シナリオ詳細
<総軍鏖殺>祈ル歌声、虚シカラズヤ<革命流血>
オープニング
●凍てつく冬は、すぐそこに
その村人たちは、細々と、それでも身を寄せ合って生きていた。
新皇帝バルナバスの統治下になっても、冬が訪れることは変わらない。
彼らはどうあってもまず、冬を超えなくてはならなかった。
「……困ったことになったな……」
村の若者、ショール・ガラッツは深くため息をこぼす。
とにかく薪が必要だ。
それから、塩漬けにしておくための魚。
川が凍る前に、少しでも多くの魚を釣って加工しておかないと、冬の間に力が出ずに倒れてしまう。
多くの若者は、戦いの中で傷ついていってしまった。
自分も早々に足を負傷したが、それでも釣りならなんとかできると、竿を持って早朝から出かけていた。
目の不自由な妹。父を失った母。村の仲間たちに、辛い冬を過ごさせるわけにはいかない。
「大丈夫。……大丈夫。前さえ向けば、日は昇る」
ショールは、小さく童謡を口ずさんだ。歌を歌い、名も知らぬ神に祈るのが、彼の心を落ち着かせる日課だった。
だが、祈りも虚しく、その日の釣果も燦々たる結果だった。
天に、死ねとでも言われているのか――。
肩を落として帰宅したショールの耳に届いたのは、母親の嬉しそうな声だった。
「良い知らせがあるよ、ショール」
なんと、旧ヴィーザル領であるオースヴィーヴル領主が、物資を一部提供してくれるのだという。
「……ほんとか、母さん」
「えぇ。それを受け取れたら、少しは暮らしも楽になる……。この村に残った若者も何人か行くようだから、よければお前も……」
「もちろんだ」
そう返事して、ショールは、多くの革命派とともに、オースウィーヴルの領主の元を訪れた。
そこでショールが目にしたのは、自分たちと同じ『革命派』を名乗る集団が、無辜の民を惨殺する姿だった。
ショールは恐ろしさのあまり逃げ出した。
そしてガクガク震えながら、なんとか旧ヴィーザル領を離れようとした。だが、見張りが多すぎて動くことができない。
「どうして、俺たちを襲ってくるんだ!? 守ってくれると、約束しただろう……!!」
だれかがそう叫ぶ声が聞こえた。
革命軍を名乗る男たちは、ゲラゲラと笑った。
「崇高なるアミナさまが、貴様らの死をお望みだからさ」
ぼとりと、首が飛ぶ。
あまりの惨劇に、ショールはただ、膝を抱えて息を殺すことしかできなかった。
このまま、凍えて、声を殺していれば、いつか、逃げる機会が来るだろうか。
「…………前さえ、向けば。まえさえ、むけば、ひはのぼるんだ……」
ぎゅ、っと目を閉じてうつむきながらも、ショールは祈りのようにそう唱えた。
その耳に、男たちの怒号や罵詈雑言が響く。
「レディチさま!」
その叫び声に、ショールははっとして目を開いた。
村の探索が終わったのか、自称『革命軍』たちが一箇所に集まっている。
中枢に居たのは、赤い髪の、屈強な男だった。眼帯をし、顔に傷のある男は、異様な存在感を放っている。
「……で?」
男は面倒そうに周囲を見渡した。
「こっちの損失は?」
「はっ。ほとんどが村人相手の戦闘だったため、被害はほぼありません」
「ほぼ?」
「不用意に女を深追いした男が、シャベルで頭を殴られて……。今、奥で手当を」
「マジかよ」
赤髪の男は億劫そうに舌打ちした。
かと思うと、治療室として使われている小屋の扉を、乱暴に蹴り開ける。
しばらくの間、男同士が怒鳴り合う声が聞こえた。
かと思うと、赤髪の男が部下の髪をつかみ、引きずるように、小屋から出てくる。
「お許しください! レディチさ……!」
その叫びが終わるより先に、赤髪の男が剣を振るった。
ぼと、と、男の胴体が地面に落ちる。だが首は、そのままレディチと呼ばれた男の手元に残った。ぼたぼたと切り口から鮮血をこぼしながら、苦悶に顔を歪めている。
「女に不意打ち食らうなんて弱すぎんだろ……」
