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シナリオ詳細

鋼の恋心、超電磁の乙女心

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●だって、わたしは、可愛いから!
 砂地を進む死神の列。
 常人が目を開けていられぬほどの砂嵐と耳をさくような暴風。
 ついた足跡はすぐに埋まり、嵐に撫でられて平坦にかわる世界。
 鋼の巨人は悠然と、しかし明確な意志を持って歩いていた。
 ……その映像を、高高度で飛行する鳥による五感共有視界によって捕らえている。
 耳から入るのはオペレーターからの声。
 閉じた瞳は清らかな乙女のそれであり、耳を覆っていたのはピンク色のヘッドホンであった。
『任務の内容は目標固体の破壊と沈黙。目標エルガーギガント三体は都市部へ向けて依然進行中。偶然起動した古代兵器の模様。対話は不能。コマンド――鋼の拳もて破壊せよ』
「了解(ラージャ)」
 乙女の瞳は開き、白い星形が目に浮かんだ。
『ご武運を、鋼の乙女。……恐くはありませんか?』
「恐いです」
 眼前のハッチが開く。
 暴風と砂嵐。
 一列になって歩く巨人がはるか眼下に見えた。
「失敗するかもしれない。痛い思いをするかもしれない。けれど、大丈夫。だって――」
 自らを固定していたアームが外れ、空中へと放り出された
 露わになった乙女はピンクのセーラー服を纏っていた。
 靡く襟、靡くスカート。風に逆らわぬ長い茶髪。
 されど少女は目を見開いて、笑って見せた。
「私は――」
 回転、拳を握り、片膝をつき、巨人の前へと強引に着地した。
「可愛いから!」
 弾丸のごとく地面に降り立った乙女の風圧は砂嵐を一度だけ静まらせた。
 眼前にある全てのものを破壊するよう古代のいつかに命令された巨人は従順にハンマー状の腕を振り上げ、乙女を叩き潰さんと振り下ろす。吹き出す蒸気と熱。
 すぐさま立ち上がった乙女は拳を突き上げて、ミートハンマーのごとくとがったインパクト面を受け止めた。
 衝撃。
 再び開かれる砂嵐の中のエアポケット。
 されど傷一つない乙女はキッと眉尻をあげ、大きく息を吸い込んだ。
「ミュージック!」
 歌が始まった。
 暴風に閉ざされ、砂嵐にまみれ、誰にも聞こえない歌を世界へ歌いながら、鋼の乙女は巨人の拳を振り払い、踊るように跳躍し、巨人の顔面をハイキックで粉砕した。
 およそ三分間にわたる死闘の末、回収にやってきた砂上船が見たものは。
 片腕を失い傷口からばちばちとスパークを散らす鋼の乙女。
 周囲に散らばる巨人たちの残骸。
 そして、花の咲いたような、乙女の笑顔であった。
 彼女の名はBond-AI。
 通称『鋼の乙女』。

●ピンチヒッター
「はいどーもー☆ Bond-AIです!」
 花が咲くような笑顔で手をパーにして見せる乙女。
 いつも賑やかなゼシュテル鉄帝国にあって別種の賑やかさを見せる町の、オールドワンカフェという奇妙なコンセプトカフェの団体用個室席。
 イレギュラーズたちを前にして、鋼の乙女は手をぐーぱーして見せた。
 異様さがあるとすれば彼女の目に浮かぶ☆型マークと、肩から先のない左腕である。
 包帯のようなものが巻かれているが、本人はまるで気にならないとでもいうように笑顔だ。
「今日はですねー、あの魔種サーカスをやっつけたって噂のローレットの皆さんにお願いがあります!」
 向かいに座るは、あなたを含めたローレットのイレギュラーズ。
「私と一緒に、ある古代兵器を破壊してください☆」

