PandoraPartyProject

シナリオ詳細

オペラ座の灰塵

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●熱き夢も過去となろうと
 潮風香るその港町に、青く美しい海が見えるレストランの入った劇場が在った。
 その劇場では胸に響く熱い歌や物語を見る為に、或いは景色を楽しみ海鮮料理に舌鼓を打つ為に、町の外から多くの人々が訪れていた。
 しかし、輝かしき夢の時は支配人の死によって終わりを迎えてしまう。
 新たに支配人となった男が幻想貴族上がりの人間だった事が一つの不運だったのだろう。旧支配人亡き後、金になると踏んだその男は最初こそ「この素晴らしい劇場をここで終わらせてはならない」等と嘯き、好意的に権利を買い付けた。
 だがそれは最初だけだ。男は先ずチケット代をそれまでの三倍にし、レストランも五倍の値段に、しかも予約制にして更に二倍にしてしまった。
 質よりも量と速さに傾けた采配は、従業員の数は増しても品格と料理の味を落としてしまった。
 声ならばもっと美しい者がいる、と。母国の貴族付き合いのある婦人達の承認欲求を満たす為だけに音痴な者達を招き入れ、それまでの劇場が保っていた『魅力』を地に落としてしまった。

「あんな劇場に金を入れるものか」
「がっかりだなぁ」
「三人揃って旅行に来てみたらこれとはなぁ」

 訪れる貴族達も、町の人々も劇場から去って行くのにそう時間は掛からなかった。
 経営も次第に難しくなった劇場は従業員も端からいなくなっていった。
 輝いていた劇場は……すっかり錆びれてしまったのである。
 ───そんな時、たった一人だけ劇場が落ちぶれて行く姿を許せない者が現れたのである。

●踊る炎
 『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は事の始まりを語り、「それが」と一枚の写真を見せて言った。
「かの劇場の旧支配人、『ヴァースディガン・アンデルセン』。亡霊として蘇り劇場を占拠した彼を討伐するのが今回の皆様への依頼です」
 数日前に現れた謎の炎を纏ったゴースト。それは無数の分身を生み出し現支配人の男を襲いながら、我こそは劇場の主ヴァースディガンであると ″歌った″ というのだ。
 海洋の駐屯兵団が彼を討伐に乗り出すも、ただのアンデッドではないらしく解呪の類や術式が通用しなかったらしい。
「しかし彼は確かに霊体の存在。魔力も決して膨大という事も無く、私の……協力者からの報告によれば一般的なゴーストだという事です。
 そこで数名の術師を交えて私が現地で調査して来ました。所謂、件の旧支配人は地縛霊や土地に縛られたタイプのモンスターであると予想されます」
 イレギュラーズの何人かは心当たりがある単語だろう。強い念や力が集まる場には、何らかの存在が紛れ込んだり発生するものなのだ。
 それは混沌でも等しく、或いはより混沌だからこそ有り得る事象だった。ミリタリアの調査能力に数人から感心の声が挙がる。
「幾つかの霊的、魔術的視点から見た結果として。旧支配人の攻略法はずばり……『ミュージカル』にあると私は結論付けました」
 いま声を挙げた者達は一斉に前言撤回した。

「……コホン。良いですか? そもそも彼の劇場で最も人気を博していたのは、レストランなどではなくかつての支配人が描きそして世に放っていた脚本と歌にあるのです。
 決して私がファンという訳ではありませんが、間違いなく彼は歌声とミュージカルによって魂をですね……!」
「……ファンだったの?」
「ファンではありません、以前から調査対象として目を付けていただけです。
 と、とにかく宜しいですか? 少なくとも試しに私が歌ってみても旧支配人の霊体構造に変動があったのは間違いないのです。恐らく皆様ならば、より効果的に彼に何らかの変化が期待できるはず!」
 ダン! と卓を叩いて立ち上がったミリタリアは遅過ぎる程に凛とした態度を作り直してイレギュラーズへ向けて告げる。

