シナリオ詳細
<総軍鏖殺>一切之小細工不要。サァ、喝采ヲ<大回天事業>
オープニング
●前回迄ノ オハナシ
監獄は、動乱の中、いともたやすく破られた。
そうして解き放たれた死刑囚の中でも、その厄介者たちはひときわ異彩を放っていた。
『大回天事業サーカス団』
首都に集まった難民たちを、鮮血を吹き上げる歪なオブジェへと変えながら、大回天事業サーカス団は進撃を続けていた。
「やあみなさん。われら大回転事業サーカス団をご覧頂きまァことにありがとう御座います!」
そんな団長の声が高らかに響き――。
だが、サーカス団の面々は、イレギュラーズによって撃退された。
――かに、見えた。
●準備万端ニテ。
「さぁ、て」
首都の、どこか。
そう、ちょうど。シェルターがすぐ近くに見える場所。
『怪力男』ヴィゴーレは、ゆっくりと腰を上げた。
ヴィゴーレに従うアニマールたちは、その指示を従順に待っている。
そんな蒸気仕掛けのライオンたちを見下ろし、ヴィゴーレはゆったりとひげをさすった。
「ブランクなどと、言い訳をする気はねぇが……」
先刻終わったばかりの戦闘を思い出すだけで、唇が釣り上がる。
「……久々の本番はどうにも……熱くなる」
否。それだけではないのだろう。
自分が今こうして、外の空気を吸えていること。
新たな皇帝が布いた法は、残虐だがシンプルで、一つの希望すら覚えさせるような甘美さを伴っていた。
或いは。
「この方のもとでなら、あんな無茶しねぇでも良かったのかもしれねぇな」
過ぎたことを呟いても、始まりはしない。
取り戻すにはあまりに遠く、悔やむにはあまりに、変わりすぎた。
すでに自分は、『怪力男のヴィゴーレ』だ。
そんなことを考えていると、不意に、女の悲鳴が響いた。
緩慢に首を向けた先、アニマールたちが、シェルターへ避難しようとしていた難民に襲いかかっている。
「やれやれ、躾のなってねぇ……。いや、猫なら当然の気まぐれか」
怯えて腰を抜かす市民を見下ろして、ヴィゴーレはニカリと笑ってみせた。
悲鳴は、上がったのだ。
となれば、これは、幕開けの合図だ。
「普段ならこういうのは、団長の仕事だがな」
そう呟き、ヴィゴーレは両腕を大きく広げた。
「さァ! シェルターの皆さま! どうぞお立ち会い!」
空気が、ビリビリと震える。
それは、殺戮の名乗り上げにはあまりに高らかで、陽気で、堂々たるものだった。
「ここに居るは『大回天事業サーカス団』! 『怪力男のヴィゴーレ』さまとは私のことだ!」
騒ぎを聞きつけたスチールグラード都市警邏隊たちが駆けつける。
「動くな!」
スチールグラード都市警邏隊は、少しもひるまずにヴィゴーレへ銃口を向けた。
「これ以上、お前の好きには、させな……ッ」
だが。
「脆い――!」
ヴィゴーレは無造作に、地面へ拳をぶち当てた。
そのはずみで、レンガで舗装された道が割れる。
「う、撃て!!」
都市警邏隊が叫んだ次の瞬間、彼の頭部は、レンガと成り果てていた。
否――。
怪力に物を言わせて投擲されたレンガが、男の頭を砕き、まるで新たな頭でも生えたかのように、そこにめり込んでいたのだ。
都市警邏隊の制服を血に染めて、男はばたりと地面に倒れた。
生き残った都市警邏隊たちも、死にものぐるいで引き金を引く。
だが、その弾丸はアニマールたちによって防がれた。弾丸は、アニマールの表面に着弾した途端、一瞬で高熱により溶かされてしまったのだ。
「終わりか? 兵士諸君」
ヴィゴーレは悠然と、彼らを見下ろした。
そして、両腕をまた大きく広げた。
「さて。今度こそ、開演だ」
●幕を、降ろせ。
情報屋のゲルト・ロンベルク(p3n000295)は、苦々しげに報告を終えた。
現在。『怪力男のヴィゴーレ』による被害は拡大の一途をたどっていた。多数の犠牲者を出したのみならず、街の破壊もためらいなく行う。
「この怪力が、厄介だ。近接戦で、一瞬の躊躇が命取りになる。……それどころか、周囲にあるものを破壊して投げつけてくるときたもんだ。噴水、ベンチ、石畳……。ありとあらゆるものが、ヤツにとって得物になると見たほうが良いだろう」
