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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>ハイエナは魔を誘い、烈女は子を想い、戦場は燃える

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――私に君達の護衛をさせてほしい」
 サングロウブルク内部、進撃の準備が進む庁舎の中で君達の前に立つ軍人がそう言った。
「イルムガルト。それはどういう意味かしら?」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が軍人――イルムガルトに真意を問えば。
「あぁ、直にボーデクトン攻略戦が始まるだろう。
 立地の都合上、どうやってもボーデクトンの西部入り口が最大の戦場になる」
「まぁ、そうでしょうね」
 帝政派の本拠サングロウブルクがボーデクトンの西方に存在する以上、それは当然のことだ。
 兵を迂回させればそうでもなかろうが、わざわざそんなことをする理由もない。
「ああ、君達は都市の内部の戦力と手を組むことも考えているんだろう?
 そこまで送り届ける。それまでの間に君達が可能な限り余力を持てるように」
「貴女が私達を護衛する……ということですか」
 マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が言えば、こくりとイルムガルトはこくりと頷く。
「それは嬉しいけど、どうして?」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が首を傾げれば、イルムガルトは少しだけ目を閉じる。
「イザベル姉がボーデクトンに向かってるらしいんだ」
「イザベルさんが?」
 マリエッタとスティアは顔を見合わせた。
 イザベルはイルムガルトにとって実の姉であり、マールブルクなる町にて確認された魔種である。
 マリエッタとスティアの2人はマールブルクにて遭遇した彼女の足跡を追っていた。
「三つ巴が起きるやもしれぬか」
 そう呟くオラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)含むここに事前に案内された面々はマールブルクでイザベルと交戦したメンバーが多い。
 交戦時、イザベルは天衝種と戦ってもいた。
 その時の三つ巴はイザベルがイレギュラーズの説得、特にフリークライ(p3p008595)の問いかけによりイザベルが退いたことで終わりを告げていた。
「イザベル イルナラ モシカシテ」
「あぁ――多分、ボーデクトンの内部には私の甥を……
 イザベル姉の子供を殺したか連れ去ったかした奴がいる」
 イザベルの行動原理は『子供の奪還と子供を奪った相手の殺害』にあると推測できる。
 怒りに突き動かされる魔種の矛先がボーデクトンを狙う以上、そこには確実にその存在がいるのだろうから。


