シナリオ詳細
<大乱のヴィルベルヴィント>血潮で踊るリーリウム
オープニング
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「素敵。血と硝煙の匂いがいっぱいに広がって……ふふ、新皇帝さまには感謝しなくっちゃ。でなければ、きっとバチが当たってしまうわ。それとギュルヴィさまにも!」
曇天の空が見下ろすここは、鉄道都市ケヴィド・ウェスタンの市街地。大小様々な建物が立ち並ぶなか、純白の衣服に身を包んだ胡乱な目をした男女が、各々の武装を手にしていた。
「ハレルヤ! あぁ、違うわね。新皇帝さま、ばんざぁい! くすくす!」
その最中、まるで舞踏会に向かう少女のように、あるいは太陽に向かう花のように微笑む女が一人。彼女はその周囲に、流れ星のように光の尾を引く亡霊のような怪物を従えている。
女の名前はリリウム・”レッド”・ガーデンベル。美しい金髪を揺らす姿は年相応の少女のように見えるが、これまでに14人の男女を殺害した猟奇殺人犯である。
「きっとこれから素敵なパーティーが始まるわ! そのためには、きちんと支度をしていかなくちゃね」
言って、彼女はすぐ側にいた部下らしき男女の首を刹那のうちに掻き切る。
鮮血が飛び散る。リリウムはそれを指先で唇に塗る。
「あぁ、やっぱりひとの血がいちばん」
女が微笑む。それはひどく美しく、そしてひどくいびつな笑みだった。
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『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗れ、新皇帝バルナバスが誕生して暫く――混迷する鉄帝では六つの派閥が天を競っていた。
帝政派、ザーバ派、ラド・バウ独立区、革命派、北辰連合、独立島アーカーシュ。
それぞれに異なる事情と目標を持つ勢力は、まずは地盤固めをせんと様々な行動をしていたが『冬』に向けて事態は大きく動き出す。
鉄帝各地の補給網を担う『鉄道網』、『凍らぬ港』である不凍港ベデクトの奪還作戦だ。
帝政派、ザーバ派、ラド・バウ独立区、革命派は鉄道網に。
北辰連合、独立島アーカーシュは不凍港に向けて動き出した。
しかし、新皇帝派の中でも積極的な『アラクラン』や『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』が勢力の動きを妨害せんと各地で迎撃の構えを見せていた。
ローレットのイレギュラーズ達に勢力の参戦要請も舞い込み、混迷する状況ははたして如何様に流れていく事か。
後に『大乱のヴィルベルヴィント』と呼ばれる――六派軍事行動が始まろうとしていた。
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「最近にょ鉄帝はせわしにゃいもにょだ。でもワガハイはドラゴンステーキ食べちゃう」
腹が減っては戦はできにゃいから。などと宣いながら口いっぱいに頬張った肉厚ドラゴンステーキを飲み込んだ『スーパーセル』クロウワッハ・クルルクック(p3n000226)は、集まった君たちの姿を見て急いで咀嚼した。
「ンンッ!? ングッ……コホン。よく来てくれたにゃ諸君。ご機嫌うるわしゅう。……まさかこんにゃに早くくるとは……」
コップの水を勢いよく飲み干したクロウワッハは、君たちに視線を向け続ける。
「本依頼はケヴィド・ウェスタン作戦に含まれる。『トリグラフ作戦』と言ったほうがいいかにゃ? 諸君らはこれより市街地に向かい、そこで防衛線を築いている『アラクラン』にょ連中を一掃してもらう。
敵にょ数はおよそ20人。魔種が半分、囚人が半分って具合かにゃ。中でも注意してほしいのはリリウム・”レッド”・ガーデンベルという女でにゃ、新皇帝派の勅令によって解放された猟奇殺人犯で高い戦闘能力と機動力を持っている。……魔種である可能性も充分考慮してほしい」
君たちの手元に周辺地図や敵部隊の情報資料が渡されていく。
そこには、あどけない微笑みを浮かべる白い服の少女の写真もあった。彼女がリリウムだろう。
「味方勢力はザーバ派にょ軍人。だいたい10人ぐらいだにゃ。多くの戦場を経て鍛え抜かれた歴戦にょ男達にゃ。昔にょワガハイそっくり~」
戯言である。