 異世界出身という鋼の乙女。彼女はなんやかんやで鉄帝に流れ着きトラブルシューターの仕事をしているという。環境が環境なだけに日々はハードきわまりないが、持ち前のバイタリティで立ち塞がるもの全てをぶちこわしていった結果、今のような日々を手に入れたという。
 右腕だけで器用にスティックシュガーの封を切ると、コーヒーカップに注いでいく。
「三日前に請け負った仕事なんですけどね、これ見てください」
 提示されたのは数枚のスケッチと写真。
 きわめて単純な人型シルエットをした鋼の巨人。その残骸が描かれていた。
「鉄帝の西に古戦場跡地っていうのが広がってるんですけど、そこから発掘された古代兵器みたいなんです」
 鉄帝という国は古代文明の息づく大陸北部にあるためか、古代に失われた技術が多く埋没している。
 軍事利用可能な『極めて先進的な古代兵器』の数々は鉄帝を支える一方、たびたび起こるトラブルの種にもなっていた。
 今回がそのよい例である。
「どうやら都市部……のあった座標に移動して破壊活動を行なうようにプログラムされたドローン兵器的なアレだと思うんですよ。立ち塞がるものみんなバーンてやるかんじの」
 対して乙女の説明は非常にアレだったが、初めて聞く人には分かりやすいのかもしれない。
 身振り手振りを交えて説明を続ける乙女。
「一応三体ほど破壊したんですけど、この通りすごいダメージ負っちゃって。全治五日ですって」
 要するに重症状態となった乙女と共に、残る個体の破壊業務を行なってほしいというものである。
「数はですねー……あ、20体くらいだそうです。私と皆さんで9人! うん、全然足りますね!」
 あくまで笑顔で、乙女は写真を指で叩いた。

GMコメント

【オーダー】
 成功条件:古代の鋼巨人(エンシェントギガント)全20個体の破壊と沈黙

 内容自体はシンプルな戦闘です。
 全長5~10メートルの古代兵器群と戦い、全て破壊することです。
 放っておくと都市部へ向けてがんがん移動してしまうため、横に広く展開してバラバラに戦うスタイルが推奨されます。
 連携ホドホド個人耐久マシマシの作戦がハマるでしょう。

 余談ですが戦闘エリアは砂地。OPにあるような砂嵐のエリアからは外れているのですが、まあ砂しかねえなといった風景です。
 そこへ砂上船(砂の上を効率的に移動する船的乗り物)で移動し、安全圏から戦闘エリアまで『射出』されます。
 こう、カプセル状の鉄の箱みたいなものに詰めてぽーんと放たれます。箱は巨人の頭上を飛んでいくと思うので途中で箱から飛び出し、戦闘に突入してください。
 うまくやれば先制攻撃を加えられます。

【古代の鋼巨人(エンシェントギガント)】
 発掘された古代兵器。自律して特定のポイントまで移動、その最中目に付くものはとりあえず破壊するというシンプルな兵器です。
 大きさはまちまちで5~10メートル。
 ドラム缶を継ぎ合わせたような鋼鉄の体表。節々からは蒸気を放ち、なにかしらのエネルギーで凄まじい腕力を発揮します。要するにでかいマッスルです。
 攻撃方法もパンチをはじめとする格闘タイプ。大きさのせいでレンジがR1くらいになっています。
 スペックとしては――回避や命中が下手で物理攻撃力が鬼。防御技術と特殊抵抗がまあまあ高く、HPが豊富という特徴を持ちます。
 そんなわけで『マークして殴る!』の作戦が一番有効だったりします。得意な戦闘スタイルで『PC1VS敵複数』を想定しつつばしばし立ち回りましょう。

【『鋼の乙女』Bond-AI】
 今回の味方戦力。一緒に戦う9人目の戦士となります。
 システム上重傷扱いですが、戦闘力の低下はありません。(死にやすいとか攻撃が当たらないということもありません)
 一応片腕状態と言うことで、戦闘技能の多くを使えません。大体パンチとキックです。
 大体PCたちと同じかちょっと強いか、ぐらいの性能を持っています。
 尚、非戦スキルはアイドル的なもので揃え、ギフト能力は『いつでも笑顔でいられること』だけです。あとは全部自力。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 鋼の恋心、超電磁の乙女心完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月06日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)
重戦士
芦原 薫子(p3p002731)
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートC
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
Melting・Emma・Love(p3p006309)
溶融する普遍的な愛

