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シナリオ詳細

<大乱のヴィルベルヴィント>その男、冷ややかに、強かに

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 新皇帝バルナバスが即位してしばらく。
 鉄帝は6つの派閥に分かれ、それぞれの思惑に沿って立ち回る。
 先帝ヴェルスの治世に戻さんとする帝政派。
 南部戦線の英雄ザーバ将軍率いるザーバ派(南部戦線方面軍)。
 我関せずと政治不干渉を貫くラド・バウ独立区。
 ギア・バシリカを中心に民の救済を願う革命派。
 ノーザンキングスに抗する戦力を持つポラリス・ユニオン(北辰連合)。
 空浮かぶアーカーシュに拠点を持つ、独立島アーカーシュ。
 中でも、焦点となるのは大きく2つ。
 鉄帝各地の補給を担う鉄道網の確保。
 そして、冬に備えて『凍らぬ港』である不凍港を確保すること。
 帝政派、ザーバ派、ラド・バウ独立区、革命派は鉄道網の奪取に。
 ポラリス・ユニオン(北辰連合)、独立島アーカーシュは不凍港に向けて動き出す。

 無論、新皇帝派も黙ってはいない。
「不凍港の確保は気になりますが、やはり鉄道は抑えねばなりませんからね」
 冷ややかな視線を鉄道都市ゲヴィド・ウェスタンへと投げかけているのは、ヴィーザル出身でありながら鉄帝国内で中佐にまで上り詰めた男、ヴェルクルス。
 その体は新皇帝の圧倒的な強さに心酔するあまり原罪の呼び声で侵されており、魔種へと堕ちていた。
「貴方達にはこの街にある列車砲の確保に動いていただきます」
「「ハッ!」」
 統制のとれたヴェルクルスの部隊。さすがは鉄帝軍人といったところか。
 その傍らには、明らかにガラの悪い集団もある。
 襤褸を纏う者が多く、中には囚人服のままの者もいた。
「さあ、出番です。思うままに暴れるといいでしょう」
「「うおおおおおおおおお!!」」
 牢獄の中で鬱憤の溜まった囚人達は目の色変えて咆哮を上げる。
 なにせ、軍人からのお墨付きだ。何をしてもかまわないとなれば彼らのテンションはうなぎのぼりである。
「攻めるだけなら状況的にそう難しくはありませんね」
 この街にいるのは、反皇帝派の軍人が少数。鉄道の制圧などヴェルクルスは問題ないと踏む。
 だが、このゲヴィド・ウェスタンに、ザーバ派が駆け付けているという情報もある。
 ザーバ派は城塞バーデンドルフ・ラインを拠点として活動しているわけだが、彼等がわざわざ鉄道都市にまで出張ってくる理由は非常にわかりやすい。
「彼等の実力を鑑みれば、簡単にはいかないでしょうね」
 鉄帝の強者はもちろんのこと。ザーバ派に与するローレットイレギュラーズはこれまでも混沌各地でめざましい成果を上げている。
 いくら強大な力を得たとはいえ、油断すれば我が身の破滅を招く。
「ここは皆が活動しやすいよう、陽動作戦を行う方が成果をあげられそうですね」
 ザーバ派の戦力が分散すれば、それだけ同胞が列車砲を抑える可能性が上がる。
 ヴェルクルスは強かに、布陣を固める。
「勿論、隙あらば私自ら……くくく」
 その含み笑いに、部下達は底冷えするような寒気を感じてしまうのだった。