「こにょ作戦は彼らが『列車砲』を手に入れるためにょ一助とにゃる。ちなみに一般人は全員地下道に避難済みだ。思う存分暴れて構わにゃい。イレギュラーズ諸君、それでは健闘を祈るよ」
――そうして、舞踏会の幕が開く。
- <大乱のヴィルベルヴィント>血潮で踊るリーリウム完了
- GM名清水崚玄
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年12月08日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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鉄道都市ケヴィド・ウェスタンの空は分厚い雲で覆われていた。鉄と硝煙、そして血の匂いが漂い、ダブリン広場は異様な空気に満ちている。
「魔種と囚人の混成集団で、魔種の可能性もある猟奇殺人犯、と。まぁ、つまり、全員ぶっ飛ばせばいいわけですね、いつも通りです」
「恩赦と言えば聞こえは良いですが、やっている事は魔獣の群れを街に放っているのと同じ……これ以上、被害が広がる前に食い止めましょう」
現場に到着した『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)と『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は、すっかり人気のなくなった街を見て呟く。
「いや~、普段であればもうすこし賑やかなんですがね。『アラクラン』のお陰でこの有様ですよ。困ったもんです」
二人の言葉に、同行している軍人達の一人がそう答える。
昼間であるというのに気候も相まってどこか薄暗く、しんと静まり返った有様はさしずめゴーストタウンのようでもあった。
(「今後を考えると、鉄道を管理するこの都市を落とされるのは痛いですね」)
『不可視の』イスナーン(p3p008498)は、物陰や薄闇を滑るように移動しながらそう思う。物資運搬の速度は、そのまま戦後の復興速度に直結する。このまま新皇帝派に占拠されたままでは、難航するのはほぼ確実だろう。
「血は嫌いではないですが血まみれを美しいとは思いませんわね。変な方だこと」
『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)がぽつりと零す。血は酸化すれば色味は褪せていく。故に美しいとは、とても思えなかった。
「こういうかたは、殺人を、美をかざる方法としか、おもわないのでしょう。でも、やりたいことが、わかっていれば、それを、逆手にとることも、できますの」
空中をふよふよと漂う『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が言葉に応じる。周囲を警戒しつつ、有事の際は皆の盾となれるように気を配っている。
やがてイレギュラーズ達が各々歩みを進めていけば、視線の先には白い服をまとった囚人達と浮遊する霊魂、そして返り血に濡れたドレスを着た少女――リリウムが見えてくる。
どこか強張った顔の囚人達とは対照的に、彼女は瞳を閉じて誰かと踊っていた。それが既に事切れた囚人のひとりであることは、すぐに気づけるだろう。
「血で化粧とは悪趣味な相手ですね。部下に白い服を着せて血を映えさせようとしているところもさらに」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は眉をひそめる。
「……まずは目の前の敵への対処。これ以上誰かの命を奪わせたりしない。列車砲も渡さない。オニキス・ハート、出撃するよ」
強い意志を持ってリリウムを見つめるのは『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)だ。同時に変身シークエンスが起動し、マジカル圧縮空間から戦闘衣装が転送される。
「あら、あら、あら! ふふ、ごきげんよう!」
その音で気付いたのか、或いは初めから気付いていたのか、リリウムはイレギュラーズ達へと向き直る。そのまま囚人の骸を投げ捨て、ドレスの端を摘んで恭しくお辞儀をした。
「でもごめんなさい。ここは通行止めなんです。誰も通すなと仰せつかっているので……申し訳ないんですけれど、お帰りいただけますか?」
あどけなく問いかける表情は年相応の少女そのものだ。ただひとつ、その顔が返り血が塗れていることを除きさえすれば。