 戦火が町を包み込んでいた。
 当初の予定通り、イルムガルト率いる小隊に護衛される形で8人のイレギュラーズは戦場を走り抜けていた。
「まずは内部の戦力と合流するべきね」
 戦旗を翻し進むイーリンに同意したイルムガルト小隊に守られる形で一行は中心部に向けて進軍を進めている。
 その時だった。
 嫌な臭いが辺りに立ち込めた。
 人が燃える臭い、戦闘は激しく、戦火に巻き込まれたか。
 それに気づいたらしいイルムガルトが視線を巡らせる。
「……手を貸してくれないか」
 すぐに視線を固定したイルムガルトが振り返ることなくそちらを見据えて呟く。
 顔を上げれば、そこには一人の青年がいる。
 好青年のようにも見える穏やかな顔の青年が引き連れるのはグルゥイグダロスとギルバディア。
 それらは紅蓮の炎をちらつかせながら攻め立てている。
 相手は――鉄帝軍人だろうか。
「おや? その顔、良いですね。僕が憎いですか?」
 楽しそうに笑いながら、青年が言うのが聞こえた。
「Nyahahaha!! 何やら見覚えのある獣どもに見える」
 オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)は熊型の魔物の姿に見覚えがある。
 そっとその自身の身体に手を這わせた。
「私を喰らう貌(さま)の嬉々としたもの」
 オラボナの言葉に、男が視線をこちらに向けてくる。
「ふむ――どこかでお会いしたことがありますか?」
 イレギュラーズではなく、イルムガルトの方に視線をあげる男が、勘違いかと首を傾げる。
「あぁ、いえ、違いますね。彼女は私の言葉に答えて反転したはず……
 そちらの皆さんはローレットの皆さんのようですし……」
 そう言って笑った男が、すっと礼をする。
「魔種……」
 反転の単語を聞いたマリエッタが小さく呟く中、男が顔を上げた。
「僕の名前はヘルムート。『智虐の狗将』などとあだ名もございます」
 微笑を浮かべ、余裕を見せるヘルムートが不意に視線をイレギュラーズ以外の方へ向けた。
 ――刹那、無数の氷塊が眼前、ヘルムートの周囲目掛けて降り注ぐ。
「もしかして」
 スティアが振り返る。
「見つけた、見つけました――ヘルムート!!
 私の、あの子はどこにいる――」
 激昂の声と共に氷がイレギュラーズの後ろを裂いてヘルムートら目掛けて叩き込まれていく。
「イサベル? 子供ハ――」
「やはり彼がイザベルさんを魔種にした……」
「あはは、あはははは! 生きておられたのですね、ご婦人!」
 フリークライとマリエッタの呟く中、ヘルムートはイザベルに笑っている。
「――拙いわね、こんなところで魔種同士の決戦なんて起きたら戦火が広がるわ」
「Nyahahaha!! やはり!」
 冷静にイーリンが推測していくなか、オラボナの笑う声が響く。
 戦端が開かれる。
 背後にあるイザベルの猛攻はイレギュラーズのことなどまるで気にしちゃいない。
 だが、それと同時に、あのヘルムートなる男を殺さんと言う気概はたしかだ。
 ――ああ、なればこそ。
 この一時、あの魔種を屠るその時まで、毒を喰らうのも良いだろう!

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 よろしくお願いします。

●オーダー
【1】ヘルムートの撃退または撃破
【2】天衝種の撃破
【3】町の被害の軽減

【3】は努力目標です。


●フィールドデータ
 ボーデクトン内部の市街地、大通りになります。
 家屋や店舗など、幾つかの建造物が存在しています。
 これらは遮蔽物にもなるでしょうが中には無辜の民がいるかもしれません。
 大通りにあたり、戦闘は散開も出来るでしょう。

●エネミーデータ
・『智虐の狗将』ヘルムート
 アラクランに属す憤怒の魔種。
 知性的な好青年を装う狡猾な人物です。
 以前には後述するイザベルの故郷マールブルクを荒らしまわり、
 反転者を出させるように動いていました。
 杖術を駆使しての近接戦闘、
 魔術を用いての遠距離戦闘を熟すオールラウンダーと思われます。

 開戦後は皆さんと積極的に交戦します。
 ある程度の交戦後、撤退を狙うと思われます。

・グルゥイグダロス〔炎〕×20
 巨大な双頭の狼、いわゆるグルゥイグダロスです。
 この個体は呼気から炎をちらつかせています。
 ヘルムートの指示に従順に従っています。

 獰猛な牙や爪による攻撃は【出血】系列の他、【火炎】系列、【麻痺】に似た症状を与えます。
 また、口から火炎を放射する攻撃を持ちます。

・ギルバディア〔炎〕×20
 巨大な熊型の魔物、いわゆるギルバディアですが、全身から炎を溢れさせています。
 凄まじい突進力を持ち、【飛】、【ブレイク】、【火炎】系列のBSが与えられる可能性があります。
 また、口から火炎を放射する攻撃を持ちます。
 ヘルムートの指示に従順に従っています。

●中立? データ
・『烈女』イザベル
 憤怒の魔種、菫色の瞳をした貴婦人を思わせる女性です。
 今回はヘルムートに奪われた我が子の身柄の確保を狙っています。
 基本的には皆さんに目もくれずヘルムート目掛けて魔術をぶっ放します。

