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シナリオ詳細

魔種メルビルと期待外れな殺戮

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 傭兵団『バーリス』。ラサ傭兵商会連合に所属し、モンスターの討伐依頼を中心に活動している傭兵団の1つである。
 他の傭兵団に比べて規模が大きい訳でも、際立って突出した戦闘能力を持つ戦士がいる訳でもなかったが、彼らは長年の経験で培った息のあった集団戦術を得意としてきた。
 今日も彼らは市民を脅かしていた巨大な毒サソリの討伐を終え。オアシスにキャンプを張って酒を飲んで肉を喰らい、戦いの疲れを癒していた。
「しかし見たかよあのサソリ! 尻尾の針が俺の腕位あったぜおい! よく誰も死ななかったなぁ!」
「団長の指揮があったからこそだろ。全くあの人はスゲェよ」
 ワイワイガヤガヤと宴は続いていた。いつもの光景、いつもの日常。
 だが、そんな日常を破るモノが、現れた。
「おいおいテメェら、あんまり飲みすぎるなよ? 明日も仕事が……あん?」
「こんばんは」
 上機嫌に肉にかぶり付く傭兵、ダダンの前に、ヒョイと1人の男が姿を現した。その男は人間種の様に、見えた。
 その男はボロボロのジーンズに、薄手のシャツを着ていた。他に何の荷物も持っていない。この周辺の砂漠はモンスターだらけの危険地帯。なのに仲間の姿も見えない。
「おう……何だい、アンタ。迷子かい?」
 傭兵たちの間に一瞬にして緊張感が走る。互いに目くばせをし、周囲を警戒する。
「迷子……あー、言い得て、妙だね。何処に行けば分かんないって意味では。道中デカい毒サソリも居たけど弱っちかったし」
「へえ、そうかい。もう一匹居やがったのか、アイツ……アンタはそれを、1人で殺ったのか?」
「そうだよ」
「そいつは、すげえな。で、何を探してるって?」
「マトモに戦える相手」
 緊張が高まる。自分の武器の在処を確認する。しかし男はどこ吹く風で背伸びし、そして傭兵たちが仕留めた毒サソリの死体を発見する。
「ん。これ、キミ達も倒してたんだ。やるじゃん」
「だったら、どうする」
「こうする」
 男の姿が一瞬で掻き消える。少なくともダダンの目にはそう映った。
 次の瞬間、仲間の傭兵の首が宙に舞っていた。男の両腕には鋭い旋風が纏っていた。
「うーん」
「テメェ!!」
 男の背後から2人の傭兵が剣を振り下ろす。男の背を抉る。鮮血が飛び散った。
「おー……やるじゃん」
 背中の傷を撫で、男はパチパチと拍手をする。次の瞬間、男は回転蹴りを放つ。その足先から放たれた鋭い風が、2人の傭兵の胴体を両断した。2人の傭兵は死んだ。
「あー……これで死んじゃうかあ……」
「ヘイズ、ブルージ……!! なんなんだテメェ、何でわざわざ俺達を!!」
「いや、別に」
 風を纏ったその男は、風と暴力、そして死を撒き散らした。傭兵達は次々と男に挑み、そして死んでいく。
「もう。えー、何? 期待外れの的外れ。竜巻使うまでもないじゃん。もっと強い奴はいないの?」
「ここにいる」
 そう答えたのは、殺戮現場に訪れた団長と副団長だった。彼らはこの現場に最初から居合わせなかった不幸を心の中で嘆き、そして傭兵団の全員が死んでいなかった事に僅かに安堵する。
「私は傭兵団バーリスの団長、グレグス。こいつは副団長のイーザクだ。退屈な思いをさせてすまなかったな。もうそいつらの事は放っておいて、我々と戦わないか?」
「いいよ。こいつら飽きたし」
 今しがた胴体を吹き飛ばした傭兵の身体を足蹴にし、男は頷く。
「ほら、消えなよキミ達。もういいから。さっさと帰って別の職にでも就きなよ。むいてないよ、傭兵」
「舐めるな……!!」」
 心底失望したという声と表情。屈辱的な侮蔑の言葉。ダダンは武器を手に男を睨めつけ、他の傭兵もそれに続く。
 だがそんな彼らを、団長は手で制した。
「こやつの言うとおりだ。貴様らは傭兵なんぞに向いていない。だから今すぐこの場を去れ!! そして二度とこの場に戻ってくるな!! いいな!! これは命令だ!!」
 団長グレグスの言葉に副団長イーザクも無言で頷き、さっさと行けと促した。
「だ、団長、副団長……!!」
 見え見えの嘘。あからさまな身代わり。けれど、団長の命令は絶対だ。ダダンは目から血を流す程の悔しさを噛み殺し、頷き、その場を去っていく。
「中々言うじゃん、おじさん」
「そうでもないさ。なあ、アンタ。アンタの望みを叶えるようこっちは最大限努力したんだ。1つだけ、質問をしてもいいか?」
「なに?」
「アンタの、名前は?」
「メルビル。日々に退屈し、刺激を求める、どこにでもいる平凡な――魔種だよ。驚いた?」
「いや、別に」
 オアシスを去る傭兵ダダンが、その道中で思わずオアシスの方を振り向いた。
 そして眼に映ったのは、身体をそれぞれ縦と横に両断された、団長と副団長の姿であった。