「殺める快楽の裏に死霊あり。リリウム、御身は殺しすぎた。死霊たちの怨嗟の声が今も聞こえるようだ。多すぎる死は、生死の均衡から見て好ましくない故――御身は死をもってあがなうがよい」
『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)の静かで落ち着いた声音が告げる。いつの間にか、その周囲には闇色の蝶が舞っていた。
「――」
わずかな沈黙。逡巡。そして、納得がいったかのようにリリウムは微笑む。
「そう! そうなのね! わかったわ! あなた達、わたしと踊ってくれるのね?」
細い弧を描いた瞳のなかに、名状しがたい色彩が揺らめく。
「ずっと待っていたの。あなた達が『イレギュラーズ』なんでしょう? 私と踊ってくれる素敵な人たち! 運命を覆す力を持った人たち!」
リリウムがくるくると回る度に、その足に装着された鉄製のブーツが冷たい音を立てる。まるで死神の鎌のような凶悪なブレードのついたそれは、真っ赤に染め上げられていた。
「それじゃあはじめましょう。決して終わらないパーティーを!」
ぱちん。
乾いた指の音が鳴り、鮮血の舞踏会の幕が上がった。
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閃光が爆ぜる。
それがラタヴィカの一体によるものだと気付くのにさして時間は掛からない。一瞬のうちに接敵した浮遊する霊魂が放った攻撃は、受けた者たちの怒りを煽る。
「フッ……!!」
まばゆい光が収まったと同時に駆け出したのはイスナーンだった。かつて暗殺者としても活動していた彼にとって、空隙を縫うことなど容易いこと。
「どうも。亡霊に言っても仕方のないことかもしれませんが、傭兵のイスナーンと申します。短い間ですが、きっちりと地獄へ送って差し上げますよ」
その言葉が言い終わるか終わらないうちに、ラタヴィカに叩き込まれるのは百の残影。痛撃が魂を抉り、その姿が緩やかに薄くなっていく。
イスナーンを取り囲むラタヴィカ。この瞬間、ラタヴィカの標的は彼のみであった。
「戦場で余所見とは、関心しませんね」
故に、死角より殺到する業火の花吹雪への対応に遅れるのだ。
「早急に葬ります。このように飛び回られては邪魔ですから」
言って、シフォリィの指先から再び火炎が吹き荒れる。味方の攻撃に続くように何度も殺到する灼熱の嵐は、ラタヴィカの一体を消し飛ばすには充分であった。灼熱が空気さえも焦がし、イレギュラーズ達の姿が揺らめく。
己等の危機を察知したのか、残りのラタヴィカ達は一斉に動き出す。しかしその攻撃は当たらない。皮膚の色を景色と同化させたイスナーンの姿を、憤怒に焦がれた亡霊が掴めるはずもなく。
「厄介だね……。いらいらするよ。君たちみたいのに戦場を荒らされるのは……!」
オニキスの装備する対戦車砲の如き武装の照準がラタヴィカを捉える。皮肉にも、ラタヴィカが煽った怒りは彼女にとっては好都合なものであった。
『八十八式マジカルジェネレータ』。感情エネルギーから魔力を生成する機動魔法少女の内燃機関であるそれが、文字通り怒りを力に変えているのだ。
「うまく避けてよねイスナーン君――落ちろ亡霊!!」
迫撃砲がラタヴィカ達を捉え、同時に展開される重力術式が動きを鈍らせていく。
一方で、友軍として駆けつけた軍人達と共に戦場を駆る者がいた。
「二人一組で互いの背後をカバーしながら戦って下さい! 敵の数は多いですが、落ち着いて対処すれば脅威ではありません。罠が発動した際は自分がカバーに回りますので、ご安心を!」
ルーキス・ファウン。彼は大柄な陸鮫の背に乗り、軍人達の指揮を取っていた。
「さすがイレギュラーズ殿。頼りになりますねぇ、っとォ!」
「ああ! 何だかいつもより調子がいい気がするぜ!! かかってこいひよっ子ども!」
「ははは、縁起わり〜。まぁでも、こんだけ離せれば充分じゃないですかい?」
数多の戦場を潜り抜けた精鋭達である彼らの動きは、ルーキスの統率によってより効率化され、洗練されたものになっていく。
「えぇ、おそらくは。リリウムとの距離もかなり広げることができました。このまま押し切りましょう!!」
「「「うぉおおおおお!!」」」
囚人と軍人。実力の差は大きい。加えて彼らはリリウムに恐怖し、怯えていた。故に脆く、そして柔い。囚人たちは一人、また一人と倒れていく。