加えて、と、ゲルトは舌打ちをした。
「やつが率いるアニマール……。地上にいるライオン型の個体だけでなく、上空から索敵の役割を果たしているワシの個体も確認されている。地上と上空の連携のせいで、ヴィゴーレに近付くのはかなり難しい」
ぎり、と、書類を握るゲルトの手に、力がこもる。
「ようやく逃げてきた難民たちを、シェルターごと嬲り殺す。そんな悪党を赦せるわけがない。
だが、スチールグラード都市警邏隊たちでは彼に立ち向かえない。
この依頼は、亡き隊長の無念を晴らしてくれとの、部下たちからの要請でもある」
ゲルトは、イレギュラーズたちを見据えた。
「このイカれたサーカスの、幕を降ろしてくれ」
- <総軍鏖殺>一切之小細工不要。サァ、喝采ヲ<大回天事業>完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年12月27日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●『怪力男のヴィゴーレ』
綺麗に整えた顎髭を撫でるその指は、冷たい鋼でできていた。
しかしその指使いはやさしく、常人以上に繊細に見える。
もう一方の手ではクルミを二つ、ゆっくりと手の中で回転させていた。
「……ほう、これは」
手に、力がこもる。
ただそれだけでクルミは砕け、手の中で潰れる。
肌で感じる敵意。直感する強者の気配。
元軍人としての血の湧き上がりを、ヴィゴーレは笑みと共に受け入れた。
「あのときの猛者が、いればいいが……」
ヴィゴーレは血のついた破砕用亜鈴『ゴードン』を軽々と拾いあげると、都内のシェルターのひとつへと歩き出した。
●因縁と対決
ここは都内の小型シェルター。ヴィゴーレの襲撃を察知したイレギュラーズたちは警戒する都市警邏隊と入れ替わるようにテントだらけの広場へと出た。
「さて、因縁の再戦とでも言ったとこかしら?」
背負っていた槍を手に取り、くるりと回す『凛気』ゼファー(p3p007625)。
ヴィゴーレと激突した時の手のしびれを思いだし、眉をわずかにあげる。
「前回はどうだったの?」
興味津々に尋ねる『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)に、ゼファーは斜め上を眺めるようにして答えた。
「まあ私、別に前回負けてませんけどぉ」
「なるほどね」
勝てはしなかった、ということだろう。ゼファーほどの人物が取り逃すということは、相手は自分達と同列かそれ以上の戦闘能力を持っていると考えてもよさそうだ。
あえて軽口を述べているゼファーに合わせるように、イグナートも肩をすくめてみせる。
「こういった出し物はテントの中だけに収めて欲しいところだね。テントで開園してくれるのならこっちから殴り込んであげるのにさ!」
「いいや、テントの中だとしても許せない」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が鋼の右腕でぎゅっと拳を握りしめる。
「パフォーマンスとは、観る者を楽しませるものだ。
内容は違えど同じく舞台に立つ者として、この演目は……」
イズマは戦士として、というよりクリエイターあるいはパフォーマーとしてヴィゴーレたちのありかたに強い怒りを覚えているようだ。
横に並んだ『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)が「ん」と肯定の頷きをする。
「正直堂々と名乗りを上げて注目を集めるやり方自体は結構好ましいしパワーファイターは私の憧れでもあるけど……それでやる事が民衆を嬲り殺す事ってのが残念でならないよ! 正義の心があればなぁ!」
ンクルスもこの見た目でがちがちのパワーファイターだ。もしヴィゴーレのような男と普通に出会っていたなら好感ももてたことだろう。
「まぁ悪い人には私がしっかりと天罰をお届けしないとだね!