「ま、そういう話だ。長話して悪かったな、イレギュラーズさん。で、こっからが本題。俺――いや、俺達からの依頼はシンプルだ。あの魔種を殺すのを、手伝ってくれ」
 傭兵団バーリスの生き残りにして、現団長を名乗る男、ダダンはイレギュラーズ達にそう告げた。
「正直、最初から勝ち目なんか無かった。バーリスの傭兵の半数以上が死んだ。団長も、副団長も。それでも俺達はバーリスを名乗って仕事を続けてぇ。けどその為にはケジメを付けなきゃならねぇんだ。分かるだろ? 相手が例え、魔種だったとしてもだ」
 傭兵団バーリスの生き残りはオアシス襲撃事件の後、あらゆる手段を使って襲撃者の事を調べ上げた。そして襲撃者がメルビルと名乗る魔種である事。そして現在は傭兵団バーリスを襲撃したオアシスを拠点としているらしい事が分かった。
「俺達はあそこにキャンプを張ってたからな。食いもんも水もたっぷり残ってる。恐らく仲間たちの死体もあそこで干からびてる事だろうよ。で、だ。やる事はさっきも言ったがシンプル。俺達はそのオアシスのキャンプを襲撃して、奴を殺す」
 ダダンは大きく息を吐き、目をつぶる。あの惨撃を頭に思い浮かべた。
「メルビルは全身に風を纏う奇妙な能力を持っていた。その風の威力はまさに鮮烈。巨岩を砕き、鉄をバターみたいにスライスしちまう。とにかくひたすらに攻撃力が馬鹿高い。その癖こっちの攻撃はヒョイヒョイ避けやがる。うざってぇ事この上ないぜ」
 そこまでの説明を終え、ダダンは改めてイレギュラーズ達を真っすぐと見つめる。
「これ以上の情報は無い。後はもう、やるだけだ。俺達バーリスの生き残りの事は好きに使ってくれ。あの魔種、メルビルを殺す為なら命を捨てても構わねぇ。だけどその時は、頼むからキッチリ奴を仕留めてくれよな? 頼んだぜ」

GMコメント

●成功条件
 魔種メルビルの討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●戦場情報
 砂漠の片隅あるオアシス。そこを中心に張られたキャンプ。魔種メルビルは食料と水が尽きるまでその場に居座る算段の様で、昼夜問わず無表情で食料や水を貪っている。必要としないのか、睡眠は一切取っていない様子が確認できた。

●傭兵団バーリス
 ダダンを含めた8名の傭兵が戦闘に参加する。
 いずれも戦闘能力はイレギュラーズに劣るが、物理攻撃力はまあまあ高い。ただし命中が軒並み低め。
 剣や斧、槍といった武器を用いた近距離主体の物理攻撃スキルを得意とするが、指示があれば弓や銃などの遠距離武器を装備して攻撃する事も可能。ただしその場合攻撃力が一段下がる。
 基本的にイレギュラーズ達の指示に従い行動する。特に指示が無ければ各々の判断で戦闘を行う。
 魔種メルビルを殺す為なら、死ぬ事すらいとわない。

●魔種メルビル
 強敵との戦いを求める戦闘狂な一面と、面倒くさがりで飽きっぽいを持ち合わせるどっち付かずな魔種。属性は怠惰。自らが追い込まれても逃走を考える事はほとんど無い。
 傭兵団バーリスが思ったほど強くなかったので、現在は不貞腐れ気味。キャンプに残っていた食料を貪りだらだら過ごしている。
 戦闘時には凄まじい衝撃や斬撃を放つ風を全身に纏い戦闘を行う。OPにもあった通り、その攻撃はいずれも凄まじい。また、ダダンの証言より以下の能力が判明している。

