シナリオ詳細
<大乱のヴィルベルヴィント>烈歌のキラミス
オープニング
●
「みんな~! わざわざこんな場所に集まってくれてありがとう~! みんなのアイドル、烈歌のキラミスちゃんで~す♪」
「「「うおおーーーー!! キラミスちゃーーーーーん!!!!」」」
帝都中央駅ブランデン=グラード。とても広大なこの鉄道駅の内部から、異様な熱気が発せられていた。
複数の通路や地下ホームに繋がるいくつもの階段に面した大きな広場、その中央に組まれた特設ステージ。ステージの上に立ち、マイクを持って笑顔を振りまくキラキラとした少女。
水色の髪に、青いアイドル衣装。そしてその顔は、確かにみんなのアイドルを名乗るにふさわしい美貌の持ち主であった。
そして、そのステージに群がる無数の囚人服の男たち。その手には様々な武器が握られている。どこを取っても異様な光景だった。
「それじゃあ聞いてください、1曲目! キラミスちゃんで、『初恋味のレモンケーキ』♪」
キラミスと名乗る少女はステージ上で舞い踊りながら、辺り一帯に綺麗な歌声を響かせる。
「「「ウオオオオオオオオオオオ!!」」」
するとどうだろう。熱狂乱舞する囚人たちに、力が湧いてきたのである。
気持ちの問題? それもあるだろう。だがそれだけではない。
キラミスは自らの歌声によって魔術を行使し、言葉通りの意味で囚人達の戦闘能力を向上させた。だが、キラミスの力はそれだけではない。
「盛り上がってるね~~!! それじゃあ二曲目、『雪国温泉物語』♪」
「「「癒される~~!!」」」
そう、癒されていた。この駅に至る道中で受けた囚人達の生傷が、みるみる内に癒えていたのである。
キラミスの歌声は囚人達の力を高め、その傷を癒す。そしてなにより彼らの士気をとてつもなく上昇させていた。
「……さて!! 盛り上がってきたところで、みなさんに重大発表と、大事なお願いがあります! 刮目せよッ!!」
キラミスがパチンと指を鳴らすと、ステージの傍に控えていた重装備の囚人達が紙の束を持って現れた。彼らは囚人の中でも特に優れた戦闘能力と信仰心によって選ばれた、キラミス親衛隊である。
「それっ! 拾って拾って! みんな仲良く見てね♪」
紙の束を受け取ったキラミスがそれを元気よくバラまき始めると、囚人達は我先にとその紙を掴み取る。
「なになに? 何が書いてあるんだ?」
「おーい俺にも見せてくれよ!!」
「これは……指名手配書? 対象は……イレギュラーズ!! それになんだこれ、めちゃくちゃ懸賞金が高いぞ!!」
囚人達の間にどよめきが広がる。しかしキラミスがパチンと指を鳴らすと、訓練された軍隊かそれ以上の統率で、背筋を伸ばしステージに注目した。
「そう! 手配書です!! なんとこの度、イレギュラーズの畜生ちゃん達の首に懸賞金がかけられたのです!! わー、パチパチパチ!!」
囚人達が一斉に拍手する。
「そして、キラミスちゃんからみんなへのお願いって言うのも、なんだかもう分かったかな? そう! ここにやってくるであろうイレギュラーズちゃん達をブッコロス事でーす!!」
「「「ブッコロス!! ブッコロス!! ブッコロス!!」」」
「イレギュラーズちゃん達を殺したら当然懸賞金が出ます!! それだけじゃなく、トドメを刺した人やすっごく頑張ってくれた人には、新たにキラミスちゃん親衛隊に入隊する権利も差し上げちゃいまーす!!」
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」
かつてない程の盛り上がりを見せる囚人達。その様子を見てキラミスは薄く笑みを浮かべる。
「(この駅にイレギュラーズ達がやってくるというのは私の予想でしかないけど。連中も馬鹿じゃないからここの重要性に関しては理解できる筈。闘士と囚人はバカばっかりだけど。なら、当然ここの守りは固めるべき。キラミスちゃんが『大佐』止まりだなんて、許せないしね。私は邪魔な奴を全員殺して成り上がる。バルナバス様の傍にお仕えする為に!!)」
