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シナリオ詳細

<獣のしるし>砂糖菓子、黒く蕩けて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『償ってこその罪、覚えていてこその罰』
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)が天義の街にて『月光人形の影あり』という報を受けたとき、真っ先に脳裏に浮かんだのはかつての妹。そして母の風景であった。
 教会の壇上で微笑む母と、その横で演説する妹。これは神の奇跡であると信じた彼女は教会からマークされ、不正義の名の下に死の断罪を受けた……と、世間には公表されたらしい。
「お姉様ぁ?」
 背後から声がして、アーリアはびくりと背筋を伸ばした。
 甘く絡みつくような、角砂糖を入れすぎたコーヒーのようなその声は……。
「め、メディカ」
 そろりと振り返るアーリアに、メディカは片眉をちょいっとあげてから、アーリアがつかんでいた手紙をひったくった。
「あっ!?」
「ははあ、月光人形の再来ですか。あの事件は本当に酷かったですねえ。お姉様?」
 メディカ流、必殺の皮肉である。
 ついでに手紙をひっくりかえして両手でつまみ、アーリアに見えるように翳してみせる。
「ご覧になって? なんとお母様とおぼしき月光人形も確認されているとか」
「ん、んんっ……」
 その下には『事件に関与した異端審問官メディカに注意せよ』と追記されている。よおく見える。
 咳払いをしてこの空気をなんとかしたいアーリアだが、メディカは目の前で手紙をぴりぴりと真っ二つに破いて見せた。
「下らない。私が一度犯した過ちをくり返すとでも?
 ベアトリーチェなき今、誰のさしがねかは知りませんが。こういうものは直接行って叩き潰してみましょう」
「『確かめて』みましょうじゃなくて?」
「叩き潰してみましょう」
 言い間違いじゃなかった。
 アーリアは今度こそ大ききく咳払いをして、真っ二つになって地面にすてられた手紙を拾い集める。
「そうねぇ。きっと、また世界の危機なんだわ」
「その通り。私達が行かなくては」
 メディカはにっこり笑って、アーリアの手を引いた。

●致命者
 鉄帝・天義間にある海側の国境沿い大通り。名をハープスベルク・ライン。
 殉教者の森へと繋がるこのエリアには酒場や教会が点在し、多少は利用者があるようだ。
 しかしそんな街の風景は、異様なものに塗り変わっている。
 まず目を引くのは『巨人』。
 黒く淀んだ影をそのまま人の形にしたようなそれは、背から胸にかけて巨大な十字架が貫いている。
 両腕は長く肥大化しており、顔にあたる部分はヒルのような形状をしていた。
 これらの存在を、ROOを通してローレットは知っている。名を『ワールドイーター』。

「特にこの個体はブレスイーターといって、人の信仰心を好んで喰らう性質があるようです。
 ハープスベルク・ラインに存在する小さな教会はこの被害にあい、建物ごと食い潰されてしまったとのこと」
 天義に常駐していた情報屋はそのように説明した。
「美しいドレスに身を包んだ月光人形も目撃されており、この存在がブレスイーターや影の兵たちを連れて殉教者の森を目指しているようです」

 ハープスベルク・ラインを行進する、影の兵たち。
 彼らは掲げた槍のさきに真っ黒な旗を掲げ、音楽を鳴らし、ブレスイーターを囲むように進んで行く。
 人々は怖れをなし、大通りは影の兵とブレスイーター、そしてやわらかな微笑みを浮かべるドレスの女性だけとなる。
「聖女様のために――」
 女性は小さくつぶやき、どこか遠くを見つめていた。

GMコメント

・影の兵×多数
 旗槍を装備した兵隊たちです。非常に数が多く、戦闘力も若干高めのようです。
 連携しこちらを圧倒するような戦い方をしてくるでしょう。
 ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた兵士に似た特徴をもっていますが、不滅の存在ではないので戦闘によって倒すことが可能です。

・ブレスイーター×1体
 『ワールドイーター』の一種で、建物だろうが人間だろうが何でも食べてしまいます。
 特にこの個体は信仰心にまつわるものに興味を示しやすく、信仰の鬼ことメディカなど絶品のごちそうに見えていることでしょう。
 偵察の話によれば影の兵と同じ組成をもっており、ROOにあったようなバグエネミーとは異なるもののようです。
 戦闘に関しては長い腕や巨体を利用したパワー任せの戦闘が予想されます。