「絶対に……歌いながら殴りかかってはだめですからね? 『あの』アンデルセン支配人に、ぼ、暴力なんて駄目ですからね!?」

GMコメント

●依頼成功条件
 旧支配人の亡霊を撃破(消滅)する

●情報精度B
 依頼人の言葉に嘘はありませんが不明な点があります。

●その後、情報屋は白状した
 歌う様に、舞台に上がった状態で声を上げる事で炎の亡霊に触れる事が出来るようです(ミリタリア談)
 現支配人である依頼主からのオーダーは「とにかく倒してしまえ!」との事ですので、取り敢えず行ける所までボコボコにして消滅させてみましょう。

●劇場
 海洋のとある島にある、港町が誇る一座。だったのですが今は小汚いオンボロ劇場。
 敵は後述にもある通り劇場の舞台上から出現して侵入者たる皆様を狙うでしょう。
 一階が劇場ホール。二階にレストラン、劇場二階席。といった構造です。

●炎の亡霊×12
 皆様がホール内へ入ると舞台上に出現する亡霊、その数は最大十二体。
 通常攻撃や普通に神秘攻撃をしてもダメージを与えられずに、こちらに確定でBS【火炎】が付与されてしまいます。しかし歌や一定のリズムの声を出しながらなら物理的にも神秘的にも触れる事が可能なようです。
 なので彼等との戦闘では如何にもミュージカルタッチに攻撃する事をプレイングにすると良いと思われます。
 ちなみに終始亡霊達が演じているのは『我が劇場を壊す者』というタイトルを付けた復讐劇の様です。

※ミュージカルっぽさの一例
「ららら~、私は今あなたに会いにヘイトレッド・トランプルする~」
「あぁー、効かないわ全力防御してるものー(棒読み」
「YO!YO! 魔弾だYO!」

 以上、情報になります。
 OP冒頭の話はミリタリアから皆様は聞かされています。

 皆様のご参加をお待ちしております。

  • オペラ座の灰塵完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月17日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ノワ・リェーヴル(p3p001798)
怪盗ラビット・フット
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルミル(p3p002677)
インドア天使さん
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]
ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)
ウミウシメンタル

リプレイ

●幕は既に上がっている!
 カツン、と響くのは “彼等” の足音。
「この依頼、依頼主さんは現支配人さんで幻想の貴族出身だよね……
 芸術を食い物にしてお金を集めて私腹を肥やすことしか考えてないきがするよー……」
 背後の出入口が閉じる。
「理由にはちょっと同情しちゃうわぁ、
 私だって、大好きな酒場が落ちぶれちゃったらきっと亡霊になっちゃうものぉ」
 “彼等” の表情は見えず。静寂と暗黒が覆い隠す。
「自分の大切に培った劇場が人に滅茶苦茶にされる気持ちは如何ほどで御座いましょう」
 しかして、行く手に灯るは蒼白の焔。続き頭上に燃え広がるは紅蓮のシャンデリア。
「僕なら奇術の舞台を見え透いた手品にされるようなもの、
 無念を思いっきり僕達にぶつけてもらって成仏して頂きたいですね」
 明々と照らされて露わとなった『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)がその踵を軽快に打ち鳴らす。
 カツ、カツ、カツ、と。それはリズムを取るモノではなく、一種のノックに近い。
 彼女の後ろから花弁の如く開く『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)、『特異運命座標』ルミル(p3p002677)、『特異運命座標』ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)達が静かに両手を広げた。

────【夢無(むむ)、我が劇場へ訪れた汝らは何者か──?】
 舞台上に落とされた火花が芽の様に伸び上がり、すっくと立ちあがる。焔は静かな声音で、しかし脳髄にまで届かせるような澄み切った雄々しい旋律で語りかける。
 答えは聴いていない。
────【決まっている──! 我等が夢を壊さんとする者──】
────【おお! 奴め、奴か、煌びやかなる世界しか見ようとせぬ怠惰者。愚者め】
────【汝等も所詮は招かれざる者──我が劇場を壊さんとする者──早々に立ち去るが良い、さすれば命は助けてやろう───】
 紅蓮の人は天井の焔から次々と舞台上へ、観客席へ滴り落ち、シルエットのみを変えて大仰しく身振りして声を震わせ、歌い叫ぶ。
 闖入者(イレギュラーズ)よ立ち去れと、轟き叫ぶ。その手は真っ赤に燃えているとも。

