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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>堅牢なる歯車大聖堂

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「魔物の侵入を許すな!」
 スチールグラード都市警邏隊が雄叫びとともに魔物へ肉薄していく。その勢いや凄まじく、あっという間に魔物たちが蹴散らされていく――だが、魔物たちも次から次へとキリがない。
「このままでは……ッ」
「しかし、ここを退いては――」
「――そうだ! 諦めるな!!」
 どこから湧き出るのかというほど多くの魔物を前に、気弱になるもの。それでも背後を気にするもの。そして、迫り来る魔物を槍で一閃するもの。
「少尉!」
「足の速い者をローレットへ! イレギュラーズが来るまでの間、ここを何としても防衛するのだ!」
 槍が力強く風を切る。少尉と呼ばれた男は魔物への恐れも見せず、素早く肉薄するとうちの1体を肉塊へと変えた。その覇気に魔物が一瞬ひるめば、対する都市警邏隊は士気をあげ、後に続けと勢いを盛り返す。
 その中から1人、逆方向へ。小柄な影がまろび出ると、イレギュラーズたちへ助力の声を上げるべく、一目散に走り出した。
 あっという間に剣戟の音が、仲間の声が、魔物の唸り声が遠くなっていく。帰ってきた時、一体何が残っているだろう。何も残っていないかもしれない。そう、仲間さえも。
(もっと速く……急がないと!)
 少年とも呼べるような一般兵は駆けて、駆けて、駆けて。転ぶように建物の中に飛び込んで、どうしたのかと駆け寄るイレギュラーズに縋りついた。
「魔物の……魔物の大群が、ギア・バジリカに押し寄せようとしてるんだ……!!!」



 歯車大聖堂ギア・バジリカ。それはスチールグラードに存在する古代遺跡であり、クラースナヤ・ズヴェズダーと呼ばれる慈善宗教団体が保有する施設でもある。硬い外壁に囲まれたそこは、首都にありながら比較的安全が保証されており、貧しい者が住まう拠り所になっていた。
 現在は力のない市民の救助に力を入れているというが、そのような者を抱えれば抱えただけ、食料問題は避けて通れない問題である。
 だがしかし、目の前の命を捨て置くことだってできないのだ。ゆえに彼らは手を差し伸べ、暴徒や魔物たちを払い除けるのである。
「ギア・バジリカの近く……大群と戦えるとなると、この辺りでしょうか」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は地図を広げて指をさす。一般兵――ヨーシフはその地点に頷いた。
「その地点を突破されたら、まともに戦えるような場所がない。だから何としても守らないといけないんだ……!」
「落ち着くのです。イレギュラーズの皆さんがなんとかしてくれるのですよ!」
 ね、とユリーカがイレギュラーズたちへ、信頼の表情を浮かべて視線を向けた。どんな逆境だって越えるための力がある。もちろん、全く犠牲がなかったとは言わないけれど――それでも、彼らなら救うべき命を救えるだろうと。
「ヨーシフさん、道案内をお願いしても良いですか? 地理に詳しい人がいると心強いのです」
 ユリーカの言葉にもちろんと首肯するヨーシフ。警邏隊の中には腕の立つ上官もいるというから、駆けつけるまでは保たせてくれるだろう。
 素早く身支度を整えたイレギュラーズは、ヨーシフの先導に続いてギア・バジリカ方面へと駆け出す。
 力なき市民を守るために武を振るう、鉄帝の民のために。

GMコメント

●成功条件
 エネミーの撃破、あるいは撃退

●情報制度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気をつけてください。

●フィールド
 スチールグラード市街。人気はありません。建物などは破壊され、死角が多いです。
 天候は良く、雪もまだ降る季節ではないので滑る心配はありません。

●エネミー
・ギルバディア×2
 大型のクマ型の魔物です。シナリオトップ中央のエネミー。その巨大に見合わず、なかなか素早く動きます。全長は3mにもなるでしょう。
 凄まじい突進能力があり、邪魔な木々は軽く薙ぎ倒す程の性能があります。周囲の建物を破壊した一因でもあるでしょう。【乱れ系統】【痺れ系統】のBSが想定されます。
 また、敵を吹き飛ばす様な一撃を宿している事もある模様です。突進やその一撃のみならず、鋭利な爪や牙、のしかかりによる攻撃も十分注意が必要となるでしょう。
 ある程度の不利を察した場合、他の魔物を引き連れて撤退するそぶりを見せます。


