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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>拳を掲げ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 朝の光が灰色の通りをゆっくりと照らし始める。
 白い蒸気が街の彼方此方から上がり、帝都スチールグラートが『目を覚ます』光景は、冠が別の者に頂かれようともさして変わらなかった。
 地面に反射する陽光がゆっくりと影の位置を変えていく。

 簡素なベッドから起き上がった『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)はうんと伸びをしたあと、窓を開けて秋の風を部屋の中に招き入れた。
「うむ、今日も良い調子だ!」
 降り注ぐ太陽に向かって筋肉を見せつけるアンドリューは歯を見せて笑う。
 背後から物音が聞こえ、アンドリューは勢い良く振り返った。
 部屋のドアが遠慮がちにノックされ顔を覗かせたカイト(p3p007128)に安堵の表情を浮かべる。
 幼い頃に親友から命を狙われ隻眼となったアンドリューは無防備な状態の物音に敏感だった。
 昨日からカイトが泊りに来ている事をすっかり失念していたと友人に向き直る。

「おはようカイト! 良い朝を迎えられたか?」
「おう……朝から元気だなお前」
 アンドリューの大きな声にカイトは手で顔を覆った。まだもう少し目覚めに時間が掛かる。
「しゃきっとしろカイト! 良い天気だぞ!」
 窓の外を勢い良く指差したアンドリューの大胸筋がぷるんと揺れた。
 固そうに見えて意外と柔らかいのかもしれない。
 そういえば、この大胸筋で何かしらの罠や猫を感知していたなとカイトは胸をじっと見つめる。
「どうした?」
「いや、その大胸筋センサーどうなってるのかと思って……」
 口にしてからカイトは己がまだ寝ぼけているのだと自覚した。
 友人の胸を見つめて何を言っているのかと一気に目が覚める。
「……何? 大胸筋センサーが気になるだと?」
「いや、何でも無い。すまん寝ぼけてた」
 頭を抱え手を前に出すカイト。

「触ってみるか?」
「え?」
 突拍子も無い言葉に思わず呆けた顔を浮かべたカイト。
 視線を上げればいつも通りのアンドリューの笑顔がある。
 この筋肉バカは己の肉体美を疑わない。それだけ鍛え上げているという自負があるのだ。
 だから、友人が大胸筋が気になるといえば喜んで触らせてくれる。そういうヤツだ。
 カイトは己の掌とアンドリューの胸を交互に見つめ、神妙な顔をした。


「この辺りまで来ると危ないから気を付けるんだぞ」
 アンドリューはかくれんぼをしていた子供を抱えあげる。
 視線を上げれば街の中は以前より雑草が増えていた。手入れする人が居なくなったのだろう。
 通りの奥は建物が倒壊し、通れなくなっていた。
 こういった入り組んだ場所は子供達の恰好の遊び場なのだろう。
 動乱の鉄帝国においてラド・バウ独立区は闘士達によって安全が守られている地域である。
 それでも新皇帝派が牛耳る帝都の只中にあるのだ。
 闘士達の監視が及ばない場所では、か弱い子供達は嬲り甲斐のある兎でしかない。

「子供達のお守りも仕事のうちってことか」
 赤い翼を広げたカイト・シャルラハ (p3p000684)が子供を担いで肩車に乗せる。
「そうだな、彼らは自分の置かれている状況をまだ上手く把握していない」
「いつも遊んでた場所が、突然戦場になるって……こわいね」
 平和が崩される恐怖は誰もが忌避したいと思うだろうとフラーゴラ・トラモント(p3p008825)は視線を落した。不思議そうにフラーゴラを見上げる幼子の手はあたたかい。
「でも、周りが戦争していようと子供達には笑っていてほしい。その子供達を守る大人も笑っていてほしいと俺は思っている。だから、俺は闘士をしているんだ」