 演者──『麗しの黒兎』ノワ・リェーヴル(p3p001798)──は深々と頭を下げてから手を一度打ち鳴らした。
「今宵の演目は我らイレギュラーズがお届けする
 即興劇。題名は『亡き者に捧げる狂想曲』などどうかな?」
 炎の亡霊達は動きを止める。
────【なんと?】
 勿論答えは聴いていない。
「さぁ存分に歌い、踊り共に楽しもうじゃないか!」
 軽快に、しかし力強いタップが鳴らされた瞬間に劇場内を照らしていた焔のシャンデリアが消えて。
 次いで鳴らされた指の音に合わせ、彼等へスポットライトが向けられる。
「俺は征く炎の海へと、待ち受けるは孤高の罪人。高鳴るは鼓動。逃げ出すは小僧。我が劇場を壊す者の、真偽天罰見極め候──」
「カット、きっと、カット♪ 料理人もカット♪ お給金もカット♪ 劇団員もカット♪ 脚本家もカット♪ カット、きっと、勝つと──」
 前髪を掻き上げ、パァンと胸元を開けた『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)が先頭を行き、彼に続いて八人の役者が舞台へ行進する。
 史之と幻の声が荒ぶる雨粒の如く劇場内に木霊する。
 近くの座席から軽快に指を鳴らし、合いの手をアップさせる客に扮した炎の亡霊へ幻のハットから溢れ出た札束がドサドサと投げつけられ。
 観客は、炎の亡霊は、パチパチと音を立てて姿を消す。まるで『金』が客を消したかのように。

────『「 ら──ら──♪ あぁ~♪ る~るる~~♪ 」』────

 追随する三人の歌姫。天使の様に儚く囁く歌声に重なるのは澱みの無い美声達。
 天使──ルミル──が優雅にステップを踏めば幻と神父(ノワ)が交互に踊り交差し合い。
 澄んだ声を高らかに挙げるセイレーン──ニミッツ──の隣で雄々しく胸を張り、その足を大きく踏み鳴らす『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)。
 彼等の進撃を止めようとする者は皆無。
 観客席に佇んでいた亡霊達は皆姿を消していった。
 やがて役者達が舞台へ上がった時。物理的な面積を無視した広大な舞台の世界に入った事で、一同はほんの僅かな空白に歌を止ませた。
────【宜しい】
 静寂の中で炎の亡霊が迎える。

────【我が劇場を壊す者達よ、我等が劇場に連なりし魂を持ち合わせているか──?
   愚問に過ぎるか──なれば応えよう、君は? お前は? 貴方は? ──嗚呼、宜しい。役者は揃った、舞台は見ての通りだ──!】
 彼──『ヴァースディガン・アンデルセン』──は高らかに叫び、両の腕を振り下ろした。
 紅蓮の炎が足元から広がり、十二の人型を作り出す。彼等はそれぞれ手に楽器を、或いは小道具を、照明を持って並び整列した。
 幕は、既に上がっている!