・致命者『赤いドレスの女』
 アーリアとメディカの母によくにた姿をした人形です。
 報告にて『月光人形の再来』と言われたのは、その人物が既に死亡していることと、死者の復活はありえないこと。そして過去に同ケースの月光人形が出現した記録があることに由来しています。
 なのでこの個体が実際のところ月光人形そのものなのかはわかりません。
 戦闘をしている様子は観察されていませんが、この集団のなかにおいて無力ということはないでしょう。警戒すべき存在かもしれません。

●フィールドデータ
 ハープスベルク・ラインの大通りです。
 元々人はいたのでしょうが、こんな連中がやってきたことで皆避難しています。
 大通りの両脇には二階建ての建造物が並んでおり、教会も存在します。
 敵が近距離攻撃に寄っているので、建物の屋根や二階から射撃を行ったり場合によっては建物内で壁を盾にしたりといった戦闘方法も有効かもしれません。

  • <獣のしるし>砂糖菓子、黒く蕩けて完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年11月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
越智内 定(p3p009033)
約束
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
唯月 清舟(p3p010224)
天を見上げる無頼
雪風(p3p010891)
幸運艦

リプレイ


 『導きの戦乙女』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)にとって、『信仰』はいかにも馴染みのない概念であった。
 であると同時に、天義という国の礎でもあると知っている。
「どんな思惑があるのかはわからんが倒すべき相手がいるのであれば倒すだけだ」
 剣の柄をコツンとノックするブレンダはその目で『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)へと目をやる。
「お姉様ぁ? どうしました、顔色がすぐれませんよ?」
 にっこりと笑って顔を覗き込むメディカ。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は苦笑してそれにこたえた。
「あなたこそ、大丈夫なの? メディカ」
 メディカはきょとんとしてから、すぐに元の笑顔に戻った。
 彼女にとって笑顔とは仮面であり、信仰であり、同時に武器でもあるらしい。
「私達の『大好きな』お母様の偽物をつくる不届き者は、すぐにでも叩き潰してやりたいですね」
 次にきょとんとするのはアーリアのほうだった。
「……そうね」
「妹、ねェ。こりゃまた、ずいぶんと似てねえこった。ネエチャンの方が"発育"がいいからなあ!」
 そんな空気を破壊するかのようにずかずかとやってきた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。メディカに挑発的な視線を向けるが、メディカはそれを笑顔で打ち返した。
「ま、気ィ落とすなよ。まだチャンスはあるぜ。多分な」
「どんな人間も叩き潰せば身長は三センチくらいになるらしいですよ。試します?」
「ははー」

「なんじゃあれは、仲が良いのか? 悪いのか?」
 やや遠巻きに様子を見ていた『天を見上げる無頼』唯月 清舟(p3p010224)が腕組みをする。
「ま、折角の飯のタネじゃ。せっせか働いて博打の銭稼ぎといくか」
「すごい速度で興味が逸れましたね」
 『幸運艦』雪風(p3p010891)が装着している武装の様子を確かめながら呟いた。
「そりゃあのぅ。こちとらローレットのギルド員。何でも屋じゃ。時にはこういう仕事もくるもんだわ」
 ちがいない。
「なじみ深い戦場の空気……こちらの世界でも戦いは身近なものなのですね。
 一体何者なのか正体が判然としない相手ですが、それを明らかとするのもまた任務。
 そう思ってあたりましょうか……」
 ほう、と息をつく。
 12月を前にした空気はちょっとだけ冷たく、ハープスベルク・ラインの大通りであっても吐息を僅かに白くするだけはあった。
 両側に並んでいる建造物は鉄帝と天義の様式が微妙に混ざったような作りをしており、国境争いを一度はした歴史がうかがえる。
「そしてこの場所も、戦火に飲まれるのですね」