 幼い頃に闘奴として売られてきたアンドリューは生きる為に必死だった。
 表情はいつも険しく、子供らしからぬ尖った性格だっただろう。野良猫のようなものだ。
 それが親友ダニー・ダロンドとの出会いで大きく成長した。
 苦しい生活もダニーが居れば楽しかったのだ。
 しかし、親友はアンドリューを殺しに来た。必死に抵抗したアンドリューは左目と親友を同時に失った。
 今でもダニーが自分を殺したかった理由は分からずにいる。

「俺が幼い頃体験できなかったものを、この子達には知ってほしい」
 アンドリューは両手に抱えた子供をエッダ・フロールリジ(p3p006270)へと渡す。
「そうだな……」
 この鉄帝国ではアンドリューのような過酷な生い立ちは幾らでも転がっていた。
 新皇帝が掲げた『弱肉強食』は秩序をも無くすようなものだが、それでも鉄帝国は以前から強きものが生き残る厳酷な国だったのだ。
「だったら、守らないとな」
 アンドリューの背をバンと叩いたのはシラス(p3p004421)だった。
 シラスとてスラム出身で泥を啜って生きて来た人間だ。己が強さを求めのし上がって来たのと同じようにアンドリューも闘奴として血を流したのだろうと親近感を覚える。
 身体中に刻まれた傷跡がそれを物語っていた。
 ルーキス・ファウン(p3p008870)はアンドリューの肩に手を置いて頷く。
「子供達を送り届けて試合が終わったら、何か食べにでもいきましょうか」
 アンドリューから子供を受け取ったルーキスは軽々と片腕で抱き上げた。
「良いわね! この辺でおすすめのお店教えてよ」
 幼子を抱っこしたセチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)が目を細める。
「おう! カフェ・クナイペという店が俺のお気に入りだ」
「へえ、何があるんだ?」
 子供を肩車した日向 葵(p3p000366)は髪を引っ張られながらアンドリューへ顔を上げた。
「まず、旨いブルストとビールだ! マスターがこだわって作っているブルストはいくつか種類があってな。プレーンが一番旨味が強いが、ピリ辛のチョリソーやガーリック、ハーブのやつも味が違って旨い! それに合わせるビールの苦みが溜らない。ブルストの新鮮な味わいが再び口の中に戻ってくるんだ!」
 目を輝かせ熱く語るアンドリューにカイトが笑みを零す。

「じゃあ、試合が終わったら皆で行くぞ!」
 昔は分からなかったけれど――
 戦いの最中だからこそ、生きる為に娯楽は必要であると今では分かる。
 だから、アンドリューは人々が明日を向けるように、その拳をファンファーレに掲げるのだ。

GMコメント

 もみじです。アンドリューと沢山あそびましょう!

●目的
・アンドリューと遊ぶ

●出来ること
【A】~【D】まであります。
 1つだけでも複数選んでも大丈夫です。
(行動は絞った方がその場の描写は多くなります)

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【A】アンドリューと交流試合

○闘技場ラド・バウ
 鉄帝国首都スチールグラートの闘技場。
 交流試合ですが、観客も沢山居ます。
 ファンファーレや声援がイレギュラーズを迎えてくれるでしょう。
 基本アンドリューと一人ずつ試合をします。
 声を掛け合ったり、肉体で語り合ったりしましょう。

 国内が混乱と戦いの中にあっても娯楽というものは生きる糧となります。
 それを与えるのがラド・バウの闘士である自分の役目だとアンドリューは思っています。

 アンドリューはイレギュラーズの身体の動きをとてもよく見ています。
 どう魅せるかという点は気になる所。
 スキルの由来や技を放つ時に心がけていることなどを戦いの中で教えてあげてください。
 アンドリューは「凄いぞ! マイフレンド!」と言って褒めてくれます。
 何故ならこの国の為に戦ってくれているイレギュラーズが大好きだからです。