●訪れし破壊者、招かれし未熟な者!
 ズン、ズン、ズン。重低音のある打楽器が鳴らされ、同時に前へ出るエイヴァン扮する海賊。
「ガッッッハッハッハッッ!!!
 こんな寂れた劇場に価値はあるのかぁ~? 俺が使ってやった方がよっぽど有用だろ~?」
 荒ぶるシンバル。激しく鳴り響くドラム。
 彼の豪快な喝に吹き散らされた亡霊が縮み上がった様に小さくなり、逃げようとするも丸太の様な足に蹴飛ばされて舞台から転がり落ちて行く。
【その通りだ、望むなら託そう──だがその荒い歌では通用せぬわ! あの愚か者は我が劇場の輝きを奪った、貴様は破壊する気か──!】
「この劇場は生まれ変わって活気にあふれるんだぜぇ~?
 感謝はされても敵意を向けられる意味がわからんなぁ~?」
 エイヴァンに肉薄する焔が渦巻き、互いに振りかざした盾を打ち合い。背後で鳴るシンバルと共鳴する。
 スポットライトがグラグラと揺れ動く。
 舞台上に開く『奈落』にエイヴァンが落ちかけ、そこへ赤き拳が彼を打つ。
 だがそれは揺るぎ無き盾が受け止めた。
 ひらりと背後を顔無き海賊の手下(ノワ)が踊り抜ける。
「熱い想い秘めるなぶっちゃけろ、軽い言葉でいいさはっちゃけろ。オペラ、ミュージカルにHIP HOP乗せて轟け俺の名、Who's the NAME!?」
   \\\シーノ―!///
【っ!? ええい、小童──その独特な歌はなんなのだ──我が劇場に相応しくなくとも才能は感じるぞ───】
 観客席に鮮やかな赤いカクテルが投げ込まれ、それを見事キャッチした亡霊達が史之のラップに応じる。
 カクテルを飲み干しながら舞台上へ舞い戻った亡霊は喉の奥から火焔を吐いて、称賛の声を吐く。
「ふっ」
 拳を上げれば黄色い声援が何処からともなく聴こえて来る。
【ふざけるなぁ──!】
 不意に舞台上に出現するレンガの壁。雨の様に水玉の照明が頭上で回り回り、辺りに暗いバイオリンの音色が走る。
 角から飛び出す焔の暴漢。史之に向けるは凶刃。
 しかしその切先は彼に届く間もなく、背から生やされた剣によって動きを止めた。
「彼の邪魔はさせはしない~何故なら私は影だから~」
【おお……! 美しきかな、歌い手を見守っているのは理解無き者だけでは無かった──!】
 ライトに淡い桃色の光が混ざり、ででーんという衝撃の旋律が駆け抜けた。
 史之を陰から見ていたファンの少女(ノワ)によって、尊き未来は守られたのだ。
 暴漢は崩れ落ち、灰となって消え荒ぶ。

「私は夢見る歌姫、優雅に歌って戦うわぁ……千鳥足じゃないわよぉ?」
【嗚呼、美しい歌姫よ例え千鳥足だとしてもその声と美貌に偽りはない──グフッ!!?】
「らんらんるー、姉さまに危害を加えるヤツは許さないわー♪」
【ま、まてっ! それはまず……
「るーるるっるるるるーるるー、ばっくさいかー♪」
 目からハイライトの消えた『TS [the Seeker]』タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)がアーリアを囲んでいた亡霊達をいきなり殴り飛ばし、猛烈な勢いで掌底を突き入れる。
 亡霊が焦って曲が止まった瞬間、静寂を許しはしないとばかりに町娘の装いに扮するタツミの手から紅蓮の花が衝撃波と共に咲き乱れた。
【おのれ脳筋の類か──なれば数で押し倒すまで、哀れな小娘は愛しき歌姫の為に犠牲となるのだ──】
 ヌラリ。焔が飛び火する様に姿を分かつ。
 現れるのは三人の暴漢。鳴り響くのは意外にも軽快なチェロの旋律。
「る~るる~、私は怪物、逃げ惑いなさい~♪」
「あっちへ行ってちょうだい~、野蛮な方は嫌いなの~♪」
「ららら~あなたに聖なる癒しを~♪」
 暴漢はタツミに覆い被さりその身を焦がそうと炎の勢いを増して。苦悶の声が上がり史之達前衛がそちらへ振り向く。
 だがお忘れだろうか歌姫は独りではないのだ。
 海原を走る波の如く。青き歌の衝撃は容易く炎の暴漢を一人舞台上から退場させてしまう。
 歌声が幾つも重なり合い、天使の如き少女は癒しの旋律を紡ぐ。続いて飛び交うは無数の槍。
【おおぉぉ……! なんと力強い! 我が劇場に欲しい!】
 返すように火の玉をニミッツへ投げる。
 爆風に煽られた彼女はしかし、すらりと現れた若い青年ノワに抱き止められる。
【だがしかして問題なのはやはり采配振るう者──】
 震える肩を抱くは年老いた男の背中。
 史之のラップに合わせタップが鳴り響く。亡霊はタップしている分身に平手打ちを食らわせ指を鳴らした。
「厚生年金はナイ♪ 福利厚生もナイ♪ ないものねだりハイヒール♪」
 クルリ、クルリ。幻がハットから突如伸ばしたステッキを振るえば神秘の輝きがタツミの背中に寄り添う。
 温かな光景とは裏腹に、亡霊はその声に激昂する。
【そうだ! 奴は、共に戦う者への経緯が足りない──役者には飯も化粧道具も癒しも、金も! 必要なのだ──!】
「舞台はみんなで作るもの。独りよがりじゃ去る者ばかり。眠れ眠れ安らかに。悲劇終われば来る者ばかり」
【然り! 然りィィ!!】
 花弁の形を取った炎が灰を散らして足元から広がる。
 舞台上が凄まじい揺れに襲われる。
「どれもこれも支配人が無能なのがいけないんだよなぁ~?
 変わらなきゃいけないのは一体なんなんだろうなぁ~?」
【それは────】
 荒ぶるスポットライトが、老いた男の背中と、荒々しい海賊と史之を頭上から照らし指し示す。
 強く叩かれた盾の音色が夢から覚める様に鳴り響いた。
 冷やりと訪れた沈黙。それは決してセリフを忘れたのではなく、彼自身分かっていた事だった。
 台本はなく。脚本とも異なる展開。

