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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>邪悪なる大樹<トリグラフ作戦>

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●線路に蔓延る邪樹
「なんだありゃぁ……」
 と、斥候の男が声をあげた。
 トリグラフ作戦。鉄道網の奪還を目的としたそれが発令され、各派閥は鉄道網奪取のための作戦を開始していた。帝政派の彼ら第68部隊の彼らもそれに従事しており、現在は斥候任務で、サングロウブルクよりはるか遠方、首都につながるいくつかの小路線を確認しているところであった。
 ――線路上に森が出現した――と報告を受けたのは、先般のことである。
 一体どういうことか、と本格的な斥候を出発させた一行は、果たして線路上に突如出現した、数多もの『木々』を発見したのである。
「この辺りは」
 斥候の兵士が言う。
「お世辞にも、草木が生えるようなところじゃねぇよ。ましてや、一日かそこらでだぜ。
 この辺はな、特に土地がやせてて、植物なんか生えやしねぇ。死に土なんだ」
「お前はこの辺の村の出身だったな」
 上官が言う。
「ならば、お前の言う事は正しいんだろう。確かに、この辺に農業地帯はない……この辺は石炭なんかの採掘のエリアだったな」
「俺の村も、鉱業の村でしたからね」
 男が言った。
「ろくすっぽ……それこそやせた土地で家庭菜園をようやくって所でさぁ。事業にするにゃあ無理です」
「そんなやせた土地に、木が生えたんだろ?」
 上官が皮肉気に笑う。
「それが良い事だってんなら、諸手を挙げて歓迎したいんだけどな……新皇帝になってからこっち、良い事なんておこりゃしねぇ。
 異常事態、だ。それも悪い方面の」
「近づきますか?」
 兵士が言う。
「スチームガンの最大有効射程まで近づけ。それならだいたい、20か30mって所だ。そこで立ち止まり、少し様子を見てから、射撃開始」
「撃つんですか? あの木を?」
「撃つんだよ。それで何もなければ安全だ。が、俺の勘が、ろくでもない、って言ってる。
 俺はビビりでな。元の軍でも、ろくな勲功はあげられなかったが、それでもうまい事生き延びてきた。
 ビビりだからだ。ヤベェ事には勘が働く。その俺の、ビビりの勘が、ヤベェって警告してんのさ。
 お前らを死なせるつもりはない。同情とかそういうのもあるが、それ以上に、無駄死にはさせたくない。うちも手が足りないからな。
 だから、お前らもビビりになれ。ヤベェと思ったら逃げてこい。許す」
「はぁ……」
 兵士は頷くと、仲間達に目配せする。数名の兵士が、スチームガンを手に、ゆっくりと前進した。林立する木々に近づき、30m。そこで止まった。
「有効射程ギリギリです」
「よし。見ろ。違和感は?」
 兵士の男が、双眼鏡で大樹を見た。木の虚ろが、ヒトの顔のようにも見えた。恐怖がそう見させているのか、或いはこれが、魔樹であるのか。
「怖いです。恐ろしい気配を感じる」
「いいぞ、そういう奴は長生きする。その怖さを忘れるな――構え」
「構え、よし」
「よし、撃て」
「射撃開始!」
 ばしゅ、ばしゅ、とスチームが、鉛の弾を吐き出す。それが、近くにあった大樹に着弾した。ばす、ばす、と木の皮がめくれ上がる。あっ、と兵士は声をあげた。めくれ上がった木の内側にあったのは、間違いなく、肉のような、そういう質感の何かであったからだ。
「退きます! 撤退、撤退!」
 反射的に、兵士は声をあげた。彼は兵士長のような立場だったので、それは命令として残る兵士たちに伝播した。そしてそれは正しかった。隊長風に言うなら、ビビりの勘が、彼らを生と死のデッドラインから、生の側にぐうっ、と引き上げてくれた。
 兵士たちが撤退したのと入れ替わる様に、兵士たちがいたところに、地面から槍のようなものが突き出してきた。それは、良く視れば、脈打つ肉のような、木であった。じぐじぐと蠢くそれが、獲物を捕らえ損ねたのを悔しがるように脈打つ――刹那、大樹が揺れた。
 ごうごう、と大樹は蠢き、『立ち上がった』。根のような足はぐちゃぐちゃとうねるように立ち上がり、林立する木々が、次々と立ち上がる。それは、木の、大樹の化け物であった。