 後述の特殊ルールに関係します。

●友軍データ
・イルムガルト隊×30
 鉄帝国軍帝政派の軍人。
 ボーデクトン奪還戦に参加する軍人とその小隊です。
 友軍としてグルゥイグダロスと交戦します。
 皆さんの指示も受け入れてくれます。

●特殊ルール『氷針砲火』
 当シナリオ中、1ターンに1度、イザベルによる砲撃が放たれます。
 この砲撃は魔種陣営、特にヘルムートを中心として降り注ぎます。

 皆さんから攻撃されない限り皆さんを中心に狙う事はありません。
 とはいえ【識別】を持たぬこの砲撃は結果的に皆さんにも当たる可能性があります。

 なお、その辺の天衝種はともかく、魔種同士の実力は拮抗しています。
 皆さんがヘルムートを撃退しない限りイザベルは延々と砲撃をぶっ放します。
 戦いが長引くほど、周囲の損害は大きくなると思われます。

 また、イザベルはあくまで憤怒の魔種です。
 憎悪の対象たるヘルムートへの攻撃を止めてほしい、
 という要求を受け入れることはまずありません。
 ヘルムートが撤退ないし討伐されればイザベルもまた撤退するでしょう。

 砲撃は以下のようなスペックを持ちます。
・氷塊砲火(A)
 神超範 【万能】【スプラッシュ】【氷結】【氷漬】【絶凍】



●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>ハイエナは魔を誘い、烈女は子を想い、戦場は燃える完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
同一奇譚
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
聖女頌歌
ヨハン=レーム(p3p001117)
帝国軽騎兵隊客員軍医将校
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
未来への葬送