『創造神様の加護がありますように!』」
やる気に満ちた目で記録された定型文(テンプレート)を唱えるンクルス。
一方で、『竜剣』シラス(p3p004421)と『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)たちは都市警邏隊に撤退するよう求め、自分達がここを受け持つことを説明していた。
流石に名声豊かな彼らの顔ぶれを見て安心したのか、住民避難へと移ってくれたようだ。
「さて、と……」
向き直るシラス。アレクシアの方は既に切り替えを終えたようで、手にした魔法杖『ヴィリディフローラ』を握りしめる。灰薔薇の魔力がゆったりと表面を流れ、香るように広がり始めた。
「サーカス団だなんて言ってるけど、やってることはただ力のない人を虐げているだけじゃない!
これ以上の被害を出させるわけにはいかないよ!
都市警邏隊の人たちのためにも、ここで必ず止めてみせる!」
「そうよね……」
『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)が分厚いコートを脱ぎ捨て、両腕にはめた『メルクリウス・ブラスト』を顔の高さまで掲げる。カチンとぶつけ合わせたその残響がゆれ、それぞれ銀の籠手と太刀へと形状を変えた。
両手でしっかりと太刀を握り込む。
その一方で、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)はコートを羽織ったまま悠然と腕組みの姿勢をとっていた。
向かい風。遠くから香る鉄錆びた匂い。
マリアが目を細めるのと、ティスルが太刀を構えるのは同時だった。
ズン――ズン――と大きな足音をたて、遠い路地を曲がる大男の姿が見える。
両腕を鋼に変えた改造人間。怪力男のヴィゴーレ。
随伴した機械獅子のアニマールとその改造型、ワシ型アニマールがそれぞれ周囲を固め、こちらに敵意をむき出しにして吠えた。
「終わらせよう。私達の手で」
「今は力ずくで幕を下ろす時だもの」
決意を固め、そして、マリアたちは動き出す。
●力尽く
「私こそ、『大回天事業サーカス団』の怪力男、ヴィゴーレだ!」
巨大な鉄アレイめいた武器を振りかざしてみせ、ショーでも始めるかのように歯を見せて笑うヴィゴーレ。
「来るなら来い! シェルターに近付く者は全て叩き落としてやる!」
対するマリアは助走を付けたリニアドライブで宙を疾走。こちらへ向かって飛んでくるワシ型アニマールの鋭い牙をソバットキックではねのける。
この戦いを長引かせることも、増しては引き撃ちをし続けるようなこともできない。後ろにはシェルターの住民達がおり、それを守る都市警邏隊がいる。彼らではヴィゴーレの猛威に耐えることができないだろう。
故に、ここで止めるしかないのだ。
「中々骨が折れるね! けど――!」
蹴りが命中した直後、身を巻くように展開した超電磁レールに手を突くかたちで急回転をかけたマリア。直角なカーブを描いた踵落としがワシ型アニマールの頭部を破壊する。
ここまでされれば頑丈な機械の獣とて墜落する。
「落ちたワシ型は任せてくれ! まだ飛んでる奴らを頼む!」
イズマは落ちてきたワシ型アニマールめがけ豪快なシュートを叩き込んだ。
鋼の足から繰り出されるシュートによって激しい回転をかけたアニマールが、別のワシ型アニマールへと激突。飛行していたそのアニマールが空中でゆらりと軌道を歪めた。
が、すぐに体勢を立て直しイズマをにらみ付ける。どうやら挑発が成功したようだ。
まっすぐ突っ込んでくるが……しかし、イズマの『仕込み』は既に済んでいる。翼を損傷していたアニマールはまっすぐな飛行ができずに不自然にカーブし、金属製のポールへ激突。小爆発と火花を散らして墜落した。
「へえ、やるね」
イグナートはイズマを軽く褒めつつ、自分はヴィゴーレへと迫る。
「ここから先に行きたきゃそれ相応の芸を見せてもらおうじゃないか! オレたちを満足させられなきゃこっちが逆に代金を請求させてもらうよ!」
