シナリオ詳細
<総軍鏖殺>業脚ガジ
オープニング
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「あむあむ……まあ、出してくれた事は感謝しとるがのう。わざわざこんなジジイまで出すとは、余程節操がないんじゃのう。あむあむ……」
手枷を付けた老人は、ぼやきながら果実を頬張る。飲み込むと、地面に散乱した食料の中から同じ果実をヒョイと器用に足で掴んで宙に放り、これまた器用に口でキャッチし、頬張る。
地面に散乱しているのは、食料だけでは無かった。そのすぐ傍らに、名も知れぬ商人の一団、その死体が転がっていた。彼らは都合の悪い時に、都合の悪い連中に目を付けられた――市中に解き放たれた、囚人のグループに。
彼ら商人の死体は、どれも無残なモノだった。刃で身を斬られたもの、銃弾で蜂の巣にされたもの。しかし彼らの中で最も多かった死因はそのどちらでもなく。頭部や胴体がひしゃげる程の衝撃を受けた事による撲殺であった。
「こ、この……畜生共が……!」
「あむあむ……知っとるよそんな事……プッ。仕留め損なっとったか。苦しい思いをさせてすまんかったの。ほれ」
頭部に致命傷となる傷を受けながらも、辛うじて生き延びていた1人の商人。武器を手に必死に立ち上がる商人をチラリと見た老人は、口から果実の種を吐き出すと飛び上がり、その商人の頭部に渾身のかかと落としを叩き込んだ。頭部が砕け、今度こそ商人は死んだ。
商人の死を見届けると、老人は血塗れの足で再び果実を掴み上げ、頬張る。
「あむあむ……腹ごなししたらさっさと出発するぞい、お前さんたち。しかし本当に良いのか? ワシがリーダーで」
老人は、自分と同じく食料を貪っていた男たちに声をかける。彼らはいずれも複数の殺人の罪で投獄された、凶悪な囚人たちである。
「誰も異論なんかないですよ、ガジさん。俺らの中じゃあ、間違いなくあんたが一級だ。罪状の数も、実力も。なによりその蹴りを見りゃあ、文句があったとしても引っ込みまさぁ」
「ほーん。そんなもんかのぉ、あむあむ……じゃが言っとくがワシ、向上心とか無いからな? どうせそう遠くない内に老いかつまらん病で死ぬじゃろうし。折角出れたんなら、死ぬ前に出来るだけ多く殺しちゃおーって、そんだけじゃからな? あむあむ……」
ガジと呼ばれた老人。この老人は彼らの会話で分かる通り、ここに居る凶悪な囚人達の中でも群を抜いて凶悪で強靭な囚人だった。ガジはその蹴り技のみで実に100件近い殺人事件を起こしてきた。
ガジは足さえ使えば戦えるし、何の支障もなく生活できる。故に手枷は付けていても何の問題もなく、そして面倒くさいから外していなかった。
「だから良いんですって。それこそ、俺らにそんな向上心がある様に見えます?」
「見えん」
「でしょう? 結局楽しみたいだけなんですよ、俺達も。そしてあんたとなら、その楽しみがもっと享受できるだろうって、それだけの話です」
「そうか……若いのに死に急ぐ奴らじゃ……ま、ええわい。ほんじゃ、今度こそ出るぞ。標的は、市街地の市民たちじゃ。適当に暴れて、適当に殺しちまえ。あむあむ……」
彼らは血と暴力を求め、街道を進む。
●
新皇帝によって恩赦を与えられ、解き放たれた囚人たち。その一部が徒党を組み、各地で暴れまわっている。
「そして、彼ら囚人のグループの1つ。凶悪な連続殺人犯であるガジと呼ばれる男ををリーダーに据える囚人たちが、現在ラド・バウに向かっている。彼らを討伐、あるいは撃退するのが、今回の君たちの仕事だよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズ達に説明を続ける。
「彼らは囚人の身でありながら悠々と街道を闊歩し、出くわす人たちを見境なく襲撃している。キミ達はその街道の途中で待機し、現れた彼らに戦闘を仕掛けるんだ」
幸い、今から向かえば彼らが目指しているであろう市街地から大きく離れた地点で戦闘を仕掛ける事が出来る。一般市民たちへの被害を気にせず、戦闘に集中する事が出来るだろうとショウは言う。
「彼らの正確な人数は不明だが、少なくとも全員が複数回の殺人を犯した凶悪な囚人だ。油断は出来ない。まあ、もちろんキミ達なら油断なんてしないだろうけど」
ただ、とショウは付け加える。