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【B】皆で宴会

○カフェ・クナイペ
 美味しいご飯とお酒が飲める大衆酒場。
 テラス席で飲めば心地よい秋風が吹いてくることでしょう。

 お勧めはブルスト。これは欠かせません。
 他にもビーフストロガノフ、チキンカツレツ、お肉の串焼き、シュクメルリ、サーモンマリネ、スブプロドクチイ、アクローシュカ、ピロシキ、ガルショーク、ペリメニ、セリョートカ、サーロ、アグレツ&カプスタ、冷製ボルシチ、クワス、モルス、お芋サラダ、塩漬けのお肉やお魚などなど。

 アルコールはビール、ヴォトカ、クワス、バルチカ、ワインやチャチャ、蜂蜜酒等。
 未成年はソフトドリンクやジュースです。

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【C】散歩

○ラド・バウ独立区を散歩
 比較的安全な場所をアンドリューとお散歩できます。
 闘奴として売られてきたアンドリューはこのラド・バウ周辺で育ちました。
 つまり、アンドリューにとってこのラド・バウ独立区は庭なのです。
 先日助けた孤児院の子供や、避難してきた人達が次々と声を掛けてきます。
 彼らと一緒に遊んでもいいですし、アンドリューと二人でお散歩も楽しいでしょう。

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【D】お泊まり会

○アンドリューのお家にお泊まり
 人気闘士となってきちんとした家を持ったアンドリュー。
 闘奴として売られてきた彼は『自分の家』に憧れがありました。
 家族向けのアパルトマンなので一人で住むには少し広いです。
 ベッドはアンドリューのものしかないので、リビングの大きなソファやラグの上で毛布に包まって雑魚寝します。お泊まり会の醍醐味ですね。もちろんアンドリューも雑魚寝です。

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●NPC
『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)
 拳を使った攻撃が主体ですが、蹴り技体術なども得意です。
 刃物は使いません。

 イレギュラーズにはとても好意的です。大好きです。
 筋肉を褒めてくれます。筋肉を見せつけてきます。
 イレギュラーズと仲良くなりたいと思っています。

 酒も大好き、肉も大好き。
 にこにこでイレギュラーズと言葉を交すでしょう。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>拳を掲げ完了
  • GM名もみじ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月17日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
シラス(p3p004421)
超える者
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)
約束の果てへ

リプレイ


 爽やかな秋晴れの空にファンファーレが鳴り響く。
 鉄帝国帝都スチールグラードの大闘技場ラド・バウには多くの観客が集まっていた。
 内戦状態にあるこの国だからこそ、人々を勇気づける娯楽は必要なのだ。
『黒顎拳士』アンドリュー・アームストロング(p3n000213)は己が戦い人々に勇気を与えることに対して誇りを持っている。

「アンドリュー、初めましてね! 私はセチア! 鉄帝の看守よ! 共に鉄帝を救いましょうね!」
「ああ、よろしくなセチア!」
「うんうん……今日は1日楽しみましょ!」
 闘技場のアリーナへと姿を現した『秩序の警守』セチア・リリー・スノードロップ(p3p009573)はアンドリューに手を差し出す。大きな歓声と共に二人の戦いが始まった。
 セチアはアンドリューの逞しい身体を見つめ筋肉を大切にしているのだと頷く。
「私は看守よ! どんな状況だろうと精神を揺るがす事はないし、人に裸を見せて恥ずかしい等と思う程、軟な鍛え方はしていないわ!」
 バっと赤いコートを脱ぎ捨てたセチアはアンドリューに習って闘士スタイルだ。
 勿論サラシを巻いているから安心安全!
「うむ! イイ筋肉だぞ! セチア!」
 セチアにとって看守とは囚人を明るい未来へ導く者のこと。悪人だから殺すのが正しいなんて認める訳にはいかない。だから彼らを生かしたいという願いを持った上で技を使う。
「副行動は刑務所五訓、復唱!」
 セチアにとって刑務所五訓は人の規範となるもの。
「報われず裏切られ続ければ、腐らずにそう有り続けるのはきっと難しい……故に看守は尊く強い。
 そして貴方も皆も看守なのよ、アンドリュー!」
「すごい気迫だぞ、セチア!」
「アンドリュー、私の看守の精神を乗せた攻撃を受け止められるかしら!?」
 セチアの攻撃に観客の歓声が盛り上がりを見せる。