男は億劫そうに剣を地面に突き刺し、部下たちを眺めた。
「俺の部下のくせに、下手な戦いなんざ晒してんじゃねえぞテメーらも。ここで数日休んだらさっさと前線に上がってボコボコにやり合うんだろーが」
呆れ顔で、レディチは男の生首を放り投げる。その首が、ショールの隠れる壁にべちゃりとぶつかった。
「ヒッ……」
思わず、ショールは悲鳴を上げた。
ショールはとっさに自分の口を抑え、祈った。どうか。どうか。
だが、祈りは虚しい。
「ユヌ、ドゥ。見てこい」
レディチは、自らに付き従う、青白い炎の犬を放った。
二匹の頑強な犬は、たちまちショールを見つけ出す。
「ひっ……」
食い殺されると思った。だが犬は、ショールの服の襟を噛むと、ずるずると強引にレディチの前へ引きずり出した。
「……何だ。生き残りがいたのか。やるじゃねぇか」
レディチは物珍しそうにショールを眺めた。そして、にこりと目を細めた。
「じゃあ、テメェの命の品定めをしようぜ」
●きっとあの子は、凍えているから
ローレット・イレギュラーズのもとに、老いた老婆がやってきた。
「許してください、全部私が悪いんです……。
私が、自分可愛さに、あの子にあんなことを頼んだから……。あぁ、私があんな事頼みさえしなければ……」
旧ヴィーザル領が、『革命派』を名乗る集団に襲われている。
きっとうちの子はそこに巻き込まれて、帰ってこれていないに違いない、と、老婆は言った。
――あるいはもう、死んでいるかも知れない。
そんな思いが去来するが、誰もそれは指摘しない。
数日後、情報屋のゲルト・ロンベルク(p3n000295)から、新たな情報が届いた。
「……どうやらショールは生きているかも知れない。少し厄介だが、一部『革命派』の情報拠点で小間使いとして扱われているようだ。革命派たちの中に一人、やたらと歌のうまい男がいるらしくてな。夜な夜な暇つぶしに、吟遊詩人代行なのか、あれこれ歌わされている。その男の歌う歌を調べさせたところ、どうやらあの老婆の暮らす村の歌だと分かった」
「今回の任務は、村人ショール・ガラッツの救出。そして、一部『革命派』たちの拠点を、壊滅させることだ」
- <総軍鏖殺>祈ル歌声、虚シカラズヤ<革命流血>完了
- GM名三原シオン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月24日 22時26分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
村の夜は、ひどく静かだった。
冬が近いせいで、夜の闇は以前より早く空を包む。
旧ヴィーザル領に位置する小さな村「オルフィ」は、普段なら穏やかな夜を迎えるはずだった。
だが、子守唄の代わりに響くのは、がさつな男たちの笑い声だった。
それも、嘲笑に近い。
森の奥に潜んだ一同は、敵から見つからないよう慎重にコトを進めていた。
「……いい加減うんざりしてきたな」
チッ、と、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は舌打ちした。
「また革命派を名乗る輩か?」
「名乗るのは勝手だけれど、やっていい事と悪いことはあるわよねぇ……」
「あぁ。司祭の名を身勝手に利用し、芸術や尊厳まで踏みにじるとは……許せないな」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は呆れ顔をし、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、忌々しげに眉根を寄せる。
「他の勢力でもこういうことが起こりそうで困っちゃうよねぇ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は、今後を憂いて浮かない顔を見せる。