「いいだろう! ただし、対価は貴方の命となるがな!」
ヴォゴーレは不自然な笑顔を作ったまま『ゴードン』をイグナートめがけて叩き込む。
正面から受ければ致命傷を負いかねない、凄まじい重量だ。イグナートはそれを直感し腕で横打ちに払うようにして攻撃を受けた。
が、それでも腕に激痛がはしる。焼けたような熱と振動。腕から肩にかけての動きで衝撃をにがしきったと思ったが、それでも残った衝撃が脳を揺らした。
直後、イグナートが引きつけていたライオン型アニマールがイグナートの腕や脚へと食らいつく。
動きを抑えられた。次を受けるのはマズイ。そんな確信があるが、動くことはできない。
そこへ――。
ゼファーの槍が弾丸の如く飛来した。
イグナートとヴィゴーレの間にある大気を貫くように、そして固い壁に『突き刺さって』槍が止まる。
「貴方は……なるほど、私はツイてる」
ヴィゴーレは表情を自然な笑みに変え、槍を投擲したゼファーへと振り返った。
「今度こそ、決着をつけましょうか?」
「前回は私の勝ちだった筈だが?」
「冗談」
ゼファーは左右非対称に笑い、そして思い切り走り出した。
跳躍、回転、振りかぶった拳によって相手の顔面を殴りつける。
ヴィゴーレはそれをあえて顔面で受け止めると、機械の腕でゼファーの襟を掴んだ。
「ハッハア!」
そして、怪力によって煉瓦舗装された地面めがめて投げ落とす。
常人がくらえば即死間違いなしの攻撃……だが、相手はゼファーである。
自らの腕の力だけで衝撃をなんとか受け止めると、ごろごろと転がってヴィゴーレから距離をとった。
そんなゼファーを押さえつけるべくライオン型アニマールが数体まとめて走ってくる。
「ライオン型が邪魔! だれか手伝って!」
「任されたよ!」
ゼファーの呼びかけに応えたのはンクルスだった。ゼファーとの間に割り込みをかけると、食らいつこうと顎を開いたライオン型アニマールの上下顎を両手で押さえて固定する。
突進のパワーすらもきっちり受け取ると、強引に相手を振り上げて地面へと叩きつけた。
ヴィゴーレがやった攻撃の間接的な仕返しといったところだろうか。アニマールはゼファーほどの強さが当然ないらしく、顔面を舗装煉瓦に激突させ動きを止めていた。
ンクルスは「むんっ」と可愛らしく力むように頬をふくらませると、アニマールの顎を腕力だけでメキッと取り外してしまった。
「ワシ型が片付くまで待っててね」
「「了解」」
ゼファーは壁に刺さった槍を抜き、一方のイグナートはライオン型を放り投げてからヴィゴーレを逃がすまいと回り込んだ。
「シェルターや難民の人たちには手を出させはしない! どうしても暴れたいっていうなら、私を倒してから行きなさい!」
アレクシアは勇ましく叫ぶと杖を天高く掲げた。『誘争の赤花(テロペア)』と呼ばれるその術式は、赤き花のような魔力塊を炸裂させる精神操作魔法である。魔力のしぶきを浴びた者は、もはやアレクシアしか見えなくなるのだ。勿論、悪い意味で。
レジストに失敗したワシ型アニマールたちがアレクシアをにらみ付けると、その柔らかく可憐な四肢を食いちぎらんとばかりに襲いかかる。
が、アレクシアとて伊達に『蒼穹の魔女』と呼ばれたわけではない。
強襲姿勢に入ったワシ型アニマールに杖を突きつけるように向けると、薔薇のつぼみめいた魔術塊が生成された。それは一瞬で花開き、薔薇型の魔術障壁となってアニマールの攻撃を阻む。
「そこだ――」
シラスはそんなワシ型アニマールに向けて指鉄砲を構えると、練り上げた魔術をそれこそ弾丸のように発射した。
大気を穿つ魔力の弾丸がアニマールのボディを貫通。アレクシアへ襲いかかろうと加速をかけようとしていたアニマールはそのまま地面へと墜落し、なんとか起き上がろうと翼を地に押しつける。
だがそれ以上の動きを許すほどシラスは甘くなかった。
魔力を片足に込めて大きく振り上げると、アニマールめがけてストンピングを叩き込む。
ただ踏みつけただけではない。アニマール側からすれば巨大なハンマーで叩き潰されたのと同じだけの衝撃がはしり、そのボディを爆散させた。