 冠位魔種バルナバスの即位後、鉄帝国内は荒れに荒れている。
 強い物こそが全てを奪う権利があると言わんばかりの体制。
 弱者は虐げられ、力ある者達だけがそれぞれの思惑の為に活動を活発化させている。
「この混迷極まる鉄帝国を、新皇帝はどう俯瞰しているのでしょうね……」
 『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は鉄帝国の情勢を憂う。
 ここに集ったイレギュラーズもまた、現状をどうにかしようと駆け付けた者ばかり。
 鉄帝国の在り方について熱く語ったり、新皇帝バルナバスについて非難したりと思い思いに主張するのをアクアベルは一通り聞いて。
「……いずれにせよ、このままの情勢でいいと思う人はいないのは間違いありません」
 この状況を是としているのは、新皇帝によほど心酔している者、釈放された囚人達くらいなものではないか。
 鉄帝の在り方についての議論は始めるとキリがなくなりそうだが、おそらく現状はそれを待ってはくれない。
「現状、有力者達が注目しているのは、不凍港と鉄道網ですね」
 北に位置する鉄帝はただでさえ自然の厳しい地域。
 冬場は国土の北側の海がほとんど凍り付いてしまう。何をするにも港が機能しないのは辛いところだ。
 また、国土の大半が山、あるいは痩せた土地という鉄帝にとって補給は非常に大事であり、物流の為には鉄道網を抑えるのは大きな意味を持つ。
「補給路を断たれた陣営は消耗戦を余儀なくされますからね」
 アクアベルは今回、後者に着目して情報収集を行っていた。
 そこで、彼女はいくつかの鉄道駅に焦点が当たっていることも突き止めたが、その中で『ゲヴィド・ウェスタン』の状況について語る。
「帝都スチールグラードから南にあるこの街を抑えることで、鉄道網の回復が見込めます」
 反皇帝派としては是が非でも手中に収めたいところだろうが、そう簡単にはいかない。
 新皇帝派はどうやら、この街に列車砲があることを突き止めたらしく、多数の軍人を送り込んでいるようなのだ。
 列車砲を護っているのは、反皇帝派の軍人が少数だという情報もある。放置していれば、間違いなく新皇帝派に奪われてしまうことだろう。
「皆さんには、列車砲を目的として『ゲヴィド・ウェスタン』にやってきているヴェルクルスという将校の率いる部隊を撃退していただきたいのです」
 ヴェルクルス中佐はこれまでの調べでヴィーザル出身の元鉄騎種男性だと判明している。
 というのは、彼が直々に釈放した犯罪者数名から情報提供があったのだ。
「ヴェルクルスは自身の部隊と合わせ、囚人達も引き連れ、この街で陽動作戦を行うようです」
 目的などすでに知られているのはあちらも分かっているだろう。
 だからこそ陽動を行い、列車砲を奪取しやすい状況を作ることが狙いだとみられる。
 もちろん、隙あらば自ら奪取に向かうだろう。国の為に尽くす男という犯罪者達からの話もある。新皇帝の為、最善手を打とうとするこの男の動きは無視できない。
「ヴェルクルスは両手斧を操る武闘派でありながら、冷気や雷の術も得意としています」
 個としても強力な男だが、その統率力も見逃せない。
 男性小隊と女性小隊を率い、布陣を固める彼は列車砲の方へとイレギュラーズを通さぬようにするはずだ。
 加えて、連れてきた囚人達。こちらは逆にやりたい放題振舞うから面倒な相手だ。
「統率が取れた自部隊の為、敢えて囚人達を使う……やりにくい相手です」
 情報については資料で軽く流すアクアベル。
 とはいえ、小隊長とて将校レベルの実力者。犯罪者達も人を傷つけることすら厭わぬ者ばかりだ。下手に相手すればこちらが大怪我をしかねない。
 また、街は戦いがあちらこちらで始まっている状況で、人々も戦場を避けて退避している。
 行く手を阻む軍人達の傍らで、囚人達は街の住民を襲ったり、彼等の住居へと潜り込んで金品を奪取したりするはずだが、何処まで対処ができるか……。
「非常に難しい状況ですが、最優先は列車砲を守り切ることです」
 その為に、このヴェルクルス部隊と囚人達をなんとしても撃退したい。

 後に『大乱のヴィルベルヴィント(つむじ風)』と呼ばれる――六派軍事行動。
 イレギュラーズはその参戦を決意し、戦線に加わるのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <大乱のヴィルベルヴィント>のシナリオをお届けします。
 新皇帝に与する大佐待遇を受ける男、ヴェルクルスの思惑とは……。

●状況
 舞台となるのは、帝都スチールグラード南側に位置する『鉄道都市ゲヴィド・ウェスタン』。
 現状、少数の反皇帝派の軍人によって、街の軍事施設に護られている列車砲を、新皇帝派が奪取に動いています。
 ザーバ派としても、列車砲は抑えておきたいところ。
 軍事施設への突破を目指すヴェルクルス部隊の撃退を願います。

●敵:ヴェルクルス部隊
○ヴェルクルス
 元鉄騎種、憤怒の魔種。
 紳士然としているようにも感じますが、元犯罪者を国内で暴れる様けしかけるなど、新皇帝の意に従って行動する生粋の新皇帝派。
 その力の一端に触れて魔種となった彼は国の為、列車砲を奪取すべく作戦を展開しています。
 右目と左腕が機械となっており、近距離では片手斧、中、遠距離では冷気と雷の術式を発してくることが確認されています。

○新皇帝派軍人×20体(10体小隊×2)
 ヴェルクルス配下。全て鉄騎種。魔種にはなっていません。強者こそ至高と疑わぬバルナバス信望者達です。
 今回は小隊が2つ。男性大尉、女性中尉が小隊長となり、それぞれ同じ性別の部下で編成された隊を率います。
 男性大尉、女性中尉は当然格上であり、それぞれ両腕、両足が機械となっていて、力と素早さを活かして槍を振りかざします。
 男性小隊は剣に斧、マシンガンにショットガン。女性小隊はナイフや格闘術、ハンドガンにライフルを使用。
 小隊としては布陣を保ちつつ、近中と遠距離で攻撃をスイッチさせて攻撃を行うなど統率のとれた動きで相手を攻め立ててきます。

○囚人×15体
 新皇帝の勅命によって釈放された囚人達。男性多め。こちらも全て鉄騎種。
 軍人達に武器を与えられ、刃物はもちろん、鈍器、飛び道具。鉈や鋸、鞭といった獲物を使う者も。
 その身で戦う者はおらず、銃火器も所持していない為、いずれも近、中距離での交戦を行います。
 ただ、こちらは統率などなくバラバラに動いて攻撃を行います。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <大乱のヴィルベルヴィント>その男、冷ややかに、強かに完了
  • GM名なちゅい
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月08日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
観音打 至東(p3p008495)
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官