・風を纏った単体相手の格闘術は超威力、かつ乱れ系列と足止系列のバッドステータスを与える。
・回転蹴りや手刀から放たれる巨大な斬撃は扇状に広がり、複数の対象を巻き込み出血系列のバッドステータスと『重圧』を与える。
・襲撃時の様子やメルビルの言動から、恐らくその他にも攻撃手段を持ち合わせていると考えられる。
・全体的に暴力的なステータスを持ち合わせているが、HP、特殊抵抗のステータスが一段高く。更に突出して回避、物理攻撃力のステータスに優れている。また、出血系列と足止系列のバッドステータスに耐性を持っている。

 以上です。よろしくお願いします。お気をつけて。

  • 魔種メルビルと期待外れな殺戮Lv:30以上完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年12月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
シラス(p3p004421)
超える者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

リプレイ


「なるほど……んじゃあ俺達は銃に、弓。その辺りの遠隔武器を担いでいくか……ケジメを付ける為だ。何だってやるぜ。命を懸けてな」
 作戦決行数時間前。町の片隅に敷かれたキャンプにて。傭兵団バーリス、その生き残りであり現団長であるダダンは、イレギュラーズ達との作戦会議を終えるとそう感想を漏らした。
「……ダダン。ケジメも分かるがプロの傭兵として『仕事』は頼んだぞ。お前達8人が肝なのだから……私の言ってる意味は分かるだろう?」
『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の言葉に、ダダンは小さく肩を竦めた。
「無駄に死ぬ気はねぇよ……けど、奴を殺す為に必要なら、この命を使っても構わねぇ」
 ダダンの言葉に、傭兵達は一様に頷く。そんな様子を見て、『砂国からの使者』エルス・ティーネ(p3p007325)は心の中で小さくため息を吐いた。
「(傭兵団の皆さんは必死ね……魔種相手に死ぬ気にならなきゃという気持ちは分かるけれど……でも、それではケジメを付けるどころか、傭兵団バーリスそのものが無くなる可能性すらある……そこが心配になるわ……)」
 この様子では、彼らは命など最初から捨てているのかもしれないとエルスは感じ取った。
「気持ちは分からないでもない。だが、必要なのはお前達が生き残り続ける事。この戦いで勝利の鍵となるのは、お前達と言っても過言ではない!」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は、武器の準備を行っているダダンと他の傭兵達を激励する。事実、今回の戦いにおいて彼ら傭兵団は重要な役割を担っている。
「いい奴らだなアンタら……まあ分かった。傭兵団バーリス一同、最後まで戦い抜いてケジメを付けてやるさ。出来れば死なない様にな」
「俺が先に行って盾になるから、皆さんは遠くからの攻撃でケジメをつけてやれ……命を捨てるのは最終手段だ。そうさせないために俺達がいるし、全力を尽くしてメルビルを討伐すると誓うよ」
「そう言ってくれると有難いぜ。本当にな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)とダダンがそんなやり取りを終えた頃には、傭兵団バーリスは出撃の準備が整っていた。
『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)はゆっくりと立ち上がると、拳と掌をバシンと叩き合わせた。
「そんじゃまぁ……行くか。正直、ケジメをつけなきゃらなねえおまえさん達の気持ちは分かる。俺はヤクザだからな……無駄に命を捨てる必要はねぇ。だが全力で奴に当たり、あらゆる手段を使って確実に仕留めるぞ」
 一同は義弘の言葉に頷くと、目的地。かつての惨劇のオアシスに向けて出発した。

