シナリオ詳細
<総軍鏖殺>不正義に沈黙を
オープニング
●市街戦
──あまりの衝撃。誰もが夢にすら見なかった政変の勃発。
死闘の果てに新皇帝の地位に君臨したバルナバスの勅令は、鉄帝国の各地に瞬く間に広がり、大混乱を巻き起こした。
強者が弱者を蹂躙することを是とする新皇帝の発布により、鉄帝国は群雄割拠の気配を見せんとしていた。
新皇帝の勅令により警察機構はほぼ無力と化し、鉄帝の各所で新皇帝派や暴徒による凶行が発生していた。帝都スチールグラードも例外ではなく、善良な民は暴力と恐怖によって支配されようとしていた。
アレクセイ大佐の指揮下にあるスチールグラード都市警邏隊は、帝都にはびこる反政府組織や暴徒を一掃するべく、市街戦を繰り広げている。人手不足を補うため、警邏隊はイレギュラーズに依頼として協力を要請し、共に夜の帝都の警邏を務めることになった。その1人である『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は、隊員らから新皇帝派の帝都での動向について聞かされる。
「新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)、か……」
その名前を聞いたマニエラは、わずかに眉をひそめる。
『波乱に満ちた新時代にこそ英雄が必要である』と騙る鉄帝軍将軍『レフ・レフレギノ』の下に集い、新鉄帝軍主導における、新時代の英雄として振る舞う特殊部隊。実態はヤクザそのものの集まりに過ぎず、暴力で混沌をもたらすクソ共というのが警邏隊の主観であった。
警邏を続けていた一行は、ある方角に一帯を眩く照らす閃光を見出す。聴覚が優れたものであれば、銃声にも気づいただろう。
警邏隊の情報によれば、閃光弾の類が放たれた位置には、郊外の孤児院が存在するという。不穏な気配を感じ取ったマニエラは、一同を付き従えて孤児院の場所を目指すことにした。
●閃光が放たれる少し前の出来事
スチールグラードの郊外――市街地に隣接した田園地帯の一角に、とある孤児院があった。その孤児院にも、新皇帝派の魔の手が迫る。
多くの子どもたちが深い眠りにつこうとしていた時、新時代英雄隊の小隊が前触れもなくやって来た。
30人規模の小隊は孤児院を取り囲み、5人の職員と15人の子どもたちを施設の前に整列させる。大人たちの強張った表情を見て、その緊張を感じ取った子どもたちも不安げな様子を見せていた。
指揮官らしき鉄騎種の男は、ヘラジカに似た騎乗型の古代兵器にまたがり、同様に兵器にまたがる部下2人を従えていた。
指揮官の中年の男――ヒョードルは職員の1人に対し用件を言い渡す。
「この孤児院では、少年兵を育成しているらしいな?」
職員はただのウワサだとヒョードルの意見を否定したが、ヒョードルは事実に違いないと決めつける。兵器から降りたヒョードルは、職員らを前にして威圧するような眼差しを向け、一方的に命令する。
「軍の命令に従え。新時代の英雄となる我々が、ここにいる者たちを再教育してやろう」
ヒョードルは、子どもたちを連行するよう部下たちに指示を出す。それは子どもたちを過酷な訓練や労働に従事させることを意味していた。
「待ってくれ! やめろ! 一体何の権利があって――」
ヒョードルの部下たちを遮ろうとした男の職員は、ヒョードルからの強烈な蹴りをまともに食らう。そのまま地面にくずおれた職員に対し、部下2人は透かさず殴る蹴るの暴行を加え、徹底的に反抗する気力を奪った。
武装した軍隊に囲まれ、他の職員たちは震え上がるばかりで、多くの子どもたちも恐怖に泣き喚く。
隊員の中には、職員と顔馴染みのスチールグラードの住人もいた。しかし、必死に助けを求める職員の声に応えるものはいない。新時代英雄隊の暴虐から逃れるために、隊員の大半が不本意な従属を強いられていた。
