上げた。
「多少の距離があればやりにくかろうよ! ――五行は全てを司る。生滅盛衰による循環は命諸共巻込むものだ」
 魔力は零距離でビアンコの視界を眩ませた。その刹那、ネーロの雄叫びが響く。呻き、そして叫んだ声に切り裂くように十七号の手甲が其れを抑えた。
「ッ――短期決戦で終えたいのは何方も同じか」
 呻いた十七号の意志。其れこそが万物を護る為の覚悟。苦難をも物ともしない決意の証。
 アトラスの守護(しょうじょのおもい)は、その肉体を無理にでも動かした。痛みに軋もうとも、何の苦痛さえ底には内でも云う様に、ネーロによる痛打さえ受け止めきる。
 スティアの眼前に居たビアンコに叩きつけた鬼百合。美しき花弁がひらひらと舞い落ち、ルーキスの腕に痛みが走る。
 それでも尚も、刀を振るうことを止めなかったのは修羅を歩んで来た証左故。
 此処で、挫けて何が剣士か。その名折れ。許すまじ。ルーキスの剣を弾いたビアンコの牙が青年の腕を囓った。牙に剔られたのは剣戟の反動により着いた無数の傷口。
 痛みに唇を噛み締めた青年の眼前をひらりと踊り飛び出したのはセララ。鋭き剣は勇者と呼ばれるに相応しい軌跡を残す。
「此の儘押し込むよ!」
「了解しました」
 物陰より飛び込んだ弾正は『殺さず』を心掛ける。避ける事も難しい『平蜘蛛』の一撃は朧月。
 スースラ殿とその名を呼んだ弾正は自身が傷付けば傷付くほどにアップテンポに戦い始める。
 狼たちの牙をも恐れず、影より放たれる青年専用の武装は独特の機械音を響かせた。ギュイ――と音を立て、心の慟哭として響き渡る。
「スースラ殿、あちらだ」
「ああ、分かった」
 すらりと引き抜いた冴えた刀身。その一撃に重ねるようにして弾正は攻撃を重ね続ける。
「アタシにも声を掛けなさいな!」
「ああ、ビッツ殿も、頼んだ!」
「もう一声」
「宜しく頼む」
 拗ねたようなビッツに弾正へと続き十七号が声を掛ける。気を良くしたようにビッツはぴょんと跳ね上がった。
 彼の余りに楽しげな動きに錬が一瞬怯んだが、気にする事でもないのだろう。其の儘攻撃の手を緩めることはない。
「おっと、ミー達の狙いはユーだぜ!」
 貴道は弱っていたネーロに向けて濁流の如き暴力を叩きつけた。
 嵐のように、無数の打撃を叩きつけられたネーロが身を捩る。目的は単純だ。狼を弱らせてクラウィス・カデナとの交渉の材料にするのだ。
 故に、撃破せぬようにと繊細なダメージ管理が必要となる。其れにはかなりの労力を割くが殺してしまっては話しも纏まらないだろう。
 出来うる限り、殺されるかも知れないという危機感を与えなくてはならない。
「さあ、交渉のテーブルに着く準備は出来たか?
 こっちは『この場』を制圧しなくちゃならないんでね!」
 貴道の鋭い瞳がクラウィスを一瞥した。彼が見ている。己の相棒を殺される可能性をその肌に感じ取って。