・ヘァズ・フィラン×4
 一言でいうとカラスの様な存在です。シナリオトップ左右のエネミー。非常に他者に対して攻撃的です。空を飛行し、弱者と思わしき者を集団で嬲ります。
 反応、機動力、EXAに優れ、牙には毒もある模様です。また翼により砂塵を巻き上げ、視界を悪くする場合があります。
 彼らは基本的にスチールグラード都市警邏隊員のうち、弱っていそうな者から襲うでしょう。


・ヘイトクルー×20
 周囲に満ちる激しい怒りが、陽炎のようにゆらめく人型をとった怪物です。人類を敵とみなすおそろしい兵士達です。
 近接武器のような幻影による怒り任せの至~近距離物理攻撃を行います。単体・範囲ともにあり、【飛】を持ちます。
 怒りに突き動かされていることも相まってか、そこまで頭は良くありません。ただし、何かに隠れていたら障害物ごと吹き飛ばすくらいには馬鹿力です。集中攻撃を喰らうと流石に危険でしょう。


●友軍
・ルキヤン・ゲルマノヴィチ・ラッソロフ
 スチールグラード都市警邏隊員の1人。少佐の地位を持つ男。『アレクセイ大佐』の部下です。精悍な体つきで、長柄の得物を得意とします。多少ながら風の魔力に親和性があり、得物へ風を纏わせて戦うことができます。素早い連続攻撃を得意としています。
 少々疲弊していますが、まだ戦えます。怪我は軽症です。
 後方で指揮をするより先陣を行くタイプで、その戦いぶりによって友軍の士気を上げることができます。返せば、彼が倒れた時には友軍の士気が大幅に低下するでしょう。
 何か動きの希望があれば聞くでしょうが、戦闘中に伝えることとなるため、全てを正しく伝えられる状況ではない可能性があります。

・スチールグラード都市警邏隊員×20
 『アレクセイ大佐』の部下です。いずれも鍛えた体で、長剣による攻撃を行います。中には昔素行が悪かった者もいたようで、仮に得物がなくなっても格闘技でそれなりに戦ってくれます。そこそこ疲弊しており、怪我人も見受けられます。
 攻勢になればなるほど士気を上げ、攻撃力が増します。ただし回避力が下がります。
 OPに登場したヨーシフもここに含まれますが、彼に関しては他の隊員よりも機動力が高めです。

●ご挨拶
 愁です。革命派のシナリオとなります。
 ギア・バジリカに避難する市民を守るため、魔物をここで食い止めましょう!
 それではよろしくお願いいたします。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>堅牢なる歯車大聖堂完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月14日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ンクルス・クー(p3p007660)
山吹の孫娘
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー

リプレイ


「すぐに現場へ向かうぞ! 事態は一刻の猶予も無い……!」
 誰よりも早く身支度を整え、ギア・バジリカ方面へと駆けだした『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)。僅か遅れて弾かれるように走り出したヨーシフはあっという間にルーキスへ追いつく。
「ここは左へ! 右はこの前建物の倒壊があったばかりだ」
 彼の指示に従いながらぐんぐんとギア・バジリカへ近づくイレギュラーズだが、その大きさを見てまだ距離があることは知れる。今この間にも警邏隊員たちと魔物がぶつかり合い、傷を負っている。市民だって巻き込まれているかもしれない。そう思えば限界のある自らの速度に焦りを感じるばかりで。
(市民は勿論、都市警邏隊員たちの犠牲も最小限にとどめてみせる……!)
 鬼気迫る表情で走る彼の背から視線を外した『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)は、わずかに目を眇めた。
(嘗ては活気にあふれていたんだろうに)
 誰もおらず、人の気配も、生活さえも感じられず。何時から転がっているのか分からないゴミやどかされない瓦礫、世話されずに枯れてしまった花がもの悲しさを感じさせる。この戦いが終わったのなら、その先には依然と同じ光景が広がっているのだろうか?
「酸素魚雷一番から五番まで装填完了。ブラスターメイス、聖弓改造型接続式滑腔砲。残弾確保完了。
 ――もう近いですよ、気をつけて」
 武器の準備を万端にした『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)の言葉にハリエットは視線を戻す。歯車大聖堂はもう近い。死角に敵が潜んでいる可能性は十分にあるだろう。
「8時の方向。エネミーらしき影があるよ」
「頼りになりますです! 早速いくですよ!」
 ハリエットの言葉のままにブランシュがくるりと振り向き、そちらから飛び出そうとしていた魔物が撃ち抜かれる。周囲の空気がざわりと動いた。
「まだ、いるみたい、だね……?」
 『紅霞の雪』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は周囲を警戒するように視線を滑らせる。けれど今のやり取りを見れば、少なくとも単騎で飛び込んでくることはない筈だ。こちらがただの一般人でないことは証明されただろう。
「ここにいる魔物たちも警邏隊との戦いに合流したら厄介だね。早く行かなくちゃ」
 『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の言葉に一同はより速度を上げた。今、この国で暴れまわっているのは魔物ばかりではなく、いつまでも防戦を強いられているわけにはいかない。けれどまずは、この場を切り抜けなければ始められるものも始まらない!

 遠くから、近くへ。魔物の唸り声と人の叫び声、そして剣劇がイレギュラーズの耳にまで届く。力強く踏み込んだフラーゴラの周囲へ魔力が散った。
「この盾……便利に使って。役に立つために来たの……」
 エネミーサーチ――目標、多数。その一角を引き付けた小さき狼は、きっと魔物たちを睨みつけた。
「カラスと狼、どっちが強いか勝負だよ……!」
 警邏隊員から引きはがされた怪物たちが怒りの矛先をフラーゴラへ向ける。そして頭上を飛び交うカラスもまた、彼女へと目を付けたようだった。
「まったく、何処からこれだけの魔性が湧いて出たのやら……」
 『氷月玲瓏』久住・舞花(p3p005056)の銀閃が閃いて、クマのような魔物へと叩き込まれる。ぎっと視線を向けたギルバディアは、舞花向けて勢いよく突進し始めた。半身ずらして避ければ、魔物は何処までも突進して崩れかかった家へぶち当たり――完全に破壊して、自身は何ともないといった様子である。
(壮麗とは言わずとも、帝都の名を冠するだけの事はあったスチールグラードの街並みが……いとも容易く)
 油断ならない。この手の魔性が居なければ、暴徒がいたとしてもここまで破壊されるとは思い難い。
 敵の群れからギルバディアのみを舞花が抜き、フラーゴラへ群がる敵へハリエットの放った無数の弾丸が乱反射する。それらの嵐が開けると同時に踏み込んだルーキスは、乱撃で魔物たちを怯ませると先頭で戦い続けていた警邏隊員へ声をかけた。
「後方に下がって治療を。貴方が倒れたなら隊の士気に関わります」
「……イレギュラーズか。ヨーシフが間に合ったんだな」
 一瞥したその男――ルキヤン・ゲルマノヴィチ・ラッソロフはルーキスを一瞥し、小さく頷く。指揮は任せたと、そう言って。
「我らの背には多くの守るべきものがある! 元気がある内は一歩も退くな!!」
 『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)の声が戦場へ響き渡る。誰もの視線を浴びながら、マリアは声を張り上げた。
「私はマリア・レイシス! 一時的に指揮をとらせてもらう!!」
 その名は鉄帝において非常に有名だ――それこそ、名を聞いただけでも士気が跳ね上がるほどに。彼女へ向けられる視線には羨望と信頼が厚い。それらへ応えるように、マリアは深紅の鎧を見に纏う。
「チーム内及びチーム同士死角を補い合い戦い、奇襲と不意打ちを警戒せよ! 深追いはせず。危険と判断すれば迷わず下がりたまえ! 最低3名一組で敵に当たれ!」
「「「了解!!」」」
 戦場の熱が上がった気がした。それを感じながらも、ブランシュは確実にヘイトクルーの頭数を減らして彼らの負担を下げにかかる。
 いくつもの鉛が恐怖劇を作り出す。残忍な音が命を貫く。