リプレイ

●世界は愛のなせる業
 風吹く砂上船のデッキ。
 火薬の混じったような風に長い髪を靡かせて、『雷迅之巫女』芦原 薫子(p3p002731)は腕組みをしていた。
「古代兵器……古代兵器……いい響きですねえ」
 眼鏡をゆっくりと外し、からむ髪を振り払う。
「こういうの。子供の頃に見ていた物語のようです」
 頷く『重戦士』ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)。
「相手は鋼の巨人。難儀だのぅ」
 その足下。正しくは船内へとつながるハッチから、とろりと揺らめいたストロベリージャムのような物体が吹き出しゆっくりと人の形を成してゆく。
「今度の相手は巨人さんなの? この世界には色んな種類の生き物がいてすごいの」
 呼吸でもするように、幼子のうな唇を僅かに突き出す。
 『溶融する普遍的な愛』Melting・Emma・Love(p3p006309)である。
「Loveはみんなを愛するの」
「愛。love。AI……実にいい言葉です。愛なき巨人にハートの風穴をあけるとしましょう」
 『魔法少女インフィニティハート』無限乃 愛(p3p004443)がゆっくりと踏みしめるように階段をのぼり、デッキへと姿を見せた。
「ラブさんもBond-AIさんもまた愛の魔法少女といえるでしょう。名前も似ていますし、ね」
 一言一言に謎の貫禄をつけて語る愛。
 その後ろからいやいやーと笑いながら現われるBond-AI。通称『鋼の乙女』。
 照れくさそうに頭のうしろをかいているが、左腕は方からぽっきり無くなっている。金属のフタのようなものをしているせいであまり痛そうでは無いのだが。
「大丈夫かな? 片腕だとちょっと不便かもしれないの」
「ほんとですよー。カレーうどんとかはねまくりなんですよ!」
 あと何日かしたら元通りですけどね、と胸を叩く『鋼の乙女』。
 大きな鉄箱の上に腰掛けて足をぶらぶらとしていた『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)が、そんな様子を見下ろした。
 組んだ足に肘を突き、顎を乗せてため息をつく。
(古代兵器の襲撃……似たトラブルも度々あると聞くし、この国も大変なのねぇ。けど……)
 ふふ、と笑ってその場から飛び降り、デッキへと着地する。
「中々滾れそうな手合いじゃない。折角だし、楽しませてもらうとしましょうか」
 遠くに見えるは巨人の群れ。
 双眼鏡など使わずとも、風に巻き上がる砂のずっと向こうに鋼の巨人が横一列になってこちらへ進むさまが見えるだろう。
「やれやれ……」
 船員に双眼鏡を返して前髪をかき上げる『紅蓮の盾』グレン・ロジャース(p3p005709)。
「こっちの3倍、デカけりゃ5倍以上か。軽く言ってくれるぜ。まっ、それだけ信頼されてんなら、応えるっきゃねえさ」
 なあ? と振り返ると、人でも殺しそうな笑顔をした『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)が鉄箱に足をかけていた。
「ああ、面白い。存分に楽しむとしようじゃないか」
「嬢ちゃんよお、おれさまが活躍しすぎて、仕事奪っちまったら悪ィな。ゲハハハッ!」
 同じく鉄箱の縁に足をかけて豪快に笑う『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。
「威勢がいいじゃねえか、オラ、後に続けよ?」
 ハロルドはストンと鉄箱に入ると、船員によって蓋を閉じられた。そのままアームに掴まれて、リボルバー弾倉をそのまま巨大化したような装置に詰められた。このたとえを出したと言うことはつまり、撃鉄や発射機構があるということである。
 ゆっくりと振り返るグドルフ。
「え、マジで入るのか? これ、人がはいるモンじゃねえよな?」
 『不死身殺し』の異名を持つという砂上船の船長がぶっとい親指を立てた。
「こいつぁ古代文明で前線支援に使われたらしい。兵器を詰めて兵士に送る。が、オレらは戦士そのものを送った方が強えと考えた。戦士は、強えからだ!」
「オイオイオイオイオイ」
「安心しろ! 多分死なねえ!」
「オイオイオイオイオイ!!」
 静々と箱に入っていく仲間たちをよそに、グドルフは無理矢理箱に詰められた。
 そうして、弾頭の気持ちを味わった。
「ウオオオオアアア!?」
 九つの鉄箱が、放物線を描いて巨人の列へと飛んで行く。

