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シナリオ詳細

<革命の聖女像>鮮血の狂戦士

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●届かぬ撤退勧告
 雪原の中、血塗れの男が一人、新皇帝派軍人や元囚人、天衝種の集団の前に立ちはだかっている。
 その男の周囲には多数の人間の、そして天衝種の骸があり、それだけの敵をこの男一人だけで倒してきた事実を示していた。
 だが、戦っていくうちに男も傷つき、全身を染める紅は返り血なのか自身の血なのか判然としなくなっている。
「数の差、力量の差は明らかであろう。大人しく、退いては如何だ?」
「うあああああああっ!」
「状況も判断できぬほど狂っているか……惜しいな。我らの方に来ることが出来れば、楽になれようものを」
 集団の頭領であろう、長く美しい顎髭を生やした異装の新皇帝派の士官が、男に撤退を提案する。だが、男はその言葉が聞こえていないかのように、ギロリと狂気に染まった目を剥いて、狂戦士の如く咆哮を上げて次の敵へと襲い掛かっていた。
 その反応に、士官は男に起こっている事態を理解し、残念そうな顔をする。男がウォーカーでなければ、とうに魔に堕ちているはずだ。そうなっていないのは、男が異界から喚ばれた者であるために堕ちることが出来ないまま、呼び声の影響によって狂気に陥り続けているからだ。
 難民キャンプを護るために、軍勢と言っても差し支えない規模の集団に一人で立ち向かってきた勇気――蛮勇と言うべきかも知れないが。そして、一人で既に集団の多数を斃している戦闘力。何より、内心に抱いている憤怒とそして暴力性。魔に堕ちれば、きっと良き同胞になっただろう。
 だが、そうならないのであれば、生かしておくことは出来ない。何より、元囚人共はまだしも、新皇帝派軍人や天衝種をたった一人相手にこれ以上斃されるわけにはいかなかった。
「遊びは、これまでだ――総力を挙げ……」
「待って下さい! 遠方から、急接近しつつある車両あり!」
「……救援か? よかろう、纏めて叩き潰すまでだ! 総員、気を引き締めよ!」
 男を叩き潰せと号令を下そうとしたところで、兵士が集団に接近しようとする車両の存在を告げる。その報を受けた士官は、ニヤリとした笑みを浮かべつつ、改めて号令を下した。

●雪原を爆走する雪上車の中で
 難民キャンプに迫る集団に対し、一人飛び出していった仲間を救出して欲しい。そう依頼を受けた『真昼のランタン』羽田羅 勘蔵(p3n000126)は、素早く集めた依頼への参加者を乗せて、雪上車を全速力で走らせた。
(やはり、アスファルト上のセダンに比べると速度が辛いですね……ですが、間に合ってほしいものです)
 元タクシードライバーである勘蔵には、急ぎでとなると安全を確保した上でではあるが何とか間に合わせようとする気質がある。かつては成田空港まで急ぎの客を送るために東関道を百三十キロで走行し、運行管理者に説教されたこともあった。
 雪上車は当然それよりは圧倒的に遅く、勘蔵に焦りを感じさせる。だが幸いなのは、周辺は降雪したとは言え平原であり、アクセルベタ踏みで走れることだ。
 前方から視線を外すことなく、勘蔵は救出対象である足代 理人(あじろ りひと)について、革命派に心酔していること、理想を熱く語っており弱者への助力に熱心であったこと、一方で、その柔和な見た目からは想像がつかないような売られた喧嘩は必ず買う性で、特に革命派の敵となれば喧嘩を売られずとも容赦なく叩きのめしていることなど、依頼人から聞いた情報を伝えていく。
(まさか理人が、そんなことになっているとは……)
 元の世界で理人と交流があった朔(p3p009861)は、ある時点でぷっつりと姿を見せなくなった理由を把握しつつも、その変貌ぶりには驚きを禁じ得なかった。
「そして、これは私の推測ですが――」
 理人が一人、難民キャンプを攻撃せんとする集団に対して向かっていった理由について、勘蔵が推測混じりに触れる。理想家である分、弱肉強食の傾向がより強まった現状に憤りを溜め込んでおり、さらに難民キャンプが攻撃されようとするに至ってそれが限界に近いところまで高じたところに、呼び声を受けて狂気に陥ったのだろうと。
「おそらく、ウォーカーでなければ、魔種に堕ちていたでしょうね。
 とは言え、狂戦士と言うべき状態に陥っている可能性は極めて高いですから、彼を如何にかするのは厄介ですが……。
 間に合わせられたら、皆さん、よろしくお願いしますよ」
 アクセルにかけられるだけの体重をかけ続けながら、勘蔵が言った。その額には、この寒気の中でありながら汗が伝い落ちている。イレギュラーズ達も、勘蔵が目一杯急いでいるのは理解しつつも、それでも間に合うことを願わずにはいられない。
(――何とか、間に合ってくれ。混沌で死体と再会なんて、真っ平ごめんだ)
 中でも、理人と旧知である朔としては、まだかまだかと気が逸らずにはいられなかった。

