PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ルバレ・プーペ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「今まで、ありがとうございました――!」
 ワアっと歓声があがり、客席は拍手の嵐に呑まれた。
 方々からあがる声は、感謝だったり称賛だったり様々だ。小さな劇場の、小さな劇団ではあったが、それなりにファンはついていた。
 マリオネットというものがある。
 人形の四肢に糸を括り付け、自在に操る事でまるで人形が生きているかのように見せる事が出来るもので、これを用いる事で物語を紡いでいく。
 人形劇を主な活動としていた幻想北部の小さな劇団は、今日の公演を最後に幕を閉じた。
 理由は未だ秘匿とされているが、どうにも企み事があるらしい事は今日の公演の舞台挨拶で仄めかされていた。
 曰く、別の街で復活するのだとか。曰く、規模を大きくして再復興するのだとか。
 ともあれ、まだまだ活動自体は続くであろう事は予想出来た。
 しかし、長年愛用してきたマリオネットはここでお別れとなる。もう随分と使い古された人形は、調整の余地も少なく、動きにも影響が出始めていた。
「今までありがとうなあ」
 団員達は口々に人形達へ声をかける。
「愛着があっても、もう……ダメですよね……」
 できるなら、手放したくはない。
 できるなら、この先も共に演じたい。
 それを許さないのは、人形の劣化だ。より良い劇で魅せる為には、不安要素は少なく抑えた方が良いに決まっている。
「ありがとうなあ……」
 涙で視界を滲ませながら、団長は一体一体の頭を優しく撫でてケースに収めた。もう二度と、劇の為にケースが開かれる事はないだろう。
 劇場の舞台袖に人形達を並べておけば、団員達は各々の準備を終えてステージを去って行く。
 幕が降ろされ、ライトが消され、一人また一人と人の気配がなくなっていく。
 最後に団長が出口の扉を潜れば、長く頭を下げて舞台を去った。

 ――本当に?

 ――本当に、ココで終わりなの?