 次に現れた『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)に観客が響めいた。
「エーデルガルトだ!」
 観客はエッダの姿に待ってましたと言わんばかりに声援を送る。
 彼女の拳はその堅実さにある。一見すれば派手では無い打ち合いに見えるかもしれない。
 されど、一度エッダの戦いを見たものならばその洗練された技術に目を奪われる。
「久し振りの手合わせだな!」
「ああ、今回も観客を楽しませるとしよう」
 アンドリューの拳が小さく弾かれ重心が僅かに傾ぐ。その隙間をエッダの拳が穿った。
 興行には向かないとエッダは自嘲するが、アンドリューは彼女の戦い方がとても好きだった。
「イイ……とてもイイ動きだ、エーデルガルトォ!!」

 沸き立つ声援を伴ってアリーナへと出て来たのは『竜剣』シラス(p3p004421)だ。
 ラド・バウは真剣勝負であると同時に興行、客が求めてるアクションを察して決める事が求められる。
 シラスはアリーナの中央へと歩み、アンドリューの前に立った。
 肩に羽織るジャケットを投げ捨て、鍛えた上半身を見せつける。
 そこから拳を上げ高らかに宣言すれば。
「ブッ飛ばしてやるぜ、アンドリュー」
 闘技場が熱気に包まれた。
 アンドリューはシラスの鍛え抜かれた身体に目を瞠る。
 しなやかな指先から繰り出される連打の威力は、アンドリューの視覚の外から降ってきた。
「イイ……素晴らしいぞシラス!」
 これまで流したシラスの血と汗を感じるとアンドリューの瞳が輝きを帯びる。
「洗練された筋肉の動き。素早さ。柔軟性。どれを取ってもパーフェクトだ! イイ筋肉をしているぞ!」

 拳を交わし、大いに観客を沸かせながらシラスはアンドリューへ言葉を掛ける。
「俺には兄貴がいたんだ、あいつは喧嘩で負けなしだった」
 ある日、暴力を受けたシラスへ兄はナイフを握らせて言った。
 ――後ろから刺せ、躊躇うんじゃねえ。
 幼いシラスは兄の言うとおりにした。何時だって兄は正しかったからだ。
「それがずうっと俺の戦り方になった……此処(ラド・バウ)に来るまではな」
 闘士だって正々堂々と戦うだけの正直者だけではない。
 試合中に騙したり欺いたりなんて当たり前。
「それでも超えちゃいけない一線を心に引いて戦ってる。
 そんなラド・バウで技を磨いたから俺は多分何かを踏み止まれたんだ」
 兄の言う事は今でも正しいと思っている。そうしなければシラスは生きて此処に居なかった。
 それでも、とシラスは己の胸を親指で突く。
「──ここが気持ち良いのはラド・バウの流儀の方だぜ!」
「ああ、それでこそ俺が認めたイイ闘士だ!」
 ぶつかり合う拳と拳。飛び散る汗と声援にアンドリューがアリーナの地面へ倒れ試合は終わった。


 交流試合が終わったあとはカフェ・クナイペで待っていた『ラブパワー!!!』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)と『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が手を振ってアンドリューを呼び寄せる。
「アンドリューさんこっちこっちー!」
 エッダと共にやってきたアンドリューは爽やかな笑顔で友人たちとハイタッチを決めた。
 アーカーシュの騒動が落ち着いたら一緒に遊ぼうと約束していたのだが、今度は本土が内乱状態になって伸ばし伸ばしになっていたのだとカイトはアンドリューを見遣る。
「鉄帝がこんな状態だからこそ……うん、息抜きも必要ですよね」
『パンドラ減り太郎』ルーキス・ファウン(p3p008870)がメニューを開きながら微笑んだ。
「そうだね、いっぱい羽根を伸ばそう」
「また戦場へ向かえるように。今はゆっくりと休んで、心と身体を癒しましょう」

