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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>悪鬼に囚われた鬼殺し

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「大丈夫――大丈夫だ、頼々。ワタシが頼々を守ってやる。
 ワタシは嘘を吐いたことはないだろう?」
 か弱い少年がいる。
 才に恵まれず、刀を握る膂力も無い。
 鬼殺したれと定められた一族にはあまりにも出来損ないと言う他ない少年だ。
 空柊は、その少年がどこまでも愛おしかった。
 力がないのに刀を握る姿も。
 術を知らぬのに叩いたいと願う姿も。
 一族に嬲られ、蔑まれ、疎まれ、腫物のように扱われてなお、『一族らしく』鬼を恨み続ける。
 その姿は、あまりにも愛おしかった。
「――空柊」
 未来を望めず、諦めることも出来ず、ワタシを見る目。
 それが、あまりにも愛おしい。
「大丈夫だ、頼々。ワタシが守って――」
 一瞬、『彼』がブレた。
 気づいた時には、そこには全く知らない誰かがいて。
 けれど、その少女らしい姿は弱弱しくこちらを見上げていた。
「怖いのだな。ならワタシと一緒にくれば守ってやる。
 ワタシが怖いのなら、立ち去ればいい。ワタシはそれを拒まない」
 ――なぜなら、それは。
 たしかに思考したそれ以降が『ノイズがかったように』思い出せなかった。


「く、くははは! どんな夢を見ている、『鬼殺し』
 貴様が殺した数多の我らの怒りに、憎悪に纏わりつかれながら一体どんな夢を見る!」
 男――藤次郎は嘲笑するように笑っていた。
 鬼のようにも、泥のようにも見えるソレの中、女が目を閉じて上半身だけをさらけ出している。
『ぐぅるるぅおぉぉ!!』
 ソレが咆哮を上げる。
「あぁ、分かっているとも、ダガヌチよ。
 あの男だ――あの男。
 この女が執着するあの男――奴が目の前で死ねば、こやつとて心折れよう」
 鬼が笑う。
 あぁ、正しくその顔は『鬼』である。
 邪悪で、下劣で、悍ましく、強大な悪の権化たる鬼。
 人の常識を捨て、己が執着の為に生きる者。


「――申し訳ない。俺達が……あんなのに協力したなんて……
 俺達は、俺達は……どうか。どうか、お願いします!
 あの人は、そりゃあ怖いところもあるけど、でも。
 寄る辺を失った俺達を守ってくれた人なんだ!」
 平伏するのは3人の精霊種――豊穣では八百万などと呼ばれる者達。
 現在の豊穣では生きれなくなった者達を中心とする彼らは海乱義衆などと名乗っていた。
 こちらはかなり自業自得だが豊穣で指名手配されていた空柊の庇護下にあった者達である。
「頭をあげよ……あの女が、ただ囚われた程度で死ぬとでも?」
 源 頼々(p3p008328)はそう言いながらも声が強張っていた。
(ワレは……怒っているのか?)
 それは、海乱義衆にではない。
「奴ら……悪鬼衆とか言ったか。随分と逆恨みもいいところである」
 頼々はあの後、悪鬼衆についてもう一度豊穣へ問い合わせてみた。
「――政変のごたごたの最中にいつの間にか消えていた連中。
 とはいえ、最初から豊穣政府にもマーク自体はされていたようであるし、夜盗ではないか。
 空柊が手慰み程度であったにしろ、討伐される理由のある者達がやられて逆上するとは」
 源 空柊は所謂バグ召喚を受けていた。
 その後、手持ち無沙汰に鬼人種を狩って回り、結果的に現在の豊穣政府からは指名手配されている。
 彼女は良くも悪くも見境が無かった。
 無辜の民の鬼人種も襲われているが、同時に夜盗やら賊やら罪人たらもまた、目のつく端から狩っている。
「だからといって空柊の罪が消えるわけではないが……」
 あぁ、そうだ。頼々は、怒っていた。
「――人が一度は愛した女に、下らぬ逆恨みで手を出されて怒らぬワレではないぞ」
 その眼は静かにその戦場を見据えていた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 連れ去られた空柊さんと助け?にいきましょう。

●オーダー
【1】『悪鬼修羅』藤次郎の討伐
【2】源空柊の救出

●フィールドデータ
 ダガヌ海底神殿の内部、海底火山の麓辺り。
 一帯が溶岩によって絶えず熱されています。
 ターン開始時に抵抗判定が発生し、【火炎】【窒息】を付与される可能性があります。