リプレイ


 魔獣たちの遠吠えが戦場をこだまする。
 炎の燻る音が満ちる戦場を、冷気が背後から侵してくる。
 戦場に人気はほとんどない。あるのはただ、悪意のみか。
「これはこれは――面白いモノが見れそうですね!」
 歓喜するようにヘルムートが笑い、杖をくるりと回す。
「――随分と派手な連中だな。
 ――さては破壊するのが大好きと視える。
 ――壊すならば私を叩き給え!」
 散り付く炎の化身らが戦場を踏み砕く中、『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)はその姿を敵へと晒す。
「最早、賽は投げられ、匙の行き先は医者も知らぬ。
 成すべき事は何か、敵を斃し、平穏を齎す事よ。
 Nyahahahahahaha」
 その体躯は魔獣を受け止め笑う。
「あはははは! 如何なる魔性か、如何なる化生でしょうか。
 まぁ、私達に言われては形無しというものでしょうけれど!」
 それを受けてヘルムートが笑いながら、口笛を鳴らした。
 それに応じるように、魔獣たちの遠吠えが質を変え戦場を奔りだす。
「――隙を晒した貴様の落ち度だ。おとなしく斃れると好い」
 迫る猛攻に合わせ、オラボナが静かに宣告すれば、ソレは辺りを包む猛威を払う。
 放たれた猛攻が迫る魔獣たちを何匹も巻き込み、嬲っていく。
 美しき蒼色の光が戦場を包み込む。
 その中心にあるは『蒼輝聖光』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の姿。
 イザベルの猛攻はヘルムートへと注がれるもの、町への攻撃を意図する物でない以上、それで十分であろう。
 張り巡らされた保護結界に続け、スティアはセラフィムの出力を上げた。
「こんな所で戦われると街が大変なことになっちゃう。
 少しでも被害を抑える為にも頑張らないと!
 いくよ! サクラちゃん!」
 起動したセラフィムが美しき魔力の残滓を紡ぎ、旋律が戦場に響き渡る。
「うん!街の人を守ろうスティアちゃん!」
 応じた『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)が飛び出せば、その圧倒的な速度を以って駆け抜ける。
 サクラが事前に得たコネクションによれば、戦場の付近には逃げ遅れた人の数は少なそうだ。
 スティアの張り巡らせた保護結界の中にシェルターがあることも分かっている。
「――ネメシスの音色、ダンスをご所望でしょうか?」
 音色に導かれるように、ヘルムートの視線がスティアを見れば、一直線に飛び込んできた。
 苛烈な杖術が放たれ、スティアの障壁を削りだす。
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト! 参る!」
 スティアが放つ福音の音に導かれざる者共へ、桜花の太刀筋が走り抜ける。
 鮮やかに切り払う斬撃の太刀筋が華蓮に攻めたて、魔獣に数多の傷を刻む。
 戦場へと降り注ぐ、魔種の氷塊。
「厄介ですけれど、差し引きプラス、といったところでしょう」
 降り注ぐ氷を見送り、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は愛剣を構えていた。
 握りしめたロングソード。
 踏み込みと共に振り払った斬撃が弾丸の如く戦場を迸る。
 堅実なりし斬撃は手負いの獣たちの幾つかを一太刀を以って削り落とす。
「無くしたものを、少しずつ忘れていく。
 怒りの相手も無くした時、貴方は何処に行くの。
 貴方を覚えている人も、まだ居るのよ
 ――教えて」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の言の葉はヘルムートではなく、後ろより矢を放つもう1人の魔種。
 イザベルと言う怒りに堕ちた女へと手向けるものだ。
 小さな呟きは全てをヘルムート殺害に傾けるイザベルにはまだ届かないが。
 目を伏せるようにして、イーリンは愛馬を友軍に寄せた。
「――イルムガルト」
「どうかしたのか?」
「グルゥイグダロスを優先して、食い込まれないように密集陣形を。
 特に敵の散開は射線を散らす囮よ」
「……なるほど、そうかもしれないな」
 こくりと頷いたイルムガルトが愛銃を構え、それとほぼ同時に部下たちも構えて行くのを見る。
「相手が手負うまで焦らないで。
 集中して、皆の引き金一つ、剣の一振りが無辜の民の命を守るのよ」
「彼が貴女の求めていた相手なのですね……」
 両腕に抱く印が『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の魔力を活性化させていく。
 前へと迫るマリエッタはその手に血の大鎌を構成して駆け抜ける。
『グルゥゥォォ!!』
 雄叫びを上げるギルバディアの懐へと潜り込み、その首を刈り取るように弧を描く。
 壮烈たる血の斬撃はその真価を示すまでもなく魔獣の命を奪い取っていく。
 戦場を彩る氷の魔弾をイレギュラーズはまるで気にしていなかった。
「イザベル 遠慮不要。ソノ分 癒ヤスマデ」
 そう言いきった『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は戦場に立ち、前に進む。
 オラボナを始めとする仲間達の支柱たるその存在は、趨勢の鍵となる1つ。
 フリークライの言葉自体は、イザベルには届いていないのかもしれなかった。
 そうなのだとしても、やることは変わらない。
 熾天の宝冠は戦場を照らし出す。
「何がなにやら。魔種と魔種の痴話喧嘩でボーデクトンが巻き込まれるというのは勘弁して欲しいね」
 寓喩偽典ヤルダバオトを広げ、『帝国軽騎兵隊客員軍医将校』ヨハン=レーム(p3p001117)は静かな怒りを覗かせる。
 その身に抱くはメイデンハート。
 乱戦の様相を呈する戦場に向けて、ヨハンは魔力を練り上げる。
 偽典より紡ぐ聖体頌歌、戦場に波打つように広がる音色は逸る昂ぶりを落ち着かせ、調和を齎すもの。


