PandoraPartyProject

シナリオ詳細

泡となれば【し】あわせだった

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●哀しき人魚姫の物語
 長い睫毛が揺れる。ほろりと零れ落ちた涙は海に混ざり、小さな泡となって上へ上へと逃れていった。

――かわいそうな人魚姫。ニンゲンを愛したばかりに、そんな姿になり果てて。

 人魚姫の姉たちは、異形と化した彼女のまわりを泳ぎます。
 鱗は大きく育って歪み、牙は鋭く、亜麻色の美しかった髪はいびつに伸びて、近づく臣下の魚達をことごとく絞め殺す――その姿は人魚の化け物以外のなにものでもありません。

『いいの。いいのよお姉さま達。人魚姫は幸せでした。だって王子様は私を愛してくれたもの』

 ほの暗い水の底から、人魚姫は愛しい人へサヨナラを歌います。
 人魚姫は――ある日、人間の王子様に恋をして、自分も人間になる事を望みました。
 夢を叶えるため『海の魔女』へ相談に向かおうとした人魚姫は、その途中で『魔術師グリム』と名乗る魔術師に出会います。

「人魚姫。涙もろく優しい子。海の魔女へ相談してはいけないよ」
「どうして貴方は私の事を知っているの? どうして相談してはいけないの?」

 するとグリムは微笑んで、口元に人差し指をそっと当てながら話しました。

「『海の魔女』は、君を人間にするかわり、大切な声を代償として奪うだろう。それじゃあ気持ちは伝えられない。私なら君から何も奪わず人間の足を与えてあげられるよ」
「それは本当? 私からなにも奪わず、人間の生を与えてくれるの?」

 もちろん、とグリムは笑います。その奥にひそむ狂気に人魚姫は気づきません。
 彼女は人の悪意などというものに出会った事がなかったのです。

「私はなにも奪わない。愛らしい人魚姫……かわりに君へ、沢山の"愛"を与えてあげるよ」

 そうして人間の王子様と恋をした人魚姫は、魅惑の歌声で王子様を喜ばせ、愛し合い――
 口づけをした瞬間、化け物へと変わり果ててしまったのでした。

 めでたし、めでたし。

『いっそ泡になってしまえれば、こんなに苦しむ事なんてなかったのに――』


●And that's All...?(それで終わり……?)
「とある本の王子様から討伐依頼がきた。『毎晩きこえる愛の歌に耐えられない。人魚姫を楽にしてやって欲しい』とね」

 事件解決のため集められた特異運座標は4人。そして担当として宛がわれたのは境界案内人2人だった。
――正確には、ロベリア=カーネイジが扱う予定の事件に神郷 黄沙羅(しんごう きさら)が割り込んできたというのが正しいか。

「黄沙羅、こんな事ばっかりしてるといつか友達なくすわよぉ?」
「元より不要だ。僕は魔術師グリムへの復讐が出来ればそれでいい」
「……そ。言葉足らずなだけで、本当は"お節介"を焼きに来た様に思ってたのだけれど?」

 黄沙羅は一瞬、面食らったような表情をしたが、すぐに「話を続けよう」と青い革表紙の本を捲りながら仕事の顔つきに戻る。

「この異世界は特別なルールに支配されている。それは"涙の数だけ強くなれる"という事だ。君が涙を流すほど強化の恩恵を受ける事ができる」

 そうは言っても、いきなり涙を流すというのは至難の業だ。そこで黄沙羅は、声を落として特異運命座標へ助言する。

「僕にこっそり希望を教えてくれれば、悪夢でも何でも望む幻を見せてあげるよ。泣きそうなぐらいの幻を見ながら戦うだなんて、気が狂ってしまいそうだけれど……向かう先は境界世界。死んだところで境界図書館に戻るだけだから」

 はぁい、とロベリアがひらひら手を揺らす。

「水で戦う力は私が分けてあげましょう。【水中親和】や【水中戦闘】がなくても戦えるようにしてあげる。もちろん、元々もっていた方が動きやすいでしょうけど」

 さぁ、悲劇をはじめましょう。
 そう言ってロベリアは恍惚の笑みを浮かべた。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 涙はいつか、希望へと変わる。