「アーリア……知らない仲じゃないし、お世話になったこともあるし手を貸しましょうか。私の手なんて碌に動かないのだけれどね!」
 両腕(?)をふらふらと振って余りきった袖を遊ばせる『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)。
「なーんて冗談はさておき私は私のできることをするわ」
「ROOに居たワールドイーターが混沌にも居るだなんて。いや、良く考えたらROOは混沌を模したものなのだから、寧ろいた方が自然なのか?」
 一方で、『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)はなにやら深くものを考えているようだった。
「だとしたらこの敵の存在って結構ヤバいんじゃ……また何か大きな騒動に繋がらなければ良いのだけれど」
「あの流れだと終焉獣みたいなのが其の内現れたりする? 今考えても仕方がないか。はてさてこの地に一体何が起こっているのやら」
「さすがにないでしょ……ないよね?」
「『大樹の嘆き』のケースもあったけど、裏にあったのはもっと別の事件だったしなあ。安直な読みはウカツかも」
 ラムダはそこまで言うと、魔導鋼翼を装着してぴょんと高所へと飛び上がった。
「敵部隊接近。準備は?」
「おーけー」
 定は『アーリアせんせ』の普段と違う雰囲気を横目に見つつ、その辺で借りてきた剣を手に取った。
「っし、やるぞ……」


 ハープスベルク・ラインの大通りを、行進する列がある。
 旗槍を掲げた影の兵隊たちが、十字架の刺さった巨人を囲んで歩くのだ。
 その先頭には、美しいドレスの女の姿があった。
「聖女――ルル様の――ために――」
 ほがらかな笑みを浮かべ、空を仰ぐ。
 嗚呼、願わくば。この行進が聖なるものでありますよ――