 賑わうローレットの扉をくぐり、『勿忘草』雨(p3n000030)は目が合ったイレギュラーズへにこりと微笑みかけた。
「ひとつ、受けてほしい依頼があるんだけど」
 情報屋たる彼がここに来るという事は、すなわち仕事を持ってきたという事だ。
 雨がポケットから取り出した端末には、一枚のポスターが映し出されていた。毎週、決まった時間に劇をしている小さな劇団のポスターだ。
 正確には、劇をしていた、になるのだが。
「どうやら規模を大きくするみたいでさ。一旦シアターを閉じて準備をしてるらしいんだけど」
 団員を増やし、劇に使う小物も増やし、劣化して使えなくなってきた物は取り換える。
 今はその期間であり、もうすぐ劇場を取り壊して建て替える――はずだった。
「人形が勝手に動いてるみたい」
 団員の手を離れた人形がどうして動き出しているのかは定かではないのだが、操り人形達は毎週劇が行われていた時間になるとケースから勝手に出てきて劇を始める。
 それだけならまだ怪奇現象とでも呼べるのだが、どうにも問題を抱えていた。
 人形が勝手に動いているのを発見した団員の一人が、誰かが操っているのだろうかとステージに近付いたところ、人形が剣を向けて襲い掛かってきたのだという。
 彼らの持っている小道具は所詮作り物の筈なのだが、頬を掠った剣は確かに団員に傷を作った。
 走った痛みに恐怖した団員はすぐさま劇場から逃げ去り、大事には至らずに済んでいた。シアターから出てくる事はないようだ。
「彼らはシアターを、物語の中で守ってきた街を未だ守ろうとしているだけなんだろうね」
 劇の時間外で持ち出せばとも思うが、一度動き出した人形を対策もなしに外に持ち出すのは危ぶまれる。
 動き出しているのは勇者一行の人形。
 王道の片手剣に盾スタイルの勇者。勇猛果敢に敵に切り込む快活な青年。軽装の鎧を身に着け、華麗な剣戟で敵を圧倒し勝利する。
 やや後ろに構えるのは長杖を携えた魔導士。フードを深く被り、一見怪しげな風貌だが、中身は人見知りのお姉さんだ。様々な魔法で勇者をバックアップする。
 その隣はいかにも僧侶な恰好をした癒し手。他の人形よりもやや背が低く、あどけない表情の少女だ。携える杖は魔導士同様だが、くり出す魔法は味方を癒す。
 勇者の隣に並び立つのは、双剣の軽業師。おちゃらけた青年のようだが、頼れるお兄さんである。一撃一撃はそこまで重くはないものの、持ち味のスピードと連撃で敵を往なす。
「もう守る必要はないんだと、彼らの冒険は終わりなのだと示してあげてほしい」
 酷なようだが、勇者一行にもう力はないのだと示してあげるのが一番だ。
 実際、劣化が激しく人形劇を続投させてあげられるような状態ではない。演じられないという事は、すなわち守れないのと同義だ。
 動かなくなるようにするだけで依頼自体は達成だが、その上で、自分たちがいるからもう大丈夫だと語り掛けてあげれば供養にもなるだろう。
「そうだ、劇団が元々使ってたものでいいなら、衣装も貸してくれるそうだよ」
 人形劇が主な活動ではあったのだが、舞台挨拶には操り手も顔を出す。その時には人形がまとっていた衣装を着て舞台に出るのだそうだ。
 勇者の服に魔導士の服。勇者一行以外でも、重戦士用の甲冑やちょっとエッチな踊り子の服など、冒険譚に出てきそうなメジャーどころは大体置いてあるそうだ。
 その他、付け角や付け耳等の魔種なりきりセットも揃っている。アクセント程度に活用してみても良いかもしれない。
「もう使わないから、破けてしまっても良いみたい」
 役者になりきり、自身もマリオネットの一員になって戦ってみるのも悪くはないだろう。

GMコメント

祈雨と書きまして、キウと申します。
人形ってなんだか動き出しそうですよね。夜とか。

●成功条件
 劇開催時間中に人形を打ち倒し、動かない事を確認する。
 劇は1時間半程度のものなので、よほどでない限りは時間を気にする必要はないかと思われます。

●場所
 劇団が使っていた小さなシアターです。
 一般的なステージがあり、客席があります。ステージのみで立ち回るには少々狭いです。シアター全体が戦闘場所となるでしょう。
 客席は映画館を想像して頂ければ齟齬ないかと思います。

●敵情報
 勇者一行の人形が4体います。
 人形は喋りませんが、劇に使われていたものなので表情は豊かです。

勇者
 王道の片手剣に盾スタイルの勇者。勇猛果敢に敵に切り込む快活な青年。
 剣と盾を使い、敵の攻撃をいなしながら突撃していくタイプ。猪突猛進型だが、魔導士のサポートにより隙が減っている。

魔導士
 長杖を携えた魔導士。フードを深く被り、一見怪しげな風貌だが、中身は人見知りのお姉さん。
 炎や氷、雷の魔法を使い分けて勇者をバックアップする。火力型で、デバフ付与系の魔法は苦手。

僧侶
 いかにも僧侶な恰好をした癒し手。他の人形よりもやや背が低く、あどけない少女。
 携える杖は魔導士同様だが、くり出す魔法は回復魔法のみ。攻撃は苦手だが、その分味方を鼓舞してサポートする。

双剣使い
 双剣の軽業師。おちゃらけた青年のようだが、頼れるお兄さん。
 一撃一撃はそこまで重くはないものの、持ち味のスピードと連撃が厄介。敵の攻撃を回避して切り込む事が得意分野。

●補足
 役者になりきる事でパワーアップする等の効果はありませんので、俺はそのままでいくぞー!って言うのも大丈夫です。
 あくまで演出程度と考えておいてください。