GMコメント

 こんにちは、緑城雄山です。
 今回は、<革命の聖女像>のうちの1本をお送りします。
 理人を救出しつつ、難民キャンプを攻撃せんとする集団を退けて下さい。

●成功条件
 以下の両方の達成
 ・理人の救出
 ・敵集団の撃退

●失敗条件
 ・理人の死亡

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 難民キャンプから少し離れた位置の雪原。時間は昼間、天候は晴天。
 足下が雪であることについては、ペナルティーは受けないものとします。
 逆に、飛行状態など足場の影響を受けない状態だとか、プレイングで雪への対策をしているなどあれば、若干プラスの修正を入れて判定します。

●初期配置
 雪上車と理人の距離は40メートルです。
 雪上車からの降車は、移動1回分に含まれるものとします(つまり、降車によって別に行動を消費することはありません)。
 敵は、理人から最低10メートルの距離を置いて、理人を半包囲しています。

●リアオ・グアン ✕1
 難民キャンプを攻撃せんとする集団の頭目にして、憤怒の魔種です。
 憤怒の魔種でありながら感情をコントロールできる冷静な武人肌ではありますが、師団の中で階級はそれほど高くないことと、軍人としての上司への忠誠心から、今回の難民キャンプ攻撃に参戦しています。
 筋骨隆々の体格の良い男で、顎に流れるような顎髭を生やしています。手には青龍偃月刀を持っており、鉄帝軍人でありながら何処かいわゆる中華風の武将と言った態をしています。
 一撃の威力が高く、生命力も魔種相応に高いです。中華風の鎧は纏っていますが、それにしては動きは機敏で回避が低いと言うこともなく、また青龍偃月刀を攻防一体で使いこなしてくるので、防御技術も高くなっています。
 また、統率力も高いため、その指揮下にあるキャラクターは各種能力へのバフと、特に【怒り】に対する抵抗判定へのプラスの補正を得ます。

・攻撃能力など
 青龍偃月刀 物至単 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】【失血】
 薙ぎ払い 物至範 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】
 衝撃波 神遠範 【邪道】【鬼道】【出血】【流血】
 再生能力
 【怒り】耐性
 【封殺】耐性
 BS緩和
 統率力
  味方キャラクターは各種能力へのバフと、【怒り】に対する抵抗判定へのプラス補正を得ます。
  この効果は、戦場全域に適用されます。
  
●グロース師団兵、釈放囚人 ✕各20
 能力はピンキリですが、攻撃力、防御技術、生命力が高く、回避、反応は低い傾向にあります。
 強化装備により、通常の鉄帝軍人では1:1では太刀打ち出来なくなっています。

・攻撃能力など
 剣 物至単 【出血】
 銃 物遠単

●アーマード・ストリガー ✕各10
 アンデッドの天衝種であるストリガーに、強化装甲を装備させたものです。
 通常のストリガーよりも防御技術が高くなっています。

・攻撃能力など
 燃え盛る爪 物/至~近/単or列 【火炎】【業炎】

●フルアーマー・オートンリブス ✕2
 巨大カブトムシのような天衝種を、各種装備で強化しています。
 そのため、動き(回避、反応)自体はさらに鈍重となりましたが、元々高い防御技術はさらに高くなっています。
 また、羽の裏のバーニア一斉噴射による小回りは利かないけれど圧倒的な機動力と、増加したスピードと重量による突進は脅威でしょう。
 集団の左方と右方に、1体ずつがいます。

