シナリオ詳細
<総軍鏖殺>鋼の翼を持つ少女
オープニング
●鋼の翼を持つ少女
冷たい荒野を、ロングコートを着た女学生が歩いている。
長い髪を荒れた風に靡かせて、彼女は足を止めた。
分厚いタイツを膝まであげた、革のブーツに深色のスカート。
ガーターベルトとおぼしきラインが、エメラルドグリーンに輝いた。
「私は――」
コートの前ボタンを親指で弾くように開くと、同じくエメラルドのような瞳をきらめかせて彼女は叫ぶ。
「ダイダロスの子、フランセス・D・ナウクラテー!」
すると彼女のスカートの内側から折りたたまれた金属フレームが素早く展開。流体金属を膜のように広げ研ぎ澄ましたナイフのように光を照り返すと、まるで威嚇するように大きく広げてみせた。
反動でスカートが風に靡くが、胸に手を当て堂々と『構える』姿に迷いはない。
「タレクの民は私が守ります! さあ、かかってきなさい!」
対するはグルゥイグダロス(巨狼)。巨大な狼のような姿をした俊敏な怪物である。
唸るグルゥイグダロスが突っ込んでくるのに対し、フランセスは真っ向から突進し、あろうことか相手の目の前で跳躍した。
派手な、そして慢心したように大胆なフォームだが――この武装においては『正解』である。
それまでの倍ほどの長さと広さへ展開した鋼の刃――『I.K.R.-SKIRT(イカロ・スカート)』が食らいつこうとするグルゥイグダロスの顔面を切り裂き、首をはね、さらには全身を輪切りにした末にフランセスを着地させた。
ロングコートの裾が重くはためき、その内側をエメラルドの微光で彩っていた。
●これも天命
「よくきて下さいました、ローレットのシャルティエさん」
鉄帝領タレク(旧ヴィーザル領)を訪れたシャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)たちを出迎えたのは、ほぼ同年代の少女であった。
「私はフランセス・D・ナウクラテー。ここの自警団をまとめています。つい最近まで軍にいました。南部戦線ではあなたの噂を聞いたことがあります。幻想王国の優れた騎士だと」
そうまくし立て握手を求める彼女に、シャルティエは目をぱちくりさせてから『あ、ああ』と一手遅れる形で握手に応じた。
「別に騎士ってわけじゃないんだ。称号を貰ってないしね」
苦笑するシャルティエに、今度はフランセスのほうが目をぱちくりする番だった。
「それは……失礼しました! 噂ではてっきり」
「ううん。いいんだ。騎士を目指してるのは本当だし、産まれも騎士の家だからね」
バルナバス新皇帝即位後の鉄帝国は混乱していた。
各所に暴徒が発生しモンスターが闊歩する。
国政などあってないようなもので、各地は自警を余儀なくされていた。
そんな中でタレク領はローレットへモンスター退治の依頼を出し、シャルティエたちはそれを受けるかたちでこの場所を訪れたのであった。
互いに自己紹介を一通り済ませたところで、フランセスはタレクを描いた地図を広げた。
正確に測量された地図というより、建物や堀のある場所をおおまかに記録した図面である。戦略図と呼んだほうがいいかもしれない。
シャルティエのもといた世界の常識からして、『戦略図を見せる』というのは己の懐を開けて相手を信用するポーズのようなものだ。なぜなら、戦略図を知っていればその土地を容易に攻略できてしまう。領土が降伏する際に戦略図を献上するという習わしがあるように。
その気持ちを察したのだろうか。フランセスはウィンクをして話を続けた。
「現在、南からモンスターによる継続的な襲撃を受けています。
前回はグルゥイグダロス、前々回はギルバディア。これらのモンスターは新皇帝即位後に発見された天衝種(アンチ・ヘイヴン)という種で、おそらくバルナバスの手のものでしょう」
「新皇帝派による攻撃だと?」
「いえ、そう確定するには早いですが……無関係ではないと思います。
それよりこうして散発的に、かつ小戦力を送り込む理由はなんだと思いますか?」
フランセスに問いかけられ、シャルティエはかつての出身世界の学校で学んだことを思い返していた。主に戦術の授業で。
「戦力の観察。兵の引きつけ。あとは警戒による疲弊を狙った戦略だよね」