烈歌のキラミス。彼女は新帝国軍の大佐にして、新皇帝バルバナスに心酔する魔種であった。
キラミスが得意とするのは人心の掌握と、歌を介して行使するいくつもの魔術。
「それじゃ、お願いも済んだところで、3曲目!!『氷雷挽歌』ッ!!」
歌声と共に空中に無数の魔法陣が現れ、冷気と雷の嵐が囚人を避ける様に吹き荒れる。熱狂する囚人。
「いいねいいね~!! それじゃあ聞いてください4曲目、キラミスちゃんのとっておき、『魅惑と狂気のパニック・ラブ!!』」
キラミスの歌声が続く限り、囚人達は狂喜乱舞し続けたという。
●
「ご機嫌よう、調子はいかがかしら? ここ最近はあちこちでラッカーレッドな事件が頻発しているわね……さて、今回集まったイレギュラーズのみんなには、ラド・バウ独立区主導の作戦に参加してもらうわ。『帝都中央駅ブランデン=グラード攻略作戦』にね」
『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は集まったイレギュラーズ達に説明を続ける。
「帝都中央駅ブランデン=グラード。名前の仰々しさに相応しい、かなり大きな駅ね。ここを確保すれば、地下鉄、それともこの場合は地下道かしら? ともかくそれを利用して、今後の作戦を有利に進めたい、と。まあそういう事ね。だけど調査を進めた結果、この場所は既に敵勢力に勘づかれて、防衛戦力を敷かれているみたい。それも……『魔種』に、ね。トープな気分になっちゃいそうね」
この場に集められたイレギュラーズ達は、無数の囚人を引き連れ防衛にあたっている魔種、『烈歌のキラミス』と戦闘を行う。
「『烈歌のキラミス』。魔種としての能力か本人のカリスマによるものかは分からないけれど、彼女は新皇帝によって解放された囚人達を各地で仲間に引き入れ、統率の取れた軍隊じみた集団に仕上げたみたい。囚人達は『ファン』としてキラミスに忠誠を誓い、行動を共にしているみたい。人の恋心を利用するなんて……嫌な話ね」
キラミスは現在、複数の出入り口に繋がる通路や、地下への階段に面している巨大な広場を中心に守りを固めている。そして現れた敵勢力を返り討ちにするつもりでいる。
「魔種であるキラミスの戦闘能力が高いのも当然厄介だけど、囚人達の多すぎる数と、死をも恐れない高すぎる士気と、忠誠心から来る完璧な統率も厄介ね。正直な所……この場でキラミスと囚人達を全員討伐するのはとてつもなく難しいと思うわ。けれど、戦力を削いで撃退する事は不可能ではない。と、思うわ」
キラミスは常に笑顔なみんなのアイドルを自称しているが、策謀を巡らせ冷静に戦況を分析する軍師的な一面もある。それ故、敗色濃厚だと判断すれば、被害が広がらない内に撤退すると考えられる。だが、だからと言って作戦が簡単という意味ではない。
「ラド・バウ独立区からも精鋭が送られる。彼らと協力して、作戦を成功させて頂戴。厳しい戦いにはなると思うけど、どうにか作戦を成功させて頂戴。頑張ってね、イレギュラーズ」
- <大乱のヴィルベルヴィント>烈歌のキラミスLv:35以上完了
- GM名のらむ
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年12月07日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「あーあー……んん、ちょっと喉の調子が悪いみたい☆ 親衛隊ちゃん、はちみつ湯ちょーだい☆」
「ハッ!」
帝都中央駅ブランデン=グラードのとある大きな広場。その中心に建てられたステージの端に腰掛けて、キラミスはのんびりと辺りを見回す。
「(私の布陣に問題は無い……敵がどう攻撃を仕掛けてきても、広場に散開した囚人を柔軟に移動させて対応出来る筈。だけど、そう。例えば、例えばだけど……)」
例えば、敵がこれだけの囚人がいると分かっていながら。それでも愚直に一点突破の超攻勢を仕掛けてきたら?