――そう、リリウム。リリウム・”レッド”・ガーデンベル。血潮で飾る殺人鬼の相手をするのはノリア、ステラ、そしてフロラの三人だ。
「くすくす! 素敵なものを持っているのね!」
叩きつけられる脚撃はまさしく驟雨。それが向かう先はノリアだった。
彼女の持つ守護宝石に惹きつけられたのか、或いはその肉体に惹きつけられたのか、リリウムの刃がその肉へと迫る。
「わたしの、自慢の、つるんとしたゼラチン質のしっぽ。勝てば、あなたに、さしあげますの」
しかし、それは大海の抱擁によってリリウムをも傷つける水の棘となる。ノリアの尻尾を抉った刃が、そのままリリウムの肌を裂く。
「しっぽ? いいえ、いいえ違うわ! わたしが欲しいのは、それじゃないの!」
返り血で微笑むリリウム。ひどく艶かしい顔が、イレギュラーズ達を見る。
「っ……やっぱり、血じゃないと、だめですのね……」
つうとノリアの肌を鮮血が流れ落ち、その雫が地面に落ちる刹那。
「でしたら、こんなのは如何ですかッ!!」
ノリアの真逆の方向から赤光と青光で形成された刃が振り下ろされた。
ガイィィン!! と凄まじい衝撃音が響く。
追撃を避けるようにリリウムが距離を置き、ノリアを援護するように輝く剣を持ったステラが側に寄り添う。
「ノリアさん、大丈夫ですか! 付近には罠がいくつかありますゆえ、お気をつけて!」
「ステラさん、ありがとうございます、ですの。あ、血が……」
流れ落ちる血の量はどことなく多い。ノリアの服と体を鮮血が染めていく。
「透き通った綺麗なしっぽ。でもそこに血は通ってないでしょう? やっぱり、踊るんだったらとびきり赤くしないと!」
微笑むリリウムの声を覆うように、とびきり大きな声が轟く。
「ごきげんよう~~~!! わたくしフロラ・イーリス・ハスクヴァーナと申しますの~~!! リリウム様、わたくしと勝負ですわ!!!!」
既に機能を停止した噴水の上に仁王立ちするフロラ。彼女はそのまま噴水を勢いよく蹴り上げたかと思えば、姿勢を低く保ち大鎌を振りかぶった!
リリウムは咄嗟に足のブレードで受け止めようとするも、彼女は何かに躓き不意に態勢を崩し、わずかに反応が遅れた。
フロラの鎌がリリウムを捉え、鮮血が舞う。
「グッ!! ッ、ふ、あはは、えぇ、えぇ! 勿論! なら、あなたを『パートナー』にしようかしら!」
魂を喰らう魔性の大顎と、鮮血を纏う吸血の刃が交差する。凄まじい衝撃波が彼女たちを中心として迸る。
「まぁ! わたくしは構いませんけれど、せっかく人が沢山いるのですから他の方とも踊るのもよいですわ~~~!!」
刃の衝撃が服を裂き、肌を裂く。しかしフロラの四肢に血は流れない。鋼鉄の肉体の傷がどれほど増えても、リリウムの渇きを満たすことはない。
――そして、聞こえてくるのは車輪と蹄の音。
(「霊たちの助力は得られた。さて、うまくいってくれるとよいのだが」)
リースヒースの駈る霊柩車の如き漆黒の馬車。『嵐の前』と名付けられたそれが、戦場を大地を慣らし、仕掛けられた罠を無理やり破壊しながらノリア達へと近づいていく。
「御身ら、大事はないか? 今手当を行う」
リースヒースの唇から紡がれた歌に導かれるように黒蝶が舞い、影が踊る。そうすれば、瞬くうちにイレギュラーズ達の傷が癒えていくだろう。
「素敵素敵!! これならきっと、いつまでだって踊れるわ!!」
朗らかな笑みと昂ぶった声がリリウムから発せられる。彼女の体は己の鮮血で赤く染め上げられ、より美しさを増しているようだった。
「……どうやら、早めに合流したほうがよさそうですね」
その様子を横目で捉えたシフォリィが呟いた。
●
戦いは進む。舞台は巡る。
鮮血の舞踏会はゆっくりと、しかし着実に終幕へと向かっていた。
重力術式によって動きを鈍らされたラタヴィカはシフォリィ、イスナーン、オニキス、そして途中より参戦したルーキスによって討伐された。
倒された囚人たちもザーバ派の軍人たちによってリリウムからの距離は大きく離され、彼女が血を利用することはできないだろう。
鋭い感覚や、広域への知覚能力を持つものは、既に戦場の罠の多くが破壊されている事がわかる。それは紛れもなく、リースヒースによる『地ならし』の成果だ。
そしてリリウム。彼女の消耗も明らかになってきている。ラタヴィカの対処にあたっていたもの達が合流し、それはより顕著となっただろう。