「その通り。シャルティエさんとは話が合いそうでよかったです」
にっこり笑うフランセス。
そして、戦略図に木製のマーカーを置いていく。
「この領地には一応兵がいますが、ごく少数です。動ける大人が自警団を組んでいますが、長期的な警戒や見張りの経験が少ないですから効率もとても悪いんです。
数日続けられただけでもうみんなヘトヘトになっています。今襲撃を仕掛けられたら、おそらく応戦できないでしょう」
「…………」
慣れない集団にとって『見張り』というのは兵站をひどく食う。交代制で眠ることに慣れていないと健康状態を崩しやすいし、いつ敵が現れるかわからないストレスは暴食を招く。飢え乾き寝不足になった未訓練の兵など、簡単に壊滅することができるというわけだ。
「僕にそれを話したってことは?」
「はい。近いうちに……明日にでも本格的な襲撃が起こるはずです。私の読みでは――」
シャルティエも同じ考えだ。そして疲弊した兵を攻撃するのに最も適切な時間帯は――。
「「明け方」」
声が揃って、二人は顔を見合わせた。
「やっぱり話が合う」
フランシスが笑って、マップの西側を指さした。
「おそらく防御のゆるいこちら側を狙ってくる筈です。領地の自警団も対応してくれますが、主力はやはり私達になるでしょう」
「わかってる。任せて」
シャルティエは腰から下げた剣を手に取り、頷いて見せた。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/70748/9f5953d19be7bf6d694759a89ce8ae43.png)
- <総軍鏖殺>鋼の翼を持つ少女完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年11月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●タレク防衛網(と言う名の九人)
「守るってのも色々大変なんだな……」
2mほどの塹壕を見下ろし、『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)はぽつりと呟いた。
スラム生まれの盗賊上がりというサンディは、その昔『堀ぃ? 縄にフックつけて向こう側にぶっさすだろ? これを二つつくるだろ? でもって縄の上を走って渡るんだよ』という酒臭い盗賊の話を聞いたことがある。飛行手段も多彩になってきた今ではそのテクニックすらいらなくなっているので、あまり主流の防衛手段ではないのだが。
それでも堀を作ったのは、これまでの襲撃パターンが陸を走るタイプばかりだったことと、『穴を掘る』作業はスピードを問わなければ訓練の必要がないことにあるのだろう。
鉄条網や気の利いたトラップ、あるいは地雷配置なんかはかなり訓練のいる作業なのだ。
「ま、できるだけ手ぇくわえとくか」
サンディは堀にモンスターが嵌まった際に足止めがしやすいようちょっとした仕掛けを加えてやった。
「夜更かしやストレスって、お肌に良くないのよねえ。早く皆がゆっくり休めるようにしてあげましょ!」
ハリを確かめるように自分の頬を軽くぺちぺちと叩くと、『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はわざと困ったような顔をしてみせた。
彼らは堀の内側に陣取り、いつモンスターたちが襲撃を仕掛けてきてもいいようにやや広く構えていた。
タレクの村もなんだかんだで広く、堀もやはり広く(長く)とられている。
一点集中で人を配置しては離れた場所から攻め込まれた際に堀を全く活用できなくなってしまうので、敵が現れた際はできるだけ近いメンバーが足止めをして、そこへ仲間達が集まっていくという方式がとられることになった。
ジルーシャと並ぶかたちで配置されたのは『寛容たる傲慢』オジヴァン・ノクト・パトリアエ(p3p002653)。
お肌云々はジルーシャなりのジョークでもあったのだが、オジヴァンは明け行く東の空を眺めながら『なるほど』と重々しく呟いた。
「夜は……人間の表皮を滅ぼすか」
「そこまでじゃないわよ? もしかしてバキバキにひび割れて灰になるところまで想像してない?」