・攻撃能力など
 角 物近単 【弱点】
 ビームホーン 神近単 【弱点】【出血】【流血】
  角にビームを纏わせて、神秘攻撃の槍として攻撃します。
 突進(単) 物超単 【万能】【移】【邪道】【弱点】【飛】【崩落】
  速度と重量を一点に集中するタイプの突進です。
 突進(範) 物超範 【万能】【移】【弱点】【飛】【体勢不利】
  速度と重量を以て、邪魔なものを弾き飛ばすタイプの突進です。
 背部ビームカノン 神遠単 【邪道】【弱点】
 頭部バルカン 物近扇 【スプラッシュ】
 側部ミサイルポッド 物遠範 【識別】【多重影】【変幻】【鬼道】【火炎】【業炎】【炎獄】
 飛行

●足代 理人
 朔さんの関係者です。朔さんとは元の世界で交流があり、朔さんより先に混沌に来ました。
 元々車椅子の障がい者でありましたが、混沌で革命派により両脚を機械化する手術を受け、元々の理想主義も相まって革命派に傾倒しました。
 一方で、車椅子から身体が解放されるとともに、心の闇も理性と言う檻から解き放たれ、暴力の味を覚えたバトル中毒者ともなっています。
 今回、理想主義者として抱いている鉄帝の現状への憤懣と、そして暴力の味を覚えたことで目覚めた攻撃性が「呼び声」と呼応したことにより精神が狂気に陥り、狂戦士化と言うべき状態に陥っています(ウォーカーであるため、魔種化せずこれで済んでいます)。
 朔さんからの働きかけがあれば、その内容次第では驚きと共に理性を取り戻す可能性はあります。
 実力は高いのですが、さすがに数には抗しきれず、瀕死の重傷を負っています。が、精神が狂戦士化しているため、構わず戦闘を続行しようとします。リアオの側もOP中で「遊び」と言っていたとおり、良く言えば様子見、悪く言えば遊んでいたところがあり、ここから本気を出そうとしますので、イレギュラーズ達の介入がなければ間違いなく死亡するでしょう。
 なお、理人は戦闘不能に陥るだけでは死亡することはなく、戦闘不能の状態で止めを刺されない限りは死亡しないものとします。ただし、この「止め」には、範囲攻撃による巻き添えを含みます。

 理人の詳細については、以下の設定委託をご覧頂ければと思います。
 『解き放たれし、身体と闇』
 https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/4011

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <革命の聖女像>鮮血の狂戦士Lv:30以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年01月09日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)
不死呪
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
朔(p3p009861)
旅人と魔種の三重奏
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ

●孤軍奮闘せし男を救うべく
 爆走する雪上車が、戦場の四十メートルほど手前で停止する。その中から、イレギュラーズ達が次々と躍り出た。目的は、難民キャンプへの襲撃を阻止せんと単独で飛び出した足代 理人(あじろ りひと)の救出と、難民キャンプを襲撃せんとする新皇帝派の集団の撃退である。
 最初に雪上車から飛び出したのは、『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)だ。
「あらあら、うふふ。こちらに気付いて気を引き締めるだなんて、中々に指揮が行き届いてるのだわ!
 それなら、ええ。真正面からかき乱すのだわ!」
 集団のリーダーである魔種リアオ・グアンは、イレギュラーズ達が乗る雪上車が到着する前に気を引き締めるよう配下達に檄を飛ばしていた。その様子を見ていたガイアドニスは、リアオの統率に感心した様子を見せた。だが、感心してばかりと言うわけには行かない。
「おねーさんでーっす!」
「おぐうっ!?」
 理人を半包囲している集団の中へと飛び込んだガイアドニスは、その勢いのまま手近な釈放囚人の顔を右から、そして左から殴りつける。三メートルにならんとする巨躯が突貫してくる様は、嫌でも集団の目を引いた。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上! 理人さん、よく頑張ったね。ボク達も加勢するよ!」
 次いで雪上車から飛び出したのは、『魔法騎士』セララ(p3p000273)。狂気の結果とは言え、一人難民キャンプを護るためにここまで戦った理人の活躍に、セララは目を見張っている。その理人に応援の声をかけながら、既に純白のセラフィムフォームに身を包み、背中の光の翼を生やしたセララはリアオへと迫った。
「キミの相手はボクだよ。まさか、怖いからボクとは戦いたくないなんて言わないよね?」
「見え透いた挑発を――!」
「ところでその顎髭、格好悪いかも。剃ったほうが良いんじゃないかな?」
「おのれ、よくも自慢のこの髭を格好悪いなどと! ましてや剃った方がよいなどと!」
「隙あり、だね――ギガセララブレイクッ!」
 セララは、リアオに挑発を仕掛けた。頭に血を上らせれば、視野が狭くなり統率が行き届かなくなるのではと言う判断からだ。そして、最初の挑発は軽くいなされたものの、次の挑発は見事にリアオに刺さった。リアオにとって長く美しい髭は自慢であり、それをけなされるのは許しがたいことであった。「憤怒」を露わにしたリアオは、青龍偃月刀を大きく振りかぶって全力でセララを両断せんとした。だが、それはセララに対して隙となる。
 天からの雷を喚び、聖剣『ラグナロク』に纏わせたセララは、がら空きとなったリアオの胴を袈裟に斬った。
「ぐうっ!?」
 一閃により刻まれた傷から、鮮血が噴き出す。傷の影響もあってか、リアオの青龍偃月刀は空を切った。
(全くもう……手当たり次第に暴れようだなんて、見事に周りが見えていないみたいねぇ)
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は、理人をそう評した。事実、理人はリアオの呼び声に当てられて狂気に陥り、狂戦士化と言うべき状態にある。
(魔の手もすぐそこにあるのだし、早々に手を打ちたいのだけれど……どれほど余裕があるのかしらね)
 ヴァイスは、雪上戦闘が得意というわけではない。だが、急かされるような焦りを感じていた。ともかく、雪上車を降りたヴァイスは新皇帝派の集団の方へと駆け出していく。
「一人に寄ってたかって、何をしているのかしら?」
 そう新皇帝派の集団に声をかけたヴァイスは、より敵が密集している場所を見定めると、そこに向けて邪悪を灼く聖光を放った。
「ぐあっ!」
 聖光は新皇帝派軍人、釈放囚人、装甲を纏った天衝種達の身を灼いていく。身を灼かれ苦痛に悶える彼らに、ヴァイスはもう二度破邪の聖光を焼き、ダメージを蓄積させていった。
(正義の味方……とは言い切れないけど)
 理人が新皇帝派の集団に立ち向かったのは、あくまで狂気に陥った結果である。だが、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)にとって、理人が無辜の民を守ってくれたことは、紛れもない事実だった。もっとも理人への対応については、アリアよりも相応しい人物がいる。
「朔さん、彼への対応は任せますね。それと……万が一の事態に備えて車をいつでも稼働できるようにしておいてください」
 アリアは、その人物である朔(p3p009861)と、雪上車を運転してきた情報屋に声をかけると、雪上車を降りて駆け出していった。
(この気配……魔種への反転にも似た気配を感じます)
 アリアがそう感じるのも、無理からぬ事だ。リアオからは呼び声が放たれ続けており、理人が旅人でなければとうに魔種と化していたことだろう。魔種になることがない旅人だからこそ、狂気に陥り狂戦士化するだけで済んでいた。
「集団で一人を虐めるしか能のない新皇帝派の諸君、ここからは私達も相手してもらうからね!」
 アリアは、鍛えた声量で新皇帝派の集団に向けて叫んだ。安い挑発だとアリア自身も認識しているが、間に合わなくなる前に少しでも集団の意識を理人から引き剥がしておきたい。果たして、集団のうちいくらかが、敵意を込めた視線をアリアの方へと向けた。