そんなシラスたちを見下ろす二体のワシ型アニマール。
だが、攻撃をしかける暇など彼らにはない。
なぜなら天空を高速で飛翔するティスルの存在があったためである。
二体の間をすり抜けるように飛ぶティスル。咄嗟に回避行動をとるアニマールたちだが、隣のアニマールが翼を切断され墜落する様を見てもう一方は慌てたように飛び去る行動へと移行する。
「逃がさない! 空(せいくうけん)を返してもらうから!」
上空へと逃れようとするアニマール。だがティスルは翼を大きく羽ばたかせて加速するとアニマールを追い越しその頭上をとった。
びくりと翼をふるわせるアニマールだが、もう遅い。ティスルの太刀が真上から叩き込まれ、『衝突』する形になったアニマールは真っ二つに切り裂かれ火花を散らしながら墜落していった。
「これでよし、っと」
見下ろすティスル。残るは、ヴィゴーレ一体のみ……。
●ヴィゴーレのうた
最悪のショーだ。
ヴィゴーレは汗だくになった顔を振って後悔した。
観客(ぎせいしゃ)はゼロ。引き連れていたアニマールたちは全て撃破され、残る団員は自分ひとり。
彼の脳裏に、戦場で殿をつとめた記憶が蘇る。
凶悪な呪いを帯びたモンスターに両腕を引きちぎられ、痛みと絶望に叫んだ記憶だ。
援軍の到着によって救われたものの、目覚めた病院のベッドで自分が『起き上がれもしない』ことに絶望し、包帯だらけになった腕のない自分の姿に絶叫した記憶だ。
彼を救ったのはあの『団長』だった。粗末な義手だけを支給されリハビリ施設から何年も出ることができなかった彼を連れだし、腕があった頃よりも自由な身体をくれた。
そうだ。あのとき自分は一度死んだのだ。今は、そう――。
「私は、ヴィゴーレ……『大回天事業』の怪力男だ!」
掴んだ『ゴードン』を大地に叩きつける。衝撃が放射状に走り、取り囲んでいたイグナートやゼファーたちが飛び退いた。
「待たせたな」
「皆いるね」
シラスやマリアたちが駆けつけ、ヴィゴーレを逃がさぬよう円形に取り囲む。
ヴィゴーレの戦闘能力はかなりのもので、ゼファーとイグナート、そしてンクルスの戦力をもってしても抑えきることは難しかった。それなりのダメージを負ってしまったし、周囲のアニマールも含めて永遠に戦い続けていたら危なかったかもしれない。
だが、そんな仮定はいまや意味を成さない。
「タフだなオッサン。だがここまでだ!」
シラスの鋭いソバットキック。
それを腕で防御するヴィゴーレだが、直後に流星のごとく飛来したマリアの蹴りが背中に突き刺さる。
「精神力を削る雷速必中の蹴りだ! 中々に堪えるだろう?」
ヴィゴーレの頑強な防御力を無視してスタミナを奪いにかかるマリアは、ヴィゴーレにとって天敵のような存在だ。
「演目を終えた役者は、さっさとステージを降りるのがマナーってもんでしょう。アンタは、長居が過ぎたのよ」
更にはゼファーの槍がゴードンの足を深く切り裂き、それでも耐えようとするヴィゴーレの足へティスルの剣が更に走った。
血が吹き出し、ヴィゴーレはその場に片膝をつく。
『ゴードン』を振り回しシラスたちを吹き飛ばしにかかる――が、その直後に彼らを『慈恵の薬花(アルタエア・フィナリス)』の術式が包み込んだ。薄紅色の魔力の花弁が損傷しかけた彼らの部位を高速で修復する。
「その程度じゃやられはしないよ! 護るために、私は力を磨いてきたんだから!」
光景に、ヴィゴーレは目を見開いた。
イグナートの膝蹴りが、イズマの拳がそれぞれヴィゴーレの胸や顔面に叩き込まれる。
「そちらが力技を自慢するならば、俺は早技を魅せようか!」
「次はどんな芸を見せてくれるんだ力自慢!」
連続して叩き込まれる彼らの打撃に、ヴィゴーレは歯を食いしばって耐え――ようとしてその顔面が地面に叩きつけられたことに気付く。
ンクルスが全身をつかってヴィゴーレの高等部を掴み、地面へと叩きつけたのだ。
一方的な勝利。
かに、見えた。
ヴィゴーレが目をカッと見開き、全身をびくりとけいれんさせたその一瞬までは。
「皆、下がって!」