「ダヴィードって奴は何か知ってるかもしれねぇな」
『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、村全体を眺めながら思考を巡らせる。
「そうだな……。ラドバウ近辺でも『アラクラン』なる偽革命派が動いている。調査は色々と必要だが、まずは、奴らの暴虐を止めねばならん」
『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は、難しい顔をして腕を組んだ。
その隣で、『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は怒りに肩を震わせた。
「……ふざけるなよ……皆の想いを……してきたことを……なんだと思っている!!」
革命派を強く想う彼女は、激情を覚えながらもぐっと奥歯を噛み締め、理性を保っている。
「革命派を騙ったことを地獄の底で後悔するがいい……」
依頼人の姿を思い出し、マリアは深く息を吐いた。
「おちゃあちゃんも待っていて……必ずあなたの子も救い出してみせるよ……」
だがともあれ、夜の帳は降りた。
「仕掛けるには丁度いい夜だ」
『竜剣』シラス(p3p004421)は空を見上げた。
「さぁ、行こうぜ」
●
一同はまず、村人の救出を優先した。
各々、スキルで視野を確保して、夜闇に紛れて進んでいく。
イズマは猫をファミリアーで呼び出し、夜目の聞く猫の視野から村の上体を把握していく。
同時に、超聴力で耳を澄ませた。
「ショールさんの歌を聴く。必ず聴いてみせる……」
「うん」
マリアも、スキルを発動させながら、耳を澄ます。
「彼の歌声は、きっと手がかりになるはず!」
一方、シラスは暗視と透視に広域俯瞰を組み合わせ、村全体の世数を眺めていた。
主眼であるショールの探索だけでなく、この村にとらわれている他の人々の救出のため、その在り処を探っている。
その視界に、泣き叫ぶ女たちが映った。
目を覆いたくなるような光景に、シラスは小さく舌打ちした。
「……笑うぜ、お楽しみ中かよ」
そういう彼の唇に、笑みが浮かぶことはない。
「敵の居場所は、大体わかったわね」
ヴァイスは、落ち着いた様子で手元のメモに線を引いていく。
こんなこともあろうかと! で取り出したメモとペンは、思っていたより役に立っていた。
「話には聞いていたけど、高低差が大きい村ね。全体像を把握するのは手間かもしれない……」
「そうだな。調べたんだが、村全体の地形も入り組んでる」
周囲を探った貴道が、ヴァイスに大まかな地形を共有した。
その話を耳にした武器商人は、ハイテレパスで話に加わった。
「……今こっちで、三鬼の旦那と調べてみたんだけど、敵もそれには苦戦してるみたいだねぇ。ここに長居するつもりはないんだと思う。迎撃を想定するなら人を隠していそうな場所に、誰かを置いてる様子がない」
「なるほど……」
ヴァイスは、じっくり考えるように目を伏せた。
その時、はっ、と、イズマが目を見開いた。
「聞こえた……っ」
「え?」
「ショールさんの歌が、聞こえた! こっちの方角だ!」
イズマは村の一画を指差した。ちょうど中央の広場として活用されていたエリアだ。
開いているため、隠れたりするのは難しいかもしれないが、その分大立ち回りには向いている。
かつては、市場が開かれたりして小さいなりに賑わっていた場所だったのだろう。
今、そこには村人の亡骸が、ぞんざいに放り捨てられている。
「……許せない」
そう呟いたのは、誰だっただろう。
「……良い歌なのに、悪意に潰されてて辛そうだ」
イズマは、思わず自分の胸に手をおいた。
歌の響きは、朗々とした楽しげなものだった。決して、物悲しい歌などではない。