ヒョードルが踵を返して再度兵器にまたがろうとした瞬間、凄まじいスピードでその場に迫る影があった。走行するタイヤの音、エンジン音を響かせ、三輪自動車を改造した小型の装甲車のような車体が現れる。それは瞬時に英雄隊との距離を詰め、ヒョードルを轢き殺す勢いだった。しかし、車体の進路から冷静に飛び退いたヒョードルは激突を免れる。
英雄隊との間にすれすれで走り込んできた車体は、激しい急ブレーキの音と共に旋回し、ヒョードルらの方に向き直る。
「貴様、降りてこい! 何者だ?!」
威嚇するように怒鳴るヒョードルの一言と共に、隊員の一部は一斉にライフル銃を向けた。
銃口を向けられ、装甲車の運転手はしばらく沈黙していた。スモークガラスの窓からその様子を窺うことはできないが、搭載されたスピーカーから若い女性の声が流れ始める。
「いらっしゃいませ、お客様。『なんでも生産ベイトミル』に御用でしょうか?」
運転手──武器商人のベイト・ミルワームは、淡々とヒョードルらの相手をする。
「こちらは店舗ではございません。武器の試射をご希望の場合もそちらで──」
「反乱の芽は早急に摘み取る。反乱の意思がないと言うのなら、我々に子どもを引き渡して証明しろ」
ヒョードルはベイトの言葉を遮り、あくまで子どもらの連行を強行しようとする。
ベイトは努めて冷静な口調で反論する。
「とんだ言い掛かりでございます。子どもたちの平穏を奪うことが、最近の英雄のトレンドとは知りませんでした」
どこか鼻につく皮肉を交えながらも、ベイトは英雄隊との交渉を試みる。
「いかがでしょう? もし今夜限りでお帰りいただけるなら、英雄隊の皆様には武器の提供を特別サービスで実施致します」
賄賂と引き換えに見逃すことを暗に提案するベイト。ヒョードルは「ほお、取引か……」とつぶやき、応じるような素振りを見せた。
「その提案に乗ってやってもいい──」
もったいぶった様子を見せつけるヒョードルは、側近の部下に耳打ちし、何事かを指示する。その部下は、子どもたちの中でも最年長の、16歳の少年の襟首をつかんで無理矢理引き寄せた。
「だが、何人かの子どもは連れていく。お前が裏切らないようにな」
ヒョードルのその一言に対し、装甲車の中にいるであろうベイトはしばらく沈黙する。
「ヒョードル『元』隊長──」
ベイトは過去形であることを強調し、ヒョードルの悪評について語り始める。
「指導熱心な方だとお聞きしていましたが、指導の名目で部下の方にテーザー銃を使ったという話は大変印象に残っています」
ベイトは皮肉をたっぷり込めて「その部下さんは、お元気ですか?」とヒョードルに尋ねる。
ヒョードルは変わらず高圧的な態度でベイトと対峙し続ける。
「貴様に不良品を売りつけられたお蔭で、不遇な時を過ごした私の気持ちがわかるか?」
他人を顧みないヒョードルの主張に呆れつつ、ベイトはヒョードルの神経を逆撫ですることをやめない。
「それで、説明書は読めるようになりましたか?」
遂にヒョードルはベイトの乗る装甲車に対し、発砲を指示した。一斉にライフル銃の引き金が引かれたが、防弾仕様の装甲車はびくともしない。そこへ古代兵器が突進し、大きな角で装甲車を横転させた。
孤児院の人々はベイトの身を案じて息を呑む。横転したままの装甲車からは、何の反応もなかった。
ヒョードルの部下の1人は、車体の中を確認にするために窓ガラスを破壊する。しかし、装甲車の中は無人であった。
練達の技術を結集させた、自動運転機能を備えた装甲車がヒョードルらに囲まれる様子を、ベイトはある場所から見守っていた。
ヒョードルはわずかな音も聞き逃さず、ドローンのプロペラ音を察知して瞬時に頭上を見上げる。その直後、ベイトが放ったドローンは地上に閃光手榴弾を落下させ、炸裂する閃光によってヒョードルらの視界を奪う。