「いいか、よく聞いてくれ。今回の作戦は極めてシンプルだ。一気呵成に攻めて短期決戦を狙う。一気に敵大将を潰しにかかる。分かりやすいだろう?」
『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は、ラドバウからの援軍、4人の闘士にそう説明する。
「わかりやすくていいな」
「小難しい作戦は頭が爆発しちまうから、助かるよ」
闘士達もその作戦に好意的で、素直に受け入れた様だった。
「ダンさん、アンさんは後方から前線のサポートを。マリスさん、バーグさんは前線での攻撃をお願いします。まあどうであれ、暴れるという一点においてブレる事はないですね。要はどこに立って暴れるかという、それだけです」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が補足を加え、作戦前の最後の打ち合わせを終える。
後は、仕掛けるだけだ。
「お待たせしました、キラミス様」
「ありがと☆」
キラミスははちみつ湯を啜りながら更に考えを進める。
「……でもそう、見張り。見張りがいるし……いや、でもあの通路だけは死角が多くて……いやそれでも2人以上一緒に行動してる筈だから、仮に奇襲を受けたとしてもどっちかは大声上げたり連絡を……)」
「ん……偵察通り、そこの角に2人いる……みんな構えて……」
『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は広場に通じる通路、その冷たい壁に手を当て、そこから感じ取った情報を『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に報告する。
「了解……」
ギフトを用いた猫化を併用した偵察を行った汰磨羈。通路の死角の有無、見張りから広場中央のキラミスまでの距離。それらを総合したうえで判断した奇襲に最適なルートを、イレギュラーズ達は進んでいた。
「ん……なんだ、誰か居」
「生憎だが、連絡を取らせるつもりはない。諦めてもらおうか」
汰磨羈は言い放ち、和魂と荒魂が込められた刀身を振るう。白と黒の光を纏った強烈な斬撃が、囚人達をまとめて斬り、そして光が全てを消し飛ばした。
「キラミスが見えた……このまま真っすぐ、突撃して……邪魔な囚人は、退かしちゃって……」
レインの呼びかけに頷き、イレギュラーズ達は一直線にキラミスに向けて駆け出した。
戦いが始まる。
●
「ちょっとだけ嫌な予感がしてきた……親衛隊ちゃーん☆ 散開している囚人ちゃんの何割かを、中央のステージ付近に……」
「その判断は……ちょっと遅かったんじゃないかしら、アイドルモドキさん?」
「え?」
不意に横から声がして。キラミスは声の主に目を向けた。
視界に映ったのは、白目を剥き、こちらに吹き飛んでくる囚人の姿。そして強烈なタックルによって囚人を吹き飛ばした張本人、『凛気』ゼファー(p3p007625)だった。
「アイドルを語るには、あなたちょっと血腥すぎよ?」
ゼファーは軽い口調で言いのけながら、蹴りの連打を放つ。脚先から放たれた衝撃波が更に囚人達を襲い、吹き飛ばす。
「ッ……!! 親衛隊!! 私を守って!! 囚人ちゃん、全員集まれ!! すぐに!!」
「「「ハッ!!」」」
キラミスの即座の号令に従い、動き出す囚人達――だがこの戦いにおいて機先を制したのは、疑いようもなくイレギュラーズ達であった。
「お前たちの敵はここだ! 全員、俺が相手になってやる!!」
「やってやんぞゴラァあああああ!!」
ステージに駆けてくる無数の囚人。その正面にルーキスは飛び出し、刀を突き付ける。その気迫に囚人達の統率が乱れ、キラミスの指示を十全に果たせなくなってしまう。
「「「「吹っ飛べオラァアアア!!」」」」
そしてイレギュラーズ達の後方から闘士によって巨大な砲弾と大矢が放たれた。更に前方に飛び出した2人の闘士によって放たれる攻撃が立て続けに囚人達を襲う。精鋭と呼ばれるだけあって、その攻撃は強力無比であった。
「流石。私も負けていられないな」
闘士に続き、前に飛び出した昴。腕を大きく広げ旋回し放たれた打撃は、文字通りの『嵐』となって囚人達を吹き飛ばす。