  • ルバレ・プーペ完了
  • GM名祈雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月18日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
クーア・ミューゼル(p3p003529)
めいど・あ・ふぁいあ
シュリエ(p3p004298)
リグレットドール
桜咲 珠緒(p3p004426)
二人でひとつ
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
サーフェルク・アーデルランツェ(p3p006472)
竜の娘
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女

リプレイ


「動きを止めぬ人形、か」
「ただの人形に意思が芽生えるとはにゃ」
 半透明の黒い口布をもぞもぞと付けながら、『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)は興味深そうにつぶやいた。
 物に心が芽生える。作り話の世界ではよくある事なのかもしれないが、こうして目の当たりにすることになるとは。
 『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)に口布の留め具を付けてもらい、シュリエの衣装は完成だ。魔女クラウジアの使い魔的な役になる。
「なに、置いていかれたくはなかったのじゃろうが、世代交代はいつか来るものよ」
 どこか悟った調子のクラウジア。永きに渡り生を紡いできた自身もまた例外ではないのだろうと知っていた。
「どんなものにも終わりが来る。最高の舞台にしよう」
「俺達があいつらの世界に光を照らしてやるぜ、ド派手にな!!」
 演劇を愛する『演劇ユニット』Tricky・Stars(p3p004734)も準備は万端だ。青髪を撫でつければ、ふわり風に煽られたかのように鮮やかに橙色に染まった。
 二人で一人。Tricky・Starsとはそういうものだ。
「酷かもしれないけれど、終わったことをしっかり伝えてあげないとね」
 今なおステージに立ち続ける人形達。彼らに終止符を打てるのは自分たちしかいない。
 きゅっと額に鉢巻を巻き、気合を入れた『竜の娘』サーフェルク・アーデルランツェ(p3p006472)は拳士の役だ。
 イレギュラーズは今日、勇者一行の物語の一部となる。
「心は消え、魂は消え去り、全ては此処にあり――其は、全てを越えゆくものなり」
 桜咲 珠緒(p3p004426)は小さく、自身に語り掛けるようにつぶやくと、祈るように目を閉じた。
 勇者の衣装に身を包んだ珠緒は深呼吸を繰り返す。物語に必要な終わりを、自分たちがつけるのだ。中途半端な覚悟ではいけない。勇者なら、当然だ。
 ふわり、裾を翻してシアターの扉に手をかける。
 ギィと鈍く蝶番の鳴る扉を開けば、シアターの全貌が視界に飛び込んできた。
 団員達が汗水たらして練習し、人形達を躍らせ続けてきたステージ。
 束の間の物語に心を寄せ、時に涙し、時に怒り震えた人々が集った客席。
 劇団の命がここにある。そして、劇団の命だった人形達がステージで音なき会話をしている。
 布量の多い、どこかの神様の様な衣装に身を包んだ『ゴールデンフィッシャー』ヨルムンガンド(p3p002370)は息を呑んだ。
「今回は人形達の本当の最終公演だ……! 納得のいく終わらせ方をしてやろう!」
 事前に団員に話を聞いてきた。衣装も、台詞も、バッチリだ。大丈夫。
「これが進退窮まったヒトであれば、灰燼に帰すことでそのはなむけとするところですが……」
 一面に広がる座席に、今は人の姿はない。しかし、これが今までであれば、沢山の人々が座って今か今かと開演の時を待っていたのだろう。
 かつての自身のように、と瞼を落とした新米戦士『くれなゐにそらくくるねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は人形達を想う。
 大衆に見守られ、同胞に恵まれ、物語に生きてきた人形。
 なれば、その終わりは彼らの納得しうる物語でなくてはならない。そうであってほしい。
 カタリ、人形がイレギュラーズを見る。カタカタ、武器を手に立ち上がる。
「ぶはははっ、舞台(世界)を終わらせたくねぇか勇者達よ!」
 ズンズンと重たく響かせながら歩み出る『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。全身魔鎧に身を包み、ばさりと翻した騎士のマントが相応しい重装兵は戦棍を肩に担ぎ、白煙を吐いてにんまりと笑んだ。
 彼ら人形が守るのは、彼らのために用意された仮想世界。
 ゴリョウらイレギュラーズが守るのは、ゴリョウらが住まう現実の世界。
 似た者同士なのだ、このふたつは。
 前者が後者に内包されていただけで、本質的には同じ事。彼らの気持ちは痛いほど理解していた。
「殴り合おうぜ勇者達よ! 俺らがお前らの後釜に相応しいか。その目で、力で、確かめるが良い!」
 さあ、今こそ開演の時。
 早まる鼓動は緊張からだろうか。無人の客席へ優雅に礼をしたヨルムンガンドはスゥと息を吸った。
「――さァさ、ルバレプーペ。幻想(イマジナリー)の世界へと招待イタシマセウ」


