シナリオ詳細
<総軍鏖殺>豚の頬面を殴れ
オープニング
●ブラトン・スレンコヴァという男
「ああん? いいぜ、つまり強ければなにしてもいいんだろぉ!?」
その一言と共に、ブラトン・スレンコヴァの拳が相手の頬にめり込んだ。
長年脂質と糖質を必要以上に溜め込み続け、皺ができるほどたるんだゆるい頬は、波紋が広がるかのようになみうち、そして両目はどこを見るでもなく宙をさまよう。
閉じきれなかったであろう顎が半端に開き、飛び出たよだれが宙を舞う。
このたるんだ男の名を、ボーグ・プタニグという。
ボーグは『ホゲェ』と『ブヒィ』の中間くらいの声をあげ、かるくきりもみ回転を挟んだあと固い地面をバウンドして倒れた。
ボーグは人から殴られたことがなかった。鉄帝でも貴族として知られる親のコネとカネで軍大学を卒業し課程を色々とすっとばして尉官クラスへ昇進した彼は、荒くれた鉄帝軍人を顎で使うことが当たり前だったのだ。
親が老いて病院でぱくぱくするだけになった頃には、彼はすっかりその暮らしが板につき、面倒ごとを全て部下に片付けさせ手柄を自分の名前に書き換え上司に報告するという、絵に描いた悪徳将校へと成長していた。
富、名声、女。世界中の美食。彼はその中途半端な位置にさえ満足していれば、望むものの大半が手に入ったのだ。
ゆえに、新皇帝が即位した際には即座にその軍門に降り、反抗した上官を始末しついでに昇進まで果たしたのである。
そんな彼が、今。頬を殴られ地面に突っ伏していた。
「ハッ」
うつ伏せに倒れていた彼は慌てて上半身を起こし、既に腫れつつある頬を抑えて振り返る。
「き、きき、貴様! こんなことをしてタダで済むと――」
「あ?」
顔を左右非対称に歪め、ブラトンは被っていた軍帽を脱ぎ捨てる。更に軍服にも手を駆け、ブチィッとボタンもろとも引きちぎってその場にジャケットを放り捨てた。
「もうてめぇの指図はうけねえ。文句があるならかかってこいや。いつでも相手になるぜ、『俺たちの街』でな」
そんな出来事があったのが、つい一ヶ月ほど前のこと。
鉄帝の小さな街、ヨシュカ・ヒムキは表面的な平和を保っていた。
「旦那、見回りが終わったんで飯にしましょうや」
ラフな格好をした男が笑いながら声をかけてくる。ブラトンは老婆の荷物を代わりに持って路地を歩いているところだったが、目的地についたらしく荷物を置いて老婆に手を振る。
「そうだな。まだあの缶詰は残ってるか?」
「ベルキャンのトマトビーンズでしょ? まあちょっとはね」
ヨシュカ・ヒムキは人口の少ない街だが、ブラトンが長く務めた駐屯地のある街だ。
一ヶ月前のある日、上官であるボーグはブラトンに首都への招集命令を出し、その際ヨシュカ・ヒムキに備蓄している全ての物資を移動させるよう言い伝えてきた。
倉庫に備蓄された食料や燃料といった物資は、街の人々が厳しい冬を越えるために使われるはずのものだ。それを持ち出すことは、彼らを殺すことに等しい。
当然ブラトンは難色を示したが、大してボーグはこう述べた。
『今の鉄帝は弱肉強食。強ければ奪い、弱ければ死ぬだけだ』
結果、堪忍袋の緒が切れたブラトンは上官の頬に鉄の拳を叩き込み、その場で軍を辞したのである。ボーグは軍規を整備しなかったせいで『脱退は銃殺刑』のような処分方法を用意していなかったらしく、ブラトンは堂々と正面玄関から帰って行けた。実際、このとき何人かの後輩や部下がブラトンと一緒に軍帽を投げ捨ててくれたし、彼が私刑にあわないよう囲むようにして歩いてくれた。
もしかしたら、ボーグの部下達も多少はブラトンと同じ気持ちだっただけなのかもしれない。
『意図的に怠慢になった』何人かの同僚たちに見送られ、ブラトンは軍人から一転、フリーの自警団として街を守ることになったのである。