「魔種の力は脅威なのは間違いない。それに、取り巻きの数が圧倒的なのも明白……だけど取り巻きの数が多いからこそ、その『数の優位』に驕っているみたいだね、キラミス」
『征天鉱龍』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)が、キラミスに対する若干の嫌悪感を滲ませながらそう呟く。
そしてェクセレリァスは『神滅弓「ワールドスレイヤーⅡ」』の弦を大きく引き、矢を放つ動作を行った。
次の瞬間、魔力が込められたナノマシンと液体金属が混ぜ合わされた巨大な竜巻が生み出され、囚人達を巻き込んでは吹き飛ばし、あちこちで派手な爆発を引き起こした。
「嘘でしょ、ほんとに一点突破する気……? 親衛隊ちゃん、マジで、ちゃんと! 私を守ってねッ☆」
重装備を着込んだ親衛隊、彼らは当然、キラミスの身を守る事に専心する。だが――。
「遅ぇ、何もかもが遅ぇ……既に準備は十全に整った。アンタは確かに『場作り』をしたさ。異常な求心力で数を集め、歌による士気向上……手っ取り早い方法でな。一見、ここは堅牢な要塞。だがここから先は……俺達がそれを『ひっくり返す』為の舞台だ」
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が言い放つと、親衛隊達の足元にどす黒い結界の様な『ナニカ』が広がっていく。それに気づいた次の瞬間、親衛隊達の足元から黒い雨が放たれる。地面より放たれるその黒い雨は、親衛隊達の運命すらも捻じ曲げる。
「か……身体が……」
「悪いんだけどね。まだ終わりじゃないよ……狂信者はどんな場所でも恐ろしい。故に、手も抜けないんだよ」
動きが封じられる親衛隊に、『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は言い放つ。そして静かに親衛隊達に掌を向けて見せた。そこには、小さな切り傷が。
次の瞬間、傷口から血によって紡がれた無数の赤い糸が放たれ、親衛隊達の周囲に張り巡らされる。魔術によって超硬度を得た赤き糸は、親衛隊達の動きを封じ込める。
「も、もうしわけありません……キラミス様……親衛隊一同、深い謝罪の意を……」
「動けないんなら黙ってて、役立たず共!! 囚人!! 敵を囲め!! 一点突破なんて馬鹿な真似は、押し潰してあげるわ!!」
●
「聞きなさい……氷雷挽歌ッ!!」
キラミスが激しく歌う。その声色に込められたのは怒りと、殺意。
イレギュラーズ達の周囲に無数の魔法陣が展開し。氷と雷の嵐が放たれた。
魔種キラミス。彼女が放つ攻撃は、やはり強烈。だがその嵐の中を突っ切る者達がいた。その身に『破砕』と『金剛』の闘氣を纏い突撃したのは、昴だ。
キラミスをかばう為に居るはずの親衛隊はまともに動けず、その接近を許してしまう。
「このブランデン=グラードの各所では、激しい戦いが繰り広げられている……当然お前も必死なんだろうさ。だが……私達もそうなんだ。私の言いたいこと、分かるか?」
昴は硬く拳を握りしめる。キラミスはマイクを構えたまま、憮然と昴を睨み返した。
「なに? 『お願いだからここから退いてください』とでも言うつもり?」
「いいや違う。『さっさとここから消え失せろ』、だ」
キラミスにはその動きを捉える事は出来なかった。昴が放ったその一撃は、城ですら破壊すると言われる鉄帝国の武技。
大きく振りかぶった昴の拳がキラミスの顔面ど真ん中にぶち当たり、何かが折れる音がして、キラミスは鼻を抑えながら数歩下がる。
「か、顔……!! コイツ顔殴った……!! こんな美少女アイドルの顔を……信じらんない……!!」
「キラミス様をよくもぉおおおおお!!」
広場に散らばっていた囚人達は、既にステージの周囲にいた。だが、その動きは次々と封じられ、混乱をもたらす。そしてイレギュラーズ達の一点突破の奇襲が功を奏し、既にその攻撃はキラミスを捉え始めていた。
「(親衛隊の動きが封じられたら、肉壁はほとんど無いにも等しい……使えない部下を回復する意味はない。殺られる前に、殺る!!)」
キラミスは再びマイクを手に取る。次の歌は『業炎賛歌』。イレギュラーズ達の頭上から、火の雨が降り注ぐ。