●エネミーデータ
・『悪鬼修羅』藤次郎
 『海乱鬼衆・濁悪海軍』に属す海賊の一派『悪鬼衆』の長である鬼人種の魔種。
 上半身を大きく斜めに裂いた傷跡が特徴的です。
 凶悪で凶暴、まさに悪鬼と呼ぶにふさわしい悪人です。

 その手に禍々しい妖力を放つ太刀を握っています。
 また背中には弓を担いでいますが、矢筒が見当たりません。
 恐らくは放つとすれば妖力のような物となるでしょう。

 ステータス傾向は前段シナリオから物理戦闘主体、
 真っ当に強いハイバランス型と予測されます。

 また、妖気揺らめく太刀からは熱と毒性を感じます。
 【毒】系列、【出血】系列、【火炎】系列を与える可能性があります。

 加えて卓越した剣技は【邪道】であり、
【スプラッシュ】【連】などの連続攻撃能力を持つでしょう。

・『鬼呪』堕我奴子
 いわゆるダガヌチです。
 3~4m級の巨体とそれに見合った体躯を持ち、
 頭頂部には非常に鋭利な角を生やした『鬼』を思わせる個体。
 特に腕の部分は長く、鬼らしい要素を除くとどちらかというとゴリラっぽくも見えます。
 怒り、憎しみ、嘆き、驚嘆の入り混じった複雑な声で咆哮をあげます。
 核となる部分に空柊さんを取り込んでいます。

 ステータス傾向は群を抜いて高いHP、防技、【HP鎧】【再生】を持ちます。
 その咆哮は【感電】【体勢不利】【停滞】【麻痺】【呪い】【呪殺】を持ちますが、それ以外の戦闘能力を持ちません。

・悪鬼衆×5
 藤次郎に率いられる『海乱鬼衆・濁悪海軍』に属す海賊の一派。
 前身は鬼人種で構成された夜盗集団です。
 豊穣の政変が起こる少し前を最盛期としていましたが、
 政変前後に召喚された空柊さんの手で壊滅させられ著しく弱体化したようです。
 ダガヌチの警護を行うようにその周囲に立ち、
 矢を射かける、ブロックなどにより足止めするなどの行動を行います。。

●NPCデータ
・『源氏最巧』源 空柊
 頼々さんの関係者であり、従姉にあたります。
 『瘴緒(しょうのお・デヴシルメ)』に侵されていた海乱義衆に
 身動きを封じられたところをダガヌチに取り込まれてしまいました。
 どうやら眠っているようで反応はありません。
 恐らくですが、『欲望を喚起させるような幻影を見せられている』と思われます。
 この誘いに乗ってしまうと廃人コースまっしぐらです。
 ダガヌチの視界と一部共有している様子もあります。
 ダガヌチから助け出し、現実と幻影の矛盾を示すことで目覚めるでしょう。
●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <最後のプーロ・デセオ>悪鬼に囚われた鬼殺し完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月03日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
源 頼々(p3p008328)
虚刃流開祖
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