「守護竜たるこの私が戦いを見届けてやろう。本気でやるがいい……!」
 翼を持たぬ竜が吼えれば、ピリリと肌を刺す様な衝撃が敵味方問わず襲い来る。風が吹き荒ぶように肌を撫でたかと思えば、深と空気が澄んだ。
 ヨルムンガンドが展開した保護結界はシアター全体を呑みこんだ。これで、意図して行われない限りシアターが破壊されることはないだろう。
 静寂は、長く続かない。
 珠緒は独鈷型の聖遺物を両の掌に押し付ける。ぐっと力を籠めれば、両端が皮膚に食い込む痛みを齎す。
 しかし、止まらない。更に、深く、その奥まで。
「示しましょう、世代は変わるものであると。誓いましょう、貴方がたに安らぎを送ると」
 パン、と小さな音がした。掌と掌が触れ合い、聖遺物が肉を貫いた。溢れ出づる血はどろりと重力に従い落ち、――突如としてぐにゃりと折り曲がった。
 珠緒のギフト『赤朱紅』だ。魔力混じりの血液は瞬く間に大型の爪を携えた手甲へと姿を変えた。禍々しい鼓動が、生きていると伝えてくる。
 インパクトとしては、最上だろう。ざわり、勇者一行の雰囲気が変わった。
 剣を構え、杖を構え、双剣を構える。臨戦態勢だ。珠緒をはじめとした勇者一行の挑戦を真っ向から受けるのだと、その身体が伝える。
 盾を携え、片手剣をイレギュラーズへ向けた勇者はその勇猛果敢な性格に違わず地を蹴った。重なるように後ろに続くのは双剣使いだ。
 迎え撃つはヨルムンガンドとゴリョウ。勇者珠緒を狙った剣先をゴリョウの戦棍が叩きつければ火花をあげて拮抗する。勇者の稼働眼がゴリョウを見据えた。
 まるで、本物だ。そこにある剣も、人形も、何もかも。
「――ぶははっ、イイねえ! 俺が相手だ!」
 名乗り口上をあげるゴリョウを狙う、漆黒の刃。
 一瞬早ければ喉を貫いていたであろう双剣の片割れをヨルムンガンドの竜の腕が抑えた。突き刺さる剣先にヨルムンガンドは眉間にしわ寄せるが、怯む様子はない。
「お前達は強い……だが、もう休んでも良いのだ……!」
 ヨルムンガンドの言葉への返答は、刃を以て返される。翻ったもう一方の剣が的確にヨルムンガンドの急所を狙い、浅く切りつけた。
 力で示してくれ。言葉は不要だ。
 まるでそう言いたげな双剣使いの応えにヨルムンガンドは口の端を釣り上げる。
「竜を簡単に倒せると思うなよ……?」
 勇者は重装兵ゴリョウが、双剣使いは守護竜ヨルムンガンドが。
 残る僧侶と魔導士の撃破が第一の目的だった。
 ぴょんと身軽に跳ねたクーアを横目に、サーフェルクは素早く僧侶へと距離を詰めると拳を握りこんだ。
「これも戦いだ、悪く思わないでくれ」
 パーティの癒し手や、防御力の低い術士から狙う。戦いの中で、いかに被害を最小限に抑え効率的に制圧するかを問われた時、誰もがこの選択をするだろう。
「……!」
 しかし、僧侶もそんなものは心得ている。