「貴方はもう……既に終えられたのです」
 一対の翼を広げ、歩み寄る天使に白い照明が当てられる。
【……いいや】
【終わってなど、いないさ───!】
 刹那。劇場のあちこちから拍手喝采が鳴り響き、同時にエイヴァンの近くに開いていた奈落から勢いよく飛び上がって来た亡霊……炎の若き男が高らかに叫んだ。
 渦巻く熱の凄まじさは老いた男の比ではない。
 轟く音楽は激しさと、多少の荒さこそあれど胸を打つような曲へと切り替わった。
 終わっていない。そう言い退けた男へルミルが歩み寄る。
「なぜ貴方は帰らぬのですか~♪ 私がその未練を晴らしましょう~♪」
【おお~♪ 美しき天使よ、私は帰らぬのではないのだ~♪】
 渦巻く炎から伸びる腕。それをルミルの前に割り込んだエイヴァンと史之が弾く。
「貴方の心残り~世に出せなかった脚本を知りたい~♪」
 若き日の旧支配人。ヴァ-スディガンは歌う。
 怨念は在る。怒りも有る。だがしかし、嘆きこそすれそこに『絶望』しているわけではない。
「落ちぶれた、劇場~現支配人への恨み~あなたの心の内を見せて~♪」
【お見せしよう~……これこそが『我等』の望んだ新たな舞台であるとッ!!】
 全ては招かれたのだ。
 だがしかしこのままでは潰えてしまう、若き芽が。未来が。
 そうなる前に、託さねばならない。
 舞台上にだけ輝く世界の一端を。

●誰もが目を見張る逆転劇を。
 揺れ動く炎に炙られる様な最中、舞台上では幾度となく歌が交わされる。
「さあ歌うんだ~僕は影、だけどこの手はいつも貴女の背中を支えている~」
「私の歌を聴いて、虜になるのよぉ~♪」
 歌姫を守り傷付きながらも、マネージャーたる青年ノワは離れない。
 青年の支えを得て。アーリアは両手を広げ全身全霊の歌を紡ぎ出した。
 奏で響く美声が織りなすのは甘い菫色の囁き、炎の身体に染み込んでいくその声は支配人達を狂わせ、次々と舞台上から落ちて行く。
【そうなのだ──あの男は上流階級の嗜みでしか世界を知らぬ───必要なのは情熱なのさ──!】
「るるっるるるーるー♪ 私のお姉さまへの情熱は何者にも負けはしないー♪」
【そうなのだ──あの男は競争を知らぬ───出し抜く事しか出来ぬ彼に必要なのは敗北さ──!】
「その意思を理力へ変え、その守備を威力に変え、いきなり吹き飛ぶ焔の四肢さ。Let's ラッシュ! ブロッキングバッシュ!」
【そうなのだ、つまりは添うなのだ、っって何を言わせるのだ貴様、えぇい!!】
 アーリアを庇ったタツミが一気に肉薄して暗い色をしたオーラソードを一閃させる。
 その直撃を受けた支配人は灰となる、が。巻き上がる煙の向こうから飛び込んで来た新たな支配人が挑みかかり、史之が赤き障壁で弾いて軽快なヒップホップと共に連打の打ち合いをする。
 既にスポットライトを操作する亡霊も、音楽を奏でていた者も消え失せ、徐々に静寂が舞台上に広がろうとしていた。
「きつい攻撃しみる圧巻、痛い反撃くらう悪漢。火傷のごとき傷を背負い、なおも引かないそれがセオリー!」
【ヒリつく仮初の体、凍てつく私の魂! 終われるか追われる私の焦燥! ……ってちがぁう!!】
 クロスカウンターで吹っ飛びまさかの奈落へ転落する二人。
 這い上がって来た支配人は不意に目の前に飛来した巨大なピアノに押し潰されて爆散した。