だが、予感はしていた。
ボーグのような、性根の曲がった男がそれだけで見逃すはずはないのだと。
爆発が聞こえた。
首都の方角からだ。魔導バイクによって駆けつけたブラトンたちが見たのは、ヨシュカ・ヒムキを覆ったバリケードの一つが破壊され、重武装のモンスターたちが入り込む姿だった。
「久しぶりだなぁ、ブラトン」
そして、頬を中心に過剰な包帯を巻いたボーグの姿。
「物資の『回収』に来たぞ」
両腕に装備した巨大チェーンソーを振り回すギルバディア。ロケットランチャーとガトリング砲を乱射するラースドール。
軍によって装備を拡張され通常個体よりも強化されたモンスター軍団が、ヨシュカ・ヒムキの中で暴れ始めたのである。
だが、ブラトンはその光景を黙ってみていた分けではない。
言ったはずだ。予感はしていたと。
そして、予感があるなら準備をするのが、ブラトンという男だった。
「おいシスター、出番だぜ」
「できればこの出番がこないほうが望ましかったんだけれど、ね」
後ろから現れるンクルス・クー(p3p007660)。
「革命派の仲間達を連れてきて、正解だったよ」
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/70740/965db33f1a1db73b6f4dbf5eb081d9ee.png)
- <総軍鏖殺>豚の頬面を殴れ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「ブラトンさんが相変わらず頑張ってくれてて私はとっても嬉しいよ!
それに比べて全く…ボークの方は市民を守る警察が村を襲うなんて嘆かわしいね!
本当にブラトンさんを見習ってほしいよ!
兎も角、街の住民には加護を! 悪い人には天罰を だね!
皆に創造神様の加護がありますように!」
一息にまくし立て、ブラトンの横に立った『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)はファイティングポーズをとった。
といっても、両手の指を組んで胸の前であわせるというシスター然としたポーズなわけだが。
「ンクルスが仲間を呼んでおいてくれたからな、連中を心置きなく迎え撃てるってわけだ」
「えぇ、お手柄よ、ンクルス。良く声を掛けてくれたわね」
『玲瓏の旋律』リア・クォーツ(p3p004937)は肩をぐるぐると回し、今にも相手を殴りつけそうな雰囲気でボーグの軍団をにらみ付けている。
街のバリケードを破壊し侵入したボーグとごく少数の部下。そして武装モンスターたち。
連中がすぐに突っ込んでこないのは、ブラトンだけでなくここに居並ぶイレギュラーズの戦闘力を警戒してのことだろう。
「あたし達が居る限り、決して誰も傷付けさせないわ。
どうしても暴れたいって言うのなら、殴って黙らせるしかないのだけど……覚悟はよろしくて?」
とはいえ、こちらもただ立っているわけではない。
機銃型のヘイトクルーたちが展開しようとするのを、屋根の上から飛び降りた『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が豪快に殴り倒していた。
「あそこに居るブラトンが殴ったせいで顔が歪んじゃってるヤツをぶっ飛ばせばイイんだよね? オッケー! マカセテよ!」
イグナートが挑発的に笑ってみせると、ボーグはその声が聞こえたのかギリッと歯を鳴らしてイグナートを睨む。
「え?顔がブサイクなのは元から……? あっ、ゴメンね……」
「貴様ぁ……!」
「へぇ。あんな勅令が出された後なのに、まだ自分が奪う側だと思ってるんだ?
あの、ぽ…ポーク・豚肉…だっけ?