「どうやら……御主の大事なファンというのは、この窮地において大きな助けとはなっていない様だな?」
降り注ぐ火の雨。汰磨羈は全身から放つ霊気によってそれを掻き消し、キラミスに刃を突き付ける。
「全くね……! アナタ達を殺したら、もっと従順に改造しなきゃならないかも……☆」
「殺したら、か。確かに御主は強いさ。だが、御主は策に負けた。この場は潔くご退場願うとしよう」
汰磨羈が手にした刃に、断熱圧縮した空気が纏う。そして地を蹴り、キラミスとの間合いを一瞬にして詰める。
「こちらには意地と火力がある。その喉笛を掻くき切られるか、その前に退くか。早めの決断をお勧めしておこう!」
刃が振り下ろされる。超高速の一撃は急激な温度上昇をもたらし、紅き焔を撒き散らしながら、キラミスの胸に焼け焦げた深い傷が刻み込まれた。
「…………ッ!! クソ……火力なら、こっちだってある、けど……!!」
囚人達が思いの他役に立たない。数の暴力ありきの戦法は、その優位性が発揮されなければ唯の愚策と化す。
「良くも悪くも粒が揃ってない、ってとこかしら。どいつもこいつも悪い面してるの呆れるところですけど、ねえ?」
ゼファーは小さく笑う。作戦は想像以上に上手くいった。イレギュラーズ達は未だ誰も倒れてはおらず、そしてキラミスは既に撤退の一文字が頭に浮かびつつあった。
「あなたの求心力中々のものみたいだけど、どうやらそれを有効活用出来なかったみたいね……ま、こんな小難しい話はおいておいて。私もあなたにグーパンの1つでも入れておこうかしら」
「舐めんじゃないわよ、人間風情がぁ……!!」
「口開けてたら舌噛んじゃうわよ?」
「……ッ!!」
ゼファーは地を蹴り、キラミス目掛け一直線に突撃する。一見単純な動きに見えるその技は、野性と鍛錬が混ざり合った必殺の一撃。
凄まじい速度でキラミスの鳩尾に叩きつけられた拳が、キラミスの内臓を揺らす。
「あ、そうだ。帰る前にこれだけは言わせて頂戴な。アンタのファンの層、悪すぎよ。もっとイイ子達にウケる様に努力しなさいな?」
よろめくキラミスの顎先にゼファーは3段の連続蹴りを入れ、同時に後方に跳躍して間合いを取った。
「ガッ!! ……余計なお世話ッ!」
イレギュラーズの勢いは止まらない。粘るキラミスに、怒涛の猛攻を次々と仕掛けていく。
「クソ!! キラミス様に近づくな、イレギュラーズ共!!」
「無理な相談だね。だけど、そうだな。君たちが早々に退いてくれるなら、こちらもキラミスを傷つける必要がなくなるよ。早くどこかに行ってくれないかな」
激昂する囚人達に淡々と言い、ェクセレリァスは手元に生み出した火焔の扇を振るう。囚人達が薙ぎ払われ、そして焼き焦げていく。
「だけど本当に数が多い……この数を効率的に使われていたらかなり厳しかったかもしれないね」
囚人達の怒号、キラミスの魔術。イレギュラーズ達の猛攻。様々なモノが飛び交う戦場で、ェクセレリァスは7枚の翼を駆使し即座に天井付近まで飛び上がり、神滅弓を構えた。
「そもそも、だけどね。魔種の取り巻きなんて、やめておいた方がいいよ。使いつぶされて捨てられるのがオチだよ」
そしてェクセレリァスは掌に魔力を込め、矢を放つ動作を行う。すると囚人に再び液体金属とナノマシンの竜巻が放たれ、更に囚人達を追い詰める。
「大分君たちも動き辛くなってきたみたいだね。悪いけど仲間の邪魔はさせないよ……君たちに仕事をさせない事が、俺の仕事なんだよ」
雲雀は囚人達が密集する地点に自ら飛び込むと、再び傷付いた掌を掲げる。
そして放たれたのは、紅い霧。その霧を迂闊にも吸い込んでしまった囚人達は肉体も、精神も、魂も。その全てが蝕まれ、重い呪いを受けてしまう。
「だ、まれ……!! 俺達は、キラミス様の為なら命だって捨てられる……!!」
「んー……その言葉を疑ってはないけど……だからと言って。アイドル信者パワーで押しきれるほど俺達をヤワだと思っているのなら……もっと痛い目を見る事になるよ」
雲雀が呟いた次の瞬間、空気中に漂う血の霧は瞬間的に凝固し、糸の形を成して囚人達を纏めて切り刻んだ。囚人達の動きが更に鈍っていく。
そしてその機を逃さず、ルーキスは囚人達に語り掛ける。