ベイトは孤児院の屋上から狙撃銃を構え、照準を合わせながらつぶやく。
「子どもたちは非売品ですよ、お客様」
──警備を強化しようとしていた矢先にこんなことになるなんて。ついていませんね。
ベイトは決死の覚悟で銃撃戦を仕掛けた。
- <総軍鏖殺>不正義に沈黙を完了
- GM名夏雨
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
「上だ! 屋上だ!」
強烈な閃光により視界も奪われ、ベイト・ミルワームの狙撃銃がヒョードルらを狙う。ヒョードルはそんな状況下でもベイトの行動を把握し、ライフル銃を手にした部下2人を孤児院の建物に向かわせた。
飛び交う銃弾におののく隊員らは、眩んだ視界のまま右往左往し続けている。
製造する兵器や武器は抜群の性能を誇るものばかりだが、ベイト自身は素人に毛が生えた程度の腕前である。標的に致命傷を与えるまでにはいかない。
誰もがほとんどの視界を封じられたが、古代兵器はその影響を免れる。両目部分にあるスコープが屋上の熱源を感知し、ベイトの正確な位置を割り出す。
古代兵器が放ったビームは屋上の石壁を貫通し、ベイトの右肩をかすめた。
「いっ……?!」
思わず声を上げるほどの衝撃を受け、一層死を身近に感じたベイトの心拍数は急上昇する。わずかな間走馬灯となって脳裏に過った子どもたちとの思い出を振り払い、ベイトは狙撃銃を構え直す。
「……あぁ、全く――」
ベイトは、確かに背後から聞き覚えのある声を聞いた。
「厄介な声が聞こえた気がしたんだよ」
ベイトの知己でもある『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は、彼女の窮状を察知していち早く駆けつけた。
地上からは、スチールグラード都市警邏隊の救援を告げる『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の声が響き渡る。
「おまたせ! 警邏隊の人たちは孤児院の人たちを守ってあげて!」
アレクシアは、英雄隊から暴行を受けた職員の男性の下に駆け寄る。自身を中心に大規模な魔法陣を展開するアレクシアの能力により、治癒の力を促進させる魔力が一気に発散される。花弁のように舞い散る無数の魔力の輝きは、一瞬にして戦場を彩った。
英雄隊の注意を子どもたちから逸らそうと、駆けつけたイレギュラーズは続々と名乗りを上げる。
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は特殊な感覚を働かせることで、敵意のない――助けを必要としている対象を識別することができた。
脅えた表情で剣や槍を手にした隊員たちは、明らかに訓練された軍人とは異なるたたずまいである。セレナはその心の声に耳を傾けることで、彼らが強制的に徴兵された民衆であることを理解した。
仲間にも念話を飛ばすセレナからその事実を伝えられた『力いっぱいウォークライ』蘭 彩華(p3p006927)は、
「許しがたい男ですね、ぶった斬ってやるのです!」
重厚な両手剣を握り締め、ライフル銃を手にした隊列へと切り込んだ。
屋上でマニエラの姿を目の前にしたベイトは、一気に緊張の糸が解けた。一瞬うなだれたベイトだったが、気丈に振る舞う様子を見せる。
「私の骨を拾うつもりだったんですか? 待ちわびましたよ!」
マニエラとベイトが再開の時に浸る間もなく、屋上に続く階段を駆け上がる足音が響く。
屋上とつながるドアの向こうから現れた隊員2人は、即座にマニエラの攻撃に捉えられる。
鎖の形を現わす禍々しい魔力を以て、マニエラは1人の隊員――隊員Aの体を弾き飛ばす。マニエラの存在を予見していなかった隊員たちは、不意打ちによって瞬く間に追い込まれていく。
一方で、地上での戦闘も混戦を極めていく。