「呪いの泥に呑まれなさい!」
 さらに、アリアはヴァイスが破邪の聖光を浴びせた場所を中心として、その周囲の根源的な力を穢れた呪いの泥に変え、そこにいる者達の運命を漆黒へと塗り替えた。
「ぐっ!?」
 呪いの泥に呑まれた者達は、何が起こったか理解出来ないままに悶え苦しんでいく。特に、破邪の聖光も浴びている者達は息も絶え絶えとなっていた。
(むぅ、この寒い中わざわざ難民キャンプを襲うなんてあの人達よほど暇なんデスネ。
 他にもやることなんていくらでもあるでしょうに、理解出来ないデス)
 この集団の目的が理解出来ないとばかりに、『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)は首を捻りながら、雪上車を降りた。敵の目的が理解出来ようが出来なかろうが、アオゾラのやるべき事は変わらない。
 理人の前に立ったアオゾラは、周囲の新皇帝派の集団に向けて呪術を使い、その敵意を自身へと向けさせ、煽った。
「貴方達が憎いのは、今割って入ったワタシでショウ?」
 その言葉どおりに、集団の半数以上が敵意を込めた視線をアオゾラに向けた。ここまで多くの敵がアオゾラに敵を向けたのは、元々リアオの統率力を以てしてもこの集団を完全に統率するまでは難しかったことに加え、そのリアオ自身がセララに挑発されて我を失い、統率力が低下してためだ。
 リアオの統率力からするともう少し厳しい結果に終わると考えていただけに、予想以上の結果にアオゾラはしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべた。
(近くにいようといなかろうと、まあまあ元気にやってるなら何も言わねぇよ――でも、今のお前はそうじゃない)
 「去る者追わず」な気質の朔であるが、さすがに自ら死へと突っ込んでいく理人を黙って見ているほど、無関心ではいられなかった。雪上車から降りると、朔はすぐに理人の頬を殴りつけた。
「こっち見やがれ――理人!」
 朔の言葉どおり、理人は朔の方に目を向けた。だが、まだ理人の目から狂気は消えておらず、あくまで攻撃に対する反応として視線を向けたに過ぎない。
(ダメか? それならそれで、仲間達に――でも!)
 その反応に、理人を正気に戻せなかったかと言う諦めが朔の心を過ぎる。その時の対策も、用意はしている。だが、まだ言葉を尽くしてはいない。
「お前が何のために戦おうが、俺には関係ないさ。でもな、誰かを悲しませる戦い方はするんじゃねえ」
 ガシッと、朔は理人の肩を掴み、その瞳を真っ直ぐに見据える。
「――少なくとも、俺はお前に何かあったら嫌だ」
「……さ……く?」
 狂気に染まっていた理人の瞳が、驚愕によって塗り替えられる。それを経て、理人は正気を取り戻した。
「……何で、ここに?」
「積もる話は後だ。今は、ここを切り抜けるぞ」
 状況が掴めず困惑する理人に、朔は言った。話は、生き延びれば後でいくらでも出来るのだ。
(狂った上での暴挙とは言え、単身でここまで戦い、難民を守った。見上げた戦士、大した男、だ)
 理人の行動に感服の念を抱いている『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は、何としても理人を救出せんと考えていた。ここまで戦った理人を捨て置き救えぬようでは、女が廃ろうというものである。
 幸い、朔の説得により理人は正気を取り戻した。ならば、その力を以て引き続き戦ってもらいたいところである。何しろ、質はともかくとして、量では敵の方が勝っているのだ。
 故に、エクスマリアは天使による救済の如き癒やしを理人に施した。まだ理人の傷は深くないとは言えないが、瀕死の状態からは脱した。
「――ありがとうございます。これで、まだ戦えます」
 理人は、エクスマリアに礼を述べると、闘志満々な様子を見せた。
「なかなか洒落にならん状況ではあったが……」
 朔の説得が通じ、理人が理性を取り戻したことと、エクスマリアの癒やしにより理人が戦えるまでに回復したことに、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は胸を撫で下ろして安堵した。ならば、あとは十人で――理人や情報屋も含めて――無事に帰るまでである。
 朔の説得を以てしても理人が理性を取り戻さなかった場合に備えて、イレギュラーズ達は理人を昏倒させることも視野に入れており、その場合はエーレンが昏倒させた理人を雪上車まで運ぶつもりでいた。そのため、朔の説得の結果が出るまでエーレンは待機していたのだが、もうその必要は無い。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。ここから先に行けると思うな、お前たちの作戦は失敗だ」
「ぬうっ!」
 十字剣『サザンクロス』を鞘に納めたまま、エーレンはリアオに向けて走る。リアオはエーレンの攻撃を回避しようとしたが、エーレンが抜刀しない以上その剣閃を見切るのは困難だった。
 ヒュン! 抜刀とほぼ同時に、雷を帯びた剣閃がリアオの脇腹をズパッと斬った。まだリアオの生命に別状は無いとは言え、流れ出した血がリアオの鎧を紅く染めていく。