リプレイ


 慌ただしく動き出す鉄帝国の情勢。
「次から次へと、まったく混沌世界では気が休まるということがないな」
 冒険者然とした旅人青年、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が思わずそう口に出してしまうのも無理はないかもしれない。
 鉄帝の政変、情勢の変化ですら、ローレットにとっては悩みの種の一つ。それだけ混沌ではあちらこちらで劇的に状況が変わっており、解決すべき事件は多いのだ。
 さて、鉄帝の状況では、新皇帝バルナバスを擁する新皇帝派に対し、6つ分かれて活動する鉄帝国の勢力。
 そのうちの一つ、ザーバ派(南部戦線方面軍)は鉄道網を確保しようとしていたのだが……。
「本格的な冬を前に大きな御祭の時間でせうか?」
 長い黒髪を編み込みとしたスレンダーな旅人女性、『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は、群雄割拠の今を考えると物流網の確保が急務という考えをどこの勢力も抱いていると現状を語る。
「こちらの作戦に合わせて新皇帝派も動き出した……」
「まぁ、そら居るよね。魔種の治める国だもん」
 白銀のヒーロースーツに身を包む『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)の言葉に、『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)が大儀そうな素振りを見せる。
 魔種である現鉄帝国皇帝バルナバルの配下には同じく魔種となり果てた者も多い。今回、対することになるヴェルクルスもその一人だ。
「まあ、進軍するとは思ってたよ」
 ゆるふわな雰囲気を抱かせる精霊、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)もここまでは想定内とは思っていたのだが。
「しかし、無秩序と秩序をこう綺麗に織り交ぜてくるとは思ってなかったよ!」
「新皇帝派に囚人達ね……成程成程……」
 アリアの叫びに、トランジスタグラマーな少女の姿をした銀髪の
『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が刻々と頷く。
 今回、魔種であるヴェルクルスは自身の部下である軍人達の他、現政権下の方針によって釈放された囚人らまで引き連れているのが厄介極まりない。
「向こうもかなり本腰を入れて列車砲の奪取に動いてるみたい」
 無口で無表情、クールでマイペースな『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は冷静にこの状況を分析する。
 かなりの戦力を投入している新皇帝派が敢えて、囚人まで戦力としているのがその証左だ。
「超絶弩級大列車砲ってヤツで、兵器ってのは持ってて嬉しいコレクションじゃ無いが 持ってるコトに意味あるモンな」
 相手がどういう意図で列車砲を狙っているかは推測に過ぎないが、夏子が言うようになんとしても保護しなければならないのは間違いない。
「弱肉強食で国家規模を纏めるのは無理筋ですから、新皇帝派の方々には賛同出来かねないのです」
「まぁ、断ってくしかないよなぁ。超絶弩級大列車砲ってヤツで」
 ヘイゼルの主張に夏子が同意し、こちらが目的の列車砲を手に入れることで新皇帝派を撃破すべきだとほのめかす。
「ヤるっきゃないね。世界平和の為にもさ」
 このまま魔種が鉄帝を牛耳ることとなれば、他国にも侵略することは容易に想像できる。
「メイドとは家屋の守護者。そこに住まう方々の命と財産を適切に扱うのが使命です」
 そこで、流れのメイド『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)が自己暗示をかけるように独り言ちる。 
 ――ゆえに! この観音打至東、当地を超広域奉仕対象としてマーク!
 一度、声を荒げた至東はさらに続けて。
「旦那様たちを狙う不届き者らは、容赦なく斬り捨てます!」
 決意を口に出した至東に、皆同調する。
「陽動とはいえ相手は魔種、抑えには回らざるを得ないが……イレギュラーズならこの旋風にも負けはしないだろう!」
 他世界から召喚された鍛冶師の青年、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は強力な相手と認識しているが、全く臆する素振りを見せない。
「列車砲を奴らに渡すわけにはいかない。何としてもここで食い止めないとだけど、囚人たちを好きにさせるわけにもいかない」
「二手で同時に攻めてくるならば、どちらも退けるのみ。その無茶苦茶な作戦を選べるのが俺の力だ」
 厳しい現状についてオニキスが指摘すると、様々な戦略を練ることができるのがローレットの強みだと、濃い青の髪を後頭部で束ねた鉄騎種の青年、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は語気を強める。
「混沌中でこれだけの事変が起これば、民の為に働く機会も多いからな」
 それに、エーレンも同意して。
「大いに働いてやろうじゃないか。魔種の撃退とか、な!」
「この街の人たちも、列車砲も、必ず守り抜くよ」
 オニキスも感情を表には出さぬが、自らが持つ使命感を強めて両手を強く握る。
「奴等に列車砲の奪取を邪魔させる訳にはいかない……! ここで必ず食い止めて見せるであります!」
 熱血漢であるムサシもまた多くの命を守る為にと闘志を燃え上がらせていた。
「それではいつも通り、ゆるりと参りませうか」
 ヘイゼルはペースを崩さず、意気揚々と戦いに臨む仲間達の後ろからついていくのである。