「なんだありゃぁ……」
「総員、もっと下がれ! 何をしてくるかわからん!」
 隊長の声に、兵士たちは頷いた。規律よく後退すると、起き上がった木々は、此方を警戒するようにじゅるじゅると体表を動かしていた。
「ありゃぁ……天衝種(アンチ・ヘイヴン)ってやつか。大樹のはたしか――」
 思い出すように隊長が言うのへ、兵士が声をあげた。
「ジアストレント(大樹)」
「間違いない。斥候は完了した。俺たちじゃ、あの群れは倒せん。専門家を呼ぶぞ」
「ローレットですね」
「ああ……丸投げになっちまうが、頼らざるを得ない……そこは、ビビりの俺でも悔しいと思うもんさ」
 隊長の言葉に、兵士たちは頷いた。新皇帝の悪意に、彼らは無力とは言わないまでも、力は不足していた。仮にも軍人であったもの、祖国くらいは自分で守りたいという気持ちはあったが、それでも、自分達では実力不足であることくらいは理解できる程度に、彼らは力量のある人間ではあった。
「戻るぞ」
 悔しげに言う隊長の言葉に、兵士たちは改めて頷いた。不気味な木々はそれをあざ笑うかのように脈動を続けていた。

●雑草刈
「というわけで、そちらには草刈りを願いたい」
 そういう軍人の男に、あなたたち――ローレットのイレギュラーズ達は頷いた。
 帝政派より仕事があるといわれてきてみれば、課せられた任務は鉄道奪還作戦、トリグラフ作戦の一翼を担うものであった。
「このルートの線路に、アンチ・ヘイヴンのジアストレントの群れが住み着いちまった。見た目は巨大な木だが、近づくものを襲う怪物だ」
「そんな所に怪物がいたら、新皇帝派にも邪魔なんじゃ?」
 ローレットの仲間が声をあげるのへ、軍人の男は頷く。
「ああ。だが、このルートはサングロウブルクに続く道。自分たちが使えないよりも、俺たちが使う方を邪魔したかったんだろう。あるいは、俺たちごときがこの怪物たちを突破できるはずがない……とふんでいるのか。どうにもわからん……あのバルナバスってのもそぅだが、それに付随する、新皇帝派の動き全般がな」
「敵の動きは分からなくても」
 ローレットの仲間の一人が声をあげる。
「このアンチ・ヘイヴンが邪魔なのは確かですし、線路網を使えれば、帝政派の有利になることも確か、ですね?」
「ああ。だから、そちらにはこの大樹の撃破をお願いしたい、という訳なんだ。草刈り、ってわけだな」
 その言葉に、あなた達は苦笑する。随分と大仰な草刈りになりそうだった。
「敵はアンチ・ヘイヴン、ジアストレントの群れだ。周りに他の敵はいない……数は、10強、って所だな。
 アイツらは基本的には長距離を動かない。だから、増援はない。引き続き斥候もしたが、付近に敵の巣もなさそうだ」
「つまり、草刈りに注力できるわけだ」
 ローレットの仲間の一人がおどけて言うのへ、軍人の男は笑った。
「そういうわけだ。ま、草刈りだが手間賃はしっかり出す。根こそぎ枯らしてきてくれ。
 ……こんなことは釈迦に説法だが、充分に気をつけてくれ。こんな任務で死ぬんじゃあないぞ」
 そういう軍人の男に、あなたは力強く頷いた。
 線路奪還のための作戦。その一つが、此処に開かれようとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 鉄道網奪還作戦、トリグラフ作戦。その一つ、雑草狩りを始めましょう。

●成功条件
 すべてのジアストレントの撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 帝政派は、この度鉄帝線路網奪還作戦、トリグラフ作戦を決行することとなりました。その一翼を担うこの依頼は、鉄道路線を占拠した、巨大な魔樹の森――アンチ・ヘイヴンのジアストレントの群れを撃破することとなります。
 線路上に現れたジアストレントの群れは、移動することなく線路の一レーンを占拠しています。このままでは、この路線を使うことは困難。その為、ジアストレントには消えてもらう必要があります。
 もとより、線路網はすべてこちらの手中に収める必要があります。一つの例外も許されません。帝政派の勢力を伸ばすためにも、作戦を成功させる必要があります。