●地球が愛で回っているのではない、地球こそが愛なのだ。
 砂嵐すらない天空を、翼も持たずに飛ぶ九つの箱。
 これを自殺行為ととる者もいるだろう。棺桶と呼ぶ者だっているだろう。
 だが今現在、九つの箱に入った者たちの全てが。
 これを『空飛ぶ船』としていた。
「『愛無き晦冥を打ち砕く正義の光!魔法少女インフィニティハート』――」
 箱にハート型の巨大な穴が開く。
 箱を内側からのパンチによってフタを付け根ごと吹き飛ばす。
 箱蓋を太陽のごとき光が爆散させる。
 三つの影が、太陽と重なって飛び出した。
「ここに見参!」
 ピンクの光を吹き出して鎌を振りかざす魔法少女愛。
「だらぁああああッ!」
 山賊刀と山賊斧をそれぞれの手で振りかざして絶叫する山賊グドルフ。
「おらぁ!! 『アタナトイ』の『カミカゼ』――ってなぁ!!!」
 腕輪の力で砂嵐を我が物として、光り輝く聖剣を振りかざす聖剣使いハロルド。
「そう――」
 ドン、と四つ目の箱が内側から蹴破られた。
「こなくっちゃあ!」
 隻腕徒手空拳されど花咲く笑顔をふりまき、『鋼の乙女』Bond-AIまでもが飛び出した。
 敵影襲来を予め察知していた巨人たちはドラム缶のような頭を上向け、目のようなランプをちかちかと点滅させた。
 腕を振り、巨大な三本指を外側から順に握り、強烈な対空パンチを繰り出した。
 落ちる彼らはいい的だ。
 自殺行為だ。
 無駄死にだ。
 衆目、言わば言え。
「「上等――ッッ!!」」
 四人は一度の縦回転の末、鎌を、斧を、聖剣を、拳を、四人同時に叩き付けた。
 絶対有利を確信した筈の古代の鋼巨人(エンシェントギガント)たちの腕は、たった一瞬の停止と振動の末、利き腕を粉砕されて肩をぶち折られよろめいた。
 焦げ付いた頬や髪をそのままに、四人は砂地に叩き付けられる。
 舞い上がる砂嵐。
 できあがる静寂のスポット。
 小爆発を繰り返しながら崩れ落ちる巨人たちを背景に、四人はゆっくりと立ち上がった。
「さあ、次が来ますよ」
 髪を払う愛が振り返れば、さらなる鉄箱が二つ同時に飛来していた。

 空飛ぶ箱はよく揺れる。
(そういえば、故郷の世界でもこんなことありましたね……懐かしくなってきました)
 コンパクトな姿勢で腕組みをしていた薫子は、眼鏡の奥でぎらりと目を見開いた。
「今――」
 開いた目には鬼の光。
 柄に手をかけた次の瞬間には、稲光がはしっていた。
 否。それこそが刀の軌跡。オレンジとグリーンに明滅する残像を残して、鉄箱が真っ二つに開かれた。
「鬼種転身――推して参ります」
 全く同じことを考えていたのだろうか。
 佐那の入っていた鉄箱もまた、真っ赤に焼ける刀身で鉄箱を円形に切り裂いていた。
 マンホールの蓋とかした鉄板を蹴り出し、獰猛に笑う佐那が身を乗り出す。
 派手に靡く髪をそのままに、佐那と薫子は目を合わせ、頷き、同時に空へと飛び出した。
 刀を手に、大の字に広がる。
 黒いセーラー服が暴風にあばれ、二つの長い黒髪があばれ、刀のひいた電撃と熱が二つの放物線を描いていく。
 巨人とて愚かではない。初弾(?)の暴力を目の当たりにした残機たちは僅かに身を屈め、膝のバネに力をこめ、次々に高く跳躍しはじめた。
 飛びかかる巨人たち。みるみる近づく敵との距離。
 絶好と思われたポイントで振り込まれた巨人のパンチを、しかし二人は華麗な横回転によって回避した。
 腕から胸、胸から腹、腹から腰にかけてをZ字に走る刀の軌跡。
 薫子と佐那は鋼の巨人そのものを足場として駆け抜け、跳ね、飛び移り、ジグザグに『飛翔』した。
 着地、スライド、舞い上がる砂。
 と同時に三つの鉄箱が周囲にどすどすと『着弾』した。
「さあ」
 くぐもった声。
 スライドして(今にしてようやく正しく)開く蓋。
 突き立った姿勢のまま腕組みをしていたグレンはぎらりと目を開くと、360度プラス天空をしっかりと取り囲んでいた巨人たちにシニカルな笑みを浮かべて見せた。
 立てる人差し指。
 招くように二度。
「来いよデカブツ! この俺、グレンが相手だッ!」
 前後左右ついでに上から襲いかかる巨人たち。天空からのスタンピングを、グレンは拳ひとつで打ち払った。
 ギルバルドとLoveが同時に飛び出す。
「うぉあっ! こいつはデケェっ!!」
 そういいながらクラッシュホーンで攻撃しはじめるギルバルド。
 一方でLoveは開いた箱の中でふあーあとあくびをした。
 きっとあくびも背伸びも必要なかろうに、Loveは眠りから目覚める乙女のように、両手を組んでぐっと伸ばすふりをした。
「この前のサーフボードよりも速かったわ! さあ――」
 ジャンプ。というより螺旋状にねじれてバネのごとく飛び出すと、太陽と砂と鋼の色に自らを染め上げた。
 広げた両手が千切れるように離脱し、鳥の姿をとって飛び出していく。
 偽鳥は襲いかかろうとした巨人の顔面へ向かって飛び、くちばしから突っ込むと開口ドリルのごとく螺旋状にねじれながら高速回転。顔面を穿って突き抜けていく。
 8の字ターンで戻ってきた鳥を指先に乗せるかのごとく迎えて再結合すると、Loveは、ラブは、愛ある半液体は、喜びのように全身の表面液を振動させて高く高く歌った。