カネもコネも、今の鉄帝じゃ奪う対象じゃん。
うんうん、そのカネとコネで取り巻きのお人形たちを手に入れたんだよね、分かるよ
結局は人を従えることは出来なかったってことでしょ」
『乱れ裂く退魔の刃』問夜・蜜葉(p3p008210)が追撃を入れてやると、ボーグは顔を真っ赤にして黙った。
「フン……減らず口もそれまでだ。こいつらはただのモンスターではない。グロース将軍の技術部によって武装拡張されたエクストラタイプ。ただですむと思うなよ!」
「にしてもゴテゴテだな、積めばいいってもんじゃ無えだろうが」
ボーグは自慢げだが、『竜剣』シラス(p3p004421)はこれらの相手は別に初めてではない。
運用次第では確かに強敵になり得ただろうが、とりあえつ連れてきてけしかけるだけでは脅威度は低いだろう。
「まあいい、こっちにだって飛び道具はあるんだよ。それより、俺はブラトンが難民キャンプへ移動してくれるのがありがたいね」
「人々を守ることは力あるものの使命って彼女がたまに言ってるんですけどね。
よくわかりませんが彼女がいたなら望んだことでしょうから、だから、仕事としてそして彼女のためにやりきって見せましょう。
これでも妖怪なので、死ななさには大変自信がありますから」
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)も自分なりに意志を硬め、戦う準備は充分のようだ。
ちらりとそんな仲間達をみやる『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)。
「まーね。皆、腹が減ったら飢えて死ぬし、寒かったら凍えて死ぬ。自分でそれらを準備できなかったとか、あるところから貰うほうが早いとか。あるよね」
銃を抜き、状態をチェックする。力あるものが奪う。よくある話だ。パンを盗もうとして失敗した子供がいる。それもよくある話だ。そして力が選択と自由をもたらすというのなら……。
「奪われる側が、黙ってそれを許す道理はないんだよね。撃退されることも、よくある話なんだ」
「ん」
『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は祈りの姿勢をとると、ボーグたちモンスター軍団をにらみ付けた。
「――クラースナヤ・ズヴェズダーの足音を聞け。
我ら全ての民の幸福を願う者なり。
どうかご照覧あれ。その為の殲滅を良しとし、全ての障害を取り除かん」
●
ブランシュが速攻を仕掛けたのはEXギルバディアである。
武装拡張されていないヘイトクルーよりも抑えておく必要がある、と考えての動きだ。
「星の名の下に――ペルセウス!」
人の頭の上を飛ぶようなギリギリの高度を水平に突っ切ったブランシュは、まずEXギルバディアへと基地かかった。
零距離でアッパーユアハートの波動を放射。
巨大チェーンソーで受けたことでぎゃりぎゃりと火花を散らすギルバディア
その表情に変化はない。
(一発目は抵抗しましたか。けど――!)
ギルバディアが彼女を押しのけて進もうとするが、ブランシュはフライトユニットからのスラスター噴射で抵抗。ギルバディアは結局一歩も進めないままブランシュとのつばぜり合いを続けることになった。
「もう『マーク』したのですよ! あなたはブランシュが引き受けるですよ!」
「でかした!」
『竜剣』シラス(p3p004421)はブランシュを引き剥がそうと集中砲火を試みるヘイトクルーたちめがけて突進。
いや、家屋の壁を斜めに駆け上がるようにして高所をとると、宙返りをはさんでヘイトクルーたちの中心に着地した。
着地と同時に地面に魔力を込めた掌底を撃ち込み、放射状に波動を広げる。
周囲のヘイトクルーたちが一斉にジャム(弾詰まり)を引き起こし、混乱したように自ら機銃を見つめる。
そしてシラスによる波動の影響だと察して解除を試みるが……。
「逃がさねえよ」
シラスは今度は立ち上がり、魔力を込めたスタンピングで地面を打ち鳴らした。また別の波動が広がり、ジャムを起こした機銃がその状態のまま固定される。
彼らは舌打ちしたように怒りの空気を露わにし、元凶となったシラスへと殴りかかる。
「おっと、俺に集中してていいのか?」