 サーフェルクの拳はすんでのところで透明な何かに阻まれた。サーフェルクには何か硬い、ガラスの様な物を力の限りぶん殴ったかのような衝撃が返ってくる。
 魔法障壁、とでも言えば良いのだろうか。六芒星の紋様が僧侶とサーフェルクの間に浮かび、拳を阻んでいた。
 一瞬苦虫を噛み潰したように顔を顰めるが、僧侶の背後に閃いた人影を視認すればサーフェルクは静かに笑みを浮かべた。
「鬼さんこちら、なのです」
 ぽぽぽぽと瞬く間に焔が上がる。無防備な背後を狙ってクーアが攻撃を仕掛ける。
 ――が。
「にゃっ!?」
 ステージ上座のカーテンの裾を踏んでずべしと盛大にこけた。それはもう、顔面から綺麗に突っ込んだ。ドジ属性はいかんなく発揮された瞬間であった。
 その音と声に僧侶の集中が途切れたのか、障壁にヒビが入りサーフェルクの拳が貫く。
 結果オーライ、というやつだろうか。
 顔をさするメイドに呆れたようななんとも言えない表情をしつつ、次に備えるサーフェルクは姿勢を低くした。
 その頭上を飛び越えて、Tricky・Starsの幕開けとなる血潮を渦巻かせ僧侶へ手を伸ばした。
「ヒャッハー! 姐さんのために働くぜー!」
 役に成りきったTricky・Starsは手癖の悪い盗賊だ。クソガキと罵られ意地汚く生きてきたが、勇者珠緒に命を助けられて以来悪事から足を洗った、という設定である。
 体勢を崩した僧侶に防御手段はなく、Tricky・Starsが繰る透明の糸に手足を絡め取られる。人形の身体に無数の傷が刻まれた。
「色んな種族のごちゃ混ぜ。これぞ混沌に相応しい勇者PTにゃ!」
 まるで扇子の様に術符を広げたシュリエはTricky・Starsが糸で抑えつけている僧侶へと闇を溢れさせていく。
 仕込みはすでに進んでいたのだ。糸に絡まるように符を投じ、封印式を発動させていた。
「わらわの悪戯に気を取られすぎちゃだめにゃー?」
 動けぬ僧侶に満足げなシュリエは、全てを呑みこんでしまいそうな闇を抱えたまま褒美をねだりに主の元へと身を翻す。
 良い仕事をしたのなら、褒められるのは当たり前。使い魔は気儘であった。
 シュリエの主、魔導士の睨む先にいるのは、魔女だ。
 クラウジアはシュリエを撫でながら挑戦的にほくそ笑む。このパーティのブレインが彼女だと気付いた所でもう遅いのだ。
「まずは癒し手から。お前達もそうじゃろう?」
 すでに僧侶は限界に近い。
 フォローに入ろうとした魔導士も、クーアの不意打ちに翻弄されては詠唱を阻害されロクに動けていない。彼女らのヘルプに勇者達が気付いていない筈もないが、放っていくイレギュラーズではなかった。
「それ行け、勇者珠緒ー!」
「はい」
 一歩を踏み、足を揃える。曲線を描き、手を胸に添える。
 ひとつひとつの所作が華麗なる舞踏となるように。ここは、舞台なのだから。
 珠緒は声に術式を乗せ、歌うように魔導士へ語り掛けた。
「憂うことなく、旅立たれませ」