「さっきも言った囚人のリーダー、ガジと呼ばれる男。奴は他の囚人とは一線を画した能力を持っている。その蹴り技だけで数多の殺人を行った彼を捕まえる為に、多くの兵士が犠牲になったとか。そして捕らえれれてからかなりの時間が経った今でも、彼の脚技は全く衰えていない様だ」
誰を警戒すべきか、と聞かれれば、間違いなくこの男だとショウは言う。
「と、まあ。こんな所かな。彼らは既に多くの犠牲者を生み出している。容赦も躊躇も。まあ、必要ないかな……これも、もしかしたらキミ達には余計なアドバイスだったかもしれないけどね」
そう言って、ショウは説明を締めくくるのだった。
- <総軍鏖殺>業脚ガジ完了
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- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月17日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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「あむあむ……」
業脚ガジと囚人たちは、街道を進む。
目指すはラド・バウ。目的は殺戮。動機はただ楽しそうだから。
これまで気まぐれに人を殺してきた彼らは、きっとこれからもそうするのだろう。
彼らが明日の朝日を望むことが出来れば、の話ではあるが。
「業脚ガジ、といった、か。足癖の悪さは筋金入り、というわけ、だ」
「…………プッ」
ガジは果実の種を吐き出し、『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)を。眼前に立っていたイレギュラーズ達を見据える。
「親のしつけが足りんかったんじゃろう。で、お前さんらは?」
「処刑人」
「そうか」
エクスマリアの言葉に軽く応え、ガジはポキポキと首を鳴らす。囚人たちも武器を構える。周囲に、ひりついた空気が流れた。
「じゃ、やるか」
軽い口調でそう言って、ガジは不意に地を蹴り飛び掛かる。
戦いが始まった。
●
ガキン!! と、まるで金属がぶつかり合うような衝撃音が響き渡った。
「ジイさん。歳の割にちょっとはしゃぎすぎじゃないか? 順序ってものがあるのを知らないのか?」
ガジの攻撃を受け止めた『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)。ガジの鋭い蹴りを、その鍛え上げられた大腕で受け止めていた。
「挨拶代わりの一発という奴じゃよ。若い癖に元気が足りんのではないか?」
「どうだか。だけど私は礼儀正しい事がウリなんだ。だから挨拶には……」
昴は拳を握りこみ、そこに激しい雷を纏わせる。
「元気な挨拶で返してやるよ」
そのまま至近距離から放つ雷の拳。それはガジの胸を捉え、ガジは僅かに顔をしかめて数歩下がる。
「目が覚める一発じゃ。ボケ防止には丁度良さそうじゃな」
「口が減らない奴だ」
昴は軽く拳を払い、間合いを詰めながら自らの肉体に『破砕』と『金剛』、2つの闘気を練り上げその身に纏う。
「お前、防御も得意らしいな? なら、受けてみろ」
「ええぞい」
昴が拳を振り下ろし、ガジがその脚で受け止める。再びガキン!! と、衝撃音が鳴り響いた。
ガジと相対するイレギュラーズもいる中、他のイレギュラーズや囚人たちの戦闘も始まっていた。
「細かいことを考えるのはお互いトクイじゃないだろう? シンプルにオレたちを倒せれば今後もシバラク好き勝手出来るよ! かかって来い!!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は囚人達のど真ん中に突撃すると、挑発するように意気揚々と名乗りを上げる。
「馬鹿が。自分から囲まれに来るとはな」
囚人はイグナート目掛け鉈を振り下ろす。だが、イグナートは囚人の腕に手刀を放ち、軌道を逸らす。
「ケンカを売る相手を選ばない連中に言われたくはないね! 理由なくケンカを売ってイイのは自分より強いヤツか悪党だけさ!! それに……」
イグナートは体勢を低く構え、拳を固く握る。
「本気で何の考えもなしに敵に突っ込むわけないだろう? まとめてぶっ飛ばす!!」