 作戦決行タイミングは夜。これは、此処に生息するジアストレントの活動量が低下している時間帯を狙ったためです。その為、辺りは薄暗くなっています。戦闘に支障をきたすほどではありませんが、暗闇への対抗策があれば、より有利に働くでしょう。
 エリアは線路を中心とした荒野のエリア。特に戦闘ペナルティが発生するようなことはありません。

●エネミーデータ
 ジアストレント・エンフォーサー ×3
  巨大な樹木の怪物、ジアストレント。その内、近接攻撃に特化したタイプです。比較的自由に動き回り、巨大な体で敵の攻撃を耐えながら、強烈な木の鞭の一撃で敵を打ちのめします。
  HPそのものは高いですが、防御技能が高いというわけではありません。大ダメージは狙えますから、一気に撃破してしまうのがいいでしょう。

 ジアストレント・スカベンジャー ×3
  ジアストレントの内、遠距離攻撃に特化したタイプです。地面の下から槍のような根を伸ばし、串刺しするような攻撃をこないます。
  かなりの遠距離から攻撃してくるため、一気に近づいて撃破する、という戦法が有効かもしれません。
  槍の攻撃による出血や、足止めに注意を。

 ジアストレント・オウルアイ ×4
  ジアストレントの内、レーダーや司令塔の役割を持つタイプです。悍ましい花粉を放ち、たのジアストレントへ性能上昇の指令を出すほか、その花粉は敵(イレギュラーズ)に対して、痺れや不調などをもたらす悪意のそれとなるでしょう。
  戦法としては、オウルアイによるバフを受けたエンフォーサー、スカベンジャーが、一気に敵を墜とす……というようなもののようです。
  オウルアイそのもの戦闘能力は低い(ゼロではないです)ですが、最後に倒すか、最初に倒してバフとデバフを回避するか、は作戦次第になります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <総軍鏖殺>邪悪なる大樹<トリグラフ作戦>完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
問夜・蜜葉(p3p008210)
乱れ裂く退魔の刃
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎

リプレイ

●草刈り作戦
 月と、たくさんの星々が、世界を照らしている。あれた土地に伸びる鉄の道。それは、汽車を走らせるための線路である。鉄帝という国の各地を繋ぐその大動脈は、しかし今はあらゆる理由から、その流れを止めていた。
 たとえば、その理由の一つに、今ここにそびえる悪しき大樹の存在などがある。
 全長だけで見るなら、4~5、或いは6mもあろうか。何処かかさかさとした、生気のない皮である。視るものに、なにがしかの『不安感』を覚えさせるそれは、ある日、突如として線路をふさぐように生え、そこに鎮座した。その数、10。
 十本もの樹木が、ある日突然、何の前触れもなく、青々と生い茂っている……などというだけで、尋常ではあるまい。この辺りは土地がやせていて、中々草木が育たないのがだ、それを抜きにしても、異常であるのは間違いない。
 異常であるという事は、何者かの意志が働き、こうなったという事である。しかも、ろくでもないそれに違いあるまい。
「……まぁ、良いものではなさそうでありますね」
 そう言ったのは、『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)だ。夜間、線路にやってきたイレギュラーズ達。その任務は、草刈り、である。
「どう見ても大樹だけど」
 むむむ、と『乱れ裂く退魔の刃』問夜・蜜葉(p3p008210)は唸る。
「草刈り、って聞いてたけどぉ……」
 はぁ、と肩を落とした。もちろん、草刈りなどという言い方はユーモアである死、それは蜜葉は理解していた。していたが、しかし目の前の大樹を見て、改めてため息などを吐きたくもなろうものだ。
「厄介そうだね。厭な気配を感じる。私の世界にいた妖魔……とも違うけど、臭いはあんな感じ。
 とくに嫌な奴の臭い。臭くて、厭ったらしくて……」
「それには、うん、同じに思う」
 『雷虎』ソア(p3p007025)が、嫌そうに眉を、むむぅ、と曲げながら言った。
「臭い……なんだろ、腐ったお肉の臭い。
 ボク、腐ったのは食べられないよ」