「むしゃむしゃ……グビグビ……動かなくてもいいのは嬉しいけど、誰とも戦えないのも退屈で……ん?」
 怠惰な生活を続けていたメルビルはふと、何者かが遠くから自分に近づいてきている気配を感じ取った。寝っ転がりながらそちらに目を向けると、そこには近づいてくるイレギュラーズ達と傭兵団バーリスの姿があった。
「楽な暮らしを出来ている様で結構な事だ……まあ、それも今日で終わりだけどな。魔種メルビル。あるいは底抜けのクソ野郎」
『竜剣』シラス(p3p004421)は既に戦闘態勢を整えていた。すぐに仕掛けなかったのは、目の前の相手が下手な奇襲に引っかかるような実力の持ち主ではないと理解していたからだ。
「あぁ……お客さん? 干し肉食べる?」
「要るかよバーカ。ったく……暴れてぇなら鉄帝にいけや。今なら好きなだけやれんだろ。ラサを荒らされんのは迷惑なんだよ」
『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はそんな悪態をつきつつも、いつ仕掛けてくるか、メルビルの挙動を警戒していた。
「寒いの苦手なんだよね。よっと……」
 メルビルはスッと跳び起きると、ポキポキと首を鳴らす。
「……あれ、後ろに控えてるのは、いつぞやの雑魚一同じゃん。なんでまた来たの?」
「死ねクソ野郎」
 傭兵団バーリス達の目に明確な怒りが宿るが、怒り任せに突撃する事はしなかった。
「まぁいいけど。ほら、始めようよ。戦るんでしょ? 退屈で仕方がなかったんだよね」
「全く……殊更敵意がないならその戦意をモンスター相手に発散すれば良い物を……ここまでくれば全力で討滅するだけだけどね。最期に、退屈だけは埋めてあげようか!」
『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が言い放ち、片手剣を抜くと、それが戦闘開始の合図となった。