跳躍と同時に放たれる無数の拳。全方位に放たれる打撃は、囚人たちを纏めて打ち上げた。
「耐えたか。戦闘能力をそれなりに持っているというのは本当みたいだな」
『黄泉路の楔』冬越 弾正(p3p007105)はその眼で敵を分析する。
「だが、そこまで時間がかかる事はなさそうだ。追撃する」
弾正は武術兵装『平蜘蛛』を展開。前に出たイグナートを巻き込まないように座標指定を行い、スロットにUSBを差し込んだ。
すると平蜘蛛から独特の機械音が鳴り響く。その音は共鳴しながら音のオーラと成り、そしてクイナの形を成した。そして、一斉に射出。
「雨に降られぬ術がないように、この音からは何人たりとも逃れる事は叶わぬ。さぁ、受けてみよ!!」
降り注ぐ無数のクイナは囚人たちの全身に突き刺さり、数人の囚人が地に伏した。
「まぁったく、奴らも牢の中で肉体を鍛えておかんからああなる……」
「鍛えた結果行うのが、魔獣の様な殺戮か? 悲しくなってくるな」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)は二振りの刀を手にガジの前に立つ。
「真面目に鍛錬を行う奴が清い心を持つとは限らんのじゃよ、坊主」
「その様だな……これ以上被害が拡大する前に、カタを付ける……!!」
ルーキスは目の前の老人を睨みつける。刀を構え、その隙を伺う。
「………そこだ!!」
ガジの首目掛けて放ったルーキスの一振り。しかしそれは紙一重の所で避けられる。
「甘い甘い……」
「お前がな」
次の瞬間、ほぼ同時に放っていた2度目の斬撃がガジの脇腹を捉えた。傷口を通し、強力な神経毒がガジの全身を駆け巡る。
「イッタ……ワシにもちゃんと通ってたんじゃな、血」
「全くもって意外だ。ただ殺したいから殺す御主らは最早、獣ですらないただの害悪、抹消すべき災厄そのものだというのに」
ガジの側面の立ち位置を確保した『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が、背後からガジにそう言い放つ。
「酷い物言いじゃの」
「……貴様と言葉を交わす時間も惜しい。余計な手間をかけるつもりも無い」
汰磨羈は全神経を集中させ、和魂と荒魂を刀身へと注ぎ込む。黒と白の光を同時に放出するその刀身によって、太極を生成する。
「纏めて消し飛んで貰うぞ」
「……ッ!!」
ガジの反応が遅れた。次の瞬間、黒と白の狭間から放たれた無極の光が、ガジとその背後に立っていた囚人たちを焼く。
「今のは……痛いな……!!」」
背後の囚人たちは消し飛び、ガジも中々に手痛い一撃を食らっていた。
「これで終わったと思ったか?」
息を整えるガジに、汰磨羈は『汞手』を放つ。水行のマナから形成されたそれは、ガジの肉体の一部を握りつぶし、そこから得た霊力を汰磨羈は吸収する。
「ガジさんが押されている……! クソ……!」
囚人の1人が歯噛みする。噂には聞いていたが、ここまでの実力者だとは。
「確かに数では劣っているでしょう。しかし個々の質と連携で、あなた達に負けることはあり得ません……さあ、囚人の数が減ってきました! このまま一気に押し切りましょう!!」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は仲間達に呼びかけ、自らも剣を構え囚人たちを目標に定める。
「仮にここで敗れれば、次の対策を立てる前にこの囚人たちは街に到着するでしょう……負けるわけにはいきません……!」
オリーブは剣を構え、何度も振るう。その刃は何物をも捉えてはいなかった。だが、
「なん……グアアッ!!」
突如、囚人達に鋭い傷が刻み込まれた。オリーブは見えざる無数の斬撃を飛ばし、それらが囚人たちを一瞬にして切りつけたのだ。
「この野郎……!!」
斬撃から逃れた囚人が槍を手にオリーブに突撃する。その切っ先がオリーブの肩を掠めたが、オリーブはそのまま剣を水平に構える。
「ここです」
そして地を蹴り一気に間合いを詰めると、槍を持った囚人の胸に刃を突き立てた。胴体を貫いた刃を引き抜くと、血を噴き出しながら囚人は息絶えた。
「はぁ、ワシに付いてこなけりゃあもうちょい長生き出来たじゃろうに、バカな奴らじゃ」
「当然の報いって奴だよ。殺すことに抵抗も何も感じない文字通りの畜生には、相応しい結末だ」