「あれの中身は、肉のような素材だと聞いていたが」
 『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)が言う。
「流石に食べられんだろうからな。加えて、そんな素材じゃ薪にもならん。ウドの大木、という奴か。ウドは木ではないんだが」
「なんだ、食べられないのかね」
 ふむん、と『戦飢餓』恋屍・愛無(p3p007296)が唸る。
「たまにはベジタブルでも、と思ったものだが」
「腹を壊すぞ」
 ジョージが肩をすくめる。とはいえ、と愛無が唸った。
「確かに、あまり食欲をそそるにおいではないのは確かだ。それに、線路を分断されるのは非常に困る。
 このウドどもを何とかしよう。だが……」
 もういちど、ふむ、と愛無が唸った。
「……いやな予感がする。そうだな、あの隊長ではないが、少しビビりで行こう」
「あァ。警戒するにこしたことはない」
 『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が言う。
「敵はアンチ・ヘイヴンか。まだよくわからんところも多いからなァ」
「確か、バルナバスが放った魔物……でしたねぇ」
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が、口元に手をやりながら言った。
「自国領に魔物を放つなど、正気とは思えませんが。そこは流石、冠位魔種と言った所なのでしょうねぇ。
 いやはや、存外、鉄帝から学ぶことも多いですね。
 この、鉄道網というものもそうですが、阿呆が国政を司ると国はどうなるか、というモデルケースに丁度良い」
 くっくっ、とウィルドが笑う。
「ああ、失敬。些か言い過ぎましたかね」
「実際、魔種に好き放題させたらこうなる、というモデルとしては優秀ですわね」
 『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)が嘆息した。
「嘆かわしい事ですが。しかし、好き放題させないために、わたくしたちがいる……ともいえます」
「うん。それは、そうだね」
 蜜葉が頷く。
「私はポラリス・ユニオンに肩入れしてる方だけど。鉄帝が大変なことになってるのは分かってる。
 そういう意味じゃ、敵は共通だからね」
「ええ。私などは本来は幻想派ですから」
 くっくっと笑うウィルド。ジョージが頷いた。
「ま、力を貸してくれてる、という所に疑いはないさ。魔種が敵で、倒さなきゃならない、って所は共通だ。そうなれば、魔種が置いたであろう」
 大樹を指さす。
「ああいうのを、どかさなきゃならない……という目的も同じだろ?」
「うん。所で」
 ソアが言った。
「見られてるの、わかる?」
 そういうのへ、頷いたのは愛無だ。
「うむ。奥の四つ。あのうろは、目か」
 そういう。確かに、奥の方にある大樹には大きな『うろ』があって、そこが何か、ギラリと光ったような気がしたのだ。まるで、フクロウの目のように。
「夜目がきいているな……活動は活発ではないらしいが、それでも、此方を認識したらしい。どうする?」
 愛無が言うのへ、レイチェルが頷く。
「ま……やることは一緒、だろう? 草刈りの始まりだ」
 ぐっ、と肩に手をやって、右腕を動かして見せた。にぃ、と笑う。
「草刈りというか、焼き払うって方が得意だがなァ」
「くれぐれも気をつけて」
 愛無が言う。
「ここは敵のフィールドだ。どうにも、やりづらい」
「分かってる。ビビりで、だな?」
 真剣な表情で、レイチェルは頷いた。仲間達も、敵の醸し出す、何か恐ろしい空気を、感じ取っていたのだ。恐らくは、強い……こちらを相対して十分なほどに。
 イレギュラーズ達が少しずつ近づくと、やがて樹木の姿がはっきりと見えてきた。それは、嗅覚であったり、視覚であったり、そう言ったものを強化したりして、故に見える位のものであったがとにかく。見てみれば、樹木の皮が、うぞうぞと蠢いているような気がしていた。何か……生物的な気配。
「……薪にはならなさそうだ」
 ジョージが言った。同時、イレギュラーズ達は一斉に『散開』する。するとどうだろう、イレギュラーズ達がいた場所に、一瞬の後、足元から一斉に、牽制攻撃とばかりに鋭い槍のようなものが飛び出して来たではないか!