「まずは挨拶代わりの一撃だ! 喰らいやがれ!!」
 ルナが戦場を駆けながらウッドストックライフルの引き金を2度引く。放たれた弾丸がメルビルの肩を1発掠め、もう一発は腹に突き刺さった。
「痛いじゃん」
 メルビルの気が一瞬逸れたその隙に、イズマが一気にメルビルに接近していた。
「俺と戦おうよ。そう簡単にはやられないつもりだから、俺を殺すまではよそ見するなよ?」
「え、いいよ。でもあっさり死なないでよ?」
「それはお前次第だな」
 イズマの提案にメルビルはあっさり頷くと、目の前に立ち塞がるイズマに狙いを定める。メルビルは高い戦闘能力を持つが、真面目に戦略を考える性格でもなかった。
「それに、あっさり死ぬのはお前の方かもしれないだろ?」
 イズマは鋼の細剣『メロディア・コンダクター』を構えると、その刃に魔力を込め、そして一気に突き出した。
 突き出された刃はメルビルの腕に突き刺さり。込められた魔力は旋律と共に猛毒の霧と化し、メルビルの全身を包み込んだ。
「へぇ……確かに結構やるじゃん」
「この程度でそう思うのか? まだ終わりじゃないぞ」
 旋律は止まなかった。刃を更に振るうと、響き渡る音色は更に鮮烈に広がり――そして旋律と共に振るわれた無数の斬撃が、一瞬にしてメルビルの全身を斬りつけた。
「音に気を取られちゃった……」
 そうメルビルが呟いた直後。四方八方から弾丸や矢が飛んできた。それは傭兵団とジェイクの一斉射撃であった。メルビルはその射撃の多くを回避したが、その動きを大きく鈍らせた。
「悪くない狙いだ! 次は脳天に風穴空けるつもりで撃て!」
 ジェイクが傭兵団に呼びかけ、彼らは次弾の準備を行う。
「よし……攻撃するなら今だね!」
 カインは動きが鈍ったメルビルを見据えると、全身の魔力を集中させながら、自身の周囲に魔法術式を展開する。込められた魔力に呼応し、カインの身に魔神の力の一部が宿る。
「当たったら痛そうだけど……当たらなきゃいいだけの話だね」
「どうかな? 君は気づいてないけど……さっきの傭兵さん達の攻撃で、動きが鈍っちゃってるみたいだね。君が纏う風の鎧ごと、撃ち抜かせて貰うよ!」
 そしてカインが剣の刃を突き付けると、その切っ先から極太の魔力の光線が放たれた。反応が遅れたメルビルの全身を光線が包み、そして焼いた。
「イタ……キミは確かに強いみたいだけど。雑魚は雑魚だよ」
「どうやら魔種だからってだけの理由で、君は随分傲慢にもなっているみたいだ。魔種とは言え、たった1人にそう簡単にやらせはしないよ!」
 直後、イレギュラーズ達の攻撃が迫るが、幾重にも重なる攻撃を避けたにも関わらずメルビルは軽快な動作で攻撃を避け、風を纏った拳をイズマに突き出していた。
「やるじゃねえか。まさしく蝶の様に舞い、蜂の様に刺すだな。それでも抵抗はさせて貰うけどな」
 シラスはすかさずイズマに向けて手をかざすと、放たれた癒しの福音が傷を癒していった。
「魔種ってだけで討伐する理由には十分かもしれないが……人里や街道近くの害獣退治をこなす傭兵達は、騎士団などいないラサでは重要な人材だ。ここで仕留めさせてもらうぞ、魔種」
 ラダは大型ライフル『KRONOS-I』を構えると、軽やかかつ落ち着きなく動き回るメルビルに狙いを定める。
「やってみなよ」
「言ったな。追い込まれたからと言って無様に逃げたりするなよ」
 そしてラダは引き金を引く。重い銃声が数度鳴り響くと、放たれた弾丸の全てが精確にメルビルの胸に突き刺さり、メルビルは顔をしかめながら胸を抑える。
「おかしいな……こんなに当てられるなんて」
「調子に乗っているからだ」
 ラダはメルビルに言い放つと、声を抑えて傍に居たダダンに声をかける。
「アレがどこまで馬鹿かは分からないが……私達の狙いに気づいて傭兵達に攻撃を仕掛ける可能性も高い……傭兵達には、死ぬ前に退いて欲しい」
「…………さあな。その時考えるよ」
「聞け。お前達の覚悟は分かっているが、胸を張って前団長を弔いたいだろう? そして何より……アレの呼び声には応えるなよ。復讐の力が欲しくなったとしても……それこそ、死んでも応えるな」
「……分かってるよ。あのクソと同類になるなんて御免だ。死んでも、な」
 ラダの言葉にダダンはそう応えると、再び傭兵達と共に一斉射撃を行う。彼らの射撃が、再びメルビルの動きを鈍らせた。
 ダダンの表情には僅かな迷いが浮かんでいた。エルスも、ダダンに語り掛ける。
「あなたは団長でしょう? ダダンさん。私は団長さんとも、副団長さんとも会った事はないけれど……でも。これ以上仲間を危険に合わせる行為を望んではいない筈……私達を頼ったんだから。どうせなら、もっと私達を頼って頂戴」
「……ああ。分かったよ。俺達は、死なねえ。絶対に死なずに、絶対にケジメをつける」
 ダダンは先程とは異なる決意を胸に、銃を構え直した。
「なんか……面倒だなあ……ちゃんと戦いを楽しむ気ある? キミ達」
 メルビルの言葉に、義弘は小さく鼻を鳴らす。
「ハッ、おまえさんの楽しみなんか知るかよ。おまえさんに悪意も何もなかろうが、とてつもない強さを秘めていようが、戦いを楽しむ性質だろうが。そんな事は関係ねえ。俺達はケジメをつけにきただけだ。楽しむのは勝手だが、そのリクエストの応えるかも俺達の勝手だ」
「つれないなあ……まあでも、そこそこ楽しいのは間違いないし。使っちゃおうかな、僕のとっておき」
 義弘にそう言い返して、メルビルは大きく両腕を広げた。瞬間。義弘は考えるよりも早く叫んでいた。
「おい、やべえのが来るぞ! 全員構えろ!!」
 次の瞬間、メルビルの両腕から巨大な竜巻が生成され、放たれた。暴風と風の刃が入り混じった竜巻が、イレギュラーズ達に襲い掛かった。
「ッ、危ねぇ! やってくれたなァ!」
 そんな竜巻のど真ん中を無理やり突っ切って、義弘はメルビルに突撃する。
「……あの中を突破したの? 正気?」
「どっちだって構わねぇよ! おまえさんの顔面を殴れるなら、な!!」
 微かに驚いた様子を見せたメルビル。が、義弘はそんな事はお構いなしに剛腕を振るった。大きな拳は言葉通りメルビルの顔面に突き刺さり、バキリという音と共にメルビルを殴り倒した。
「ハハ……中々面白いじゃん、キミたち」


「さて、と。そろそろキミも限界じゃない? 確かにしぶとかったけど、もう休んだら? そろそろ飽きてきたんだけど」
 メルビルの拳がイズマの胸に突き刺さる。一瞬意識が飛びかけるが、イズマは両脚に力を込めて踏みとどまる。
「『飽きた』だって? そんな言い訳は見苦しいぞ? 俺を殺せないから狙いを変えるつもりだろうが……俺はどこまでも邪魔をするぞ! この程度で諦めると思うな!!」
「しつこいなあ……いいよ。キミもまとめて吹っ飛ばすから」
 メルビルが両腕を広げ、再び巨大な竜巻を放たんとする。
「おい、来るぞ! あんな奴の攻撃に当たって無駄死にする傭兵はいねぇだろうな! おら、もっと走りやがれ! 足掻いてみせろや!」
 攻撃の予兆を感じ取ったルナが傭兵達を煽って回避を促すと、自らの周囲を取り囲むように魔力障壁を展開する。
「あの攻撃は確かにやべーが……砂も巻き込んで視界が悪くなるのは悪い話じゃねー。一発ぶちかましてやっか」
 そして放たれた竜巻。ルナは一瞬にして悪くなる視界に紛れ、瞬時に上空に飛び上がった。暴風と風の刃は障壁によって防がれ、ルナは眼下のメルビルに冷静にライフルの狙いを定める。その銃身と込められた弾丸に、一気に魔力が込められていく。
「さっきから何度もラダを巻き込むような攻撃しやがって。手出してんじゃねぇよ。死ね」
 そしてルナは引き金を引きまくった。瞬間、辺りに雷鳴が幾重にも轟き、天から降り注ぐ雷を纏った弾丸が、雷と共にメルビルを貫いた。
「アガッ…………!!」
 不意の一撃に苦し気に呻くメルビル。その眼前にルナが降り立った。
「聞こえなかっただろうからもう一度言う。死ね。あと一応聞いとくがてめぇ、俺に似た部族とやりあった記憶はあるか?」
「むかついたから答えないよ」
「そうか。やっぱり死ね」
「そっちが死ねバーカ」
 メルビルは舌を出すと再び動きだした。傭兵達の射撃によって動きが鈍らせ、一気に攻撃を叩き込み、そして前衛のイレギュラーズ達がメルビルの動きを抑えて後衛に手を出させない様にする。その作戦は功を奏し、既にメルビルにはかなりの傷を与える事が出来ていた。
「力は強いが、その分かなりのバカで助かった、という所か……だがそろそろ抑え役も限界そうだ。油断は出来ないな……一発も外さない気概で臨ませてもらおう。全て、当てる」
 ラダは冷静に戦況を見定めながら再び引き金を引き、メルビルを撃ち抜いた。
「戦闘が好きではある様だけど……深く考えるのは苦手な様ね。戦闘以外だけじゃなく、戦闘事態も気の抜けた戦いをするなんて。『怠惰』が悪い方向に傾きすぎている様ね」
 エルスはそう言い放ち、『リヴァイ・アポカリプス』を構えてメルビルとの間合いを測る。
「だって面倒臭いし。なんでまだキミ達は生きてるの? そろそろ死んでくれないと困るんだけど」
「世界はあなたの思う通りに動きはしないのよ。好き勝手暴れて、殺して、食べて、寝る。それを許容する程、世界も私達も優しくはない」
 そう語るエルスの全身に、徐々に月の魔力が満ちていく。
 目の前の魔種からは一切の悪意が感じられない。だが例えそうだとしても、倒さなければならない。
「ケジメ、過去の清算……その為に戦うという行為は、やっぱり褒められたものではなかったと思うけれど……それでも、こうして死地に立った以上は、全力でやらせてもらうわ」
 月の魔力を一点に集束させ、破滅の楔が振り下ろされる。冴え冴えとした一撃はメルビルの身体の中心を穿ち、地面に叩き伏せた。
「ウグ……!! おかしいなあ、僕が負追い詰められるなんてあり得ないんだけどなあ……でも理由を考えるのも面倒くさい……とりあえず殺そう」
「負けた事が無くて怠惰だから、戦術の変更も逃走も考えもつかないって訳か……唯のガキだな、こいつは」
 義弘はメルビルの前に立ち塞がり、風の刃を受け止める。怯む事無く放った拳がメルビルを打ち、即座に態勢を立て直した。
「別にいいじゃん……誰を殺したって。そこの雑魚一同のボスだって結局雑魚だったし。僕を楽しませられないような奴が生きてたってしょうがなくない?」
「テメエ……団長と副団長を……!!」
 怒りに顔を紅潮させるダダンを、シラスが手で制する。
「あんな安い挑発に乗せられて死に急ぐなよ、ダダン。アンタらまでやられたら誰がグレグスの意思を継ぐんだ? 誰がこのオアシスを守るんだ?」