「我慢比べに付き合ってもらうよ!」
 スティアは杖と魔術を織り交ぜたヘルムートの猛攻を真正面から受け続けている。
 障壁には罅が入り、苛烈な猛攻が目に見えてわかる。
「全く、硬すぎませんかね、貴女!」
 殴り続けるヘルムートが呼吸を入れた僅かな瞬間、スティアはセラフィムに魔力を注ぐ。
「逃がすわけにはいかないから――」
 天使の羽のような残滓が溢れだして、鳴るはずのない福音の音色を奏でて行く。
 循環した魔力は瞬く間に消耗した障壁を作り直す。
「いやはや、恐ろしい人達ですね!
 後ろからぶち抜かれるのが怖くないのですかね!」
 へらへら笑いながら、ヘルムートが動き、それに続くように魔獣たちも動いていく。
「追っては駄目。あれはただの陽動よ。弾幕で打ち据えるべき」
 その姿を認めるイーリンは旗を翻す。
 それは銀狐『より』学んだ摂理、凪を描く無限陣。
 風にたなびく旗が兵士達を、仲間達を立て直す機を与えるのだ。
「良いのか?」
 そうイルムガルトが言うのとほぼ同時、氷が戦場を越えてヘルムートの方へと落ちて行く。
「――ね? あのまま突っ込んでたら巻き込まれてたわ」
「たしかに……イザベル姉を利用しようとしたのか!」
「落ち着いて、ああやって陽動するってことは、このままじゃ押し切れないって判断したってことでしょ?」
「……そうか、そうだな」
 こくりと頷いたイルムガルトが弾丸をぶちまけて行く。
「――おかげでもっと早く倒せそうだよ」
 サクラはそう呟き、魔獣の集団へと飛び込んだ。
 桜花の乱舞、陣形を組んだことにより、密集した魔獣たちの鮮血が戦場を赤く染め上げて行く。
 圧倒的な速さを駆使した高速戦闘はイザベルの砲撃を掻い潜る魔獣たちにそれに変わる致命傷を刻み付ける。
「必ず、貴女のその怒り事背負って、彼に届けましょう!」
 そうイザベルへと告げて前へ出たマリエッタはヘルムートが挑発のように語った前を行く一人である。
「貴方にもきっと、魔種に落ちた理由はあるのでしょうけど……
 憤怒の魔種ヘルムート。血の魔女は烈女へと力を貸して……貴方を捌き、その血を奪います」
「くぅっ、血の魔女! まさか魔女とは! いやはや、魔女と言うのに縁がありますね、僕も!」
 肉薄と共に射出する零距離から穿つ血の鎌の薙ぎ払いがその高い精神性を武器として壮絶な一撃を見舞う。
「抜かせはしません――」
 戦場の後方へと迫る魔獣たちの前へ立ちふさがるオリーブは、ロングソードを構えなおした。
 迫るギルバディアへと打ち上げるような斬撃を描く。
 魔獣は大きく、立ち上がればそれ故に首の根元を晒す。
 あとはもう、そこへと剣を走らせるだけ。
 大いなる邪道、致命傷を刻む確殺の剣が熊の首を斬り落とす。
 そのままめぐる切っ先が、もう1匹の魔獣の首を獲るまでが一連の流れであった。
「はぁ、面倒なことだ。ま、僕のすぐことは1つだけど」
 ヨハンは乱戦の戦場にて小さく溜息を漏らす。
 冷笑にも似た言の葉の後に紡がれる歌が再び戦場を包む。
 順調に数を減らしていきつつも、まだヘルムートの周囲は魔獣の影が多く。
 背後から降り注ぐ氷は仲間達をも巻き込みながら、傷をかさませる。
「そろそろどっちか飽きてくれないかな――」
 炎による熱と、氷の冷気が戦場を包む中で漏れたヨハンの小さな呟きは、2つ意味を抱いている。
「――素晴らしい。
 ――平穏と呼ばれる鐘は直ぐ其処と謂えよう。
 ――其方は任せたぞ、貴様! 貴様等!」
 順調に減っていく魔獣の数にオラボナは静かに笑う。
 オラボナを撃つグルゥイグダロスの牙も、ギルバディアの突撃も、その命を刈り取ることはなく。
 静かに受け切った後に、オラボナは一歩前に出る。
 怯んだように一歩後退した魔獣たちを見下ろすようにして、次いで嗤う声が戦場に響き渡る。