●目標
 人魚姫の討伐

●異世界『《異説》人魚姫』について
  ライブノベルの世界のうちのひとつ。特別なルールに支配された異世界です。
  それは"涙"が力になるということ。この世界では、身体の構造上・心理的な制約により泣く事ができない特異運命座標も涙を流す事ができ、流した涙によってさまざまなバフがかかります。
  涙の種類は問いません。ワサビ食べて辛いとかでも、悲しみの涙でも、幸せな涙でも。流した一粒一粒が貴方の力になるでしょう。

  フィールドの大半を海が覆う異世界で、人魚姫との戦闘は海中で行われます。
 『境界案内人』ロベリア=カーネイジの助力により、【水中親和】や【水中戦闘】がなくても戦う事はできますが、持っていくと有利に戦う事ができます。

  交戦場所は深海で、フィールドに遮蔽物などは無いものの、やや薄暗くなっています。

●エネミー情報
『嘆きの怪物』人魚姫×1
  人間の王子様と恋に落ち、その代償として化け物になってしまった人魚姫。
  嘆きの涙により強化され続けた身体は全長十メートルほどにまで成長し、悪意をもって伸びた髪は近づく者を【足止め】しようと締め上げ、
  遠くにいる者には歪な鱗を飛ばして【出血】させてきます。

  また、毎ターン嘆きを込めた歌を歌い、フィールド全体へ物理攻撃および神秘攻撃にデバフをかけてきます。支援が得意な仲間を頼ったり、この世界のルールを上手く活用して対策するとよいでしょう。

 海底の悪霊×たくさん
  無念を抱えて亡くなっていった者達の亡霊。人魚姫の歌に引き寄せられ、毎ターンどこからともなく複数体現れます。
  1体の力はそれほど強くはありませんが、囲まれると少々厄介なエネミーです。


●NPC
 どちらもサポート用の魔法をかけた後は、安全な場所で皆さんを見守るようです。呼ばれなければ特に活躍はしませんが、何か求められればサポートはするでしょう。
 自衛可能な程度の戦闘力はあるようです。

『境界案内人』神郷 黄沙羅(しんごう きさら)
 謎多き女性の境界案内人。男装の麗人で、白い中折れ帽と白いジャケットがトレードマーク。
 プレイングにて指定いただければ、皆さんに臨む幻をかけてくれます。

『境界案内人』ロベリア=カーネイジ
 拘束衣を彷彿とさせる装束を身に纏い、足を戒めた姿の妖しい女性です。
 皆さんに水中で戦うための魔法をかけてくれます。
 
●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上となります。それでは、よい旅を!

  • 泡となれば【し】あわせだった完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月26日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ


 さざ波が慰めの歌になる。
 岸壁に立ったまま、『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は海を見つめて待っている。この波の向こうにいるはずの人が、帰ってくるのを待っている。
 手にした手紙にはたった一言。

『真実の愛を見つけた』

 それだけで心が切り刻まれる思いだった。

――ねえ、真実の愛って何。僕にくれたのはまがい物だったというの?

 そんな考えに至るたび、目頭に熱いものがこみ上げて来る。

――認めない。いっしょに過ごした短くも濃密な時間、たしかに君は愛をくれた。あれはまごうことなく愛だった。

 でも僕はこの世界へ呼ばれた時、もう何も我慢しないと決めたから。探しに行くよ君を。
 こうしてはいられない。旅支度を始めよう。涙は相変わらず止まらないけれど、その意味はきっと変わっているはず。

 いつの間にか、さざ波の音は消えていた。だってここは光も届かぬ深海だ。波の音など届く事はないだろう。
 現実に戻って来たのだと睦月は悟り、ふぅと息を吐いた。

「僕がいちばん視たくない幻をみせてくれるなんて、さすが黄沙羅さん」
「すまない」
「嫌味じゃないですよ。誉めてるんです。あの幻は僕の心の弱さが招いたものだから」

 溢れた感情が涙となって溢れていく。こぼれた涙は輝きを帯び、あの日の決意を後押しする様に彼女の魔力を高めていく。

「可愛そうな人魚姫。愛する人と結ばれて、未来を失ってしまった哀しみを……僕たちが止めてみせます!」

 ロベリアに援護を頼みつつ、睦月はワールドエンド・ルナティックで悪霊を薙ぎ払う。いつもより身体が軽いのは、あの日の絶望を越えた自信があるからか。ふと、そんな睦月の耳に誰かの叫びが届く。それが意外で目を見開いた。いつも気だるそうな彼が、どうしてあんな絶叫を?