だが、歌い手の感情を消すことなどできない。生き残るため、顔でどれだけ笑顔を取り繕っても、朗らかな声で歌っても、根を張った悲しみは決して、払拭されない。
音楽を愛するイズマの耳には、その悲しみが届いていた。
「……ショールさん。そこに居るんだな」
そう呟く声には、決意が滲んでいる。
貴道は、ぐっと拳を握りしめた。
「あの地点なら、助けに行った瞬間、交戦になるな」
「あぁ、望むところだ」
昴は、不敵に唇を釣り上げる。
「殴り込みといこう」
●
以前は市民の集まりに使われていた会館は、今、自称『革命派』のねぐらとなっている。
「おら、さっさと始めろよ」
会館の中央には、生き残った村人が二人、立たされていた。
父と息子であることは、その風貌から一目瞭然だろう。
それぞれの手には、ナタと、スキが握られている。
兵士たちは棒を持ち、村人たちを後ろから突きながら戦いを促していた。
「……これが、余興だって?」
部下に呼ばれた『深紅』ダヴィード・レディチは、中央に備えられた椅子に座った。
「女は?」
「それが、耐えきれなくなったのか、今朝方まとめて死んでいるのが見つかりまして……」
側近の言葉に、ダヴィードはうんざりしたように顔をしかめた。
「女が壊れるまで息抜きしてたのかよ。本当に使えねえ馬鹿どもだな。第一、前線に上がる前に体力は温存しろっつっただろうがよ……」
くだらない、と、ダヴィードはため息をついた。
だが、兵士たちに溜まっている鬱憤も理解している。
「おい、貸せ」
「あっ、はい」
ダヴィードは部下の一人から、棒を奪った。
兵士たちは、ダヴィードが動いたのを見て道を開ける。
ダヴィードは、二人の村人を見下ろした。
かと思うと、父親の方の膝を乱暴に蹴りつけた。鉄板の入ったブーツで容赦なく蹴られたせいで、父親の足が逆方向に曲がって折れる。
ダヴィードは棒を振り上げて、男の喉や鼻、目を執拗に殴り続けた。
「親父……!」
息子は父親を守ろうと飛びかかる。だがたちまち、見張りの兵士たちに抑え込まれた。
息子の目の前で、ダヴィードが父親の骨を蹴り折っていく。
息子と父親の絶叫が響き渡る。
「お前のせいだぜ、ガキ」
ダヴィードは呆れた顔で息子を見下ろした。
「お前なら、父親を楽に死なせてやれたのによ。何のために生きてんだ、お前」
そう言った瞬間、敵襲を告げるかの如く、部下の悲鳴が響いた。
●
「聞くに耐えねえな……!」
貴道は怒りの形相で、見張りの兵士たちをぶん殴っていた。
「な、なんだ貴様ら……!」
「雑な開幕で悪かったな」
貴道は、兵士たちをぎろりと睨み据える。
「ここからは丁寧に一人ずつ仕留めてやるよ?」
至近距離から、目に見えない打撃を無数に打ち込んでいく。
「私はここだ。どこからでもかかってこい」
昴は、自分の居場所を知らしめるように派手にバスタースマイトVを叩き込んだ。
「て、敵襲だ!!」
「一体どこから……ッ」
ダヴィードの配下たちが、慌てた様子で武装し、飛び出してくる。
斧を振りかぶってくる敵を前に、貴道と昴は引かなかった。
すかさず、二人の間に、武器商人とイズマが割って入った。
「我(アタシ)が、相手になろう」
破滅の呼び声を発動させた武器商人を前に、兵士が立ち怯んだ。
「あ、ぁ、ぁああ……!」
これを生かしておいてはだめだ。
これは、あまりに、危険すぎる。
恐怖に塗りつぶされた声をあげて、兵士たちは武器商人に襲いかかる。
「そんなに怯えてちゃ、まともに戦えないよ……」
武器商人は僅かな笑みを見せながら、敵の攻撃をいなしていく。
一方、イズマは兵士たちの正面に立ち、腹に力を込めた。
「俺は、『青き鋼の音色』イズマ・トーティスだ! 俺には恐怖も躊躇もない!」
その名乗りに、兵士たちの注目が向く。
「鉄騎種を燃やせると思うなよ、さぁ来い!」
武器商人とイズマの二人が敵の攻撃をいなしていく間にも、貴道と昴が次々と敵を撃破していく。
「くそっ、惑わされるな! 狙わなきゃならねぇのはあのステゴロ二人だ! 中央の筋肉どもからぶっ潰せ!」
怒りの射程外にいる、飛び道具を手にした部下たちの視線が、貴道と昴に向く。
次の瞬間、ぱっと光が周囲を照らした。
「ボスに逆らえねぇで吠えてるだけの雑魚に用はねぇんだよ」
姿を表したベルナルドが、苛立たしげに唸る。
「さっさと大将を出しな」
照準が定まるより早く、ベルナルドは、ワールドエンド・ルナティックの一撃を叩き込む。思考を一気にかき乱され、弓兵たちは騒然となった。
わずかに取れそうになっていた統率が、一気に崩れていく。この場をなんとか維持するだけのリーダーは、この場にはいないらしい。
「くそっ、暗闇に乗じて襲ってきやがったか!」
「索敵班だ! 敵の居場所を早く割り出し……」
「それより前衛だ! 戦線を下げずに戦え!」
バラバラな指示が飛び交う中。
「やぁ」
不意に、朗らかな声が響いた。
「君たち、革命派なんだって?」
そう笑っているのは、マリアだ。
一瞬でチャージを終えた蒼雷式・天槌裁華を構え、今にも弾けそうな雷を携える彼女は笑顔を携えているが、目は微塵も笑っていない。
「革命派で君らなんて見た覚えはないけどね」
殺意を込めた笑みを前に、兵士たちが引きつった悲鳴を上げた。
「なっ……」
「待て、やめろ……!」
「何人が、君らにそう言って、殺されたんだ?」
次の瞬間、大規模な雷が兵士たちをぶち抜いた。
マリアは他の兵士がやってこないよう警戒しながら、村人たちが捕らえられた建物を見据えつつ、戦闘を進めていく。
「くそっ、何なんだよいきなり! こっちだって、無茶な行軍でボロボロだってのに……!」
ぎりぎりで耐えた兵士たちが、その場を離れようと逃げ出していく。
「早く、レディチさまにこのことを伝え……!」
その言葉を言い切る前に、混沌の黒泥と、輝くまばゆい光が、兵士を襲った。ヴァイスとシラスの攻撃だ。
そのトドメで、ほとんどの兵士たちが潰れた。混乱したまま、地面に倒れ伏す。
「安心しな。俺たちはお前らとは違う。……殺すつもりはねぇよ」
シラスは攻撃の手を緩めないまま、村人たちが囚われている建物の扉を開いた。
マリアが守っていたおかげで、兵士は近づけなかったらしい。彼らを人質に取られるようなことは起きていない。
中には、震えている女や、暴力を受けてぐったりと倒れたきりの男が捕まっている。
「……あなたたち、だれ……」
呆然と自分を見上げる女に、シラスは上着を貸した。
「よく生き延びてくれた」
その言葉に、女の怯えがふっと緩んだ。
「もう大丈夫だぜ」
シラスの腕の中で、女はぼろぼろに泣き崩れた。
●
「……で、何割ぐらい残った?」
ダヴィード・レディチが現れたのは、彼の従える兵士の殆どが潰れた後だった。
「一割、ほどかと」
そう答える副官を見据えて、ダヴィードは億劫そうに息を吐く。
「ここで落ちるぐらいの実力なら、前線で死ぬのが関の山だ。あいつらに潰してもらって良かったかもしれねェな」
剣を手にして、ダヴィードは村の中央広場へ現れた。
八人のローレット・イレギュラーズを前に、ダヴィードは暗澹たるため息をついた。
「……まぁ、それは俺も含めてか。負ければ弱かったってだけだ」
そう呟くダヴィードの目に、光はない。
だがその言葉は、ベルナルドの怒りを呼び覚ました。
「気に食わねえな」
ベルナルドは、フルルーンブラスターで仕掛ける。ダヴィードは攻撃を見切り、ベルナルドに視線を向けた。
「誰も、他人の命を品定めする権利なんざねぇ。テメェは何様のつもりだ?」
ダヴィードは、軽い嘲笑を浮かべた。
「何様だろうな? それを、確かめに来たんだろ」
ダヴィードの攻撃を、割り込んだイズマが代わりに受けとめた。
「歌の心も聴けないお前に、品定めの権利は無いよ。他人を弱者だと見下せるほどお前は強いか?」
イズマの脳裏に、聞いたばかりの歌がよぎる。
絶望の中でも、必死にもがき、歌い続けた男の想いが、よぎる。
「辛くても前を向き続けた彼の方がずっと強く生きてるよ」
イズマはダヴィードの背後へ視線をやった。
助けを信じている彼は、ダヴィードが出てきた建物の中にまだ捕らえられているのだろう。
この戦いは、決して引けない。
「歌……。あの吟遊詩人か」
ダヴィードは思い出すように目を伏せた。彼は何かを言おうとし、口を閉ざす。
代わりに、ダヴィードは一歩、イズマの方へ大きく踏み込んだ。
「ゴタクは済んだか?」
炎をまとった一撃が、まともにイズマを捕らえる。
「くっ……!」
防具は、炎からイズマを守った。だが、衝撃そのものまでは吸収しきれなかった。まともに一撃を受けたイズマの身体が、後方へ吹き飛ばされる。
「くそっ」
ベルナルドは、エネミースキャンでダヴィードの強さを確かめようとした。
だが、ブロッキングに阻害され、上手く確かめることができない。情報を抜かれることを警戒しているらしい。やはり、素性を知られるとマズイ人物なのだろう。
(見えないなら見えないで、分かることはあんだよ)
ベルナルドは油断なくダヴィードを見据える。
一方で、司令官である彼のそばに、部下が出てくることはなかった。
残った一割は、ダヴィードに長く仕えている面々だった。ゆえに、彼の戦場でヘマをやらかしたら、敵より先に自分が屠られると理解している。また、ダヴィードが討たれるなら、それはそれで構わないと思っているような姿勢も伺える。
「さて……」
恐怖と武力だけで荒くれ共を押さえつけていた男は、得物を手にイレギュラーズたちを見据えた。
「次は?」
その言葉が終わるより先に、貴道が間合いへ踏み込んでいく。
ダヴィードに強烈な殺気を叩きつけながら、臓腑を潰すような一撃を放つ。
「どうだ!」
「ぐっ……」
ダヴィードはその一撃を受けるも、わずかにいなした。
貴道はわずかに唇を歪める。
「……そうかよ。いっぺん見た技なら完全にゃ喰らわねえってわけか……」
「それなら」
二人の間に、武器商人が音もなく立ち入った。
「これは、いかがかな」
神すら滅する魔剣『神滅のレイ=レメナー』の一刀が、鮮やかにひらめいた。
確かな手応えに、武器商人はわずかに笑む。
「殺すつもりはない。……あくまで、生きたまま捕まえさせてもらうよ」
舌打ちしたダヴィードは、すかさず身を翻した。
「逃がすわけ、ないだろ?」
その退路を昴が塞ぐ。
ダヴィードは剣を構えた。炎をまとった一撃とともに、二匹の犬が昴に襲いかかる。
「行かせないぜ」
シラスはすかさず、アルトゲフェングニスを放つ。まともに受けた犬たちは、濁った悲鳴を上げて一瞬で消し飛んだ。
「ッ……」
ダヴィードの表情に、流石に焦りがにじむ。
その隙を逃さず、その間合いに昴が踏み込んだ。
「この技は、まだ見てないだろう」
雷撃をまとった拳が、容赦なくその顎を殴りぬく。その膝ががくりと落ちかけた。それでもまだ、ダヴィードは目から光を失っていない。
「それならダメ押しだよ!」
入れ違いにマリアが白雷式電磁投射砲・「雷閃葬華」を放つ。自らの身を砲丸に変えて敵にぶち込む一撃は、ダヴィードの身体ごとふっ飛ばし、近くにあった家の壁へと叩きつけた。
「道連れに、殺してやる……」
殺意をむき出しにするダヴィードを、死角から残影百手が襲う。
「ぐぁ!?」
目を見開くダヴィードに、マリアはにこりと微笑んだ。
「気付かなかった? あなたがさっき攻撃したお兄さんが、どっちに吹き飛んだのか……」
ぼろぼろになったイズマが、その背後から現れる。
「……はっ」
ダヴィードは、自嘲をこぼした。
「所詮俺も、この程度か」
彼の敗北を見た部下たちは、顔を見合わせた。
そして、あっけなく、投降の道を選んだ。
●
「全く、人に迷惑をかけてはいけないって教わらなかったのかしら?」
囚われの人々を護りながら戦いきったヴァイスは、呆れたようにダヴィードたちを見据えた。
「答えろ。『アラクラン』とは何だ」
昴の問に、ダヴィードは口をつぐんだ。
「……し、知りません!」
口を割ったのは、別の部下だ。
「お、俺たちは、新皇帝派の軍人です……! グロース・フォン・マントイフェル将軍の命令でここを襲撃しただけで、他のことは、何も……!」
「首魁のダヴィードなら、それ以上を知ってるんじゃないのか」
「知りません! 本当に!」
一同は顔を見合わせた。ダヴィードがこの部隊における長には違いないが、彼の手荷物からもそれ以上の情報を示すものは出てこなかった。
マリアはダヴィードから視線をそらし、救助した人々の手当へと向かう。
武器商人は、助け出した人々へ暖かな毛布をかけ、帰路を案内していた。
「あ、あの……」
救出されたショール・ガラッツが、イズマの前へ歩み寄る。
「……あなたの言葉が、聞こえました。……俺、自分が弱いから、家族も守れないって、ずっと、思ってたから……だから」
イズマは穏やかな笑みを返した。そして、その肩にそっと、手をおいた。
「君は、強く生きてるよ。これまでも……これからも」
「……っ、はい!」
ショールは、イズマに深く頭を下げる。
何度も殴られたあざは残っている。
だが、彼はその顔に、穏やかな笑顔を、明日を向く希望を、取り戻していた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
大変お待たせしてしまい申し訳ありません!
村の襲来、無事決着です。
戦いきってくださりありがとうございました。素敵なプレイングの数々、感謝です!
GMコメント
今回の目的:村人ショール・ガラッツの救出
目標:『深紅』ダヴィード・レディチが率いる、自称『革命派』たちの一部アジトの壊滅
こんにちは、三原シオンです。
一気に冬めいてきました。
寒い日々を無事乗り越えたいと家族のために尽力した青年を救い出し
自称『革命派』をぶっ飛ばしてください。
本シナリオでは、以下のアイテムが特殊ドロップします。
=====================
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
=====================
●フィールド
旧ヴィーザル領の村「オルフィ」
土地の高低差のある人口40人ほどの小さな村です。
もともと防衛拠点というわけではないため、守りや攻撃といった意味ではガバガバでしょう。裏に森があるため、死角も多く、攻めやすい反面守りづらい拠点となっています。
また、高低差が激しいせいで、思わぬところに家が隠れていたりもします。
村に予め備えてある武器はなく、大体が農具です。
●敵
『深紅』ダヴィード・レディチ
けだるげな口調、赤い髪、眼帯の軍人風の出で立ちの男です。
弱いことを許さず、自分の部下であろうとも弱者は文字通り切り捨てます。
戦闘においては剣と炎を使う近接戦を得意としています。
また、炎の犬を二匹従えています。どちらもスーパー土佐犬ばりにスーパーで乱暴で屈強ですが、ダヴィードのいうことはよく聞くようです。
自称『革命派』
『深紅』ダヴィード・レディチの率いる、20名ほどの屈強な男たちです。
次の村をどう攻め落とすか、情報を集めたり武器を整えたり休息したりしている様子です。
●その他
村人の殆どは惨殺されていますが、一芸を持った男や美しい女については、労働力や慰み者として生かされているようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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