 鉄道駅のある鉄帝南部の街『ゲヴィド・ウェスタン』には、新皇帝派にザーバ派が入り乱れており、すでに交戦が始まっているところもあるようだ。
 このチームと対するヴェルクルス中佐率いる部隊が一筋縄ではいかないのは周知の通り。
 チーム全体としての作戦としては、列車砲方面へと敵に向かわれぬよう、まずは数減らしに注力することになる。
「敵勢が半数減ったら、これを使う」
 エーレンは取り出したのは、パーティーグッズ。派手な音と光が放たれる為、街中で敵味方が入り乱れる中でも十分合図として効果が期待できる。
 その合図の後、メンバーの多くがヴェルクルスに攻撃を集中させ、撃退へと持ち込もうという作戦だ。

 街へと進軍してくるヴェルクルスの部隊。
 作戦を開始する直前であったそれらへと、ローレットのチームが列車砲方面へと向かう方面から進路を遮るように接触する。
「ザーバ派イレギュラーズにして宇宙保安官、ムサシ・セルブライト見参ッ! ここから先は通さないでありますっ!」
 早速、ムサシが名乗りを上げ、敵部隊の注意を引きながら布陣などを探る。
 手前側にいた囚人らが自身に注目するのをムサシは見逃さない。
「優秀な人が指揮を執っているみたいだね。だけど、列車砲は破壊させないよ!」
「列車砲はボク達ザーバ派閥にとっての象徴になりえる代物だからね……そうやすやすと思惑どおりにはさせないよ?」
 続くアリア、ラムダの呼びかけもあって、ヴェルクルスはすぐこちらの素性を把握したようだ。
「思った通りでしたね」
「力こそ全てが鉄帝流とはいえ、それで呼び声に応じるのは心の強さがなってないと言う他ないな?」
 呟く中佐を錬が煽るが、相手は意にも介さずに身振り手振りで部下達へと指示を行い、応じた男性大尉と女性中尉が小隊をすぐさま布陣させる。
「さあ、出番です。思うままに暴れるといいでしょう」
「「うおおおおおおおおお!!」」
 加えて、ヴェルクルスは囚人達を街へと解き放つ。
「……それじゃあ、咎人共に情状酌量の余地は無し……やりたい放題やってきた報いを受けてもらおうか?」
「やれるものでしたら、どうぞ」
 自信たっぷりな様子のヴェルクルス。
 その態度は自らの強さ、そしてこれまで幾多の作戦を成功へと導いてきた実績に裏付けられているのだろう。
 もちろん、どれだけの相手であろうと魔種である限り、イレギュラーズとしてヴェルクルスの所業を見過ごせるはずもない。
「列車砲は俺達が確保する。新皇帝派の好き勝手にはさせない!」
 イズマの叫びが契機となり、両者はぶつかり始める。