『深き森の冒険者』ルカ・リアム・ロンズデール(p3p008462)は、古代兵器の抑えに回る。
ルカが放った熱線が古代兵器Aを捉えた瞬間、古代兵器Aは激しく火花を散らして機体を傾ける。魔術を駆使するルカは果敢に挑み、古代兵器の破壊に傾注した。
──こんな横暴を許してはおけませんよね、直ぐに止めなくては。
指揮官であるヒョードルの姿を認識し、『旋律が覚えてる』ガヴィ コレット(p3p006928)はその眼差しに強い思いをにじませた。
ガヴィは積極的に攻めかかる彩華の援護に回る。自身の能力を引き出すことで、ガヴィは多くの弾道を予測する。時には自らを盾にして仲間への被弾を防ぐガヴィは、
「子どもたちには触れさせません!」
その強靭な意志を示して手にした盾を掲げる。
号令のように響いたガヴィの一言は、強力な言霊と化して力をもたらす。
ガヴィらが地上で奮戦する間にも、マニエラは屋上でヒョードルの部下を片付けた。
ベイトは傷の痛みに顔を歪めながら、腰が抜けたようにへたり込む。
自らの行動を振り返るように、ベイトはつぶやいた。
「……マニエラさん、感謝します。我ながら無謀な賭けに出てしまいました」
マニエラはベイトの肩の傷に治療を施しながら、「死なれては困るよ」とベイトの身を案じる。
「──軽いメンテは私でもできるが、造るのはあんたの仕事だからな」
しばらくそんな会話を続けていたが、響き渡るヒョードルの怒号によって、マニエラの意識は戦場に引き戻される。
地上を見下ろすマニエラの視界には、徴兵された民兵たちを盾にする英雄隊の様子が映った。
「怯むな! 戦え!!」
ヒョードルに尻を叩かれるような状態で、民兵の戦意は高くは見えない。がむしゃらに剣や槍を振りかざし、イレギュラーズに対抗する。しかし、その動きは、到底『竜剣』シラス(p3p004421)には及ばない。
流れるような動作で振り向けられる刃をかわし続けたシラスは、一瞬の内に無数の魔力弾を放つ。刃を向けた数人は、シラスの魔力弾によって弾き飛ばされるほどの衝撃を受けた。
隊員らがシラスの勢いに圧倒される間にも、孤児院の子どもたちや職員は、警邏隊に誘導されて避難を開始する。それに気づいたヒョードルは部下を差し向けようとするが、セレナや『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が立ち塞がる。
細剣を構えるイズマは、衝撃破を生じさせるほどの剛速の一突きを繰り出す。イズマの技は、ライフルを構えた隊員を離れた距離から突き飛ばし、隊員らの注意を自身に向けさせた。
「まさか英雄が弱い者いじめなんてしないだろう?」
そう言って、イズマは挑発的な言動を繰り返す。
「子ども達より、俺達が先だろう?」
衝動的に引き金を引く一部の隊員らに加え、古代兵器Bもイズマに向けて突進してくる。セレナはその機を逃さず、攻撃に移る。
魔力を発散させたセレナは、紫色のオーロラのような輝きを出現させる。そのオーロラに触れた古代兵器は、全身から火花を散らしながら後退していく。その領域に触れるものは、狂気と呪いによって支配され脅かされた。
彩華やガヴィがライフル隊との銃撃戦を制しようとする一方で、ヒョードルは民兵らを前線に押し出して攻撃を促す。
「我ら新時代英雄隊に逆らう者は処罰しろ!」
ヒョードルに従う隊員らは、民兵が巻き込まれることなどお構いなしに発砲を続ける。
隊員B、Cは、砲身と一体化した片腕から駆動音を響かせ、放たれた冷却弾の威力を見せつける。その爆風に巻き込まれる民兵も少なくはなかった。
ヒョードルによって過酷な従軍を強いられる民兵らは、一様に絶望感漂う表情を浮かべていた。その様を見たアレクシアは、冷酷なヒョードルに怒りを覚えた。
──……こういう時だからこそ、力のない人を助けてこそなのに……!