 ――クラースナヤ・ズヴェズダーの足音を聞け。

 また1体、魔物が絶命する。

 ――我ら全ての民の幸福を願う者なり。

 また1体、平和を脅かす者が消える。

 ――どうかご照覧あれ。その為の殲滅を良しとし、全ての障害を取り除かん!


「おっとこっちにもいたの? 悪い魔物は私が天罰するよ! こーい!!」
 『鋼のシスター』ンクルス・クー(p3p007660)の声に警邏隊と戦っていた魔物が振り返る。そこに居るのはなんでもない、只のシスター――。
「嬢ちゃん、危ないぞ!」
「大丈夫! ここからは私達――イレギュラーズも協力するよ!」
 市民の為に頑張る者をシスターが見捨てて置けようか。依頼に不義を働くような真似をイレギュラーズがするものか。
「警邏隊の皆さん、イレギュラーズです! 助けに来たよ! 危ない人はこちらに!」
 アレクシアが素早く怪我人たちを後退させ、纏めて癒しの力で包み込む。彼らも直ぐ戦いに参じたくて仕方ないようだが、このまま突進されて命を無駄にはされたくない。
 士気を上げる者たちがいる高揚感。自身らが戦いに出なければという焦り。そんな思いはヨーシフからも感じられて、アレクシアは咄嗟に「ヨーシフ君!」と叫んだ。
「落ち着いて、深呼吸して。大丈夫、みんなで力を合わせればきっと守り切れるから!!」
 見て、と促せばその先には共にやってきたイレギュラーズたちの奮闘が早くも見え始めている。警邏隊の面々にもわずかではあるが、余裕が見えてきていた。
 生まれた余裕は彼らを勢いづかせ、士気を上げる一因となるだろう。視線を移せば、アレクシアに治療された面々も力強く武器を握っている。
「無事に切り抜けよう。皆で、ね!」
「……ああ!!」
 ヨーシフも戦いに参戦すべく走り出す。その姿を見て大丈夫そうだとアレクシアは微笑んで、そして自身のすべきことを為すためにと視線を巡らせた。
 ギルバディアの1体を引き付けた舞花は、もう1体も引き付けて一同から引きはがしていた。此処までくれば他の仲間たちが敵視を取ってしまうこともなく、攻撃に巻き込まれる可能性も抑えられる筈だ。
(さて、中々手ごわそうですね……)
 どこまでいなしていけるか。舞花は得物を手に、2体の大きな魔物を真っ向から睨み据える。
 一方、他の敵を受け持ったフラーゴラやンクルスは時に回復し、または自己修復力に頼りながら敵の攻撃を凌いでいた。数が居れば無傷とはいかない。ならばどこまでその状態をもたせるかが重要だ。
「ワタシたちはまだやれる……! 剣を握って! 地を駆け、叫んで!」
「振れば当たる。攻撃の手を緩めるな。無理なら素直に下がっててくださいですよ!」
 フラーゴラの叫びは魂を揺らすように。ブランシュは只々勝ちに向かうためだけの事実を述べ。警邏隊へ襲い掛かろうとした魔物の前にはンクルスが滑り込む。
「私が居る限り皆の処には攻撃させないよ!」
 そこへ突き刺さるハリエットのリコシェット・フルバースト。不意に蒼雷の光が瞬いて、ハリエットは視線を移した。
「人為的に引き起こされる落雷というものを見せてあげよう」
 紅雷の鎧をまとったマリアが、掌を空へ向け。その空がゆらりと動き出し、危うい天候を呼び寄せる。