「――智虐だったか?」
 戦いがイレギュラーズ側優位に傾く中、オラボナは静かにヘルムートを見る。
 ヘルムートが杖で地面をつつき、錫杖のような音を立てた。
 大雑把に見て半分ほど数を減らした魔獣はその音色に従うようにしてヘルムートの周囲へと集まっていく。
「――良い趣味だ」
「ははっ――誉め言葉ではなさそうですね!」
 もう一度音色が響いたかと思うと、魔獣たちがオラボナでも攻め立てるサクラやマリエッタ、オリーブらでもなく、イルムガルト隊目掛けて跳びかかっていく。
 イーリンの支援を受けるイルムガルト隊はそれをうまく受け止め、そのまま流れるように両翼を広げていく。
「相手の先手先手で陣を敷き、有利と退路を潰し、包囲もさせない。
 戦術は王道を以って是とする物よ!」
 戦旗は翻り、散開しながら包囲を強めるイルムガルト隊の指揮はイーリンの補佐をして万全たるものだ。
「Nyahahahaha!」
 結果として構成された包囲、その中心で曝け出された魔種の姿に、オラボナが笑む。
 その視線がヘルムートと絡まった。
「この瞬間を逃せば後はこちらの不利に傾いていくだけです。
 最低でも撤退――ですが、このまま押し切らせてもらいます!」
 戦場のやや後方へ位置を取っていたオリーブは、包囲網の刹那に走り込んでいた。
「はは、流石に苛烈な攻勢ですね!」
 杖を構えて対応せんとするヘルムートへ振り払う三光梅舟。
 変幻なりし邪道の剣が巡り、その刹那にオリーブはもう一歩踏み込む。
 合わせとなった杖との競り合いのまま、突き出した剣先がヘルムートの肩口を貫いた。
「な、」
 目を瞠る魔種へ織りなすは連撃の太刀。
 そのまま2度描かれた苛烈なる剣技の終息、ヘルムートがやや後退する。
「こんなくだらないどつきあいに毎度毎度付き合わされるのも難儀な話だ。ここで終わらせる!」
 それはヨハンの激情である。
「ボーデクトンの生まれではないが、
 祖国を荒らされて怒らない鉄騎種はいねえからな!
 何が憤怒の魔種だ、僕の方が怒ってるんだぞ!!」
 ――包み隠してきた本音を吐露すると共に、ヨハンは更なる魔力を魔導書へと注ぎ込んでいく。
 手負う事を良しとする仲間達からは離れ、激情を籠めた詩はより一層の力が籠り、最後の一押しを紡ぐ。
「逃がさないって、言ったよね?
 ここで逃がしたら、イザベルさんはずっと貴方を追いかけるはず。
 そうなったら、もっと酷いことになっちゃうかもしれないから!」
 魔獣による突撃と合わせ、後退せんとするヘルムートへ、スティアは肉薄する。
「貴女だ。貴女に少々時間を取りすぎて」
 苛立ったようにヘルムートが杖を構えるのより僅かに速く、スティアが動く。
 溢れ出す天使の羽根を刃に変えて、神滅の刃がヘルムートを切り刻む。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ! イレギュラーズ、これが英雄。
 あぁ全く、少し遊びすぎましたね!」
 八つ裂きにされてなお、零れるような笑みがヘルムートに浮かび杖の先端から魔力が溢れ出る。
 手負いの魔種は退路を失い、余裕などあるはずもなかろうに、地上に陣を描く。
「何をする気か知らないけど、逃がさないよ!」
 スティアに合わせるように、否、合わせるまでもなくサクラが続く。
 聖刀が鮮やかな光を放ち、納刀の鞘より抜き放たれる。
「これ以上、悲劇を広げさせるもんかーーーー!!」
 爆発的に伸びた反応速度で打ち出される斬撃が、戦場を桜色に染め上げる。
 一拍の下に打ち出された斬撃は1つに非ず。
 それは邪剣の主を思わせるように、1つとして同じ太刀筋を持たぬ。
 けれど1つ1つが確殺を思わせた。
 竜をも墜さんと描く太刀筋が、ヘルムートへと致命的なまでの傷跡を残す。
 氷の柱が、矢のように飛んでいく。
 ヘルムートと柱の間、魔方陣から何かが浮かび上がった。
「――ぁっ、」
 小さな、イザベルの、そしてイルムガルトの声が戦場に乗った。
 浮かび上がったそれはどこかイザベルの面影を感じさせる、10代前半らしき子供のように見えた。
「ン 問題ナイ」
 浮かび上がった子供を貫かんとする氷の柱、その寸前に立ち塞がったのはそう呟いたフリークライ。
「なっ――はは、ばれてましたか」
 フリークライは乾いたヘルムートの笑みを見据え、静かに告げる。
「ン 母ノ手デ 子 傷ツケサセハシナイ。
 我 墓守。死者 遺族 心 護ル者ナリ」
 無防備な背中側よりフリークライを貫いた氷の柱はその上半身を貫けども守るべきものには至らぬ。
「これはこれは――運の尽きというものですか。
 折角の隠し玉でしたのに!」
 ヘルムートが笑い始めるよりも前に、その懐に影――マリエッタが潜り込む。
「くっ――この手負いに続けて魔女さんの一撃は拙いですね!」
 杖を構えてそれを受け止めんとするヘルムートへ、死血の魔女はその大鎌を振り抜いた。
「――私は言いましたよ。
 イザベルさんの分も背負いましょう、と」
 ガン、と鎌が杖に防がれるのと同時、足元、マリエッタの影より放たれた血の槍が一斉にヘルムートを貫いた。
「……はっ?」
 マリエッタのエメラルドの瞳には、驚愕に見開かれる男の瞳が静かに映っていた。
「私の十八番はこちらなのですよ?」
 無数の血の槍が魔種の血を静かに貪り喰らっていた。