 10名のイレギュラーズで対するは、鉄帝の軍人部隊と合わせ、好き勝手に暴れる囚人の群れ。しかも、それらを統べるのは魔種という状況だ。
 その魔種ヴェルクルスの動きをヘイゼルが注視する間、前衛の軍人数名が仕掛けてくる。
 鉄騎種の軍人達は直接攻撃を行う為、剣や斧、ナイフや拳に蹴りといった近接攻撃がほとんど。
 それらを多く引きつけていたのはイズマやエーレンだ。
 いつの間にか、真横の建物内部に潜んでいたイズマは壁をすり抜けてから軍人へと奇襲をかける。
「イズマ・トーティスだ。……新皇帝派の軍人か。上に従い続けるなら排除するまでだ!」
 名乗りを上げるイズマに対し、軍人達は早速斬撃、打撃と繰り出し、連携した攻めを行う。
 ただ、イズマもそれらを食らうまいと、大きく移動して敵陣を攪乱する。
 目の前から消えたイズマを追う軍人に対し、彼は旋律を紡ぎ出す。
 ――アジタート。
 それは、激しく狂おしく、刻む苛烈なるビートだ。
 前線が乱される中、小隊長である男性大尉と女性中尉が進み出るが、これらの行く手をエーレンが塞ぐ。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。即刻お引き取り願おうか、ここはお前たちが土足で踏みらしてよい場所ではない!」
 単体アタッカーであるエーレンだ。できるだけ高価値目標をと考えていた彼だけに、小隊長クラスが出てくるのなら臨むところ。
「ローレット……任務の邪魔だ」
「…………」
 端的にそう告げた男性大尉は力強く槍を振り払う。
 さらに、女性中尉も無言ではあったが、同じく槍を素早く操って連続突きを繰り出し、エーレンの排除をはかる。
 エーレンは後方からの援護も受けられるよう位置取りを考えつつ、男性大尉から十字剣を居合から一閃させた。
 その一太刀は敵の鋼鉄の体すらも傷つける。
 さすがは手練れのローレットと、彼等も戦意を高ぶらせていたようだ。
 とはいえ、軍人達は数で攻めてくる。
 続く中距離の軍人、近辺に残る囚人の一部もイレギュラーズが邪魔だと判断したのか、前衛陣、小隊長に遅れて仕掛けてくる。
 それらの攻撃は、夏子が庇いに当たって。
「雑魚向けタンクの本領発揮ってね 俺一人に殺到したら 中遠攻撃 どうなるかなぁ?」
 相手を煽りながら、夏子は戦いの鼓動を高める。
 軍人らは夏子へと攻撃を集中させ、距離をとっての斬撃、距離を詰めてからのナイフ斬撃や蹴り技、動かずにハンドガンの発砲と彼を攻め立てる。
「スゴい統率された動きスね。我々マネ出来ないスよ。マジ」
 軽口を叩く夏子は遠距離から銃で狙ってくる敵も含め、全力で軽槍を薙ぎ払う。
 多くの敵を巻き込むように仕掛けている夏子だが、しっかり男性だけを狙っているのが彼らしい。
(今回はタンク役も多目だからな)
 錬は戦場を立ち回って敵から適度な距離を維持し、後衛陣を狙われぬよう相手の射線に割り込む。
「敵が小隊規模で動くというならば……」
 相手の布陣を踏まえ、錬は範囲攻撃が有効だと判断して魔鏡を鍛造する。
 煌めく鏡面から放たれる黒い閃光は、多くの軍人を貫く。
 不吉に見舞われる小隊軍人らが足を躓かせるなどし、統率が乱れることで浮き足立ち始める。
「無尽にして無辺……遍く世界を包め灼滅の極光」
 続くラムダは何か詠唱を始めており、すぐには動き出さなかったが、広域俯瞰で戦場の様子を確認していたオニキスが拠点殲滅用拡張武装を展開する。
 スコープをのぞき、照準を定めるオニキス。
 敵の布陣の分厚い部分目掛け、彼女は魔術を籠めた弾頭を発射する。
 その「120mmマジカル迫撃砲重力弾」は、敵群中央に着弾すると重力術式を展開し、強力な重力場を作り出して相手の動きを鈍らせ、行動を封じる。
「相手前衛の動きが遅れれば、後ろは詰まるはず」
 実際、前衛は抑えられ、中後衛が詰まる形となる。
 布陣を固める敵としては問題ないはずだったが、それが裏目に出てしまうことに。
「……ボクの対軍術式、恐れぬならば掛かっておいで? なんてね♪」
 程なく、出来るだけ多くの敵を射程に捉えていたラムダが程なく術式を発動させる。
「対軍殲滅術式『無尽無辺無限光』」
 構成された10の光球が次々に爆縮圧壊していく。
 それらが極光を放てば、もはや術者であるラムダすらも止めることができない。
 彼女の捉えた敵全てを極光が襲う。
 多くの存在を殲滅に至らしめる光だが、軍人らもかなりの力を持っているらしく、耐えてみせていたものの、かなりのダメージを負っていたようだ。
 とはいえ、これだけの高火力の術だ。前衛が乱戦模様となれば仲間を巻き込んでしまう。
 ラムダは戦線維持へと回り、仲間が万全に戦えるよう支援に回ることにしていた。