 女の顔面を巨大なハンマーが打った。
「ごきげんよう。お母様モドキ。不正義には、神の鉄槌を」
「あの子! もう、出るのが早すぎ!」
 建物の二階から様子をうかがっていたアーリアが身を乗り出し、跳躍。空中で薄い魔法の膜を作って着地の衝撃を吸収すると、突然のことに動揺したかのように見える影の兵団めがけて手をかざした。
「出るときは一緒にって言ったでしょ!」
「あら、そうでしたかしら?」
 首をかしげるように、笑みの糸目で振り返るメディカ。
「ごめんなさいね。つい」
 そんなメディカを狙うように、ブレスイーターはその巨大な腕を伸ばす。
「下がりなさい!」
 アーリアは翳した手から魔術を練り上げると、カクテルカラーの魔力が螺旋状に混ざり合い、シェイクされ、一発の砲弾となって発射された。
 花火のように美しい爆発をおこし、ブレスイーターを牽制する。一瞬だけだが、それで充分だ。
「信仰だ、なんだ、くだらねえ。救いもしねえカミサマとやらに縋って、現実から逃げてるカスがよ!」
 グドルフは手の中に『何か』を握りしめて叫んだ。
 メディカから僅かに引いたブレスイーターの顔が、グドルフへと向く。
「ハッ――笑えねえ」
 思えば狂った人生だ。信仰なんて糞食らえだ。けれど、『それを信じたあの人』だけは――信じて疑ったことがねえ。
 ブレスイーターはといえば。今度こそはと考えたのだろう、背中に刺さった巨大な十字かを自らずぶりと引き抜き、高く掲げた。胸にはぽっかりと穴。しかしそれは、呼吸でもしているかのようにゆっくりと動いている。
「来るぞ」
 グドルフが防御の姿勢をとるや否や、ブレスイーターは巨大な十字架でもって地面をなぎ払った。
 たとえば砂利道を無理に棒で払ったように地面をえぐりとって、両サイドの壁面すらも破壊する。窓ガラスが次々に割れ、そうでないものもヒビ入った。
 その隙を突いたつもりだろうか。影の兵団は防御に専念したグドルフの左右を駆け抜けていく。
 だが一方のグドルフに焦りはない。どころか、にやりと笑った。
「申し訳ないがここから先は行き止まりだ。進みたいのならば私を倒してからにしてもらおう!」
 民家の屋根から跳躍し、剣を抜くブレンダ。焔と風の力を螺旋状に合わせ熱風の大剣を作り出すと、着地と同時に影の兵の一人を滅茶苦茶に粉砕してみせた。
 対する兵団もさるもので、ブレンダに驚きもせず素早く包囲陣系を整える。
 旗槍をくるりとまき、槍のリーチを活かしながら全方位からチクチクと攻撃を続ける作戦だろう。
 だがそれはブレンダの望むところだ。
 同じく建物の上に待機していたラムダが魔導機刃『無明世界』を抜刀。
「いい配置。いい連携だ。賢い兵なんだな。だから――先も読みやすい」
 剣を繰り出すその一閃が黒き魔導の刃となって、並ぶ兵たちを次々に切り裂いて飛んでいく。
 おそらくだが、兵団が犯した最大のミスは敵の数を見誤ったことだろう。突出しすぎるメディカのせいか。それともブレンダの迫力のせいかはわからないが。
 いずれにせよ――。
「あなた達は囲んだのではありません。『囲まされた』――そして、『そのうえで囲まれた』のです」
 屋根の上に立ち上がる雪風。装着している艦姫武装が展開。魚雷発射口が開き、全ての魚雷が空中に放たれる。まるで空を泳ぐ魚のごとく素晴らしく整った軌道を描くと、
 雪風の魚雷は影の兵たちのあいだで爆発。それはもうひどい爆風で、集団の中心にあったブレンダも余裕で巻き込まれているのだが……。
「ふむ、いい攻撃だ。出身世界ではさぞ武勇を誇ったことだろう」
 剣をくるくると回転させ風の障壁を作るだけで衝撃を逃がし、ブレンダただ一人がノーダメージであった。
 そこへ、一度は散った兵団たちが集まってくる。
「ひゃー! まだわんさか居るのぅ! こりゃ骨が折れるわ」
 清舟懐から拳銃を抜き、割れた窓から僅かに身をさらす。
「儂ゃ此奴らの相手しろってぇ事かぁ」
 影の兵団めがけて思い切り銃を撃ちまくる。
 ブレンダからは『纏めて撃って貰ってかまわんぞ』くらいに言われていたが、ちゃんと外して撃てる器用な清舟なのである。
 清舟の銃弾が撃ち込まれた影の兵はブレンダを囲むことをやめ、まずは防御のために外側に兵を向け槍を振り回し始める。
 何発かは清舟の銃弾も弾かれたものの、二発三発と撃ち込むうちに体勢が崩れ、よろめき、そしてばちゅんと黒い液体のように弾けて消えた。いや、液体ではない。影になって消えたのだ。
「影ぇ? あいつら影でできとるんか」
「そんなところでしょうけれど――」
 ヴィリスが追撃をしかけよう――とした途端。赤いドレスの女がヴィリスの蹴りを自らの蹴りで受け止めた。
 当然ただの蹴りなわけがない。義足を剣に変え、怪物の首を切り落とすような威力の蹴りを放ったつもりだ。
 それが、ぶつかり合って拮抗したのである。
 よくみれば、女の足からは影の刃がのび、まるでヴィリスと同じもののように威力を相殺してしまっている。
「あら、便利ねその足」
 互いに反発し、着地するヴィリスと女。
「感想が聞けないのは残念だけれど私の踊りをその目に焼き付けていきなさい!」
 踊るようにステップを踏み、連続の蹴りを繰り出すヴィリス。対する女もまた連続の蹴りでそれを防御する。いや、よく見れば蹴りだけではない。足から伸びた大量の黒い影の刃がヴィリスの蹴りを弾いているのだ。
 一方で……。
「信仰心はその人にとって大事なものなんだ。そりゃあさぞ美味しかろうさ!」
 十字架を振り回し暴れるブレスイーター。その攻撃を、定は剣で受け止めた。
 受け止めたと述べてしまうと完全に停止させたように見えるだろうが、実際は剣はへし折れ定は吹き飛ばされ、ごろごろと転がった末建物のドアに激突したのだ。
「姉妹を守りながら戦うとか何処のヒーローだよ! ガラじゃあないぜ!」
 そこへ駆け寄るアーリア。彼女の補助を受けて立ち上がる。
「ジョーくん、大丈夫?」
「せんせ、僕、身体暖まって来たから。出るよ。けど、俺って『現代』出身だからさ、信仰とか知らないんだよね」
「恋は知ってるのに?」
「コイ!?」
「恋も立派な信仰よ!」
「そうでしたっけ?」
 逆側からメディカがいぶかしげな視線を向けてくる。
 なので、アーリアはガッツポーズを作って強めに断言した。
「信仰よ!」
「神への恋は確かに信仰ですが……」
 メディカだけ納得していないが、定はとりあえず納得したようだ。
「ありがとせんせ。それと妹さん。僕が突っ込むから、その間にヤツを!」
 落ちてた煉瓦を拾いあげ、定は走り出す。
 平凡な日本の17歳が、ファンタジー世界で煉瓦片手に影の巨人とケンカするとは。くるところまで来てしまったものだ。
「アーリアせんせの教え子が情けないだなんて、思わせるわけにいかないからな!」
 定はブレスイーターへと殴りかかる。
 それを払いのけようと、ブレスイーターもまた十字架を殴りつけた。
「お姉様、教師になられたんですか? よくなれましたね?」
「一言余計よ?」
 メディカとアーリアは笑顔で皮肉を言い合うと同時にブレスイーターへと走る。メディカのハンマーが、そしてアーリアの放つ『アルマンドへの誘い』がブレスイーターへと浸透するかのように響く。
 それだけではない。いつのまにかブレスイーターの背を剣と斧によって無理矢理よじ登っていたグドルフが、拳を頭に叩き込んだのだ。
「おれさまのパンチの味はどうだ?気に入ってくれたかよ、デカブツ野郎!」