「…………悪い」
 シラスは味方の傷を癒しながら、相変わらず飄々とした態度を取り続けるメルビルの前に進み出る。
「どうして自分が追い詰められているのか……と言ったな。理由は1つ。アンタが弱いからだ。魔種という自分の特性を過信し、自分は強いという漠然とした観念に囚われて思考を止めた。どれだけ肉体が強かろうと、そういう奴を弱いと言うんだぜ」
「あー……今のは安い挑発の内に入る?」
「自分で考えろ」
 不意にシラスがメルビルを指差すと、メルビルの足元から超高温の熱波が噴き上がり、その全身を焼く。「熱……」
 たまらず後ろに下がったメルビルの動きがピタリと止まる。その身体が、シラスが仕掛けていた無数の不可視の糸に絡めとられたからだ。シラスは右の掌をメルビルに向けた。
「テメーはもう蜘蛛の巣にかかってんだよ、終わりだ」
 そしてその掌を一気に握りこむと、絡まっていた糸が一斉にメルビルの全身を締め上げ、その運命すらも斬り裂いた。
「その怠惰と傲慢が君を殺すんだよ、メルビル。君の動きは本当に分かりやすかった。超威力の技も、その予兆を読み取るのが容易ならいくらでも対処可能なんだよ!」
 カインは再び魔力の光線を放つ。メルビルはカインが言っていることをまるで理解できなかったが、身体が焼かれている事位は理解できた。
「……あれ、おかしいなあ。血が沢山出てる……なんでだろう、こんな筈ないのになぁ」
 メルビルの表情は変わらない。死が近づいているのに、それを認識すらしていない様子だ。
 そしてジェイクが、傭兵達と共にその銃口をメルビルに向ける。
「強敵との戦いを求めていたんだろう? ならこれがお前にとって最上の結末だ」
「いや、求めてたけど、なんか違うっていうか……なんか嫌だなあ」
 うんうんと首を捻るメルビルに、ジェイクは続ける。
「お前は最初から履き違えていたんだよ。俺達はあの冠位魔種やリヴァイアサンすら倒したローレットのイレギュラーズ……この戦いは、俺達がお前に挑む戦いじゃない。お前が、俺達に挑む戦いだったんだよ。それを間違えた時点で、お前の負けは決まってていたんだ」
「いやいや……え、何? 僕が死ぬっていいたいの? そんな訳ないじゃん。そんな事よりほら、さっさと死んでよこの竜巻で……ほら」
 メルビルは両腕を大きく広げた。しかし竜巻が生まれる事はなく、メルビルはめまいを覚えたかの様によろめいた。
「あ……あれ? おかしい……こんなのおかしいよ……だって僕は魔種で……」
 その隙を、ジェイクは見逃さなかった。即座に手を挙げて傭兵達に合図を出しす。
「撃てーーッ!!」
「「「ウオオオオオオオ!!」」」
 傭兵達が弾丸と矢を撃ち放つ。それはメルビルの右腕を吹き飛ばし、腹を貫き、片目を潰し、心臓を抉った。
「な……なにしてんだよ雑魚共……お前らはさぁ、こう、僕に一方的に殺されてさぁ……」
「もう黙ってろ。聞き苦しくて、見苦しいぜ……ほら、終わりだ」
 そしてジェイクは拳銃の引き金を引いた。重い銃声と共に放たれた最後の弾丸はメルビルの額を撃ち抜いて。
「あっ」
 そしてメルビルは死んだ。なんとも呆気ない結末だった。
「イレギュラーズの力が無ければ、この勝利はあり得なかった……だが、それでもあえてこう言わせて貰うぜ」
 ダダンは、ゆっくりとメルビルの死体に近づき、小さく呟いた。
「お前の負けだ、この雑魚が」
 オアシスには、砂を巻き上げる激しい突風が吹き荒れていた。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

お疲れさまでした。無事に魔種メルビルを討ち果たす事に成功しました。
また、皆様の作戦や説得の甲斐もあり、傭兵団バーリスの生き残りも、勝利を急いだ特攻を行う事も無く作戦を遂行し、怪我人は出たものの死者は出ませんでした。
オアシスで散った傭兵達の遺体は埋葬され、傭兵団バーリスは再始動する事となりました。周辺の魔物討伐に貢献し続けていた彼らは、今後もラサの人々の助けとなる事でしょう。
MVPは傭兵達の指揮と前線の抑えの両面で活躍したあなたに差し上げます。

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