まとった血化粧は焼け焦げ、或いは流され、或いは汚れ、纏った白いドレスは赤黒く変色している。霊魂達の干渉によりテンポが乱れていたこともあっただろう。
「さあ、どこまで踊れますか? 本当の化粧も知らない踊り子のお嬢様」
桜花のごとき火炎を食らったリリウムにシフォリィは問いかける。
「あはは……どこまでだって踊れるわ……!! そのために私はここにいるんだもの!! この足があれば、千の夜を越えても踊り続けられる!!」
瞬間、リリウムの魔力が爆発する。それはこれまでのものよりも遥かに高い密度と濃度。イレギュラーズ達は理解できる。これは紛れもなく、魔種としての力だ。
その場にいる誰もが思わず目を閉じる。次に目を開いた時、世界の景色は一変していた。
空は真紅に染まり、歪な月が浮かんでいる。大地には無数の白ゆりが咲き誇っていた。
「もっと、もっとよ!! 踊って踊って踊って、そうして誰もに愛してもらうの!!」
天を衝くほどの怒号にも似た叫び声を上げれば、徐々に鮮血が集約していく。
「まずいね。力が吸われてる。一気に決めたほうがいいよ。……なにか来る」
最初に気付いたのはオニキスだった。武装に表示されているエネルギー残量が、瞬く間に減少しているのだ。
「霊たちの声も聞こえない。完全に遮断されたと考えて善いだろう。或いは、貪られたか」
次にリースヒース。先程までは疎通できていたリリウムの被害者達は一様に沈黙していた。
「そうですね。これ以上時間を掛けるわけにはいきません。――いきましょう!」
ルーキスの言葉にその場のイレギュラーズ達が頷く。
残された時間は少ない。紅い夜が余力のすべてを奪い去るその前に、この晩餐を、この舞踏会を終わらせるのだ。
「人の血の色など、綺麗なのは最初だけ。直ぐに酸化して変わる色がそんなに好きならば、貴方の血で染めれば良い物を……!!」
隠密行動に長けたイスナーンにとって、闇夜の空間はむしろ好都合だった。目にも留まらぬ拳撃のラッシュがリリウムへと撃ち込まれ、それにシフォリィが追随する。
「こんなところで、倒れてなんかいられません」
助けるべき相手に手を差し伸べるために。倒すべき相手を倒すために。
銀花の結界がリリウムを囲い、その中へと桜花の轟炎が撃ち込まれる。絶叫と憤怒の眼差しがシフォリィを捉え、その隙に。
「あら、貴女もギリギリで本気出すタイプですのね。奇遇ですわ。わたくしもですの」
フロラの携えた鎌が閃く。雷光を纏ったその一撃が、リリウムの体を切り裂いて。
「か、ふっ――まだ、まだ……踊りたいの、踊っていたいの、だからぁッ!!」
もはや妄念とも言える情動のまま、リリウムは崩れそうになった体を支え、そのままイレギュラーズ達への反撃へと打って出ようとした。しかし、それが届くことはない。
「ずっと踊っていたら、きっと、いつかは疲れてしまいますの」
ノリア・ソーリア。彼女のゼラチン質の尻尾と、血の通った肉体が受け止めたからだ。
「ッ――!!!」
「そのまま止めていてくださいノリアさん! いつもどおり、叩き潰します!!」
拳へと形を変えた二色の光が数多の軌道を描く。数刻前と同じように、ノリアの反対側から現れたステラの攻撃が届いたのだ。
「そんなに血が欲しいならくれてやる。但し、そちらの『命』と引き換えだ!」
ぐらりと揺らいだリリウムに追い打ちを掛けるべく、ルーキスの二刀が振るわれる。
「『鬼百合』ッッ!!!」
見事、鬼の力を宿した一撃は、血濡れた白ゆりの心臓へと辿り着いたのだった。
●
紅い夜が明けていく。白ゆりは散り、ここに舞踏会の幕は降りた。
「……あぁ、蹄の音が聞こえるわ。馬車が、来たのね。……わたしは、乗せてもらえるかしら……」
うわ言のようにつぶやくリリウムの体は、もう半分が百合の花びらとなって消えかけている。膨大過ぎる力に、その体が耐えられなかったのだ。
「宮殿からの馬車でなくて失敬、これは御身の葬送の馬車。墓は作る故、安心して死ぬがよかろう」
「……そう。そう……。なら、ねぇ……靴が欲しいわ……綺麗な赤い靴……私ね、赤が一番好きな色なの……だか、ら……」
血と硝煙の混ざった風が吹いていく。
血潮で踊ったリーリウムは、そのまま空へと散り去った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
冒険お疲れ様でした! リリウム・”レッド”・ガーデンベルと囚人とラタヴィカ、無事討伐です!