 また、自分勝手に立ち回る囚人達の存在も見過ごせない。
(やはり、乱戦になったでありますね)
 早いタイミングで敵の抑えを始めていたムサシ。
 彼もまた軍人の一部を請け負っていたが、それ以上に囚人の数が多い。
「「ヒャッハアアアアア!!」」
 長い獄中生活で鬱憤の溜まっていた囚人も多い。
 それ故に遮るもののないシャバで暴れられると、与えられた刃物を振り回してくる。
(抑えに回っている方の負担を減らす為にも、多くの敵を引きたいところ……)
 現状、ヴェルクルスを抑える役を担うヘイゼルはというと、相手が敵後方で戦況を注視したまま動かないのを見て、一時的に囚人を自由にさせぬよう相手することに切り替えていた。
「鉄道が何かも分って居なさそうな方々を連れているなど、御里が知れてしまいますね」
 物取りをしようと家屋に侵入しようとしていた囚人数人がいきり立ってヘイゼルへと切りかかる。
 ヘイゼルも鼓動を高め、そいつらを強く引き留めて好き勝手に動かないよう戦場へと留める。
 それを横目に、ムサシは高位火炎術式を組み上げ、敵陣を焼く。
 火力は決して小さくないはずだが、獄中で力を漲らせていた囚人らはそれだけで倒れることはなく、次々にムサシへと刃を向けてくる。
 彼も斬撃の嵐を耐えきり、しっかりと反撃を繰り出して敵戦力の削りに注力していた。
「金が欲しいなら奪うより、俺を殺した方が早いぞ? それとも俺すら殴れない臆病者か?」
 前線で軍人を引き付けるイズマもフリーとなっている囚人を煽って引きつけていたが、それでも個別に動き回る囚人全てを捉えるのは難しい。
「ヒャハッ、見つけたぜぇ!」
 ギラギラと目を光らせる囚人の2人が、逃げ遅れた女性を発見する。
 冷たい刃を煌めかせた囚人が女性の柔肌へとそっと押し当てると、すぐさまオニキスがそれを発見して。
「囚人が住民を狙っているよ」
 それに応じたアリアが混沌中を漂う根源の力を泥へと変えて一気に囚人らを押し流す。
「大丈夫ですか? ここは私達に任せて逃げて下さい!」
 どうやら、大切な品を取りに戻っていたらしい女性は感謝の言葉をアリアへと告げ、街の外に向けて駆け出していく。
 アリアはその後ろ姿を見届けつつ、戦場となる街の建物、設備などを破壊せぬようにと保護結界を広げていた。
 至東もまた、個別に動く囚人を逃さない。
 敵が侵入しようとしていたのは、家屋内へと立てこもる人がいる家。
(思った通りでしたね)
 火事場泥棒と合わせて人々から金品をゆすり取ろうと考える囚人の裏をかき、至東は裏手に回って中の住民を避難させる。
「オラァ!」
 正面扉を蹴破った囚人が室内へと駆け込んだところで、至東が一気に切りかかる。
「一対一の戦いは、武家の娘たる私が最も得意とする所!」
 荒事に手慣れた相手とあって、一撃必殺とはいかぬが、素早く距離をとって相手の攻撃を逃れた至東は次なる一撃を見舞い、その首を切り裂いた。
 思ったより歯ごたえのある相手と感じる至東は、次なる囚人を狙うべく戦場へと戻っていく。
「さすがはローレット。これだけの状況に対応してくるとは」
 感心した様子のヴェルクルスも、これは自身の手が必要だと感じたらしく、戦線へと出てくる。
 それをヘイゼルが見逃さず、囚人を放置したままそいつの前に出て。
「申し訳ありませんが、魔種の方は別列に御並び頂くよう御願い申し上げます」
 朱い魔力糸を速やかに紡ぎあげたヘイゼルはそれを多重発動させてヴェルクルスの体を絡めとろうとする。
 ただ、相手は涼しい顔をしたまま、それを振り払おうともせず、含み笑いして。
「いいでしょう。少し相手になりましょうか」
 顔に機械の左手を当てた鉄帝の中佐はギラリと右目を光らせ、すらりと片手斧を抜いたのだった。