 メニューをじっと見つめるフラーゴラとルーキス。
「俺は果実水、ビーフストロガノフ、肉の串焼き、シュクメルリで!」
 豊穣に居た頃は、あまり肉を食べる機会が無かったから、ついつい肉料理を頼んでしまうとルーキスは隣のフラーゴラに視線を送る。
「えっとえっとじゃあヴルストとスブプロドクチイとシュクメルリ! ドリンクはモルスで!」
 コケモモとクランベリーを発酵させて作ったモルスは甘くてほんのりと酸味がある。
「では俺は、ブルストとビールだ! 試合の後はこれに限る! あとは、まあ肉だな肉!」
「ヴルストがあるならビールで完璧でありましょう。飲めや食えや、何ならいくらか奢るであります!」
 アンドリューとエッダも大量の肉と酒を注文する。
 その隣でカイトは苦笑いを浮かべた。
「……相変わらずだけど肉料理チョイス多いなっていうか強いな!!!
 いやお前だから肉料理で外さないのは百も承知なんだが」

 届いたジュースと酒を持てば「かんぱーい!」とグラスが打ち鳴らされる。
「おぉ、フラーゴラさん、見た目によらず結構食べますね……?」
 ルーキスが肉を頬張るフラーゴラを見つめ目を細めた。
「たたたた食べすぎ……!? そそそんなことないよお! モツおいしー!」
 もぐもぐとフラーゴラの小さな身体の中に大量の肉が収まる姿にルーキスは感動を覚える。
「鉄帝料理って感じかな? レシピ覚えて帰りたい。アトさんが喜ぶかも!」
「レシピか……分からん! とりあえず旨い!」
 エッダと一緒にビールをドンとテーブルの上に置いたアンドリューは口の周りに泡をつけていた。
 アンドリューもエッダも既に何杯ものビールを飲み干している。二人ともお酒は強いのだろうとフラーゴラは「おお」と感嘆の声を上げた。
「うーん、俺も早く飲める歳になりたいな……その時が来たら付き合って下さいね、アンドリューさん!」
 ルーキスの言葉にアンドリューは「勿論だ!」とイイ笑顔を見せる。

 並べられた肉の間にサーモンのマリネとサラダが見える。カイトが注文したものである。
 それをカイトはアンドリューの皿に乗せる。と、すぐに消える。また乗せる。消えるを繰り返し。
「カイトはさっきから俺の皿にいっぱいのせるが、食わないのか?」
「いや、食うけど!!!! ほら追加注文とかあるだろ幾つ要るんだお前ら!!!!」
 アンドリューの腕にぶら下がっていたフラーゴラが「肉いっぱい!」と目を輝かせた。

 ――――
 ――

 エッダとアンドリューは酔い冷ましにラド・バウ独立区の通りを歩く。
 少し赤くなった頬に冷たい風が心地良い。
「アンドリュー! さっきはありがと!」
「おう! また遠くに行くんじゃないぞ」
 区域の外まで出ていた子供達がアンドリューに手を振った。
「……アンドリュー様。この国はそういう国です」
 並び立ったエッダの言葉にアンドリューは耳を傾ける。
「たとえ衣食に困らなくても、私はこの、いっこうに肥えず力も付かない身体を何度も嘲笑われました。
 最終的に全て殴って解決しましたが」
 エッダは割れた石畳の隙間に視線を落す。
「言いたいのは、だから諦めろとか、だから力で復讐せよということでもなければ、だから国を変えようなんて話でもないのです。
 ただ、その為に今まさに民が困窮しているのならば、力を尽くすべきではないかと云う事です」
「エッダ……?」
 アンドリューの視線に気付いたエッダは小さく息を吐いて首を振った。
「……言葉が過ぎました。私は、泊まらずに帰ります」
「そうなのか?」
 寂しげに大型犬のように眉を下げるアンドリュー。
「政治には不参加、それがラドバウなのでしょう?
 ……これ以上居ると、貴方を勧誘して帰りたくなってしまいますので」
 では、と手を振って踵を返すエッダの背をアンドリューはじっと見つめて居た。

 鉄帝がこんな時にと言うのはヤボだと『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はサッカーボールを手にアンドリューの元を訪れる。
 いつも肩肘を張っていてはつかれるし、ラド・バウのランカーと交流出来る珍しい機会なのだ。
 楽しまなければ損だと葵は子供達に囲まれるアンドリューへ声を掛ける。
「よ、みんなとの宴会は楽しんで来たっスか?」
「おお、葵も来てくれたのか」
 サッカーボールを地面に置いて葵はアンドリューへと視線を上げた。
「アンドリューはサッカーはやった事あるっスか?」
 細かいルールは横において、やることはボールを蹴ってゴールに入れるだけ。
「ただみんながむしゃらにボールを蹴っては追いかけの繰り返し」
 そこに子供も大人も境界はないのだと葵は語る。
「さ、子供達集めてみんなで一緒にやってみるか」
「どーやってやるのー?」
「ボール蹴ればいいのー?」
 周りに集まって来た子供達の頭を「大丈夫だ」と撫でる葵。
「なーに別に技術がどうこうとか言うつもりはねーよ。サッカーを楽しいって思ってもらえりゃ十分」
 ボールを蹴り上げ頭に乗せた葵は、次に背中を伝い足裏へ移動させる。
 生きているみたいに動くボールに子供達は目を輝かせた。

 政治的なことには向かないが様子を見て遊ぶぐらいならソルベにも怒られないだろうと『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)は胸を張る。
「ま、怒られたら怒られたら執務室から逃げるだけだけどな!」
 よじ登ってきた子供を抱えながら、シャルラハは空を飛ぶ。
「わー! すげー!」
「おいこら暴れるなよ!」
 シャルラハの頭の羽毛を掴んだ子供は「アンドリューみたいに大きくなりたい!」と叫ぶ。
「そーだな、じゃあよく食べてよく寝て遊ぶ事だな。あと肉をいっぱい食べる」
「鶏肉!!」
 頭の上によだれを垂らす子供に戦々恐々とするシャルラハ。
「……俺は鶏肉じゃねえからな!食えねえからな!! 羽根を毟ろうとするな!!!
 誰がオーガニック焼き鳥赤鷹だ!!!!」
「おお、みんな仲良しだな! うむ! イイぞ!」
 腕を組んで良い笑顔を向けるアンドリューにシャルラハは首を振る。
「アンドリューも笑ってないでガキどもを引き剥がしてくれ!!!」
 シャルラハの叫び声が通りに響いた。


 日が暮れてアンドリューの家へとやってきた葵は部屋の中をぐるりと見渡す。
「へー、上のランカーになるとこういう所に住めるのか。こりゃアイツらに話してやらねぇとな」
 ぴょこりと顔を覗かせたフラーゴラも目を輝かせ、「おうち広ーいね!」と笑みを零した。
 人の家に泊る機会が無いからと何処に座ればいいかと右往左往するルーキスの肩をアンドリューが掴んでソファへ案内する。
「キッチンちょっと借りていいかな? 夜食作って皆でつまもうと思って」
 フラーゴラは手にした買い物袋を持ってキッチンへと入っていく。
 其処には既にカイトが人数分のお茶を淹れるためにポットで湯を沸かしていた。
「カイトさんお皿はどこにあるかな?」
「あー、でかいのは上の戸棚だな。取るから待ってろ」
 勝って知ったるアンドリューの家。カイトはどこに何が仕舞われているかを把握していた。
「アンドリューさんとカイトさん一緒に住んでるの?」
「いや、よく来るんだよ。ほら大皿」
 皿を受け取ったフラーゴラは嬉しそうに「仲良しだね」と笑顔を向ける。

「私は刑務所の廃墟で1人暮らしだから、こうやってお泊りはワクワクするわ!
 まぁ1人暮らしでも義理の妹とかよく来るから寂しくはないけれどね!」
 セチアは楽しげにバッグの中からお菓子を取り出す。
「練達で人気らしい、ふわもこ部屋着を持ってきました」
 ルーキスは全員分用意したとテーブルの上に広げた。
「私は赤色のやつよ!」
 赤いもこもこのパジャマを掴んだセチア。
「育てのお母様から私の名前はポインセチアっていう花が由来だと聞いた事あるもの!」
「私はねえ、ふわもこ淡い色のパジャマ! イチゴ柄だよお」
 カイトと共に大皿を持って来たフラーゴラはテーブルの上のパジャマを見つめる。
 テーブルのパジャマをサっと移動させたルーキスは兎耳がついたものを選んだ。
「アンドリューさんは、この猫の耳が付いてるのとかどうですか?」
「なんでそんなもこもこのパジャマ持ち込んでんだ!? てかアンドリュー着れんのか? 俺も」
 シャルラハはルーキスが広げたパジャマ達に一歩あとずさる。
「俺は上着ない派だぞ羽毛あるからほら。な?」
「いえいえ、こっちの黄色くて可愛いふわふわのヤツも似合うとおもいますよ」
 ルーキスはシャルラハにパジャマをそっとかける。逃れることはできない。
「ぴぃ!?」
「もう少し引っ張れば入りそうなんだけど……えい!」
 シャルラハは筋肉の上に羽毛が乗っている。だから押し込めればなんとか入るとルーキスは思ったのだ。
 一方のアンドリューはパツパツで上の方のボタンが閉まらないではないか。
「カイト、この衣装は少し苦しいな!」
 フンっとポーズを決めたアンドリューの胸元からボタンが弾け飛びカイトの額に激突する。

「しっかしアンドリューの筋肉は凄いっスよね、闘士なだけあってよく鍛えられてるというか」
 葵はふわふわのパジャマのボタンが弾け飛び露わになった筋肉(いつもより隠れている)を見てどういうトレーニングをしているかと訪ねる。
「俺も聞きたいです! 家ではどんなトレーニングをしてるんですか?ぜひ参考にさせて下さい!」
 ルーキスも興味津々で兎耳のフードを揺らした。
「いやー実はな? 海洋の方でアンタみてぇなガタイの良い仲間がいてさ、一っっ回も腕相撲で勝てた試しがねぇのよ……オレも鍛えてる方だとは思ったんスけど」
 おもむろに上半身裸になった葵はアンドリューへと熱い視線を向ける。
「もし良かったら寝る前にざっくりでも欲しいっス」
「お、日向さんもやる気満々ですね?」
「イイ筋肉には、イイ運動! こうして地道なトレーニングが必要だ!」
 アンドリューの隣に立ったのは沈黙を保ってきたシラスだ。
「夜は寝る前のトレーニングだ。やらないと落ちつかない、そうだよなアンドリュー!」
「ああ、もちろんだ!」
 シラスは広いリビングの真ん中で片腕の逆立ちを始める。
「掌も浮かせて指だけで身体を支えている……すごい」
 ルーキスがシラスのトレーニング方法に尊敬の眼差しを向けた。
「どんとん指を減らして!? 一本に!? しかもシラスさんのその逆立ち、魔力も使って姿勢を保っているんですか!? 更に腕を曲げ伸ばしている……はぁ! 流石ですよ!」
「これくらい余裕だぜ、汗一つかかねえよ」
 シラスは口の端を上げて笑みを浮かべた。

 ルーキスはアンドリューへと視線を上げる。
「腕相撲かぁ……アンドリューさん、良かったら俺と勝負してくれませんか?」
 これなら武器も使わないし純粋な筋力勝負を挑めるはずだと腕を差し出すルーキス。
「うぉぉぉ、いっくぞおぉ!」
「ふんぬ!」
「ぐ、ぐぇぇーー!?」