民兵を救うことを考えつつも、アレクシアは跳弾にさらされそうになる職員らを危惧し、そばへと駆け寄った。アレクシアは、子どもたちを必死に守ろうとする職員の盾となる。アレクシアの強い思いに反応するように、アレクシアの周囲には魔力によって形成された障壁が現れ、多くの跳弾を弾き返した。
ライフルを構える隊員は子どもたちにもその銃口を向けたが、瞬時に接近した彩華の剣は、複数の隊員を薙ぎ払う。
「どうしました、あの可哀相な人達を盾にしないと戦えませんか?」
そう言って、銃に臆さず剣を振り抜く彩華は、隊員らを圧倒する。
隊員Bは彩華を仕留めようと冷却弾を放ったが、盾を掲げるガヴィは隙のない動きでその攻撃を受け止めた。ガヴィの援護もあり、彩華は確実にヒョードル側の戦力を削っていく。
銃撃が落ち着いたところで、アレクシアは民兵らに武器を下ろすよう呼びかけた。
「私たちは1人でも多くの人を守りたい。もちろんあなたたちも! だから、どうか手を引いて! これ以上戦わないで!」
ヒョードルは持ち主を失ったライフル銃を手に取り、アレクシアの言葉に耳を傾ける民兵らに向けて威嚇射撃を行う。
「裏切りは許さん!! 貴様らの家族諸共懲罰の対象だ!」
投降を促すアレクシアに揺らいでいた者たちは震えあがり、ヒョードルの脅し文句に屈するしかない様子だった。
ヒョードルは更に銃弾を装填し、民兵らを威圧する。ヒョードルに従わざる負えない状況に追い込まれ、民兵Aは自身を無理矢理奮い立たせるように雄叫びをあげた。その状況を見兼ねたイズマは、攻撃を誘うように民兵Aとの距離を詰める。
民兵らがヒョードルの怒りを余計に買わないように、イズマは時間を稼ごうと動く。イズマは自らの剣技を駆使することで、民兵Aの剣を難なく受け止めると、
「俺は受け止められるから大丈夫」
民兵らに同情するイズマは、耳打ちするようにつぶやいた。イズマが民兵らの相手に集中する間にも、シラスはヒョードルまでの導線を切り開こうと魔力を集中させる。
無数の魔力弾を放つシラスに対抗するように、ヒョードルは古代兵器や部下の砲撃を集中させ、激しく抵抗する。
ベイトの手当を済ませて駆けつけたマニエラも戦線に加わり、全力でサポートに回る。マニエラの能力によって発散される輝きは星々のように瞬き、降り注いだ対象の傷を癒していく。シラスを始めとするイレギュラーズに向けて力を注ぐマニエラは、激しい攻防を繰り返す者らを後押しした。
強力な魔術を駆使するイレギュラーズを前にしても、退くに退けない様子の民兵に対し、ルカは再度呼びかける。
「あんな男の言いなりになるのは、悔しいでしょうね──」
真摯に訴えるルカの言葉に、民兵らは揺らいでいる様子だった。
「でも、それも今日までです。あれはイレギュラーズが必ず討ち倒します。あの男の手から逃れるなら、まさに今ですよ!」
ルカのその言葉を看過できず、ヒョードルは民兵らごとルカを打ち倒そうと古代兵器Cをけしかける。
無情にも古代兵器Cが複数の民兵を蹴散らし、ヒョードルは民兵らに対する威圧的な態度を強める。
「この俺が生かしておいてやったのに、使えないバカ共だ!!」
そのヒョードルに向けて、シラスは真っ先に攻撃を放った。
シラスが放った一筋の閃光は真っ直ぐにヒョードルを捉え、ヒョードルは身を逸らそうとした瞬間に爆炎に包まれる。
ヒョードルは体から黒煙を上げながらも、瞬時に態勢を整えようとした。しかし、鎖状に発現する魔力を操るマニエラは、わずかな差でヒョードルの動きを捉えた。ヒョードルは、自在に動くマニエラの鎖に足元からすくいあげられる。その身を否応なく宙返りさせられ、ヒョードルは地面に両手両膝を着いて這いつくばる姿をさらされる。
「見たか! こんな奴、本当は大したことないんだ!」
イレギュラーズ側の優位さを見せつけるように、透かさずシラスはヒョードルを指して声高に言った。
シラスとヒョードルを見比べる民兵らに対し、イズマも投降を呼びかける。
「俺たちはこれからも、望まぬ待遇を受ける者たちを助け出して守るから。イレギュラーズを信じてくれないか?」
すでに武器を下ろし始めている民兵らに気づいたヒョードルは、怒りのままに警棒を引き出し、即座に民兵の1人へと迫ろうとした。