「ふむ」
ちなみに、今の間隔を空けて配置するという方式を提案したのはオジヴァンであった。
彼はヘトヘトになって戦闘にはあまり役に立たないであろう自警団たちを点在させ、それとは別に自分達イレギュラーズを等間隔に配置している。
自警団に求めるのは敵の位置確認と周りへの呼びかけであり、いざ戦闘になったら下がって弓を射るように指示していた。いってみれば、生きた鳴子のようなものだ。
「しかし、夜明けに襲撃とは周到であるな。誰ぞ意図を持って襲撃を齎したかは憂慮すべきである……」
オジヴァンの抱く懸念は、勿論『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)たちにもあった。
あったのだが。
「見張の瞳は昏く、あてもなく遠くを見つめ。
陽の落ちた後の家々からは談笑ひとつ湧かず
明日に怯えて咽び啜り泣く声が、静かに空気を揺らす――」
詩を朗読するように、美しく述べ上げたセレマは長い前髪をサッとかきあげた。
美しさを可視化したかのように、彼の周囲にはきらきらとした何かがただよっている。
「こういう場所でこそ、ボクの力と美しさを十全に誇示できる。
さあ、今回も見せてやろうじゃないか。完璧な仕事をね」
「うつくしさ?」
弓の点検をしていた『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)がセレマへと顔をあげ、小首をかしげる。
そして例の懸念へともどった。
「普通のモンスター、こんな、波状攻撃、してこない。多分、裏、ありそう。
新皇帝派、予測、同意。でも、まず、明け方、対処、必要。
人、一杯、傷つくの、嫌。何とか、する。頑張る」
仲間達はこの襲撃の裏に新皇帝派の軍部が絡んでいると予測していた。当然というべきか、アンチ・ヘイヴンを使役できるのは(ごく僅かな例外を除けば)今のところ新皇帝派の連中くらいだ。それを意図的に放っているところを見ると、モンスターを効率的に運用する人間がこのヴィーザルに派遣されているということになる。
「これ、お茶。お湯、淹れて、飲んで」
が、それは元からわかっていたようなもの。シャノはせっせと温かい御茶を自警団たちに運び、冷えた明け方の空気を和ませていた。
そこからまた離れた位置で、『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)は両手を腰に当てて遠くを見ていた。
ロングコートの前を開け、とんでもなく露出の高い服装によて肌を露わにしている。
普通こんな格好をしていれば風邪を引きそうなものだが、燦火のまわりにはほのかに温かい空気が渦巻いている。
彼女が火のドラゴンロア使いであることが影響しているのだろうか。いや、どちらかというと彼女が微弱に放っている熱気のようなマナのせいだろう。
「モンスター群をここまで計画的に扱う事が出来るだなんて、実に厄介ね?
もしも此処で上手くいったのなら、今後は各地で同じような戦術が使用される筈。
――そうなる前に、ここで叩き潰してあげる!」
堂々と言う彼女の横で、『青薔薇の奥様』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)がこくりと頷いた。
燦火とは対照的に、どこか冷ややかな雰囲気に包まれた女性である。
青い薔薇をアクセントにしたドレスがほんのりと風に靡き、地に立てた旗をたなびかせる。シビック家の家紋である薔薇の紋様が、彼女の雰囲気にとてもよく似合った。
が、やる気いっぱいな様子はレイアも同じだったようで、ぐっと握りこぶしを胸の前に作る。
「新皇帝のせいで六派閥に分かたれた挙げ句にモンスターまで暴れだすんですからろくでもないことになってますね。頑張りましょう!」
燦火との違いは、どうやらレイアのそれは空元気であったようで燦火のほうを見てもう一度『頑張りましょう』と呟いた。
「そうそう、頑張らないとね! なんたってあたしたちが主力なんだから!」
そうと気付かない(あるいは気付いてもあえて乗った)燦火はにっこりわらって、同じようにグッと拳を胸の前で握って見せた。
「士気は充分。準備は上々、といったところですか……」