「タケノコ……じゃないや、木の槍だ!」
 ソアが言う。くるり、と着地。そのまま走り出すと、追うように地面から槍が走る!
「へへん、ボクには追い付けない……けど、どうする!?」
「たぶん、司令塔がいるはず! この手のパターンだとね!」
 蜜葉が言うのへ、玉兎が頷く。
「では、あの夜目のきく四本でしょう。フクロウの目……オウルアイ、何て呼び方はいかが?」
「いい呼び名だ」
 愛無が言う。
「嫌なにおいがする……花粉か……?」
 ばふ、と、オウルアイから花粉がまき散らされた。それは、仲間である大樹たちに降り注ぎ、まるで意志を励起するように働きかけたようだ。残るい六体の木、そのどちらも三体ずつで種類が違うようだ。これを、スカベンジャー、エンフォーサー、と名付けよう。とにかくその二種が、まるで目覚めたように蠢き始める。
「うわ、気持ち悪いですわね……!」
 うごうごと蠢く、肉のような樹皮。流石の玉兎も、気持ち悪い、と素直に言葉にしてしまうほど、それは本能的な嫌悪を抱かせるようなものだった。
「やれやれ、では、こうしましょう」
 ウィルドが声をあげる。
「手前の六本、攻撃は引き受けましょう。その間、後ろのオウルアイをお願いします」
 ウィルドが口元を抑える。先ほどから舞う花粉は、どうやらイレギュラーズ達にとっては毒のように体を蝕むもののようだ。
「ウィルド、スカベンジャーの方は私が引き受けますわ」
 玉兎が言う。
「二人で分担すれば、それだけ長く耐えられましょう?」
「ええ、お願いしますよ?」
 ウィルドが笑う。一方、
「けほっ、けほっ! うう、花粉が酷い!」
 ソアが悲鳴を上げる。
「花粉のやつからやっつけるの、賛成だよ!」
「同意する」
 ジョージが言った。
「どうやら、奴らが司令塔のようだ。奴らを仕留めることができれば、此方に有利に働くはずだ」
「あァ」
 レイチェルが頷く。
「よし、まずは後ろのやつから叩く――行くぞ!」
 その言葉に、仲間達は頷く。かくして、夜闇の中、邪悪なる大樹の戦いが幕を開けたのである――。

●適切な恐怖
 ばふ、ばふ、とオウルアイが花粉を吐き出す。それは、敵への攻撃手段のようでもある。実際、目に見えて茶色い花粉が吹き出され、それはまるで物理的な壁のように、イレギュラーズ達にたたきつけられた。
「むぅ……!」
 愛無が唸る。
「だが、シンプルな攻撃面、という点では、まったく驚異的ではない。やはり、搦め手がこいつらの得手なのだろう」
 愛無の言う通り、オウルアイの花粉攻撃、そのダメージそのものは、まったくイレギュラーズ達にとっては脅威とは言えなかった。むしろ、それに付随する不利効果(デバフ)がその身体を苦しめるものだ。
「デカブツ共。わざわざご足労感謝する。丁度よかった。冬の薪が心もとなくてな。さぁ、薪割りの時間といこう!」
 だが、それもイレギュラーズ達の足を止めるようなものではない! ジョージが、オウルアイを射程に捕らえた。ぎり、とその手のグローブを握りしめる。同時、黒の顎が眼前にて生成され、オウルアイ目がけて走った! ぐわぁあん、と雄たけびを上げる黒顎! それはオウルアイの一体へとかみつくと、ばぐり、とそのままの勢いで噛み砕いたのだ!