●劣勢、そして撤退
 新皇帝派の集団は数は多いとは言え、その個の力はイレギュラーズ達に劣っていた。数を活かすリアオの統率力は脅威だったが、それを阻害するためのリアオへの挑発や攻撃により、十全に発揮されることはなかった。こうなると、新皇帝派の集団の方は数を活かすことが出来ずに、数を減らされて劣勢に陥っていくばかりである。

 既に深い傷を負っている巨大カブトムシ――フルアーマー・オートンリブスが、最期の力を振り絞って理人へと突撃せんとする。だが、ガイアドニスが理人の前に立ち、盾となる。
(理人くんも、難民キャンプも、みんなみーんな護るのだわ!)
 その強い意志と共に、ガイアドニスはフルアーマー・オートンリブスの角をその身で受け止めた。常人なら即死しているであろう強烈な衝撃が、ガイアドニスの腹部に突き刺さる。が、ガイアドニスは倒れない。むしろ、この程度なら平気だと言わんばかりに、微笑みさえ浮かべた。
「難民キャンプへの攻撃は諦めて、退いたら如何だ?」
「ぐっ!」
 そう問いかけながら、エーレンはリアオに接近し、神速の居合いで斬りつけた。既に傷だらけのリアオの身体に、また一つ新たな傷が刻まれ、血塗れの鎧は再び鮮やかな紅に塗り替えられた。
 エーレンの問いに、リアオは言葉に詰まる。自身も幾分かの傷を負い、配下も半数以上が斃されている状況では、さすがに思うところもあるようだ。だが、戦況はリアオに思考の時間を与えない。
「キミは、ボクが倒すよ! 正義の心を刃に込めて! ギガセララブレイク!」
「がっ!」
 続いて、エーレンとは逆に撤退などさせずにここでリアオを倒すと言う意志を示したセララの、天雷を帯びた聖剣による横薙ぎの一閃と、上段から大きく斬り下ろす一振りが放たれた。リアオは回避できずにその両方をまともに受け、生命力をさらに削り取られていく。
 とは言え、様々な魔種を相手に戦ってきたセララには容易にわかることだが、セララ達の攻撃はまだリアオの生命には届いていない。
「――止め、デス」
 ガイアドニスに突進したフルアーマー・オートンリブスに向けて、アオゾラは『呪剣・穿爪』を振るった。その剣閃は、紅い猟犬の形をした殺意となって、フルアーマー・オートンリブスの外骨格の隙間を縫うようにして爪で斬り裂き、牙で噛みついた。それが致命傷となって、フルアーマー・オートンリブスは雪原に崩れ落ちる。
 アオゾラの放った剣閃がここまで威力を発揮したのは、新皇帝派の集団の敵意を増幅して自身に集めたために、アオゾラ自身が深手を負っているからだった。紅い猟犬の爪牙は、アオゾラの受けた傷に応じて威力を増していたのだ。
「来たれ、そして墜ちろ。鋼の星――」
 エクスマリアは、天から鋼の星を喚んで、新皇帝派の集団の上へと降らせた。
 味方の巻き添えを防がねばならないため、鋼の星を墜とす場所は慎重に選ばねばならなかったが、それでも鋼の星は着実にその質量で新皇帝派軍人や釈放囚人、アーマード・ストリガーを圧し潰し、その数を着実に削っていた。ただ一方で、エクスマリアは仲間達の回復も担っており、鋼の星を連発するというわけにはいかなかった。もし連発できていれば、もう少し早くこの集団を殲滅することが出来ただろう。
 ともあれ、今回も味方を巻き込まない位置へと鋼の星が墜ちてくる。新皇帝派の集団は既に数を減らしているため、鋼の星で斃せる数は多くはなかったが、それでも五人の新皇帝派軍人や釈放囚人が圧し潰されて逝った。
 ヴァイスは、白一色の儀礼短剣『トレーネ』を残るフルアーマー・オートンリブスの外骨格に突き立てた。外骨格に弾き返されるかと思われたトレーネは、外骨格を貫きその内部へと突き刺さる。だが、ヴァイスの攻撃はこれで終わりではなく、ここからが本番だ。