「はいぱー――」
「怒りの――」
シラスの後方から二つの存在が飛び込み、それぞれの技が炸裂する。
「じゃっじめんと!」
「アックスボンバー!」
ンクルス自慢のバックドロップ後連発。
こんなものをくらったヘイトクルーがぶじで居られるわけもない。同時には成ったブラトンのアックスボンバー(いわゆるラリアット)はヘイトクルーの身体を軽く一回転させたあと頭から地面に転落させた。
立ち上がったンクルスとガシッと握手を交わし、そして後方から迫るそれぞれのヘイトクルーを振り向きざまに殴り倒す。
「うん。うん、丁度良い集方だね」
蜜葉は指で四角を作ってその風景を眺めると、脇差しの『夢幻珊瑚』をすらりと抜いた。
もう一本の『碧玉雪華』はあえて収めたまま、両手で刀を握り込む。
「お人形さんたち、壊してあげるね」
踏み込みとダッシュは、このさい同じ事だった。
蜜葉は数十メートルの距離を一瞬で詰めたかと思うと、ヘイトクルーたちの間を不気味なほどスムーズに駆け抜ける。
そして剣をだらんと下げた時には、ヘイトクルーたちの頭や腕、胴体などが切り離されて地面に落ちた。
「この手応え、ちょっと妖魔に似てるかな? 怒りの具現化っていうくらいだし……」
前の世界で退魔JKだった頃をちょっとだけ思いだし、懐かしい気持ちになってみる蜜葉である。
ヘイトクルーたちはここでやっと、彼らに群がる危険を察知した。
それはボーグも同じだったらしい。腕を振り回し口角泡を飛ばし叫ぶ。
「何をやってるデクども。散れ、散れ! 連中を挟み込んで十字砲火だ!」
「そうはさせません」
鏡禍がいつのまにか……本当にいつの間にかヘイトクルーたちの集団の中心に立っていた。
ハッとして銃を向け、それが使えないことに気付いて殴りかかるヘイトクルー。
鏡禍は鏡のような妖術障壁を作り出しそれを防御すると、タタンッと軽やかに足踏みをした。
するとどうだろう。地面がまるで水鏡のように彼らを映り込ませ、波紋がひろがっていく。
「そんなに恨めしいですか? 怒りが治まりませんか? どうぞこちらへ、僕が全部受け止めてみせますよ」
自らを固定化した障壁で包みながら微笑む鏡禍。ヘイトクルーたちは怒り狂った様子で殴りかかるが、障壁を壊せるほどの威力はない。なぜならシラスによって能力を縛られているためだ。
「僕の鏡が割れるのが先か、仲間が倒し切るのが先か、我慢比べですね」
言葉のわりには余裕のある態度で、鏡禍は自らの障壁に力を流し、そして取りこぼしを起こさないように薄紫色の妖気を流し続けた。
「ありがとう。そいつらそのまま適当に一箇所に纏めてくれる? 後ろから狙うから」
いつの間にか民家の二階に陣取っていたハリエット。窓からライフルを覗かせると、ヘイトクルーに狙いを付けた。
『一体だけに』ではない。視界内に収まる大量のヘイトクルー『全てに』である。
「ロックオン。ファイア」
気分を出すためにかそんなふうに呟いて、ハリエットは狙撃銃を『連射』した。
あろうことかその全てがヘイトクルーたちの頭部に命中。次々とぐらつき、なかにはそのまま倒れ動かなくなる者も。
ハリエットは素早くリロードを行うと、次の連射態勢にはいる。
「さて、と。あっちはどうかな?」
ギルバディアをマークし、ついには【怒り】の付与にも成功したブランシュ。
至近距離でバチバチとぶつかり合っているその後ろから、リアは彼女の回復支援を行っていた。
「そこの女! 邪魔だ、どけ!」
ボーグが叫ぶやいなや、ラースドールが肩の拡張大砲をリアへと向ける。
「あぶないですよ!」
ブランシュが叫ぶが、リアはこの程度の『旋律』は慣れたものだ。
自らに向けられる憎しみや怒り。あるいはもっとどろどろとしたもの。
リアは『ああいやだ』と呟いて、『星鍵」を腰から抜いた。
放たれる大砲。
振り抜く刀身。
リアの前で真っ二つになったそれは、はるか遠くで小さな爆発だけをおこした。
「なっ――」
「そろそろ本気で行こうかしら」
リアはぎろりとギルバディアをにらみ付け、そしてブランシュに『伏せなさい』と呼びかけた。
ハッとして地面に伏せるブランシュ。次の瞬間。ギルバディアの首が切り裂かれて宙を飛んでいた。ブランシュがかなり弱らせていたとはいえ、あまりに豪快なフィニッシュムーブであった。