「――焼き尽くせ! 天槌裁華ぁ!」
 それはまさに天災と呼ばれるべきもの。けれどそれにしてはあまりにも美しい蒼のひかり。空を飛んでいたヘァズ・フィランが雷に焼かれて地へ堕ちる。
「君達は一歩たりとも通さない。ここは大切な人の、大切な場所なんだ」
 空を舞う魔物たちがマリアに向けて砂塵を巻き上げる。その余波を受けながらも、ルーキスは味方へ向けて声を張り上げた。
「勝機は我らの手中にある! 力を振るい、鉄帝の誇りを掲げよ!」
 真っ先に切り結んでいくルーキスへ警邏隊が続く。そこへ力強い一閃が加わった。
「……ルキヤンさん」
「十分傷は癒えた」
 嘘をつけ。ここまで魔物を押しとどめていた人が、この短時間で全快するものか。
 そうは思うけれど、動けることは確かなのだろう。ならば彼はこの場において貴重な戦力だ。
「さっさと終わらせないと、じっくり治療もさせてもらえないからね!」
 アレクシアの放った泥が魔物の足をすくう。そこへ一気に警邏隊の攻撃が畳みかけられ、そのまま魔物は泥に沈み込んだ。
 傷は浅くなく、幾度とアレクシアのヒールが場を持ち直させる。しかしそれもようやく、数の利を得たことによって終わりの兆しを見せる。
「さようなら……おやすみ」
 フラーゴラの放ったCode Redが死神の鎌のように、命をかっさらっていく。少しでも数を減らせば、ギルバディアも撤退してくれるはずだ。そうでなければ、舞花だっていつまでもとどめてはいられない。
「ワタシの声が届くかわからないけど……逃げるのなら今のうち。攻めるのならこっちも容赦しない……!」
 その声を聞きながら舞花はギルバディアと切り結ぶ。片方は大分消耗してきたか。しかしもう片方はほぼ全快状態であるし、それ以上に自身も苦戦させられている。
(仲間が他を仕留め終えるまでに、せめて一体は仕留めておきたい所でしたが……)
 アレクシアの慈恵の薬花が舞花へ活力を与える。見れば彼女はくるくると忙しなく動き回って、1人も脱落者がでないようにと体を張っていた。
 ――気持ちで負けてなどいられない。
 舞花は突進してきた敵を不思議な風の力を受けて躱し、その体へ得物を突き立てる。そこへブランシュが目にも見えぬ速度で攻め立てた。
「お前も熊なら、熊肉にして食糧にするですよ」
 果たして食べられるのかはさておいて、挑戦する価値はあるはずだ。何せ鉄帝の冬は厳しく、なかなか獣も姿を現さない。
「シスターさんは不屈……! 倒れないよ!」
 パンドラの力で立ち上がったンクルスが、自らへ迫る敵へと乱撃で押しとおる。警邏隊の面々も束になってかかれば、強い魔物だって避けるには限界がある。
「悪い人には天罰だよ! 最後はあっちだね!」
 ハリエットもその言葉に獲物の照準をギルバディアへと合わせる。だいぶこちらの疲労も高いが、このまま逃げないのならば倒すしかない。倒さなければならない。
 けれど。
「うわっ!?」
 起こされた突風に肉薄していたルーキスが後方へ吹き飛ばされる。彼だけではない、舞花も、マリアもだ。逃げようとするその動きに、マリアがさせるかと反応した。
「誰1人逃がすか……!」
 マリアの身体がスピードを持ってかの敵まで飛んでいく。嗚呼けれど――敵に至るまでには、遠い。