 魔種ヴェルクルス中佐も戦いに加わり、鉄道の街での戦いも苛烈さが増していく。
 主に囚人を相手取るメンバー。
 アリアが更なる泥を発して敵を押し流し、倒れた相手にナイフを思わせる刃で極撃を与えて仕留めてみせる。
 少し離れた場所ではムサシが激しく炎を燃え上がらせていた。
 数が多い敵を少しでも減らそうと、囚人を逃さず焦熱の獄炎で焼き払っていく。
「……これで、2体」
 戦場へと戻っていた至東は一撃必殺で敵を仕留め、今度は小隊員……軍人を強襲する。
 相手を仲間達がうまく引きつけており、布陣がやや乱れている。
「こちらも戦列を形成して対応しなければですネ」
 それもあって、至東は仲間と足並みを揃え、奇襲からの一撃を見舞っていた。
 徐々に減りゆく軍人及び囚人。
 イレギュラーズの疲弊もまたそれに合わせて大きくなっていたが、ヴェルクルス部隊は進軍を止めようとはしない。
 さらに名乗りを上げたイズマが多くの軍人を引き付ける。
 彼に攪乱された敵は足並みを乱し、イレギュラーズを攻撃する手が弱まる。その中で体力の限界が近い軍人に鉛を撃ち出し、周りの敵を巻き込みつつその軍人を倒してしまう。
 軍人らの抵抗も激しい。
「替われる者から、疲弊する前衛と後退しろ」
 正気を保つ小隊長2人が折を見て部下達へと指示を出すが、エーレンがそれを許さず刃を一閃させる。
 そこで、オニキスが敵陣に気糸の斬撃を浴びせかけた。
 仲間を避け、軍人らを多く捉えて切り刻まんとする気糸によって態勢を崩す軍人らに、オニキスは追撃をかける。
 その身に魔人を下ろすオニキスは高まる魔力を解き放ち、前方へと放射する。
 それに耐える軍人達も果敢に切りかかり、銃弾を放ってくるが、この場はイレギュラーズの攻勢が勝る。
「魔種の下で戦うって自滅願望強すぎでしょ 我々と戦うのどう?」
「…………?」
 女性軍人は相手にしたくない夏子が彼女達へと呼び掛けると、訝しんで表情をこわばらせる。
「竜種も魔種も撃滅してきたし強いよ~? もっと上目指してさぁ そう先ずは僕とデートでもしよ?」
 続ける夏子がナンパな誘いをすると、数名が彼に殴打を見舞おうとしてくるが、纏まっているなら範囲攻撃を行う仲間のターゲット。
「一対多だと そゆコトあるよね」
「全く、脳みそまで筋肉だからって魔種の悍ましさより戦闘力が上に来るのは流石にどうかと思うがな!」
 笑う夏子の後ろから、錬が呆れながら毒づく。
 彼は再度、発生させた鏡を使って黒い閃光で軍人数体を倒した後、小隊長2人に狙いを定める。
 今度、錬が鍛造したのは斧。とはいえただの斧ではなく、五行相克の循環を象ったものであり、女性中尉を傷つけて統率を乱す。
 また、エーレンは男性大尉へと攻撃を続けており、圧倒的な眼力で対象の動きを見定めてから、死角より斬りかかる。
 そんな折、オニキスの広域俯瞰を中心に敵数を把握していたことで、エーレンは敵数が半減したことを把握する。
「よし」
 エーレンが使う星夜ボンバーは爆発音と共にきらきらと星を瞬かせる。
 そうなれば、メンバー達は魔種の討伐を最優先すべく布陣を変える。
 仲間が動く間、ラムダは魔種を抑えたままのヘイゼルを支えるべく聖域展開によって癒しを与える。
 ただ、このタイミングで残る軍人が邪魔してくる……が、それもイレギュラーズ達にとって想定内。
「ヴェルクルスを孤立させるぞ!」
 ムサシやイズマが名乗りを上げ、仲間達がヴェルクルスへと戦力を集中させる為、残る敵を一気に引きつけようとする。
「いやゴメンね 君等の相手はしてらんないってさ 弱いから」
 夏子もまた鼓動を高めて敵の意識を引く。
「あとはヴェルクルス、お前だけだ」
「ほう」
 自ら戦線へと出てきて相手へ、イズマが敵部下を引き寄せながらも、敵将へと告げる。
「ラド・バウに何の恨みがあるかくらい、教えてくれてもいいんじゃないか?」
「少し違いますね。私が元々目の敵にしていたのは首都スチールグラードですよ」
 イズマへとそれだけを告げたヴェルクルスだが、彼はそれ以上語らない。イズマに彼の部下が押し寄せたからだ。
 ヴェルクルスは雷撃を纏わせた斧を振るい、ヘイゼル目掛けて猛攻を仕掛けてくるが、彼女は防御を固めてじっと耐える。
 そこに駆け付けてくる面々、至東も他メンバーに囚人や小隊長を任せ、ヴェルクルスへと一直線に向かう。
 ただ、依然として小隊員も多く、半数がこちらの対処へと当たる。
 中でも、小隊長2人は今だ健在……だが、エーレンが攻め続ける男性大尉はかなり追い込んでおり、もはや虫の息。
 エーレンが幾度目かの一閃を見舞ったことで、そいつは事切れて地面へと伏していく。
 だが、その瞬間、ここぞと女性中尉がエーレンの腹へと槍を一突き。
 男性大尉との戦いで疲弊していたエーレンは態勢を立て直す暇もなく、パンドラ復活を余儀なくされた。
「指揮官を倒せば、統率も乱れるはず……!」
 そこにムサシが入り、女性中尉の槍による連続突き、加えて残る軍人らの絶え間ない攻撃にさらされながらも、じっと耐えてみせる。
「作戦を成功させるためにも……ここから一歩も下がらない……!
絶対に死守してみせるでありますとも!」
 ただ、女性中尉も錬に抑えられており、他メンバーの範囲攻撃と合わさって大きく体力を削られている。
 この場で抑えに当たる面々の攻撃で態勢を崩す女性中尉の隙を見て、ムサシはレーザーソードに火焔を纏わせて。
「ブレイジング……マグナムッ!」
 その一振りで女性大尉は言葉すらなく崩れ落ちていった。