「まあ確かに」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)の言葉に、ガジは頷いて返す。
「それは君もだよ、ガジ。楽しむ暇は絶対に与えない。ただただ思うように体を動かせることなく、俺たちに一方的にやられて死んでくれ」
「そりゃあまあ、不可能じゃの」
「どうして」
「ワシはこの状況を、心の底から楽しんどるからの。カッカッカ……!!」
「嫌な話だ」
雲雀は『呪刀・黒妖』を構え、刀身に呪力と魔力を込めていく。
そして横薙ぎの一閃。振るわれた刃から黒い熱砂の嵐がガジと囚人たちを包み込んだ。呪いの力に耐えきれず、更に囚人が力尽きる。
「ゲホ、ゲホ……こりゃあ参るのう……弱っちいとは思うておったが、こうもあっさりとは……」
咳き込みながらガジはぼやく。囚人たちは、すでにその半数以上が倒れていた。
「君たちが全員死に絶えようとも。殺された人々と残された人たちの恨みは晴れはしないだろうけど……それでも、これ以上好き勝手されるよりは何百倍もマシだろうさ」
「ハン、なんじゃいお主、他人や死者の為に戦う性質か? つまらんぞそんなん……よっと」
砂埃を払い、ガジは雲雀に向け蹴りを放つ。その脚先から放たれた衝撃波が雲雀に迫る。
「余計なお世話だよ」
雲雀は軽く身を逸らしながら妖刀を振るい、衝撃を逃した。
「う~~む、結構ヤバいのう……お前さんたち、ワシの代わりに死んでくれたりせんか? 饅頭ならやるぞ」
「言った、だろう。これは、処刑だと。その自慢の脚でも踏み越えられぬものがあるのだ、と。今日、お前は、知るのだ。だから、死ぬのは、お前、だ」
エクスマリアの髪が微かにゆらめき。エクスマリアは手袋であり魔力媒体でもある『黒金絲雀』に魔力を込め、掲げる。癒しの力が天より降り注ぎ、仲間のイレギュラーズ達の傷を癒す。
「それでワシのプライドをへし折ろうとでも? カカカ……ワシは凶悪な人殺しで、碌でもなく、これまで死ななかったのはただ運がよかっただけ。そんな事はとっくに理解している」
「それを理解したうえで、何のためらいもなく悪逆非道を、そんな老体になるまで続けるお前は、救いようもない。心の底から、そう思う」
「そうかい。ならさっさとするんじゃな。ちょっとだけ楽しみなんじゃよ、死後の世界」
「言われずとも、送ってやる。地獄、に」
言葉を交わす最中、密かに魔力を込めていた黒金絲雀をエクスマリアは再び掲げる。
そして降り注ぐ鋼鉄の流星群。逃れる術はなく、そして防ぐ術もない暴力に、ガジと囚人たちは巻き込まれる。地面が抉れ、轟音が鳴り響く。
後に残ったのは、流星群に巻き込まれ倒れ伏した囚人たちと、額と脚から血を流すガジ。
「きっついのう……牛乳を飲んでなきゃ骨が折れとる所だった」
「ガ……ガジ……さん……」
「なんじゃ、まだくたばっとらん奴がいたのか。別に逃げても構わんぞ、まあ無理じゃろうけど」
「ク……!!」
ガジの言葉を聞き、生き残りの囚人が全速力で駆け出した。
「スースラ殿、奴を頼めるか。死に体でたった1人で何が出来るとも思えないが、民家に逃げ込まれても問題だ」
「いいだろう。だが、こいつはしっかり仕留めてくれ」
弾正の言葉に頷き、元闘士のスースラ・スークラは逃げ出した囚人を追跡する。囚人は直に討伐される事だろう。
そして残ったのは、ついにガジ1人となった。
「ふぅー……お、ポケットに饅頭入れとったの忘れとった。儲け。あむあむ……」
この場に残った囚人は大半が死に、残りは気絶した。大勢はもう決したと言ってもいいだろう。だがガジは表情を変えない。
「まあ、まだワシ死んどらんし。逃げるつもりもないし。折角ならもうちょい楽しませてくれ、イレギュラーズ」
ガジは饅頭を飲み込むと、ニカッと笑顔を向けるのだった。
●
戦いは続いた。仲間の囚人が全員倒れても尚、ガジは意外なほどにしぶとく戦い続けていた。
蹴りの勢いは衰えない。戦闘の初期からガジと戦い続けているイレギュラーズ達にはかなりの疲労と傷が溜まってきていた。
「まだまだ死なんぞ。そんなもんか? イレギュラーズ」
「ここまで来て軽口を叩けるその胆力は大したものだ。だが、身体が温まった後の俺は強いぞ、ご老人!!」
弾正は高まっていく自らの力を感じながら。ガジにそう言い放った。