『鋼の翼を持つ少女』フランセス・D・ナウクラテーはそんな風に呟いた。
東からうっすら明るくなった空を背に、村の西側をじっと見つめるフランセス。
わずかに照らされた横顔を見つめ、『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)はどこかまぶしそうに目を細めた。
(表裏が無いっていうか……気持ちの良い性格をしてるなぁ。少し話しただけだけど、気も合いそうな感じ。
……きっと自警団も、彼女に励まされてやってこれたんだろうな。
真っ直ぐで、少し眩しくすら感じてしまうような……。……こんな時で無ければもう少し話をしてみたいけど)
見つめられていたことに気付いたのか、『なにか?』という顔でフランセスがこちらを見てくる。
シャルティエは急いで言葉を探し、そして言うべきことを口にした。
「行こう、自警団の頑張りに報いないと!」
「ええ、その通り」
先の呟きにあった『士気は充分』という言葉はイレギュラーズとフランセスだけにあてられたものだ。
それ以外の自警団たちは壊れた生活サイクルのせいでふらつき、不安のせいでよく眠れず、もうじき訪れる交代時間を待っているという者が大半だ。
それでもやる気を無くさずにいるのは、守るものが自分達の村と家族だからだろう。
騎士家系に生まれそれなりの訓練を積んだシャルティエにとってこうした長時間の警戒はお手の物だが、そうでない者にとってどれだけつらいのかも訓練過程で知っている。
と、そんななかで。
鉄板を強く叩き続けるゴンゴンという音が鳴り響いた。
敵襲の合図である。
●襲来
自警団の皆が後退し、弓を構える。
彼らが受けた訓練は『構えて山なりに撃つ』というその一点だけだ。堀の外側に矢を振らせることで牽制するのが狙いであり、それ以上の役割をこなせない者が大半だからだ。
「どうやら、アタシたちが時間稼ぎ役みたいね」
イレギュラーズたちがおよそ二人ずつ配置されたのはテキトーな話ではない。
堀の内側から射撃する担当と外側に出て攻撃を引き受ける側のセットを作ることが狙いだ。
最低でもこの二人がいれば時間稼ぎができるのである。
「許さず、これより先を通ることを我等は許さぬ」
オジヴァンは堀の外側で堂々と立つと、黒い直刀と螺旋を描く槍を十字に交差させるようにして構えた。
先行してくる敵部隊はヘイトクルー(機銃型)だ。
彼らは猛烈に走り、機銃のような幻影を浮かべこちらに激しい射撃を浴びせてくる。
オジヴァンは『ウロボロス・プロト』を発動。被弾した側から傷口を瞬間的に再生させる。
まあ、もともと傷を瞬時に塞ぎノーダメージのようにみせかける力が彼にはあるのだが、それに実効的な力を付加したものだろうか。
オジヴァンは堀のギリギリまで下がり、ヘイトクルーがそれを扇状に囲むように射撃を継続。そこへ満を侍してギルバディアが突進していった。
堀へ落としてしまうためか、それともオジヴァンをこの場で潰そうとしてか。
いずれにせよ好都合だ。
オジヴァンは槍を構えることで突進を受け止め、後方のジルーシャに合図を出した。
「さ、出番よ、アタシの可愛いお隣さんたち!」
ジルーシャは首元の襟をくいっと指で開くと、動脈の熱によって増した香りがふわりと広がる。誘われるように精霊がふわふわと湧き上がり、さながら蛍の群れのようにジルーシャを包む。
そして取り出した竪琴にゆびをかけ、精霊たちを踊らせるような音楽を奏でる。
『ゲニウス・ロキの祝祭』とよばれるジルーシャの香術は、ギルバディアの身体に精霊たちを纏わせる。
それが危険なものだとわかったのだろう。ギルバディアが爪をむき出しにした腕を振り回し、精霊たちから距離をとろうと半歩下がる。
続いてジルーシャが使ったのは『ガンダルヴァの香薬』という香術であった。袖の手首部分をまくるようにして露出させると、また違った香りが湧き上がり精霊たちが寄ってくる。
精霊の対象はオジヴァンである。彼の隠しきれない肉体へのダメージを治癒すべく精霊たちがまとわり、漆黒のコートに夜空のような光を作った。
オジヴァンはほんの小さく笑い、これならばとギルバディアへ斬りかかる。