 ヴェルクルスを元々抑えるヘイゼルと彼女を支えるラムダと合わせ、此方に向かったのは錬、オニキス、、至東、アリアだ。
 接敵した錬は早速斧を鋳造して切りかかる。
 彼は囲むように移動し、相手に注意を絞らせない。
 仲間達が駆け付けたことで、幾分余裕が生まれるヘイゼル。
 彼女は仲間達が攻撃しやすいよう位置取りを変えるのだが……。
「おっと、逃しませんよ」
 ヴェルクルスが扱うのは片手斧とはいえ、それなりの重量のある斧。彼はそれを軽やかに振るうと、凍てつく冷気の鋭さと相まってヘイゼルの体から血が迸る。
 油断せずとも、意識が飛びかけたが、ヘイゼルはなんとかパンドラを使ってその場に留まってみせた。
「やれやれ、手練れの部下を連れてきたはずなのですが……」
 顔に手を当てて首を振るヴェルクルスに、オニキスとアリアが同時に攻撃する。
 気糸の斬撃をオニキスが浴びせかけて魔種の態勢を崩し、合わせてアリアが手にする剣に神秘の力を高めて。
「私は欲張りなので、街もこの先の列車も貴方たちから守らせてもらいますね!」
 肉薄する間に、アリアは女神の口づけを使って魔力を回復しており、最大火力のフルルーンブラスターを浴びせかける。
 さらに、ラムダが接敵し、桜花を思わせる無数の炎片を舞わせる斬撃を披露してみせた。
 だが、ヴェルクルスは笑みを湛えたまま。
「ふむ、やはり、普通の軍人レベルでは厳しい相手のようです」
 こちらへと冷気、雷を発して応戦こそするヴェルクルスだが、こちらの戦力分析を優先しているようにも感じられた。
 これまで温存していた力を開放し、至東がビームの刃で奥義を披露する。
 ――観音打三劫流新理『人為三劫剣』。
 今だ完全なる習得には至らず、自身にも余波が及ぶ技だが、その威力は絶大。
 連続しての斬撃に些か怯む敵への集中攻撃に、少し遅れてエーレンも加わる。
(最低でも撤退に全力で追い込まねばな)
 相手は余裕の素振りを崩さない。ならばこそ、エーレンもハーフ・アムリタで気力を回復しつつ十字剣「サザンクロス」を一閃させた。
「私が命じます。死力を尽くしなさい」
 凍てつく空気と合わせ、迸る稲妻。
 それらが一気に残る彼の部下、囚人らの体に纏う。
「頼むから反転とかカンベンなぁ~っ」
 部下を抑えていた夏子はヴェルクルスの部下が魔種へと堕ちないよう祈りながらも、急いで昏倒させて無力化させる。
 それでも、相手の数は少なくなってきており、ヴェルクルスの援護を行うには至らない。
「此処へ赴いたこと後悔させてあげるよ」
 ラムダは仲間と声掛けを行い、号令を発する。
 言霊となったラムダの言葉が仲間達へと力を与えて。
「撃退が目的ですから、殺す理由はないんですけども……殺す必要は、あるでしょう?」
 相手はまだ余裕を見せている。
 ならば、今のうちに必殺に一撃を叩き込むべきと、至東はヴォルフヴベーカリーを口にして気力体力を回復し、一気に押し返そうと儚い花を思わせる美しい一太刀を打ち込む。
 間髪入れず、フルパワーの砲撃を放つオニキス。アリアも再度ヴェルクルス目掛けて極撃を繰り出す。
 手ごたえは十分。……だが、魔種はなおも表情を変えない。
「……まあ、今回は陽動できただけで良しとしましょうか」
 錬が斧を振りあげた時、ラムダがぞくりと寒気を覚えて。
「いけない」
 だが、人知を超えたスピード……さながら稲妻の如く戦場を駆けるヴェルクルスは瞬く間に錬とラムダを凍てつく斬撃で切り伏せ、イレギュラーズの囲いから抜け出す。
 2人はそれぞれパンドラを使って身を起こすが、傷は浅くない。
「撤収です。どうやら状況は我々に分が悪そうです」
 駅の方面を見ていたヴェルクルスが初めて目つきを鋭くする。
 この戦いが負け戦だと悟った彼は部下を引き連れ、冷気と雷を合わせた水蒸気の目くらませを使って瞬く間にその場を去っていく。
 ヴェルクルスの撤退と共に軍人らもまた戦いの手を止め、上司に続いて引き上げてしまう。
 多くの敵を抑えていたイズマやムサシはようやく解放されたと、息をついていたのだった。


 ボロボロになりながらも、イレギュラーズは死力を尽くし、ヴェルクルス部隊を撃退することに成功した。
 倒れていた大尉、中尉も息があったらしく、無事だった部下に連れられる形で『ゲヴィド・ウェスタン』を離れていたようだ。
 だが、ヴェルクルスが引き上げる際、率いていたのは自らの部下のみ。
 依然として、討伐に至っていない囚人は街で空き巣被害をもたらし、物取りに勤しむなど悪事を働いているはずだ。
「後は囚人どもを仕留めに行かねばな」
 エーレンが仲間達へとそう促す。
 相手は多少なりとも力を持つ囚人だが、先程まで戦っていた軍人達に比べれば、明らかに格下の相手。
 現状、多少傷ついていても、イレギュラーズが個別に対処すれば倒せない相手ではないはずだ。
 散開するメンバー達は早速、残る囚人達を個別に倒していく。
 家財を持ち逃げしようとする囚人をヘイゼルがアッパーユアハートで引きつけ、他メンバー達が叩く。
 後は倒れた囚人をイズマが捕縛し、略奪された家財を取り戻す。

 しばらく囚人捜索、確保を繰り返し、イレギュラーズは囚人達をあらかた確保する。
 2体を確保できなかったのが悔やまれるが、その囚人らはこの場からの離脱を優先したらしく、何もとらずに撤退したようだ。
「動向が目まぐるしく動いているって感じだね」
 改めて、鉄帝の情勢が変化していることを肌で実感するラムダは現状が大詰めに向かっている事を期待するのだが……。
「列車砲の情報が向こうに伝わってるね……。可能性として懸念していたけど、スパイとかがいるのかな」
 新たな不安要素を実感するアリアが上層部に進言することを提案していたのだった。

成否

成功

MVP

エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

状態異常

天目 錬(p3p008364)[重傷]
陰陽鍛冶師
ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは作戦の切り替えを知らせる合図を使い、小隊長1人を倒した貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました。

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