「旗色が変わってきたな。このまま戦い続ければ命の保証は無い……それでもいいのか? 親衛隊とやらの地位も、懸賞金も。死んだら意味がなくなるぞ?」
「う……うるせええッ!!」
囚人の1人が斧を振り上げ、ルーキスに迫る。が、ルーキスは静かに二刀流の構えを取ると軽く振るい、囚人の斧の柄を切り落とす。
「んなっ……!」
「続けるならば命の保証は無いと、そう言った筈だ」
坦々と言い、ルーキスは囚人に向け駆ける。
そして一閃。通り過ぎ様に振るわれた斬撃が囚人を斬り、その命を一瞬で刈り取った。
「撤退するなら早い判断を勧めると、そちらのボスにも伝えておけ……いや、それとも聞こえているか? キラミス。自慢の取り巻き達も大分消耗している様だぞ?」
ルーキスはチラリと視線を向け、キラミスにそう投げかけた。
「キ……キラミス様……確かにこのままではキラミス様の身も……」
「黙ってなさい……この……どこまでも、役立たずな、囚人ども……!! 氷雷、挽歌ッ!!」
キラミスは囚人への回復を一切かなぐり捨て、攻撃に専念していた。
「随分焦ってるみたいだね……けれど、好き勝手はさせないよ」
キラミスの魔術が吹き荒れた直後、レインは7色の光を全身から放つ。その光に包まれ、魔術によって動きを鈍らされたイレギュラーズ達が回復していく。
「めんどくさい真似を……!!」
「キミだって、似たような魔術が得意なんでしょ……? お互い様ってやつだよ……」
レインはあえてキラミスに挑発的な言葉を投げかけていた。
「(撤退を考える一撃は、味方がしてくれる……弱い僕は……言葉で隙を作るだけでいい)」
例え攻撃能力が仲間の方が優れていたとしても。それでも出来る事はある。レインは掌をキラミスに向け、魔力を集中させていく。
「さっきのお返しだよ……」
そう呟いたレインの掌から連なる雷撃が放たれ、キラミスと親衛隊達を貫いた。全身からバチバチと音を立てながら、キラミス達の身体が痺れ上がった。
「痺れる……? いつも相手にやっている事……されて……どう……?」
「クソ最悪な気分に決まってんでしょうがッ……! ああ、もうッ!!」
キラミスの思考が乱される。気を焦らされる。あまりにも展開が早い戦場。キラミスは判断を迫られていた。
「(このまま続けて勝てる可能性は……当然ある。私は1人でも十分強い、けど……このまま押し切られる可能性も同じ位ある。士気も、流石に下がってきている……私は……ここで死ぬわけにはいかない……!!)」
キラミスはマイクを固く握りしめ、構える。
「これより撤退を開始する!! キラミスちゃんファンクラブ会員ナンバー30以上の者はここに残って襲撃者の足止めを!! それ以下のナンバーの者、親衛隊は私に続け!!」
「「「ハッ!!!!」」」
その口調はもはやアイドルではなく新帝国軍大佐のモノであったが、そんな事を気にするものは誰もいなかった。
「判断のタイミングとしては悪くない。けどな……数が多いから余裕で逃げられると思ってもらっちゃ困るぜ?」
カイトはキラミスの撤退宣言を聞いてニヤリと笑みを浮かべる。作戦は、成功した。だが最後まで、『嫌がらせ』を止めるつもりはなかった。
「黒い雨にも飽きてきた頃だろ? 囚人服も纏めて汚しちまって、悪かったな……だから纏めて、洗い流してやるよ」
カイトが呟くと、撤退を開始するキラミス達の頭上に白き結界が構築される。ソレは強く、神々しさすら感じる眩い白の光を放ち、そして白い雨が降り注いだ。
白い雨は全てを洗い流す。汚れも、血も、そしてその命の灯さえも。雨を浴びた囚人達が苦悶の声を上げ、逃れるように走るか、あるいは耐えきれずその肉体が崩壊した。
「チッ……!! こんな陳腐なセリフは言いたくなかったけどね……覚えてなさいよ、イレギュラーズ!! 次はこいつらをもっと『イイ子』に仕上げて……ぶち殺してやるわ!!」
「やってみろよ。そいつらがこの先、本当に使い物になるならな。どれだけ飴をバラ撒いた所で、その士気すらもぶち砕く恐慌を与えれば――人間ってのは、どんな飴でも『味がしなくなる』んだよ、アイドル気取りさん?」
カイトの言葉に、キラミスは更に苦々しい表情を浮かべる。
「だったら、鞭を強くするしかないわね…………次は、必ず、殺す。それだけ覚えておきなさい」
「努力はするさ」