●愛してるぜ、皆!
 空気を、砂を、世界をゆらすハイソプラノの歌声。
 グレンはくすぐったそうに笑うと、ポケットから硬化を取り出した。
 巨人のスタンピングを飛び込み前転で回避しつつ、股の間を駆け抜ける。
「おい、『鋼の乙女』!」
 親指で銃弾の如く弾く。
 巨人の足と振り下ろした拳と倒れた残骸それぞれを抜けるように飛んだ硬貨が、『鋼の乙女』によってキャッチされる。
「コンサートの観客が鉄屑野郎だけってのも勿体ない話だが、アガる曲を一発頼むぜ」
「ンー?」
 『鋼の乙女』は半目でうっすらと笑うと、硬貨をポケットに突っ込んだ。
「それじゃあ特別にィ……歌っちゃいますか!」
 花咲くような笑顔をともに、異世界のポップソングが流れ始めた。
 誰も聞いたことの無いような、けれど誰もが聞いたことがありそうな、心に響く歌声である。
 Loveのハイソプラノと混ざり合い、グレンは激しく笑った。
「いいぜ、そんじゃこっちは――」
 叩き込まれた巨人の拳を飛びかわし、銅鑼でも鳴らすかのようにハイキックを叩き込む。
 ごわんという激しい音。たおれる巨人の轟音。
 その上をまたいで無数の巨人が突撃していく。
「がははははぁっ!! の塊になるがいい!!」
 対抗するようにクラッシュホーンやコンビネーションで攻撃していくギルバルド。
 ハロルドは自らに向かって恐ろしい速度で突っ込んでくる巨人に身構えた。
 対抗――するより早くキックがくる。
 サッカーボールでも蹴るような鋭い衝撃。ハロルドはそれこそサッカーボールのごとく回転しながら跳び、別の巨人がその落下地点に待ち構えた。
 連係プレイのつもりらしいが――。
 ハロルドは笑っていた。
 Loveの奏でる癒やしの歌声が、『鋼の乙女』のただの歌声が、ハロルドを興に乗せたのだ。
「そんなら俺は、今日だけドラマーだ!」
 拳を握る。握り込んだ光があふれんばかりに輝き、待ち構えた巨人の顔面を殴り倒した。
 衝撃たるや、巨人がおもわず仰向けに倒れるほどだ。
 倒れた胸の上に着地すると、聖剣を振り上げる。
「いい音だせよ? デカブツぅ!」
 身長差五倍のマウントポジション。
 ハロルドの連打が響く。
「お、いいな!?」
 グドルフはにやりと笑って斧を両手持ちした。
 蹴り飛ばそうと突っ込んでくる巨人。
 そのつま先、ないしは小指のありそうな部分を目指して、グドルフはスラッガーのごとく斧をフルスイングした。
「タンスを小指にぶつけやがれ!」
 いかな巨体といえどただ一個体の兵器。
 グドルフの打撃に大きく身体を傾けた。
 というより、片足を上げた。
 そこへ、グドルフ必殺山賊蹴り(バンディットキック)が炸裂した。
 衝撃が大木のような足首をへし折り、当然のように顔から倒れる鋼の巨人。
「おいハロルドぉ、おれも混ぜろ。ダブルドラマーだ!」
 後頭部に飛び乗って、上着を脱ぎ捨て、山賊刀と斧を両手に振り上げた。