 うおおおおん、と嘆くような声を、オウルアイはあげた。その噛み砕かれた空間を中心に、べぎりべぎりとへし折れて倒れていく。断面から見えるそれは、まるで肉の塊のように見えた悍ましいものだ。それが命を失うや、急速にしわくちゃになって、しぼみ、そしてかさかさと感想して消えていった。
「やれやれ、これじゃあ薪には使えないな……!」
「なら、この場で燃やしてしまっていいだろ?」
 レイチェルが笑った。
「一瞬、息止めてくれ。花粉ごと焼き飛ばす!」 
 レイチェルが、ばちん、と指を鳴らす。それに応じるように、レイチェルの右半身が赤く発光した。それは、身体に刻まれた魔術紋様が描く、日の魔術のサーキットである。
「焼け消えろッ!」
 再び、ばちん、と指を鳴らす。同時、レイチェルの半身が爆発的な光を発し、その指先から強烈な焔を爆散させた。宙を走る炎は、漂う花粉を根こそぎ焼き払い、同時に、オウルアイの草った葉をばぢばぢと焼き、消滅させる。
「粉塵爆発手前だぞ」
 むむ、と愛無が言うのへ、レイチェルが笑う。
「これの方が手っ取り早い」
「ま、それはそう!」
 ソアが飛び込んだ。炎に焼かれ、もたつくオウルアイに、ソアは強烈な一撃を加える。シンプルな、爪撃! だが、恐ろしい虎のそれは、命を狩りとる死神の鎌にも同じだ! ソアの斬撃に、オウルアイがぎゅああ、と悲鳴を上げて崩れ落ちる。傷口からぶすぶすと煙をあげて、乾燥し、チリに消滅する。
「うん、絶対に食べられない奴だよ、これ」
「そうか、僕ならワンチャン」
 愛無が言う。が、愛無はその『手』でオウルアイを薙ぎ払ってから、僅かに憮然とした顔をした。
「すまない。人の忠告はきちんと聞いておくべきだった」
「え? 食べたの? それ?」
 蜜葉が困惑した声をあげる。
「ま、まぁ、趣味は人それぞれだよね、うん!」
 気を取り直しつつ、雪華の刀を振り払う。斬撃が、オウルアイの身体を傷つけた。
「ジョージ、止めお願い!」
「了解だ!」
 ジョージが再びその手を振るう。同時に放たれた黒の顎が、オウルアイを噛み砕く! 蜜葉のの一撃に重ねられるように放たれたジョージの攻撃は、見事にオウルアイの生命を噛み砕いた。ぎゅあああ、と悲鳴を上げるオウルアイ。半ばからへし折れ、倒れ、乾燥して塵となって消えていく――。
「司令塔はつぶしたか」
 レイチェルが言う。
「少し時間がかかったな……攻撃に手間取っちまったか……!」
 その呟きの通り、少々、撃破に時間がかかったようだった。そうなれば、その負担はウィルドと玉兎、二人にのしかかってしまう事となる。
「すぐに援護に行こう!」
 ソアの言葉に、皆は頷く。果たしてそのウィルドと玉兎であるが、エンフォーサーとスカベンジャー、3体2グループを相手に、健闘を続けていたといえる。
「おっと、お待ちしておりましたよ」
 ウィルドがそういう。余裕の笑みを浮かべていたが、しかし蓄積されたダメージは大きい。
「なんとか、此方も耐えております!」
 玉兎もそういうが、やはりダメージは大きいようだった。
「すまない、手間取った」
 愛無が言うのへ、ウィルドが頭を振る。
「いいえ、仕事ですので。ですが……むうっ!?」
 ウィルドに迫る木の鞭を、ウィルドはまともに食らってしまった。強烈な打撃が、ウィルドの身体を駆け巡る――たまらず、地面にたたきつけられたウィルドがうめき声をあげた。
「ウィルド……くっ!」
 叫ぶ玉兎が、しかしこちらも地面からの一撃を受けてしまう。鋭く突き出された槍のようなそれが、玉兎の右腕を深く切り裂いていた。使途土日が流れるのを、玉兎は無理矢理に抑え込もうとする。
「まずい、二人とも下がってくれ! それ以上は深手になる!」
 ジョージが叫ぶのへ、
「! ……申し訳ありません……!」
 悔しげにうめく玉兎だったが、しかし自分たちへのダメージが重い事は、自分たちが一番わかっていた。悔しいが、此処は戦線を離脱するしかない。
「どうする、愛無よ」
 レイチェルが言うのへ、愛無が、ふむん、と唸った。