「新時代英雄隊に歯向かうつもりか?!」とヒョードルは言いかけたが、ヒョードルの体は見えざる力によって弾かれる。衝撃を受けたヒョードルは、両足を滑らせながらも踏み留まった。
「お前はもう喋るな」
自在に結界を操ることでヒョードルの進路を妨げたシラスは、冷淡な口調でヒョードルの怒りを煽った。
シラスに対し殺意をむき出すヒョードルだったが、たちまち民兵らは武器を捨て、続々と投降する動きを見せた。
ヒョードルは投降する民兵らに向けて古代兵器を差し向けるが、その前に立ち塞がるセレナとルカは、共に古代兵器Aを停止させる。鋭く放たれた閃光、熱線はその機体を貫き切り落とし、古代兵器Aは完全に破壊された。
古代兵器が屈する様を見せつけられ、隊員の大半が倒れ伏し、民兵らが離脱する状況下では、ヒョードルの部下の士気は下がる一方だった。
セレナは寝返った民兵たちにも、子どもたちを保護するよう協力を求めた。
「子供達が助かれば、あなた達は本当の英雄になれるかもね」
セレナはそう言い添えた後、ヒョードルらに向けて術式を展開する頼もしい背中を見せた。
「さあ、あなた達も降参するなら今ですよ。それとも、ヒョードルなんかに尽くしてここで斬られますか?」
彩華はその不敵な態度と力量で、ヒョードル側についている隊員らを揺さぶる。
剣を振り向けて突撃する彩華の動きに焦りまくる隊員Dだったが、彩華は隊員Dを飛び越え、跳躍した勢いのままに隊員Bへと振りかぶった。
他の隊員ごと彩華らを砲撃で吹き飛ばそうとしていた隊員Bだったが、迅速に迫った彩華に斬りつけられる。
鋼鉄の機体にヒビを刻まれた隊員Bはよろめく。その一瞬の間にも迫るガヴィは、隊員Bを更に追い詰めようとレイピアを構えた。隊員Bはよろめきながらも臨戦態勢を整え、手にした警棒でガヴィのレイピアとかち合う。舞うようにターンを描く足運びから、ガヴィは隊員Bを自身の間合いに引き込むために攻撃を誘った。ガヴィから放たれた鋭い一突きは狙い通りに隊員Bを捉え、隊員Bは凄まじい勢いで突き飛ばされる。
ヒョードルは逃げ遅れた民兵の1人を狙う。自らの機体に仕込まれた無数の刃針を、ヒョードルは扇を描くようにして周囲に放った。狙われた民兵のふくらはぎには1本の刃針が突き刺さり、民兵はやむなく倒れ込む。
シラスとイズマは刃針を放つヒョードルをけん制しようと距離を詰めていくが、ヒョードルは隙のない動きで2人を寄せ付けない。ヒョードルが放つ刃針は、まるで無尽蔵にわき出るようで、途切れることのない数を有していた。
這いつくばる民兵を助けようと接近するタイミングを窺うが、ヒョードルの猛攻がそれを阻み続ける。
後方に宙返りしながら、ヒョードルは体をひねる瞬間に次々と刃針を射出する。
「誰もが平等などというのは、所詮弱者の詭弁だ」
アクロバットな動きを見せつけて着地したヒョードルは、イレギュラーズを嘲笑うように言った。
「──この世が弱肉強食であることに変わりはない。生き残った強者こそが正義なのだ!」
そう言い放ったヒョードルは、機体から抜き出された刃針を手にする。瞬時に放たれた刃針は、負傷した民兵にとどめを刺そうと向かっていく。しかし、アレクシアはわずかな差で民兵に向けられた刃針を弾き落とした。がむしゃらに刃針を食い止めたアレクシアは自らの体を顧みず、その腕からは鮮血が滴り落ちる。
アレクシアはヒョードルの言動に対し怒りを露わにし、叫ぶように言った。
「無駄にされていい生命なんて、勝手に奪っていい生命なんてないんだ! なんでわからないの!」
射線上に飛び出したアレクシアに向けて、古代兵器Bは照準を定めた。しかし、セレナが放った閃光は古代兵器Bを一瞬で撃ち抜き、その体は灰へと変わっていく。
イレギュラーズの勢いに圧倒される隊員らは、遂にヒョードルの命令を無視して逃亡を始める。ヒョードルに小隊を立て直すほどの求心力がないことは明らかであった。
往生際の悪いヒョードルは、引導を渡そうとするイズマとシラスを進んで迎え撃つ。他の者がヒョードルの部下を押さえている間に、2人は片をつけようとヒョードルに専心する。
ヒョードルらを制圧しようとするイズマの手からは、激しく瞬く光があふれ出す。