【はぁっ……はぁっ……っ? 照明はどうした。何故私にスポットを……】
 ポトリ、と天井から落ちて来た支配人は辺りが静か過ぎる事に今更ながら気付いた。
「今のままで満足なのかぁ~?
 本当は変えたいと思ってるんだろぉ~?」
【く……! 当たり前だとも──変える為に私は戻って来た──! そこを退くがいい、いまこそ見せねばならないのだ───我が劇場の主に相応しい『魂の在り方』をぉ!】
「どうすればいいのか~それを有象無象の私達に教えてはくれないのですか~」
 エイヴァンの踏み込みを見た支配人が飛び躱した瞬間。
 ルミルの背の翼から静かに現れたのは本物の“影”。囁くその声は、存在感が最初からずっと希薄だったその姿は、偽りにして真の意味で演者に相応しい者。
 ついて離れず。しかし時としてその在り方は光に晒される本体よりも『味』を出し、臨場感をもたらす。
【────!?】
 息を飲み。呑まれたと彼は気付いた。
 影……ノワに気を取られた彼は背後から音も無くワルツを刻み支配人の前へ文字通り躍り出た、幻の星空の様なハットを向けられた。
「お客様、僕の奇術はご堪能頂けたでしょうか?」
 刹那に感じる炎の体から伝わる崩壊の兆し。
 支配人の形に為っていた亡霊は背後から胸を貫いた蒼き剣に気付かず、幻が一瞬の間に見せた……暗い劇場の外に広がる星空を目に焼き付けて。 
【……見せて貰えるだろうか】
「何をですか」
 答えは、聴いていなかった。

【彼の、あの……愚かな男の、目を見張る様な逆転劇を……】

 最後までその声は聞こえなかった。
 たった一言すら聞けず、舞台上には八人の役者達が立ち並び、中央に残った灰塵を見下ろす。
 だが、舞台が終わったなら最後にやるべきことはある。
 誰が先だったか。彼等は一様に深々と頭を下げた。
 ────拍手の鳴らぬ劇場は、彼等の想像以上に冷たく感じた。

●新たな舞台
「あー、慣れねぇことをすると疲れるなぁ……ま、でも結構楽しめたぜ!」
 舞台上で鎮魂歌を歌っているニミッツを見やりながら、タツミは背筋を伸ばして痛む身体をさする。
 客席には他のメンツも座っていた。

 依頼は完了した。
 それを告げた時、意外にも依頼主である現支配人『ファントム・T・オペラ』男爵は仮面の下から小さな涙を流したのだ。
 彼は決して悪意があって劇場をここまで地に落とした訳では無かった。
 劇場にはそれだけの価値があると誰よりも盲信していたからこそ、彼はあらゆる料金を高くした。多くの客に素晴らしさを広めたくて、とにかく早く全てを提供しようとした。
 歌姫や俳優達に計り知れないほどの評価をつけていたからこそ、彼等に休みをとにかく与えて客足の少ない平日の早朝は知り合いに歌わせた。
 全ては空回りに終わり。そして取り返しがつかない所まで行ってしまった。
 現支配人はイレギュラーズの話を全て聴いて、亡霊が旧支配人本人だったと知り涙した。
 合わす顔が無いと。

「……これからどうなるかわからないけど」
 史之が微かに呟く。
 彼も、仲間も、最後に現支配人の彼に「どうすればいいのか」と問われた。
 そして今度は答えた。教えた。
 かの支配人がまだ未熟な『観客』の一人だった彼に継いで欲しかった事は、短い間に演じた一幕の出来事に詰め込まれていると信じて。
 彼の新たな舞台はこれからなのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 後に、海洋のとある破天荒な脚本が売りの新星劇場が爆誕する。
 凄まじいシナリオ故に人気とは裏腹に役者が辞めていく中、ローレットへ再び助けを求めに来るのは……まだまだ先の話。

 お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様、依頼は成功となります。

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