彼の槍がギルバディアを貫き、剣が腹を割いたその時、燦火が猛烈な勢いで飛び込んできた。
「一人をよってたかっていじめてんじゃないわよ!」
燦火のダッシュからのマナ纏いからの直接攻撃。つまりはフェネクス・ドロップキックがヘイトクルーの一体に直撃。
地面に手を突いて器用にくるんと回転し足り上がった燦火は、早速周囲の塀とクルーをにらみ付けた。
なにもマナはドロップキックのためにあるものじゃない。
「歓喜の絶叫、憤怒の鉄槌、悲哀の波濤、歓楽の灼熱。我が内なる衝動こそを力と成す。塗り潰す色は赫く、其の全てを飲み込み、染め尽くす!」
詠唱を負え、衝動をマナにのせ、放射する。
彼女の性格を現すかのような技、赫衝波(フラクタス・ルベル)である。
オジヴァンを囲んでいたヘイトクルーの一団が誘引され、機銃を捨てて直接殴りかかってくる。
「そう簡単に抜けられると思ったら、大間違いなのよ!」
繰り出された拳を手のひらでキャッチし、不敵に笑う燦火。
「『青薔薇の加護よ、癒やしの花弁を』」
そこへ到着したレイアが祈りをかけて旗を大きく振った。
青い薔薇の幻影が広がり、燦火を包み込む。
「良い調子、そのままやっちゃって!」
「はい!」
レイアは続けて旗を地面にずんと突き立てると、強く握って祈りを込める。
「お父様、見ていてください! 私だって強くなれましたから!」
湧き上がった力を解放するかのように目を大きく見開くと、薔薇の花びらが散るかのようにエネルギーが広がりヘイトクルーたちをなぎ払っていく。燦火にだけはあたらず、器用に避けて。
こうなってくれば仲間も続々集まってくる。そして、敵側も。
「伏せて」
翼を広げ低空を滑空し素早く目標地点に到着したシャノ。彼は弓を構え、迫るグルゥイグダロスめがけて矢を放った。
グルゥイグダロスは堀をいとも簡単に飛び越えるだけの身体能力があるようで、強く踏み込み跳躍――したところでシャノの矢が顔面へと刺さる。
ギャッと声を漏らし掘へと転落するグルゥイグダロス。サンディが仕掛けた簡単な木槍に刺さり激しくもがく。
木の枝を斜めにすぱんすぱん切っていって等間隔に突き立てるというだけの簡単な仕掛けだが、2mの堀の底にあるとこれが地獄のようにキツいのだ。サンディの仕込みである。
続くグルゥイグダロスは、先頭をいった味方が撃ち落とされたのをみて急ブレーキをかけた。
そして燦火たちを狙うべきかと振り返ったところに、シャノは更なる射撃をしかける。
「敵、多い。的、困らない。端から、狙い撃ち」
矢は途中拡散したように無数に分裂。幻影の矢が周囲のグルゥイグダロスやヘイトクルーたちへと突き刺さる。
と、そこで。
ギュオオオンというなんとも不快な、錆び付いた歯車が軋むような音が響いた。
「どうやら、敵の本命が来たようだ」
合流したセレマがゆっくりと構える。
構えると言っても、彼の場合『美しく立つ』にすぎないのだが。
流し目をあえてつくって見つめると、相手は錆び付いたパワードスーツに見える。古代兵器を流用したものらしく、量産タイプのパワードスーツとはデザインが大きく異なるのだが……より特筆すべきはパワードスーツから憤怒のオーラが燃えるよに湧き上がっていることだ。本来なら人間が入っているはずのヘルメットバイザーの奥には、何もない。つまりは、憤怒のオーラで自律するラースドールの亜種ということだ。
両腕を翳す。クローの装着されたそれからは憤怒のオーラが溢れるが、セレマは望むところだとばかりに歩み出た。
彼の腹がクローによって貫かれ、もう一方のクローで縦向きに引き裂かれる。
セレマは一見真っ二つに引き裂かれたように見えたが……しかし、本当に引き裂かれたのは彼の来ていた服だけだ。
美しい裸体を晒す彼が、その場にすっくと立ち上がる。
「もう少し試そうか。おいで」
セレマは露わになった胸元を指でトントンと叩くと、EXラースドールを挑発する。
彼の『仕掛け』がわかったのだろうか。EXラースドールは肩の大砲を展開し、セレマに機関銃射撃を思い切り浴びせかける。
穴あきチーズになったかに見えたセレマだが、やはりなったのは服だけだ。『やりすぎたダメージジーンズ』を纏った姿で肌を晒すセレマは、フウと息をついて首を振る。
「ハッキリしたね。『ボクたちの勝ち』だ」