「なっ――」
吹き上がる血。崩れ落ちるギルバディア。
「武装を強化したところで、指揮官がこれじゃああんまりだわ」
ボーグはただでさえ真っ赤だった顔を更に熱くさせ、歯を食いしばって震えた。怒りによるものか、屈辱を受けてか。
「やれ! 全員殺せ!」
ボーグはラースドールの背後に隠れるように飛び退くとそう叫んだ。
ギュン、とからっぽのヘルメットバイザーを赤く光らせたラースドールは装備していた火器類を全て展開。フルオープンアタックを実行し――。
「おっと」
イグナートの掌底がギルバディアの鎧を派手にへこませ、吹き飛ばす。
地面と水平に飛んだギルバディアはラースドールに激突し、発射態勢にあったラースドールが大きくよろめく。
だがそれで終わりではない。イグナートは大地を走り、停車してあった馬車の天井に飛び乗り、そのまま駆け上がるように民家の屋根へ飛び乗り、瓦をうすく砕くような勢いで走り抜けたかと思うと、ギルバディアとそれにのしかかられたラースドールめがけて流星のごとく跳び蹴りを繰り出した。
実際、それは流星と呼ぶに相応しい。青いオーラを纏ったイグナートは一撃でギルバディアの鎧と肉体を貫通し、ラースドールのボディをもへこませてしまったのだから。
「さ、次はボーグかな? 敵の頭の位置が分かったなら頭から潰す! ゼシュテルマナー!」
立ち上がりニカッと笑うイグナート。
その後ろで片腕を失ったラースドールが立ち上がり今度こそ全ての火気を展開――した途端。
シラスの豪快な跳び蹴りが、ブラトンのパンチが、リアとンクルスによるダブルドロップキックが炸裂しラースドールが民家の壁面に叩きつけられる。
それだけではない。
もう一本の刀を抜いた蜜葉と思い切りブーストタックルをかけるブランシュの攻撃が合わさり、トドメとばかりに鏡禍が放った鏡状の刃がラースドールの頭部を切断した。
ギギッ、と最後に呻いたきり、爆発を起こして沈黙するラースドール。
ボーグはその場にへたり込み、鏡禍が『こいつはどうする?』という顔で仲間を見た。
「新皇帝派の情報を吐いてもらうまで殴る、に一票ですよ」
「だ、だれが――」
ボーグが懐から拳銃を取り出し――た瞬間に、それが手からはじけてとんだ。
別の建物にポイントを移してねらっていたハリエットの狙撃である。
正確な狙撃ゆえに、拳銃だけが手からとんでいく。指はだいぶ痛めたようだが。
「これだけ暴れる力があるなら、略奪じゃなくて他のことに使えばいいのにね」
「く、ふ……」
「私は任せるー。『お話』するんでしょ?」
蜜葉は興味を失ったように刀を収め、代わりにとシラスがボーグの後ろを塞ぐように立った。
(鉄帝の謳っていた弱肉強食も大概だが、こいつのは聞くに堪えないな……)
シラスの姿に怯え、逃げることも諦めて震えるボーグ。
イグナートは今すぐにでもボコボコにする気満々で歩み出たが、シラスがサッと手を出してとめた。
「ブラトン、どう思う」
「ん?」
それまで静観していたブラトンだが、話が彼にむいた途端ボーグは両手を地に着けた。
「た、助けてくれ! お前を軍に戻してやる! 私の口添えなら昇進もできるぞ? な、なあ? いい話だろ?」
にやけ顔のボーグに、ブラトンは拳を握ってふり翳し……『ヒッ』と叫んで身を丸くするボーグを見て腕を降ろした。
「やめだ。こんなやつを殴ったところで弱い者いじめでしかねえ」
「いいのかい? じゃあ不眠不休でじっくりずーっと心折れるまでお説教! ってことでしいかな」
ンクルスがにっこり笑いながらボーグに歩み寄った。
「喜んでくれていいわ。あたしの様な慈悲深い修道女に面倒を見てもらえるのだから」
反射的に飛び退こうとしたボーグの足を踏みつけ、顔を僅かに近づけるリア。
「貴方を立派な難民キャンプを護る自警団にしてあげる。
誰かの為に働く喜びを、たっぷり教えてあげるから楽しみにしていてくださいね?」
「じ、じけいだん?」
「自警団」
その言葉を聞いて、ボーグはなぜだか安堵した様子を見せた。
「ころさ、ないのか……」
「だからそう言ってるでしょう?」
様子の変わりように少し困ったのか、シラスに顔を向ける。
『顔面の形を変えてやったらもっと素直になるんじゃね』というジェスチャーをイグナートとしているので、一旦ハリエットにうつした。ハリエットは『しらない』とばかりにそっぽを向く。
すると、ボーグは慌てたようにリアとンクルスの足にがしりと手でつかみかかった。
抵抗するのかと身構えたが、そうではない。
「たのむ! たのむう! 妻と娘がいるんだ! なんでもする! 妻と娘だけは匿ってくれ! 情報は全部しゃべる! そ、そうだ! グロースのやつは魔――」
途端。
プシュンという音だけがした。
ボーグの額に穴が空き、『あ?』という声を漏らして彼はうつ伏せに倒れ動かなくなる。
ハリエットは勿論、誰も手を下していない。
状況がわかったのは広域俯瞰ができていたシラスだけだ。
「7時方向! 狙撃手(スナイパー)だ!」
防御陣形をすばやくとるが……しかし、追撃はない。どうやら相手は去ったようだ。
「口封じ……なのか?」
「妻と娘……って、言ったわよね」
ボーグの懐からロケットペンダントが転がり出ている。開いて見ると、満面の笑みを浮かべるボーグと幼く可愛らしい娘。そして痩せ型だが優しそうな女性が並んで写った写真があった。
「……グロース」
その呟きは、怒りか、それとも。
ブラトンはチッと舌打ちをして、仲間達にボーグを埋葬してやるように命令した。
「明日にでも、難民キャンプへの移送を始める。そのまえに、こいつに墓を作ってやっていいか。娘がいたなんて、聞いてねえよ……」
受け取ったペンダントを握りしめるブラトンの拳には、確かに怒りが満ちていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ブラトン自警団が革命派に加わりました
軍事力に+10のボーナス!
GMコメント
●オーダー
ヨシュカ・ヒムキの街に襲来した新皇帝派のモンスター軍団。
これを撃退することを、街の自警団ブラトンから依頼されました。
彼らは冬を前にした物資の枯渇を心配しており、この仕事が無事におわれば革命派の難民キャンプへと街の住民達と一緒に移動するつもりだと話しています。
その際物資を渡すことは勿論、ブラトンという元軍人で構成される自警団が難民キャンプの警備に加わってくれることとなるでしょう。
●エネミーデータ
・EXラースドール×少数
拡張装備によって重武装化した自律パワードスーツです。
憤怒の力が宿り取り憑かれたように動き出した怪物で、非常にタフです。
基本のハンマー攻撃にはブレイク効果があり、拡張装備の重火器は非常に高い攻撃性能があります。
・EXギルバディア×少数
大型のクマ型の魔物ですが、専用の鎧や武器を装備させたことでその戦闘力は大きく上がっています。
木々は軽く薙ぎ倒す程のパワーを元から持っており、そこへチェーンソーや斧、巨大なクローといった武器が拡張されています。
近接戦闘に優れ、防御や抵抗の高さとパワーによる突進戦術を使います。
突進には【飛】効果があり、こちらの陣形やカバーを崩される危険があります。
・ヘイトクルー(機銃型)×多数
こちらは拡張されていない通常モンスターです。
満ちる激しい怒りが、陽炎のようにゆらめく人型をとった怪物で、アサルトライフルのような武器を出現させ遠距離攻撃を仕掛けてきます。
個体としては脅威ではありませんが、火力を集中させやすく後方からの援護射撃を行うはずなので、これを早期に排除しておかないとラースドールやギルバディアの攻撃をモロにうけることになってしまうでしょう。
●味方
・ブラトン・スレンコヴァ
元軍人。自警団のリーダーで、腕っ節の強さとカリスマ性をもちます。
あえての徒手格闘で戦い、戦闘スタイルもストリートファイトのそれです。
しかし拳のパワーは人一倍に強く、高いEXF性能と追撃性能をもっています。
彼と一緒に戦えれば手数を稼ぎやすくなるため、攻撃の命中精度を大きくあげることができるでしょう。
また、彼の部下となる自警団は住民非難にあたってくれています。なので戦闘に集中することが出来るでしょう。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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