 どろりとした溶岩が押し寄せる戦場は、蒸気と熱とガスが充満していた。
 ぬらりと立つダガヌチはその景色と化して、さながら大きな溶岩の塊がそこにあるかのようだった。
『ォォォォ』
 不協和音にも似た咆哮が響いている。
「うーん、誰かを操っていいように扱うって私とっても嫌いなのよね」
 そう呟く『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)は曝け出した剣の足を以って一気に駆け抜ける。
「今回は助けに来た人もいるのだし目いっぱい頑張らないといけないわ。
 折角ならドラマチックに救ってもらいましょう!」
 鮮やかに舞い踊るバレリーヌ。
 少女の亡霊は圧倒的なる速度と技巧より繰り出される蹴撃の連撃を切り刻む。
 己の過去を思いこさせ得るものを斬るべく貫き、斬り裂いて、踊り狂う。
 踏破の終わり、ヴィリスの視線が向かうはひとつ。
(盗人猛々しい、とんだ逆恨みだな。
 何時呼び声に屈したかは知らないが心が鬼となっては救いようがない)
 推測された悪鬼衆の行動理由を思い、『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は静かに式符を取り出した。
「刃を交えた間柄ではあれどちゃっちゃと救って頼々が集中出来るようにしないとな!」
 鍛造されし魔鏡をダガヌチの方へと向ければ、魔鏡に映し出されし泥と悪鬼衆の者共。
 鏡像は虚構たる雫をどろりと垂らす。
「打て打て打てぇぇぇ!!」
 纏わりつく泥を振り払うようにして、悪鬼衆達が弓を引く。
 放たれた矢は放物線を描きながらイレギュラーズめがけて飛んでくる。
 抜き身の妖刀を怪しく揺らめかせ、藤次郎が笑う。
「貴様が死ねば、あの女の心も折れような!」
 凄絶な笑みが、『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)を射抜いた。
「復讐を否定はせん。貴様を此処で殺すのも、従姉に手を出されたワレの復讐であるからな。
 だが、ダガヌチといったか……その怪異を持ち出した時点で貴様の底は知れた」
「舐めやがって、てめえも、あの女のように殺してやる!」
 返すように振り抜かれた斬撃は熱を帯びた妖気と共に連撃を穿つ。
「使えるモノはなんでも使うがいい。刀も弓も、怪異だって貴様の力の一部である。
 そのうえで、貴様が奪った大切なモノ、返してもらうぞ……復讐鬼!」
 それらを受け切って、頼々は真っすぐに藤次郎を見た。
 返すように放つ空想の刃が幾度にも藤次郎の身体を刻んでいく。
「いい趣味してるよね、キミ。
 でも会長、キミみたいな人の心折れてる姿見る方が好きだなぁ」
 藤次郎を見て『虚刃流門下生』楊枝 茄子子(p3p008356)が言う。
「いやぁ、腹は立つよ。空柊くんはもう会長の友達なんだからさ。
 奪われたんなら、取り返さないとね」
 ゆったりとした宗教服に身を包んだ茄子子は藤次郎から視線を外すと、ダガヌチをみて一枚の免罪符を取り出した。
「空柊くんと今後も親睦を深めるためにも、まずは鬼退治と行きますか」
 白紙の免罪符が示す赦免の言霊が鮮やかな彩りをみせる。
 その言霊は明朗で、一つの不自然さも無く他者へと祝福を告げる。
 それは天より見下ろす女神が祝福の口付けを与えるように。
 溶岩のようにも見えるそれの中に、その人物はいるのだという。
(親族をあんな風にされて、黙っていられない気持ちは……うん、たぶん、ですけれど。わかると思います。
 “ボク”だって――ううん、今は“わたし”です)
 きっと、“わたし”もそうだから。
 弦を緩く弾いて、『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)は前を見る。
「わたしにできることはいつだってこれだけですけれど、少しでも助けになるのなら。
 今日も戦場に歌を届けましょう――!」
 ダガヌチが放つ咆哮を掻き消すように力強く、優雅に。
「悪鬼とは、本当に良く言ったものだわ。
 その顔、態度、所業。どれを取っても悪鬼と呼ぶに相応しいわね」
 蜂起握る『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は激情に突き動かされるように言葉を向ける。
「あぁん?」
 その言葉を聞いたらしい藤次郎がぎらりとした視線をセレナに向ける。
(――っ、)
 向けられた瞳には強烈な殺意。思わず竦みそうになるけれど、それは気づかれなかっただろうか。
「はっ――良い名前だろ? 俺の故郷にゃあ『悪』ってのに『強い』っていみもあるんでな」
「褒めてないわ。腹立つのよ、そういうの!」
 向けられた殺意を突き返すようにそう言ったセレナは結界を張り巡らせる。
 そのまま、箒と共に一気に前へ。
「まさか、私(鬼)が鬼殺しを助ける依頼を受ける事になるとはな」
 そういう『筋肉こそ至高』三鬼 昴(p3p010722)は全身に纏う闘氣を溢れさせる。
 降り注ぐ矢を掻い潜り、刀を抜いた悪鬼衆の一人へと肉薄すれば。
「悪鬼衆といったか。同族とはいえ容赦はせん」
 踏み込みと同時、闘氣を纏った拳を思いっきり振り抜いた。
 衝撃に悪鬼衆が怯み、同時に警戒を露わに昴を見下ろす。
「ダガヌチとやらの悪性を考えると急がなければならない事は明白ですし、今回は、ゆるりとは参れませんね」
 そう口に漏らすのは『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)である。
 自然体に立つ彼女のロングコートは熱気に煽られて靡いている。
「申し訳ありませんが、手早く終わせて頂きます」
 敵の様子を観察していたヘイゼルは、そこから一気に動き出す。
 ここまで観察してきた全てを集約し、その双眸が行くべき道を描き出す。
 本来ならば後手に回ろうはずもない圧倒的な速度より放たれるは軽やかなる進撃。
 怒涛の連撃がダガヌチを穿ち、泥の塊のようなそれを徐々に後ろへと後退させていく。
『ォォオオ!!』
 呪うような声が響き渡った。