「こんな所業は繰り返させない、痛めつけた者達の分まで償わせる!」
光の輝きと共に神聖な力を発現させたイズマは、ヒョードルの周囲の部下諸共動きを封じる。くずおれる部下を尻目に、ヒョードルは最後まで意地を押し通そうとするかのように耐え忍ぶ。
警棒を構えるヒョードルは、容赦なく攻めかかるシラスにも応戦する。すでに最大限の力を出せるほどの状態ではないヒョードルだったが、その気迫だけならシラスと互角のものがあっただろう。
食い下がり続けたヒョードルだったが、遂にシラスはヒョードルの警棒を弾き落す。魔力を込めたシラスの一撃が至近距離から放たれ、直撃を受けたヒョードルの体は勢いよく宙へと飛び出した。そのまま背中から地面へ激突したヒョードルは、起き上がる気配を見せなかった。
敗れたヒョードルは、目を見張ったまま天を仰いでいる。その様子を覗き込むシラスに気づくと、息も絶え絶えな状態で口を開いた。
「お前も……力で相手を、ねじ伏せ……楽しんで、いるだろ?」
シラスはヒョードルの言葉をはっきりと否定する。
「違うね。お前は誰かを救ったのか?」
ヒョードルは一瞬表情を歪ませたかと思うと、最後の力が抜けたように両目を閉じた。
残されたヒョードルの部下たちは完全に戦意を喪失し、イレギュラーズの前から一目散に逃げ出した。
ベイトは孤児院の子どもたち、職員一同と合流し、その無事を確かめた。ベイトは、改めてイレギュラーズに感謝を伝えた。
マニエラはベイトの言葉を受け止めつつも、このまま子どもたちが鉄帝で暮らすことに難色を示した。
「今後もこんなことが起きるだろうし、大人しく移動した方がいいかもしれん。……私たちもたまたまだしね」
マニエラの懸念を肯定したベイトは、すぐにでも子どもたちを国外へ避難させる意思を見せた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
●運営による追記
本シナリオの結果により、<六天覇道>革命派の軍事力が+10されました!
GMコメント
●成功条件
子どもたちを狙う新時代英雄隊のせん滅、または撤退させる。
●失敗条件
子どもたちの強制連行を許すか、PC全員が戦闘不能に陥る条件を満たした場合。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●革命派について
https://rev1.reversion.jp/page/kakumei
革命派の中核である慈善宗教団体『クラースナヤ・ズヴェズダー』は、内紛に苛まれる民衆の保護活動も積極的に担い、警邏隊とも協力関係を築いている。
●敵について
●ヒョードルについて
喜んで部下を痛めつけるサディスト、クソのつくパワハラ野郎。投獄されていたが、新皇帝の勅令をきっかけに軍隊に返り咲く。
鉄騎種の体に仕込まれた無数の刃針(物中扇【足止め】【出血】)に加え、電流が流れる警棒(物近単【感電】)を駆使して戦う。
●新時代英雄隊について
ヒョードルを含めた総計30人の小隊。その内の15人は、英雄隊に無理矢理徴収された一般人であり、隊長のヒョードルにかなりの不満を抱いている。イレギュラーズの活躍、説得によっては、英雄隊を抜けるために寝返る可能性が高い。
ヒョードルに忠実な隊員12名は、ライフル銃(通常レンジ3)を扱う。側近2人は〈物近単〉の攻撃以外にも、砲身と一体化した片腕から冷却弾(物中範【凍結】)を放つ。
●古代兵器について
ヘラジカ型の3体の兵器。電灯のように輝く大きな角がある。
対象に向かって突進する(物近貫)だけでなく、目からビームを発射(神超貫【凍結】)して攻撃する。
●スチールグラード都市警邏隊について
イレギュラーズと共に孤児院に向かったのは、隊員6人。子どもや職員の退避を優先させようとする。
戦力的には、ヒョードルには秒殺される程度。
●ベイトについて
負傷しているかどうかなど、安否は不明。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
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