瞬間。
駆けつけたサンディがカードナイフを構えた。投擲の際に流し込んだ生命エネルギーはカードを黄金に輝かせ、EXラースドールへと投擲した。
「俺が隙を作る。そのうちに叩き込め!」
カードはEXラースドールのヘルメットバイザーに突き刺さった。中身のないパワードスーツの視界を奪ったところでと一見して思うかもしれないが、サンディはどうやら『これ』の弱点を見抜いていたようだ。
「人間の形にとらわれて、人間らしい弱点まで持ち合わせたみてーだな」
カードが突然弾け、魔力によって込められていたインクがバイザーを覆う。EXラースドールは慌てたようすで腕を顔のあたりに持っていくが、インクを拭う機能など搭載されていない。
「フランセスさん!」
「シャルティエさん!」
二人が叫ぶのは全く同時。
飛びかかるのも、全く同時。
左右から襲いかかった二人は、それこそ同時に攻撃を放った。
シャルティエの握る片手剣『ハイディ』がEXラースドールの頭部に叩きつけられ、ヘルメットを粉砕する。
直後、飛び上がったフランセスのスカートから展開したI.K.R.-SKIRTがラースドールの内部へと入り込み、『オーラの核』とでもいうべきものを切り裂いた。
それまで響いていた軋むよな歯車の音が止まり、ブゥンという重い音と共にEXラースドールが膝から崩れ落ちる。
ふと見れば、仲間達が他のモンスターを倒し終えこちらに手を振っていた。
「やったね、フランセス」
シャルティエが出したてを、強く握って握手を交わすフランセス。二人はにっこりと笑い合った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
タレクの防衛に成功しました!
GMコメント
明け方に、モンスターの集団による襲撃が発生します。
これを迎撃することが今回のオーダーとなります。
●フィールド
タレク領の荒野。
寒冷地であるこの土地は荒野かつ平地が多く、バリケードを形成することが難しい土地です。
一応『掘り(川水を入れられなかったので2mくらいのでかい溝があるだけ。なので正しくは塹壕)』をまっすぐ敷くことで防御陣地としていますが、モンスターの群れを防ぎきれるものではありません。
今回は西側の堀の外側あるいは内側に陣取ってモンスターたちを迎撃することになります。
近接戦闘が得意なキャラクターを堀の外、遠距離戦闘タイプを内側に配置して線引きするというのが割と賢いスタイルかもしれません。
●エネミー
これまで投入されたモンスターから、襲撃に用いられるモンスターを予想しています。
以下の種類は確実に投入される種。これに加えて未知の種が投入される可能性があり、それはおそらく相手の切り札となるでしょう。
・グルゥイグダロス(巨狼)
巨大な狼のような姿の怪物です。俊敏にして獰猛。その爪や牙をマトモに受ければ『出血』は免れないでしょう。
・ギルバディア(狂紅熊)
大型のクマ型の魔物。凄まじい突進能力があり木々すら軽く薙ぎ倒す程の性能があります。また、敵を吹き飛ばす様な一撃を宿している事もある模様です。
・ヘイトクルー(機銃型)
周囲に満ちる激しい怒りが、陽炎のようにゆらめく人型をとった怪物です。人類を敵とみなすおそろしい兵士達です。
機銃のような幻影による怒り任せの射撃や掃射で物理中~遠距離攻撃してきます。
・未知のモンスター
これまで投入されていない相手の切り札です。複数であるか一体のみであるかもわかっていません。(戦術的にみて大量にいるってこたぁなさそうです)
●味方
・『鋼の翼を持つ少女』フランセス・D・ナウクラテー
自警団のリーダーであり、今のところ領内でまともに戦えそうな数少ない人物です。
古代兵器『I.K.R.-SKIRT(イカロ・スカート)』の適合者で、展開した流体金属の刃で切り裂く近接戦闘を得意としています。
すごく奇襲向きの装備なのですが、本人が堂々としすぎる性格なので奇襲には一切使われません。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
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