そして、魔種キラミスは去っていった。イレギュラーズへの復讐を誓いながら。
こうして帝都中央駅ブランデン=グラードの広場での戦いは、イレギュラーズ達の作戦と暴力によって、勝利という形で幕を閉じるのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。短期決戦狙いの一点突破が功を奏し、大きな被害が出る事もなく魔種を撤退させることに成功しました。
キラミスは未だ生存しておりますが、囚人と親衛隊もかなりの損害を受けた模様です。
その口ぶりからも、魔種キラミスは再び皆様の前に姿を現す事もあるかもしれません。
MVPはとても迷いましたが、早期決着においてキラミスを護る親衛隊の排除は必要不可欠。そのステップを大きく短縮化する事に成功したあなたに差し上げます。
GMコメント
のらむです。囚人達のアイドルにして魔種、烈歌のキラミス。
彼女と、彼女に心を囚われた囚人達と激闘を繰り広げていただきます。
●成功条件
烈歌のキラミスと囚人達の撃退、または討伐。討伐はとてつもなく高難易度。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●戦場情報
駅内部の大きな広場。広場から外部に繋がる複数の通路や、地下に繋がる階段に面している。
中央にはキラミスが建てた大きなステージが存在する。荒れているが、それ以外に目立った障害物等は存在しない。
●ラド・バウの闘士×4
ラド・バウから派遣された援軍です。
数は少数ですが、個人個人の戦闘能力は最も高いと目されているラド・バウらしく、かなりの精鋭です。
・高い物理攻撃力と出血のバッドステータスを持つ近接列攻撃が得意な双剣マリス
・火炎系列のバッドステータスを持つ中距離範攻撃が得意な巨砲のダン
・凄まじい必殺の物理攻撃力を持つ至近単体攻撃が得意な剛拳のバーグ
・貫通する遠距離物理攻撃を得意とする剛弓のアン
彼ら4人が援軍となります。イレギュラーズの指示には一応従う気はある様ですが、無ければ好き勝手に暴れまわります。
●囚人×???
とにかく数が多い事は分かっていますが、具体的な数字は不明です。
凶悪な殺人犯から窃盗犯まで、様々な経歴を持つ彼らは、個々の戦闘能力もバラバラです。
しかし共通して高い士気とキラミスに対する忠誠を保っており、死すら恐れません。
また、懸賞金とキラミス親衛隊の地位を餌として提示され、更にやる気が高まっています。
囚人達は様々な武器を手に、広場の守りを固めています。
広場に繋がる全ての通路や地下に繋がる階段には常に見張りの囚人を複数人立たせており、警戒しています。
●キラミス親衛隊×???
囚人の中でも優れた戦闘能力と高い忠誠心を持つ親衛隊です。例によって数は不明。
重装備に身を包み、常にキラミスの身を護り、かばう事を最優先に行動します。
高いHPと防御技術を持ちます。
●烈歌のキラミス
新皇帝バルナバスに心酔する憤怒の魔種にして新皇帝軍の大佐。人心を掌握する技術に長けており、解放された囚人達をかき集めて便利な傀儡として仕上げた。
歌を介した高度な魔術も使用可能。現在判明している戦闘能力は以下の通り。
・広範囲の囚人達の様々な戦闘能力を向上させる魔術や、回復する魔術を使用可能。
・『凍結系列』『痺れ系列』の重いバッドステータスを同時に与えてくる攻撃魔術も使用可能。
・その他の種類の魔術を行使できる可能性が高い。
・神秘攻撃力、AP、特殊抵抗、命中の能力に特に秀でている。
・『混乱系列』『足止系列』のバッドステータスは無効。
●撤退について
烈歌のキラミスは戦闘の旗色が悪いと判断した場合、撤退を開始します。
その際なるべく多くの囚人を引き連れようとするでしょうが、同時に囚人を肉壁として使うこともためらいません。
何を持って戦況を判断するかは不明ですが、囚人や親衛隊の数やキラミス自身のHP等は重要な判断材料だと考えられます。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
以上です。よろしくお願いします。お気をつけて。
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