 執拗に迫る藤次郎の斬撃は怪しく揺らめく妖気を引いて迫る。
「やはり、貴様……空柊より弱いな?
 その怪しげな刀もそう、自らの不足を知るから外付けの力に頼る」
 頼々はそれらを受けきるや、静かにそう呟いた。
 その身体には幾つもの傷が浮かんでいる。
「あぁん!? そんな傷だらけの身体で良くも吼えるじゃねえか!」
 藤次郎の激昂に合わせて、妖気が更に密度を増していく。
 だが、それでもまだ薄い。
「まあ怒るな、ワレも同じ経験がある故わかるだけのこと。
 貴様より怖い剣も、貴様が操る妖気よりも底のない神秘も、ワレは知っているぞ」
 それは挑発であって挑発にも至らぬ淡々とした感想に近い。
 振り抜いた紫闢より振り抜かれた軌跡はその空想の軌跡をもって追撃の刃を払い、『次』へ巡らせる。
 それを剣で防ごうとした藤次郎に、大きな傷が生み出されていく。
「同胞だろうと、ダガヌチだろうとやることは変わらない」
 金剛石の如き硬さを帯びた闘氣を以って悪鬼衆を受け切った昴は、ダガヌチの前へ。
 鉄壁の守りを持つ前髪の向こう側、視線をダガヌチへと注げば、闘氣は雷にも似たスパークを帯びていた。
 激しさを増す闘氣をそのまま力に込めて、昴は拳を振り抜いた。
 可視化された闘氣は雷光を放ち、強烈な一撃と共にダガヌチの体を穿つ。
「ちょっと躓いてしまうかもしれないけれど許してちょうだい。
 後はあなただけね――さぁ、踊りましょう!」
 ヴィリスは悪鬼衆達を掻い潜り、ダガヌチへと脚を薙いだ。
 振り払う蹴撃は刃を以って斬撃と無し、毒性を帯びた太刀風となる。
 幾度と無く切り刻む斬撃はダガヌチの再生能力をも阻害してけずっていく。
「全く、頼々の世界では『男子三日会わざれば刮目して見よ』の言葉はなかったのか? 従姉ならアイツの成長を嬉しく思えよな!」
 そう呟く錬は絡繰儀杖を構えて走り出す。
 ダガヌチへと肉薄すれば、そのまま絡繰儀杖を振り抜いた。
 その先端にあるは刃。五行相克、循環を象る相克斧。
 零距離から抉り取るような斬撃がダガヌチの腹部辺りを上段から斬り裂いていく。
 抉り取られるその洞の向こう、ぼんやりとどこかを見る空柊の姿が見えてきた。
(――のどが枯れようと、指がちぎれそうになろうと。
 わたしよりずっと強い皆さんが全力で戦えるように!)
 戦闘は激しさを増して、仲間達の傷は確実に増えていく。
 そんな中で涼花は歌を歌い続ける。
 歌は誰かへの想いを告げるように激しく、自然と歌詞が浮かんで。
 指が、声が驚くほど鮮明に動き続ける。
「あんた達の相手は私よ。
 因果応報、あんた達みんな地獄に墜としてあげる」
 宣告を告げるようにセレナはそういうと、結界に魔力を注ぎ込む。
 それは終末を告げる闇の帳、黒き流星がダガヌチと悪鬼衆を覆うように落ちて行く。
 尾を引く流星を浴びた彼らの声を聞きながら、セレナは向けられる悪意に対するように無意識に力を籠めて行く。
「鬼になったダガヌチ……本当、醜悪で酷い姿。それに酷い悪意。
 全ての負の感情を綯い交ぜにしたような叫び声……結界で防いでも頭が痛くなるわ」
 悍ましき咆哮を上げるダガヌチに視線を向けて、セレナは小さく呟いた。
「これに取り込まれた空柊さんの精神も心配にもなるわね……」
 露出した空柊の様子を見ながら、セレナは思わずそう口に漏らした。
「――攻めたてる」
 昴はあらん限りの闘氣を籠めてダガヌチ目掛けて拳を振るう。
 全てを破砕せんとする攻勢の氣、捻りの加えた打撃が苛烈にダガヌチを追い詰めていく。
 露出した空柊に触れぬようにしながらも、攻め立てる猛撃はやがて烈火の如き闘氣を帯びる。
 熱を帯びた拳はダガヌチの身体に火傷を残しながら、ちりちりと身体を焼いていく。
「見えましたね――」
 ヘイゼルは風穴を開いたダガヌチの向こう側にその姿を認めた。
 ダガヌチを庇おうとする悪鬼衆達すらなく、伽藍堂としか見えぬ戦場を圧倒的な速度を以って駆け抜ける。
 ぼんやりと、どこかを見る女。
 貫くような一撃が更にダガヌチを削り、零れ落ちるように吐き出された空柊を受け止める。