「ドラマー何人いるのよ」
 鋼の打撃音があちこちで響くなか、佐那は一度目を閉じて深呼吸をした。
 ずっと吹きすさんでいた砂嵐が、いつのまにか清らかな風に変わっている。
「……いい歌ね」
 負けてられないわ。
 佐那は刀をくるりと手元で一回転させると、しっかりと両手で握り込んだ。
 正面には巨人が三体。
 こちらは一人。
 味方はバラバラ、孤立無援。
 いや、歌が聞こえる以上、無縁ではあるまい。
 三体の巨人が一斉に駆け込んでくる。
 佐那もまた走り出した。
 初撃はこちらだ、殴りかかろうとした巨人の腕の付け根を狙って虚空を切り上げる。
 熱をもって赤く輝いた刀身が熱量そのものを飛ばし、巨人の腕を切り飛ばした。
 次は巨人の側。一体が拳を思い切り叩き付けてくる。
 直撃。
 真正面からぶつかった。
 が、次の瞬間巨人の腕が左右にぱっくりと割れた。
 加熱した回転のこぎりがすすむが如く、佐那が駆け上がっていくのだ。
 顔面を両断しながら飛び出した佐那。それを側面から平手打ちにする巨人。
 派手な衝撃に飛ばされ、バウンドし、転がる佐那。
 膝に力を込めて跳躍する巨人。
 距離が埋まるその寸前。天空をグリーンの残像がはしった。
 それが薫子の発した雷光の軌跡あると気づいた時には巨人が空中でひしゃげ、爆発四散していた。
 跳躍状態から着地し、全身にスパークを散らしながら走り続ける薫子。
「面白い。面白い。面白い。面白いですね――ご先祖様はもしやこんな感じで鬼と戦ったのでしょうか。ああ、ああ、ああ……!」
 目を強く強く見開いた。
 真っ赤な目の奥の奥、世界や記憶や時空の向こう側で、鬼が壮絶に笑った。
 巨人のパンチ。跳躍によってかわし、腕を駆け上がり、蹴りだけで首をはねて飛ぶ。
 巨人の回し蹴り。直撃しながらも刀を立ててしがみつき、振り切った時点で刀を大きく振り抜いた。
「ぞくぞくします!」
 巨大な雷光が巨人を切り裂いた。
 次々と崩れ落ちる巨人たち。
 愛はその光景の中、ゆっくり……ゆっくりと歩いている。
 くるくると風車のごとく回る大きな鎌はピンク色のファンとなって、なぜだか巨大なハート型の残像を作り出す。
「愛。これぞ、愛」
 鎌を眼前で水平に停止させた時、ハートの残像だけがくっきりと残った。
「愛なき巨人よ、知りなさい。思い知って、刻みなさい。我が――」
 ハートは膨らみ、まるで破裂寸前の水風船のようにふるえ、そして爆発のごとくピンクの光を放射した。
 巨人を貫くハートの穴。
「これら巨人の残骸の山は、後の世に愛のレガシーとして伝えられるでしょう」
 崩れ落ちたその姿を、Loveはひときわ高い声で締めくくった。

 それから暫くして、砂上船がたどり着いたとき、そこには大量の鋼の巨人が積み上げられた山があった。
 その頂上には九つの影。
 すっかり砂をなくした風を浴びた、戦士たちだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ギルバルド・ガイアグラン・アルスレイド(p3p001299)[重傷]
重戦士

あとがき

 ――mission complete!
 ――AI love all!

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