 僧侶が膝を着き、魔導士もまた落ちた。
「さて、これで厄介な後衛は沈んだ。勇者はどう戦うのかな」
 負傷はしているものの、人数の有利から消耗の少ないサーフェルクは分断した勇者と双剣使い両名へと振り返る。
 抑えに入っていたゴリョウとヨルムンガンドの負傷は激しい。
 防戦に努めていたとしても、本来複数で当たるべき相手だ。加えて、長年コンビを組んで数々の戦場を潜り抜けてきた勇者と双剣使いの連携は目覚ましいものだった。
「待たせたね。向こうでは楽しませてもらったから、こちらでは援護をさせてもらうよ」
「おう、助かるぜい」
 防戦一方だったゴリョウは一旦前線を退き、サーフェルクと入れ替わる。勇者の剣戟はゴリョウには届かず拳士サーフェルクに往なされた。
 後を追うように双剣使いが疲弊したヨルムンガンドを出し抜き、サーフェルクの横をすり抜ける。
 まずは確実に落とせる者を落とそうという作戦なのだろうが、それを許すはずがない。
「忘れてもらっちゃ困るぜ!」
 盗賊Tricky・Starsも身のこなしの軽さでは双剣使いに負けず劣らずのものだろう。
 見えぬ糸を手繰り、双剣使いの進む先にトラップを仕掛ける。流石の軽業師も長期戦の疲れとダメージから、無数の糸を交わしきれずに囚われた。
 蜘蛛の巣にかかったも同然だ。双剣をふるう手は止まり、人形はその場に拘束された。
 いつもならば、双剣使いの人形の身体を導く透明の糸も、今宵は真逆のものとなる。自在に動くTricky・Starsこそが、このステージの上で相応しいマリオネットであった。
「純粋な技では歴戦の貴方達に及ばないでしょう」
 経験値が違う。彼らが物語の中で戦ってきた回数は、それこそ劇の数だけ積み重なる。
 例え、血が流れなくとも。例え、身体に傷がつかなくとも。
 過ぎ去った戦場は尊いものであり、本物でないと嘲笑すべきではない。理解している。そして、その経験を乗り越える術を、認知している。
「さあ、止められるものなら止めてみせるのです!」
 僧侶と魔導士の二人を制したクーアが裾を翻し、双剣使いへと肉薄する。ギラリと凶悪な輝きを燈すのはたっぷりの起爆剤を詰め込まれた火炎瓶だ。このまま発火させればクーアをも呑みこむだろう。
 しかし、ぬるい。肌を溶かす熱ですら、クーアは満足できない。
 轟と燃え盛る炎はクーアもろとも双剣使いを中心地として燃え盛る。悲鳴をあげられない人形は火の中で踊り狂い、それでもなお執念からクーアへと刃を突き立てた。
 猛る焔の中、やがて双剣使いは動きを止める。残されたのは、沢山の想いを一身に背負った勇者ただひとりだ。
 流石と言うべきか、その耐久力は飛びぬけていた。そして、抱く熱情も。
 敗北を悟ったのであろう勇者が静かに剣を向けたのは、珠緒であった。
 自身と同じ格好をした、自身と同じ『勇者』を背負う者。
 相対する珠緒は一歩前に出る。これが戦場であれば、意思に関わらず数で押し切る事が正義だろう。
 しかし、ここは戦場であり、同時に舞台であった。
 一騎打ちと相成った珠緒へと踏み込み、鬼気迫る表情で剣を振るった勇者に対し、珠緒もまた術式を展開する。
 勇者が繰り出した何十にも重なる連撃は、珠緒の処理スピードを徐々に上回り、腕に、脚に、腹に、咽喉に、いくつもの赤い線を刻み込む。
 一瞬の隙を見据えた珠緒が渾身の術式を勇者に打ち込むと同時、勇者の誉れ高き剣は珠緒の腹を深く貫いた。術式に弾き飛ばされた勇者は珠緒の腹に得物を残したまま、ステージを転がる。
 ぼとぼとと血でステージを濡らしながら、珠緒は短く息を吸い込んだ。
「心は消え、魂は消え去り、全ては此処にあり」
 珠緒は、勇者である。