 大きなもふもふの狼。其れを見ればうずうずとゲオルグは心が騒いだ。何とも可愛らしい『もふもふ』だ。
 手入れされた毛並みは白と黒。名はネーロとビアンコ。安直なネーミングだがクラウィス・カデナによく懐いていることが分かる。
(あれは絶対に殺してはならないな。他の魔物と違って、それこそが相棒だというなら思い入れも相当だろう。
 あくまでも中央管制システムの制御権限を得ることが目的だ。……誤って殺せば交渉の余地もない、か)
 ゲオルグは真っ直ぐに2匹を見据えていた。飛び掛からんとするネーロを一瞥する。
「ネーロ!」
 叫んだクラウィスを抑えたエイヴァンは膂力に任せ彼を弾き飛ばすが、流石に疲弊が募るか。戦線の要であるのはクラウィスを押し止めるエイヴァンでアルトもゲオルグは認識していた。
「ここまで負傷しても逃げ出さないのはお前の能力だけではないだろう。これ以上はお互いに加減も遠慮も出来ない。
 ここを守ることを取るか、魔物達の命を取るか……お前はどちらを優先する?」
「ネーロとビアンコを交渉材料にするのか……」
 睨め付けるクラウィスにゲオルグは肯首する。目的は中央管制システム『N-0015』のコード入力だけである。
 クラウィスからそのコードさえを入手できれば新規のパスワードを設定し直し、権限をラド・バウ派が握れるようになる。
「余計な戦いはしたくないんだ。私達は管制室を制圧できればそれでいい。
 コードと引き換えに、配下のモンスターたちを連れてここから出て行ってくれない?」
「……断る、と言えば?」
 ハリエットは無言のまま、スナイパーライフルを構える。その先には――ネーロが牙を剥いていた。
 クラウィスの刀が鋭くエイヴァンの肩口を貫いた。ぎらりと光った敵意。その鋭い太刀筋からも、どれ程に狼を愛しているのかが伝わってくる。
「このまま戦闘を続ければ、貴方は大切な相棒を失うことになる。それでも良いのですか?
 我々の目的は中央官制システムのコード。この2頭の命とコードを交換する……それがこの2頭が生き延びる最も素晴らしい案ではありませんか?」
 自身等はビアンコとネーロを殺すつもりはないとルーキスは告げる。戦いながらもその言葉を紡いだのは、彼の振る舞いに思うところがあったからだ。
 ルーキスから見てクラウィス・カデナは狂いたくて狂ったと言うよりも『そうしなくては護れなかった』という側面を感じられる。
 彼の動植物に対する愛情や知識に偽りはない。
 本来ならば其れ等を愛でて穏やかに過ごしていくはずだった男だ。この動乱が、弱者を虐げても良いという決定が其れ等全てを狂わせた。
 彼も被害者なのだ、と。ルーキスはそう思わずには居られなかった。
 それはスティアから見たブリギットとてそうだった。寒々しく枯れたヴィーザルを護るために、己の身を闇へと傾けた女。
 ギュルヴィの手を取ったのは『故郷を護る為』『子供達を護る為』だという。その在り方に同情を抱きながらも、酷く恐ろしく感じるときがある。
 彼女の理性は綱渡り。ぎりぎり好意的であるのはイレギュラーズを村の子供達に重ねているからこそ、なのだろうから。
(……カデナ中佐も、ブリギットさんも、強くなければ護れないと反転したんだ。そうで無くてはならないこの国は、狂って居る)
 唇を噛んだスティアの前でビアンコがぐるぐると喉を鳴らし威嚇をする。まるで、クラウィスを傷付けるなと叱るかのようである。
 貴道が肩を竦め錬は直ぐにでも攻撃が放てると示唆するように符を構える。
 武装を解除せぬまま弾正はまるで学生のように手を上げた。「意見をしたいそうだ!」と堂々と宣言するスースラにクラウィスはたじろぐ。
「カデナ中佐。2匹にとっては中央駅地下の暮らしが最適なのか?」
「……何故?」
「知りたいからだ。俺達と手を組めば、もっと良い環境で動物たちは過ごせるはずだ。
 何よりも特異運命座標は鉄帝国の所属ではない。ローレットは何でも屋だ。外の国との交流もあり、モンスターについての視野も広げることが出来る。
 どうだろうか。此処は脅しや交渉ではなく、誰の手を取るかの鞍替えをするというのは」
 無理矢理に従わせることは得策ではないと弾正は感じていた。彼の言葉にクラウィスは「俺は魔種だが?」と鼻を鳴らす。
 彼は弾正に『自身とお前は生きる世界が違う』とでも言ったのだろうか。
「ああ、そうだな。魔種相手に確実な『不殺』を積む余裕はない、本当に大事に思っているなら降参して欲しいのだがな。
 その狼とて……ただ消耗品の武具として考えているのならば、鉄帝らしく押し徹るしかないな!」
 ぎ、と睨め付ける錬にクラウィスも鋭い殺気を放った。長杖が衝撃波を弾く。
 狼たちはそのさっきと共に動き始めた。刀を敢て翻し峰打ちを心掛けるように十七号は踏み込む。
 牙が迫る。硬質な鉄腕で受け止めて、娘は狼の巨躯を押し返した。
「生き物は冬が来れば餓える。餓えれば喰らい合ってでも生き延びる。
 そうして春が来るまで、冬の生存競争は成り立つ。……形が多少違うとはいえ、今の鉄帝と何も変わらん。
 冬を超えたいと思うなら、お前はなぜ今のお前である事を選んだ?」
「そうだよ。カデナさんが良ければボク達の仲間にならない?
 新皇帝は力が全てだっていうけれど……貴方はそう思って無い。そうでしょ?」
 ネーロの至近距離に飛び込んだセララはクラウィスへとそう問い掛けた。
「その提案……やはりお前達は甘いのだろう。ウォンブランク嫗の言うとおりだ」
「『ドルイド』の?」
 貴道の問いにクラウィスは頷いた。クラウィスもブリギットも『魔種』である。男は知っているのだ。