「あんな幻が幸せであってたまるかあぁーーー!!」

 時は数分前にさかのぼる。

「涙の数だけ強くなれる世界ね。まるでアスファルトに咲く花のようにってか?」
「明日は来ない。少なくとも、今の人魚姫には」

 分かった様な返しをする黄沙羅に、『隠者』回言 世界(p3p007315)はポリポリと頬を掻いた。

「涙を流せなんて言われても、ここしばらく泣いた覚えもない俺はどうしたらいいのやら……」
「どんな涙でもいいんだよ。悲しくても、楽しくても」
「それなら楽しげな幻を見せてくれよ。内容は任せるから」

 この時、世界は思い出すべきだった。去年のシャイネンナハトは黄沙羅のせいで、寒空の中ひたすら雪だるまならぬ虚無達磨を量産する事になったのを。彼女の発想は世界の望みと、どことなくずれている。ゆえに幻を任せてしまえば――

 どざざーっ!
「ふがごご、ぐふっ!?」
 口を開けばすぐにでも甘いものが流し込まれる。閉じてなくても鼻から、となれば息すら出来なくなりそうで。

「よし。嬉し涙が止まらないようで何よりだ。世界は甘い物が好きだと聞いていたから、ひたすら口に白砂糖を流し込む夢を見せて正解だったな」
「あれの何処が楽しい夢だよ、ちっとも『よし』じゃねぇわ! クッキーとかチョコとか甘味が食べ放題ならともかく、原料オンリーはただの拷問にしかならないが!?」
「そうか。ではやり直そう、血管にチョコレートを流し込まれる幻とか……」
「そこは普通に食わせろよ!!」

 八つ当たり気味に放たれたネイリング・ディザスターは呪念ましまし、悪霊の奥で歌い続けている人魚姫まで蝕んでいく。そこへ鮮烈なほどの赤き呪いが加わって、呪いの血花が海の底へと咲き誇る。――『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が蛇巫女の後悔を放ったのだ。

「すました顔で泣きやがって。大丈夫なのか、アーマデル」
「……ああ。悪霊と人魚姫。未練に縛られて逝けないもの達を、往くべき処へ送らねば」

 今までの共闘で、アーマデルは表情から表情を読み取りにくいタイプだと世界は察していた。だからこそ心配したのだ。目元を覆う『星晦ましの目隠し布』が濡れている。嗚咽をあげる事もなく無表情のまま涙を零す彼は、壊れてしまった人形の様で。

『俺には、わかりません。涙を流せません。俺は道具なので――』
『喋るな!!』

 首筋に走った鋭い痛みも、責めるような怒号も、全ては失われたもの。
 師兄に憎まれている事すら知らず、縁を紡いだことも知らず、振り払って逝かせてしまった。

『寂シイ。置イテイカナイデ――ソウダ。何モカモ、冬二抱カレテシマエバ!』
『弾正!!』

 物語世界で反転した恋人を斃してしまった。

『『でも今は、兄さんの大切な人を守りたい』』

 恋人の弟さえも守れない――嗚呼、そうだ。俺はいつでも、今でも『巧くやれない』
 寸足らずで、或いは冗長に過ぎて、帯に短く襷に長く、『ちょうどよく』できない。
 失敗と後悔を無造作に積み重ね、不安定に揺れるその足場を渡っている。

 泣く余裕があるなら努力を重ねよと、師兄は言った。足りなければできる事を重ねて補うしかないのだと。

――泣いてもいいのだと、言ったのは誰だっただろう?

「くっ……!」

 海底へ引きずり込もうとする悪霊を、英霊が残した未練の音が涙の力で遠くまで響き渡り、悪霊を引き裂いていく。人魚への道は拓けた、後は攻め入るのみだ!