 どれほど血を吐いたとしても、どれほど傷を負ったとしても、頽れる訳にはいかないのだ。
「――其は、全てを越えゆくものなり」
 開演前に唱えた言葉を再び紡ぐ。色の違う瞳に生命の光を宿し、真っ直ぐに勇者を見据えた。
 最後まで立っていなければ意味がない。勇者がここで折れては全てが無駄になる。
 彼らが憂いなく旅立つためには、新たな勇者が任せるに相応しいと認めさせなければならないのだ。
 再び戦場へと舞い戻った珠緒を鼓舞するように、仲間の声が背に届く。
「ようやった。……おっと、そうそう倒れはさせぬのじゃよ」
 タイミングを窺っていたクラウジアが癒しの光を灯らせる。予測を上回るダメージの負い方ではあったが、想定の範囲内だ。
 そう簡単に揺らぐようなブレインではない。全て魔女の掌の上で繰り広げられていた、素晴らしきフィナーレだ。
 もはや体力の限界を迎えた勇者に、挽回の余地はない。参謀たるクラウジアが下すのは、終演の合図。
「安心して眠るのじゃ、後は儂らそれぞれが請け負おう。そして、儂らもいつか誰かに託すのじゃ」
「君達を継ぐ……新たな力を納得がいくまで見せてやろう!」
 自らに秘められし竜の力を解放し、ヨルムンガンドは守護竜としての威厳を示す。振り下ろされた硬質の爪による一撃は、とうとう残る勇者の盾を打ち砕いた。
 渦巻く焔はクーアの嗜み。浄化の炎が勇者を炙る。
「人は老い、物は朽ちる。けれど、そなた達が培った技や想いは次の世代に受け継がれていくにゃ」
 こうしてシュリエ達が立ち向かい、感じた想いは力強いものだった。
 世界を守りたい。人々を守りたい。勇者一行に課せられたものは、枷であり支えであった。そして、シアターと共に眠りにつけなかった程に、強い想いだった。
「最後に、何か遺したい想いはあるかにゃ?」
 言葉はなくとも、伝わってくる。問わずとも、その答えをシュリエは感じ取っていた。術式と拮抗する刃越しの瞳に、勇者の意思を感じた気がした。
 糸を手繰るTricky・Starsが勇者を捕縛し、後続へ託す。ゴリョウの無罪の一撃は、深い慈悲の元行使される。
「さあ、物語(仕事)は終わりだ! 後顧の憂いなく隠居(眠り)やがれ!」
 一人、また一人と打ち倒され眠りについた仲間を背中に、勇者は一瞬満足げな表情を作った。


 語り手がいない物語は、無きものに等しい。
「君達は、実に幸運だ。何故なら、俺という至高の脚本家に巡り合えたのだからね」
 Tricky・Starsがギフトを発動させ、彼らが紡いできた物語を記録しようと試みる。
 しかし、その膨大な量は一人で背負うには重すぎた。投射される人形達の物語は、彼らの人生――人形生、そのものだ。
 唯一手元に残されたのは、Tricky・Starsらが関わった『本当の最終公演』だけ。

 ――後日、動きを止めた人形達は劇団の元へと引き渡された。
 多少無残であっても、彼らにとってはそのものが大切な宝物であった。イレギュラーズへと礼をした団長は、泣きそうに笑って彼らに告げる。
「――さァさ、ルバルプーペ。夢(イマジナリー)は眠る時間でゴザイマセウ」

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
二人でひとつ

状態異常

なし

あとがき

プレイングお疲れさまでした。
皆さまの素敵なプレイングを眺めながら、どういう劇にしようかと楽しく悩ませていただきました。
きっと彼らは4人揃って、安らかに眠りについたことでしょう。
ご参加ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM