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シナリオ詳細

<獣のしるし>ハープスベルク・ラインの悪食男

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ハープスベルク・ラインの怪物
 ハープスベルク・ライン――。
 天義の海沿いを行く、国境沿いのルートの一つだ。
 殉教者の森につながるこのルートは、天義国から鉄帝国へと向かう大通りの一つであるといえる。
 そんなわけだから、宿場町のようなところや、旅の教会などは存在し、旅人も多く通る地であるともいえた。
 さて、そのハープスベルク・ラインのとある宿場にて、妙な噂が上がっていた。
 なんでも、国境沿いに、天義の聖騎士が現れ、鉄帝に向けて攻撃を行っているらしい。
 鉄帝と言えば、先般、『麗帝』ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズが敗北し、冠位魔種の支配下にあるという話だ。その話は天義にも多く駆け抜け、未だ冠位魔種による打撃の記憶が薄れぬ天義においても、隣国の陥落に近い状態に、不安と恐怖が立ち込めている。
 天義と鉄帝は、決して友好的な関係とは言えなかったが――鉄帝国の『凍らずの港』や『資源の産出地』と程近い事で、領内への侵略行為が度々見られていたこともあり――だが、時刻が冠位魔種による大打撃を受けた経験から、此度鉄帝国への積極的派兵などは行われるはずがない。誰もがそう思っていた。
 だが……その予測は外れたのだ。天義の聖騎士……厳密には、それを名乗る部隊が鉄帝へと攻め入っている。これはこの宿場だけではなく、天義の多くの場所で流れる噂であったが、国境に近いこの宿場では、現実という確信があった。
「だが……その自称聖騎士ってのも、怪しいもんだ。冠位魔種、ベアトリーチェ・ラ・レーテの使ってた、軍勢を率いてるって話だぜ?」
 宿場に併設された酒場で、男が言う。自称聖騎士たちは、黒人影のような軍勢と、世界を喰らう怪物を率い、鉄帝へと攻撃を仕掛けているという……それはまさに、冠位魔種の仕業にも思えた。
「また大騒ぎになっちまうのかな……神は我らを見捨てたもうたか……」
 そう嘆く男。信仰篤い天義の人々にとっても、心揺さぶられる事態があまりにも多すぎた。まるでその信仰の弱さをあざ笑うように、影の聖騎士たちは国境を蹂躙しているという……
「失礼――」
 だん、と、声が響いた。
 酒場の入り口である。
 シルクハットをつけた紳士然とした男が、慇懃に一礼すると、酒場へと入ってきた。
「失礼、失礼。私、私ぃ」
 ぎぃ、と紳士が笑った。吊り上がる口の端から、ぼぼぼ、と影のようなものが零れ落ちていた。
「噂のワールドイーターにございます」
「ワールド、イーター?」
 客の一人がそう然と声をあげた。それは……その名は! 国境で活動している影の聖騎士たちが扱うという怪物の名ではないか!
「その通りでございます――ワールドイーターの性質をご存じでございますか? それはそう、消滅させること。
 情報、存在、心、物質……世界を構成するあらゆるものをその内に食らい、この世から消滅させることこそがワールドイーターの……おっと、主語がでかすぎましたな。私の、本懐!」
 しからば! と、紳士が叫んだ。その身体から、圧倒魔に影が広がる。それは建物のすべてを、他人事包み込んでいった。壁にうつった影が、まるで狼の口のように、牙の形のように、見えたのは気のせいだったか――。
「ではいただきます!」
 ばぐり、と、男が口を閉じた。同時、世界が真っ暗になって――かつて宿場があった後には、ぽっかりと、食われたかのような虚無と、あらわになった土くれの大地、そして紳士――ワールドイーター、悪食男だけが残っていた。

「大変大変、いま天義と鉄帝の国境地帯が大騒ぎだよ」
 そういうのは、レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)。ローレットの情報屋である。
 天義の国境付近にある町。そのローレットの出張所で、あなた達は依頼を受領していた。
「ハープスベルク・ラインの宿場に、ワールドイーターが出現したみたい。名前はよくわかんないけど、自称悪食男って言ってるね。これは、何とか逃げおおせた人から聞いたんだけど」
 なんでも話を聞けば、宿場を丸ごと『喰らった』悪食男は、そこに『影の兵』と呼ばれる、黒い人影の怪物たちともに陣取り、近くを通る者たちを無差別に襲っているのだという。
「鉄帝から逃げてきた人、天義の人間、すべてを問わずにね。今だと、鉄帝から命からがら逃げてきた人たちが、多く犠牲になってるみたい……」
 幸いなことに、ワールドイーターに食われた存在は、ワールドイーターを撃破することで、元の形を取り戻せる。つまり、敵を倒せば、全員を救出することができる、という事だ。
「これ以上放置していたら、鉄帝でも、天義でも、大きな被害が出ちゃうと思う。
 だから、はやく……この件を解決しないといけないよ」
 レライムの言葉に、あなた達は頷く。これ以上、天義にも、鉄帝にも、混乱をもたらすわけにはいかない。
 あなた達は依頼の達成をレライムに約束すると、早速噂の宿場に出かけることにした。
 天には高く太陽が浮かび、これからの断罪を見届けるかのように輝いていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 悪しきワールドイーターを討伐しましょう!

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 現在、天義と鉄帝の国境線上で事件が多発しています。
 なんでも、『天義聖騎士団』を名乗る者たちが、『魔種討伐』を掲げながら、鉄帝への進軍を始めたというのです。
 彼らが使うのは、『黒き人影の軍勢』や『ワールドイーター』と言った怪物たちであり、その進行は、かつてのベアトリーチェ・ラ・レーテのそれを思わせるのでした……。
 一方、その国境付近の大通り、ハープスベルク・ライン。宿場や教会の点在するこの道では、鉄帝から逃げてきた人々や、天義の住人たちの往来が行われている場所です。そんな宿場の一つが、ある日突然消滅しました。ワールドイーター『悪食男』により、丸ごと『食われた』のです。そして、悪食男は『黒き人影の軍勢』と共に、その宿場を占拠し、鉄帝から逃げてきた人たちを『喰らい』始めたのです。
 これをこのまま見過ごすわけにはいきません。皆さんは、この悪食男と黒き人影の軍勢を相手に戦い、すべて撃破しなければなりません。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は十分に明るく広いです。周辺はワールドイーターによって食い荒らされたため、まっ平らな土くれの台地が広がっています。特にペナルティなどは発生しないでしょう。

●エネミーデータ
 ワールドイーター・悪食男 ×1
  ワールドイーターと呼ばれる怪物です。見た目は紳士服の男の姿をしています。
  体は影のような物質でできているようで、この世のものとは思えぬプレッシャーを感じます。
  戦闘スタイルは、自分の身体を影のように動かし、中距離~至近距離を得意とする攻撃を行います。
  その鋭い影は『出血』系列などを付与してくるでしょう。
  また、特殊スキルとして、毎ターンイレギュラーズ達のステータスを一つ『食います』。
  具体的には、毎ターンの最初に、指定したステータスの数値を著しく下げて(最低値は0)しまいます。
  これは、挑発したり、自分の得意な能力を誤認させたりなどで、どのパラメーターを下げさせるかを誘導することが可能です。
  上手く扱えば有利になるかもしれません。

 『黒き人影の軍勢』×8
  黒い人影、或いは泥のような物体で形成された人間型の怪物たちです。
  剣、或いは弓のようなものを影や泥で形成し、攻撃してきます。
  悪食男の取り巻きと言った感じです。
  数が多いので、速やかに処理し、悪食男との戦闘に注力できるようにしましょう。

●味方NPC
 レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)
  ローレットの情報屋兼イレギュラーズです。
  簡単な回復スキルや、攻撃スキルを使用するバランスファイターになっています。
  回復のサポートや、盾にしたり。便利に使ってあげてください。
  指示が無ければ、一生懸命頑張って戦っています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <獣のしるし>ハープスベルク・ラインの悪食男完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月30日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
武器商人(p3p001107)
闇之雲
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
リースヒース(p3p009207)
黒のステイルメイト

リプレイ

●悪食男のワールド
 かつて、そこには宿場があった。
 今は、まるで削り取られたような荒野が広がっている――。
 災害が起きたわけでもない。
 喰われたのである。
 ワールドイーター。世界を喰らい怪物。
 それは、ROOで観測された、電子の存在のはずだった。
 だが、今はどうしたことか、その存在が現実へと侵食していた。
 或いは、ROOのそれは、未来観測であったのだろうか? 混沌のシミュレートの結果、現実にやがて起こりうる事象を、ROO内にあのように再現したのではないかと――。
 答えは分からない。だが、確実なのは、ここには世界を喰らう怪物がいて、そして、それを討伐しなければならないという事だけだ。
「気が進みませんねぇ」
 と、『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がいう。やる気がないわけではない。シンプルに、何でも喰らうような怪物と、遺憾ながら『見た目や香りが美味しそうな』自分。相性はよくないだろう。
「ワールドイーターですか……天義は奇妙なことが起こりすぎですね。大変ですねぇ」
「まぁ、大変というのなら、どこも大変でしょうね」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)がそういう。警戒しつつ前を見てみれば、なるほど、まるで削り取られたかのような荒野が広がっている。その荒野の中心に、いくつもの影と、紳士然とした奇妙な男がいるのが見えた。
「しかし……被害の出し方が効率的に見えないというか、無駄に被害者を増やしている気さえします。
 戦において正道など望むべきではないのでしょうが、民間人や同国民にさえ被害を出すコレは好きになれませんね」
 瑠璃がそういう通り、敵の攻撃はあまりにも無差別に過ぎた。鉄帝の民のみを狙うわけではない。天義の民のみを狙うわけではない。無差別に、喰らう。それが悪食男、と仮称された敵なわけだが、なるほど、悪食にもほどがあるというものだ。
「そもあるけれど……冠位強欲の影が見えるのも気になるねぇ……ヒヒヒ」
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)がそう言った。冠位強欲。かつて天義の地を蹂躙した『あの女』。
「けれど、ベアトリーチェは討滅されたはずだよ」
 『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)がそう答えた。
「それは、間違いない。だからこそ、今の天義があるんだ」
「そうなんだよねぇ。だからこそ、奇妙だ」
 武器商人の言葉に、マルクは頷く。
「死者蘇生……なんていうのはあり得ないはずだ。
 まぁ、僕たちの想像以上の権能を持っているのが、冠位魔種という存在だけど。
 それでも、それはあり得ないと思う……」
「あり得るとしたら、強欲の残党か?」
 ふむん、と唸る『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
「だとしても、俺たちがやるべきなのは、今ここでこいつらをどうにかする事だけだけどな。
 ひとまず目の前に、喰われちまった人達がいる。それを助けるのが、最優先だ」
「それは確かに、その通りだな」
 『冥焔の黒剣』リースヒース(p3p009207)が頷いた。
「気に入らないのは……ふん、影の軍勢、か。
 此度の騒動……影の術師、宵闇の精としては気になる上、少々業腹だ。
 影の紛い物は、純粋な影の技で屠ってみせよう。……美学の問題だ。非常に、感情的な問題だ」
 そういうリースヒースの目には、確かに怒りの炎がともっているようにも見えた。感情的な問題、とは言うものの、激した感情は時に力になる。例えばそれが怒りであり、杓子定規的には『負の行動原理』とされようとも、正しき怒りがそれならば、きっとそれは正しき結末をもたらしてくれるはずだ。
「ま、それにしたってめんどくさい相手だからネ。
 皆のことあてにしてるよ。
 力でねじ伏せることもできるかもだけど〜?
 能力を減らされても困らないようにしなくては!」
 『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)がそういう。携帯用におにぎり状にしたチャーハンを齧り力を得ながら、
「食べられる前に食べてやる~ってね!
 これ以上、あいつに食べさせてやるものなんかないってのを教えてやろうじゃない!」
 鈴音の言葉に、『猛獣』ソア(p3p007025)が頷いた。
「うんうん。どうせ食べるなら、おいしいものの方がいいからね。
 こんな事するっていうなら、逆にボクが食べてあげるんだから!」
 ソアが、ぐるる、と唸ってみせた。そのまま、周囲に気配を巡らせる。人影はなし。やるなら、今だろう。
「いこう、皆! こんなことは止めさせないと!」
 ソアの言葉に、皆が頷いた。そして一気に、ワールドイーターたちへと接敵する!
「おやおや、お客様ですかな!」
 大げさに、悪食男は一礼をして見せた。
「見たところによれば、ローレットのイレギュラーズ様方! 今宵の夕食は皆様とは、光栄です!」
「悪いな、俺は料理する方が専門で、喰われるのは門外漢なのさ」
 ゴリョウが笑ってみせる。がしゃり、とその身体を瞬く間に装甲が覆った。
「そういうわけです。悪いですが、僕も夕飯だの食後のデザートだのになるつもりはありません」
 ベークがそういうのへ、悪食男は笑ってみせた。
「おやおやおや、ですが私としては、どうしても皆さんを食べたい!
 というわけで、少し荒っぽく行きましょうか!」
 ぱちん、と指を鳴らすと、影の軍勢がよりはっきりと人型をとった。まるで死亡した騎士たちの残影のような姿。
「……やはり、不愉快だ」
 リースヒースがそういう。武器商人は、しっかりと悪食男を見据えていた。
「おや、なんだかわからないねぇ。ヒヒヒ、わからないとなると、ますます気になるよ、キミ」
 ヒヒヒ、と笑う武器商人へ、悪食男は大げさに一礼をする。
「ありがとう! 私も気になるよ、君を食べたらどんな味がするのか――」
「さぁて、どうなんだろうねぇ? 我(アタシ)もわからないねぇ……まぁ、確かめさせてはあげないけどね?」
 ヒヒヒ、と武器商人が笑う――同時に、何か恐ろしい気配が、武器商人の背より立ち上った。
「おお、怖い。それが君の『得意』かい? ぜひ味わいたいねぇ」
「情報が確かならば」
 マルクが言う。
「相対した相手の『得意』を食べる、らしいね。厄介だ」
「うまくやったら、騙せないかな?」
 ソアが言う。
「得意、じゃないものを食べさせれば、きっと……!」
「やってみる価値あるんじゃない?」
 鈴音がいった。
「悪食男、何でも食べる分、食べるものは気にしなさそうだからね……だまして騙して、一気に行こう!」
「良いですよ。搦め手ならこちらも得手とするところ」
 瑠璃が言う。
「元より外道です。正々堂々付き合ってやる必要もないでしょう?」
「それはそうですねぇ」
 ベークが言った。
「さて、では始めましょうか。悪食男さん。
 あなたはもう、誰一人食べられないものだと知りなさい」
 ベークの言葉に、悪食男は笑った。
「いやいや、これより私の最高のディナーが始まるのです!」
 ぱちん、と指を鳴らすと、影の軍勢たちが一気に声をあげ、襲い掛かってくる!
「やるぞ、皆!」
 ゴリョウの声に、仲間達は頷いた。
 一斉に武器を構えると、襲い来る陰の軍勢に向かって、斬り進んでいった――!

●影と、悪食男と
「ぶはははッ、ずいぶんとやりたい放題やってるみたいだねぇ。殴り甲斐があるぜぇ!」
 がしゃん、がしゃん、と大籠手を鳴らしながら、ゴリョウが一歩一歩進んでいく。その圧倒的な存在感。攻性の構え。
「遊んでやるか、影の化け物どもさんよ!」
 ずあん、と巨体が跳ぶ! 飛び込んだ先の影の剣士を、ゴリョウの拳が掴み、地にたたきつけた!
「うおおお、りゃあ!!」
 ぐしゃり、と叩きつける! ばずん、と音を立てて、影の剣士が爆散し、影に散った。
「来いよ、遊ぼうぜ?」
 がしゃり、と指を折り、挑発してみせる――なるほど、アタッカーか。悪食男が、ホホ、と笑う。
「良い腕で! 食いでがありそうですなぁ!」
 ずあ、とあたりの影が、まるで獣の口のように形を変えた。ばぼぼ、と悪食男の口から溢れる影が、その影と接続される。同時、ゴリョウを襲う、影の顎! 痛みはないが、力を抜かれたような感触が走る!
「なるほど、『力』を喰われたか――! 頼む、リースヒース!」
 ゴリョウが叫ぶ――同時、共に動いたリースヒースが、ゴリョウの前に立ちはだかった!
「良いだろう」
 フルプレートの騎士が、影の剣士と切り結ぶ。黒剣の斬撃に、影の剣士が応戦するのを見て、成程盾役か!
「ならば、貴方の腕を萎えさせましょうぞ!」
 悪食男が、リースヒースの『防御性能』をガジリと齧る。受け止めるための腕が萎え、力が失われていくのを、リースヒースは感じていた。
「食ったか。だが、この程度で私は止められない!」
 リースヒースが、懸命な斬撃を繰り出す。影の騎士がその斬撃を弾き飛ばし、反撃の一撃をくわえようとした刹那、それを受け止めたのは武器商人である。
「おっと、それじゃあ我(アタシ)が変わろうかな?」
 その身を獣のような影が包む。その強力な盾で影の騎士からの斬撃を受け止め、返す刀で影の騎士の首を斬り飛ばす。影の騎士の身体が、ぶわ、と影に消える。
「さぁて、キミは我(アタシ)の何を食べるのかな?」
「そうですなぁ、やはり、その固き影を!」
 ばくり、と獣の口をした影が、武器商人を襲う! 痛みはやはりないが、何か『力』を奪われたような感覚が、武器商人を襲っていた。
「ヒヒヒ、そうかい。こういった感触なんだねぇ?」
 焦らず、武器商人が笑う。わずかに薄くなった影の盾を利用し、武器商人は敵の攻撃を受け止め続けた。
「まずいね、このままではじり貧になる」
 マルクがそう言った。
「余裕があるうちに、影の騎士たちだけでも倒そう。
 一気に行くよ!」
 マルクが声をあげ、その手を掲げた。放たれた混沌の泥が、影の騎士たちを貫く! だが、騎士たちは倒れることなく、再び立ち上がった。その剣を振りかざし、イレギュラーズ達を攻撃する!
「くっ……皆、大丈夫かい!?」
 マルクが痛みに顔をしかめつつ、そう言った。壊滅状態とはいかなかったが、しかし打撃はおったことに違いない。
「おやおや、大丈夫ですかな? 苦戦していらっしゃるようですが?」
 悪食男が挑発する。鈴音は「くっそー!」と声を上げつつ、
「どうする……このままじゃ……!?」
 悔しげにそういう。マルクは頭を振りながら、
「けど、ここで諦めるわけにはいかない……!」
 とは言うが、しかし追い詰められているという事実には変わらないように、悪食男には思えた。
「ホホホ! 無様なものですなぁ! これが皆様の限界というもの……」
 勝ち誇る悪食男に、イレギュラーズ達は苦戦の様相を見せていた。切りかかる影の騎士を、リースヒースが斬り捨てる。
「くっ……諦めるな、皆……!」
「おう! 大丈夫だ! 俺たちは折れねぇ!」
 ゴリョウが叫び返す。だが、形勢はイレギュラーズたちの不利に思えた。このままでは押し切られる……いや、悪食男から見れば、『押し切れる』だろうか。イレギュラーズ達は、攻め手に欠けているように見えた。アタッカーであるゴリョウは力を喰われ、防御に回ったリースヒースと武器商人の防御技能も喰われる。影の騎士たちが押し込めば、このままイレギュラーズ達は総崩れをし、遠からず全滅するだろう。
 悪食男は舌なめずりをする。果たして、倒れたイレギュラーズ達は如何な味がするのか――極上の晩餐が、この後に待っているはずだった。ローレットのイレギュラーズを喰うとなれば、それこそ全く、めったにないご馳走だろう。
「これこそ人生冥利に尽きるというもの――!」
 悪食男は哄笑した。間違いなく、彼の人生最上のタイミングであった――。
 僅か、この時。この瞬間。間違いなく悪食男は、幸福の絶頂にいた。
「あ――」
 ソアが声をあげた。諦観のうめき声だと、悪食男は思った。
「――あはっ、引っかかった!」
 それが、狩獣の笑みであることに気づいた刹那、ソアの強烈な一撃が、悪食男の身体を切り裂いていた――!

●真実、そして反転
 何が起こった!?
 悪食男の脳裏に「!?」が浮かび、埋め尽くされる。何が起こったのか――!? 喰ったはずだ。奴らの得意なものを、全て。弱体化しているはずだ。現に奴らは攻めあぐねているはずではないか……!?
 それが、悪食男の致命的な過ちであったといえる。戦況を読み間違えていた。いや、『読み間違えさせられていた』のだ――誰によって? 無論それは、
「謀ったか! イレギュラーズ!」
 悪食男が、激高する! ソアからの一撃の激痛が、さらに強烈な雄叫びを彼に上げさせていた。
「おう! 俺はアタッカーなんかじゃねぇし」
「私は盾役でもない」
 ゴリョウがそう言って、首をごきり、と鳴らし、リースヒースがギフトにより生成したフルプレートを消し去ってみせた。
「我(アタシ)はもっと、特殊な奴が得意でねぇ。残念だったね?」
 ヒヒヒ、と武器商人が笑う。
「ちなみに、地道にわたしが回復しても居たので、言うほど追い詰められている、というわけでもないんだよね~!」
 鈴音が挑発するようにそういう。
「そういうわけだよ。あなたはずっと、騙されていたわけだ」
 マルクが言う。果たして、その言葉通りだ。
 つまりずっと、イレギュラーズ達は『得意な戦術を偽っていた』。もちろん、本当に不得手な行動をしていたわけではなく、そう見える用意に艤装しつつ戦っていたわけだ。そうなれば、悪食男からすれば、得意なの力を喰われて苦戦しているようにしか見えない。だが実際は、着々と敵に損害を与え続けていた。その為、影の騎士たちは徐々に姿を消していった。その現実を見せられてもなお、悪食男は『自分たちは追い込んでいる』と錯覚していた。悪食男は間違いなく『強い』怪物であったが、それゆえの油断、慢心があったことに間違いはないだろう。いずれにしても、彼は判断を『誤らせられた』のだ。
「馬鹿な! では、これでは……!」
「残念でしたね。全く、無意味な行動だったというわけですね」
 ベークが無感動そうにそういう。ベークにしてみれば、予定通りに事が進んだわけだ。となれば、このまま冷静さを欠くことなく、敵を叩き伏せればよい――。
「ぐっ……! あなたが防戦一方に見えたのも……!」
「もちろん、演技というか、トラップです。
 まぁ、君の攻撃を受け続ける必要があったのは事実ですけれど。僕は本当に『囮』であったわけですし。
 さて、改めて言いましょうか。
 君に僕たちは食べられません。
 もう、この状況です、それは分かりますよね?」
 淡々と言うベークに、悪食男は再度激高した。
「おのれぇぇぇぇ!!」
 悪食男は、手を振り上げると、その手のうちに影の刃を生み出した。同時に振り下ろす――ベークはそれを涼しい顔で受け止めて見せた。
「やっぱり、紳士然とした奴なんてこんなものですよね。本性が現れれば獣だ。
 それとも、獣だから紳士のふりをして獲物を探すんですか?
 まぁ、それもどうでもいいのですけれど」
 そう呆れたように言った刹那、悪食男の身体に風穴があいた。
「ぐっ、ごっ……!?」
 苦しめの呻きをあげる悪食男。身体から突き出した、黒い刀を見やる。背後から迫っていたのは、瑠璃の刃だった。
「随分と長い間、目を離してくださってありがとうございます」
 ふ、と瑠璃は笑った。
「ですが、マナー違反ですよ。食事中に出された料理から目を離すのは。
 じゃないとこうして、料理に食べられてしまいますよ?」
 ばす、と瑠璃はその刃を振るった。悪食男の切り裂かれた腹から、強烈に影のようなものが吹き出していく。
「がああ! 馬鹿な! 馬鹿な! こんな……!」
「ふん、今日は食べられるのはあなた、食べるのはこのボク! 分かる?」
 ソアはそう言って、その身を虎のそれに変化させた。そのまま、その牙で、悪食男の喉笛に食らい付く。がぶり、と肉をちぎる音が聞こえた。悲鳴を上げる間もなく、悪食男が絶命する。
「ぺっ、ぺっ! ひどいあじ!」
 ソアがぺっ、ぺっ、と悪食男の影(にくへん)を吐き出した。それから、ゴリョウに向かって笑ってみせる。
「全然美味しくない、やっぱり変なのばかり食べてるやつの肉はダメよね」
「ぶははっ! 悪食ってのもほどほどにだな?」
 ゴリョウが肩をすくめる。そんな中、悪食男の死体に変化があった。瞬く間に影が膨れ上がると、ばん、と音を立てて破裂する。世界が一瞬、影に包まれたかのような錯覚を覚えた刹那、辺りには以前のような『宿場』の姿が現れ、あちこちに人が倒れているのが分かる。
「『喰われた』人達ですね」
 瑠璃がそう言って、駆けよる。一人目。簡単にバイタルをチェックして、二人目。三人目……。
「どうやら、皆さん、生きていらっしゃるようです。よかった……」
 ふ、と胸をなでおろす。どうやら、死者は一人もいなかったようだ。倒せば、喰われたものは元に戻る。ROOのものと性質は同じらしい。
「ひとまず、お仕事終わり……だけど、食べられてた皆が目覚めるまで様子見してからだね」
 鈴音がそういうのへ、皆は頷いた。
 果たして、宿場での戦いは幕を下ろした。
 悪食のワールドイーターはこのより消滅し、この場所には再び、人々の行き交う姿が戻るのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆さんの活躍により、喰われたものはすべて無事に取り返されました――。

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