 戦いは終盤に差し掛かろうとしていた。
(あと少し、もう少しだけ――)
 涼花は静かに呼吸を整えて、もう一度、歌い始める。
(意地でも――最後まで、今できる最高を!)
 そんな思いさえも自分の歌に乗せるように、熱を以って歌い続けるのだ。
「今まで相対してきた敵を思えば鬼を恐れるなど今更過ぎるのです」
 ヘイゼルは一気に藤次郎へと肉薄すれば、棒切れを握り締めて殴りつける。
 傷を負わせることはなくとも、撃ち込んだ打撃は藤次郎の精神性を追い詰め、その意識を奪い取る。
「貴方が刻むのは頼々さんでは無く、空なのですよ!」
 振り抜かれる妖刀をゆらりと躱せば、軽やかなステップで後退していく。
「悪者は倒されて囚われの女の子は男の子に救われる。
 これこそハッピーエンドよね」
 微笑むようにそう言ってヴィリスは跳躍する。
 踊るような跳躍から放たれた蹴りが弧を描く。
 それは藤次郎の身体へと炸裂すれば果てしなくめぐる連撃は藤次郎の関節を切り刻む。
 やがて致命傷へと至る舞踊が神経を斬り裂き隙を作り出す。
 連撃を受け続ける藤次郎はまだ魔種だけあり傷こそあれど健在さをみせる。
「あとはアンタだけだな――ここで終わらせる!」
 踏み込むと同時、錬は全身全霊を籠めた相克斧を振るう。
 循環する五行は藤次郎へと炸裂した瞬間、その均衡を崩す。
 崩壊は暴発を生み、生み出されたエネルギーが藤次郎の身体を斬り抉る。
「へ、へへっ」
 突如、藤次郎が笑いだす。
 ちらりと視線が悪鬼衆の方へ向いたかと思えば、一気にそちらへと走り出そうする。
「そうはいくか」
 それを止めたのは昴である。
「逃走する可能性を考え、様子を窺っていた甲斐がある」
 全身に溢れる闘氣を渾身の拳に籠めて、昴は踏み込んだ。
「くっ――」
 破砕の闘氣に満ちた拳は美しい一閃となって鋭く藤次郎の腹部に突き立った。
 抉るような一突きを受けた藤次郎は呻き声と共に微かに立ち止まる。
「いや、もう逃がさないよ? キミはここで終わりなんだからさ」
 同時、藤次郎へと立ち塞がった茄子子が粛々と言えば。
「邪魔をするんじゃねえよ!」
 振り下ろされた妖刀、けれどそれはまるで何かの加護を持つかのように茄子子へと至ることなく止まり。
「前回みたいに回復するだけだと思ったでしょ。驚いたかな。
 でも、ダガヌチくんも持ってるモノだし、わかるよね藤次郎くん」
 視線を交えれば、苛立つような眼。
「……さて、こんなもんか。空柊くん。師匠も準備はいいよね。
 会長はこういうお膳立てが大好きなんだ。
 やっちゃえよ2人とも。“最巧”と“最遅”。その妙技を見せて欲しいな」
「良いだろう――最期の一太刀ぐらいであればな」
 それは静かな声だった。
 揺らめき立つ空柊がその腹部に突き立つ柄を握り締めた。
 驚くほどゆっくりとした動作で、その腹部から禍々しい刀が姿を見せる。
「空柊――」
「遅れを取るなよ、頼々」
「だ、ダガヌチ――」
 茄子子は悲鳴にも似た小さな藤次郎の声を聞いた。
 震えながら伸びて来た泥の塊が藤次郎に覆いかぶされば、直後にそれごと真っ二つに裂けた。
 それを追うようにして、紫電が戦場を斬り裂き、視界が紫光で埋め潰された。
「……死んで、いるようだな」
 真っ二つに裂けた藤次郎は確かめるべくもなく死んでいる――とは思えども、念のためと昴は確認すれば、確かな死を見て頷いて見せる。

成否

成功

MVP

セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

状態異常

源 頼々(p3p008328)[重傷]
虚刃流開祖

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ

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