 それでも、この静寂の中にはヒトが立っていた。
 ギア・バジリカはイレギュラーズと警邏隊によって守られ、誰もが生きてそこに立っていたのだった。



「周りを見てくるですよ」
 ブランシュは怪我をした者たちを仲間へ任せ、廃墟と化した市街へ繰り出していく。もしかしたら大怪我をして身を隠している警邏隊員がいるかもしれないし、戦闘音に怖がって出て来られなかった市民がいるかもしれない。
「誰かいるですか? 助けにきたですよ!」
「……たすけ?」
 いた。ブランシュはもう大丈夫ですよと声をかけながら奥に縮こまっていた少年を抱き上げる。小さくて細い躰。丈夫そうに見えない少年は、お留守番をしていたのだと言う。
「じゃあきっとお母さんはギア・バジリカに避難してるですよ。あそこの方が安全ですから、一緒にいきましょう」
「うん」
 ――本当に母親が身を寄せているかはわからないが、少年をこのまま置いておくことはできない。
 ブランシュは一度仲間たちの方へ少年を預けるべく歩を進める。こうして救われた人がまたひとり。けれどこの間に死んでいる人は何人いるのか。
(早く、すべての人々に救いの手を差し伸べなければ)
 この手から刻一刻といのちが零れ落ちている。すくわなければ。救わなければ。

「痛かったら……言って」
「はは、多少は我慢できらあ」
 フラーゴラにからりと笑った警邏隊の青年は、消毒液に思いっきり顔を顰める。痛い? と聞いてみれば、力なくも問題ないと返された。
「おや、ヨーシフさんは大丈夫ですか?」
「あ、オレは全然……! アンタたちを呼びに行っていた分、怪我も少ないんだ」
 微かに浮かぶのは自嘲か。自責か。ルーキスは彼に怪我がない事にホッとしながらも、ありがとうと礼を告げる。
「いや、礼を言われることなんて」
「救援が間に合ったのは、その脚があったからです。ヨーシフさん、貴方が走ったから、皆を救う事が出来たんですよ」
 そうかな、と呟く声に自信はなくて。だからその背中を叩くように、そうですよとルーキスは微笑んだ。
「もし動けるのでしたら、ご一緒に救助活動を手伝って頂けませんか? 道中も周辺の状況を把握されていたようですし、救助の手が回り切っていない場所もご存じでは?」
「それは……アンタがいいなら、勿論。生憎と人手はいつも足りていないんだ」
 ユリーカが持っていた地図を再び開き、捜索の分担を決めるルーキスとヨーシフ。ンクルスは彼らを始めとした救助活動によって集まって来た者たちを手際よく誘導し、時に運んでいく。
「嬢ちゃん大丈夫か?」
「大丈夫だよ。私こう見えて力持ちなんだ!」
 ぐっとちからこぶを作るポーズをして。実際のところ疲れ知らずな様子で運んでいくものだから、すげえなあ、なんて言葉も零れ落ちる。
「今後ももし協力できることがあったら手伝うつもりだから……仮に協力できなくても、気持ちは一緒だと思ってるからね!」
「それは心強いな」
 ンクルスの言葉に小さく笑みを浮かべたルキヤンは、手伝おうと立ち上がって周囲の隊員に諫められる。憮然とした表情をした彼に、ンクルスは今は任せておいてよと笑った。
「警察組織が解体されて、市民は不安になってると思うんだよ。だから、元気になったらこれからも都市警邏隊員として市民の安心と安全を守って貰いたいな!」
「……まずは回復に努めよう。それから――もっと鍛錬を積まねばな」
 その視線は警邏隊員たちへ。ひえ、と向けられた先の彼らが口元を引きつらせた。
(それにしても……)
 そんなやり取りを横目に。ハリエットは広域俯瞰も使ってぐるりと辺りを見まわす。徐々に救助の手も入り、こちらへ人々が集まってきている。人命救助は良い事だが、助けたならば食糧を始めとした衣食住を整えてやらねばなるまい。これらもまた問題のひとつだろう。革命派でそういった行動を起こし始めているイレギュラーズもいるが、ハリエット個人として何か出来ることが無いか考えてみるか。
「……さしあたっては、あったかいご飯かな……」
 ぐきゅるう、と腹を鳴らした怪我人へ包帯を巻きながら、ハリエットは呟く。

 冬が近づいている。鉄帝の冬は厳しく、それでも温かなご飯があったなら――皆、笑って過ごせるだろうから。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女

状態異常

久住・舞花(p3p005056)[重傷]
氷月玲瓏
ンクルス・クー(p3p007660)[重傷]
山吹の孫娘

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 ギア・バジリカはまだまだ人が避難してきているようです。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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