「ほう? 試してみよう」
ガジは傷だらけとは思えない身のこなしで跳躍し、イレギュラーズに突撃する。そして軸足を思い切り地面に叩きつけると、何人ものイレギュラーズを巻き込む蹴りの連打を放つ。
「グ……!! まだまだだな!!」
蹴りの応酬に胴体を2発、顎を1発蹴られた弾正。だが怯むことなく平蜘蛛のスロットに再びUSBを差し込む。瞬間、ガジの眼前に出現した黒い魔力の塊が、轟音を立てて爆発し、ガジの顔を焼く。
「ゲホ……!」
「そろそろ、見えてきたな、業脚ガジ。もうすぐ、だ。もうすぐ、終わらせて、やる」
エクスマリアは仲間の回復に徹していた。どうにもガジはこの逆境を受けて、焦るどころかむしろ力が増している様にすら見える。
「そうかい。なーんか名残惜しいのう。死ぬのは一回こっきりじゃからのう」
ガジは回し蹴りを放ちイレギュラーズ達の身体を打つ。即座にエクスマリアが前線のイレギュラーズの傷を癒す。
「御主が望むか望まざるかに関わらず、直に殺られる側の気分を味わうことになる。存分にな!!」
「ま、別にええけどな。じゃが……ワシより一足先にお前さんが体験してもいいんじゃぞ?」
汰磨羈の言葉に軽く応え、出し抜けにガジは頭部目掛け回し蹴りを放つ。
「!!」
瞬間、汰磨羈の脳天に凄まじい衝撃が響く。ガジの必殺の蹴りが直撃した。汰磨羈の視界が黒く染まっていく。
「カッ……!! まだだ、因果応報という言葉の意味を御主に理解させるまで、倒れはしない!!」
パンドラの力によって意識を取り戻した汰磨羈が、ガジの首筋に刃を突き出す。首が抉れ、大量の血が噴き出した。
「グオッ……!!」
首を抑えるガジの額に脂汗が伝う。
「好き放題暴れられて楽しかったか? そして、ようやく理解したか? もうお前は他者に暴力を与える側に立ってはいない。お前が嫌になる程に、暴力に晒される番だ」
「ゼエ…ゼエ……お前さんもしつこいのう……」
拳を構え向かってくる昴を見て、ガジは防御の構えを取る。だが、ここまでの戦いでガジは理解もしていた。
目の前に立つ女の暴力は、生易しいものなどでは決してないのだと。
「何度でもくらわせてやる。そして死ぬ前に気づけ。お前らがやってきた『ソレ』は、決して許されるものではないのだと」
暴力を体現する昴の拳が、構えを取るガジの脚とぶつかり合う。衝撃音の中に、バキリと何かが砕け散る音がした。
「……!!」
ガジの脚の骨の一部が砕ける音だ。その一撃は昴の拳にも大きな負担をかけていたが、そんな事は些細な事だった。
「クク…………」
ガジは笑っていた。なにもかもが楽しく面白いとでも言うように。
「この老体でこの身のこなしと精神力……1つの技を極めるには、相当の鍛錬が必要だったはず……それなのに、なぜ……!! 何故その力を人に向けようと思ったのか。他に活かす道は幾らでもあったはずなのに……!」
目の前の老人は確固たる強さを持っていた。だがその強さが、ルーキスに複雑な感情を与えていた。
怒りなのか悲しみなのか哀れみなのか。それがなんだったのかは誰にも分からない。
「さあてな……忘れちまったよ。あんまり深く考えるな小僧、ワシは人間以下の俗物じゃ。同じ人間と思うな」
「…………」
ルーキスは無言で刀を振るう。三連の斬撃が、ガジの身体に更なる傷を刻み込んだ。
「クク……ククク……ゲホ、ゲホ……!!」
ガジの動きは徐々に鈍くなっていた。しかしそれでも放つガジの蹴りは、やはり強烈で。数人のイレギュラーズに致命的なダメージを与えていた。
「本当に……1人でここまで粘るとはな……だがまだ俺は立っている。立っているなら、手を止める理由はない!!」
「…………」
剣を携え迫るオリーブを見て、ガジは無言で飛び上がる。そして脳天目掛けたかかと落としを放つ。
「当たるか……!!」
脚が脳天に直撃する寸前、オリーブは咄嗟に体を捻りそれを回避。勢いのまま放った回転斬りが、ガジの太ももを抉る。
「カハッ……!! ク、クク……!!」
もはや傷の無い場所を探す方が難しいほどにボロボロ。しかしガジは倒れず、ニヤニヤとした笑みを消さない。
「骨を砕かれ首も脚も内臓も抉られて。それでもこの状況を楽しんでいるのかい? 全く……本当に、嫌な相手だ」
雲雀はどれだけ動きを封じ攻撃を繰り返してもすべてを楽しもうとするガジに、思わずため息を吐く。
喜びながら死ぬなど、あまりにもこの男に部不相応すぎると確信していたというのに。
「なんじゃ? 不満か?」
雲雀は答えない。答えても相手を喜ばせるだけだ。雲雀は妖刀をガジの胸に突き立てる。直後、雲雀の傷口から飛び出した鋭い血の刃が、ガジの全身に突き刺さり、更なる傷を与える。
「ガ……グフ、ゲホ……!!」
ガジは血を吐きよろめいた。しかしガン! と地面を踏みしめ立ち続ける。
「終わりだよ。ホント、勿体ないよ。鉄帝は弱いととっても生きづらい土地だけれど、逆に強ければどうとでも生き方がある土地でもある。だから、ホント。モッタイない」
「ククククク……それはお前さんがマトモに生きる事の出来る人間じゃから言える事じゃよ、小僧。何度生まれ変わろうが、きっとワシはこの生き方しか出来ん」
「さあどうかな? だってまだ死んだ事が無いんでしょ?」
「……ふん、それもそうじゃな」
ガジは脚を構え、イグナートは拳を構える。
「脚技は腕技の3倍の威力がある。ということは腕を脚の3倍鍛えれば、自在に動かせる腕の方が有利ってことだ!」
「若造が。お前さんがワシの3倍も身体を鍛えていると?」
「最後に試してみる?」
「いいじゃろう」
ガジは言い放つと、飛び上がる。狙うはイグナートの脳天。イグナートは拳を構えて待ち構える。
「……ハッ!!」
ガジの蹴りが放たれた。それがイグナートのこめかみを捉える寸前。イグナートは跳びあがりながらその顎先にアッパーカットを放つ。
メキメキと鈍い音を響かせながらガジの身体が浮き、そして地面に落ちる。
一瞬の空白。無音が辺りを包み込む。
切らせていた息を整え、イレギュラーズ達がガジに近づく。
そこに居たのは、腹の立つニヤついた表情を浮かべたまま息絶えた、老人の姿だった。
●依頼結果
囚人業脚ガジ、並びに他9名の囚人が死亡。他2名の囚人が重傷を負いながらも生存していたため、ルーキス・ファウンがその身柄を拘束し、身柄をラド・バウの自警団に引き渡す。
イレギュラーズ8名においては数名の戦闘不能者が出たものの死傷者は無し。
以上の結果を以て、業脚ガジを中心としていた囚人グループの討伐を完了とする。
各員においては各拠点へと帰還し、戦いの傷を癒してほしい。
以上。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでした。ガジは中々にしぶとい老人でしたが、仲間の囚人を含め無事全員討伐する事が出来ました。
鉄帝の混乱はまだ続きそうですね。囚人たちも、まだまだしぶとく存在している様です。
GMコメント
のらむといいます。よろしくお願いします。
蹴り技を使う殺人鬼と、仲間の囚人たちと戦って頂きます。
●成功条件
囚人ガジと、その仲間たちの討伐、あるいは撃退。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●フィールド情報
戦場となるのはラド・バウに続く街道。街からは遠く離れており、また周囲には一般市民は存在しない。
周囲に目立つ建物や障害物等もなく見晴らしも良く、戦場としては極めてシンプル。
●囚人たち
正確な数や武装は不明。しかしある程度戦闘慣れしていると思われる。
彼らの襲撃を生き延びた生存者の証言によると、剣やナイフなどの近接武器を持っていた囚人も居れば、銃やクロスボウなどの遠距離武器を持っていた囚人もいたらしい。
●囚人ガジ
熟練の蹴り技を駆使する老人にして、凶悪殺人鬼。幸運にも恩赦を受けたこの機会を活かし、死ぬ前に可能な限り殺しまくって楽しんでやろうと考えている。
戦闘時には脚のみを使って攻撃する。生存した目撃者が少なく、またここまでの道中でガジを本気にさせた相手もいなかっただろうと推察できるため、その詳細な技のレパートリーに関しては未知数。ただし数少ない生存者の証言により、以下の情報は判明している。
・能力値は特に物理攻撃力、防御技術に秀でている。
・頭を狙った単体を標的とした強烈な蹴り技はかなりの高威力かつ『致命』のバッドステータスを与える。
・複数を纏めて蹴り飛ばす蹴りの連打は、乱れ系列のバッドステータスを与える。
以上です。よろしくお願いします。
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