「――悪夢を、見ていなさいな」
 ヴァイスがそう告げると、フルアーマー・オートンリブスはガクガクとその身を痙攣させた。フルアーマー・オートンリブスは、ヴァイスによって悪夢を見せられていたのだ。それも、フルアーマー・オートンリブス自身が想像しうる限り最悪のものを、四度にわたって。
 フルアーマー・オートンリブスが痙攣しているのは、フルアーマー・オートンリブス自身にとっては永い時間に思えただろうが、現実ではそれほど長くはない――むしろ、短いと言える時間だった。だが、それでもアリアが動くには十分だった。
「これで――倒れなさい!」
 フルアーマー・オートンリブスの腹部に掌を押し当てたアリアが、全身の魔力をその掌に集約してから、解放した。その魔力は、フルアーマー・オートンリブスの腹部を貫通する。
「……倒せた?」
 フルアーマー・オートンリブスを撃破できたか確認しようとするアリアだったが、そうするまでもなくフルアーマー・オートンリブスは身体を動かした。腹部に穴を穿たれ、貫き通されて致命傷を負ったかに見えるフルアーマー・オートンリブスだったが、まだ生命力は尽きていないようだ。しかし、それも時間の問題のようであった。
「寒いところまでご苦労なことだが――これで終わりだ!」
 もう一押しで、厄介なフルアーマー・オートンリブスを撃破出来そうだ。そう判断した朔は、ここぞとばかりにあり得たかも知れないもう一人の自分自身をその身に宿す。そして自身を強化した朔は、フルアーマー・オートンリブスの外骨格の隙間を狙って、長剣『翠迅』を突き出した。
 『翠迅』が外骨格の隙間を縫ってフルアーマー・オートンリブスの身体を貫くと、力が抜けたようにフルアーマー・オートンリブスはその場にくずおれた。
(……これでは、難民キャンプの攻撃どころではないな)
 主力とも言えるフルアーマー・オートンリブスを二体とも失い、これ以上戦う無益を悟ったリアオは、撤退の判断を下し号令を下す。その退き際は、鮮やかだった。これは、リアオの統率力もさることながら、残っていてもイレギュラーズ達に斃されるだけと言う本能的な理由もあった。
 イレギュラーズ達の方も、これで目的を達成できるため追撃までは仕掛けることはなかった。

「おい、理人。帰ろうぜ」
「朔、さん……」
「いろいろ、あったんだろ? ……お前がここに来てからの話、聞かせてくれよ」
 残る敵はいないことを確認したイレギュラーズ達は、この場から引き上げて帰ることにした。朔は、理人の肩をポンと叩いて一緒に雪上車に乗るように促す。理人は、素直に従って雪上車に乗った。
 帰路を走る雪上車の中での朔と理人の二人の会話は、理人が混沌に召喚されてからの時間を埋めていくのであった。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)[重傷]
不死呪
朔(p3p009861)[重傷]
旅人と魔種の三重奏

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、理人は無事救出され、難民キャンプを攻撃せんとしていた新皇帝派の集団は撤退していきました。
 MVPは、アオゾラさんや理人をはじめ仲間達を回復して戦線を支えつつ、確定クリティカルの高威力アイゼンシュテルンで数減らしに貢献したとして、エクスマリアさんにお贈りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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