そのことにいち早く気付いたのはンクルスだった。相手の『隠し球』が使われたのだと察し、それを一人で対処しようと動いたのだ。
それがなければ、あるいは結果が変わっていたかもしれない。
ヴィゴーレの両腕から蒸気が噴き出し、握っていた『ゴードン』が振り上げられる。その狙いは地面だ。しかし先刻見せた放射状の衝撃とは比べものにならないほどの破壊が、その時起きたのである。
地面がクレーター状に破壊される。逃げ遅れた仲間をンクルスが強引に放り投げていなければ何人かその破壊に呑み込まれていただろう。
が、ヴィゴーレはそれ以上の攻撃は行わず、地面を殴りつけるようにして『加速』するとその場から強引に逃げ出したのである。
「待って、深追いはしなくていい。シェルターの警戒が優先だ!」
追いかけようと空に舞い上がったマリアやティスルへ、イグナートが呼びかける。
その横では、イズマが倒れたンクルスを抱き上げていた。
「防衛は成功だ。シェルターにあれ以上の被害はなし。追加の襲撃がないように周辺警戒をもう一度してから、拠点に帰ろう」
提案に、シラスやアレクシアたちも頷きで応えた。
フウ、と息をつき構えを解くゼファー。
「それにしても、最後のあれって……」
虚ろに開かれたゴードンの目。生気を感じさせないあの目は、もはや義手を操る怪力男のそれではなかった。むしろ、義手に操られているかのような……。
「まだ、もう暫くの付き合いになりそうね」
怪力男のヴィゴーレ。彼はまた、舞台に上がるだろう。
だがその時は……。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
※代筆担当より
お疲れ様でした。代筆担当の『黒筆墨汁』です。
皆様の活躍によってシェルターは守られ、ヴィゴーレも撃退することに成功しました。
GMコメント
こんばんは。三原シオンです。
街を荒らし回る怪力男ヴィゴーレの討伐が今回の依頼です!
解き放たれた死刑囚を、きっちりとカタにはめてやりましょう!
●目的
シェルターを襲撃に来た『怪力男のヴィゴーレ』の撃退
●フィールド
首都の各所にある小規模シェルター付近。
近くには難民も多くいるため、無策のまま戦闘に入ると余計な犠牲が出てしまう可能性があります。
●敵
・『怪力男のヴィゴーレ』
両腕が機械化された改造人間です。
凄まじい怪力をもち、そのパワーでもって戦闘をこなすことは明らかです。
ですが逆に言えば、それだけでシンプルに脅威であり、何かしら隠し球を持っていたとしても推察が難しい相手です。
『ゴードン』という巨大な鉄アレイめいた武装が確認されています。
『アニマール』
ヴィゴーレの仲間が創り出した、機械仕掛けの猛獣たちです。
高い防御性能と攻撃性能を両立した物で、武装として対象を嚙み砕く牙、対象を切り裂く爪が搭載されています。
戦闘時には高温で発熱し、対象を焼き切るように攻撃してきます。
・ワシ型アニマール
数羽のアニマールが上空を旋回しており、地上のアニマールたちへ鳴き声などで指示を行っているようです。
このアニマールとの連携により、ヴィゴーレが遠くの敵を投擲で仕留めたとの報告も上がっています。
そのため、GMからは上空を徘徊するアニマールを押さえ、ヴィゴーレに届く情報を減らすところから動くことを勧めます。ワシ型アニマールを無効化しなかった場合「そばにあるものをぶん投げる」というシンプルな怪力で遠距離襲撃される可能性が出てきます。
・ライオン型アニマール
ヴィゴーレの付近を数匹が徘徊しています。
地上戦において、ヴィゴーレに隙が生じないようカバーしているようです。
▼参照
『<総軍鏖殺>大回天事業サーカス団』<黒筆墨汁GM作>
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8444
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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