 激しい音を立てて崩れ落ちるブレスイーター。最後には跡形も残さず消えていくそれを、赤いドレスの女はチラリと振り返った。
「どうやら形勢はこちらに傾いたみたいね?」
 それまで競り合っていたヴィリスが首をかしげる。
「楽しいお人形遊びだったわ。けど、これでおしまい」
 突如。清舟が刀を抜いて急激に距離を詰めた。斬撃が女の背を切り裂く。
「ひゃー!それにしても笑っちょるのになんぞ読めん顔しちょるなぁ。美人ってことしかわからん」
「所詮人形。綺麗な作り笑いくらいするよ」
 ラムダもまた急速に距離を詰め、黒い刀身で斬り付けた。
 二度にわたって見事に斬撃をうけた女はよろめく。
 一方で、激しい爆発を背にブレンダと雪風が歩いてくる。
「兵団のほうは片付いた。最後はその女だけか?」
「月光人形を私は知りませんが敵性存在が意図するところを分析すると。
 悪意あるものと感じるのは私だけでしょうか」
 僅かに起き上がり、反撃をしようと背後から襲いかかる影の兵たち。
 しかしブレンダはふりかえることなく焔の剣を払い、影の兵を吹き飛ばしてしまう。
 一方の雪風も兵装に備えた砲台を動かし、後方へと射撃。飛びかかった兵は空中で踊り、そのまま弾けて消えてしまう。
 彼女たちがここまで取り囲みつつも女を倒してしまわないのは、勿論アーリアを待ってのことだ。
「随分と悪趣味よ、なんのつもり?」
 ブレスイーターの対処を終えたアーリアが、こつこつと靴を鳴らして現れる。
 女は振り返り、そして笑顔を作ってこう入った。
「『聖女ルル様のために』」
 まるで予め録音した音声を再生したかのようなよどみない言葉に、アーリアは察した。
 そして、メディカが笑顔のまま殴りかかろう――とするのと、顎をくいっと指であげることで止めた。まさかそんな止められ方をすると思っていなかったメディカがびくっと停止したその間に――。
 女は腕を影の刃に変え下アーリアに斬りかかり。
 アーリアは黒い手袋に魔力を込めて握りしめ。
 斬撃を回避すると同時に、その顎に拳を叩き込んだ。
 爆発した魔力によって、影となって飛び散る女。
「もっとためらうものだと思っていました」
 後ろからかけられた声に、アーリアは苦笑する。
「私だって、大人になったのよ」

●後日談ならぬ
 ハープスベルク・ラインでの戦いから帰還すると、続々と同じような戦果報告、あるいは調査報告があることに気付いた。
 共通して『聖女ルル』という存在の指示をうけていたことがわかった。
 これがいかなる存在なのか。何が目的なのか。
 わかっていることは少ないが、悪しき何かが動き出していることだけは、確かなようだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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