この度はご参加ありがとうございました! また機会があればよろしくおねがいします。
GMコメント
●成功条件
①『リリウム・”レッド”・ガーデンベル』の討伐
②エネミーの全滅
●舞台
ダブリン広場
大小様々な建築物が立ち並ぶ、鉄道都市ゲヴィド・ウェスタンの市街地の一部。
かつては憩いの場だったのであろう、噴水や花壇の設置された広場です。
リリウム達はここで防衛線を築いており、地中に様々な罠が仕掛けられています。
ファンブルをすると『罠に嵌った』という処理になり、ダメージやBSを受けます。
●敵の情報
①『リリウム・”レッド”・ガーデンベル』×1
新皇帝の勅令によって解放された猟奇殺人犯。刃のついたブーツ状の武装を装備しています。
14人を殺害したと言われていますが、あくまで『死体が上がった数が14人』なので、もしかしたらそれ以上殺しているかもしれませんね。
非常に高い反応と攻撃力を持っているスピードアタッカーです。なにやらあやしい雰囲気……。
攻撃手段(一例):
・踊りましょう!:戦場を凄まじい速度で舞い、周囲一体を徹底的に切り刻みます。
・まだ足りないわ!:『パートナー』に定めた相手を執拗に切り裂きます。
・もっと激しく!:ランダムな対象に高速接近し、激しい斬撃を繰り出します。
・血化粧:死亡した味方や負傷したPCの血で自分に化粧を施し、ステータスを上昇させます。
・紅き晩餐の百合:体力が50%以下になると……?
②『解放された囚人』×14
リリウムの部下として配属された囚人達。意図的に白い服を着させられています。
刃こぼれしたナイフや毒を塗り込んだ斧などでBS付与を行う近接アタッカーです。こちらも高反応・高攻撃力ですがリリウムほどではありません。
既に何人か殺されているので数が減ってます。
③『ラタヴィカ』×4
流れ星のように光の尾を引く、亡霊のような怪物です。
俊敏性や機動力に優れており、戦場を縦横無尽に飛行します。高威力の物超貫移で体当たりをする他、怒りを誘発する神秘範囲攻撃を行います。
●友軍
ザーバ派の軍人×10
南部戦線で幻想国などと数々の戦いを経験してきた、ザーバ派の軍人達です。
囚人達よりも圧倒的に戦場慣れをしているため、彼らに対して高いアドバンテージを取れるでしょう。彼らの動きは、PCの皆さんが相談して決めて頂いて構いません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●魔種
純種が反転、変化した存在です。
終焉(ラスト・ラスト)という勢力を構成するのは混沌における徒花でもあります。
大いなる狂気を抱いており、関わる相手にその狂気を伝播させる事が出来ます。強力な魔種程、その能力が強く、魔種から及ぼされるその影響は『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』と定義されており、堕落への誘惑として忌避されています。
通常の純種を大きく凌駕する能力を持っており、通常の純種が『呼び声』なる切っ掛けを肯定した時、変化するものとされています。
またイレギュラーズと似た能力を持ち、自身の行動によって『滅びのアーク』に可能性を蓄積してしまうのです。(『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と逆の効果を発生させる神器です)
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