 ――――
 ――

 お泊まり会の醍醐味……恋バナに耳をぴこぴことさせるフラーゴラ。
「鳥の方のカイトさんならリリーさんの話しとか、シラスさんだったらアレクシアさんの話しとか!」
「ぶべ!」
 筋トレを続けていたシラスが顔面から落ちる。
「そういうんじゃねえから!」
 ものすごい音と共に落ちたシラスを大丈夫かとカイトが起こした。
「セチアさんは、恋バナある?」
 フラーゴラはセチアに向けて笑みを零す。
「看守の私にそんな浮ついた話がある訳……Likeでいいなら……1人いるかも?」
「あ、LoveじゃなくてLikeでもいーよ! ん、好きだった人の話でもいいよ」
 Fragmentum Spemを見せたセチアは僅かに瞳を伏せる。
「コレを渡した奴の事だけど。狂う姿が見ていられなくて。殺すしか無いを否定したくて。
 ……唯、生きて欲しいと願い。奇跡が発動してくれただけなのに。
 今は眠っているけれど『アイツが起きる時、絶対に会いに行く』……まぁ一方的に誓ったのよね」
 彼が起きた時に鉄帝でも案内出来たらいいなとセチアは告げる。
「後、少しは笑って欲しいとも思うわね? フラーゴラは?」
「えっワタシの恋バナ?! えっとねー、闘技場で優勝したので今度アトさんと正式にデートするんだあ」
 えへへと頬が落ちそうな程幸せな笑みを零したフラーゴラは「それとそれとね!」と大好きな人のどこが良いかを喋り続ける。
「つーかアトの話になると高速詠唱の如く弁舌が回るなフラゴーラは!!!!」
「はっ! いっぱい喋ってた? まだまだあるけど。
 ……えと、じゃあアンドリューさん好きな人とかいる……?」
 フラーゴラはトレーニング後のシャワーを浴びて帰って来たアンドリューに問いかける。
「む? 好きな人か? いっぱいいるぞ! フラーゴラもセチアも葵もエッダもルーキスもシラスも鳥のカイトも、人間のカイトも全員大好きだぞ!」
 アンドリューの答えに満足そうに微笑んだ少女は「カイトさんは?」と首を傾げた。
「し、知らんぞ! 俺に話題振られてもダメだからな!!! つーかそういう相手も基本居ねぇし!!」
「カイト、お前そこは、俺も好きだって言う所だろう!」
「はあ!? 何を言ってるんだお前は」
 アンドリューのふわもこのパジャマの襟を鷲づかみにするカイト。
「じゃあね、アンドリューさんの眼帯の話とか。嫌じゃなかったらね」
「おう、全然構わないぞ!」
「大丈夫なんかよ!?」
 思わずツッコミを入れたカイトはガクリと肩を落す。
「……眼帯の話なぁ、実は今までは『触れなかった』んだよ。
 お前にとって大事な『領域』の話だったろうし。俺だって話さないようにしてた事もあるように、お前にだって好きで話す事でも無い事はあるだろうから、さ」
 風呂上がりで緩く巻いていた眼帯を解いてみせるアンドリュー。
 その下にはナイフの跡が深く刻まれていた。
「昔、親友にやられたんだ。突然だったからな、必死に抵抗してこんな風になってしまった。見た目があまりよくないから普段は隠してる。眼帯をしてるほうが格好いいからな! まあだから、自分でナイフを使うのはあまり得意ではない」
 フラーゴラは冷蔵庫の中に入ってたものが加工品とビールばかりなのを思い出した。
「なあ、アンドリュー……必要になったら、頼ってほしい。というか、頼られなくても、『お前のために』力になるよ。……だって、そういうのじゃん。親友って言ったり、友達だっていうの」
 照れくさそうにそっぽを向いたカイトの頭をアンドリューはガシっとホールドしてイイ笑顔を見せた。

 沢山の素敵な話しと共に夜は更け、群青の空に星がきらめいた。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 イレギュラーズといっぱい遊べてアンドリューも喜んでいます。
 ありがとうございました。

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