 戦いは終わりを告げた。
 ヘルムートの死を以って魔獣たちの攻勢は瞬く間に弱体化していく。
「さぁ、助けましょう、貴方達の手で、この地の人々を助けるのよ!」
 旗を翻すイーリンの言葉に後押しされるように、イルムガルト隊が残った魔獣たちを一掃していく。
 その流れは最早止まるところには無い。
「……イザベル」
 イーリンはその視線をふと女の方に向ける。
 戦火広がる戦場の中心で彼女は未だに立ちすくんでいた。
「――――」
 ぼんやりと、我が子――の形をした亡骸を見下ろして。
「イザベル コノ子デ間違イナイ?
 ソレナラ 君ノ手デ 弔ッテアゲテ 思ウ」
 そう問いかけるフリークライの言葉にも、彼女の反応はない。
 黙して、崩れ落ちるように両脚を落とした女がそっと亡骸を抱き上げた。
「ソノタメニモ マズハ フリック二任セテ」
「……えっ」
 フリークライは子供の亡骸へと近づくと、その場で出来る簡単な防腐処置を行っていく。
「少シデモ コノ子ト イテアゲテ」
「……あ、ありがとう……」
 小さな、ほんの小さな声が聞こえた。
「……ねえ、イザベル」
 イーリンは、そんな魔種に近づいていく。
「貴方、子供の名前を覚えてる?」
 ぴくりと、子供を抱き上げる魔種の身体が震えた。
「――ッ」
 小さく息を呑んで、静かに魔種が立ち上がる。
「この子の名前は、この子の――名、ま、え――はッ」
 そうして――イザベルはぎゅっと亡骸を抱きしめて、一気に跳んだ。
 それは、それ以上の問答を恐れたようにさえ見えた。
「……――そう」
 どこか遠くへと跳び去る魔種の姿を見やり、イーリンの呟きが戦場に静かに消えて行った。

成否

成功

MVP

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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