 ――魔種は滅びを蓄積させる。この世界を滅びへと誘う要因だ。だからこそ、滅さねばならない。

 その大前提。ブリギット・トール・ウォンブランクとクラウィス・カデナは『ギュルヴィ』にそう教えられていた。
 故に、イレギュラーズと手を取り合おうとも『反転より回帰する方法が存在していない』今、生き存えることが滅びに繋がるのは覆らぬ事実である、と。
 ゲオルグが何れだけ狼たちの愛らしさに理解を示そうとも、その在り方が本質的に違うのは確かなことだ。
 大きなもふもふ達を見詰める彼の慈愛の眸を察してからかクラウィスは目を逸らす。
「クラウィス・カデナはお前達と協力はしない。イレギュラーズ。
 だが……ビアンコとネーロを殺さぬように気を配り、答えを引き出そうとした姿勢だけは評価に値する」
「ッグ……」
 ぐり、とエイヴァンの肩口を剔った刀を抜き取ってからクラウィスは唇を噤む。
 貴道は「テメェ」と声を掛けるがクラウィスは動く事はなかった。
「俺は別に同情するつもりなんざない。
 ただまぁ、仮にも軍人なら、もう少し考えて行動した方が良いんじゃないか? まぁ、俺が言えた義理でもないんだがな」
 エイヴァンを見据えた男の瞳は褪めた色彩をして居た。ここまでしても、自身等の命を絶つつもりのないイレギュラーズに僅かな良心でも痛んだとでも言うのか。
「……コードは『Wirbelwind』と入れろ」
「ヴィルベンヴィント……悪いけど、コードが正しいか確認できてからでないと見逃せないよ」
 一歩足とも動かぬクラウィスにビアンコとネーロも足を止めている。管制室へと滑り込むハリエットに続き、その護衛をする貴道がクラウィスを睨め付けた。
「『つむじ風』か」
「この国に吹き荒れた風は、何もカモを奪い去っていくのでな」
 鼻先で笑ったクラウィスを一瞥してからハリエットは「通った!」と告げた。
 イレギュラーズ全員が一歩後退し、クラウィスと狼の包囲を解く。直ぐさまに狼たちへと駆け寄ったクラウィスが「行くぞ」とその背を撫でた。
「新皇帝まで来ている。それに此処でネーロとビアンコを殺されることは耐えがたいのは確かだ。
 その優しさに、此度のみは甘えておくとしよう。だが、次だ――次に相見えたときは、その様な優しさはなくしてくれ」
「どうして!」
 セララは狼に跨がったクラウィスに叫んだ。
 本当に手を取り合えると感じていた。志さえ同じならば、魔種だっていつかは『元の通り』に――
「刀が鈍る」
 呟きと共に去った男。その背を見送ってからルーキスは駅構内に明かりが灯ったことに気付く。


 地下道――
 その中腹付近でクラウィスは女の姿を見かけた。魔女を思わす装束の、一人の魔種である。
「ウォンブランク嫗」
「……カデナ中佐ですか。お帰りなさいませ。『子供達』は優しく、そして甘すぎるほどでしょう」
 うっとりと笑うブリギットがイレギュラーズに自身が護るべき子供達を重ねていることは確かだ。
「……そうですな」
「ええ。けれど、わたくしたちはいつかは屹度殺し合う運命なのでしょう。
 この世界の理は魔種をただの人へと戻すことを認めてやいない。何れは命を奪い合い、何方が生き残るかを確かめねばならない。
 家畜を育てることと同じ事。喰うために生かすことと、戦力にするために生かすこと。何ら違いはありませんでしょう?」
「ウォンブランク嫗はそれでも手を貸すのか」
「ええ。何れはわたくしを殺しに来るであろう『子供達』……。
 わたくしは、わたくしの為したいことをする。その最中でわたくしの愛しい子供達の手に掛かるならば本望ですもの」
 一陣の風が吹く。
 獣のうなり声が響いた後に、その場には誰も居なかった。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾
セララ(p3p000273)[重傷]
魔法騎士
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)[重傷]
聖女頌歌
夜式・十七号(p3p008363)[重傷]
蒼き燕

あとがき

 お疲れ様でした。
 クラウィスとの直接対決ではなく、敢て、狼たちを人質に交渉を行なったため被害は其れなりに抑えられたかと思います。
 MVPは非戦闘スキルも多く、一番に中佐を揺さぶっていた魔法少女ちゃん(ビッツ風呼び名)へ。

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