「まだ攻撃は続行できる……が、負担は大きいだろうな。全滅は無理と考えた方がよさそうだ。が、このまま逃げるのもうま味がない。
 可能な限り数を減らして、後続の味方につなげたい」
「今数を減らしておけば、帝政派の兵隊さんでもなんとかなりそうだからね……!」
 蜜葉がそういうのへ、ソアは頷く。
「じゃあ、もうちょっとだけ頑張ろうか!」
 その言葉に、仲間達は頷く。かくして決死の戦いが続こうとしていた。

●撤退戦
 エンフォーサーの強烈な鞭が、蜜葉を叩いた。
「ぐうっ……け、ど……ッ!」
 雪華の刀を、最後の反撃とばかりに振り払う。痛みをおして振るったその刃は、エンフォーサーの巨大な体を断裂させた。ず、と音が響き、真一文字にエンフォーサーの胴体が裂かれ、滑り落ちる。同時に、腐り、乾燥し、チリとなって消えた。
「う……う、ぐっ……!」
 蜜葉が苦し気に息を吐いた。強烈なダメージは、既に蜜葉に限界のアラートを鳴らしていた。あれから数度にわたる打ち合いが続き、何とか2体ほどの敵を撃破できていたが、しかし仲間達のダメージの蓄積も大きい。そして蜜葉も、いまませに戦線を離脱しようとしていた。
「ゴメン……ここまで……!」
「いや、よくやってくれた。退いてくれ」
 ジョージがそういうのへ、悔しげにうめきながら、蜜葉が戦線を離脱する。一方で、敵の数は、残り4。全滅には程遠いと言えた。
「ちっ……」
 ジョージが舌打ちする。スカベンジャーの放つ『槍』が地面からジョージを貫こうと放たれていた。ジョージは跳躍してそれを回避。再び黒顎をうち放つが、しかしその一撃が、スカベンジャーの胴体を噛み砕くには至らなかった。
「皆さん……!」
 玉兎が、戦線の外から声をあげる。
「おそらく、もう……!」
 限界だ、と言いたいのだろう。それは、未だ戦闘中のメンバーにも、理解していたことだ。
「悔しいですが、退くことを提案しますよ」
 ウィルドが言う。その笑みは変わらずだったが、僅かに口元が引き絞っているようにも見られた。
「愛無、ソア、ケガ人連れて先導できるか?」
 レイチェルがそういうのへ、愛無が頷く。
「もちろん。だが、君とジョージ君は」
「殿、って奴さ。と言っても、無理するつもりはない。適当に攻撃ばらまいて、逃げる。
 付き合ってもらえるか、ジョージ」
「仕方あるまい」
 ジョージが言った。
「ソア嬢、愛無、頼んだ。
 敵の追手は抑える」
「うん……むり、しないでね?」
 心配げにソアが言うのへ、ジョージとレイチェルが頷いた。
 ソアと愛無が、同時に走り出す。後方で、強烈な攻撃の閃光が響くのを、背中越しに感知していた。
「逃げるよ!」
 ソアが、玉兎、そしてウィルドへという。蜜葉は、既に意識をもうろうとさせていたようだった。
「愛無さん、蜜葉さんを背負ってあげられる?」
「もちろん。少し揺れるかもだが、スピード最優先だ」
「玉兎さん、ウィルドさん、少し辛いけど、走って!」
 ソアがそういうのへ、ウィルドが頷いた。
「ええ、仕方ありませんね。命あっての物種です。少し無茶をしましょう」
 ウィルド、玉兎が立ち上がる。一方で後方から、レイチェルと、ジョージが走ってやってくるのが見えた。
「撤退だ! 走れ!」
 ジョージが叫ぶ。仲間達は頷いて、距離をとるべく走り出した。
 レイチェルとジョージの置き土産によりダメージを受けた大樹たちは、追う事を早々に諦めたようだった。数を半減させたが、未だ線路を占拠する大樹たち。今回は倒すことは叶わなかったが、しかし、いずれ。
「必ず……この線路は奪還する……から……」
 悔し気に、もうろうとした意識の中、蜜葉は呟いた。そしてそれは、皆が同じくする思い出もあった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 今回は討伐となりませんでしたが、しかし敵の数を半減させることができたのは十分ともいえます。
 後日、帝政派の兵士による追撃作戦が行われることでしょう。

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