「攻め込むぞ。早く終わらせないと胃もたれで気絶しそうだ」
「待ってください! ハインさんは何処に?」

 世界の背中に声をかけながら、睦月は辺りを見回した。『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)の姿が見当たらない。幻を見せていた黄沙羅もだ。

「睦月殿、二人ならきっと大丈夫だ。信じて進もう。俺達の心が枯れる前に」

 この時、隠密に秀でたアーマデルですらハインが"すぐ傍にいる"と気づく事はなかった。
 人は、独りでは生きていけない。その最たる例が『認知』。本当に自分はそこに存在しているのか、第三者がいる事ではじめて証明する事ができる。

(……何もない、何も)

 争いの騒音も色も全てを失った。その幻影は、ハインが最も恐れる世界を映し出していた――否、映し出す物すら何もない。
 あらゆるものに価値を見出す者が恐れる世界……万物が無価値と化した世界。





















 どう、と水を伝って衝撃が辺りへ響く。己がそこに在ると言わんばかりに力強く創世の光が放たれた。ウークナルーーハインが放った一撃は、人魚の歌を悲鳴へ変える。

「よかった、ハインさん! どこにいるのかと心配して……ハインさん?」

 理知的で落ち着いた雰囲気のハインが、ぼろぼろととめどなく涙を零している。睦月が心配そうに声をかけると、ハインは震える声をしぼり出した。

「あの幻の中では……僕などというものは存在しませんでした。僕自身が認識も記憶もできないものを、他の誰が認識し、記憶できたのでしょうか」

 ハインが何を見たのか。それは誰にもわからない。ただひとつ解る事は――その涙の理由が悲哀でもなく恐怖でもなく、絶望によるものだという事。

「僕は僕以前の幾億もの人々と同じように、そして僕の後の幾億の人々と同じように、虚無へと消え去りました。僕が忘れ去られることを誰も気にかけませんでした」

『なんて恐ろしいお話。そんな事を体験したら、息をするのも苦しいでしょうに』

 人魚姫は歌い続ける。その旋律にのせて心の内に語り掛けるのは、彼女の思念か悪夢の続きか。ブロンドの髪を大きくうねらせ特異運命座標へけしかける。

『眠らせてあげる、永遠に。涙が枯れ果ててしまう前に。だって私は幸せ――』
「それでもダメなんです! 貴方だって、望めばもっと掴める幸福がきっとある!」

 終焉の帳を振らせ、睦月が吠える。愛する人と結ばれたばかりに新たな不幸を背負う。それでも満足してしまう気持ちが、痛いほどよく分かるから。
 間髪入れずに蛇腹剣の刃が人魚姫を捉えた。歪な鱗をこそぎ取る様に振るいながら、アーマデルは歯噛みする。頭の中に引っかかる違和感。それを誤魔化す様に追撃を食らわせて。

『どうして抗うの? 殺されるのが怖いなら、自分で命を断てばいいのに』
「何を言っているのか、理解できないな」

 辛辣にも取れる彼の言葉は無自覚ゆえ。それが故郷で施された洗脳によるものだと、アーマデルは未だ気づけない。

「読み終わった物語は死んだ物語とは呼びません。ですが、忘れられた本(せかい)は死んでしまう」

 愛を求め全てを失った者の嘆きと悲哀の涙。それを上回る涙を流さなければ、この歪な人魚姫も無へ消えてしまう。そうはさせないとハインは渾身のビッグバンで人魚姫の悪意を吹き飛ばす!

『あぁぁ! 痛い、痛い。なのにどうして、どうして……心が、温かいの』

 人魚姫の涙が止まった。身体が崩れゆき泡になっていくのを、世界はよしとしなかった。流した涙の数だけ支援もバフがかかるなら、或いは。

「涙の数だけ強くなれる世界ね。まるでアスファルトに咲く花のようにってか?」

 明日は来るよ、君のために。イネス・ハーモニクスの柔らかな光が、泡の中から小さな光――人魚姫の魂を包み込む。注がれた賦活の力は人魚の生命力と絡み合い、元の美しい人魚姫の身体を形成しはじめた。

「彼女は治ったのですか?」
「さぁな。眠ったままかもしれないし、目覚めるかもしれない」
「とにかく王子様の元へ連れて行きましょう」

 希望はあります、と睦月が元気づけるように笑む。ハインと世界は頷いて、人魚姫を陸へ引き上げるべく泳ぎ出した。
 ほぼ同時、アーマデルは別の方向へ剣の刃を翻す。騒ぎの元凶たる魔術師が見物しているかもしれないと気を張っていたのだ。剣先に確かな手ごたえ。逃げる様に去った黒い影は血の跡を残して消えた。
(今のが本当にグリムとやらだったのか……)
 ふと、青ざめている黄沙羅と目が合う。

「大丈夫か?」
「は、ハインが見た幻は、幻じゃない。思い出した、僕の過去……僕のいた本(せかい)は、死んだんだ」

成否

成功

状態異常

なし

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